導入

夕闇国……ここはあらゆる世界の夕闇の狭間に繋がる昏い国。夕闇の闇に紛れてどこからともなくひとが攫われ、解放されるかは運しだい。そんな夕闇国のお話の一つ……
一つの企業が夕闇国に存在した。名前は金魚坂グループ。名家「金魚坂一族」が創業した巨大企業であり、当然夕闇国でコンビニ経営もしていた……



金魚
「大変でございます! 社長! 先月の金魚づくしキャンペーンの結果、3億闇円の赤字でございます!」

さなえ
「そんな……わたしの金魚並みの知恵で、これ以上の経営は無理だ……」



比喩ではなく、敵対企業の呪いによって金魚坂一族やグループの重役、いや末端社員に至るまですべて金魚に変えられてしまったのだ
唯一呪いに抵抗できた令嬢「金魚坂さなえ」の知恵もまた、金魚レベルまで下がっていた



さなえ
「どうしよう……このまま赤字が続いたら……ひぃおじいちゃんの作った会社がぁ……」

悲しみに暮れるさなえ。彼女はいま次なる一手……無制限フランチャイズ拡大作戦を計画していた。膨大な予算が動く作戦だ。しかし、経営が上手くいけば大きなリターンを得られる……

金魚
「困っているようね、私は金魚の魔女。金女」

さなえ
「突然アポなしで現れましたね!?」

金魚
「安心しなさい。運命は不平等かもしれないけど……呪いや悪意は平等なの。けれども、受けた呪いや悪意を返そうと思っても、相手には届かない……どうなると思う?」

さなえ
「重役とおんなじ顔してますね」

金魚
「そう、行き場を失った呪いのエネルギーがあなたの心の奥に渦巻いている。それは相手を粉砕する力となる……あなたは全てを取り返せるのよ」

さなえ
「無理だよ……わたしの金魚の知恵じゃ……」

金魚
「金魚は嫌い? 金魚は……強いのよ」

さなえ
「金魚は……強い……」

金魚
「金魚は……最強よ。フランチャイズ、成功するといいわね」

さなえ
「……はいっ!」



金魚坂グループの転移術師課の面々は、さなえの指示通りに夕闇国の外の世界から選ばれしものたちを無差別に次々と召喚し、店長に任命した
経営素人の店長も多く、計画は失敗するかに思えた。夕闇国の誰もがそう思った。ただ、さなえを除いて



さなえ
「行き場を失ったエネルギー……そのありかを、わたしは見つけなくちゃ。それに、店長さんたちだってみんな新しい店を開いて、嬉しそうにしているひとばかり。みんなうまくやってくれるよ、きっと……」



夕闇国の空は常に夕闇に差し掛かろうとする時刻のまま凍り付き、街の地図はまるで油の様に変化し揺蕩っている
けれども夕闇国の住人たちは普通の優しい、ただの人間だった。そのはずだったのに……コンビニの建設ラッシュのさなか、その客層は大きく変わろうとしていた……



金魚
「社長! お客様が異常をきたしています!」

さなえ
「どうしたっていうの!?」

なんと、転移術が異界の扉を開いた結果、外の世界より大量の顧客が流れ込んできたのだ!
突然の来訪者は夕闇国で就職活動をし、稼いだお金でコンビニを利用し始めた……

さなえ
「これは商機……! フランチャイズ店長さん、貴方たちの中で大きく売り上げを稼いだ方に、特別ボーナスを進呈します! 夕闇国の闇円は夕闇国を離れたら闇に溶けて消えます。けれども、わが社の所有する『ゆらぎの貨幣』は、夕闇国を出た際にその世界のお金に変異する効果を持ちます! 召喚の際の約束通り、大きな富を貴方にもたらすでしょう。頼みます、売り上げを……」

金魚
「社長!? 『ゆらぎの貨幣』は……!」

そう、ゆらぎの貨幣は不確定な存在であり、あるのか、無いのかすら分かりません。もし店長に支払うゆらぎの貨幣が用意できなければ責任問題です

さなえ
「賭けをしているつもりはないよ」

金魚
「でたらめです。こんなの……」

さなえ
「未来は分からないもの。金魚の知恵では、明日も餌がくるって信じるでしょうけど。意思の力は、明日を信じさせる。闇円が生まれたのは、そんな不確かな明日を信じられる未来に変えられたから。その信用から闇円は産まれた」

金魚
「つまり……どういうことです!?」

さなえ
「わたしは迷わない。迷いは無数の道を生み、不確かな将来を暗示する。わたしは信じている。なぜなら金魚の知恵だから。意思を信じることが、ゆらぎに価値を与えるの」

金魚
「金魚の知恵でゆらぎが確定しても、数が足りなかったら意味ないじゃないですか!」

さなえ
「足りない? ふふっ……足りないか。それは考えていなかったね。わたしの意力はそれを凌駕する。わたしは……意力の怪物となる」



金魚になった社員たち。ひと非ざる者へと変異した彼ら。そしてさなえもまた……人の形を保ったまま、人非ざる者に変わっていたのです。
さなえの瞳には金魚が泳ぎ、彼女の影は金魚鉢のプリズムを描いていました

金魚
「社長、あなたは……」

さなえ
「ン、どうしたの?」

先程の姿は見間違いでしょうか、爆発的に膨れ上がったオーラが消え失せています
それでも金魚たちはさなえを信じようと思えました



金魚
「社長、信じる力をどうして信じられるんです?」

さなえ
「決まってるじゃない。商機が来たからだよ。そして……」

さなえ
「金魚が、強いって教えてもらったからだよ」



to be continued

!!夕闇の虚無に商機を刻め!!

あなたに約束されたのは莫大な富

闇円を稼ぎ、稼ぎ、稼ぎまくれ!

ゆらぎの戦場が、あなたを待っています

登場人物

金魚坂さなえ

さなえ

金魚坂グループの臨時社長。知恵は金魚並み

金魚

金魚

金魚坂グループの構成員。知恵は金魚並み

金魚の魔女

金魚

謎の魔女。顔は重役と同じ