ENo.0505　セイラン＝ルーデ

最終性能評価試験……最後の戦いを前にしたセイランは、機体の整備を手早く済ませ、残像領域を去る準備を進めていた。
所持品の殆どは譲るか売りに出し、室内に残るのは最低限の生活用品と端末程度。
持ち運び出来る荷物は少ないほうが良い。日持ちのする食糧にはどんなものがあるか。過去に得た知識を掘り返しながら、ひとつひとつ進めて行く。

「ルーチェ、どれくらい進んだ？」

「全然だよ。何が必要なのかもよくわかんないし……」

旅というものに、セイランたちは疎い。シドは傭兵だからその手の知識にもそれなりに詳しいようだったけれど、それでも行軍と旅とではどうしても違いが生まれてしまう。
継ぎ接ぎの知識を少しでも確かにして、それでも多分問題は出るだろうけれど、そこは何とかなるのではないかとセイランはぼんやり思っていた。
ここには普通の生活を送っている人間はいない。ルーチェが一番真っ当な感性を持っていただろうけれど、此処の生活で色々と経験したようだ。
だからまあ、何とかならないことはないだろうと、楽観的に考えている。

途中、休憩を挟むために外へと出た。荒野と樹木が混じり合い、青空が広がる光景は、しばらく経った今でも、少しだけ違和感がある。
残り少なくなった果実汁の瓶を持って庭へと出ると、そこには同じように休憩を取っているユメがいた。
真新しい帽子を深く被り、少し憂鬱そうに、地面を照らす日差しを眺めている。

「お疲れ様。どうだ、片付けは終わったか」

「……はい、元々物が少ないので……。……むしろ、今後の準備の方が……」

「……後でルーチェも交えて話し合いをしよう。私も詳しいわけじゃない……必要なら、誰かに聞いてくることにするよ」

瓶の中身をグラスへ注ぎ、ユメへと差し出す。ユメは躊躇なく手にとって、冷えたそれに口をつけた。

「……おいしい、です。……何だか最近は、よく喉が渇きますから……」

「これまではずっと霧が出ていたからな。今はそれもないし、汗もかきやすい。自然なことだよ」

「……慣れるまで、時間がかかりそうです……」

ユメはあまり青空や日差しは好きではないようで、少し嫌そうな表情を見せた。セイランはくすくすと笑って、少し背伸びをし、帽子の上からぽんぽんと頭を撫でる。

「空というのは、青空ばかりじゃない。もちろん、霧ばかりでもない。……お前の好きな空は、どんな空なんだろうな」

セイランは、以前に見ていたはずの光景を思い返す。黒い雨や、白い雲。変化を好まないユメは、静かな雨が好きなのかもしれない。

「まあ、時間が決まっているわけでもないし、後は物を減らしていくだけだ。ゆっくり時間をかけて、準備をしよう」

「……そうですね」

また後で、と言ってユメと別れ、再び準備に戻る。
最後の戦いに行く前に、まだ幾つか済ませておかなければならないことがあった。
思い残しのないようにしなければならない。

***

ふと目に付いたのは、空っぽの水槽。
特徴的な笑い声が脳裏によぎり、消えて行く。

「……私たちは行くよ。お前は、そっちで……」

「……そうだな、幸せに過ごしてくれ」

残像領域のどこかの町にある、行き場のない者の寄り合い所。運営は気まぐれ。
利用・改築自由の集合住宅。2LDKの5階建て。
管理者に御用の方は、3階の角部屋まで。

***

ユニオン活動：現在は制御*5
ユニオン購入：経験値+1、またはAP+10%