ENo.0092　仮面の男

溜まっていた音声ファイルを一つ一つ処理していく。自身の因縁も終わった以上雑音ではなく情報源だ。
古いものも多いのでほとんどは意味を成さないが、それでも直近のものとなると各勢力の様子がよくわかる。遺跡の外は水浸しになっているようだ。
自室のあるサルガッソに以前のような活気はない。ほとんどの人間がタワーに向かってしまったようだ。
おそらく残っているのもほとんどが出撃を控えたライダーか、あるいは生きることをあきらめた者くらいだ。

室内を片付ける、といってもサルガッソで買い足したものばかりで何もないに等しい。
ハイドラと自身を除くと最低限の食糧や水、衣服があるだけでアクラネシアの操縦棺にはまだ幾分のスペースがあった。ファティマの荷物もこちらに積めそうだ。
戦場からそのまま領域を離脱するつもりだが、一筋縄でいくかどうかはわからなかった。

前回のようなこともある。場合によってはどこかの勢力を頼ることも考えなければ……。

そんなことを考えながらファイルを処理していく。ライダーとの取引や各種契約、連絡の記録。
残像領域での知り合いもそう多くはなく友人といえる相手も――1人、2人ぐらいだろうか。
彼ら彼女らはどうするのか、ということ考えたが考えるだけ無駄だと思考の外へ追いやった。
その全員がハイドラライダーで今まで生き残ってきているという事実がある。ならば再び起きる残像領域の激変にも対応するだろう。

「……舞台を降りる者にはもう関係ないな」

つぶやくと端末のデータをすべて処分する。ハイドラ大隊への登録データは残したままにしておいた。
少しだけ記載を加えた。この記録が最後になるだろう。
ジュネリアにとってはもはや残像領域に残る意味はないが、ファティマにとっては違った。
彼女の意思で残っているといっても言いぐらいだ。デバステイター・センチネルを破壊するために。
ドゥルガーを、他の人を守るためにと戦いに向かったジルのようだ。
ファティマの意思を最大限に尊重した結果、領域を離れるのは戦闘後だ。

ジュネリアの口に自嘲的な笑みがこぼれた。
あの男のようだ、と。

時折響く地響きや揺れからしてもそう長くはない。大きめのかばん一つにまとめられた荷物をつかむ。
腰のホルスターに収まった装飾ナイフにあたりガチャリと音を鳴らす。

「……………」

片手で器用にホルスターをはずすと、そのまま端末の横へ無造作に置く。

もうジュネリアには必要のないものだ。
生きる意志も目的も足りなくなってしまったが、命までは置いては行けない。

だがしかし、ジュネリア＝ハーヴェストは死んだのだ。
ホルスターとナイフをそのままに部屋を後にする。


部屋に残されたモノは、ただ静かに終わりを待つ。

ただ射撃を行う