ENo.0688　チェシカ

「………。」


『チェシカ、どうかしましたか？』

出撃前、操縦棺に乗り込み目の前の缶コーヒーを青い顔で見つめるチェシカに気づいた研究所員が声をかける。

「……あの。…あの、この出撃で…ひとはしぬんですか？」

研究室の別のモニターに映されたグラフが、短い幅で大きく波を描く。

「この前の出撃で…ひとはしんだのですか…？」

研究室は静まりかえる。
被験者の異常を知らせる警告音だけがピーピーと研究室に響いた。



出撃前にハイドラライダーと交わした言葉の中で、少し引っかかった事を確かめたかっただけなのだけれども…。

(そうか…この戦いで、本当はしんでしまう事もあるんだ…)
(私もあの人も、戦場で今まで一緒になった人たちだって…しんでしまうかもしれないんだ。)
(そっか……そうなんだ。)

所員は何も言ってくれない…。
つまりは"そういうこと"なのだろう。

(そうだよね…それくらいじゃないと、命を助けてもらったのだから…代償として釣り合わないよね。)


浅く呼吸をして、震える手を合わせる。
青い顔のままカメラを見上げた。

「……戻ったら、私に外出許可をください。」

「それと、本当の事を教えてください。」

「どんな内容でもちゃんと聞きますから。」

「おねがいします……。」


出撃のほんの少し前。
所員たちに小さく反抗したのは、今まで言う事を聞くだけだった機械人形ではなく、そういう年頃の普通の女の子だった。

*意思表示*死亡許容
*重要確認*死亡許容

✿