ENo.0011　-W-

海から空から――そして、霧平線の向こうから。
鋼鉄の獣とお伽噺の怪物が溢れ出てくる。
「地獄の釜の蓋が開くってのは、こういう事かな。これまた豪快な鍋料理だ」
出汁に自信は無いが、片っ端から具を叩き込んで行く。
*MESSAGE* *MESSAGE* *MESSAGE*
領域移動中に友軍から電信が届く。それ自体はよくある事。だが‥‥
「このタイミングで送信する人が他にもいるとはね」
相手の素性は判らないが、きっと、世界に陸があった日を知っている。そう感じた。

ならば、少しだけ昔話をしてみよう。

この世界は繰り返されている、らしい。
「５００年前が分岐点？‥‥初めて聞いた」
それが事実なら、私はちょうど演目のトリに滑り込んだ気にもなる。
一切合切が巻き戻されるとして、私はどこに飛ばされるのだろう。
ダスト・グレムリン――あれが、川の流れに渦溜まりを作る大岩なのか。
「破壊するのはいい。どうやる？」
時空ずれを浴びる前なら表象侵略を試すだけの速力もあった。
「ハイドラと死神は厄介だけれど‥‥私らが倒せるんじゃ頼りにはできないし」

結論：今は、手札が足りない。落ち着いて山札を引こう。

確かに死神は倒せる。手始めに２体、海に蹴り落としてやった。
「いやぁ、複数に目をつけられるとは思わなかったな」
攻撃して戦果を上げる。索敵して戦果を上げる。支援して、防衛して‥‥
がむしゃらに働いて目立てば睨まれる‥‥が、破滅に背を向けても明日はない。
「前門のカピバラ、後門の狼」どちらを選んでも擦り切れる痛みが待っている。
それは今までと一緒。これからだって、そう。
「それでも、このLightHouseが火力と索敵で名を上げるとはねぇ」
テイマーたちと情報を共有し、死神にも幾つか種類と担当があると判明した。
私と似たような戦果を上げている者は、私と同じ死神を見ている。
正直、厄介な相手だ。ただ、正直な相手だとも思った。
「力比べなら手慣れたもの。いざとなったら群れで殴る手もあるさ」

目指すは、南南西――

それは衝撃が垣間見せた夢だったのか、海をたゆたう蜃気楼だったのか。
いずれにせよ私達は「ここ」に帰ってきて――相変わらず事態は惨憺たる有様。
「へえ、あのお嬢ちゃんは命拾いしたんだ」
ヴルッフの死で微かに寂しい気の緩みを、喧しいモーニングコールが揺り起こす。
目覚めてすぐに行うのは機体状況の確認。水漏れトラブルはまっぴらだ。
「現在地――辺境海域【北東柱】？　うわ、居眠り運転やっば」
ミルたちの様子から推測すると、こちら側では戦闘行動が継続されていたのだろう。
砲弾やイオン粒子の雨をかい潜って数エリア先まで無傷、超常の力が働いている。
「ここまで奇っ怪なイベントは久々だ。やっぱりハイドラが噛んでいるのかな」
次に機体構成の不備が続々と検出される。応急手当を施すが冶金構成に致命的な損耗。
「まるで抜け殻。随分と風通しが良くなっちゃってもう～」
私は今、笑っていた。

嵐の船出は、初めてじゃない。

北東を目指す。四海の果てのひとつに何があるのか。
「何もないかもしれない、それならそれで何もないとわかる」
今日も海は静かだ。武器は無いが敵もいない。
「ノイズがひどい、通信に遅延が混じるなんて久々だよ」
夢で見るような、どこか解像度の低い世界。
音があったことを思い出せない、静寂の舞台を照らす警告灯。
ヴァンガード・マニューバ、曇天に晒したケツを焦がす霊障。
「親の顔より見た――ッ！！」
通り過ぎざまに瓦礫を投下、海面を踊る石塊は追いすがる影にヒット。
再び平穏な航海に息をもらす。
「石器時代に戻るほどの衝撃、か」

「‥‥ご先祖さまは随分とやんちゃだったのかね」

この大海原にはばたく相棒は、なんとか目を覚ました。
「とはいえドンパチする武器も弾も心細いんじゃ、ねえ」
幸いというか物資が足りないのは取り残された全員の悩み所で、
貴重なグレムリンを潰すほど酔っ払ってはいないようだった。
そんなわけで、先行偵察に加わった私は北東を目指し飛んでいる。
未使用のコンテナでも見つかればよし。オリーブの葉っぱでもいいかな。

ノイズ混じりのメールは中身もほぼ雑音と化しているが、それでも大事なことは解った。
いずれ私の前に死神が現れること。そして

「死神は打ち倒せる存在」

世界が、変わった。激変と言っていい。
錆びついた黄昏。棄てられた明日。寄る辺なき生。

それは、どこか、肌に馴染む風だった。

「相棒もすっかり錆びついちゃって‥‥動くかな」
戦場を共に駆け抜けてきた機体も、熱が去ったように色褪せている。
あちこち覗いた結果、部品や素材の幾つかも修復不可能な損傷を受けていた。
「大丈夫。こいつは案外タフで、私はライダー。どこまでも飛べる」
他の漂着者たちと協力してガラクタを漁り、まだ使えるジャンクを積み上げてゆく。

まだ、海を知らなかった頃を思い出していた。

めも：かいもの
培養装置、パルス砲、粒子ブレード、電磁アンテナ、火炎放射器

ここの金魚、海水に棲んでいるのかな

おとぎ話のハイドラが、やってくるらしい。
私は居酒屋のマスターに頼まれて潮干狩り。

逆立ちしてたらＷと呼ばれた。そんなー