ENo.0006　鳴間 ルル

[ルルのメモ]
えっと……
帰投してからずっと『鉄喰み』とそのパイロット――鉄喰みさんのことを考えていて……
困ったことに、今の今までずっと落ち着かない状態。もう出撃前だというのに。

わたしの目的――ミカ・ミレーミを探すことは、おおむね達成しつつある。
リル・メトラームから彼女について聞き、最低限ではあるが連絡先も入手した。
あとは遺跡を叩き壊して、帰投したら少し休んで、例のマシンに羊羹でも作ってもらって。
取っておいた緑茶(もしなければ、その時は……)のお供に頂いてから――と、思っていたはずなのに。
嫌な予感が胸の中でザワザワしていて、今はとてもそれどころな気持ちじゃない。

出撃前に聞いた通信が、ずっとわたしの頭の中でグルグルしている。
どんな意図があってかはわからないけれども、向こうにも考えがあることと真面目な気持ちだったのは確かで。
だからこそ、とても困っている。

彼――鉄喰みさんが、わたしに秘密で何かしようとしているんじゃないかって。

わたしは彼のことを何も知らない。彼がわたしの事をどれだけ知っているかはともかく。
ミカ・ミレーミの事を調べた時のように、彼については相当に調べたはずなのに。
データベースに載っていた彼についての情報はあまりに少なくて……
それでも、僚機でしかない以上……必要以上に詮索することは良くないと思ったから、そのままにしていて。
(僚機はあくまでビジネスパートナーで、余計な私情は挟まないフラットな関係が良い……と聞いた事がある)

……そんな彼が、何かよくないことをしようとしている。わたしの知らない所で。
彼の言う通り……気味が悪いとは思うけど、それは彼が何れかの想いをわたしに寄せてるからじゃない。

確かに、わたしはできるだけ味方に迷惑を掛けないよう……戦果と貢献について常に考えていた。
いくら山塞のような優秀なAIが側にいても……所詮は素人とジャンク機。戦場の足手まといは免れない。
だからこそ、わたしにできる数少ない仕事――ミサイルと大口径砲による後方支援を行っていたし、
アセンブリングに関する助言を彼や様々な先輩ライダーに乞うこともしていた。

今回だって、最終決戦に望む形で私室モジュールを切り離し、小型化と機動力の確保を図っている。
いまの山塞は移動型コロニーでも陸上戦艦でもなく……ただの不格好な後援ハイドラでしかないけれど、
それを『異常なし』という形で承諾してくれた山塞には感謝するばかり。
(戦争が終わった時、元のコロニーの姿へと戻すのが大変そうで……ちょっと億劫でもある)

思考を彼との通信に戻す。
わたしを戦場に長くいられるようにする……つまり機体損傷による途中離脱を防ぐための策があるのだろうか？
彼は索敵型だから……火力による障害撃破はもちろん、照準阻害などで妨害するのは得策とはいえない。
じゃあどうやって、わたしをカバーする――

思考を書き綴りながらあることに気付く……気付いてしまった。
HCSの安全装置はライダーの命を直接的に守るだけではなく、レーダー感知阻害や照準捕捉阻害といった間接的な部分でもライダーを守っている……と聞いたことがある。
つまり……安全装置を外すことでささやかながら囮になることは可能で、それを用いて――

『大した確率ではないかもしれない。焼け石に水かもしれない。』

彼の通信を思い出す。自分でも、書きながら血の気が引いていくのが分かる。
思い返せば、先の戦場ではいつにも増して彼の機体がけたたましく鳴いていた気がする。

……焦って思考が定まらないけど、出撃の時間は刻一刻と迫っている。とにかくできることを整理しないと。
今からでもこの機体に何か細工を施すしかない。もちろん、わたしが安全装置を外すのは論外。
それと、彼に呼びかけたら……もしかしたら気が変わってくれるかもしれない。変わってほしい。
お願いだから、悪いことにならなければいいけど――

形式上申請したユニオン。
個人の銃器工廠をベースにしており、パーツの整備が行える設備があるほか、
個人携行用の銃器の開発製造も行っている。らしい。
シューティングレンジや休憩スペースもあるよ。

朱い髪の技術主任が、勝手にブックメーカーを始めてしまった。