ENo.0096　はいの

　
夕暮れ、夕闇、その狭間に見覚えのある景色が映る。
俺にとっての地獄を考える。闘争のない世界、喧噪のない世界。
或いは血潮の錆びる世界。微温湯、この国はまさにそれだった。

キャンパスノートに雑に書き付けられた数字たちを見る。
店に並んだ品物と、何処からともなく訪れる客たちを見る。
金が落ちる。財布を奪い取る。面倒な騒ぎが外で起こる――

売り上げを付ける。在庫を確認する。そんな自分がおかしくて笑う。
この国に足を踏み入れてから、10週目、だった。早いもんだ。
ロクに喧嘩もせず、思案に暮れる時間が増えたのは良い傾向か否か。
意外なコトで、率直なところ悪い日々ではなかったと思う。
この先もまだまだ続く愉しい地獄ライフの、ほんの少しの休暇の様な。

上手い言葉には出来ない。俺に語彙は無い。
思うままに連ねるこの文字列に、意味なんて、…ない。

刹那を歩く。
夕暮れと夕闇の狭間を歩く。
喧騒と闘争と血潮の滾る世界を歩く。

人は経験して学ぶものだという。
コンビニ経営の経験が俺の人生の何に役立つかは知らないし、
農業の知識とか、惚気話とか、女装が趣味だったらしい事実とか、
あの何もねえ地獄で開業したら案外儲かるんじゃねーかとか、
金を貯めたら渡し守買収して現世にあっけなく戻れるんじゃないかとか、
此処に来て知った事や学んだ事を色々思い返して、やめた。
それが俺の経験になるかどうかは、いずれ何処かで結果が示すだろう。

明日からは、また、あいつと仲良く楽しく喧嘩する日々が始まる。
闘争と喧噪に追い立てられながら、互いに拳をふるい続ける日々が。
角を探さなければならない。片割れを探さなければならない。
経営生活で錆びきった身体を元に戻していかなければ、ならない。

そろそろ書く事がない。
金を貰おう。そして帰ろう。此処での思い出と鍋を持ち帰らなければ。…