ENo.0036　サチ

試作品のフレームが届くのが楽しみです。

夢を見ていたようです。
まだ、頭に霞がかかっているようです。
しばらくは、この場所に留まっていようかと思います。

私のレーダーに映っている死神機も、夢であればよいのです。

ホットチョコレートの入ったカップを両手に持って、ファンシーなおじさんを見ています。

到達者。なんとか免許皆伝。
なにやら凄そうなことを言っていますが、そうは見えないのです。
よくわからない人です。
我の生き様を見出し、というのは、間違いなくその通りなのでしょうけど。

お茶の時間を楽しんでいます。またお茶です。どうしてでしょうか。
ですが、ヒルコ様のところでいただいたお茶とは随分違うものです。
残念ながら、チーズタルトをいただける気配はありません。

純白のフリルが雨に濡れぬのは、面妖なこと。
そんなことはどうでもいいのです。
このセンリツと名乗った男の風体のほうが、余程面妖なのです。

私の行く先を眺めます。
東の海は、静寂に包まれているそうです。
北の海は、冷気に閉ざされているようです。

靄がかかった心には、雨音が染み入るような気がします。
余り遠くへ行きすぎても、戻るのが大変です。
しばらく、ここにいても良いかもしれないのです。

ヒルコ・トリフネ船団へとついた私は、お茶をいただきながら、巫女様のお話を聞いていました。
ダスト・グレムリンについてのお話を聞き、そしてお茶をいただきました。
最後に、またお茶をいただきました。
話を聞いているのか、お茶を飲んでいるのか、よくわからなくなってきました。

かつて大きな勢力を誇っていたといいますし、きっと重要な情報も手に入れることが出来るのでしょう。
けれど今ここにいても、お腹がお水で膨れるだけです。
だから、次の場所を目指してみることにするのです。

タワーのある西を除く三方。
東と南。"慰霊の場所"、"招かれざる客"とあります。少し危険を伴いそうです。
けれど、私をおいていったあの人の手がかりを掴むことは、できるかもしれません。

ですが、今回は北に進みます。
「チーズタルト」
その一言が、私を引きつけてやまないのです。

モニターに表示された地図を眺めます。
私に示されているのは、この地図と、僅かな情報のみ。
今の私の置かれた状況と同じく、広い海の真ん中に放り出されてしまった、そんな心持なのです。

一体どこに行けば良いのでしょう？

そういえばこの間、翡翠経典とのコネクションを獲得したのです。
ですから、ヒルコの名を冠した空母船団の方を目指してみることにします。
私を助けてくれる人を、何かを、見つけられますように。

どちらのフレームを選びましょうか。
ひとまず、翡翠経典へのコネクションを取得しておきます。

……依頼が届いているようです。
依頼料はもらえるのでしょうか。

お金が少なくなってきてしまいました。
美味しそうな料理を毎回見せられるのはお腹にこたえるのです。

少しずつパーツが集まってきて、私のグレムリンも形になってきたように思います。
やっぱり人の感覚には、二脚が馴染むのです。
もう少ししたら、ドラコニウム製のパーツにも挑戦してみたいものです。
今のグレムリンに、もう少しだけ慣れたら。今はまだ、重さに振り回されてしまうことでしょうから。


ハイドラとは、どのようなものでしょう。
伝説の存在と言われると、何に例えられても想像が難しいものです。
目にすれば、実感が湧くのでしょうか。

私たちの部隊は、順調に進撃を続けているようです。

…私のこの先のことについては、誰も教えてくれませんし、今は何も考えられそうにありません。
戦いの間は、戦いのことだけを考えていれば済みます。これは、とても楽なことかもしれないと、最近思っています。

このままではいけないことは、わかっています。

私はテイマーとして育てられ、そのように生きてきました。
戦うための術は一通り身につけています。

私を育てた人は、どこかに行ってしまいました。ひと月くらい姿を見ていません。
理由はわかりませんし、知りたくもありません。
けど、私に行路を示してくれる人がいなくなってしまったのは、とても困ったことです。