ENo.0074　さいはてきょうだい

「さいしゅうびだよ」
「最終日かーーー」
「そっか～～～～」
「あっという間だったね」
「ねー！」
「おう」

　ふしぎな金魚さんとのけいやくも今日で終わり。
　アルクスストア、営業最終日です。
　おもえば二か月とちょっと。わたし、こんなに長くコンビニしてたんだなあ。

「クシーお兄ちゃんはタカヤシキ先生のところに戻るの？」
「ああ、引き続き色々教わってくるさ。脳筋兄貴たちと違ってな！」
「俺らに振るなよ」
「そーだそーだ」

　魔術のお勉強、がんばってね。お兄ちゃん。

「リガお兄ちゃんは？」
「俺はまた修行の旅に戻るわ、いろんなメシの作り方覚えてくるから次を楽しみにしてろよー」
「デザートもよろしくね☆」

　お料理のお勉強、がんばってね、お兄ちゃん。

「アギお姉ちゃんは、えーと」
「外交。……ってほど堅苦しいものじゃないけど、挨拶ついでに色々見てくるつもり」
「姉さんあそこの飛竜乗りたいからその話乗ったんでしょ？」
「否定しない」

　すごい人へのご挨拶、がんばってね、お姉ちゃん。

「それと……」
「私たちはまた情報収集の旅に出るよ～！」
「土産話なら任せろ」
「お兄ちゃんの頭と胴が分離しかかる類の話はもう要らないからね、心臓に悪い」
「気を付けて行ってきてねって素直に言ったらいいのにもー、かわいいなー」
「お姉ちゃんちょっと離れて、苦しい」

　いろんな冒険、がんばってね、お姉ちゃん、お兄ちゃん。

「で、ヒュムはどうするんだ？
「家には一旦戻るんでしょう」
「うん」
「じゃ、そこまでは皆で送ってこうぜ」
「言われなくとも」
「ケガのひとつも無いようにね！　だって、」

　だって、わたしはもうすぐ、

「およめさんになるんだもん、ね」

　たんじょう日に届けてもらった箱をぎゅっと抱きしめました。
　中に入っていたのは、とってもおしゃれなペンと、ノートと、しおり。うすい金ぞくでできていて、キラキラしてる。
　たくさん本を読んだり、いろいろ覚えて仕事のお手伝いをしたりしたい、って言ったのを覚えててくれたんだ。

　わたしのだんなさまになる人は、とっても頭が良くて、すごい力を持っていて、すっごく怖い人だって聞きます。
　はじめて会ったときは、そんなかんじはしなかったんだけど、子どもが相手だったからかなあ。
　はやくもっと近い目の高さでものを見たいなあって思います。わたしだって、あと１年もたったらもっともっと大きくなっちゃうもん。人間でいう十五歳ぐらい？まで。
　まだ子どもだからなんて言わせないんだから。

　だんなさまは、わたしのパパたちと『ぎじゅつていけい』をすることになっていて。
　一ぞくとそしきのつながりを深めるためにって、お父さんがていあんした『えんだん』で、わたしはおよめに行くことになりました。
　いやだったらムリしなくていい、ってお父さんたちは言ったけど、わたしはおよめに行ってみたいと思ったの。
　わたしは未来のだんなさまのこと、けっこう好きなんじゃないかなあ、って思ったから。
　あの、氷みたいに冷たい目をじっと見つめると、むねがぎゅって苦しくなるの。
　恋って、こういうことなのかな？

「それじゃあお姉ちゃん、お兄ちゃん、さいごの一日がんばろうね！」

　わたしはアルクスの一ぞくのいちばん下の子、ヒュミール・アルクス。
　出版社にしてまじゅつ工房であるアカシアしょぼうのあるじ、ミプル・ロックにささげられるものです。