ENo.0058　鷲見志津里

泥縄火擦は、私の直属の上司だった。
彼女はある日、残像領域の霧に消えた。
長を欠いた兵団はあっという間に壊滅せしめられた。

小さな組織だった。
しかし私はそこが気に入っていた。
私たちは戦うために戦うことを旨としていた。
兵たちは皆、戦いの中で自らの生を全うすることを望んでいた。

私は生き延びる道を選んだ。
彼女の居ない、満足な戦もできない組織に殉じることは本意でなかった。
私は死に場所を得ることを先送りにした。

追手から逃げ延びるさなか、私は深く暗い霧に包まれた一帯に入り込んだ。
私はそこで、行方の知れなかった彼女の持ち物を拾い出した。
ライダーライセンス。
名前はかすれて消えかけていたが、それでも見間違えようはなかった。
私はこれを託されたのだと、そう感じた。



拾ったライセンスに少々細工と復元を施して。
私は泥縄火擦としてハイドラ大隊に名を連ねた。
この残像領域で日銭を稼ぎ、今日と明日を生きるために。

なぜ彼女の名を使ったのか、それは自分でも分からない。
彼女の痕をどこかに残しておきたかったのか、
それとも私はこの稼業を私の名で行いたくなかったのか。
あるいは何も言わずに消えた彼女への当てつけだったのか。

けれども以前のように戦いでの死を願うことはなくなった。
いつの間にか死に場所を喪ったような感覚があった。
企業に雇われて遣われる身となってからは。
既にあの頃の熱を帯びることはもうないのだと、そう思っていた。



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遺跡が崩れる。
≪ΜΕΛΠΟΜΕΝΗ≫が待っている。
戦うために戦うあいつが。
私を、私たちを待ち受けている。

喪っていたものを、取り戻せるとしたら、それは今しかない。

私は私として、今一度戦いに身を投じよう。
ハイドラ大隊の傭兵としてなら、もう十二分に仕事をしただろう。
私は私のために戦う。
偽られた泥縄火擦ではなく。
鷲見志津里として。

基本的に
なおしています