ENo.0147　上月樹里

もうすぐ私は元の世界に帰るから、帰る前に、この世界にこっそり私の気持ちを置いてかえろうと思って、新しいノートを買いました。

私は、罪人です。
私は殺人者で、盗人です。

いくらいろんな事情があったって言い訳しても、これは変わらない事実です。
本当は、捕まったり、裁判にかけられたりするのが普通だと私は思うけど、私のいる世界に、そういったしっかりとしたシステムがないように思えます。

私が知っている、あの世界の罪滅ぼしは、農場で野菜を作ることで、
だから、私は野菜を作っています。

どれぐらい作れば、どれぐらいの刑にあたるのか、全然わからないので、ずっと作り続けています。
多分、これからもずっと、ずっと、続けていくと思います。

でも、野菜を作るのはやめないけれど、その間に少し時間をもらう事を許してほしいです。
誰に頼めばいいかわからなくて、だから、このノートは神様に向けてのお願いを書いているのかもしれません。

私に、旅をする時間をください。
みんなに、会いに行かせてください。

後から、私のいた集団は、私たちは、たくさんの悪事を働いていたという事を教えてもらったけど、多分、会うのは反対されると思うけど、
何もかもわからなくて、言葉も通じなくて、不安と寂しさでいっぱいだったときに、そばにいてくれたのはあの人たちです。
住む場所も、食事も、私の役割も、与えてくれたのはあの人たちです。
私がこうやって、身体を持って暮らせるようにしてくれた、優しい人もいるんです。

だから、また、会いたいです。

お礼も言いたいし、たくさん話したい事があるし、一緒に食事もしたいです。
また、私の作った料理を、食べてほしいです。

だから、罪滅ぼしをしない時間を持つ事を、許してください。
ちゃんと帰ってきて、そしたら、また畑仕事を頑張ります。

こんな事、あっちの世界で言ったら。
きっとまた、怒られちゃうだろうから。

本当の気持ちは、こっそりここに置いていきます。
元の世界に戻ったら、ちゃんと明るく、世界一周旅行、行ってきます！って。言えますように。