第15週目 insanelyの一週間
◆日記
「障害を全て排除した。小隊の収容を急いでくれ。」
ヒルコ教団の支援部隊に連絡を入れた瞬間、殆ど感覚の失せていた右腕に激痛が走っていた。
ちらりと目を向けると、過給機を通じて齎された臨界状態の圧縮濃霧が血煙のように腕の至るところから噴き出していた。だらりと垂れ下がった腕は接続の切れた肉塊のようで、自身の意志ではぴくりとも動かなかった。
まあ、そんなものだろうさ。自身の身に起こりつつあることの大凡をうっすらと理解していた男は大した感慨も無く受け止めていた。
「当機は継戦困難につき撤退する。以上。というわけで後は頼むよ」
絶句しているファティマとの接続を断ち、不気味な触手ハイドラを無視して、それらが霧で視認できなくなる程度まで軽く後ろへ跳んだ。正確には最早それ以上の機動はできなかった。近寄ってくるAnubisの目の前で逆関節の至るところからも同様に装甲のいくらかが爆ぜ人工筋肉から圧縮濃霧が噴き出していた。
「心配かけてごめん。肩を貸してくれるか?」
『……うん、これでいい?』
「雑にでいいよ、怪我したわけじゃないし。ありがとう」
平静そのものの男に、ジルは僅かに安堵の混じった溜息を漏らしていた。
「味方のグレムリン?が頼りになるやつで助かったね。100連ミサイル、何度かいくぐっても肝が冷えるよ」
『リーでもやっぱり怖いんだよね……具合、大丈夫?』
「そりゃそうさ、俺は痛いのも死ぬのも怖くて仕方がない。経験があるだけ尚更怖いね」
薄く笑うように嘯く男に、ジルは押し黙った。どんな気分なのか、想像力に乏しい男にも朧げながら思い浮かんでいた。
「……接触前におかしな爆発を起こしたいくらかには当たったけど、そっちは問題無い。
紛れが起こる前に終わらせたくて努力はしたけど、それで機体がこうなったのも問題は無い。
ただ……今自分の体がどうなってるのかは、正確なところはわからない」
『………………』
「迷惑はかけると思う。だけど、あまり心配はしないで欲しいんだ。
経験則と予感に過ぎないんだけどさ。ただ、元通りになれるって感じてるんだ」
『……うん。信じてる、今までだって、どんな時も帰ってきてくれたから』
「それが……その、ジルには気に食わない形かもしれないけど。良かったらまだ側に置いといてくれ」
『勿論』
「ありがとう」
†
ガレージへの到着と同時に、グレイハウンドは爪先から暗い灰色の粉となって自壊した。
俯せのまま噎せる男を、ジルは肩を貸すようにして担いで部屋まで運んだ。触れた男の手足が酷く軽く感じられて、少女にも男の言っていたことが微かに予感できていた。いつしか、男の髪は灰を通り越し炭のように黒く変色していた。
「なんか、こうやって寝っ転がるのも懐かしい感じだ」
「……私は心配なんだけどね」
酷く気分が良さそうに笑った男に、ジルは迷った末に問いかけた。
「前もこんなことがあったの?」
「うん。君と会う2年くらい前か。俺が所属していた企業が消されて、俺だけ逃されて。
一人でなんとかする方法もわからなかったから、手足も神経もハイドラも皆ダメになりかけて……
その時、ハイドラ大隊の招集があってね。身分を隠して参加して、その時組んだ僚機に助けられたんだ」
ぼんやりと天井を見つめたまま横たわる男は、訥々と話し続けた。ジルは静かに男の話を聞いていた。その手は名残り惜しむように既に感覚の失せた男の手を擦っていた。
「脊髄が焼けるように痛んでもう手足も動かなくなって。ようやく手材料は揃えたのに自分じゃやれない。
正直藁に縋るような気持ちだったんだけど……まあ、持ち逃げもせず面倒を引き受けてくれた。その能力もあった。
まあ、彼女も……ある意味俺とは別種の、そうすることで生きていくタイプだったのかもしれないな」
「……なんか、リーってよく女の人に助け求めてない……?」
「……うん?言われてみるとそうかもしれない。フクリン、ベティ……君だってそうだし、ベルベットも女性型だ。
結果的に助けられたって意味では主任もファティマも女性だな」
「………………」
「まあ男も多いよ。あらゆるところで義理と不義理でいっぱいだ」
本当にそう?と言いたげな冷ややかなジルの目線に、男は破顔した。酷く屈託の無い笑みに、ジルも毒気を抜かれて苦笑してしまった。そうしている間にも、男の黒く変色した手足は徐々に粉となって空気と同化し消えていった。
「決して不便ではなかったけれど。生きてきた殆どの間、腕も脚もカワサキの義肢だったから……
違和感があったんだよな。今更渡されてもな……って。別に大して違いを覚えるわけでもないんだけど」
「……うん」
「……ジルは、この手足の方がよかったかな。君は俺とは違う。普通の体だった。
そういうのがいいという意見もあるって、今ではわかるから……」
ジルは迷わなかった。自信が無さそうに問う男の、今にも崩れそうな黒い腕をそっと撫でた。
「……どんな手足でも、どんな姿でも、リーはリーだよ。……私の、一番大切な人」
そういって、優しく微笑みかけた。
「ありがとう。俺も、君が一番大切な人」
そう言って、男は酷く満ち足りた穏やかな顔で目を閉じた。既に手足は全て根本から崩れ去っていた。
ベッドの下収納から、ごとごとと何かが音を立てて抽斗がひとりでに口を開けた。見慣れた義肢が顔を覗かせていた。
「こいつも勤勉な奴だ」
「リーそっくり、だね」
「そっくりついでに揃って甘えてもいいかい」
「うん、勿論」
ジルは男の服を脱がし、背骨の腰よりやや上にある脊髄直結端子へと義肢のケーブルを接続した。
義肢は独立した生き物のようにのたくり、男の胴体へと吸い付き食い付いた。
本当に何事も無かったように男はむくりと身を起こした。すっかり黒く変色した髪を義手で除け、ジルに向けて柔らかく微笑んだ。
「よし、ただいま」
「おかえりなさい」
(ユニオン説明文に続きます)
ヒルコ教団の支援部隊に連絡を入れた瞬間、殆ど感覚の失せていた右腕に激痛が走っていた。
ちらりと目を向けると、過給機を通じて齎された臨界状態の圧縮濃霧が血煙のように腕の至るところから噴き出していた。だらりと垂れ下がった腕は接続の切れた肉塊のようで、自身の意志ではぴくりとも動かなかった。
まあ、そんなものだろうさ。自身の身に起こりつつあることの大凡をうっすらと理解していた男は大した感慨も無く受け止めていた。
「当機は継戦困難につき撤退する。以上。というわけで後は頼むよ」
絶句しているファティマとの接続を断ち、不気味な触手ハイドラを無視して、それらが霧で視認できなくなる程度まで軽く後ろへ跳んだ。正確には最早それ以上の機動はできなかった。近寄ってくるAnubisの目の前で逆関節の至るところからも同様に装甲のいくらかが爆ぜ人工筋肉から圧縮濃霧が噴き出していた。
「心配かけてごめん。肩を貸してくれるか?」
『……うん、これでいい?』
「雑にでいいよ、怪我したわけじゃないし。ありがとう」
平静そのものの男に、ジルは僅かに安堵の混じった溜息を漏らしていた。
「味方のグレムリン?が頼りになるやつで助かったね。100連ミサイル、何度かいくぐっても肝が冷えるよ」
『リーでもやっぱり怖いんだよね……具合、大丈夫?』
「そりゃそうさ、俺は痛いのも死ぬのも怖くて仕方がない。経験があるだけ尚更怖いね」
薄く笑うように嘯く男に、ジルは押し黙った。どんな気分なのか、想像力に乏しい男にも朧げながら思い浮かんでいた。
「……接触前におかしな爆発を起こしたいくらかには当たったけど、そっちは問題無い。
紛れが起こる前に終わらせたくて努力はしたけど、それで機体がこうなったのも問題は無い。
ただ……今自分の体がどうなってるのかは、正確なところはわからない」
『………………』
「迷惑はかけると思う。だけど、あまり心配はしないで欲しいんだ。
経験則と予感に過ぎないんだけどさ。ただ、元通りになれるって感じてるんだ」
『……うん。信じてる、今までだって、どんな時も帰ってきてくれたから』
「それが……その、ジルには気に食わない形かもしれないけど。良かったらまだ側に置いといてくれ」
『勿論』
「ありがとう」
†
ガレージへの到着と同時に、グレイハウンドは爪先から暗い灰色の粉となって自壊した。
俯せのまま噎せる男を、ジルは肩を貸すようにして担いで部屋まで運んだ。触れた男の手足が酷く軽く感じられて、少女にも男の言っていたことが微かに予感できていた。いつしか、男の髪は灰を通り越し炭のように黒く変色していた。
「なんか、こうやって寝っ転がるのも懐かしい感じだ」
「……私は心配なんだけどね」
酷く気分が良さそうに笑った男に、ジルは迷った末に問いかけた。
「前もこんなことがあったの?」
「うん。君と会う2年くらい前か。俺が所属していた企業が消されて、俺だけ逃されて。
一人でなんとかする方法もわからなかったから、手足も神経もハイドラも皆ダメになりかけて……
その時、ハイドラ大隊の招集があってね。身分を隠して参加して、その時組んだ僚機に助けられたんだ」
ぼんやりと天井を見つめたまま横たわる男は、訥々と話し続けた。ジルは静かに男の話を聞いていた。その手は名残り惜しむように既に感覚の失せた男の手を擦っていた。
「脊髄が焼けるように痛んでもう手足も動かなくなって。ようやく手材料は揃えたのに自分じゃやれない。
正直藁に縋るような気持ちだったんだけど……まあ、持ち逃げもせず面倒を引き受けてくれた。その能力もあった。
まあ、彼女も……ある意味俺とは別種の、そうすることで生きていくタイプだったのかもしれないな」
「……なんか、リーってよく女の人に助け求めてない……?」
「……うん?言われてみるとそうかもしれない。フクリン、ベティ……君だってそうだし、ベルベットも女性型だ。
結果的に助けられたって意味では主任もファティマも女性だな」
「………………」
「まあ男も多いよ。あらゆるところで義理と不義理でいっぱいだ」
本当にそう?と言いたげな冷ややかなジルの目線に、男は破顔した。酷く屈託の無い笑みに、ジルも毒気を抜かれて苦笑してしまった。そうしている間にも、男の黒く変色した手足は徐々に粉となって空気と同化し消えていった。
「決して不便ではなかったけれど。生きてきた殆どの間、腕も脚もカワサキの義肢だったから……
違和感があったんだよな。今更渡されてもな……って。別に大して違いを覚えるわけでもないんだけど」
「……うん」
「……ジルは、この手足の方がよかったかな。君は俺とは違う。普通の体だった。
そういうのがいいという意見もあるって、今ではわかるから……」
ジルは迷わなかった。自信が無さそうに問う男の、今にも崩れそうな黒い腕をそっと撫でた。
「……どんな手足でも、どんな姿でも、リーはリーだよ。……私の、一番大切な人」
そういって、優しく微笑みかけた。
「ありがとう。俺も、君が一番大切な人」
そう言って、男は酷く満ち足りた穏やかな顔で目を閉じた。既に手足は全て根本から崩れ去っていた。
ベッドの下収納から、ごとごとと何かが音を立てて抽斗がひとりでに口を開けた。見慣れた義肢が顔を覗かせていた。
「こいつも勤勉な奴だ」
「リーそっくり、だね」
「そっくりついでに揃って甘えてもいいかい」
「うん、勿論」
ジルは男の服を脱がし、背骨の腰よりやや上にある脊髄直結端子へと義肢のケーブルを接続した。
義肢は独立した生き物のようにのたくり、男の胴体へと吸い付き食い付いた。
本当に何事も無かったように男はむくりと身を起こした。すっかり黒く変色した髪を義手で除け、ジルに向けて柔らかく微笑んだ。
「よし、ただいま」
「おかえりなさい」
(ユニオン説明文に続きます)
NEWS
ザーッ……ザザッ……ザーッ……もし、この放送が聞こえているとしたら……
あなたはきっと、生きているのでしょう
そして、あなたはきっと、戦いに勝ったのでしょう
雨の中、水に飲まれゆく中で、戦ったハイドラの――
ヒルコ教団からのメッセージ 「機体のサルベージを完了しました。ようこそ、ヒルコ教団の救民船団へ」 |
ヒルコ教団からのメッセージ 「我々はドゥルガーの知識を手にいれ、魔王領域の秘密を手にいれました」 |
ヒルコ教団からのメッセージ 「そして、新たな神を迎えることができたのです」 |
ヒルコ教団からのメッセージ 「おお……我らが神が、いま、虚空領域に翻る……」 |
その中の一つ、ぴかぴかと光り輝くヒルコ神の姿を――
どこまでも青い空が広がっていた
どこまでも水平線が伸びていた
水平線には、積乱雲が立ち上る
静かな海だった
ただ一つ、海面から突き出す巨大な塔を除いて、他には何もなかった
雨上がりの後の世界は、夏風の通り抜ける、大洋に変わっていた――
ザーッ……ザザッ……ザーッ
……謎の飛行船団が上空に出現……
あれはいったい……!?
消えた……何だったのだろうか
しかし、あの姿は、ハイドラと戦った『グレムリン』に――
Ending...2/12
◆訓練
整備*3の訓練をしました整備*3が21上昇した
整備*3の訓練をしました整備*3が23上昇した
整備*3の訓練をしました整備*3が25上昇した
整備の訓練をしました整備が28上昇した
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
インセイリーはRAD009-Inexpiablyを537cで購入した!!
インセイリーはRAD009-Inexpiablyを537cで購入した!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
インセイリーは複座型特殊軽量棺改を461cで購入した!!
インセイリーは119式乙昇神機構『サラスヴァティS』を1187cで購入した!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
インセイリーはレフトスタッフγを1187cで購入した!!
インセイリーはレフトスタッフγを1187cで購入した!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
ヒルコ教団とスポンサー契約を更新しました!!
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◆作製
作製しようとしたが必要資金が不足したため、無料で頑張って作製しました
作成時補助発動! 加重!! パーツ重量が 76 増加!!
呪いの人形38とテスラコイル38を素材にしてKWSK-INSANE 腕部OP-BNを作製した!!
◆戦闘システム決定
バーサーク に決定!!
◆アセンブル
操縦棺1に複座型特殊軽量棺改を装備した
脚部2に119式乙昇神機構『サラスヴァティS』を装備した
スロット3にKWSK-INSANE 腕部OP-BNを装備した
スロット4にレフトスタッフγを装備した
スロット5に霊障適性型レーダー『アヴェ・マリア』を装備した
スロット6にレフトスタッフγを装備した
スロット7にWA2000『ワニセン・ライトラピッド』を装備した
スロット8にRAD009-Inexpiablyを装備した
スロット9に霊障適性型レーダー『アヴェ・マリア』を装備した
スロット10にRAD009-Inexpiablyを装備した
スロット11に霊障適性型レーダー『アヴェ・マリア』を装備した
◆僚機設定
Anubisとバディを結成した!!
◆意思表示設定
意志設定……死亡許容
◆ミッション
ミッション設定……ミッションB
ユニオン活動
毛皮の無い灰狼の活動記録
『おにいちゃんへ。
落ち着いたら、一緒にクッキー買いにいきたいです。
それと、今度は、おにいちゃんのほうから、だっこして、もらいた……い、です……
……………つ、つうしん、おわり……!』
聞き届けた男は、ふぅむと感嘆とも呻きとも取れる唸りを上げた。
彼女なりに勇気を振り絞っての誘いなのだろう、ということは男にも想像がついた。以前二人で一晩過ごして以来、彼女が男に兄としての態度を求めてくることは無かった。余程自制していたのだろう。彼女のモチベーションを高めてやれることは男にとっても得なことだった。
すぐにツチノコに連絡をしたところ、応答したカラに『カロスは既に遺跡に居るわよ』とだけ伝えられ通信を切られた。男は再び呻きに似た唸りを上げた。
「そんなわけで、ファティマと買い物に行ってこようと思うんだけど、構わないかな」
「うん、私は大丈夫。気をつけて行ってきてね」
ジルに断りを入れても笑顔で二つ返事だった。男は久し振りに硬い義手で顎の下を擦った。余りいい予感がしなかった。
†
「はい。ロイドだけど、忙しくしてないかな」
『あ……!よかった、無事だったんだ』
「ああ〜……言ってなかったな、平気だって……心配かけてごめん。問題無いよ」
通信越しにファティマは大きく安堵の息を吐くのが聞き取れた。
「いや、悪い。済まない。本当に申し訳ない。
お詫びじゃないんだけど、連絡もらってたお誘い、今からでも平気かな」
『えっ、今……から?』
「俺としては今のうちの方がいいんだ。というより、今後何がどうなるかわからないしね。
都合のいい時間になったら連絡してもらえるかな」
『は、はい!準備しておくね』
「ゆっくりでいいよ。それじゃ」
慌てた様子のファティマを宥めて、通信を切った。
今のうちに少しリハビリしておくのも悪くない、男はそう考えながらガレージへと足を向けた。
†
二度のノックに応じて、ファティマがドアを開けて顔を覗かせた。
「レッ……ドさん…………?」
「うん?レッドだけど……何か変かな?」
先日と同様に輝くようなファティマの笑顔があっというまに曇っていき、男は逆に鼻白んだ。何かやらかしたかと慌てて五体を確認したが、手足はちゃんと人工皮膚膜で覆っているし、脚も逆関節状になってない。後は……と考えたところで、視界にかかっている自身の頭髪にようやく気がついた。
「こ、これか?!」
炭のように黒い髪の一房を引っ張って示した男に、ファティマはこくこくと不安げに頷いた。
「原因はわからんけど、だんだんとこうなってきちゃってね……中で話させてもらっていいかな」
「う、うん、入って」
罰が悪そうに指先でくるくると髪の毛をいじり続けながら、男はファティマに続いてリビングへと入った。
「ごめん。前と違って、どうも色をいじれてないみたいだ。
……今も試してみてるけど、今後はちゃんと染めなきゃ無理だな。便利だったんだが」
「えっと、無理しなくても……」
「君にとっては重大事、だろう?俺にとっても無理でも何でもない。
それなら遠慮は無用だよ。多分、兄妹(きょうだい)というのはそういうもの……であってるのかな」
男は無意味に指を踊らせながら、自信無く言葉尻を濁らせてそう言った。男なりの厚意はファティマにとり心の浮き立つような甘いものではあったが、その一方で男の炭のような黒髪と自壊しかけていたグレイハウンドの姿がどうしても不吉に重なっていた。
「大丈夫。死ぬってことはなさそうだよ。
ただ、一度死んでからあれこれ降って湧いたものが零れ落ちていってるだけだと思う」
ファティマの憂患は男も感じ取っていた。ただ、自分の対応が最善かについては全く自信が無かった。自信が無いまま、ファティマの柔らかく癖のない頭を硬い義肢で撫でた。
「あ……硬い」
「うん。最初に会った頃に使ってた義肢と同じ。
いつの間にか生えてた手足が突然溶けて消えたんで、また付き合い始めたわけだ」
ファティマの心中でいくつかの感情が真っ向から対立した。男は先の言葉を繰り返さなかった。代わりに、少女を促すように軽く頷いた。
「不便じゃないの?」
「かれこれ20年以上世話になってる。まあ、あれも便利だったけど、こっちの方が落ち着くな」
「どこか痛くないの?」
「少なくとも今のところは。昔からこいつと付き合うために体鍛えてるしね」
以前とは違って区切るように尋ねるファティマの頭を撫でながら、男は5年前を思い出していた。寿命を迎えた肉体から、培養細胞で再建した複製(クローン)へと記憶も精神も損ねることなく渡れた僥倖。正面から受容してくれたのはジルだけだった。ショックを受けていたベティが、事の次第を聞いて見せた渋面を忘れたことはなかった。あの時と同じ失敗はしていない、と断じる自信は無かった。しかし、ファティマに対しその不安を露呈させることだけはできないとも考えていた。彼女の求める、頼れる兄に許される態度ではないと決めつけていた。
ファティマは素直になることを選んだ。男が四肢を損ねたことを微塵も惜しんでいないのならば、何を躊躇うこともなかった。自身の髪を撫でる男の手に、自身の手を重ねた。軽く握ると、初めて自身の手を取った、あの硬い感触が返ってきた。
「でも、無理はしないでね。
無理した結果、最後にレッドさんがボロボロになるの、見たくないもん」
「心しておくよ」
苦笑する男に微笑み返して、ファティマは焦がれ続けていた硬い感触をじっと愛おしんだ。
†
カロスは目抜き通りの入り口で店を開いていた。
「このドゥルガーももう終わりだからね。まともなやつは救助便でどんどん出ていくからこんな場所が取れた。」
「子供達の様子はどうだ?洪水が出たと流れてるが。バニラクッキー20本。」
そんなに、と小さく声を上げたファティマに軽くウィンクして、カロスは大きな紙袋を二つ突き出した。
「500クレジットね。皆のんびり暮らしてるよ。1000年毎にこの手の面倒があるけど、箱がいいんで楽なもんだよ。
こんな大所帯で逃げるのは初めてだけど、まあなんとでもするさ。」
「有難う。それじゃあ後は宜しく頼む。」
「お前も息災でね。お嬢ちゃんも、生き残れたらまた買ってくれ。」
「はい、また、買いに行きます」
からからと笑いながら手を振るカロスに、ファティマはぺこりとお辞儀を返した。男は一瞥しただけだった。行こうか、と声を掛けて、少女の返事を待たずに踵を返した。
「こんな買っちゃって、よかったの?」
「半分は俺の買い溜めだ。保存状態が良くてたっぷり日持ちするから心配いらないよ、ゆっくり食べてくれ。
それに、天変地異と遺跡の崩壊と……二度と店を開けないかもしれないからね」
ファティマの住まいまでの僅かな距離を連れ立って歩きながら、男はふと脚を止めて少女へと振り向いた。
「俺はこの先何があろうとも、その時々であらゆる手段を駆使して生き残る可能性を追求する。
……その時、ひょっとすると俺は君と会ったり話したりできなくなるかもしれない」
「………………」
「可能な限りそうはならないようにするけどね」
ファティマもニュースを聞いていないわけではない。地上が容易ならざる状況に陥っていることは朧げながら把握していた。
「俺の言ったこと、覚えておいてくれ。自分のできることを果たすこと。できないことは助けを得ること。
その内訳が何であれ、それが生きていく力だ。君と君に関わる者が自由に生きていくために請求される対価だ」
「不安に、させないで……!」
押し黙っていたファティマが耐えかねたように切り込んだ。首を横に振り乱し、涙を湛えた瞳で睨むように男を見つめ、その胸のあたりに頭から突っかかった。
「これじゃあまるで、最後のお別れみたいじゃん……」
「逆だよ。そうならないように、君にも強かに生きて欲しいだけだ」
言い方悪かったな、ごめんと言いながら、男は自分の胸に顔を埋めるファティマを慎重に抱き締めた。後ろに回した手でファティマの小さな背中を撫で、おずおずと見上げてくる顔を覗き込んだ。
「甘く見積もっていいなら、俺と君はそれぞれが十分に対価を支払い合えたと思う。
これっきりなんて考えないでくれ。何かあっても、きっと兄妹(おれたち)はまたお互いを探し当てられるさ。
だから、君もうまく生き存えてくれ。何かあったら助け合おう。損はさせない。きっと、お互いいい感じになれるさ」
ファティマの端が滲んだ目に、男は軽く頷いて微笑んだ。ファティマもこくりと頷いて応じた。
男はファティマを離すと、小さな手を取り、提げていた紙袋の一つを握らせた。
「……どんな時も、諦めるなよ。面倒が終わったらまた会おう」
「きっとだよ。レッドさんも、死なないで……」
「なんとかするさ」
「なんとか、じゃなくって、絶対、だからね」
男は口を閉じて、軽く頷くに留めた。それが彼の虚勢の限界だった。
落ち着いたら、一緒にクッキー買いにいきたいです。
それと、今度は、おにいちゃんのほうから、だっこして、もらいた……い、です……
……………つ、つうしん、おわり……!』
聞き届けた男は、ふぅむと感嘆とも呻きとも取れる唸りを上げた。
彼女なりに勇気を振り絞っての誘いなのだろう、ということは男にも想像がついた。以前二人で一晩過ごして以来、彼女が男に兄としての態度を求めてくることは無かった。余程自制していたのだろう。彼女のモチベーションを高めてやれることは男にとっても得なことだった。
すぐにツチノコに連絡をしたところ、応答したカラに『カロスは既に遺跡に居るわよ』とだけ伝えられ通信を切られた。男は再び呻きに似た唸りを上げた。
「そんなわけで、ファティマと買い物に行ってこようと思うんだけど、構わないかな」
「うん、私は大丈夫。気をつけて行ってきてね」
ジルに断りを入れても笑顔で二つ返事だった。男は久し振りに硬い義手で顎の下を擦った。余りいい予感がしなかった。
†
「はい。ロイドだけど、忙しくしてないかな」
『あ……!よかった、無事だったんだ』
「ああ〜……言ってなかったな、平気だって……心配かけてごめん。問題無いよ」
通信越しにファティマは大きく安堵の息を吐くのが聞き取れた。
「いや、悪い。済まない。本当に申し訳ない。
お詫びじゃないんだけど、連絡もらってたお誘い、今からでも平気かな」
『えっ、今……から?』
「俺としては今のうちの方がいいんだ。というより、今後何がどうなるかわからないしね。
都合のいい時間になったら連絡してもらえるかな」
『は、はい!準備しておくね』
「ゆっくりでいいよ。それじゃ」
慌てた様子のファティマを宥めて、通信を切った。
今のうちに少しリハビリしておくのも悪くない、男はそう考えながらガレージへと足を向けた。
†
二度のノックに応じて、ファティマがドアを開けて顔を覗かせた。
「レッ……ドさん…………?」
「うん?レッドだけど……何か変かな?」
先日と同様に輝くようなファティマの笑顔があっというまに曇っていき、男は逆に鼻白んだ。何かやらかしたかと慌てて五体を確認したが、手足はちゃんと人工皮膚膜で覆っているし、脚も逆関節状になってない。後は……と考えたところで、視界にかかっている自身の頭髪にようやく気がついた。
「こ、これか?!」
炭のように黒い髪の一房を引っ張って示した男に、ファティマはこくこくと不安げに頷いた。
「原因はわからんけど、だんだんとこうなってきちゃってね……中で話させてもらっていいかな」
「う、うん、入って」
罰が悪そうに指先でくるくると髪の毛をいじり続けながら、男はファティマに続いてリビングへと入った。
「ごめん。前と違って、どうも色をいじれてないみたいだ。
……今も試してみてるけど、今後はちゃんと染めなきゃ無理だな。便利だったんだが」
「えっと、無理しなくても……」
「君にとっては重大事、だろう?俺にとっても無理でも何でもない。
それなら遠慮は無用だよ。多分、兄妹(きょうだい)というのはそういうもの……であってるのかな」
男は無意味に指を踊らせながら、自信無く言葉尻を濁らせてそう言った。男なりの厚意はファティマにとり心の浮き立つような甘いものではあったが、その一方で男の炭のような黒髪と自壊しかけていたグレイハウンドの姿がどうしても不吉に重なっていた。
「大丈夫。死ぬってことはなさそうだよ。
ただ、一度死んでからあれこれ降って湧いたものが零れ落ちていってるだけだと思う」
ファティマの憂患は男も感じ取っていた。ただ、自分の対応が最善かについては全く自信が無かった。自信が無いまま、ファティマの柔らかく癖のない頭を硬い義肢で撫でた。
「あ……硬い」
「うん。最初に会った頃に使ってた義肢と同じ。
いつの間にか生えてた手足が突然溶けて消えたんで、また付き合い始めたわけだ」
ファティマの心中でいくつかの感情が真っ向から対立した。男は先の言葉を繰り返さなかった。代わりに、少女を促すように軽く頷いた。
「不便じゃないの?」
「かれこれ20年以上世話になってる。まあ、あれも便利だったけど、こっちの方が落ち着くな」
「どこか痛くないの?」
「少なくとも今のところは。昔からこいつと付き合うために体鍛えてるしね」
以前とは違って区切るように尋ねるファティマの頭を撫でながら、男は5年前を思い出していた。寿命を迎えた肉体から、培養細胞で再建した複製(クローン)へと記憶も精神も損ねることなく渡れた僥倖。正面から受容してくれたのはジルだけだった。ショックを受けていたベティが、事の次第を聞いて見せた渋面を忘れたことはなかった。あの時と同じ失敗はしていない、と断じる自信は無かった。しかし、ファティマに対しその不安を露呈させることだけはできないとも考えていた。彼女の求める、頼れる兄に許される態度ではないと決めつけていた。
ファティマは素直になることを選んだ。男が四肢を損ねたことを微塵も惜しんでいないのならば、何を躊躇うこともなかった。自身の髪を撫でる男の手に、自身の手を重ねた。軽く握ると、初めて自身の手を取った、あの硬い感触が返ってきた。
「でも、無理はしないでね。
無理した結果、最後にレッドさんがボロボロになるの、見たくないもん」
「心しておくよ」
苦笑する男に微笑み返して、ファティマは焦がれ続けていた硬い感触をじっと愛おしんだ。
†
カロスは目抜き通りの入り口で店を開いていた。
「このドゥルガーももう終わりだからね。まともなやつは救助便でどんどん出ていくからこんな場所が取れた。」
「子供達の様子はどうだ?洪水が出たと流れてるが。バニラクッキー20本。」
そんなに、と小さく声を上げたファティマに軽くウィンクして、カロスは大きな紙袋を二つ突き出した。
「500クレジットね。皆のんびり暮らしてるよ。1000年毎にこの手の面倒があるけど、箱がいいんで楽なもんだよ。
こんな大所帯で逃げるのは初めてだけど、まあなんとでもするさ。」
「有難う。それじゃあ後は宜しく頼む。」
「お前も息災でね。お嬢ちゃんも、生き残れたらまた買ってくれ。」
「はい、また、買いに行きます」
からからと笑いながら手を振るカロスに、ファティマはぺこりとお辞儀を返した。男は一瞥しただけだった。行こうか、と声を掛けて、少女の返事を待たずに踵を返した。
「こんな買っちゃって、よかったの?」
「半分は俺の買い溜めだ。保存状態が良くてたっぷり日持ちするから心配いらないよ、ゆっくり食べてくれ。
それに、天変地異と遺跡の崩壊と……二度と店を開けないかもしれないからね」
ファティマの住まいまでの僅かな距離を連れ立って歩きながら、男はふと脚を止めて少女へと振り向いた。
「俺はこの先何があろうとも、その時々であらゆる手段を駆使して生き残る可能性を追求する。
……その時、ひょっとすると俺は君と会ったり話したりできなくなるかもしれない」
「………………」
「可能な限りそうはならないようにするけどね」
ファティマもニュースを聞いていないわけではない。地上が容易ならざる状況に陥っていることは朧げながら把握していた。
「俺の言ったこと、覚えておいてくれ。自分のできることを果たすこと。できないことは助けを得ること。
その内訳が何であれ、それが生きていく力だ。君と君に関わる者が自由に生きていくために請求される対価だ」
「不安に、させないで……!」
押し黙っていたファティマが耐えかねたように切り込んだ。首を横に振り乱し、涙を湛えた瞳で睨むように男を見つめ、その胸のあたりに頭から突っかかった。
「これじゃあまるで、最後のお別れみたいじゃん……」
「逆だよ。そうならないように、君にも強かに生きて欲しいだけだ」
言い方悪かったな、ごめんと言いながら、男は自分の胸に顔を埋めるファティマを慎重に抱き締めた。後ろに回した手でファティマの小さな背中を撫で、おずおずと見上げてくる顔を覗き込んだ。
「甘く見積もっていいなら、俺と君はそれぞれが十分に対価を支払い合えたと思う。
これっきりなんて考えないでくれ。何かあっても、きっと兄妹(おれたち)はまたお互いを探し当てられるさ。
だから、君もうまく生き存えてくれ。何かあったら助け合おう。損はさせない。きっと、お互いいい感じになれるさ」
ファティマの端が滲んだ目に、男は軽く頷いて微笑んだ。ファティマもこくりと頷いて応じた。
男はファティマを離すと、小さな手を取り、提げていた紙袋の一つを握らせた。
「……どんな時も、諦めるなよ。面倒が終わったらまた会おう」
「きっとだよ。レッドさんも、死なないで……」
「なんとかするさ」
「なんとか、じゃなくって、絶対、だからね」
男は口を閉じて、軽く頷くに留めた。それが彼の虚勢の限界だった。
ユニオン設備……超小型多脚WH『』を建設!!
ユニオン設備
┗バニラクッキー
┗ハニートースト
┗カフェ・ラッテ
┗自走式移動基地《ツチノコ》
┗ペパーミント
┗黒爪の欠片
┗バニラアイス
┗チョップスティックス
┗時間
┗超小型多脚WH『』
設備維持費…… -1000c
ユニオン連帯
┗Anubis
ユニオン金庫……9498c
利子配当…………949c
適性の訓練をしました
適性が1上昇した
適性の訓練をしました適性が1上昇した
適性の訓練をしました適性が1上昇した
適性の訓練をしました適性が1上昇した
適性の訓練をしました適性が1上昇した
100c支払い、今回の戦闘においてAPを10%強化した
ENo.42からのメッセージ>>Anubis 「[献金しました] 」 |
メッセージ
ENo.42からのメッセージ>>
ENo.92からのメッセージ>>
短い音声メッセージが届いている。
ENo.432からのメッセージ>>
冷え切った炭のように黒い大型のハイドラの足先に屈んだ男は、ふぅむと唸りを上げて腰を上げた。
ハイドラの逆関節の爪先に吹き付けた白い塗料は、固着することなく即座に乾いて粉となって剥がれ落ちていった。場所を変えて三ヶ所ほど試したが、結果はいずれも同じだった。
『……奇妙だな』
「そうだな。まあ勝手に動いて抵抗したりしないだけ良かった」
頭上後方から響く落ち着きのある女性の声に、男は前向きに同意した。女性……ジル・スチュアートのWHである
Anubisだ……は一瞬自分を揶揄しているのかと鼻白んだが、男の心底からの安堵の溜息にその考えを打ち消した。
「付き合ってくれてありがとう。こいつも意に反した事はないけど……ひとりでに動いてくれたことは何度か
あったから怖かったんだ。万一の時抑えられるのはお前くらいだし、ね」
『お前の身を守るためなら、わたしは構わない。だが……意外だな。塗装に拘るとは』
「うん。実の所、実利面では黒くてもそれはそれでいいんだ。でもこいつだけは、ね……」
嘆息しながら、男は機体を見上げた。Anubisより頭一つ分程高い。極シンプルな曲面の目立つ甲冑のような人型に、不釣り合いなほど長く末端に向かって肥大化する両手足。一見ではそれと気付かぬほど細かく分割された曲面多重装甲。その全てが吸い込まれそうなほど黒い。かつて男の愛機として各地を駆けた、KWSK-INSANEの現在の姿だった。
「昔々は隠密性を重視していたからね。お前も知ってるブライトネイルやディスポーザー同様、霧の市街地に溶け
込む白だったんだ。というか、俺が乗る機体全部白くしたがったのは全部こいつがいたからと言っていい」
つかつかと機体の爪先に歩み寄り、回れ右をするように背中から凭れ掛かった。Anubisは相槌を打たなかった。
男の表情がただ聞く以外の何も求めていないと雄弁に訴えていた。
「色んなところに放り込まれたよ。高空の航空機から身を投げたこともあるし、湿った荒野を這い進んだことも
あるし、無理矢理ブースターを外付けして水平ロケットみたいに吹っ飛んでったり……
勿論、傷がついたり手酷く汚れたりするんだよ。でも、皆楽しそうに馬鹿笑いしながら塗り直すんだ。なんて
いうか、自分の悪戯で人をあっと言わせた子供みたいに」
やられた側は迷惑では済まなかったけどさ、と続けて男は笑った。昏いものの無い、酷く朗らかな笑顔だった。
「それが俺のせいでこの様だっていうのが、少しだけ、気に食わない。
ジルに心配かけたのに比べればどうということのない、ちょっとした拘りだな」
男は背を預けたまま、肩越しに黒い装甲表面を拳の角で小突いた。グレムリン戦後、四肢を義肢で補った男は、
自壊したグレイハウンドの代わりとしてどこかに隠していたこの機体を持ち込んできた。移動のために操縦系と自身の背中にある端子を接続した瞬間、機体の白い塗装は男の髪と同じ色に変色したのだと言う。
Anubisは言葉に迷った。この奇妙な男は時折酷く律儀で義理堅い面を覗かせることは知っていた。ジルと固く結ばれた男として好ましく感じる一面であるのも事実だった。では何故、となると、自分でもわからなかった。
「悪い、知る由もない昔話と愚痴に付き合わせたな。聞いてくれてありがとう」
『……色、戻るといいな』
思わず突いて出たAnubisの言葉に、男は目を丸くして、ややあってから拳で自身の額を小突いた。
「甘えちゃったな。なんというか、そういうところジルとそっくりだな」
『…………そっくり、か』
息を飲むような空白の後、Anubisはぽつりと言葉を繰り返した。男はただ穏やかな顔で軽く頷いて応じた。
『…………そうかもしれんな。あの子もきっと同じように言っただろう』
「ありがとう。お前も、俺やジルの昔話になってくれるなよ。特にジルにとっては文字通り血を分けた最後の
一人なんだから」
『勿論だ。わたし達は必ず生きて帰る……だろう?』
男はくつくつと笑ってAnubisの方へと歩み寄った。すれ違い様、その脚部へとそっと義手を打ち合わせた。
†
『………脊髄直結端子に端末の接続を確認しました。』
『端末の認証に成功しました。帰還を歓迎します、Insanely.』
『KWSK-INSANE,脊髄直結操縦で起動。システムオールグリーン。』
両脚を通じ全身へとこみ上げてくる力とその解放への期待。空挺輸送機のローラーが齎す振動が酷く心地良かった。
開かれたハッチの下では置物同然の雑魚がこちらを見上げている。自然と自身の口角が吊り上がるのがわかった。
「じゃ、行こうか」
誰に向けての言葉だったか。黒いハイドラは自宅の敷居を跨ぐような気安さで軽く踏み切り、上空から身を躍らせた。
.......and next to the ep.21 side insanely
https://www.dropbox.com/s/l14bjbhy2ea5abd/21.txt?dl=0
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>>Eno.432 >>Eno.42
ジル 「そうだね。確かに、近いものを感じるかも」 |
ジル 「……でも、だからこそ、私たちは負けない」 |
ジル 「私たちが戦うのは、今、この瞬間のためじゃなくて……」 |
ジル 「失うわけにはいかない、生きる明日のためだから」 |
短い音声メッセージが届いている。
ジュネリア 「世話になった。礼を言う」 |
冷え切った炭のように黒い大型のハイドラの足先に屈んだ男は、ふぅむと唸りを上げて腰を上げた。
ハイドラの逆関節の爪先に吹き付けた白い塗料は、固着することなく即座に乾いて粉となって剥がれ落ちていった。場所を変えて三ヶ所ほど試したが、結果はいずれも同じだった。
『……奇妙だな』
「そうだな。まあ勝手に動いて抵抗したりしないだけ良かった」
頭上後方から響く落ち着きのある女性の声に、男は前向きに同意した。女性……ジル・スチュアートのWHである
Anubisだ……は一瞬自分を揶揄しているのかと鼻白んだが、男の心底からの安堵の溜息にその考えを打ち消した。
「付き合ってくれてありがとう。こいつも意に反した事はないけど……ひとりでに動いてくれたことは何度か
あったから怖かったんだ。万一の時抑えられるのはお前くらいだし、ね」
『お前の身を守るためなら、わたしは構わない。だが……意外だな。塗装に拘るとは』
「うん。実の所、実利面では黒くてもそれはそれでいいんだ。でもこいつだけは、ね……」
嘆息しながら、男は機体を見上げた。Anubisより頭一つ分程高い。極シンプルな曲面の目立つ甲冑のような人型に、不釣り合いなほど長く末端に向かって肥大化する両手足。一見ではそれと気付かぬほど細かく分割された曲面多重装甲。その全てが吸い込まれそうなほど黒い。かつて男の愛機として各地を駆けた、KWSK-INSANEの現在の姿だった。
「昔々は隠密性を重視していたからね。お前も知ってるブライトネイルやディスポーザー同様、霧の市街地に溶け
込む白だったんだ。というか、俺が乗る機体全部白くしたがったのは全部こいつがいたからと言っていい」
つかつかと機体の爪先に歩み寄り、回れ右をするように背中から凭れ掛かった。Anubisは相槌を打たなかった。
男の表情がただ聞く以外の何も求めていないと雄弁に訴えていた。
「色んなところに放り込まれたよ。高空の航空機から身を投げたこともあるし、湿った荒野を這い進んだことも
あるし、無理矢理ブースターを外付けして水平ロケットみたいに吹っ飛んでったり……
勿論、傷がついたり手酷く汚れたりするんだよ。でも、皆楽しそうに馬鹿笑いしながら塗り直すんだ。なんて
いうか、自分の悪戯で人をあっと言わせた子供みたいに」
やられた側は迷惑では済まなかったけどさ、と続けて男は笑った。昏いものの無い、酷く朗らかな笑顔だった。
「それが俺のせいでこの様だっていうのが、少しだけ、気に食わない。
ジルに心配かけたのに比べればどうということのない、ちょっとした拘りだな」
男は背を預けたまま、肩越しに黒い装甲表面を拳の角で小突いた。グレムリン戦後、四肢を義肢で補った男は、
自壊したグレイハウンドの代わりとしてどこかに隠していたこの機体を持ち込んできた。移動のために操縦系と自身の背中にある端子を接続した瞬間、機体の白い塗装は男の髪と同じ色に変色したのだと言う。
Anubisは言葉に迷った。この奇妙な男は時折酷く律儀で義理堅い面を覗かせることは知っていた。ジルと固く結ばれた男として好ましく感じる一面であるのも事実だった。では何故、となると、自分でもわからなかった。
「悪い、知る由もない昔話と愚痴に付き合わせたな。聞いてくれてありがとう」
『……色、戻るといいな』
思わず突いて出たAnubisの言葉に、男は目を丸くして、ややあってから拳で自身の額を小突いた。
「甘えちゃったな。なんというか、そういうところジルとそっくりだな」
『…………そっくり、か』
息を飲むような空白の後、Anubisはぽつりと言葉を繰り返した。男はただ穏やかな顔で軽く頷いて応じた。
『…………そうかもしれんな。あの子もきっと同じように言っただろう』
「ありがとう。お前も、俺やジルの昔話になってくれるなよ。特にジルにとっては文字通り血を分けた最後の
一人なんだから」
『勿論だ。わたし達は必ず生きて帰る……だろう?』
男はくつくつと笑ってAnubisの方へと歩み寄った。すれ違い様、その脚部へとそっと義手を打ち合わせた。
†
『………脊髄直結端子に端末の接続を確認しました。』
『端末の認証に成功しました。帰還を歓迎します、Insanely.』
『KWSK-INSANE,脊髄直結操縦で起動。システムオールグリーン。』
両脚を通じ全身へとこみ上げてくる力とその解放への期待。空挺輸送機のローラーが齎す振動が酷く心地良かった。
開かれたハッチの下では置物同然の雑魚がこちらを見上げている。自然と自身の口角が吊り上がるのがわかった。
「じゃ、行こうか」
誰に向けての言葉だったか。黒いハイドラは自宅の敷居を跨ぐような気安さで軽く踏み切り、上空から身を躍らせた。
.......and next to the ep.21 side insanely
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>>Eno.432 >>Eno.42
◆戦闘結果
戦闘報酬
戦闘収入 2000
追加収入 55
攻撃戦果補正23.35%
支援戦果補正7.52%
防衛戦果補正5.64%
撃墜数補正 6%
販売数補正 0.5%
敵警戒値補正3.37%
追い上げ補正1.1%
合計現金収入3205
--弾薬費請求 0
--整備控除修正額1560
整備請求額 0
ユニオン費 -96
手当金 100
パーツ販売数 5個
今回の購入者-->>2 >>2 >>85 >>139 >>149
◆反応値が10成長しました
◆整備値が10成長しました
◆適性値が10成長しました
◆経験値が105増加しました……
◆素材が組織から支給されました……
追加収入 55
攻撃戦果補正23.35%
支援戦果補正7.52%
防衛戦果補正5.64%
撃墜数補正 6%
販売数補正 0.5%
敵警戒値補正3.37%
追い上げ補正1.1%
合計現金収入3205
--弾薬費請求 0
--整備控除修正額1560
整備請求額 0
ユニオン費 -96
手当金 100
パーツ販売数 5個
今回の購入者-->>2 >>2 >>85 >>139 >>149
◆反応値が10成長しました
◆整備値が10成長しました
◆適性値が10成長しました
◆経験値が105増加しました……
◆素材が組織から支給されました……
インセイリーは巨大培養卵39を入手した!
インセイリーは粒子吸着材39を入手した!
キャラデータ
名前
insanely
愛称
インセイリー
機体名
イレギュラーハイドラ『KWSK-INSANE』
|
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
プロフィール
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ハイドライダー インセイリー insanely. 細身。年齢不詳。心配性かつ強迫観念的な偏執狂的マニアック。理解不能な事象については解明よりも対策と利用に重きを置く。 澄んだ黒い瞳に白髪頭。余り表情を顔に出さない。名前を勝手に縮めて呼ばれることを好まない。 後天性四肢欠損。椎弓の一つを脊髄直結端子に置換しており、ハイドラ技術を流用した義肢を備える。 数奇極まりない変遷を経て、再び残像領域の表舞台に姿を表した。 リー・イン(4期Eno.303)、レッド・リーザリー(Eno.10)、ロイド(当Eno)と同一人物。 ジル・スチュアート(Eno.42)と親密になり、一命を賭して戦う彼女と共に戦場を駆ける。 その極めて高い戦闘能力と技量、及び専用機KWSK-INSANEの性能により各企業・個人より絶大な評価を得ているが、自身の性格もあって安易にそれに頼ることはなく、寧ろ苦手(と自称する)な交渉や助力嘆願を大いに用いる。 ハイドラアーキテクトとしても極めて優秀なため、ここ数年では戦術指南や機体構築で評価を上げてしまい、過分な評価と期待に疲弊することも。 上述のような紆余曲折あって、ファティマ(Eno.46)に兄と慕われるようになる。 趣味はジルとだらだら過ごすこと。好物はハーブティー。 ハイドラ インセイン KWSK-INSANE. インセイリー専用機。人型逆関節。主に脊髄直結操縦。 今は亡きカワサキ・ハイテック製狂気の欠陥品。 大きさの割には軽く、重さの割には脆い。 全身の多重複合装甲の間に、霊障に反応して激しく伸縮する素材を人工筋肉として充填しており、高い運動性能と極めて劣悪な操作性、メンテナンス性を示す。 製造十年以上と常識では旧式扱いされて然るべきものだが、設計思想そのものが先進的過ぎるものだったこと、福印なる謎めいた企業の手により各部が改良されていることもあり、戦力としては現行精鋭機と比して尚極めて強力な機体。特に太い両脚部に内蔵されたデュアルエンジンは現代においても比類するものの無いオーパーツとなっている。 ※0,7,15,19,20,24,25を除きアイコンはEno7さまよりいただきました。大きな感謝が、ここにある。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
__0__1__2__3__4__5__6__7 __8__9_10_11_12_13_14_15 _16_17_18_19_20_21_22_23 _24_25_26 |
機体データ |
|
|
1 | 素材 | 巨大培養卵39 [39/重卵/---] 特殊B[460] [素材] |
▼詳細 |
---|---|---|---|
2 | 素材 | 粒子吸着材39 [39/耐粒/---] 特殊B[460] [素材] |
▼詳細 |
3 | --- | --- | --- |
4 | レーダーC | RAD009-Inexpiably [37/薄装甲/薄装甲]《装備:10》 | ▼詳細 |
5 | レーダーC | RAD009-Inexpiably [37/薄装甲/薄装甲]《装備:8》 | ▼詳細 |
6 | --- | --- | --- |
7 | --- | --- | --- |
8 | レーダーC | 霊障適性型レーダー『アヴェ・マリア』 [35/霊障/耐霊]《装備:11》 | ▼詳細 |
9 | 操縦棺B | 複座型特殊軽量棺改 [37/薄装甲/薄装甲]《装備:1》 | ▼詳細 |
10 | 飛行ユニットB | 119式乙昇神機構『サラスヴァティS』 [37/薄装甲/薄装甲]《装備:2》 飛行[446] AP[-29] 旋回速度[441] 防御属性[粒子] 防御値[122] 貯水量[11] 噴霧量[11] 弾数[1] 消費EN[733] 金額[1187] 重量[-172] [飛行補助] *作者* |
▼詳細 |
11 | レーダーC | 霊障適性型レーダー『アヴェ・マリア』 [35/霊障/耐霊]《装備:9》 | ▼詳細 |
12 | --- | --- | --- |
13 | 術導肢A | レフトスタッフγ [37/薄装甲/霊障]《装備:6》 | ▼詳細 |
14 | 術導肢A | レフトスタッフγ [37/薄装甲/霊障]《装備:4》 | ▼詳細 |
15 | 軽ブースターA | 軽ブースターA設計書 [26/耐粒/---] 特殊B[200] [設計書] |
▼詳細 |
16 | --- | --- | --- |
17 | 軽ブースターA | KWSK-INSANE 腕部OP-BN [38/重霊障/霊障]《装備:3》 | ▼詳細 |
18 | --- | --- | --- |
19 | レーダーC | 霊障適性型レーダー『アヴェ・マリア』 [35/霊障/耐霊]《装備:5》 | ▼詳細 |
20 | --- | --- | --- |
21 | --- | --- | --- |
22 | --- | --- | --- |
23 | --- | --- | --- |
24 | --- | --- | --- |
25 | --- | --- | --- |
26 | --- | --- | --- |
27 | --- | --- | --- |
28 | --- | --- | --- |
29 | --- | --- | --- |
30 | エンジンB | WA2000『ワニセン・ライトラピッド』 [34/薄装甲/薄装甲]《装備:7》 | ▼詳細 |
f/f/fのブック結果……ランク外!!
現在のユニオン金庫額……9698!!
葉隠忍のブック結果……ランク外!!
現在のユニオン金庫額……9798!!
篠崎生研の『取り立てロボ』のブック結果……11位ランクイン!! 配当金……なし!!
現在のユニオン金庫額……9898!!
ミロク・イツコのブック結果……ランク外!!
現在のユニオン金庫額……9998!!
有澤 零砂のブック結果……19位ランクイン!! 配当金……なし!!
現在のユニオン金庫額……10098!!