ENo.0007　soot

「なあ、ジア。
　ああいや、返事はいい。僕はこれまであんまり話していなかったし、会話らしい会話なんてのをするつもりじゃないんだ。
　ただ、聞いてくれる相手が欲しかったんだ」

「ジアは、カザミサの言葉をどう思う？
　世界を再構築する、全てを元通りに復元してやり直す。
　そんな力を持ち得たダストグレムリンに乗った、あの子の言葉を覚えているかい？」

「何度修正しても、何度やり直しても、今の私の悲しみは消えない」

「こんなの、やり直しでもなんでもない」

「臆病の下りは……まあいいか」

「僕は、まあ、なんとなくだけど、実感できると思うよ。
　何度やり直せたとしても、今ここで感じた苦しみは消えない。
　ここに来るまでに感じた全ては、同じように取り戻すことなんてできない。」

「そんなにおかしな理屈じゃあない。
　完全に過去をトレースし、現在に至る時、恐らく僕は『似たような感情』を抱きはするだろう。
　でも、それは同じではない。同じではないんだよ。」

「なあ、ジア。
　君は、今ここでこれまでの全てをひっくり返して掃き溜めに捨てて、同じようにやり直したいかい？
　ここに至るまでの全てを、ある地点まで全部捨てて、同じようにやればいいや、なんて言えるかい？」

「僕は嫌だね。
　ここに至るまでの全ての経過も、記憶も、感情も、僕だけのものだ。
　君と力を合わせて戦ったことも、こうしてダストグレムリンに向かって、恐らくは負けると知って挑むことも。
　そうするに足る理由があるか？多分無いよ。でも、今のこの瞬間を否定するつもりだけは、無い。」

「それで十分なんだよ。それだけで。
　ここで抱いた苦しみも悲しみも、犯した過ちも、それらから隠れて目を閉じようなんてことはできない。」

「たったそれだけなんだよ。」

「…………後で、まあ、ちょっと、話せたらな。
　そう思うよ。
　なんというか、これまで、それなりに楽しかったからね。」

「じゃあ。」