ENo.0649　アキラ・ハリアエトゥス

メルサリアのリグ・ドゥルガーが最後に起こした“何か”の果てに、俺は最初に拠点にしていた場所……あのガレージに居た。

俺が寒波から逃れるために放棄した時に残していった物……“パンディオン”用のハイドラハンガーや、コンテナを積み重ねた居住スペースなどはそのまま残っていた。
ただし、そのどれも何年か放置されていたかのようにボロボロになっていたが。

最初俺は、寒波の中放置していった結果として風雪に晒されてこうなったのだろう、と考えた。
しかし様子を見てみればそうではない。金属は錆び、持っていくことを諦めた保存食は腐敗していた。
……正直、倉庫の中は焼き払おうかと思っている。原型を無くすほど腐敗した缶詰だった物がひどい事になっている。
そしてこれだけ腐敗するのにかかるであろう時間と、俺がここを離れてからの時間が噛み合わない。


そして疑念は、残していったラジオを起動した時に確信に変わった。
俺が知っている“今日の日付”と日付は同じだった。しかし、年度が違う。
俺の認識していた時間から、きっかり5年が経過しているのだ。

未読メッセージは山のように溜まっている。
倒れ込むようにガレージに不時着した“パンディオン”を修理しなければならない。
ガレージの天井や壁も抜けている部分があるため、これも修理しなければならない。


……しかしそのどれにも手を着ける気になれない。
わけがわからない。なぜ俺は5年もの歳月をスキップしてきた？
霧は俺達が払った、それは覚えている。ではあの巨木はなんだ。5年であんな物が生えたのか。あれがアルラウネなのか？
メルサリアの最後の行動が俺をこの場所、この時間に吹き飛ばしたとしよう。なぜここなんだ？
他のライダー達は？僚機……ジュネリア＝ハーヴェストはどこへ消えた？

どれも答えは『わからない』だ。……くらくらする。自分が置かれている状況を把握するのが精一杯だ。
だがどうやら、『生命と全ての』との戦いには勝った、らしい。
その勝利の立役者はハイドラ大隊と──領域宿業DURGA『リグ・ドゥルガー』……メルサリアだ、ということになっているらしい。

ニュースによればハイドラ大隊はメルサリアともども消え去ったことになっており、なんというか浦島太郎の気分だ。
というか自分が知らぬ間に5年もの歳月が経過していて、自分が（もちろん俺個人ではないが）英雄扱いを受けている世になっていて浦島太郎の気分にならない人間はいないだろう。


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最後の性能評価試験。俺たちハイドラライダーは、激戦の末にメルサリアのリグ・ドゥルガーを撃破した。
メルサリアは最期に、夢へと手が届いたような事を言っていた。……であれば、やつは最後の最後で勝ったのだろう。
性能評価試験に勝利したのはハイドラだったが、目的を達成したのはあちらだったのだ。

『青空に翻るドゥルガー』──それが、メルサリアの夢だったらしい。
ガレージの天井に空いた穴から空を見上げる。遠くに見える巨大樹木と、果てしない蒼穹。
そこには霧も、リグ・ドゥルガーの姿もない。

……俺が5年後のこの場所に帰ってきたということは、他のライダーたちもどこかの時間の自分の居場所へと帰っていったのだろうか。
であれば、メルサリアの帰る場所はどこだったのか。
霧の晴れたこの空を俺たちに譲り渡し、どこへ消えてしまったのか。
その答えはきっと、やつと同じ夢を見ない限りわからないのだろう。


だから/しかし、俺はまた“パンディオン”を駆って空に上がろう。
まだ見ぬ、メルサリアとは違う夢をこの青空に見るために。

ユニオンに加入していたほうがいい、と聞いたアキラ・ハリアエトゥスが設立したユニオン。
正式に届け出は出しているがメンバーは一人であり、いわゆるペーパーユニオンである。

加入希望者は一応募集しているが予定はない。