ENo.0488　フェア＝ツヴェイフル

このガレージにはハイドラが二機ある。

片方は長いこと乗り続けてもなお古傷の少ない自動修復型ハイドラ。
古傷も何もパーツの交換が頻繁にあったが故のものだろう。

片方は気を保ってなければ二度と元の場所へ戻れなくなりそうな
そんな存在すら曖昧にさせる次元潜航型ハイドラ。

そして　この世界から脱出するための『門』となる。


-----------------------------------------------------

二人の整備士を集めた。
次の出撃で次元潜航型ハイドラに乗る事。
そしてそのままこのガレージには帰ってこない事。

「・・・今後ライダーの肩身が狭くなる可能性も少なくないしな。
それと・・・このガレージの所有権に関してはどちらかに託す。
そのまま住んでも　売り払ってここよりマシな何処かに家でも建てるくらいの資金にはなるだろ。
話は以上だ」

一人の整備士が口を開く。

「あの　ひとつだけ　いいですか」

「ああ」

「ツヴェイフルさんって甘いもの平気ですか？」

「は？」

なんということだ　今までの話を全て放り投げてきた。
どうやら二人を招集した際にそれは用意されていたようで
手近にある作業机に置かれた包みを持ってくる。

「・・・シュトーレンってご存知ですか？
所謂菓子パンで　毎日整備士の皆で少しずつ食べてました。
何処かの習慣に倣ってクリスマスまでに食べ切る予定だったんですが・・・」

包みを開けば到底二人ではクリスマスまでに食べきれないであろう大きさのパンが姿を現す。
急な人数の減少で途端に減らなくなっていってしまったようだ。

「それで・・・どうしても二人じゃ食べきれないし
でもクリスマスには食べ切りたくて　その　ご一緒にどうかな　と」

「・・・三人でも厳しくないか」

「・・・・・・あ」

様子を見ていたもう一人の整備士が声を殺して笑い出した。

「いや・・・いや！その時は　自分が！責任もって食べます！食べ切りますとも！」

「つったってお前　既にほとんど三食それじゃねえか　飽きねえの？」

「流石に飽きましたよ！でも提案したの自分なんですもん！
責任は自分にあるでしょうこんなの！！」

二人の言い合いが始まってしまい話に置いていかれてしまった。
置いていかれたのは俺だけではない様で
今度は脚立の上にシュトーレンがぽつりと取り残されていた。
言い合いはしばらく収まりそうにない　数歩それに近寄り手を伸ばす。

―本来　薄く切って食べるものだったはずだが　構わず千切って口に放り込む。
ドライフルーツの代わりに使ったのであろう砂糖漬けの果物が
生地に移った甘さがただ暴力的に訴えてくる。


「――クソ甘い　が　嫌いじゃない」

少人数の整備士がのんびりしていた

彼が乗るハイドラはパーツのほとんどが自己修復機能を備えているため
戦闘から帰還する頃には細かい傷は無かったかのように修復される

前まで少女と一人の整備士がハイドラの管理をしていたようだが
少女が行方不明になってからは整備士と
義肢を新調したツヴェイフル本人が管理をしている

-------------------------------------------------------------------

-38-
このガレージには整備士二人とツヴェイフルしかいない
・・・とはいえ　相変わらずやる事はそこまで多くないからか
あるいはツヴェイフル本人が殆ど管理できてしまっているせいか

相変わらずのんびりしたりしていなかったりする

-------------------------------------------------------------------

-40-
ガレージの所有権は残った整備士二人の内の片方に託された
不要であれば手放しても構わないと言われたが　彼らは残す事を選んだ
ただ　二人で扱うには広すぎる為　宿泊施設に改装予定

やはりのんびり運営していくつもりらしい


「余ったエンジン　暖房器具とかに転用できませんかねえ」

「あー　もうあんな寒い思いしたくないもんなあ」

「この際ここの壁取って展示室も作っちゃいます？ほら　あのパイルとか」

「これなあ・・・全種持ってたら見応えあったろうに」

「流石に大量のパーツを格納する程の広さではないですもんね・・・」