第23回目 午前2時のスリーピング・レイル

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プロフィール

名前
スリーピング・レイル
愛称
スリーピング・レイル
プロフ絵機体画像
経歴

記憶喪失のグレムリンテイマー。
自分に関すること、そしてこの虚空領域に関することは何一つわからない。
唯一「グレムリンの操縦」だけは体が覚えている。
『スリーピング・レイル』とは身に着けていたエンブレムに刻まれていた文字列。

(イラストはすのだ様からの頂き物です)

僚機プロフィール

名前
ネグロ
愛称
ネグロ
プロフ絵機体画像
経歴

元真紅連理所属、整備士の資格を持つ。

身長166cm 体重79cm  年齢43
両腕バイオ生体置き換え済

第一次七月戦役時、徴兵以来を受け真紅連理の強襲部隊に所属。

戦役中に左腕を失い、右腕を換金した後両腕をバイオ生体置き換え手術を行う。
現在まで拒否反応含む異常なし。

真紅連理降伏後、第一次七月戦役より消息をたつ。

その後、各地でゲリラ的活動の目撃情報有り。【僚機詳細】



◆日誌


 それは、もちろん事前の想定――フヌが残した予測の通りではあった。

 だが、いざ相対してみると、その絶対性が如実に浮き彫りになる、ということも思い知ることになった。

 ケイジキーパー、リヴの駆る《ヴォイドステイシス》は、正しく「永劫」であった。永劫であるということは、どのような手段を用いても太刀打ちできないということ。どれだけ足掻いてもちいさな傷一つ刻みこむことすらできない絶対の停滞を前にして、絶望しない方が無理というものだ。

 だから、あらかじめフヌが示した「十分間」はあまりにも長く感じられた。それこそ永遠にも感じられる十分間。それでも、スリーピング・レイルは耐え続けた。耐えることだけは得意だ。どのような暴力に対しても、どのような理不尽に対しても、意識を閉ざし、冷え切った感覚で事象を捉え、受け入れる。それこそが己の役割であるという自負が、永劫を耐える力となる。

 ――その時、声、が聞こえた。

 ちいさな子供のような、舌足らずの声。

 それこそが、《ヴォイドステイシス》の思念だった。何ひとつ知らぬまま、ただリヴの思うがままに振るわれてきたそれが、初めて抱いた望み――「もっと、戦いたい」。永遠にも近い十分の間に、これは戦いではなく一方的な蹂躙であると気づいたに違いなかった。

 だからこそ、《ヴォイドステイシス》は問いかけてきたのだ。

「なんで、みんなは戦ってるの?」

 果たして、《ヴォイドステイシス》に向けたレイルの声は、届いたのだろう。その場に居合わせた傭兵たちは、各々の理由を語ったに違いなかった。その全てが、《ヴォイドステイシス》の心をわずかに、けれど確かに動かした。

 戦いたいと思った、その理由を知りたいと願った、その時点で《ヴォイドステイシス》の絶対性にほころびが生まれ、そのほころびから急速に変化が進んでいく。変化。それは「変化しないこと」を示す永劫や停滞とは真逆の位置にある。

 そして、リヴの声に背を向けてでも――。

「世界よ、加速せよ。その先に、戦いはある」

《ヴォイドステイシス》は、「戦い」を望んでみせた。

 絶対の停滞が破綻してしまえば、もはや《ヴォイドステイシス》の優位性は存在しない。あとは対等の「グレムリン」として戦うだけであった。

 今までの停滞が嘘のような加速に満たされた戦場で、レイルは《ヴォイドステイシス》の歓喜の声を聞いた。己が勝つにせよ負けるにせよ、戦うことができるという喜び。結果として待つ滅びなど些細なことであり、ここにある「今」こそが全てなのだと。

 レイルは戦いを嗜好しているつもりはない。守りたいと望む者、そして彼らが大切にしたいものを守るために、必要だから戦うものだと思っている。

 それでも、《ヴォイドステイシス》の声にはいつにない昂りを覚えた。いつか必ず終わるとわかっていても、もしくは「だからこそ」今を生きているということ。その喜び。己にはわからない感情だと思いながらも、グレムリン『スリーピング・レイル』を駆る手には熱がこもる。それは果たして己の高揚なのか、グレムリンの高揚なのか、それともそのどちらもだったのか。レイルにはわからないし、わからなくていいと思っている。その二つにさしたる差はない、それがスリーピング・レイルの常の主張であったから。

 そして、戦いの結果として――《ヴォイドステイシス》は沈む。

 停滞を、永劫を望んだリヴを時空の向こう側に置き去りにして、加速した世界が、未来へと進んでいく。

 これで、終わるのか。

 レイルは、どこか呆然とその様子を見つめていた。

 虚空領域は滅びに向かっていく。リヴによってもたらされる永劫の静止を否定した以上、それは確実だ。けれど、ミアとのささやかな約束は守れるのだ。戦うことのないスリーピング・レイルに価値があるのか、という問いの答えはまだ見つかってはいないけれど、それでも、ミアが、幽霊船の皆が待っている場所へ――。

 刹那。

 操縦棺を通した視界に映っていた他のグレムリンが、弾け飛ぶ。

「……え?」

 その現象の意味を頭で理解するより先に、冷たい直感がレイルを突き動かした。本来は他の機体より鈍重なつくりをしている『スリーピング・レイル』だが、レイルの直感に従って目には見えない力をかろうじてかわし――その不可視のエネルギーが、すぐそばにいた僚機『カズアーリオス』を直撃したのを、目にした。

 見慣れていたはずの機体が、目の前で、ねじれ、歪む。

 いつの間にか、目の前には巨大な「何か」が立ちはだかっていた。沈んでいく《ヴォイドステイシス》とはまた別の、むしろ、あれだけ圧倒的だった《ヴォイドステイシス》よりも遥かに強い力を感じる、それは、それは――。

 その時、モニターにノイズが走る。通信回線が開かれる。画像は乱れて定かではないが、「誰か、」とこちらを呼ぶ声が誰のものなのかは、すぐにわかった。激しい雑音が耳に響くのも構わず、入力音声の音量を上げる。

「……逃げ、ろ」

「ネグロ、さん」

 それは、今まさに、グレムリンごとねじり潰されそうになっている、ネグロの声で。

 先ほどまで熱を感じていた手は、すっかり冷たくなっていた。脳裏に響くのは激しい警鐘。ここにいてはいけない、今すぐに退くべきだ、さもなければ。

「逃げろ……ッ!」

 目の前で『カズアーリオス』があるべき形を失っていく。もはや、助からないだろう、ということが、ありありとわかってしまう。だが、崩れながらもなお、藻掻くように蠢き、レイルに背を向け巨大な「何か」と向き合おうとする『カズアーリオス』に、レイルは思わず声をあげていた。

「ネグロさん!!!」

 逃げろ、というネグロの言葉は正しいはずだ。レイルの頭に響く警鐘は、正しいはずだ。逃げるべきなのだ。自分はまだ助かるはずなのだから。

 しかし。

「ふざけるなよ」

 レイルの唇からは、いつになく冷えきった声が零れる。

「……逃げる? 逃げて、どうするんだ」

 このままでは、目の前の「何か」はここにいる者全てを蹂躙し尽くすに違いなかった。そして、ここに集った者たちが滅びれば、次に失われるのは虚空領域そのものだということも、はっきりしていた。

 だが、そんな理屈を捏ねるよりも先に、レイルは『スリーピング・レイル』を動かしていた。

 圧倒的な「何か」に向かっていく『カズアーリオス』に並ぶように。もはや、ネグロはレイルがそこにいることすら気づいていないに違いなかったが、その方が都合がいいとも思う。

『死ぬなよ』

 それは、最後の戦いに向かうレイルに向かってかけられた、ネグロの一言。

 ネグロがどういう経緯でグレムリンを駆るようになったのか、何故あれだけの怒りを抱えて生きていたのか、レイルは結局最後まで知ることはなかった。知ろうとしなかったともいう。

 ただ、ネグロはきっと、恐れていたのだ、とは思っている。そこにあったものが失われるということ、自分の手から零れ落ちるということ。いくつもの理不尽な喪失が、ネグロの怒りを駆り立てていたのではないか、と。もちろん、どれもこれも想像に過ぎないけれど。

 だから、「死ぬなよ」というネグロの言葉を、裏切りたくはなかった。なかった、けれど。

 自分一人だけ逃げて、仮に助かったとして。

 そこに、誰もいなければ意味がないのだ。

「行こう、『スリーピング・レイル』」

 レイルは迷わず「何か」に向き合う。

 強烈な不可視の一撃――意力撃滅が、『スリーピング・レイル』を襲う。

 それでも、なお、前に。

 前に――。
 
 
   *   *   *
 
 
 意識を埋め尽くす、ノイズ。

「聞こえ――すか、」

 ざらざらとした音色の奥から、声がする。僕を呼ぶ声。

「レイルさん! と、おともだちのみなさん!」

 おともだち、と言っていいのだろうか。僕――スリーピング・レイルを構成する「彼ら」のことを何と表現すべきか、僕はまだわからないままでいる。

「お兄ちゃんと一緒にいてくれて、ありがとうございます!」

 お兄ちゃん、とは、誰のことだろう?

「もし、もしも、あたしの声が聞こえていたら、あたしの言葉を覚えていたら――また、お兄ちゃんと一緒にいてあげて、ください」

 ああ、もしかして、…………。

 口を開こうとした、けれど、実際に自分の声が耳に届くことはなかった。そもそも、もう、今の僕には言葉を放つための口も、それを聞き届けるための耳もなかったのかもしれない。だって、あの一撃を耐えられたとは思わなかったから。

 それでも、声は、

「あたしはもう、いっしょに、いてあげられないから――」

 僕に告げるのだ。

「よろしくおねがい、します」

 お願いされたからといって、叶えられるとは限らないというのに。

 ただ、もしも、もしも、君の言うとおり「また」の機会があるとしたら、約束しよう。
 
 
 
 僕は、必ず、


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◆アセンブル

エンジン【エンジン】にフライトレス・プラチナハートを装備した
索敵【索敵】にフライトレス・アーマーを装備した

◆僚機と合言葉

ネグロとバディを結成した!!

次回オークリーフ・レッドメールに協賛し、参戦します

オークリーフ・レッドメール担当
「届けたいものがある。進路を開いてくれ」