第16回目 午前2時のネグロ
プロフィール
名前
ネグロ
愛称
ネグロ
経歴 元真紅連理所属、整備士の資格を持つ。 身長166cm 体重79cm 年齢43 両腕バイオ生体置き換え済 第一次七月戦役時、徴兵以来を受け真紅連理の強襲部隊に所属。 戦役中に左腕を失い、右腕を換金した後両腕をバイオ生体置き換え手術を行う。 現在まで拒否反応含む異常なし。 真紅連理降伏後、第一次七月戦役より消息をたつ。 その後、各地でゲリラ的活動の目撃情報有り。 |
◆日誌
未来もいらない。祝福もいらない。ただ、今を生きる力だけが欲しい。
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
粛々と戦うだけのつもりだった。
相手にどんな崇高な理念があり、どんな大きな目的があろうとも関係は無い。
ネグロの中にあるのは今を生きる人間たちの安寧だ。その為には、世界にとって戦線布告をしてくるジャンク財団を野放しにする事は出来ない。
いつだってそうだ。TsCが全てをめちゃくちゃにしたと信じ続けていたから、TsCの存在を許すことが出来なかった。
もし、真紅連理が力の無い人々に無差別に牙を剥くようになれば、容赦なく力を振るうだろう。
それは、戦いで全てを失った男が最後に残ったちっぽけな自尊心を守る為。自分のような存在を生み出さない為にやっているだけの、自己満足の行為。
己の中にはもう何も戻ってこない事を知っているから。
……それなのに。
『財団の皆は、奪われた者、犠牲を強いられたもの、失ったものばかりだ』
『だから俺たちは奪う。犠牲にする。そして、すべてを破壊する』
『俺たちには、強くなる権利と……妥当性がある』
不意に流れ込んできた声。
これは世界の意志なのだろうか。この言葉を聞いて、奮起しろとでもいうのだろうか――そんなことすら、どうでもよくなるような言葉。
ふざけるな。ふざけるな! ふざけるな!!!
頭の中があっという間に煮え立つのを理解はするが、止められない。止めるつもりがない。
奪われた物が奪い続けた結果が今の世界だ。
奪っても、あらゆるものを踏み台にしても、他の全てを破壊しても、満たされることは無い。
本当に欲しいものは人から奪うことでは手に入らない!けれども、一度それに手を染めてしまえば止める事などできやしない。誰からも何も奪えなくなるまでずっと、ずっと――
「っ、はぁっ、はぁっ、」
ネグロは気付けば操縦棺の中にいた。
操縦レバーをきつく握りしめ、フィルタースーツの中はじっとりと汗をかいている。
ここまで来た記憶が無いが、やろうとしている事はもうわかっている。
身体中を引き裂かんばかりの怒りに満たされているものの、思考まで怒りに支配されていない。考えも無しに暴走している訳では無く、これは思考の末に行われている。
目的地は氷獄。
奪われた、失った、犠牲になった――それが何の権利でもない事を証明しなければならない。
その為にも、あんな事をのたまう輩を――破壊しなければならない。
起動しようとコンソールに手を伸ばすと、ネグロが触れるより先にモニターが点灯する。まるでネグロがやらんとしている事を理解しているかのように、モニターの中では演算と検索が進む。
「……」
グレムリンは思念に応える。その言葉の意味をネグロはわからないままでいた。
そもそもは、この悪鬼が全ての元凶で本来ならばグレムリンという存在こそ、なくなってしまえばいいと考えている。
ほかに手段が無いから、今はこの力を振るわなければならないだけなのだと。
「……悪鬼は応える、か」
漸くその意味の一端を垣間見た気がする。グレムリンはネグロが何をするでもなく、目的地を氷獄に設定していた。
が、それと同時に警告画面が表示される。
「……!」
ネグロはその画面に目を見張った。現れたそれは、僚機設定の解除に対する警告だ。
勝手に組まれたまま、解除することが出来なかった僚機のそれすらも、グレムリンの意思だったのだろうか。
「……」
画面には、解除ボタンが表示されている。ネグロは、黙ってそれに触れる。
この怒りは誰のためでも無い、己のものだ。だからこそ、これを誰かに背負わせる事は出来ない。
今度こそ、許されなくても仕方無い。
「……」
改めて操縦レバーを握り直す。
ゆっくりとグレムリンが動き出した。
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
一機いなくなった格納庫を写したモニターを見ながらルインは軽くこめかみを押さえた。
「……」
ブリッジでモニタリングを常にしている船長が、格納庫の異常に気付かない筈は無い。
けれども、止める事が出来なかった。
ネグロが怒りに突き動かされる予感は最初からあった、それでも見逃すことにした――頼まれた、と言えばいいのだろうか。
モニターからブリッジの隅に視線を向ける。この船に乗ってから、いつもうるさいくらいにブリッジを走り回っていた"お客様"の姿も今はない。
『おにいちゃんは、あたし達の為に怒ってるの! あたし、やっと、わかった気がする!』
『だから、止めないであげて!』
『あたしが、ちゃんと見てるから!』
ネグロを止めようとしたその時に、幽霊の少女がそう告げてその場から消えていった。
ブリッジから飛び出す事はよくある事だった。けれども、今船の何処にもいない、というのは感覚的に理解した。
「……甘くなったな」
自らに対して呆れてしまった。情で判断を鈍らせて船に被害がでればそれこそ、船長として問題だ。
こうなれば、幽霊船は残った人員と協力者で戦闘を続けるしかない。
大きな溜め息ひとつ吐き出して、ルインは新たなデータを出すべくコンソールを叩いた。
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
粛々と戦うだけのつもりだった。
相手にどんな崇高な理念があり、どんな大きな目的があろうとも関係は無い。
ネグロの中にあるのは今を生きる人間たちの安寧だ。その為には、世界にとって戦線布告をしてくるジャンク財団を野放しにする事は出来ない。
いつだってそうだ。TsCが全てをめちゃくちゃにしたと信じ続けていたから、TsCの存在を許すことが出来なかった。
もし、真紅連理が力の無い人々に無差別に牙を剥くようになれば、容赦なく力を振るうだろう。
それは、戦いで全てを失った男が最後に残ったちっぽけな自尊心を守る為。自分のような存在を生み出さない為にやっているだけの、自己満足の行為。
己の中にはもう何も戻ってこない事を知っているから。
……それなのに。
『財団の皆は、奪われた者、犠牲を強いられたもの、失ったものばかりだ』
『だから俺たちは奪う。犠牲にする。そして、すべてを破壊する』
『俺たちには、強くなる権利と……妥当性がある』
不意に流れ込んできた声。
これは世界の意志なのだろうか。この言葉を聞いて、奮起しろとでもいうのだろうか――そんなことすら、どうでもよくなるような言葉。
ふざけるな。ふざけるな! ふざけるな!!!
頭の中があっという間に煮え立つのを理解はするが、止められない。止めるつもりがない。
奪われた物が奪い続けた結果が今の世界だ。
奪っても、あらゆるものを踏み台にしても、他の全てを破壊しても、満たされることは無い。
本当に欲しいものは人から奪うことでは手に入らない!けれども、一度それに手を染めてしまえば止める事などできやしない。誰からも何も奪えなくなるまでずっと、ずっと――
「っ、はぁっ、はぁっ、」
ネグロは気付けば操縦棺の中にいた。
操縦レバーをきつく握りしめ、フィルタースーツの中はじっとりと汗をかいている。
ここまで来た記憶が無いが、やろうとしている事はもうわかっている。
身体中を引き裂かんばかりの怒りに満たされているものの、思考まで怒りに支配されていない。考えも無しに暴走している訳では無く、これは思考の末に行われている。
目的地は氷獄。
奪われた、失った、犠牲になった――それが何の権利でもない事を証明しなければならない。
その為にも、あんな事をのたまう輩を――破壊しなければならない。
起動しようとコンソールに手を伸ばすと、ネグロが触れるより先にモニターが点灯する。まるでネグロがやらんとしている事を理解しているかのように、モニターの中では演算と検索が進む。
「……」
グレムリンは思念に応える。その言葉の意味をネグロはわからないままでいた。
そもそもは、この悪鬼が全ての元凶で本来ならばグレムリンという存在こそ、なくなってしまえばいいと考えている。
ほかに手段が無いから、今はこの力を振るわなければならないだけなのだと。
「……悪鬼は応える、か」
漸くその意味の一端を垣間見た気がする。グレムリンはネグロが何をするでもなく、目的地を氷獄に設定していた。
が、それと同時に警告画面が表示される。
「……!」
ネグロはその画面に目を見張った。現れたそれは、僚機設定の解除に対する警告だ。
勝手に組まれたまま、解除することが出来なかった僚機のそれすらも、グレムリンの意思だったのだろうか。
「……」
画面には、解除ボタンが表示されている。ネグロは、黙ってそれに触れる。
この怒りは誰のためでも無い、己のものだ。だからこそ、これを誰かに背負わせる事は出来ない。
今度こそ、許されなくても仕方無い。
「……」
改めて操縦レバーを握り直す。
ゆっくりとグレムリンが動き出した。
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一機いなくなった格納庫を写したモニターを見ながらルインは軽くこめかみを押さえた。
「……」
ブリッジでモニタリングを常にしている船長が、格納庫の異常に気付かない筈は無い。
けれども、止める事が出来なかった。
ネグロが怒りに突き動かされる予感は最初からあった、それでも見逃すことにした――頼まれた、と言えばいいのだろうか。
モニターからブリッジの隅に視線を向ける。この船に乗ってから、いつもうるさいくらいにブリッジを走り回っていた"お客様"の姿も今はない。
『おにいちゃんは、あたし達の為に怒ってるの! あたし、やっと、わかった気がする!』
『だから、止めないであげて!』
『あたしが、ちゃんと見てるから!』
ネグロを止めようとしたその時に、幽霊の少女がそう告げてその場から消えていった。
ブリッジから飛び出す事はよくある事だった。けれども、今船の何処にもいない、というのは感覚的に理解した。
「……甘くなったな」
自らに対して呆れてしまった。情で判断を鈍らせて船に被害がでればそれこそ、船長として問題だ。
こうなれば、幽霊船は残った人員と協力者で戦闘を続けるしかない。
大きな溜め息ひとつ吐き出して、ルインは新たなデータを出すべくコンソールを叩いた。
◆15回更新の日記ログ
祝福された未来など、ありはしないというのに――
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
赤渦での作戦を間近に控え、幽霊船はにわかに慌ただしくなっていく。
乗組員に加えて付近の整備士も呼び、幽霊船から出る三機のグレムリンを万全の状態にするべく整備やパーツの換装を進めていた。
しかし、ネグロが格納庫に向かったのはそういった慌ただしい時間を終えて大分経ってからだった。
体調を気にされるのを嫌った――という訳ではなく、大掛かりな作戦となるだろう次の戦いにおける戦局の確認に、多くの時間を使ったからだ。
大規模な戦闘は巨大未識別機を相手にした時以来ではあったものの、今回は味方となるグレムリンも多い。そこまで不利な戦局とは言わないだろうが、もしもの時の連携を考えれば確認に時間を割くのは仕方の無い事だった。
「……」
重たい扉に手をかけて開く。
ギギ、と扉が錆びた音を鳴らす音だけが大きく響く格納庫は、少し前まで喧騒に包まれていたとは思えない程に静まり返っている。
ルインが腕利きの整備士を呼びつけたという話は聞いてはいたし、ネグロ自身もそれに疑いを持っているわけではない。
ただ、自分の目でも確認しておきたかっただけなのだ。
膝をつくような形で格納庫にいるグレムリンを一度見上げて確認してから、そのフレームに手を伸ばす。
撫でるようにそれに触れながら、ゆっくりと息を吐き出すともう一度グレムリンを見上げた。
ジャンク財団との戦いはすぐには終わらないだろう。次の戦いに勝てたとして、またその次が現れるだけで、解決にはならない。
長期戦、と言えば聞こえはよくなるが要はお互い我慢比べをするのだ。
どちらかが倒れるまで、戦争は続く。
踏みつけにされる者達の事なんてだれも考えていない。剣を納めればチャンスとばかりに貪り尽くされる。
だからこそ、戦いを続けなければならない。剣を抜き、振り上げ、抵抗の意志を見せ続けなければならない。黙ってしまえば、それはもういない事にも等しくなってしまう。
ネグロは無意識にきつく歯を食い縛っていた。
「……ネグロさん?」
「っ、急に話しかけるな」
背後から突如聞こえる呼び声にネグロの肩がぴくりと跳ねた。声の主がレイルであるのを確認にすれば、悪態をつきながら視線を向ける。操縦棺からのそりと見せるその顔は、いつも通りのぼんやりした表情だったが、疲れているのか何処と無く陰りが見えた。
ここ最近は、精力的に船の中で活動しているのをネグロも知っている。今日もブリッジと格納庫を行ったり来たりしていたのを見聞きしていた。疲れた顔をしているのも、仕方のない事なのだろう。
「お疲れ様、ネグロさん」
「お前も、人の事言えない顔してるがな」
「……、そう、かな?」
そうだというのにレイルという男は自分よりも他者の事ばかり気に掛ける。ネグロが皮肉交じりに返した言葉を聞いてもきょとん、とした表情で聞き返してくるレイルに、ネグロは眉根を寄せた。
一言、知らんと切り返してグレムリンに向き直る。
こうして大きな戦いを前にレイルと話をしていると、巨大未識別機との戦いを思い出す。巨大未識別機を相手にする前――この船にいる事に耐えきれず飛び出した時が、随分前にも思える。
あの時レイルから貰った通信が自分の中のひとつの転換点だったのは、もう認めるほか無いのだろう。あの時も、勝手に飛び出した自分に恨み言ひとつも言わずにただ一言心配していると告げて来た。
あの言葉は、ネグロが己を見直す切っ掛けを確かに与えた。
「……チッ」
余計な事を思い出してしまった、と舌打ちをひとつしてからすぐにグレムリンの状態を一通り確認する。確認はすぐに終わる程、グレムリンの状態はしっかりと仕上がっていた。確認する事もなかったのかもしれないが、気になってしまったのだからしょうがない。これで安心して休む事が出来ると内心で安堵の息を吐いた。
あれからレイルも話しかけてこない所をみると、眠りについたのだろうか。ちらり、とそちらに視線を向けた。
「……レイル?」
眠ったかと思っていた姿は、怪訝そうな顔でネグロを――具体的にはネグロの背後を見据えていた。ずっとそうしていたのかどうかまではわからなかったが、ネグロはその視線が気になって思わず自分の背後を確認する。
無機質な格納庫と、そこに鎮座するグレムリンだけが視界に入る。他にはなにもない。
その、一連の流れにあまりにも既視感がある。そう思った時にはもう言葉が先に口から出ていた。
「……お前、見えるのか?」
先日のブリッジでのルインに投げかけた言葉。ルインはこの問いに首を縦に振っていた。この船にいる幽霊が見えている――そして、それはカイト・タックムーアの妹である、と。
「……?」
しかし、レイルの怪訝な表情を見てネグロはまたしても、彼に対して失言してしまったと顔をしかめる。死に近付けば、幽霊を感じられるといったルインの言葉と、一度死に限りなく近付いていたレイル。このふたつが符号する可能性を考えていたが、どうやら思い違いだったらしい。
そもそも、妹の事はルインとネグロしか知らなかったというのに。そんな事すら気にかける事も出来ない程度に、今の自分は必死なのが情けない。
「なんでもねえ」
情けなさごと吐き捨てるように告げると、レイルが何か言いたげな顔をしてきた。が、口に出さないのなら聞くつもりはないと言わんばかりに背中を向ける。
「……邪魔したな」
「ぁ、ネグロ、さん」
「~~~~ッ、なんだ」
格納庫を後にしようとしたところで呼び止められ、ネグロは苛立ちも隠さずにレイルに向き直った。
「今度の戦い、気をつけて」
「チッ、……お前もな」
ふん、と鼻をひとつならして踵を返すとそのまま格納のをあとにした。
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
赤渦での作戦を間近に控え、幽霊船はにわかに慌ただしくなっていく。
乗組員に加えて付近の整備士も呼び、幽霊船から出る三機のグレムリンを万全の状態にするべく整備やパーツの換装を進めていた。
しかし、ネグロが格納庫に向かったのはそういった慌ただしい時間を終えて大分経ってからだった。
体調を気にされるのを嫌った――という訳ではなく、大掛かりな作戦となるだろう次の戦いにおける戦局の確認に、多くの時間を使ったからだ。
大規模な戦闘は巨大未識別機を相手にした時以来ではあったものの、今回は味方となるグレムリンも多い。そこまで不利な戦局とは言わないだろうが、もしもの時の連携を考えれば確認に時間を割くのは仕方の無い事だった。
「……」
重たい扉に手をかけて開く。
ギギ、と扉が錆びた音を鳴らす音だけが大きく響く格納庫は、少し前まで喧騒に包まれていたとは思えない程に静まり返っている。
ルインが腕利きの整備士を呼びつけたという話は聞いてはいたし、ネグロ自身もそれに疑いを持っているわけではない。
ただ、自分の目でも確認しておきたかっただけなのだ。
膝をつくような形で格納庫にいるグレムリンを一度見上げて確認してから、そのフレームに手を伸ばす。
撫でるようにそれに触れながら、ゆっくりと息を吐き出すともう一度グレムリンを見上げた。
ジャンク財団との戦いはすぐには終わらないだろう。次の戦いに勝てたとして、またその次が現れるだけで、解決にはならない。
長期戦、と言えば聞こえはよくなるが要はお互い我慢比べをするのだ。
どちらかが倒れるまで、戦争は続く。
踏みつけにされる者達の事なんてだれも考えていない。剣を納めればチャンスとばかりに貪り尽くされる。
だからこそ、戦いを続けなければならない。剣を抜き、振り上げ、抵抗の意志を見せ続けなければならない。黙ってしまえば、それはもういない事にも等しくなってしまう。
ネグロは無意識にきつく歯を食い縛っていた。
「……ネグロさん?」
「っ、急に話しかけるな」
背後から突如聞こえる呼び声にネグロの肩がぴくりと跳ねた。声の主がレイルであるのを確認にすれば、悪態をつきながら視線を向ける。操縦棺からのそりと見せるその顔は、いつも通りのぼんやりした表情だったが、疲れているのか何処と無く陰りが見えた。
ここ最近は、精力的に船の中で活動しているのをネグロも知っている。今日もブリッジと格納庫を行ったり来たりしていたのを見聞きしていた。疲れた顔をしているのも、仕方のない事なのだろう。
「お疲れ様、ネグロさん」
「お前も、人の事言えない顔してるがな」
「……、そう、かな?」
そうだというのにレイルという男は自分よりも他者の事ばかり気に掛ける。ネグロが皮肉交じりに返した言葉を聞いてもきょとん、とした表情で聞き返してくるレイルに、ネグロは眉根を寄せた。
一言、知らんと切り返してグレムリンに向き直る。
こうして大きな戦いを前にレイルと話をしていると、巨大未識別機との戦いを思い出す。巨大未識別機を相手にする前――この船にいる事に耐えきれず飛び出した時が、随分前にも思える。
あの時レイルから貰った通信が自分の中のひとつの転換点だったのは、もう認めるほか無いのだろう。あの時も、勝手に飛び出した自分に恨み言ひとつも言わずにただ一言心配していると告げて来た。
あの言葉は、ネグロが己を見直す切っ掛けを確かに与えた。
「……チッ」
余計な事を思い出してしまった、と舌打ちをひとつしてからすぐにグレムリンの状態を一通り確認する。確認はすぐに終わる程、グレムリンの状態はしっかりと仕上がっていた。確認する事もなかったのかもしれないが、気になってしまったのだからしょうがない。これで安心して休む事が出来ると内心で安堵の息を吐いた。
あれからレイルも話しかけてこない所をみると、眠りについたのだろうか。ちらり、とそちらに視線を向けた。
「……レイル?」
眠ったかと思っていた姿は、怪訝そうな顔でネグロを――具体的にはネグロの背後を見据えていた。ずっとそうしていたのかどうかまではわからなかったが、ネグロはその視線が気になって思わず自分の背後を確認する。
無機質な格納庫と、そこに鎮座するグレムリンだけが視界に入る。他にはなにもない。
その、一連の流れにあまりにも既視感がある。そう思った時にはもう言葉が先に口から出ていた。
「……お前、見えるのか?」
先日のブリッジでのルインに投げかけた言葉。ルインはこの問いに首を縦に振っていた。この船にいる幽霊が見えている――そして、それはカイト・タックムーアの妹である、と。
「……?」
しかし、レイルの怪訝な表情を見てネグロはまたしても、彼に対して失言してしまったと顔をしかめる。死に近付けば、幽霊を感じられるといったルインの言葉と、一度死に限りなく近付いていたレイル。このふたつが符号する可能性を考えていたが、どうやら思い違いだったらしい。
そもそも、妹の事はルインとネグロしか知らなかったというのに。そんな事すら気にかける事も出来ない程度に、今の自分は必死なのが情けない。
「なんでもねえ」
情けなさごと吐き捨てるように告げると、レイルが何か言いたげな顔をしてきた。が、口に出さないのなら聞くつもりはないと言わんばかりに背中を向ける。
「……邪魔したな」
「ぁ、ネグロ、さん」
「~~~~ッ、なんだ」
格納庫を後にしようとしたところで呼び止められ、ネグロは苛立ちも隠さずにレイルに向き直った。
「今度の戦い、気をつけて」
「チッ、……お前もな」
ふん、と鼻をひとつならして踵を返すとそのまま格納のをあとにした。
◆14回更新の日記ログ
祝福された未来など、ありはしないというのに――
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
『お兄ちゃん』
ネグロはまた、夢を見ていた。
暗闇を揺蕩うように横たわることしか出来ない自分と、呼び掛ける妹の声。
見るたびにその声ははっきりと聞こえて、今ではまるで目の前のいるかのような感覚になる。
おぼろけだった姿も、少しだけ輪郭がはっきりしてきた気がする。この先何度もこの夢をみれば――そんな事を考えてしまう。
しかし、そもそもネグロの中にこれは夢であるという認識がはっきりあるという事は、これが"見せられている夢である"という事だ。
(何の目的で、こんな)
夢――意識下に干渉された事は少なからずある。強い思念のせいだったり、世界の意思だったり、グレイヴネットからだったり……この世界には個の意識下に干渉出来るものが少なくはない。
ただ、妹の姿を何度も見せてくるような事の理由はなにも思い付かない。
『お兄ちゃん、あのね』
明確に話しかけてくる声。おぼろげな輪郭ではあるが、動くのがわかった。細い腕が自らの頬に伸ばされるのを感じたネグロは、同じ様に手を伸ばそうとして自らの身体は動かない事を思い出して舌打ちをした。
(……? いや、まて)
右腕に力をこめる。ほんの僅か、その力が指先まで届くのを感じる。
(動く、のか?)
持ち上げようとしてみると、その腕が小刻みに震えながらゆっくりと持ち上がる。
両腕を新生体に付け替えたばかりの頃のリハビリの日々を思い出した。
「……ヒナ、」
掠れた声が漏れる。
頬に伸ばされていた妹の手が、震えるネグロの右腕をぎゅ、と握り締めた……ように見える。
感触がある訳ではない。妹の姿だっておぼろげなままで、自らの手に何かが絡み付いているようにしか見えない。
それでも、その手は自分を握り締めているという確信だけがあった。
夢の中でくらい、そうであって欲しいというわがままなのかもしれないけれど。
――ピリリリ
通信端末の通知音で、夢の中から無理矢理目覚めさせられたネグロは反射的に舌打ちをしつつ、右腕を伸ばして端末を掴もうとする。
「っ、……」
ぴり、と腕に痺れが走り端末を掴み損ねてしまった事にもう一度舌打ちをしてから、あらためて端末を手に取った。
『私だ。……ブリッジに来て貰えるか。少し話がある』
「わかった。すぐに向かう」
端末を切るとネグロは右手を握り締め、問題ない事を確認してから部屋をあとにした。
* * *
ネグロがブリッジに向かうと、ルインがモニターを見ながら何かを話している姿がある。
ただ、何を話しているかまでは聞こえず、そもそも誰かと通信をしているようにも見えず、ネグロは眉を潜めながら近付いていく。
近付けば、何かの状況を確認しているようにも聞こえる。
「……そうか、あまりよくない――」
背後の気配に気付いたルインが、言いかけていた言葉を止めてネグロへと向き直った。
「早かったな」
「……誰と話してんだ? 」
ネグロの言葉に平然としていたルインの眉がぴくりと動いた。どうやら、聞かれていたとは思ってなかったという様子だ。
ルインはちらりとモニターの方を一瞥してから、あらためてネグロを見る。
「"お客様"、とでも言っておこうか?」
「……まあいい、話しはなんだ」
肩をすくめるルインの言葉にネグロはあからさまに苛立ちを覚えつつも、それ以上の追求を止め、自分を呼び出した理由を確認しようとした。
ルインの手がコンソールを滑ると、モニターにはグレイヴネットでも見たジャンク財団の映像が流れる。
協力なグレムリンを携え、世界に宣戦布告をしてきた存在。このあと赤渦でそのうちの一角と戦うことになる。
「頻繁に襲ってくる雑兵とは訳が違うだろう……というのは今さら私が言うまでもないな」
再びルインの手がコンソールを叩く。画面は切り替わり、別のテイマーの姿を写し出した。
「付近のテイマーに協力をもちかけた。広く展開してるのであまり期待はしてなかったのだが」
上手くいけば幽霊船以外のテイマーと協力してジャンク財団のグレムリンと対峙出来るだろう、というルインの話を聞きながらも、ネグロは納得がいかないような態度で相づちだけをうっている。
「……それはわかった。が、わざわざ俺を呼び出したのはそれだけか?」
ある程度話がまとまったところで、ネグロはじろりとルインを睨み付けた。
確かにこのあとの戦いについての確認は大切だろう。
レイルやツィールは決して弱いテイマーではない。しかし、多くの実戦経験のあるネグロが最も戦場を理解するのに適任である事も事実だ。
だが、それはネグロ1人を呼び出す理由にはならない。
……少なくとも、ネグロの中では。
ルインはすぐには答えない。どう話すべきか思案するような様子を見たのははじめてだった。
ネグロはルインの返答を待ちながら、ブリッジ内をぐるりと見る。一番近くにある電源の切れたモニターには、相変わらず陰鬱とした顔の男が写る。
「……?」
その後ろに何かが通ったように見えて、ネグロは思わず後ろを振り返った。
そこには、なにもいない。
ネグロの様子に気が付いたルインが、眼鏡を指で押し上げながら、ゆっくりと口を開いた。
「私から言うつもりは、なかったのだが……この船が何故幽霊船と名乗るか、わかるか?」
「……船の墓場だからだろう?」
ルインの唐突な問いかけに、ネグロは訝りながらも答えを返す。
機能を失った船の寄せ集め。船の亡霊、ネグロが幽霊船に抱いていたのはそういう印象だった。
「なるほど、その側面もあるだろうが……言葉の通りでもある。この船は、幽霊を乗せる船だ」
「……何が言いたい?」
ネグロの胸の中にまさか、という言葉が浮かび上がると同時に、右腕が再びわずかに痛む。
動揺にも近いそれを、ルインが見逃す筈もなかった。
「……身に覚えがないか?」
「……」
そう、いつものネグロならば幽霊の話など、そんなものは荒唐無稽な話で聞く耳を持つ事はない。
だからこそルインもわざわざネグロにその話をするつもりは無かった。
けれども今のネグロはそれを否定しない。
話を続けるにはそれで十分だった。
「"お客様"が、いると言っただろう?」
「……」
「今もここに、"お客様"はいる。お前の事を、この船に来た時からずっと見ている」
ネグロは何も言えなくなっていた。己の心臓が一際大きく脈打つ音がやけに耳に響いてくる。
あの夢は、夢ではないというのだろうか。手を伸ばせば、届くのだろうか。
「……いるのか」
「お前の名前も、随分はやくに教えてくれたよ。カイトお兄ちゃん、とな」
「……ヒナ、」
いつだかルインは、ネグロの本当の名前――カイト・タックムーア――を調べたと言っていた。
あの話は半分は嘘だったのだ。
カイトという名前を先に知って、それに紐付けた彼の情報を調べたに過ぎない。
ネグロの視線が、無意識に何も写さないモニターをもう一度見る。
そこには写りこむ自分の背後に"何か"がいる。
当然、振り返ってもネグロには見えない。
「……、見えるのか、お前には」
ネグロは暫し、誰もいない背後を見つめてから視線をルインに向けて尋ねる。その真剣な声色には、最早、幽霊という存在を認めたというに相応しいものだった。
ルインはネグロの背後を一瞥すると頷いて見せる。
「代理とはいえ、幽霊船を任されるからには、そういう素養も考えられていたということだ」
ルインはもっともらしい事を言ってくるが、それが事実かどうかはわからないし、もうどうでもいい事だった。
ネグロは震える手で頭を掻きむしった。
「……気を付けるんだな。どういう形であれ感知が出来たということは、それだけお前が死に近いという証左でもある」
「……」
ネグロはルインの言葉もそこそこに、無言で背を向けるとブリッジを後にした。
自室までの通路を歩きながら、ぐるぐると思考がまわる。
未識別機体には死んだ傭兵の亡霊がいたという話があった。結局、その正体は世界の不具合によって出来た死者のバグのような存在だった。
同じ言葉を何度も繰り返すだけの、とても自我のあるようには見えないなれの果て、それが亡霊の正体だ。
「……」
自室に身体を滑り込ませて、ベッドに身体を投げ出すように転がる。
何もない天井を見ながら、思考は未だ渦を巻く。
少なくとも、夢で見た妹の姿は自我の無い、生前の行動を繰り返すだけの姿には見えなかった。
ただ、ではその幽霊が本物なのかどうかは確かめる術はない。
レイルのように、思念の声でも聞こえるならば言葉くらいは聞こえたのかもしれないが、ネグロにはそんな力はない。全てが仮定の話だ。
ただ、もしも今もここにいるのならこんな姿は見せたくなかった。
ごめんな、と口の中で呟いてそのまま思考を切るように目を閉じた。
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
『お兄ちゃん』
ネグロはまた、夢を見ていた。
暗闇を揺蕩うように横たわることしか出来ない自分と、呼び掛ける妹の声。
見るたびにその声ははっきりと聞こえて、今ではまるで目の前のいるかのような感覚になる。
おぼろけだった姿も、少しだけ輪郭がはっきりしてきた気がする。この先何度もこの夢をみれば――そんな事を考えてしまう。
しかし、そもそもネグロの中にこれは夢であるという認識がはっきりあるという事は、これが"見せられている夢である"という事だ。
(何の目的で、こんな)
夢――意識下に干渉された事は少なからずある。強い思念のせいだったり、世界の意思だったり、グレイヴネットからだったり……この世界には個の意識下に干渉出来るものが少なくはない。
ただ、妹の姿を何度も見せてくるような事の理由はなにも思い付かない。
『お兄ちゃん、あのね』
明確に話しかけてくる声。おぼろげな輪郭ではあるが、動くのがわかった。細い腕が自らの頬に伸ばされるのを感じたネグロは、同じ様に手を伸ばそうとして自らの身体は動かない事を思い出して舌打ちをした。
(……? いや、まて)
右腕に力をこめる。ほんの僅か、その力が指先まで届くのを感じる。
(動く、のか?)
持ち上げようとしてみると、その腕が小刻みに震えながらゆっくりと持ち上がる。
両腕を新生体に付け替えたばかりの頃のリハビリの日々を思い出した。
「……ヒナ、」
掠れた声が漏れる。
頬に伸ばされていた妹の手が、震えるネグロの右腕をぎゅ、と握り締めた……ように見える。
感触がある訳ではない。妹の姿だっておぼろげなままで、自らの手に何かが絡み付いているようにしか見えない。
それでも、その手は自分を握り締めているという確信だけがあった。
夢の中でくらい、そうであって欲しいというわがままなのかもしれないけれど。
――ピリリリ
通信端末の通知音で、夢の中から無理矢理目覚めさせられたネグロは反射的に舌打ちをしつつ、右腕を伸ばして端末を掴もうとする。
「っ、……」
ぴり、と腕に痺れが走り端末を掴み損ねてしまった事にもう一度舌打ちをしてから、あらためて端末を手に取った。
『私だ。……ブリッジに来て貰えるか。少し話がある』
「わかった。すぐに向かう」
端末を切るとネグロは右手を握り締め、問題ない事を確認してから部屋をあとにした。
* * *
ネグロがブリッジに向かうと、ルインがモニターを見ながら何かを話している姿がある。
ただ、何を話しているかまでは聞こえず、そもそも誰かと通信をしているようにも見えず、ネグロは眉を潜めながら近付いていく。
近付けば、何かの状況を確認しているようにも聞こえる。
「……そうか、あまりよくない――」
背後の気配に気付いたルインが、言いかけていた言葉を止めてネグロへと向き直った。
「早かったな」
「……誰と話してんだ? 」
ネグロの言葉に平然としていたルインの眉がぴくりと動いた。どうやら、聞かれていたとは思ってなかったという様子だ。
ルインはちらりとモニターの方を一瞥してから、あらためてネグロを見る。
「"お客様"、とでも言っておこうか?」
「……まあいい、話しはなんだ」
肩をすくめるルインの言葉にネグロはあからさまに苛立ちを覚えつつも、それ以上の追求を止め、自分を呼び出した理由を確認しようとした。
ルインの手がコンソールを滑ると、モニターにはグレイヴネットでも見たジャンク財団の映像が流れる。
協力なグレムリンを携え、世界に宣戦布告をしてきた存在。このあと赤渦でそのうちの一角と戦うことになる。
「頻繁に襲ってくる雑兵とは訳が違うだろう……というのは今さら私が言うまでもないな」
再びルインの手がコンソールを叩く。画面は切り替わり、別のテイマーの姿を写し出した。
「付近のテイマーに協力をもちかけた。広く展開してるのであまり期待はしてなかったのだが」
上手くいけば幽霊船以外のテイマーと協力してジャンク財団のグレムリンと対峙出来るだろう、というルインの話を聞きながらも、ネグロは納得がいかないような態度で相づちだけをうっている。
「……それはわかった。が、わざわざ俺を呼び出したのはそれだけか?」
ある程度話がまとまったところで、ネグロはじろりとルインを睨み付けた。
確かにこのあとの戦いについての確認は大切だろう。
レイルやツィールは決して弱いテイマーではない。しかし、多くの実戦経験のあるネグロが最も戦場を理解するのに適任である事も事実だ。
だが、それはネグロ1人を呼び出す理由にはならない。
……少なくとも、ネグロの中では。
ルインはすぐには答えない。どう話すべきか思案するような様子を見たのははじめてだった。
ネグロはルインの返答を待ちながら、ブリッジ内をぐるりと見る。一番近くにある電源の切れたモニターには、相変わらず陰鬱とした顔の男が写る。
「……?」
その後ろに何かが通ったように見えて、ネグロは思わず後ろを振り返った。
そこには、なにもいない。
ネグロの様子に気が付いたルインが、眼鏡を指で押し上げながら、ゆっくりと口を開いた。
「私から言うつもりは、なかったのだが……この船が何故幽霊船と名乗るか、わかるか?」
「……船の墓場だからだろう?」
ルインの唐突な問いかけに、ネグロは訝りながらも答えを返す。
機能を失った船の寄せ集め。船の亡霊、ネグロが幽霊船に抱いていたのはそういう印象だった。
「なるほど、その側面もあるだろうが……言葉の通りでもある。この船は、幽霊を乗せる船だ」
「……何が言いたい?」
ネグロの胸の中にまさか、という言葉が浮かび上がると同時に、右腕が再びわずかに痛む。
動揺にも近いそれを、ルインが見逃す筈もなかった。
「……身に覚えがないか?」
「……」
そう、いつものネグロならば幽霊の話など、そんなものは荒唐無稽な話で聞く耳を持つ事はない。
だからこそルインもわざわざネグロにその話をするつもりは無かった。
けれども今のネグロはそれを否定しない。
話を続けるにはそれで十分だった。
「"お客様"が、いると言っただろう?」
「……」
「今もここに、"お客様"はいる。お前の事を、この船に来た時からずっと見ている」
ネグロは何も言えなくなっていた。己の心臓が一際大きく脈打つ音がやけに耳に響いてくる。
あの夢は、夢ではないというのだろうか。手を伸ばせば、届くのだろうか。
「……いるのか」
「お前の名前も、随分はやくに教えてくれたよ。カイトお兄ちゃん、とな」
「……ヒナ、」
いつだかルインは、ネグロの本当の名前――カイト・タックムーア――を調べたと言っていた。
あの話は半分は嘘だったのだ。
カイトという名前を先に知って、それに紐付けた彼の情報を調べたに過ぎない。
ネグロの視線が、無意識に何も写さないモニターをもう一度見る。
そこには写りこむ自分の背後に"何か"がいる。
当然、振り返ってもネグロには見えない。
「……、見えるのか、お前には」
ネグロは暫し、誰もいない背後を見つめてから視線をルインに向けて尋ねる。その真剣な声色には、最早、幽霊という存在を認めたというに相応しいものだった。
ルインはネグロの背後を一瞥すると頷いて見せる。
「代理とはいえ、幽霊船を任されるからには、そういう素養も考えられていたということだ」
ルインはもっともらしい事を言ってくるが、それが事実かどうかはわからないし、もうどうでもいい事だった。
ネグロは震える手で頭を掻きむしった。
「……気を付けるんだな。どういう形であれ感知が出来たということは、それだけお前が死に近いという証左でもある」
「……」
ネグロはルインの言葉もそこそこに、無言で背を向けるとブリッジを後にした。
自室までの通路を歩きながら、ぐるぐると思考がまわる。
未識別機体には死んだ傭兵の亡霊がいたという話があった。結局、その正体は世界の不具合によって出来た死者のバグのような存在だった。
同じ言葉を何度も繰り返すだけの、とても自我のあるようには見えないなれの果て、それが亡霊の正体だ。
「……」
自室に身体を滑り込ませて、ベッドに身体を投げ出すように転がる。
何もない天井を見ながら、思考は未だ渦を巻く。
少なくとも、夢で見た妹の姿は自我の無い、生前の行動を繰り返すだけの姿には見えなかった。
ただ、ではその幽霊が本物なのかどうかは確かめる術はない。
レイルのように、思念の声でも聞こえるならば言葉くらいは聞こえたのかもしれないが、ネグロにはそんな力はない。全てが仮定の話だ。
ただ、もしも今もここにいるのならこんな姿は見せたくなかった。
ごめんな、と口の中で呟いてそのまま思考を切るように目を閉じた。
◆13回更新の日記ログ
祝福された未来の為に己を犠牲にするのは――駄目な事なのだろうか。
* * *
「……」
継ぎ接ぎ幽霊船は、赤渦に進路を取り赤靄の海を進んでいる。
「……」
モニターで海路や情報を確認していたルインは手を止めて、無意識に息を吐いた。
ジャンク財団の基地の襲撃を目的とする事が本当に正しいのかはわからない。
ただ、この世界の流れに逆らう術は個人が持ち得るものでは無いだろう事は理解していた。
エイゼルからの襲撃騒動も収まり、少しずつ船の中は落ち着きを取り戻し始めていた。
ただ、それは浮き彫りになった問題が解決した訳ではない。
特に気になるのはスリーピング・レイルの事だ。
ネグロとエイゼルの証言による、絶命からの蘇生。ネグロからはレイルの首筋にある索条痕の話も聞いた。
記憶喪失の原因がそこにあるのか、そもそも記憶を操作されたのか。
スリーピング・レイル、という言葉が示すのは昔にそういったプロジェクトがあったという事だけでそれ以外の情報は、未だ出てこない。
「……全く」
エイゼルの処遇についても、特にネグロはいい顔をしていない。一度、ブリッジにまで詰め寄られたのは記憶に新しい。
『監視するならしっかりやってくれよ、艦長さんよ』
吐き捨てるような言葉を思い出すと、何度目かわからない溜め息が出る。
船は進路を正しく進む。けれども、その船の中が本当の落ち着きを取り戻すのはまだ少し先の話だ。
* * *
ネグロは自室のベッドの上で微睡んでいた。眠気と気怠さ邪魔されて、身体がまともに動かない。ぼんやりと部屋にある時計で時間を確認して、いつも格納庫に向かう時間が過ぎている事に気が付いた。
「……」
のっそりと身体を起こして、ベッドから立ち上がると工具箱を手にして部屋を出ていこうとしたその瞬間――
「っ、あ、ネグロ、さん」
「……エリエス?」
ネグロが開けるよりもはやくドアが開くと、そこにはエリエスの姿があった。格納庫に来なかった事を心配されたようだ。
「ごめんね。もしかしたら、体調悪いんじゃないかと思って」
「……少しな」
ぼさぼさの頭を乱雑に掻きながらネグロは小さく息を吐いた。手にしていた工具箱を置いて、ベッドの方に戻り腰かけるとそれをぽかん、と見ていたエリエスを手招きした。
「話がある」
「……私に?」
驚いた顔で確認するエリエスに頷いて見せると、はやく、と急かすように声をかける。
その声にエリエスはごめんなさい、と謝りながらネグロの部屋に身体を滑り込ませた。
薄暗く殺風景な部屋は、人の部屋というよりは倉庫に近い。
エリエスは物珍しそうに室内を見渡した。
「椅子、座っていいぞ」
部屋にひとつある事務椅子のようなものを指し示してみせる。
エリエスは小さく頭を下げてからその椅子に腰を掛けてネグロと向かい合った。
「ありがとう、……それで、話って」
「……最近、大丈夫か」
エリエスはそのネグロの言葉に、再び目を丸くしてなんども瞬かせた。心配されるだなんて少しも考えていなかったのだろう事はすぐに見てわかった。
「べつに、大丈夫だよ。ネグロさんよりは、元気だし」
エリエスは冗談めかしながら、笑みを浮かべてみせる。
人の心の機微に鈍い自覚のあるネグロですら、それが強がりであることは見てとれた。
大方、心配させたくないと言ったところなのだろう等と考えつつ、ネグロはエリエスをじろりと見つめると口の中で舌打ちをした。
「はぐらかすなよ」
強がりを求めている訳ではない。
ネグロがあの、幽霊船の騒動の時に触れたボリスの枯れ枝のような腕や、あまりにも軽すぎる肉体の感触。
ボリスの世話をしていたエリエスも、それはよく知っていた筈だ。日々弱りつつある姿に、覚悟はある程度あったのだろう。
だが、覚悟ひとつで耐えられる程軽いものではない筈なのだ。
エリエスはボリスに拾われた事で少なからず救われている。その後の生活も含めて、本来であれば整備なんて出来る心境ではないだろう。
ネグロの言葉を聞いた途端に、エリエスの顔から笑顔が消えてわずかに俯いた。
「……元気は、あるよ。大丈夫なのも、本当……覚悟がなかった訳じゃ、ないから」
ぽつり、とエリエスの口から言葉がこぼれていくのをネグロは黙って見つめている。
「……でも、やっぱりまだまだ、寂しいよ」
「……ボリスは、お前の事心配してたんだよ」
「えっ」
驚いた声をあげたエリエスが顔をあげてネグロを見る。
ボリスとそこまで関係があるとは思われてなかったのだろう。
「最初にお前達の事を頼まれた後も、個人的にボリスとは会ってた。最初は、同情とか馴れ合いみたいなモンだった」
ボリスに対しては七月戦役を知る人間がいた事や、真紅連理にたという話から、少なからず仲間意識を持っていた。
お互いの過去の話を何度かしたり、他愛のない話をしたり……その中でボリスは何度か自らが亡くなった後のエリエスの事を心配していた。
「その時に、ボリスと私の事も話してたの?」
「時々な」
ぽつりと答えるネグロを見て、エリエスは知らないところで自分の話がされていた事になんともいえないむず痒さみたいのを感じて、頬を軽く掻いた。
「失う辛さは知ってるつもりだ。だから、俺個人としても多少気にはしていた」
「ネグロさん……」
ネグロはエリエスの声がわずかに上擦るのを感じながら、ほんの少し眉根を寄せた。
彼女のせいでは無い。
都合よく仲間面する自分が気に食わないのだ。あれほど、捨てて欲しいと思っていた癖に。
苛立ちを抑えこむように深呼吸をしてから、再び口を開く。
「……無理はするな、整備ならこの後俺がやるから」
「うん、ありがとう……優しいんだね。ネグロさん」
「……気のせいだ」
「そんなことないよ。私、今日ネグロさんを迎えにいったら余計なお世話!って怒られるかと心配だったんだ」
ネグロは片眉を吊り上げてエリエスを見ると、彼女は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべている。
ただ、それになにか文句を言う気はとくになくてわざとらしくため息を吐くとエリエスの方から小さくごめんね、と聞こえてきた。
「でも、大丈夫。じっとしてる方が落ち込んじゃうし」
少し強がりにも見える笑みを浮かべてエリエスは立ち上がり、ぐ、と伸びをする。
それが、涙を飲み込む仕草に見えてネグロは先ほどのごめんという言葉に幾つかの意味があった事に気付いた。
まだ辛くてもそれでもふたつの足で立ち上がる少女をネグロは見上げる。
「……ネグロさん、あのさ」
「なんだ」
「失う辛さは知ってるって言ったよね」
「……ああ」
エリエスが何故改まってそんな事を確認してくるのかネグロにはわからなかった。
訝しげに彼女の姿を見上げながら、首をかしげる。
エリエスは目を細めて、ほんの少し遠くを、もうここにはいない人を見る。
「……私はね、この船の人にはもう、誰もいなくなって欲しくないから」
「……」
「ネグロさんなら、わかってくれるよね」
エリエスは視線をネグロに戻しながらそう尋ねるが、ネグロはその言葉に何も返すことは出来なかった。
真っ直ぐ向けられた視線が耐えられず、わずかに視線を反らす。
それを見たエリエスはわずかに苦笑してから「私、行くね」と声をかけてそのまま部屋をあとにした。
「……」
ネグロは去っていく姿を見送りも出来ずに黙って床を見続けている。ずっと見たところで、何もかわらず、何もわかることはない。
エリエスの言う、“もう誰も失ないたくない”という気持ちはよくわかる。けれども、その中に自分がいるなんてことは考えたこともなかった。
――かつて、100の悪鬼が世界と戦い滅ぼした。
不意に、ジャンク財団の言葉が頭を駆け巡る。その悪鬼の恐ろしさはよく知っていたからこそ、その悪鬼を相手にそう言いきる事に恐ろしいものを感じた。
戦いがこれ以上激化する事が予測される。ならば、本来ならミアやエリエスのような若者は戦地より離れた工廠で降りるべきだとすら思う。
「……」
手のひらを何度か握って開いてを繰り返す。寝ぼけた頭はもうすっかり覚めていた。
一旦置いた工具箱を手を取り、立ち上がると小さく息を吐いた。
いつの時代も誰かが戦火を運んでくる。戦いに呑まれた人間は戦い続ける事しか出来なくなる。
本当は、静かに暮らせたらそれでよかったなんて事は思い出さなくてもよかったのに。
「……」
小さく苦笑する。
確かに、大人しくしている方がろくな事を考えてしまうな、と。
工具箱を持ち直して、部屋を後にする。廊下に足音がひとつ響いて、静かに部屋のドアが閉まった。
* * *
「……」
継ぎ接ぎ幽霊船は、赤渦に進路を取り赤靄の海を進んでいる。
「……」
モニターで海路や情報を確認していたルインは手を止めて、無意識に息を吐いた。
ジャンク財団の基地の襲撃を目的とする事が本当に正しいのかはわからない。
ただ、この世界の流れに逆らう術は個人が持ち得るものでは無いだろう事は理解していた。
エイゼルからの襲撃騒動も収まり、少しずつ船の中は落ち着きを取り戻し始めていた。
ただ、それは浮き彫りになった問題が解決した訳ではない。
特に気になるのはスリーピング・レイルの事だ。
ネグロとエイゼルの証言による、絶命からの蘇生。ネグロからはレイルの首筋にある索条痕の話も聞いた。
記憶喪失の原因がそこにあるのか、そもそも記憶を操作されたのか。
スリーピング・レイル、という言葉が示すのは昔にそういったプロジェクトがあったという事だけでそれ以外の情報は、未だ出てこない。
「……全く」
エイゼルの処遇についても、特にネグロはいい顔をしていない。一度、ブリッジにまで詰め寄られたのは記憶に新しい。
『監視するならしっかりやってくれよ、艦長さんよ』
吐き捨てるような言葉を思い出すと、何度目かわからない溜め息が出る。
船は進路を正しく進む。けれども、その船の中が本当の落ち着きを取り戻すのはまだ少し先の話だ。
* * *
ネグロは自室のベッドの上で微睡んでいた。眠気と気怠さ邪魔されて、身体がまともに動かない。ぼんやりと部屋にある時計で時間を確認して、いつも格納庫に向かう時間が過ぎている事に気が付いた。
「……」
のっそりと身体を起こして、ベッドから立ち上がると工具箱を手にして部屋を出ていこうとしたその瞬間――
「っ、あ、ネグロ、さん」
「……エリエス?」
ネグロが開けるよりもはやくドアが開くと、そこにはエリエスの姿があった。格納庫に来なかった事を心配されたようだ。
「ごめんね。もしかしたら、体調悪いんじゃないかと思って」
「……少しな」
ぼさぼさの頭を乱雑に掻きながらネグロは小さく息を吐いた。手にしていた工具箱を置いて、ベッドの方に戻り腰かけるとそれをぽかん、と見ていたエリエスを手招きした。
「話がある」
「……私に?」
驚いた顔で確認するエリエスに頷いて見せると、はやく、と急かすように声をかける。
その声にエリエスはごめんなさい、と謝りながらネグロの部屋に身体を滑り込ませた。
薄暗く殺風景な部屋は、人の部屋というよりは倉庫に近い。
エリエスは物珍しそうに室内を見渡した。
「椅子、座っていいぞ」
部屋にひとつある事務椅子のようなものを指し示してみせる。
エリエスは小さく頭を下げてからその椅子に腰を掛けてネグロと向かい合った。
「ありがとう、……それで、話って」
「……最近、大丈夫か」
エリエスはそのネグロの言葉に、再び目を丸くしてなんども瞬かせた。心配されるだなんて少しも考えていなかったのだろう事はすぐに見てわかった。
「べつに、大丈夫だよ。ネグロさんよりは、元気だし」
エリエスは冗談めかしながら、笑みを浮かべてみせる。
人の心の機微に鈍い自覚のあるネグロですら、それが強がりであることは見てとれた。
大方、心配させたくないと言ったところなのだろう等と考えつつ、ネグロはエリエスをじろりと見つめると口の中で舌打ちをした。
「はぐらかすなよ」
強がりを求めている訳ではない。
ネグロがあの、幽霊船の騒動の時に触れたボリスの枯れ枝のような腕や、あまりにも軽すぎる肉体の感触。
ボリスの世話をしていたエリエスも、それはよく知っていた筈だ。日々弱りつつある姿に、覚悟はある程度あったのだろう。
だが、覚悟ひとつで耐えられる程軽いものではない筈なのだ。
エリエスはボリスに拾われた事で少なからず救われている。その後の生活も含めて、本来であれば整備なんて出来る心境ではないだろう。
ネグロの言葉を聞いた途端に、エリエスの顔から笑顔が消えてわずかに俯いた。
「……元気は、あるよ。大丈夫なのも、本当……覚悟がなかった訳じゃ、ないから」
ぽつり、とエリエスの口から言葉がこぼれていくのをネグロは黙って見つめている。
「……でも、やっぱりまだまだ、寂しいよ」
「……ボリスは、お前の事心配してたんだよ」
「えっ」
驚いた声をあげたエリエスが顔をあげてネグロを見る。
ボリスとそこまで関係があるとは思われてなかったのだろう。
「最初にお前達の事を頼まれた後も、個人的にボリスとは会ってた。最初は、同情とか馴れ合いみたいなモンだった」
ボリスに対しては七月戦役を知る人間がいた事や、真紅連理にたという話から、少なからず仲間意識を持っていた。
お互いの過去の話を何度かしたり、他愛のない話をしたり……その中でボリスは何度か自らが亡くなった後のエリエスの事を心配していた。
「その時に、ボリスと私の事も話してたの?」
「時々な」
ぽつりと答えるネグロを見て、エリエスは知らないところで自分の話がされていた事になんともいえないむず痒さみたいのを感じて、頬を軽く掻いた。
「失う辛さは知ってるつもりだ。だから、俺個人としても多少気にはしていた」
「ネグロさん……」
ネグロはエリエスの声がわずかに上擦るのを感じながら、ほんの少し眉根を寄せた。
彼女のせいでは無い。
都合よく仲間面する自分が気に食わないのだ。あれほど、捨てて欲しいと思っていた癖に。
苛立ちを抑えこむように深呼吸をしてから、再び口を開く。
「……無理はするな、整備ならこの後俺がやるから」
「うん、ありがとう……優しいんだね。ネグロさん」
「……気のせいだ」
「そんなことないよ。私、今日ネグロさんを迎えにいったら余計なお世話!って怒られるかと心配だったんだ」
ネグロは片眉を吊り上げてエリエスを見ると、彼女は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべている。
ただ、それになにか文句を言う気はとくになくてわざとらしくため息を吐くとエリエスの方から小さくごめんね、と聞こえてきた。
「でも、大丈夫。じっとしてる方が落ち込んじゃうし」
少し強がりにも見える笑みを浮かべてエリエスは立ち上がり、ぐ、と伸びをする。
それが、涙を飲み込む仕草に見えてネグロは先ほどのごめんという言葉に幾つかの意味があった事に気付いた。
まだ辛くてもそれでもふたつの足で立ち上がる少女をネグロは見上げる。
「……ネグロさん、あのさ」
「なんだ」
「失う辛さは知ってるって言ったよね」
「……ああ」
エリエスが何故改まってそんな事を確認してくるのかネグロにはわからなかった。
訝しげに彼女の姿を見上げながら、首をかしげる。
エリエスは目を細めて、ほんの少し遠くを、もうここにはいない人を見る。
「……私はね、この船の人にはもう、誰もいなくなって欲しくないから」
「……」
「ネグロさんなら、わかってくれるよね」
エリエスは視線をネグロに戻しながらそう尋ねるが、ネグロはその言葉に何も返すことは出来なかった。
真っ直ぐ向けられた視線が耐えられず、わずかに視線を反らす。
それを見たエリエスはわずかに苦笑してから「私、行くね」と声をかけてそのまま部屋をあとにした。
「……」
ネグロは去っていく姿を見送りも出来ずに黙って床を見続けている。ずっと見たところで、何もかわらず、何もわかることはない。
エリエスの言う、“もう誰も失ないたくない”という気持ちはよくわかる。けれども、その中に自分がいるなんてことは考えたこともなかった。
――かつて、100の悪鬼が世界と戦い滅ぼした。
不意に、ジャンク財団の言葉が頭を駆け巡る。その悪鬼の恐ろしさはよく知っていたからこそ、その悪鬼を相手にそう言いきる事に恐ろしいものを感じた。
戦いがこれ以上激化する事が予測される。ならば、本来ならミアやエリエスのような若者は戦地より離れた工廠で降りるべきだとすら思う。
「……」
手のひらを何度か握って開いてを繰り返す。寝ぼけた頭はもうすっかり覚めていた。
一旦置いた工具箱を手を取り、立ち上がると小さく息を吐いた。
いつの時代も誰かが戦火を運んでくる。戦いに呑まれた人間は戦い続ける事しか出来なくなる。
本当は、静かに暮らせたらそれでよかったなんて事は思い出さなくてもよかったのに。
「……」
小さく苦笑する。
確かに、大人しくしている方がろくな事を考えてしまうな、と。
工具箱を持ち直して、部屋を後にする。廊下に足音がひとつ響いて、静かに部屋のドアが閉まった。
◆12回更新の日記ログ
多くのテイマーは思念制御識を利用してグレムリンに思い思いのパーツを組み込んでいる。
この制御識という力は超常の力であり、これを持たなければ戦線で生き残るのは難しくなるだろう力だ。だが、超常の力を使いこなせているというのはそもそもテイマーの思い込みなのかもしれない。
「……」
『ネグロ、聞こえているのか?』
「……、ああ、周囲に敵はいない」
『わかった。すぐ帰艦してくれ』
「了解」
何度かルインに呼ばれていたらしい事に気付けば、平静を取り繕って返事をする。そこに何かを言われる事はなかったが失態だったな、と思いながら通信を切りネグロは深く重い息を吐いた。通信を聞き逃す程、別の事に思考を割くなどという事は今まで殆どなかったというのに。
「チッ」
余計な事を考える余裕が出来たと喜べたら、そもそもこんな風に悩む事も無いのだろう。
ごちゃごちゃとした思考に一度舌打ちをしてから気持ちを切り替える。
モニターで幽霊船の位置を確認して、座標を登録すればグレムリンは即座に自動航行を開始した。
操縦レバーから手を離して、シートに深く座り背もたれによしかかる。
最近、戦闘の激化に伴って重い疲労に襲われる事が増えてきた。今も、その疲労に抗えないままゆっくりと意識が落ちていった。
『……ちゃん、』
(ああ、まただ)
そんな時、ネグロは決まって同じ夢を見る。
『おに……ちゃ、』
呼び掛けてくる声は、遠い昔の記憶に繋がっていく。
ピンク色のバンダナを渡して、にっこりと笑顔を向けてくれた、一番下の妹。
『おにい、ちゃん』
(ヒナ……)
その姿は、おぼろげではっきり見ることは出来ない。最初は、声も不鮮明だったが夢を見るたびに鮮明になっていた。
今では、その声がはっきりと妹である事がわかる。声色から、自分を心配しているような感情も伝わってくる。
(……ごめんな。心配させて)
ただ、その夢でネグロは何かを出来る訳ではない。声が聞こえるだけで自分から発せられる訳でもなければ、身体が動く訳でもない。
夢とはいえど心配させてしまっている、という事実に対するなんともいえない気持ちに苛まれ続けるだけだった。
「……クソッ」
悪態ひとつ吐きながら、夢から覚める。
何故、何度も同じ夢を見るのか。自分の身を案じる妹、というイメージが何処から出てきたのか。
思念が何かを見せようとしている意図は感じるが、それを読み取ることは出来ない。わからない事を考え続けても仕方無い。思考を止めて、モニターへ視線を持つ向けた。
既に機体は目的地付近まで来ている事を確認すれば、手動に切り替え機体を幽霊船の格納庫に納めた。グレムリンの稼働が完全に停止するのを確認してから操縦棺から降りたネグロは、丁度側にいたエリエスと視線が合う。
いつもであれば、すぐに声をかけるなりしてくる筈の彼女が目を丸くして自分を見てくる姿にしかめ面でなんだ、と声をかけた。
「血、大丈夫?」
「血? ……ああ、もう止まってる」
操縦棺から降りたネグロの顔ははバンダナの下から滲んできた血で赤く染まっている。
その様子を恐る恐る指差して告げるエリエスだったが、当のネグロは殆ど気にする事なくバンダナを外して、手で乱雑に額を拭う。乾きかけの血がうっすら伸びた下に見える皮膚には元々のあった傷痕以外に真新しいものは無く、エリエスはますます訝しげな顔をする。
ネグロは眉を寄せて小さく溜め息を吐くと、面倒くさそうに頭を掻いた。
「……よくなるんだ、気にするな」
「気にするな、って……」
「……誰かに言うなよ」
気になるけど、とまだ首をかしげるエリエスにひとつだけ釘をさせばネグロは話も半ばに歩き始めた。
「あ! ネグロさん、ご飯は!」
「……あとでいい」
足早に去る背中に投げ掛けられた言葉には軽く手を振って応えた。
格納庫を出て真っ直ぐに自室へと向かう途中で足がふらついて、通路の壁で身体を支える。帰路についていた頃から、どうにも倦怠感が身体につきまとっていた。やはり、自分が思う以上に身体に疲労が蓄積しているのだろう。わかった所で、改善策は無い。舌打ちをひとつして、歩き直すと自室へと文字通り転がり込んだ。
バンダナをサイドボードに置いたあとは、パイロットスーツも脱がずに固いベッドに身を預けて、目を閉じる。
どうにも身体が言うことを聞かない原因はわかっている。思念制御識だ。
ネグロが使用しているのは、高速、またはそれ以上の速度で戦う為の未来の制御識と、放射光で敵を破壊する為の祝福の制御識だ。とくに、祝福の制御識は身体と精神の限界を越える力を与えるという。ネグロの思念の根幹にあるのは怒りであり、限界を越えるほどの怒りが身体への大きな負担となっている。かといって、今さら制御識を縛るような戦い方を模索している余裕はない。
戦いは苛烈になり、次なる大規模な作戦の話も出て来ている。幽霊船を離れていた巨大未識別の時とは違って、幽霊船全体で作戦への参加をするだろう、という話は既に耳に入っている。そこで、足を引っ張る訳にもいかない。
「……ひでえ顔……いや、前からか」
そのままでは眠ってしまいそうになってしまう。どうにかベッドから起き上がると部屋に置いてある姿見と視線があう。そこにいるのは、乾いた血で汚れたのをほったらかしたままの、疲れきった顔をしている中年男。
このまま、制御識を使い続けたらどうなるのだろうかと考えた事は少なくはない。そしてその思いは、レイルが目の前で生き返ったのを見てから尚更強くなった。
あの日見たレイルの姿、あれは仮死状態から蘇生したなんて話ではない。目の前で、不自然に生命活動を再開していた。
傷跡の制御識は、その使用者が不死身となり致命を負う手前で踏みとどまれると言われている。レイルという人間が特殊である可能性もあるが、それを差し引いても制御識が与える影響の強さを考えてしまう。
人を理を越えて生かす事が可能ならば、その逆もまた可能なのだろう。
そもそも、制御識を使いこなせているのが思い込みなら、使うたびに自らの身を滅ぼし続けている事になる。
「……チッ」
たらり、と額から血が一筋流れてくるのを手で乱雑に拭った。
ネグロにとって、制御識と思念の力は、自身の命の切り売りだと考えている。身体中に傷をつくり、血を流し、それが敵を焼く力に変わる。
「……」
鏡の中の男が自嘲気味に口元をゆるめる。人の死に散々怯えていたのに、自分が死ぬとなれば何も恐ろしい事はない。
仲間も、家族も失なって、一人になって久しい。
それが寂しいという気持ちはとっくの昔に忘れてしまっていた。それなのに、新たな仲間を得てしまった事で寂しいという感情を思い出してしまった。もう、失う事に耐えられるかわからない。だからこそ、次に失うのは自らの命で構わないと、そう思っている。
それが、あまりにも愚かな考えであることもよく知っていた。
この制御識という力は超常の力であり、これを持たなければ戦線で生き残るのは難しくなるだろう力だ。だが、超常の力を使いこなせているというのはそもそもテイマーの思い込みなのかもしれない。
「……」
『ネグロ、聞こえているのか?』
「……、ああ、周囲に敵はいない」
『わかった。すぐ帰艦してくれ』
「了解」
何度かルインに呼ばれていたらしい事に気付けば、平静を取り繕って返事をする。そこに何かを言われる事はなかったが失態だったな、と思いながら通信を切りネグロは深く重い息を吐いた。通信を聞き逃す程、別の事に思考を割くなどという事は今まで殆どなかったというのに。
「チッ」
余計な事を考える余裕が出来たと喜べたら、そもそもこんな風に悩む事も無いのだろう。
ごちゃごちゃとした思考に一度舌打ちをしてから気持ちを切り替える。
モニターで幽霊船の位置を確認して、座標を登録すればグレムリンは即座に自動航行を開始した。
操縦レバーから手を離して、シートに深く座り背もたれによしかかる。
最近、戦闘の激化に伴って重い疲労に襲われる事が増えてきた。今も、その疲労に抗えないままゆっくりと意識が落ちていった。
『……ちゃん、』
(ああ、まただ)
そんな時、ネグロは決まって同じ夢を見る。
『おに……ちゃ、』
呼び掛けてくる声は、遠い昔の記憶に繋がっていく。
ピンク色のバンダナを渡して、にっこりと笑顔を向けてくれた、一番下の妹。
『おにい、ちゃん』
(ヒナ……)
その姿は、おぼろげではっきり見ることは出来ない。最初は、声も不鮮明だったが夢を見るたびに鮮明になっていた。
今では、その声がはっきりと妹である事がわかる。声色から、自分を心配しているような感情も伝わってくる。
(……ごめんな。心配させて)
ただ、その夢でネグロは何かを出来る訳ではない。声が聞こえるだけで自分から発せられる訳でもなければ、身体が動く訳でもない。
夢とはいえど心配させてしまっている、という事実に対するなんともいえない気持ちに苛まれ続けるだけだった。
「……クソッ」
悪態ひとつ吐きながら、夢から覚める。
何故、何度も同じ夢を見るのか。自分の身を案じる妹、というイメージが何処から出てきたのか。
思念が何かを見せようとしている意図は感じるが、それを読み取ることは出来ない。わからない事を考え続けても仕方無い。思考を止めて、モニターへ視線を持つ向けた。
既に機体は目的地付近まで来ている事を確認すれば、手動に切り替え機体を幽霊船の格納庫に納めた。グレムリンの稼働が完全に停止するのを確認してから操縦棺から降りたネグロは、丁度側にいたエリエスと視線が合う。
いつもであれば、すぐに声をかけるなりしてくる筈の彼女が目を丸くして自分を見てくる姿にしかめ面でなんだ、と声をかけた。
「血、大丈夫?」
「血? ……ああ、もう止まってる」
操縦棺から降りたネグロの顔ははバンダナの下から滲んできた血で赤く染まっている。
その様子を恐る恐る指差して告げるエリエスだったが、当のネグロは殆ど気にする事なくバンダナを外して、手で乱雑に額を拭う。乾きかけの血がうっすら伸びた下に見える皮膚には元々のあった傷痕以外に真新しいものは無く、エリエスはますます訝しげな顔をする。
ネグロは眉を寄せて小さく溜め息を吐くと、面倒くさそうに頭を掻いた。
「……よくなるんだ、気にするな」
「気にするな、って……」
「……誰かに言うなよ」
気になるけど、とまだ首をかしげるエリエスにひとつだけ釘をさせばネグロは話も半ばに歩き始めた。
「あ! ネグロさん、ご飯は!」
「……あとでいい」
足早に去る背中に投げ掛けられた言葉には軽く手を振って応えた。
格納庫を出て真っ直ぐに自室へと向かう途中で足がふらついて、通路の壁で身体を支える。帰路についていた頃から、どうにも倦怠感が身体につきまとっていた。やはり、自分が思う以上に身体に疲労が蓄積しているのだろう。わかった所で、改善策は無い。舌打ちをひとつして、歩き直すと自室へと文字通り転がり込んだ。
バンダナをサイドボードに置いたあとは、パイロットスーツも脱がずに固いベッドに身を預けて、目を閉じる。
どうにも身体が言うことを聞かない原因はわかっている。思念制御識だ。
ネグロが使用しているのは、高速、またはそれ以上の速度で戦う為の未来の制御識と、放射光で敵を破壊する為の祝福の制御識だ。とくに、祝福の制御識は身体と精神の限界を越える力を与えるという。ネグロの思念の根幹にあるのは怒りであり、限界を越えるほどの怒りが身体への大きな負担となっている。かといって、今さら制御識を縛るような戦い方を模索している余裕はない。
戦いは苛烈になり、次なる大規模な作戦の話も出て来ている。幽霊船を離れていた巨大未識別の時とは違って、幽霊船全体で作戦への参加をするだろう、という話は既に耳に入っている。そこで、足を引っ張る訳にもいかない。
「……ひでえ顔……いや、前からか」
そのままでは眠ってしまいそうになってしまう。どうにかベッドから起き上がると部屋に置いてある姿見と視線があう。そこにいるのは、乾いた血で汚れたのをほったらかしたままの、疲れきった顔をしている中年男。
このまま、制御識を使い続けたらどうなるのだろうかと考えた事は少なくはない。そしてその思いは、レイルが目の前で生き返ったのを見てから尚更強くなった。
あの日見たレイルの姿、あれは仮死状態から蘇生したなんて話ではない。目の前で、不自然に生命活動を再開していた。
傷跡の制御識は、その使用者が不死身となり致命を負う手前で踏みとどまれると言われている。レイルという人間が特殊である可能性もあるが、それを差し引いても制御識が与える影響の強さを考えてしまう。
人を理を越えて生かす事が可能ならば、その逆もまた可能なのだろう。
そもそも、制御識を使いこなせているのが思い込みなら、使うたびに自らの身を滅ぼし続けている事になる。
「……チッ」
たらり、と額から血が一筋流れてくるのを手で乱雑に拭った。
ネグロにとって、制御識と思念の力は、自身の命の切り売りだと考えている。身体中に傷をつくり、血を流し、それが敵を焼く力に変わる。
「……」
鏡の中の男が自嘲気味に口元をゆるめる。人の死に散々怯えていたのに、自分が死ぬとなれば何も恐ろしい事はない。
仲間も、家族も失なって、一人になって久しい。
それが寂しいという気持ちはとっくの昔に忘れてしまっていた。それなのに、新たな仲間を得てしまった事で寂しいという感情を思い出してしまった。もう、失う事に耐えられるかわからない。だからこそ、次に失うのは自らの命で構わないと、そう思っている。
それが、あまりにも愚かな考えであることもよく知っていた。
◆11回更新の日記ログ
閉ざされた未来をこじ開けた。失った祝福を取り戻した。
* * *
搬入口に向かって進むネグロの足取りは軽い。何だかんだ言いつつ、新しい道具に気持ちが逸ってしまうのは整備士の性なのだろう。
いつになく楽しい気持ちになってる事に気が付いて、小さく舌打ちをした。
こんな風に、呑気にしてしまう自分がいるのが嫌になってしまう。
ビーッ!ビーッ!
「っ、なんだ!?」
あまりに唐突に鳴り出したそれに驚きを隠せずにいたが、すかさず携帯端末を手にとってブリッジにコールした。
「こちらネグロ。一体何事だ」
『侵入者だ。外見はツィールに酷似、レイルが交戦しているらしい』
「っ、ツィールに酷似?」
すぐにルインの声が端末から返ってきた。ただ、伝えられた内容にネグロは無意識に固く拳を握りしめていた。
格納庫の近くで見た影にもっと注意を払うべきだった。違和感があったそれを放っておいたせいで、みすみす侵入者を逃していた事実。
それほどまでに油断をしていた自分の甘さに腹が立つ。
『お前はレイルの所に向え。場所は――』
ルインから淡々と伝えられるものを聴きながらネグロは努めて冷静さを取り戻そうとする。
「……了解」
ぷつり、と通信が切れるとネグロは通信端末を作業着のポケットに突っ込み走り出した。
白兵戦の心得が無い訳ではないが、録な武器も無い状態でどこまでやれるのかはわからない。
走りながら様々な状況を想定はしてみるものの、やはり自分の手落ちが脳裏を過って思考もろくにまとまらない。
「ああ、くそっ!」
迷路にも近い幽霊船の中を鳴り響く警報を背に走っていく。ルインに伝えられた場所は分かれ道を曲がった先だ。
「レイル!! 無事か!」
曲がり先を確認する前に声を張り上げる。増援を伝える事で交戦中であれば、敵の隙を作ろうという魂胆だ。
だが、その魂胆も空振りに終わった。曲がり先の通路には、人が1人倒れているのだけが見える。
「っ、おい、」
遠目からでも、その白髪で倒れているのがレイルであることが確認できる。
ネグロは駆け寄りながら声をかけるが、倒れている姿が動く様子はない。
「……ッ!」
それどころか、膝をついて上半身を抱えあげたレイルの状態は力無くぐったりとしており、何よりもその首はあらぬ方向に曲がったまま、支えを失いぐらぐらと揺れている。
もとより体温が高くはなかった気がするのを差し引いても、触れた肉体からはすっかりと熱が失われている。
視覚、触覚、その両面から伝えられているのは、今抱えあげている人間が死んでいるという事実だ。
「……」
ネグロは言葉もなくその身体をゆっくりと床に寝かせると改めて脈を確認してみるものの、やはりそこに命の鼓動をしめすものは無い。
警報の音が何処か遠くに聞きながら、動かない僚機を呆然と見つめた。
「……俺の、せい、」
酷く掠れた、張り付いた喉から這い出てきたような呟きは直ぐ様警報にかきけされた。
侵入にいち早く気付けた筈の機会を見過ごした結果が、今こうして目の前に僚機の死体として現れている。
取り乱している場合ではない、と頭ではわかっているが身体の震えが止まらない。
仲間、家族、僚機――近しい人間を失う度にどうしようもない気持ちに苛まれていた。それが嫌で、全てを拒絶していた。それなのに、どうして今、こんなに苦しくなっている?
「……ッ、」
舌打ちをひとつ。自らを奮い立たせる。
放心している時間が惜しい。容易に人を殺す存在がいるのであれば、これ以上の犠牲を減らすのがまず役割だ。
落ち込んでいる時間など戦いの中では単なる無駄な時間である事を、嫌というほど知っている。
深呼吸ひとつして、立ち上がろうとした瞬間、倒れているレイルの姿に違和感を覚えた。
「……あ?」
倒れているレイルの髪は乱れ、普段隠された顔の下がのぞいていた。その、閉じられた双眸が震えている。
そして、それはやがて波のように全身に広がっていく。ガタガタと、動く筈の無い肉体が不自然に震えはじめた。
ネグロは目の前の異様な光景に思わず息を呑み、少しだけ距離を取る。万が一、教われる可能性を器具したといえば聞こえはいいだろうが、それだけではなかった。
「……」
ネグロは怪訝な表情でレイルを見る。震えが徐々におさまり、今度こそ停止したかと思って少し身を乗り出して覗き込むと、閉じられていた瞼が開き色の無い瞳がぐりん、とネグロを見た。
反射的に身を引いてしまったネグロを、レイルの瞳が追いかけていく。
「……レイ、ル?」
ネグロから漏れた声は震えていた。
今、自分は何を見て、何を見せられているのだろうか。
「あ、ネグロさん……。僕、気絶してたか……」
目を開いたレイルの口から溢れたのは、怨念の唸り声でも何でもない、聞き慣れたレイルの声だった。
あらぬ方に向いていた筈の首はいつの間にかもとに戻り、ネグロの方へしっかりと向いている。
眠りから覚めたばかりのようにぼんやりとした瞳は1拍おいて、は、と見開かれてレイルは弾かれたように飛び起きた。
「そうだ、さっき、そこから、ツィールさんによく似た顔の人が出てきて。武器を持ってて、ミアさんと僕のことを襲おうとして。それで、ミアさんは助けを呼びに行ったと思うんだけど、僕が足止めできなかったから……、どこに行ったんだろう、他の人が危険な目に遭ってるかもしれない、早く探さないと」
「……」
「……、ネグロ、さん?」
レイルが切迫した表情でネグロに侵入者の事を伝えるが、ネグロが全く反応しない事に気が付いて不思議そうに眉を寄せると、軽く首をかしげた。
「……、いや、悪い。大丈夫だ」
あまりにも平然としすぎているレイルに言葉を失っていたネグロは、不思議そうな顔をされてはじめて自分が黙りこくっていた事に気が付いた。
全く大丈夫などではなかったけれど、案外口を開けば平静を装える。口だけでそう告げるとレイルはわずかに安堵した様子を見せた。
「よかった、それで――」
「わかってる。ミアがもうルインに伝えて、情報は貰ってる――聞こえないか?」
ネグロはそう言うと船についているスピーカーを指差した。そこからは相変わらず警報が鳴り響いている。
レイルもようやくそれに気が付いて、あ、と言葉をこぼした。
「無事だったのか……よかった……」
「ツィール達がまだわからん。搬入口付近にはいる筈だが」
「……そうか。いこう、ネグロさん」
頷いて、前を見るレイルをネグロはじっと見つめる。まるで、さっき事切れていたのが嘘なのではないかと思える程、彼はいつも通りなのだ。
いつも通りに振る舞うほどにスリーピング・レイル――本当の名も知らぬこの男が、人の常識では測れない存在である事を証明していく。
どちらともなく走りだしながら、レイルがぽつりと尋ねて来た。
「ネグロさん、僕、どれくらい気絶してたか、わかる?」
「……気絶なんて、してねえよ」
ネグロの言葉に前を見ていたレイルが驚いたようにネグロを見る。
ネグロはその視線を見ないまま、続く言葉を口にした。
「……間違いなく、死んでた」
果たして今伝えるのが正しかったのだろうか。
元々、疑念はあったのだ。彼のマフラーの下に隠された首の傷痕。たまたま見た時には冗談で、運が悪かったら死んでいる――などとのたまいはしたが運がよかろうが悪かろうが死ぬだろう、そう思わせる傷痕だった。
それに、ルインが調べたという《スリーピング・レイル》の情報――グレムリンテイマーの再生を謳うプロジェクト――まだ確証を持てはしなかったけれど、レイルが完全に死んでいた筈の状態を気絶、と称した事からも、彼の肉体は人知を超えている。
それはまるで、不死になると言われている傷痕の制御識そのもので。
だけれども、レイル自体の精神は、思考は人間そのものだったとするのならば――
「死んで、た?」
「……」
言うべきでは、無かったのかもしれない。
トントントン。
ルインの指がコンソールを叩く。それが苛立ちから来ていることは、船内監視用モニターを確認する表情が険しいことからも伺える。
未識別機にしても、ジャンクテイマーにしても狙いは基本グレムリンだ。だからこそ、船内に侵入者が来る事への意識が薄かったのは認める。
加えて、この船の構造は特殊も特殊だから生半な相手は迷宮にとらわれて終わりの筈だった。
「……何が目的だ?」
侵入者はレイルと交戦した後も移動を続けている。目的地に一直線というほどでもなければ、迷って闇雲に移動をしている訳でもない。
単純に考えるならばツィールに目的があるべきだが――。
「何か見えたか、ジュピネ」
「……」
側にいた小型機に視線を向けるが返答が無い。ほんの小さく息を吐いてから、モニターチェックを手伝わせているミアの方を見た。
「ミア、侵入者は――」
「いましたっ! 少しずつ、近付いてる場所があるみたい……これって」
ミアは、モニターの場所と、ルインの管理範囲内のマップを何度も見比べる。
ルインも近寄っては同じように彼女の指し示す場所を目で追った。
「……これは」
侵入者の足取りを確認した二人は視線を合わせ、そして、共にジュピネへ視線を向けた。
* * *
搬入口に向かって進むネグロの足取りは軽い。何だかんだ言いつつ、新しい道具に気持ちが逸ってしまうのは整備士の性なのだろう。
いつになく楽しい気持ちになってる事に気が付いて、小さく舌打ちをした。
こんな風に、呑気にしてしまう自分がいるのが嫌になってしまう。
ビーッ!ビーッ!
「っ、なんだ!?」
あまりに唐突に鳴り出したそれに驚きを隠せずにいたが、すかさず携帯端末を手にとってブリッジにコールした。
「こちらネグロ。一体何事だ」
『侵入者だ。外見はツィールに酷似、レイルが交戦しているらしい』
「っ、ツィールに酷似?」
すぐにルインの声が端末から返ってきた。ただ、伝えられた内容にネグロは無意識に固く拳を握りしめていた。
格納庫の近くで見た影にもっと注意を払うべきだった。違和感があったそれを放っておいたせいで、みすみす侵入者を逃していた事実。
それほどまでに油断をしていた自分の甘さに腹が立つ。
『お前はレイルの所に向え。場所は――』
ルインから淡々と伝えられるものを聴きながらネグロは努めて冷静さを取り戻そうとする。
「……了解」
ぷつり、と通信が切れるとネグロは通信端末を作業着のポケットに突っ込み走り出した。
白兵戦の心得が無い訳ではないが、録な武器も無い状態でどこまでやれるのかはわからない。
走りながら様々な状況を想定はしてみるものの、やはり自分の手落ちが脳裏を過って思考もろくにまとまらない。
「ああ、くそっ!」
迷路にも近い幽霊船の中を鳴り響く警報を背に走っていく。ルインに伝えられた場所は分かれ道を曲がった先だ。
「レイル!! 無事か!」
曲がり先を確認する前に声を張り上げる。増援を伝える事で交戦中であれば、敵の隙を作ろうという魂胆だ。
だが、その魂胆も空振りに終わった。曲がり先の通路には、人が1人倒れているのだけが見える。
「っ、おい、」
遠目からでも、その白髪で倒れているのがレイルであることが確認できる。
ネグロは駆け寄りながら声をかけるが、倒れている姿が動く様子はない。
「……ッ!」
それどころか、膝をついて上半身を抱えあげたレイルの状態は力無くぐったりとしており、何よりもその首はあらぬ方向に曲がったまま、支えを失いぐらぐらと揺れている。
もとより体温が高くはなかった気がするのを差し引いても、触れた肉体からはすっかりと熱が失われている。
視覚、触覚、その両面から伝えられているのは、今抱えあげている人間が死んでいるという事実だ。
「……」
ネグロは言葉もなくその身体をゆっくりと床に寝かせると改めて脈を確認してみるものの、やはりそこに命の鼓動をしめすものは無い。
警報の音が何処か遠くに聞きながら、動かない僚機を呆然と見つめた。
「……俺の、せい、」
酷く掠れた、張り付いた喉から這い出てきたような呟きは直ぐ様警報にかきけされた。
侵入にいち早く気付けた筈の機会を見過ごした結果が、今こうして目の前に僚機の死体として現れている。
取り乱している場合ではない、と頭ではわかっているが身体の震えが止まらない。
仲間、家族、僚機――近しい人間を失う度にどうしようもない気持ちに苛まれていた。それが嫌で、全てを拒絶していた。それなのに、どうして今、こんなに苦しくなっている?
「……ッ、」
舌打ちをひとつ。自らを奮い立たせる。
放心している時間が惜しい。容易に人を殺す存在がいるのであれば、これ以上の犠牲を減らすのがまず役割だ。
落ち込んでいる時間など戦いの中では単なる無駄な時間である事を、嫌というほど知っている。
深呼吸ひとつして、立ち上がろうとした瞬間、倒れているレイルの姿に違和感を覚えた。
「……あ?」
倒れているレイルの髪は乱れ、普段隠された顔の下がのぞいていた。その、閉じられた双眸が震えている。
そして、それはやがて波のように全身に広がっていく。ガタガタと、動く筈の無い肉体が不自然に震えはじめた。
ネグロは目の前の異様な光景に思わず息を呑み、少しだけ距離を取る。万が一、教われる可能性を器具したといえば聞こえはいいだろうが、それだけではなかった。
「……」
ネグロは怪訝な表情でレイルを見る。震えが徐々におさまり、今度こそ停止したかと思って少し身を乗り出して覗き込むと、閉じられていた瞼が開き色の無い瞳がぐりん、とネグロを見た。
反射的に身を引いてしまったネグロを、レイルの瞳が追いかけていく。
「……レイ、ル?」
ネグロから漏れた声は震えていた。
今、自分は何を見て、何を見せられているのだろうか。
「あ、ネグロさん……。僕、気絶してたか……」
目を開いたレイルの口から溢れたのは、怨念の唸り声でも何でもない、聞き慣れたレイルの声だった。
あらぬ方に向いていた筈の首はいつの間にかもとに戻り、ネグロの方へしっかりと向いている。
眠りから覚めたばかりのようにぼんやりとした瞳は1拍おいて、は、と見開かれてレイルは弾かれたように飛び起きた。
「そうだ、さっき、そこから、ツィールさんによく似た顔の人が出てきて。武器を持ってて、ミアさんと僕のことを襲おうとして。それで、ミアさんは助けを呼びに行ったと思うんだけど、僕が足止めできなかったから……、どこに行ったんだろう、他の人が危険な目に遭ってるかもしれない、早く探さないと」
「……」
「……、ネグロ、さん?」
レイルが切迫した表情でネグロに侵入者の事を伝えるが、ネグロが全く反応しない事に気が付いて不思議そうに眉を寄せると、軽く首をかしげた。
「……、いや、悪い。大丈夫だ」
あまりにも平然としすぎているレイルに言葉を失っていたネグロは、不思議そうな顔をされてはじめて自分が黙りこくっていた事に気が付いた。
全く大丈夫などではなかったけれど、案外口を開けば平静を装える。口だけでそう告げるとレイルはわずかに安堵した様子を見せた。
「よかった、それで――」
「わかってる。ミアがもうルインに伝えて、情報は貰ってる――聞こえないか?」
ネグロはそう言うと船についているスピーカーを指差した。そこからは相変わらず警報が鳴り響いている。
レイルもようやくそれに気が付いて、あ、と言葉をこぼした。
「無事だったのか……よかった……」
「ツィール達がまだわからん。搬入口付近にはいる筈だが」
「……そうか。いこう、ネグロさん」
頷いて、前を見るレイルをネグロはじっと見つめる。まるで、さっき事切れていたのが嘘なのではないかと思える程、彼はいつも通りなのだ。
いつも通りに振る舞うほどにスリーピング・レイル――本当の名も知らぬこの男が、人の常識では測れない存在である事を証明していく。
どちらともなく走りだしながら、レイルがぽつりと尋ねて来た。
「ネグロさん、僕、どれくらい気絶してたか、わかる?」
「……気絶なんて、してねえよ」
ネグロの言葉に前を見ていたレイルが驚いたようにネグロを見る。
ネグロはその視線を見ないまま、続く言葉を口にした。
「……間違いなく、死んでた」
果たして今伝えるのが正しかったのだろうか。
元々、疑念はあったのだ。彼のマフラーの下に隠された首の傷痕。たまたま見た時には冗談で、運が悪かったら死んでいる――などとのたまいはしたが運がよかろうが悪かろうが死ぬだろう、そう思わせる傷痕だった。
それに、ルインが調べたという《スリーピング・レイル》の情報――グレムリンテイマーの再生を謳うプロジェクト――まだ確証を持てはしなかったけれど、レイルが完全に死んでいた筈の状態を気絶、と称した事からも、彼の肉体は人知を超えている。
それはまるで、不死になると言われている傷痕の制御識そのもので。
だけれども、レイル自体の精神は、思考は人間そのものだったとするのならば――
「死んで、た?」
「……」
言うべきでは、無かったのかもしれない。
トントントン。
ルインの指がコンソールを叩く。それが苛立ちから来ていることは、船内監視用モニターを確認する表情が険しいことからも伺える。
未識別機にしても、ジャンクテイマーにしても狙いは基本グレムリンだ。だからこそ、船内に侵入者が来る事への意識が薄かったのは認める。
加えて、この船の構造は特殊も特殊だから生半な相手は迷宮にとらわれて終わりの筈だった。
「……何が目的だ?」
侵入者はレイルと交戦した後も移動を続けている。目的地に一直線というほどでもなければ、迷って闇雲に移動をしている訳でもない。
単純に考えるならばツィールに目的があるべきだが――。
「何か見えたか、ジュピネ」
「……」
側にいた小型機に視線を向けるが返答が無い。ほんの小さく息を吐いてから、モニターチェックを手伝わせているミアの方を見た。
「ミア、侵入者は――」
「いましたっ! 少しずつ、近付いてる場所があるみたい……これって」
ミアは、モニターの場所と、ルインの管理範囲内のマップを何度も見比べる。
ルインも近寄っては同じように彼女の指し示す場所を目で追った。
「……これは」
侵入者の足取りを確認した二人は視線を合わせ、そして、共にジュピネへ視線を向けた。
◆10回更新の日記ログ
過去を振り返る。未来を仰ぐ。誰かの祝福になりたいと願う。
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
ネグロにとって、誰もいない時間を見計らって格納庫に向かうのは最早ルーティンワークといって差し支えなかった。
そうやって格納庫に向かうのは比較的夜の時間帯が多くなる。
昼の時間帯は、ミアやツィール達がいることが多く、そうなると整備についての話やグレムリンについての話をするのは避けられない。
下手な日常会話に比べたらずっと楽なのでそれが嫌だとは言わないけれど、自らの整備にかけられる時間は減ってしまう。
自室のようなものはあるが、そこでやることといえばグレイヴネットを流し見る程度で、それなら結局グレムリンを弄っている方が建設的だ。
ただ、そうやって格納庫にいると必ずといっていい程にレイルの姿を見る。あとからやって来る時も、先にいる時も、どちらでも彼は大体自分のグレムリンの操縦棺に乗り込んでいる。
ネグロとしても気になってしまうものだから、一度ミアに訪ねてみたが彼女は微妙な顔をするばかりで教えてくれなかった。
「……」
そして、この日もレイルが操縦棺からネグロの作業を眺めていた。
ネグロは、グレムリンと手元の端末を何度か確認すると操縦棺にいるレイルの方に視線を向けた。
「楽しいか?こんなの見て」
「……え?」
「お前はこれが独り言に聞こえたか?」
ネグロの声かけに、レイルからは恐らく眠気もあったのだろうが、少し間の抜けた声が返ってくる。
ネグロは思わず眉根を押さえながらレイルを鋭い目で見据える。
確かに、声など今までたいしてかけてこなかった自分にも多少の非はあるのだろうが。
レイルはほんの少し眉を下げつつも、改めて問いについての考えを少し思案するような顔をする。
ネグロはその顔をじっとみていた。
「整備の事は、まだ、わからないことが多いけど、ネグロさんは迷わないから」
「……もの好きだな」
レイルの言葉にネグロは肩を竦める。
一瞬、互いの間に沈黙が走ったがネグロは小さく息を吐くと続けてレイルに問いかけた。
「そもそも、なんで暇なし操縦棺にいるんだ?」
「……」
レイルの瞳が僅かに伏せられる。ミアが言葉を濁すくらいなので、その反応は予測出来た。
深追いする程興味があるわけでもない。答えを聞く前にネグロは再びグレムリンの方へと視線を向ける。
「……ここだと、静かなんだ」
「静か?」
ゆっくりとした声が聞こえてきて、ネグロの視線は再びレイルへと向いた。言葉の意味がわからずに、眉根を寄せる。
「声が、聞こえてくるんだ。誰の声かもわからないけど、それがずっと」
「……なるほどな。それで、棺の中だと声がしないと?」
ネグロの言葉にレイルは静かに頷いた。
ネグロの脳裏に浮かんだのは東北柱の≪対流思念≫だ。あの場にいる間、あの声は頭のなかで響き続けていた。
だから、そういった思念の声が聞こえてしまうという事はありえる事だという認識はある。
そもそも、レイル自身がごまかしや嘘が上手い男には思えない。
「……ネグロさんは、なにか知ってる?」
レイルがぽつりと問いかけてくる。すんなり話を聞いたせいで詳しい話を聞けると思ったのだろうか。
ネグロは少しだけ眉を寄せた。別に詳しくも何ともなかった事に少しだけバツの悪さを感じる。
「この世界の端の方だと、思念の声が聞こえる事はある。実際、俺もそれは聞いた。四六時中聞こえる話は知らんが、お前が思念を引き寄せてる可能性は、あるのかもな」
ただの仮定の話だ、と付け加えて肩をすくめる。それでも、レイルには興味深い話しにでもなったのだろうか、ずいぶんと真面目に耳を傾けていた。
「仮定の話だからな」
「わかってる……けど、ネグロさんから、話してくれたのが、嬉しかったから」
「……ふん」
念を押したつもりが、想定もしていなかった言葉を投げられたネグロはそっけない言葉を返すことしか出来なかった。
そもそも、知り合った直後であれば何をおかしな事を、と一蹴してたのは間違いない。
それだけ、長いというにはまだ足りないが、短くない時間が過ぎたのだという事なのだ。
会話が途切れて、格納庫がしんと静まる。
「レイル」
「ネグロさん?」
不意にネグロが名前を呼ぶときょとん、とした顔でレイルが視線を向けてくる。
それを見てネグロはようやく自分が彼を呼んだことに気が付いた。
無意識にしていた事にネグロは思わず渋い顔をして乱雑に頭を掻いた。
その様子にレイルはますます首をかしげていた。
それでもネグロはしばらく渋い顔のまま暫く言いあぐねて、それから唸るように言葉を吐き出した。
「……話くらいするし、聞いてやる」
「え?」
「暇潰しにな。それで少しは気が紛れるんだろ」
いうだけ言って、レイルから視線を外した。多分、どんな顔をされても自分が納得できるものがないと思ったからだ。
「……くそっ」
口の中で悪態を吐き出して、そのまま格納庫の出入り口に向かう。どのみち、しっかり整備されたばかりの機体は、大した確認も必要がない。
少しずつ諦めていくしかない。自分の弱さを。
一人で戦うことの不安を知っている事に気付かされたあのレイルの言葉を聞いたときから、それはもうはじまっていたのかもしれない。
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
ネグロにとって、誰もいない時間を見計らって格納庫に向かうのは最早ルーティンワークといって差し支えなかった。
そうやって格納庫に向かうのは比較的夜の時間帯が多くなる。
昼の時間帯は、ミアやツィール達がいることが多く、そうなると整備についての話やグレムリンについての話をするのは避けられない。
下手な日常会話に比べたらずっと楽なのでそれが嫌だとは言わないけれど、自らの整備にかけられる時間は減ってしまう。
自室のようなものはあるが、そこでやることといえばグレイヴネットを流し見る程度で、それなら結局グレムリンを弄っている方が建設的だ。
ただ、そうやって格納庫にいると必ずといっていい程にレイルの姿を見る。あとからやって来る時も、先にいる時も、どちらでも彼は大体自分のグレムリンの操縦棺に乗り込んでいる。
ネグロとしても気になってしまうものだから、一度ミアに訪ねてみたが彼女は微妙な顔をするばかりで教えてくれなかった。
「……」
そして、この日もレイルが操縦棺からネグロの作業を眺めていた。
ネグロは、グレムリンと手元の端末を何度か確認すると操縦棺にいるレイルの方に視線を向けた。
「楽しいか?こんなの見て」
「……え?」
「お前はこれが独り言に聞こえたか?」
ネグロの声かけに、レイルからは恐らく眠気もあったのだろうが、少し間の抜けた声が返ってくる。
ネグロは思わず眉根を押さえながらレイルを鋭い目で見据える。
確かに、声など今までたいしてかけてこなかった自分にも多少の非はあるのだろうが。
レイルはほんの少し眉を下げつつも、改めて問いについての考えを少し思案するような顔をする。
ネグロはその顔をじっとみていた。
「整備の事は、まだ、わからないことが多いけど、ネグロさんは迷わないから」
「……もの好きだな」
レイルの言葉にネグロは肩を竦める。
一瞬、互いの間に沈黙が走ったがネグロは小さく息を吐くと続けてレイルに問いかけた。
「そもそも、なんで暇なし操縦棺にいるんだ?」
「……」
レイルの瞳が僅かに伏せられる。ミアが言葉を濁すくらいなので、その反応は予測出来た。
深追いする程興味があるわけでもない。答えを聞く前にネグロは再びグレムリンの方へと視線を向ける。
「……ここだと、静かなんだ」
「静か?」
ゆっくりとした声が聞こえてきて、ネグロの視線は再びレイルへと向いた。言葉の意味がわからずに、眉根を寄せる。
「声が、聞こえてくるんだ。誰の声かもわからないけど、それがずっと」
「……なるほどな。それで、棺の中だと声がしないと?」
ネグロの言葉にレイルは静かに頷いた。
ネグロの脳裏に浮かんだのは東北柱の≪対流思念≫だ。あの場にいる間、あの声は頭のなかで響き続けていた。
だから、そういった思念の声が聞こえてしまうという事はありえる事だという認識はある。
そもそも、レイル自身がごまかしや嘘が上手い男には思えない。
「……ネグロさんは、なにか知ってる?」
レイルがぽつりと問いかけてくる。すんなり話を聞いたせいで詳しい話を聞けると思ったのだろうか。
ネグロは少しだけ眉を寄せた。別に詳しくも何ともなかった事に少しだけバツの悪さを感じる。
「この世界の端の方だと、思念の声が聞こえる事はある。実際、俺もそれは聞いた。四六時中聞こえる話は知らんが、お前が思念を引き寄せてる可能性は、あるのかもな」
ただの仮定の話だ、と付け加えて肩をすくめる。それでも、レイルには興味深い話しにでもなったのだろうか、ずいぶんと真面目に耳を傾けていた。
「仮定の話だからな」
「わかってる……けど、ネグロさんから、話してくれたのが、嬉しかったから」
「……ふん」
念を押したつもりが、想定もしていなかった言葉を投げられたネグロはそっけない言葉を返すことしか出来なかった。
そもそも、知り合った直後であれば何をおかしな事を、と一蹴してたのは間違いない。
それだけ、長いというにはまだ足りないが、短くない時間が過ぎたのだという事なのだ。
会話が途切れて、格納庫がしんと静まる。
「レイル」
「ネグロさん?」
不意にネグロが名前を呼ぶときょとん、とした顔でレイルが視線を向けてくる。
それを見てネグロはようやく自分が彼を呼んだことに気が付いた。
無意識にしていた事にネグロは思わず渋い顔をして乱雑に頭を掻いた。
その様子にレイルはますます首をかしげていた。
それでもネグロはしばらく渋い顔のまま暫く言いあぐねて、それから唸るように言葉を吐き出した。
「……話くらいするし、聞いてやる」
「え?」
「暇潰しにな。それで少しは気が紛れるんだろ」
いうだけ言って、レイルから視線を外した。多分、どんな顔をされても自分が納得できるものがないと思ったからだ。
「……くそっ」
口の中で悪態を吐き出して、そのまま格納庫の出入り口に向かう。どのみち、しっかり整備されたばかりの機体は、大した確認も必要がない。
少しずつ諦めていくしかない。自分の弱さを。
一人で戦うことの不安を知っている事に気付かされたあのレイルの言葉を聞いたときから、それはもうはじまっていたのかもしれない。
◆9回更新の日記ログ
未来祝福
「敵は全滅、こちらの被害も大小あれど、撃墜は無し……戦果としては最高なんじゃないか?」
巨大未識別との戦いを終えて幽霊船に戻って程なく、格納庫でグレムリンのダメージを確認していたネグロの元にルインがやって来た。普段ブリッジから降りて来る事すらまれな艦長代理の姿をネグロは肩眉をつりあげてねめつけた。
「わざわざ言いに来るなんて、艦長も暇になったのか?」
「優秀なオペレーターが来てくれたのでね」
優秀なオペレーターとはジュピネの事だろう。最近、手を借りるようになったという話はネグロも聞いている。余裕が出来た、ということなのだろう。ネグロがそんな事を考えている間に、ルインは傷だらけのグレムリンをじっと見上げながら口を開く。
「……損傷で言うなら、レイルよりお前の方が激しいようだな。……仲間を失うのが怖かったか?」
「嫌味言いに来たのか?」
「……お前達で何を話したかはしらないが、まあ、仲が良いのは悪いことじゃない」
「……」
ルインは相変わらずこちらを見ずに、次は手元の端末を操作しながら話している。ネグロはその言葉の言い方にひっかかりを覚えはしたがつついた所でろくな話にならない気がして、無視してグレムリンの確認に戻る。
見てわかる程に傷だらけのそれを、改めて確認する必要が無いとは思っているのだが。一人で、ましてや物資も設備も足りない船の中では直すのも限界がある。どこかに停泊しなければいけないだろう、そうルインに言おうとして視線を向けると、彼もまたネグロを見ていた。
「南の島の翡翠工廠と連絡がついた。どのみちコンテナを届ける予定ではあっからな。お前の思いは色々あるだろうが今は大事な機体だ……しっかり直してこい」
「……了解」
なんだかんだ言いながらも、このルインという男は艦長として抜け目がない。視線がぶつかる同時にそう伝えられてネグロは、頷くしかできなかった。
翡翠工廠に機体を運ぶと、そこで待っていたのは暖かい出迎えだった。
巨大未識別との戦いは、隣の領域である南の島にも話が届いていたという事らしい。
ネグロはそれを邪険にする事もしなかったが、そっけない態度で対応しながら自らのグレムリンの修理を頼むこととした。
「……」
手厚い出迎えから逃げるように離れて、かといってどこかを歩き回るような気分でもない。
ネグロは一人、格納庫の壁にもたれ掛かってそこに並ぶ機体と作業をする人々を見ていた。
ここで交換できるフレームもあったのだが、自分の戦い方には向いてないものだったのでしない事に決めている。
レイルの機体は、フレーム交換も含めるらしく大幅な調整が必要となるだろう。あとで、少し確認しなければ、と思った所でネグロは舌打ちをひとつした。
すっかり僚機のいることに慣れてしまった。
身体も感情も、拒否をするにはある程度の覚悟もいるのに受け入れるのはあっという間だ。
グレムリンに対してもそうだ。少なくとも自分が乗っていた機体に全くの愛着が無いといえば、嘘になってしまうだろう。
それを悪いことだとは誰も言わない。ただ、自分だけが自分の弱さに辟易している。
「あの! ネグロさん、ですよね」
溜め息を吐いたところで、一人の少年が近付いてきた。
真っ黒な手にツナギ姿、腰に工具をぶら下げているところから、整備士であるのは見てとれたが若い整備士の知り合いはいない。怪訝な目で声をかけてきた少年を見た。
「……何だ?」
「あ、あの、覚えてますか? 10年くらい前、貴方に助けて貰った……」
「……10年」
十数年前、それはネグロにとって失意の時だった。圧倒的なグレムリンの強さは、仲間や僚機の死と重なってネグロに恐怖を刻み付けていた。
戦いを続ける事を放棄して、前線から逃げ出した。出来ることなら家族の元に帰りたくて、船を転々としながら家族の船の情報を求めていた。
「それと、あの頃、俺すごい遊んでもらってて……5歳くらいかな。だから俺、ネグロさんみたいに整備出来るようになりたくて」
「……、翡翠船団の?」
「そうです! 覚えてましたか!」
7月戦役も終戦して数年、家族を探していたネグロはその全てが戦火の中に沈んでいった事を知る。
寄る辺を失くしたショックから、ネグロは言葉を、生きる気力を失った。
そんな彼を拾ったのは、ある翡翠船団だった。
名前を言えぬ男にネグロと名付けて、決して楽ではない生活の中でネグロを世話してくれたのだ。
最初こそ自棄になっていたネグロも献身的な翡翠船団の人達の態度に、やがては船団のグレムリンの整備を手伝うようになっていた。
恐怖の対象であるグレムリンも人が乗らなければまだ、触れることが出来た。
そしてなによりも、すでに、あらゆる場所にこの機体が配備されている事が三大勢力の敗北を改めて認識させてくる。
グレムリンを手にしたら、何かが変わるのかと考えたこともあった。
「……でかくなったな」
「そりゃあ、10年ですからね……とにかく、近くで巨大未識別と戦ってる人の名前を聞いて……もしかしてと思ったら、いてもたってもいられなくて」
少年はそこまでいうと、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます。二度も、命を救われました」
「……」
翡翠船団がジャンクテイマーの奇襲をうけ、船団のテイマーが負傷してしまった。テイマーがいなければ、グレムリンはただの鉄の塊でしかない。
翡翠船団の人達が死を覚悟した時、ネグロもまた、死を覚悟した。
ここで、今まで世話をしてくれた人達を救えたら、それで十分である、と。
覚悟と共に声を取り戻したネグロは、グレムリンに搭乗することを志願。
それが、はじめてグレムリンに乗った瞬間だった。
「……たまたまだよ。あの時も、今も」
「それでも、救われたのは事実ですから」
あくまでも運が良かったというネグロに少年は笑ってみせる。
ネグロは眉を寄せてその姿を見てから、小さく息を吐く。
「ほら、話してる暇があったら手を動かしに行け」
「え、あ、はい……」
「……頼んだぞ」
「っ、はい!」
走って整備に戻る少年の背中を見ながらネグロは目を細めた。
結局、死を覚悟して対峙したジャンクテイマーは、大した強さもなく、グレムリンというものへの恐怖が払拭された。
それからは、ただ、グレムリンへの怒りばかりが生まれていた。
「……」
しかしもう、怒りの感情すら過去になってしまう。
そうなった時に自分に残るものがなんなのか、ネグロにはまだわからなかった。
「敵は全滅、こちらの被害も大小あれど、撃墜は無し……戦果としては最高なんじゃないか?」
巨大未識別との戦いを終えて幽霊船に戻って程なく、格納庫でグレムリンのダメージを確認していたネグロの元にルインがやって来た。普段ブリッジから降りて来る事すらまれな艦長代理の姿をネグロは肩眉をつりあげてねめつけた。
「わざわざ言いに来るなんて、艦長も暇になったのか?」
「優秀なオペレーターが来てくれたのでね」
優秀なオペレーターとはジュピネの事だろう。最近、手を借りるようになったという話はネグロも聞いている。余裕が出来た、ということなのだろう。ネグロがそんな事を考えている間に、ルインは傷だらけのグレムリンをじっと見上げながら口を開く。
「……損傷で言うなら、レイルよりお前の方が激しいようだな。……仲間を失うのが怖かったか?」
「嫌味言いに来たのか?」
「……お前達で何を話したかはしらないが、まあ、仲が良いのは悪いことじゃない」
「……」
ルインは相変わらずこちらを見ずに、次は手元の端末を操作しながら話している。ネグロはその言葉の言い方にひっかかりを覚えはしたがつついた所でろくな話にならない気がして、無視してグレムリンの確認に戻る。
見てわかる程に傷だらけのそれを、改めて確認する必要が無いとは思っているのだが。一人で、ましてや物資も設備も足りない船の中では直すのも限界がある。どこかに停泊しなければいけないだろう、そうルインに言おうとして視線を向けると、彼もまたネグロを見ていた。
「南の島の翡翠工廠と連絡がついた。どのみちコンテナを届ける予定ではあっからな。お前の思いは色々あるだろうが今は大事な機体だ……しっかり直してこい」
「……了解」
なんだかんだ言いながらも、このルインという男は艦長として抜け目がない。視線がぶつかる同時にそう伝えられてネグロは、頷くしかできなかった。
翡翠工廠に機体を運ぶと、そこで待っていたのは暖かい出迎えだった。
巨大未識別との戦いは、隣の領域である南の島にも話が届いていたという事らしい。
ネグロはそれを邪険にする事もしなかったが、そっけない態度で対応しながら自らのグレムリンの修理を頼むこととした。
「……」
手厚い出迎えから逃げるように離れて、かといってどこかを歩き回るような気分でもない。
ネグロは一人、格納庫の壁にもたれ掛かってそこに並ぶ機体と作業をする人々を見ていた。
ここで交換できるフレームもあったのだが、自分の戦い方には向いてないものだったのでしない事に決めている。
レイルの機体は、フレーム交換も含めるらしく大幅な調整が必要となるだろう。あとで、少し確認しなければ、と思った所でネグロは舌打ちをひとつした。
すっかり僚機のいることに慣れてしまった。
身体も感情も、拒否をするにはある程度の覚悟もいるのに受け入れるのはあっという間だ。
グレムリンに対してもそうだ。少なくとも自分が乗っていた機体に全くの愛着が無いといえば、嘘になってしまうだろう。
それを悪いことだとは誰も言わない。ただ、自分だけが自分の弱さに辟易している。
「あの! ネグロさん、ですよね」
溜め息を吐いたところで、一人の少年が近付いてきた。
真っ黒な手にツナギ姿、腰に工具をぶら下げているところから、整備士であるのは見てとれたが若い整備士の知り合いはいない。怪訝な目で声をかけてきた少年を見た。
「……何だ?」
「あ、あの、覚えてますか? 10年くらい前、貴方に助けて貰った……」
「……10年」
十数年前、それはネグロにとって失意の時だった。圧倒的なグレムリンの強さは、仲間や僚機の死と重なってネグロに恐怖を刻み付けていた。
戦いを続ける事を放棄して、前線から逃げ出した。出来ることなら家族の元に帰りたくて、船を転々としながら家族の船の情報を求めていた。
「それと、あの頃、俺すごい遊んでもらってて……5歳くらいかな。だから俺、ネグロさんみたいに整備出来るようになりたくて」
「……、翡翠船団の?」
「そうです! 覚えてましたか!」
7月戦役も終戦して数年、家族を探していたネグロはその全てが戦火の中に沈んでいった事を知る。
寄る辺を失くしたショックから、ネグロは言葉を、生きる気力を失った。
そんな彼を拾ったのは、ある翡翠船団だった。
名前を言えぬ男にネグロと名付けて、決して楽ではない生活の中でネグロを世話してくれたのだ。
最初こそ自棄になっていたネグロも献身的な翡翠船団の人達の態度に、やがては船団のグレムリンの整備を手伝うようになっていた。
恐怖の対象であるグレムリンも人が乗らなければまだ、触れることが出来た。
そしてなによりも、すでに、あらゆる場所にこの機体が配備されている事が三大勢力の敗北を改めて認識させてくる。
グレムリンを手にしたら、何かが変わるのかと考えたこともあった。
「……でかくなったな」
「そりゃあ、10年ですからね……とにかく、近くで巨大未識別と戦ってる人の名前を聞いて……もしかしてと思ったら、いてもたってもいられなくて」
少年はそこまでいうと、深々と頭を下げる。
「ありがとうございます。二度も、命を救われました」
「……」
翡翠船団がジャンクテイマーの奇襲をうけ、船団のテイマーが負傷してしまった。テイマーがいなければ、グレムリンはただの鉄の塊でしかない。
翡翠船団の人達が死を覚悟した時、ネグロもまた、死を覚悟した。
ここで、今まで世話をしてくれた人達を救えたら、それで十分である、と。
覚悟と共に声を取り戻したネグロは、グレムリンに搭乗することを志願。
それが、はじめてグレムリンに乗った瞬間だった。
「……たまたまだよ。あの時も、今も」
「それでも、救われたのは事実ですから」
あくまでも運が良かったというネグロに少年は笑ってみせる。
ネグロは眉を寄せてその姿を見てから、小さく息を吐く。
「ほら、話してる暇があったら手を動かしに行け」
「え、あ、はい……」
「……頼んだぞ」
「っ、はい!」
走って整備に戻る少年の背中を見ながらネグロは目を細めた。
結局、死を覚悟して対峙したジャンクテイマーは、大した強さもなく、グレムリンというものへの恐怖が払拭された。
それからは、ただ、グレムリンへの怒りばかりが生まれていた。
「……」
しかしもう、怒りの感情すら過去になってしまう。
そうなった時に自分に残るものがなんなのか、ネグロにはまだわからなかった。
◆8回更新の日記ログ
未来に、祝福あれ――
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
け出したのだから、文句は言わせないだろう」
「勝手にしろ。昔のデータなんざ、たいした役にも立たねえだろうよ」
「……」
「過去は、もうどうしようもねえ。さっきお前は罪滅ぼしかと聞いたが、あんなもんは自己満足だ。今から俺が心を入れ換えて、何をしたって俺が過去にしたことはチャラにはならねえ」
ネグロの言葉にルインはふむ、と呟きながら顎を指でさすってみせる。
「……ならば世界を巻き戻すか?」
この世界が繰り返されている。
今や、誰もがそれを疑う状況が出来上がりつつある。廃工場で聞いた言葉を何故か最後まで知っている事の意味が、わかろうとている。
「興味ねえよ。過去はどうしようもねえって、言っただろうが」
それでもネグロはルインの言葉を一蹴した。繰り返される世界がいいとは、思っていない。
どんなに過去が美しくても、未来が見えなくても進むことに意味があると。
ネグロは何も言い返してこないルインを怪訝そうに見てから口をひらく。
「もう用は済んだな?」
答えも聞かずにネグロは踵を返してブリッジを出ようとする。ルインは溜め息ひとつしてから、ふとなにかを思い出してその背中に声をかけた。
「ああ――そうだ、処分だがな……少しは人と食事取るようにしろ。コミュニケーション不足は船内の指揮にも関わる」
「…………、了解」
ネグロは不本意を露にしたまま呟くとそのままブリッジを後にした。
――夢を見た。否、見せられた。
誰ともつかぬ人の姿から語られるのは世界の不具合、死に逝く世界、それを安全に終わらせる為の戦い。
「……破滅の今際にて、停滞せよ、世界」
無意識に漏れたのは、何故か記憶に刻まれている言葉。廃工場で見つけた端末の、誰とも知らない声の続き。
奇しくも、見せられた夢は更にこの世界が繰り返している事を如実に伝えてくるかのようなものだった。
「……面白くねえ」
舌打ちをしながら呟いて、ベッドから降りるとベッド脇に置いていた端末を手に取る。
巨大未識別誘導のメールを確認して、予定より遅れはしたが対処する目処がたったことを確認すればそのまま端末片手に格納庫へと向かった。
戦い続けていればいい。夢の中の誰かがそう言っていた。
その言葉に従うというつもりも、世界を守る等という大層な事を言うつもりもない。
誰かが戦わなければいけなくて、その手段があるから戦っている。
ずっとそうだ。今もその延長で、グレムリンに乗り込んでいる。
「……」
ただ、怒りに任せて戦い続ける気持ちは少しだけ薄れたと思う。
ルインに言った通り、償いなどは自己満足にしか過ぎない。けれども、その自己満足で救える命もあるのなら悪いことでは無いだろう。
格納庫にはいつもと様相の違うグレムリンが鎮座している。大掛かりなパーツ変更だったので、近くの工場から人手を借りたくらいだ。
シミュレーションを重ねて出したアセンブルは巨大未識別専用、とまではいかないがかなりそれを無力化する事に特化出来たと思う。
普段あまり口を出さないレイルのアセンブルにも、口を出した。
彼が敵を引き付ける時間が長ければ長い程、間違いなく敵を撃墜する事が可能だ――と、いうのは半分で、残りの半分は罪悪感だ。
勝手に彼を巻き込んだといっても過言ではない。もしそれで、何か起きてしまえば自分はまた、人の死を踏み越えて生き続ける事になる。
「強がりもできなくなったかよ、情けねえ」
自嘲気味に呟くと、ひとつ深呼吸をしてグレムリンの最終確認をはじめるのだった。
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
け出したのだから、文句は言わせないだろう」
「勝手にしろ。昔のデータなんざ、たいした役にも立たねえだろうよ」
「……」
「過去は、もうどうしようもねえ。さっきお前は罪滅ぼしかと聞いたが、あんなもんは自己満足だ。今から俺が心を入れ換えて、何をしたって俺が過去にしたことはチャラにはならねえ」
ネグロの言葉にルインはふむ、と呟きながら顎を指でさすってみせる。
「……ならば世界を巻き戻すか?」
この世界が繰り返されている。
今や、誰もがそれを疑う状況が出来上がりつつある。廃工場で聞いた言葉を何故か最後まで知っている事の意味が、わかろうとている。
「興味ねえよ。過去はどうしようもねえって、言っただろうが」
それでもネグロはルインの言葉を一蹴した。繰り返される世界がいいとは、思っていない。
どんなに過去が美しくても、未来が見えなくても進むことに意味があると。
ネグロは何も言い返してこないルインを怪訝そうに見てから口をひらく。
「もう用は済んだな?」
答えも聞かずにネグロは踵を返してブリッジを出ようとする。ルインは溜め息ひとつしてから、ふとなにかを思い出してその背中に声をかけた。
「ああ――そうだ、処分だがな……少しは人と食事取るようにしろ。コミュニケーション不足は船内の指揮にも関わる」
「…………、了解」
ネグロは不本意を露にしたまま呟くとそのままブリッジを後にした。
――夢を見た。否、見せられた。
誰ともつかぬ人の姿から語られるのは世界の不具合、死に逝く世界、それを安全に終わらせる為の戦い。
「……破滅の今際にて、停滞せよ、世界」
無意識に漏れたのは、何故か記憶に刻まれている言葉。廃工場で見つけた端末の、誰とも知らない声の続き。
奇しくも、見せられた夢は更にこの世界が繰り返している事を如実に伝えてくるかのようなものだった。
「……面白くねえ」
舌打ちをしながら呟いて、ベッドから降りるとベッド脇に置いていた端末を手に取る。
巨大未識別誘導のメールを確認して、予定より遅れはしたが対処する目処がたったことを確認すればそのまま端末片手に格納庫へと向かった。
戦い続けていればいい。夢の中の誰かがそう言っていた。
その言葉に従うというつもりも、世界を守る等という大層な事を言うつもりもない。
誰かが戦わなければいけなくて、その手段があるから戦っている。
ずっとそうだ。今もその延長で、グレムリンに乗り込んでいる。
「……」
ただ、怒りに任せて戦い続ける気持ちは少しだけ薄れたと思う。
ルインに言った通り、償いなどは自己満足にしか過ぎない。けれども、その自己満足で救える命もあるのなら悪いことでは無いだろう。
格納庫にはいつもと様相の違うグレムリンが鎮座している。大掛かりなパーツ変更だったので、近くの工場から人手を借りたくらいだ。
シミュレーションを重ねて出したアセンブルは巨大未識別専用、とまではいかないがかなりそれを無力化する事に特化出来たと思う。
普段あまり口を出さないレイルのアセンブルにも、口を出した。
彼が敵を引き付ける時間が長ければ長い程、間違いなく敵を撃墜する事が可能だ――と、いうのは半分で、残りの半分は罪悪感だ。
勝手に彼を巻き込んだといっても過言ではない。もしそれで、何か起きてしまえば自分はまた、人の死を踏み越えて生き続ける事になる。
「強がりもできなくなったかよ、情けねえ」
自嘲気味に呟くと、ひとつ深呼吸をしてグレムリンの最終確認をはじめるのだった。
◆7回更新の日記ログ
未来+祝福
ガンッ!
操縦棺の中でグレイヴネットを見ていたネグロは気付けばコンソールを思い切り叩いていた。理由は、グレイヴネット内にある何某かの発言だ。
『かつて、グレムリン大隊は世界を護るために戦った。救うために』
見た瞬間に画面を消して――大きな音が響いた。
「……ふざけるなよ」
コンソールを叩いた拳を更にきつく握り締める。ここが、操縦棺の中でなければ当たり散らしただろう。それくらい、あのたった一言で腸が煮えくり返る思いだった。
グレムリン大隊が掲げる世界の中に、少なくともネグロが大切にしていたものは含まれていなかった。彼らは"必要な犠牲"として処理されたのだ。
戦争はそんなものだという自覚は当然もっているし、人はいつだって手の届くところしか守れない。グレムリンがあったとしても同じだ。
それをわかってても、許せるかどうかは別なのだ。ネグロには、この勝利者ゆえの傲慢さを許すことは出来ない。
「……くそっ」
絞り出すような声で悪態をついて、グローブボックスから袋に入ったカプセルを取り出すと、鷲掴みにして乱雑に口に放り込み水筒の美味しくない水で流し込んだ。
数度の深呼吸。
冷静さを取り戻しながら再度ネットへと接続し、未識別機体についての情報を確認しなおす。
死んだ人間の、消滅するはずだった存在のデータが今だ消えずに暴走を続けている。強化研究所からの情報を端的にまとめるとそういう事なのだろう。シートに深く座り直しながら軽く息を吐いた。死んだ人間が生き返った訳では無い。世界の不具合。世界に残されたデータだけが人の振りをしている。
その情報はネグロにとってある意味で安堵するものだった。死んだ人間をもう一度殺すような事は流石に避けたかったがその心配もないのであれば、あとはただ破壊するだけだ。本当に破壊したいものは無くなってしまって、今はその衝動だけが、宙に浮いてしまっているのだが。
「……」
ネットを切って瞑目した。
静かの海に巨大未識別を誘導してもらおうとしたが、少遅れてしまうという返答が来た。そうなれば離れていた幽霊船と今の僚機――スリーピング・レイルと巨大未識別をかち合わせることになってしまう。
艦長代理が他の人間に自分の事をどう説明したのか、ネグロには知る由もないし確認もしていない。ただ、艦長代理自身はネグロの考えを見透かしているようなそぶりがあった。
が、人の思考を考えたところで答えが見つかる訳ではない。眉根を深く寄せながらがしがし、と頭をかき乱した。
これだから、人としがらみを作るのは嫌だったのだ。そもそも、一人で対峙したかった理由は――死ぬ時は一人で死ぬべきだと思っていたからだ。真紅連理の先発隊の話を聞く限りでは、恐らく自分も到底無事で済むとは考えていない。それでも戦う事で傷を負わせ、データを拾える事が出来れば……
(俺も、同じか)
同志の命は惜しくない。そう言っていた真紅連理のオペレーターに難色を示していたくせに、同じことを考えている事に気付けば自嘲気味に口元をゆがめた。
こんな考えに他人を付き合わせる必要は無い。だからこそ、この計算外の話は余計にネグロを悩ませた。
溜め息ひとつ吐き出そうかという所で、モニターに通知が入る。
「……、チッ」
スリーピング・レイルからの通信を示したそれを見ればネグロは舌打ちをした。とことん、タイミングの悪い男だ。
そもそも、通信回線は最低限しかまだ開けていない。通じるまでに何度か試行したのだろうか。
「……」
ただ、話をしなければいけない事も事実でその点で言えばこの通信のタイミングは、悪くもなかった。
無言のまま、音声だけ通信を繋げた。
「ネグロさん」
聞こえてきた声をネグロは黙ったまま聞いている。何かを返すべきなのだろう、と思いつつも何を返せばいいのか考えあぐねていた。
「今、どこにいる? ネグロさんなら、ひとりでも、大丈夫かもしれないけど。それでも」
聞こえる声には不安が滲んでいるようにも聞こえる。あの艦長代理はろくに説明もしなかったのだろうか。
それを聞こうか、と思ったが続く言葉にだしかけた言葉を飲み込んでしまった。
「僕は、心配している」
「……っ、」
文句のひとつもこぼされる方がマシだったし、そうして欲しいことを望んでいたのにも関わらず出てきたのは身を案じる言葉だ。
そうじゃないだろ、と心の中では呟いたが未だ無言のままでいる。そろそろ、通信異常を疑われてもおかしくないだろう。
「ネグロさんは、無事で、いる?」
「……」
その言葉にただはい、と返せたら楽だったのだろうか。結局何かをいう前にレイルの言葉が止まった。
静まりかえってしまった操縦棺の中、顔を合わせてるわけでもないのに居心地が悪い。
「……人の心配なんかしてる場合か?」
居心地の悪さに耐えかねて、悪態ひとつ返して見せた。
そして、そのまま返事も聞かずに話を続ける。
「俺に拘るのは何だ?。俺の心配だとか、守りたいだとか……そういう相手は、他にもっといるだろ」
記憶が無いというのもあるのだろうが、それでもレイルはあまりに素直でそれ故に得体の知れなさを感じていた。
彼の自我に触れれば、それが少しは収まるのではないかと、そう思った。
通信機の向こうからゆっくりと声が聞こえてくる。
「単純、かもしれないけど。でも、ネグロさんは、僕を見つけてくれたから」
「……」
「僕は何も知らない。覚えてない。気付いたら、戦う力だけが手の中に、あって」
記憶が無いという事は、己の生きた道筋がわからないという事だ。それだけならまだしも、彼の手には何故か力だけがあった。
自分が同じ状況なら、どうたのか。ネグロには答えが出ない。語られる言葉の続きを、ただ待っていた。
「本当は、心細くて仕方ない。だって、何もわからないんだ。わからないまま、ただ、ただ、目の前のものを守るために、がむしゃらに戦うことしかできずにいる」
心細い、なにもわからない、そんな感情を抱えているくせに、何故何故戦うのか。見えない彼の道筋の中に、そうさせるものがあるのだろうか。
「……でも、ネグロさんは、僕に言葉をかけてくれる。僕を、見てくれる。一緒に戦ってくれる。それは、『何もわからない』という、僕の不安を払ってくれる」
語られる言葉に、ネグロは思わず眉を寄せた。レイルが思う程向き合ってはいなかったし、戦いの時はそうする方が都合がいいだけだから、なのに。
「だから、僕はネグロさんに報いたいと思っている。それは、おかしいこと、だろうか」
「……買い被りすぎだ。俺はお前から……いや、何もかもから目を背けてきた。戦闘は、生きる為に効率がよけりゃ、なんでもよかった。それだけだ」
掠れた声で呟く。
レイルが思う程、出来た人間ではない。大切にしていた過去からすらも、目を背けていた愚かで情けない人間なだけなのに。
守るものを失った。
そして、壊したかったものも、今はもう殆ど無くなってしまった。
ならば今、何のために戦うのか。
「それだけ、でも、いい。それだけでも、僕は、ネグロさんに、救われている」
臆面も無く吐き出された言葉に思わず頭を軽く掻いた。どうしてそこまで言うのか、結局の所レイルの言葉からネグロが理解くみ取れる部分はあまりなかった。ただ、きっとこの先の提案を彼は断らないだろう。その思いは確証に変わった。
ただ、もう一つだけ確認を取る必要がある。小さく息を吸って言葉を続ける。
「……死ぬつもりはない、ってのは、変わらないのか。相手が、どんな相手でも」
「死んでしまったら、何も守れないから。……死ぬつもりは、ない」
返事は即答に近かった。迷いも淀みも無い。守る為に戦う。その為に生きる。
それは、かつての自分がやりたくて出来なかった事。
胸の奥に、言葉にしがたい感情が沸き上がる。それを飲み込むように深呼吸をひとつした。
「巨大未識別の話は、聞いてるな」
ああ、と声が返ってくる。グレイヴネットを見ていれば嫌でも目に付く情報だろう。あれを見て、レイルがどう感じたかは考えるまでもないだろう。期せずして同じ方を見ていると言っても過言ではない。
「本当なら、1人でやるつもりだった……あのデカブツを放ってはおけねえ」
何となく通信機の向こうで息を呑む音が聞こえたような気がした。いくら真紅連理の応援を頼んだ所で、期待するなと向こうが言って来たのだからそういう事なのだろう。本来であれば手練れの者が数をそろえて挑むべきなのかもしれない。
「ただでは済まない可能性がある。それでも……」
それでも、行かなければいけない。全てから目を背けるのを、止めるなければいけない――手遅れだったと、しても。
「勝手な事を言ってるのはわかってる。手を貸してくれ」
逃げだした男が言う言葉ではない。言い終えて、自嘲した。あまりにも自分勝手な頼みである。しかも、レイルが何を答えるかはもう知っている。知っていて、聞いている。
「もちろん」
そして、聞こえてきたのは思った通りの返答と
「僕は死なない。ネグロさんも死なせない。そのつもりで戦うと、約束する」
思いもしなかった言葉だった。
スリーピング・レイルとの相性のよさは、過去の僚機と彼の戦い方の類似性によるものだった。けれど、どうやら今の僚機はあの頃の僚機よりも生きる事と守る事に貪欲らしい。先ほど浮かんだ言葉にしがたい感情の答えが見えてしまって、ネグロは目を細める。
「俺も、本当は……守りたかった……んだろうな」
羨ましかったのだろう。自分の状況を省みず素直な気持ちで守るという意思を持つことの出来る、彼の存在が。
ガンッ!
操縦棺の中でグレイヴネットを見ていたネグロは気付けばコンソールを思い切り叩いていた。理由は、グレイヴネット内にある何某かの発言だ。
『かつて、グレムリン大隊は世界を護るために戦った。救うために』
見た瞬間に画面を消して――大きな音が響いた。
「……ふざけるなよ」
コンソールを叩いた拳を更にきつく握り締める。ここが、操縦棺の中でなければ当たり散らしただろう。それくらい、あのたった一言で腸が煮えくり返る思いだった。
グレムリン大隊が掲げる世界の中に、少なくともネグロが大切にしていたものは含まれていなかった。彼らは"必要な犠牲"として処理されたのだ。
戦争はそんなものだという自覚は当然もっているし、人はいつだって手の届くところしか守れない。グレムリンがあったとしても同じだ。
それをわかってても、許せるかどうかは別なのだ。ネグロには、この勝利者ゆえの傲慢さを許すことは出来ない。
「……くそっ」
絞り出すような声で悪態をついて、グローブボックスから袋に入ったカプセルを取り出すと、鷲掴みにして乱雑に口に放り込み水筒の美味しくない水で流し込んだ。
数度の深呼吸。
冷静さを取り戻しながら再度ネットへと接続し、未識別機体についての情報を確認しなおす。
死んだ人間の、消滅するはずだった存在のデータが今だ消えずに暴走を続けている。強化研究所からの情報を端的にまとめるとそういう事なのだろう。シートに深く座り直しながら軽く息を吐いた。死んだ人間が生き返った訳では無い。世界の不具合。世界に残されたデータだけが人の振りをしている。
その情報はネグロにとってある意味で安堵するものだった。死んだ人間をもう一度殺すような事は流石に避けたかったがその心配もないのであれば、あとはただ破壊するだけだ。本当に破壊したいものは無くなってしまって、今はその衝動だけが、宙に浮いてしまっているのだが。
「……」
ネットを切って瞑目した。
静かの海に巨大未識別を誘導してもらおうとしたが、少遅れてしまうという返答が来た。そうなれば離れていた幽霊船と今の僚機――スリーピング・レイルと巨大未識別をかち合わせることになってしまう。
艦長代理が他の人間に自分の事をどう説明したのか、ネグロには知る由もないし確認もしていない。ただ、艦長代理自身はネグロの考えを見透かしているようなそぶりがあった。
が、人の思考を考えたところで答えが見つかる訳ではない。眉根を深く寄せながらがしがし、と頭をかき乱した。
これだから、人としがらみを作るのは嫌だったのだ。そもそも、一人で対峙したかった理由は――死ぬ時は一人で死ぬべきだと思っていたからだ。真紅連理の先発隊の話を聞く限りでは、恐らく自分も到底無事で済むとは考えていない。それでも戦う事で傷を負わせ、データを拾える事が出来れば……
(俺も、同じか)
同志の命は惜しくない。そう言っていた真紅連理のオペレーターに難色を示していたくせに、同じことを考えている事に気付けば自嘲気味に口元をゆがめた。
こんな考えに他人を付き合わせる必要は無い。だからこそ、この計算外の話は余計にネグロを悩ませた。
溜め息ひとつ吐き出そうかという所で、モニターに通知が入る。
「……、チッ」
スリーピング・レイルからの通信を示したそれを見ればネグロは舌打ちをした。とことん、タイミングの悪い男だ。
そもそも、通信回線は最低限しかまだ開けていない。通じるまでに何度か試行したのだろうか。
「……」
ただ、話をしなければいけない事も事実でその点で言えばこの通信のタイミングは、悪くもなかった。
無言のまま、音声だけ通信を繋げた。
「ネグロさん」
聞こえてきた声をネグロは黙ったまま聞いている。何かを返すべきなのだろう、と思いつつも何を返せばいいのか考えあぐねていた。
「今、どこにいる? ネグロさんなら、ひとりでも、大丈夫かもしれないけど。それでも」
聞こえる声には不安が滲んでいるようにも聞こえる。あの艦長代理はろくに説明もしなかったのだろうか。
それを聞こうか、と思ったが続く言葉にだしかけた言葉を飲み込んでしまった。
「僕は、心配している」
「……っ、」
文句のひとつもこぼされる方がマシだったし、そうして欲しいことを望んでいたのにも関わらず出てきたのは身を案じる言葉だ。
そうじゃないだろ、と心の中では呟いたが未だ無言のままでいる。そろそろ、通信異常を疑われてもおかしくないだろう。
「ネグロさんは、無事で、いる?」
「……」
その言葉にただはい、と返せたら楽だったのだろうか。結局何かをいう前にレイルの言葉が止まった。
静まりかえってしまった操縦棺の中、顔を合わせてるわけでもないのに居心地が悪い。
「……人の心配なんかしてる場合か?」
居心地の悪さに耐えかねて、悪態ひとつ返して見せた。
そして、そのまま返事も聞かずに話を続ける。
「俺に拘るのは何だ?。俺の心配だとか、守りたいだとか……そういう相手は、他にもっといるだろ」
記憶が無いというのもあるのだろうが、それでもレイルはあまりに素直でそれ故に得体の知れなさを感じていた。
彼の自我に触れれば、それが少しは収まるのではないかと、そう思った。
通信機の向こうからゆっくりと声が聞こえてくる。
「単純、かもしれないけど。でも、ネグロさんは、僕を見つけてくれたから」
「……」
「僕は何も知らない。覚えてない。気付いたら、戦う力だけが手の中に、あって」
記憶が無いという事は、己の生きた道筋がわからないという事だ。それだけならまだしも、彼の手には何故か力だけがあった。
自分が同じ状況なら、どうたのか。ネグロには答えが出ない。語られる言葉の続きを、ただ待っていた。
「本当は、心細くて仕方ない。だって、何もわからないんだ。わからないまま、ただ、ただ、目の前のものを守るために、がむしゃらに戦うことしかできずにいる」
心細い、なにもわからない、そんな感情を抱えているくせに、何故何故戦うのか。見えない彼の道筋の中に、そうさせるものがあるのだろうか。
「……でも、ネグロさんは、僕に言葉をかけてくれる。僕を、見てくれる。一緒に戦ってくれる。それは、『何もわからない』という、僕の不安を払ってくれる」
語られる言葉に、ネグロは思わず眉を寄せた。レイルが思う程向き合ってはいなかったし、戦いの時はそうする方が都合がいいだけだから、なのに。
「だから、僕はネグロさんに報いたいと思っている。それは、おかしいこと、だろうか」
「……買い被りすぎだ。俺はお前から……いや、何もかもから目を背けてきた。戦闘は、生きる為に効率がよけりゃ、なんでもよかった。それだけだ」
掠れた声で呟く。
レイルが思う程、出来た人間ではない。大切にしていた過去からすらも、目を背けていた愚かで情けない人間なだけなのに。
守るものを失った。
そして、壊したかったものも、今はもう殆ど無くなってしまった。
ならば今、何のために戦うのか。
「それだけ、でも、いい。それだけでも、僕は、ネグロさんに、救われている」
臆面も無く吐き出された言葉に思わず頭を軽く掻いた。どうしてそこまで言うのか、結局の所レイルの言葉からネグロが理解くみ取れる部分はあまりなかった。ただ、きっとこの先の提案を彼は断らないだろう。その思いは確証に変わった。
ただ、もう一つだけ確認を取る必要がある。小さく息を吸って言葉を続ける。
「……死ぬつもりはない、ってのは、変わらないのか。相手が、どんな相手でも」
「死んでしまったら、何も守れないから。……死ぬつもりは、ない」
返事は即答に近かった。迷いも淀みも無い。守る為に戦う。その為に生きる。
それは、かつての自分がやりたくて出来なかった事。
胸の奥に、言葉にしがたい感情が沸き上がる。それを飲み込むように深呼吸をひとつした。
「巨大未識別の話は、聞いてるな」
ああ、と声が返ってくる。グレイヴネットを見ていれば嫌でも目に付く情報だろう。あれを見て、レイルがどう感じたかは考えるまでもないだろう。期せずして同じ方を見ていると言っても過言ではない。
「本当なら、1人でやるつもりだった……あのデカブツを放ってはおけねえ」
何となく通信機の向こうで息を呑む音が聞こえたような気がした。いくら真紅連理の応援を頼んだ所で、期待するなと向こうが言って来たのだからそういう事なのだろう。本来であれば手練れの者が数をそろえて挑むべきなのかもしれない。
「ただでは済まない可能性がある。それでも……」
それでも、行かなければいけない。全てから目を背けるのを、止めるなければいけない――手遅れだったと、しても。
「勝手な事を言ってるのはわかってる。手を貸してくれ」
逃げだした男が言う言葉ではない。言い終えて、自嘲した。あまりにも自分勝手な頼みである。しかも、レイルが何を答えるかはもう知っている。知っていて、聞いている。
「もちろん」
そして、聞こえてきたのは思った通りの返答と
「僕は死なない。ネグロさんも死なせない。そのつもりで戦うと、約束する」
思いもしなかった言葉だった。
スリーピング・レイルとの相性のよさは、過去の僚機と彼の戦い方の類似性によるものだった。けれど、どうやら今の僚機はあの頃の僚機よりも生きる事と守る事に貪欲らしい。先ほど浮かんだ言葉にしがたい感情の答えが見えてしまって、ネグロは目を細める。
「俺も、本当は……守りたかった……んだろうな」
羨ましかったのだろう。自分の状況を省みず素直な気持ちで守るという意思を持つことの出来る、彼の存在が。
◆6回更新の日記ログ
過去を振り返る。未来を仰ぐ。誰かの祝福になりたいと願う。
*
*
*
* 通信を一時停止します
再三の帰艦を促す通信を振り切って、カズアーリオスは単機で戦場を離脱――あらゆる通信を遮断して、機体の機能を一時的に眠らせることで僚機関係を一時的にはずすことに成功した。
ただ、完全に削除する事はやはりできなかった。それに、おそかれはやかれグレイヴネットにも接続しなければいけなくなる。そうすればその隙に自分の居所を知られる事など想像するに容易い。
この時間がそう長くは続かないと、ネグロ自身も感じていた。
でも、別にそれでいい。別離が無理なら興味を失えばいい、嫌ってくれればいい。何もいわずにいなくなる者に、情などかけなければいい。
この関係を、居心地のよさを、得難いものだと感じてしまう前に終わらせる。
己の弱さから目を背けて、他人に理由を押し付けて――自分が一番嫌いな行為をそうやって続けている。
東に進路を取り、幽霊船と離れた先にたどり着いたのは巨大な光の柱が立つ世界の果て。墓所とも呼ばれる場所だった。
海深くから天高くまで伸びる光は、粉塵にまみれた視界からでも見えるほどある。
あれは思念の光なのか、それとも夢に出てきた光の河に関わりがあるのだろうか……疑問の答えのかわりに聞こえてくるのは"希望を探しに行こう"とささやいて来る何かの声である。厳かに辺りに響き渡るそれが、《対流思念》と呼ばれるものだという事はわかるが、《対流思念》が何なのかは何もわからない。
「……ッ、くそ、うるせえな」
人によってはこの声に心を奪われるのかもしれないし、この声に救われるのかもしれない。
しかし、ネグロにとってこの声は煩わしいだけではなく声が響いて来る度に身体に刻まれている傷がじわりと痛んでくるのだ。
ネグロ自身も戦闘において、充填を貯めてからの"極彩色の放射光"や"祝福された放射光"を利用する。強い思念の光は、発する度に身体を焼き、全身には無数の傷が浮かんでは消え、時には刻み込まれていく。傷が付く理由はわからないが、ネグロを支配する思念に怒りが多いことが原因ではないか、と何処かの誰かに訳知り顔で言われた気がするが、真偽は定かでない。
その傷が、《対流思念》の声を聞く度に痛みを産む。
味方機も敵機も、レーダーに反応はない。誰もいない海の上、1人思念に語りかけられながら、ネグロは無理矢理眠るためにも目を閉じた。
――光が、昇る。
夢を見ているのだと理解こそすれ、目覚めることはない。
無限の希望、時を進める、希望の到達、≪対流思念≫が眠りの中でも尚、語りかけてくる事に煩わしさを覚えながらネグロの視線は落ちていく光に向けられた。
光と共に視線が緩やかに落ちていく。
また、何処かの戦場の夢を見させられるのか。
そんな悪態すらついてしまいたくなったが、視界が靄を掻き分けて海面に移動していくにつれて、その感情は何処かへと消えていった。
(――あれは、)
そこでは、ある部隊と数体のグレムリンの戦闘が行われている。
当然、並大抵の機体ではグレムリンに傷を負わせる事すら難しく、部隊は少しずつ追い詰められていく。
一機、また一機と仲間達が墜ちていくのを視界に納めながら、またその視界がぐるりと動き始めた。
戦場の一角で、大破した機体。それはあの時にネグロ自身が乗っていたものだった。
もう殆ど動かないその機体を見たグレムリン一機は、他の機体を探してその場を去っていく。
視界は、ボロボロの機体の中、操縦棺へと進んでいく。
『カイト! 大丈夫か!?』
「……大丈夫じゃ、ねえな」
通信機から僚機の音声だけが聞こえる。この時の自分は、ひしゃげた操縦棺に左腕が挟まっていて、とてもじゃないが役に立たない、死に体の状態だった。
(エニィの、声)
忘れるはずもない。死に体だった自分を庇って死んでしまった僚機の事を。彼は、自らの名前をあまり気に言っておらずエニィという愛称を好んで使っていた。
何故今、こんな夢を。疑問への答えはなくただ、目の前の出来事を見聞きすることしかできない、
なんとか生きているレーダーが、僚機の接近を映し出す。
『囲まれとるし、全滅も時間の問題や。こりゃあ、撃つやろなあ……"アレ"』
「俺は……いい、から、お前は……逃げろ……!」
通信機から聞こえる僚機の声。息も絶え絶えの自分の声。日々薄れていく記憶とは違う、鮮明に写された映像と音声。それは現実と同じだった。
僚機の言う"アレ"とは勿論、重粒子粉塵投射砲だ。実際に撃たれて、自分以外だれも生き残らなかったのだから。
『こうなったら、ザッ……もう、お…ザザッげやな……ウチはもうええわ。ザーッ、……タが生きや』
「……な、にを」
記憶と同じ言葉が聞こえて、記憶と同じように自分の意識はそこで途切れた。ただ、記憶と違うのはそれを俯瞰で見ている自分がいるという事だ。
記憶の中の空白の時間が、目の前で流れていく。
『……っと、なんや通信機の調子こんなトコで……お、直った? おーい、起きとる? ……寝とる? そっか。じゃあ、これは内緒の遺言やな。機体毎吹っ飛べばデータも残らへんけど、ま、ええやろ』
通信機から尚も聞こえる声にもうすぐ自分が死んでしまうという悲壮感は無い。どこにも残されなかった遺言――記録には残らなくても、その思念は残り、形になったというのだろうか。
夢だというのに、額から汗が流れるのを感じる。何が、聞こえてくるのか。期待と不安で呼吸が乱れるような錯覚に陥る。
『ウチが盾になれば、多分アンタは生き残る。お先に死に逃げや。アンタ守って死ねるなんてカッコつけれるんやから、させてな? しょーじき、このまま生きてても辛いなあとかたまに思ってたんでちょうどええわ』
軽快な口調から語られる言葉をネグロは必死に聞き落とさないようにしていた。
その間も、仲間の断末魔が時折聞こえてくる。
『……気にしちゃうんかなあ。背負っちゃうかもなあ、アンタ、真面目やもんな。多分アンタはこの先も辛いやろなあ……でも、アンタには家族もおるやろ? この世界で生きてたんやろ? ……ごめんな、逃げる理由にアンタ使っちゃってるわ。でも、これ嘘やないで』
ネグロは何かを言おうとしたが、言葉にならない。今見ているのは夢で、この時の自分は気を失っているのだから当然なのだが、それすら忘れて必死に声を出そうとした。
『……ま、ウチはこれで満足やから、気にしなくてええよ。ただ、せやな――アンタが元気に……ザッ、きてくれた……チは、――ザザーッ、うれ……ザーッ、……』
(っ、待って、待ってくれ……!俺は、俺は――!)
声なき声が僚機に届くことがないまま、視界は真っ赤な粉塵に染められていった。
「………」
ハッ、と目が覚めるとそこは、いつもの操縦棺の中だった。
やけに喉が乾いている。水筒に入っている泥水をほんの少しだけ口にして喉を潤す。
ゆっくりと呼吸をしながら夢の事を思い出す。あれは、思念が聞いていたはずの記憶を呼び起こしてくれたのだろうか。それとも、ありもしない夢を見せられたのだろうか。
「……、ッ、」
喉から、声にならない声を漏らしながら額に巻いていたバンダナを掴んで目を隠すように下ろした。あれはきっと思念が見せた現実だと、少なくともネグロにはそう感じられた。
今の自分は、彼らに――いなくなってしまった大切な人達に、胸を張れる様な生き方が出来ているだろうか?
全てを破壊するなんて、自分の弱さを隠す為の方便でしかない。心はずっと過去に囚われたまま、ただ力を振るっている。
「……っ、ぁ、」
操縦棺の中、1人。情けない嗚咽を噛み殺す。ここで声を出してしまうと、ずっと我慢していた張りつめていたものが切れてしまう気がした。今更だ、何とはなしにそう思った。もう、ここからどうしたって、戻れなくなってしまった。戻り方が、わからなくなってしまった。
『それだけ、ネグロさんの『世界』は、大切なものだったんだな』
『僕には無いものを、ネグロさんが持っていると思うから。僕には無いものを、守れたらいいと思うから』
不意に浮かんだ、今の僚機の――スリーピング・レイルの言葉。
大切な世界だった。守りたいと思っていた。
そうだ、俺だって出来るなら守りたかった。
けれど、守れなかった。
力を得られたのは全て失ってからで、しかもそれは、大切な世界を壊した力そのもので。
「今更……どうしろって……言うんだよ」
何かに気付かされてしまった。その何かがわからないまま、ネグロは一人操縦棺で声を殺し続けた。
*
*
*
* 通信の一時停止を解除します
*
*
*
* 新着メールがあります
それだけ時間が経ったかはわからないが、気付けばネグロは停止していた通信を自らの手で解除していた。それは、己の弱さを認める行為でもあった。
届いていたメールを開き、内容を確認する。音声メッセージを聞くその眉間に深い皺が寄せられた。
「……変わらねえな」
舌打ちひとつして呟くと武骨な手がコンソールを叩く。"真紅連理のために"と合言葉を入力して、送信をする。
この選択が何かに報いる選択になるのかどうか、答えはわからないまま。
『……17年前にクズルエムアリウス隊に所属していた、カイト・タックムーアだ。同志の力を借りたい――加勢を頼む』
*
*
*
* 通信を一時停止します
再三の帰艦を促す通信を振り切って、カズアーリオスは単機で戦場を離脱――あらゆる通信を遮断して、機体の機能を一時的に眠らせることで僚機関係を一時的にはずすことに成功した。
ただ、完全に削除する事はやはりできなかった。それに、おそかれはやかれグレイヴネットにも接続しなければいけなくなる。そうすればその隙に自分の居所を知られる事など想像するに容易い。
この時間がそう長くは続かないと、ネグロ自身も感じていた。
でも、別にそれでいい。別離が無理なら興味を失えばいい、嫌ってくれればいい。何もいわずにいなくなる者に、情などかけなければいい。
この関係を、居心地のよさを、得難いものだと感じてしまう前に終わらせる。
己の弱さから目を背けて、他人に理由を押し付けて――自分が一番嫌いな行為をそうやって続けている。
東に進路を取り、幽霊船と離れた先にたどり着いたのは巨大な光の柱が立つ世界の果て。墓所とも呼ばれる場所だった。
海深くから天高くまで伸びる光は、粉塵にまみれた視界からでも見えるほどある。
あれは思念の光なのか、それとも夢に出てきた光の河に関わりがあるのだろうか……疑問の答えのかわりに聞こえてくるのは"希望を探しに行こう"とささやいて来る何かの声である。厳かに辺りに響き渡るそれが、《対流思念》と呼ばれるものだという事はわかるが、《対流思念》が何なのかは何もわからない。
「……ッ、くそ、うるせえな」
人によってはこの声に心を奪われるのかもしれないし、この声に救われるのかもしれない。
しかし、ネグロにとってこの声は煩わしいだけではなく声が響いて来る度に身体に刻まれている傷がじわりと痛んでくるのだ。
ネグロ自身も戦闘において、充填を貯めてからの"極彩色の放射光"や"祝福された放射光"を利用する。強い思念の光は、発する度に身体を焼き、全身には無数の傷が浮かんでは消え、時には刻み込まれていく。傷が付く理由はわからないが、ネグロを支配する思念に怒りが多いことが原因ではないか、と何処かの誰かに訳知り顔で言われた気がするが、真偽は定かでない。
その傷が、《対流思念》の声を聞く度に痛みを産む。
味方機も敵機も、レーダーに反応はない。誰もいない海の上、1人思念に語りかけられながら、ネグロは無理矢理眠るためにも目を閉じた。
――光が、昇る。
夢を見ているのだと理解こそすれ、目覚めることはない。
無限の希望、時を進める、希望の到達、≪対流思念≫が眠りの中でも尚、語りかけてくる事に煩わしさを覚えながらネグロの視線は落ちていく光に向けられた。
光と共に視線が緩やかに落ちていく。
また、何処かの戦場の夢を見させられるのか。
そんな悪態すらついてしまいたくなったが、視界が靄を掻き分けて海面に移動していくにつれて、その感情は何処かへと消えていった。
(――あれは、)
そこでは、ある部隊と数体のグレムリンの戦闘が行われている。
当然、並大抵の機体ではグレムリンに傷を負わせる事すら難しく、部隊は少しずつ追い詰められていく。
一機、また一機と仲間達が墜ちていくのを視界に納めながら、またその視界がぐるりと動き始めた。
戦場の一角で、大破した機体。それはあの時にネグロ自身が乗っていたものだった。
もう殆ど動かないその機体を見たグレムリン一機は、他の機体を探してその場を去っていく。
視界は、ボロボロの機体の中、操縦棺へと進んでいく。
『カイト! 大丈夫か!?』
「……大丈夫じゃ、ねえな」
通信機から僚機の音声だけが聞こえる。この時の自分は、ひしゃげた操縦棺に左腕が挟まっていて、とてもじゃないが役に立たない、死に体の状態だった。
(エニィの、声)
忘れるはずもない。死に体だった自分を庇って死んでしまった僚機の事を。彼は、自らの名前をあまり気に言っておらずエニィという愛称を好んで使っていた。
何故今、こんな夢を。疑問への答えはなくただ、目の前の出来事を見聞きすることしかできない、
なんとか生きているレーダーが、僚機の接近を映し出す。
『囲まれとるし、全滅も時間の問題や。こりゃあ、撃つやろなあ……"アレ"』
「俺は……いい、から、お前は……逃げろ……!」
通信機から聞こえる僚機の声。息も絶え絶えの自分の声。日々薄れていく記憶とは違う、鮮明に写された映像と音声。それは現実と同じだった。
僚機の言う"アレ"とは勿論、重粒子粉塵投射砲だ。実際に撃たれて、自分以外だれも生き残らなかったのだから。
『こうなったら、ザッ……もう、お…ザザッげやな……ウチはもうええわ。ザーッ、……タが生きや』
「……な、にを」
記憶と同じ言葉が聞こえて、記憶と同じように自分の意識はそこで途切れた。ただ、記憶と違うのはそれを俯瞰で見ている自分がいるという事だ。
記憶の中の空白の時間が、目の前で流れていく。
『……っと、なんや通信機の調子こんなトコで……お、直った? おーい、起きとる? ……寝とる? そっか。じゃあ、これは内緒の遺言やな。機体毎吹っ飛べばデータも残らへんけど、ま、ええやろ』
通信機から尚も聞こえる声にもうすぐ自分が死んでしまうという悲壮感は無い。どこにも残されなかった遺言――記録には残らなくても、その思念は残り、形になったというのだろうか。
夢だというのに、額から汗が流れるのを感じる。何が、聞こえてくるのか。期待と不安で呼吸が乱れるような錯覚に陥る。
『ウチが盾になれば、多分アンタは生き残る。お先に死に逃げや。アンタ守って死ねるなんてカッコつけれるんやから、させてな? しょーじき、このまま生きてても辛いなあとかたまに思ってたんでちょうどええわ』
軽快な口調から語られる言葉をネグロは必死に聞き落とさないようにしていた。
その間も、仲間の断末魔が時折聞こえてくる。
『……気にしちゃうんかなあ。背負っちゃうかもなあ、アンタ、真面目やもんな。多分アンタはこの先も辛いやろなあ……でも、アンタには家族もおるやろ? この世界で生きてたんやろ? ……ごめんな、逃げる理由にアンタ使っちゃってるわ。でも、これ嘘やないで』
ネグロは何かを言おうとしたが、言葉にならない。今見ているのは夢で、この時の自分は気を失っているのだから当然なのだが、それすら忘れて必死に声を出そうとした。
『……ま、ウチはこれで満足やから、気にしなくてええよ。ただ、せやな――アンタが元気に……ザッ、きてくれた……チは、――ザザーッ、うれ……ザーッ、……』
(っ、待って、待ってくれ……!俺は、俺は――!)
声なき声が僚機に届くことがないまま、視界は真っ赤な粉塵に染められていった。
「………」
ハッ、と目が覚めるとそこは、いつもの操縦棺の中だった。
やけに喉が乾いている。水筒に入っている泥水をほんの少しだけ口にして喉を潤す。
ゆっくりと呼吸をしながら夢の事を思い出す。あれは、思念が聞いていたはずの記憶を呼び起こしてくれたのだろうか。それとも、ありもしない夢を見せられたのだろうか。
「……、ッ、」
喉から、声にならない声を漏らしながら額に巻いていたバンダナを掴んで目を隠すように下ろした。あれはきっと思念が見せた現実だと、少なくともネグロにはそう感じられた。
今の自分は、彼らに――いなくなってしまった大切な人達に、胸を張れる様な生き方が出来ているだろうか?
全てを破壊するなんて、自分の弱さを隠す為の方便でしかない。心はずっと過去に囚われたまま、ただ力を振るっている。
「……っ、ぁ、」
操縦棺の中、1人。情けない嗚咽を噛み殺す。ここで声を出してしまうと、ずっと我慢していた張りつめていたものが切れてしまう気がした。今更だ、何とはなしにそう思った。もう、ここからどうしたって、戻れなくなってしまった。戻り方が、わからなくなってしまった。
『それだけ、ネグロさんの『世界』は、大切なものだったんだな』
『僕には無いものを、ネグロさんが持っていると思うから。僕には無いものを、守れたらいいと思うから』
不意に浮かんだ、今の僚機の――スリーピング・レイルの言葉。
大切な世界だった。守りたいと思っていた。
そうだ、俺だって出来るなら守りたかった。
けれど、守れなかった。
力を得られたのは全て失ってからで、しかもそれは、大切な世界を壊した力そのもので。
「今更……どうしろって……言うんだよ」
何かに気付かされてしまった。その何かがわからないまま、ネグロは一人操縦棺で声を殺し続けた。
*
*
*
* 通信の一時停止を解除します
*
*
*
* 新着メールがあります
それだけ時間が経ったかはわからないが、気付けばネグロは停止していた通信を自らの手で解除していた。それは、己の弱さを認める行為でもあった。
届いていたメールを開き、内容を確認する。音声メッセージを聞くその眉間に深い皺が寄せられた。
「……変わらねえな」
舌打ちひとつして呟くと武骨な手がコンソールを叩く。"真紅連理のために"と合言葉を入力して、送信をする。
この選択が何かに報いる選択になるのかどうか、答えはわからないまま。
『……17年前にクズルエムアリウス隊に所属していた、カイト・タックムーアだ。同志の力を借りたい――加勢を頼む』
◆5回更新の日記ログ
生きる限り、未来があるとして、祝福無き呪われた道は、未来と言えるのだろうか。
16年前――七月戦役終結。
あの戦いで多くの人間が様々なものを失った。
仲間もその中のひとつ。特に、僚機ともなれば戦場においての半身であり彼らを失った傷が癒えないまま、今も戦い続けている者達は少なくない。
新たな僚機が望む、望まざる関係なく隣にいたとしてそれは過去共に戦った仲間を埋める存在となりえる事は無い。
グレイヴネットで広まる噂。そして、それを立証するような音声データ。過去に囚われ、惑わされた者達が行方知れずとなった話。ネットを流れていく情報はその話でもちきりとなっていた。
煩わしい。自室のベッドでネットの情報を一通り見たネグロは口の中でそう呟いて接続を切った。いつものように携帯端末を放りなげて寝転がる。時間からいうともう寝た方がいいのだが、眼が冴えてしまった。
万が一自分が同じ状況になったとしたら?仲間達や僚機が生き返らない事などわかっている。わかっていても、幻だとしても偽物だとしても、再び目の前に現れた時それを自らの手で始末する事が出来るのか?
「……」
やるしかないと理解してても、簡単にできる事ではない。だからこそ、多くの傷を持った者達が過去に囚われていくのだ。過去に流される者達をとどめられるとすればそれは、今を生きている者達だけなのだろう。
けれどネグロには自分をとどめてくれるだろう者はいない。自分でそれを避けてきたのだから当然だ――それこそが、すでに過去に囚われ続けているからだという事に気が付きながらも。
「ああ、クソ!」
苛立つのは紛れもなく自分に対してだ。寝る前にネットなんか見るんじゃなかったと後悔しても手遅れだ。こんな気分では眠れる筈も無い。頭を乱雑にかき乱してからベッドを飛び起きると工具箱を手にして自室を後にする。向かう先は当然格納庫だ。
ここ最近は本当に、満足に自分の機体を弄る事も出来ていない。ミアは暇なしついて来ては色々な事を聞いたりしてくるし、ツィールもエリエスも気にしてしまうとどこまでも気になってしまう程度には整備慣れしていない。自然と世話を焼いてしまうのは、遠く昔の蓋をしていた記憶を身体が覚えているからなのだろう。
ただ、若さのおかげか飲み込みが早いのは幸いで特に整備の心得があるミアは、ツィールやエリエスに教えたりする事もある。日々成長をしていく彼女らを見ていくうちに自然と絆されている、と頭は理解している。しかし心はその居心地の良さを求めてしまっている。
この幽霊船に乗った事を後悔する事も少なくは無かった。居場所があるという事はこうして無駄な事を考える時間を作ってしまうという事をすっかりと、忘れていたのだから。
長い息を吐きながら、誰もいない格納庫に足を踏み入れる。最低限のライトをつけて、昼間の整備を教える片手間に確認して気になっていたパーツを取り外すべく足場をくみ上げた。静かな格納庫内に、金属がぶつかりこすれ合う音だけが響く。こうして、機体と向き合っている間だけは何も考えなくていい。
ひとつひとつ、異常や劣化を確認していく。当然、一人で全てを丁寧にしている時間はないので整備工場でしている時よりもずっと流し見だ。最低限の中でも最高に機体が動くようになんとかする。それも整備士としての腕前には必要だ。
ようやく整備作業の流れがのりはじめた所で、不意に扉の開く音が聞こえた。静かな格納庫内では、どれだけ気を付けていてもその音は響いてしまう。
何事かとネグロが視線を向けた先、まるで亡霊のようにうっそりとした姿と目が合って思わず眉をしかめてしまった。
「ネグロ、さん」
亡霊のような姿――僚機であるスリーピング・レイルは視線が合えば挨拶をしてくる。けれどもネグロはそれに対して返事をせずに一度じ、と牽制するような視線を向けると整備作業に戻って行った。
ネグロはあのレイルという男が正直に言って嫌いだった。何を考えているか得体が知れず、それでいて使命感に酔っているような男。同じ記憶喪失であっても、思考や感情がツィールの方がはっきりしているように感じる。端的にいうとスリーピング・レイルには自我が感じられない。その名の通り、彼はずっとどこか夢うつつなのだ。
「こんな時間まで、整備をしていたんだ」
今だって無視を決め込んだというのに歩み寄って声をかけてきた。無視されたという自覚が無いのか、そもそもこれは独り言なのか。背後に気配を感じながらネグロはそちらを意識しないように整備を続けようとしたが……
「……何だ、鬱陶しい」
無理だった。
このまま、独り言か問いかけかわからない言葉をずっと吐き出されるよりも明確な意図がわかる会話の方がずっと楽な事に気が付いてしまった。思えば、まともな会話等最初に呼びかけた時以外ほとんどしていない。
一拍おいて「ごめんなさい」と声が聞こえて来た。この微妙なタイミングのズレすら、彼が何処か虚ろでいる事の証左ではないのだろうか。レイルの謝罪に返事をする事もなくネグロは整備を続けていく。
背後の気配が遠ざかる事は無く黙って見つめられているのは正直落ち着かないが、どうせ言っても聞かないのだと半ばあきらめの気持ちもあった。出来れば、このまま無言で終わればいい。しかし、願いが叶う事はなかった。
「いつも、ミアさんに、色々教えてくれてありがとう。僕も、とても、助かってる。それと」
「……」
ゆっくりとレイルの口から言葉が流れ出したのをネグロは一瞬だけ横目で伺ってしまった。感謝の言葉だけ終わるつもりの無い言葉尻。ただ、独り言ではなく明確に自分に向けられていた言葉だった。そちらの方が幾分か座りがいいのは確かだが、それにこたえるかどうかというと話は別だ。
相変わらず、整備の手を止める事は無い。
「質問が、あるんだ」
確認が終わったパーツをグレムリンにはめていく。ゆるみがないようにしっかりと。まるで話なんか聞いていないというかのように、その動きは淀みなくいつも通りに行われていく。
「ネグロさんは、本当は、テイマーじゃなくて、整備士だって、ミアさんから、聞いた」
「……チッ」
余計な事を、と言いたげに舌打ちを一つこぼしてしまった。望んでテイマーを続けている訳じゃない。兵器だけではない、人々の世界に寄り添う機会だって直してた頃があった。そうじゃなくても、何かを直す事で人と繋がれる事、感謝される事が好きだった。
とうとう、整備の手が止まる。
「その時から、ずっと、気にかかっていたんだ。……ネグロさんは、どうして、グレムリンに乗って、戦いに身を投じているんだ?」
「……」
「ネグロさんは『お前が俺の何を知ってる』って言った。確かに、僕は何も知らない、けど。……ネグロさんが、戦いを好んでいるようには、どうしても、見えない」
諦めたようにレイルの顔を見れば、まっすぐに自分を見返している事に気が付いてしまう。何も知らない、何も覚えていないくせに、憎たらしいくらいに意志ばかり強い男の、それを象徴するかのような強い瞳にネグロは思わず眉根を寄せた。
「……知らないから知ろうって言うのか、殊勝な事だな」
皮肉を混ぜて言った所できっとその皮肉は届いていない。ただ愛想の無い言葉だけが格納庫の中に響いている。
黙ってほっとけばいいものを、わざわざ答えてやるんだからよほど参っているんだと思った。
「――知りたきゃ教えてやる。生きる為に戦うんだ」
「生きる、為に」
鸚鵡返しに呟かれる言葉。その意味を深く噛み砕いて自分の中に飲み込ませようとする呟き。何の感情にも染まっていない純粋な言葉が、ひどく恐ろしく感じられた。やっぱり、この男の底が知れない。
「俺は、俺の身体が動く限り、この世界を破壊しやがった全てを……俺がブチ壊してやるんだ……!」
ぎり、自然を奥歯を噛み締めた。ネグロの中に常に渦を巻いているのは、全てを壊され失った悲しみと、怒りだ。過去を持たない、過去を覚えていないもの達に自分のこの気持ちなんて到底理解できる筈無いのだ。言い様のない感情が身体を駆け巡り、震わせる。
「……終わりだ。これ以上は何もねえ」
呻くように言葉を吐き出してレイルに再び背を向ける。けれど、その手が再び整備作業をはじめる事は出来なかった。かといって、その場を後にする事も出来ずにただ背後にある気配が消えるのを待つことしかできない。そして、相も変わらずこの背後の気配はネグロの思う通りの行動をとる事はなかった。
「それが、ネグロさんにとって『生きる』ということなのか」
抑揚の薄い響きが背後から聞こえてくる。何かに納得したのだろうか。何も得てくれなくてもいいのに。うるさい、と罵声を浴びせる事も出来ないままただ立ち尽くしている。
「それだけ、ネグロさんの『世界』は、大切なものだったんだな」
何がわかったのだろう。何を知ったのだろう。表面だけをなぞって、それで。
「僕はネグロさんと、もっと、一緒に居たい」
どうしてそうなるんだ。これ以上、何もかも、世界の汚れすら忘れてしまった瞳をまだ向けてこようというのか。
「僕には無いものを、ネグロさんが持っていると思うから。僕には無いものを、守れたらいいと思うから」
お前が得るべきなのは、俺のものではなくて、お前自身のものではないのか。
「終わりだって言ったのは、聞こえなかったのか?」
背をむけたままレイルに絞り出した声は震えていた。
この言葉がきいたのか、そもそもレイルの言いたい事が終わったのか。それはわからないが、言葉は終わる。
最後の一言を残して。
「……おやすみ、ネグロさん」
16年前――七月戦役終結。
あの戦いで多くの人間が様々なものを失った。
仲間もその中のひとつ。特に、僚機ともなれば戦場においての半身であり彼らを失った傷が癒えないまま、今も戦い続けている者達は少なくない。
新たな僚機が望む、望まざる関係なく隣にいたとしてそれは過去共に戦った仲間を埋める存在となりえる事は無い。
グレイヴネットで広まる噂。そして、それを立証するような音声データ。過去に囚われ、惑わされた者達が行方知れずとなった話。ネットを流れていく情報はその話でもちきりとなっていた。
煩わしい。自室のベッドでネットの情報を一通り見たネグロは口の中でそう呟いて接続を切った。いつものように携帯端末を放りなげて寝転がる。時間からいうともう寝た方がいいのだが、眼が冴えてしまった。
万が一自分が同じ状況になったとしたら?仲間達や僚機が生き返らない事などわかっている。わかっていても、幻だとしても偽物だとしても、再び目の前に現れた時それを自らの手で始末する事が出来るのか?
「……」
やるしかないと理解してても、簡単にできる事ではない。だからこそ、多くの傷を持った者達が過去に囚われていくのだ。過去に流される者達をとどめられるとすればそれは、今を生きている者達だけなのだろう。
けれどネグロには自分をとどめてくれるだろう者はいない。自分でそれを避けてきたのだから当然だ――それこそが、すでに過去に囚われ続けているからだという事に気が付きながらも。
「ああ、クソ!」
苛立つのは紛れもなく自分に対してだ。寝る前にネットなんか見るんじゃなかったと後悔しても手遅れだ。こんな気分では眠れる筈も無い。頭を乱雑にかき乱してからベッドを飛び起きると工具箱を手にして自室を後にする。向かう先は当然格納庫だ。
ここ最近は本当に、満足に自分の機体を弄る事も出来ていない。ミアは暇なしついて来ては色々な事を聞いたりしてくるし、ツィールもエリエスも気にしてしまうとどこまでも気になってしまう程度には整備慣れしていない。自然と世話を焼いてしまうのは、遠く昔の蓋をしていた記憶を身体が覚えているからなのだろう。
ただ、若さのおかげか飲み込みが早いのは幸いで特に整備の心得があるミアは、ツィールやエリエスに教えたりする事もある。日々成長をしていく彼女らを見ていくうちに自然と絆されている、と頭は理解している。しかし心はその居心地の良さを求めてしまっている。
この幽霊船に乗った事を後悔する事も少なくは無かった。居場所があるという事はこうして無駄な事を考える時間を作ってしまうという事をすっかりと、忘れていたのだから。
長い息を吐きながら、誰もいない格納庫に足を踏み入れる。最低限のライトをつけて、昼間の整備を教える片手間に確認して気になっていたパーツを取り外すべく足場をくみ上げた。静かな格納庫内に、金属がぶつかりこすれ合う音だけが響く。こうして、機体と向き合っている間だけは何も考えなくていい。
ひとつひとつ、異常や劣化を確認していく。当然、一人で全てを丁寧にしている時間はないので整備工場でしている時よりもずっと流し見だ。最低限の中でも最高に機体が動くようになんとかする。それも整備士としての腕前には必要だ。
ようやく整備作業の流れがのりはじめた所で、不意に扉の開く音が聞こえた。静かな格納庫内では、どれだけ気を付けていてもその音は響いてしまう。
何事かとネグロが視線を向けた先、まるで亡霊のようにうっそりとした姿と目が合って思わず眉をしかめてしまった。
「ネグロ、さん」
亡霊のような姿――僚機であるスリーピング・レイルは視線が合えば挨拶をしてくる。けれどもネグロはそれに対して返事をせずに一度じ、と牽制するような視線を向けると整備作業に戻って行った。
ネグロはあのレイルという男が正直に言って嫌いだった。何を考えているか得体が知れず、それでいて使命感に酔っているような男。同じ記憶喪失であっても、思考や感情がツィールの方がはっきりしているように感じる。端的にいうとスリーピング・レイルには自我が感じられない。その名の通り、彼はずっとどこか夢うつつなのだ。
「こんな時間まで、整備をしていたんだ」
今だって無視を決め込んだというのに歩み寄って声をかけてきた。無視されたという自覚が無いのか、そもそもこれは独り言なのか。背後に気配を感じながらネグロはそちらを意識しないように整備を続けようとしたが……
「……何だ、鬱陶しい」
無理だった。
このまま、独り言か問いかけかわからない言葉をずっと吐き出されるよりも明確な意図がわかる会話の方がずっと楽な事に気が付いてしまった。思えば、まともな会話等最初に呼びかけた時以外ほとんどしていない。
一拍おいて「ごめんなさい」と声が聞こえて来た。この微妙なタイミングのズレすら、彼が何処か虚ろでいる事の証左ではないのだろうか。レイルの謝罪に返事をする事もなくネグロは整備を続けていく。
背後の気配が遠ざかる事は無く黙って見つめられているのは正直落ち着かないが、どうせ言っても聞かないのだと半ばあきらめの気持ちもあった。出来れば、このまま無言で終わればいい。しかし、願いが叶う事はなかった。
「いつも、ミアさんに、色々教えてくれてありがとう。僕も、とても、助かってる。それと」
「……」
ゆっくりとレイルの口から言葉が流れ出したのをネグロは一瞬だけ横目で伺ってしまった。感謝の言葉だけ終わるつもりの無い言葉尻。ただ、独り言ではなく明確に自分に向けられていた言葉だった。そちらの方が幾分か座りがいいのは確かだが、それにこたえるかどうかというと話は別だ。
相変わらず、整備の手を止める事は無い。
「質問が、あるんだ」
確認が終わったパーツをグレムリンにはめていく。ゆるみがないようにしっかりと。まるで話なんか聞いていないというかのように、その動きは淀みなくいつも通りに行われていく。
「ネグロさんは、本当は、テイマーじゃなくて、整備士だって、ミアさんから、聞いた」
「……チッ」
余計な事を、と言いたげに舌打ちを一つこぼしてしまった。望んでテイマーを続けている訳じゃない。兵器だけではない、人々の世界に寄り添う機会だって直してた頃があった。そうじゃなくても、何かを直す事で人と繋がれる事、感謝される事が好きだった。
とうとう、整備の手が止まる。
「その時から、ずっと、気にかかっていたんだ。……ネグロさんは、どうして、グレムリンに乗って、戦いに身を投じているんだ?」
「……」
「ネグロさんは『お前が俺の何を知ってる』って言った。確かに、僕は何も知らない、けど。……ネグロさんが、戦いを好んでいるようには、どうしても、見えない」
諦めたようにレイルの顔を見れば、まっすぐに自分を見返している事に気が付いてしまう。何も知らない、何も覚えていないくせに、憎たらしいくらいに意志ばかり強い男の、それを象徴するかのような強い瞳にネグロは思わず眉根を寄せた。
「……知らないから知ろうって言うのか、殊勝な事だな」
皮肉を混ぜて言った所できっとその皮肉は届いていない。ただ愛想の無い言葉だけが格納庫の中に響いている。
黙ってほっとけばいいものを、わざわざ答えてやるんだからよほど参っているんだと思った。
「――知りたきゃ教えてやる。生きる為に戦うんだ」
「生きる、為に」
鸚鵡返しに呟かれる言葉。その意味を深く噛み砕いて自分の中に飲み込ませようとする呟き。何の感情にも染まっていない純粋な言葉が、ひどく恐ろしく感じられた。やっぱり、この男の底が知れない。
「俺は、俺の身体が動く限り、この世界を破壊しやがった全てを……俺がブチ壊してやるんだ……!」
ぎり、自然を奥歯を噛み締めた。ネグロの中に常に渦を巻いているのは、全てを壊され失った悲しみと、怒りだ。過去を持たない、過去を覚えていないもの達に自分のこの気持ちなんて到底理解できる筈無いのだ。言い様のない感情が身体を駆け巡り、震わせる。
「……終わりだ。これ以上は何もねえ」
呻くように言葉を吐き出してレイルに再び背を向ける。けれど、その手が再び整備作業をはじめる事は出来なかった。かといって、その場を後にする事も出来ずにただ背後にある気配が消えるのを待つことしかできない。そして、相も変わらずこの背後の気配はネグロの思う通りの行動をとる事はなかった。
「それが、ネグロさんにとって『生きる』ということなのか」
抑揚の薄い響きが背後から聞こえてくる。何かに納得したのだろうか。何も得てくれなくてもいいのに。うるさい、と罵声を浴びせる事も出来ないままただ立ち尽くしている。
「それだけ、ネグロさんの『世界』は、大切なものだったんだな」
何がわかったのだろう。何を知ったのだろう。表面だけをなぞって、それで。
「僕はネグロさんと、もっと、一緒に居たい」
どうしてそうなるんだ。これ以上、何もかも、世界の汚れすら忘れてしまった瞳をまだ向けてこようというのか。
「僕には無いものを、ネグロさんが持っていると思うから。僕には無いものを、守れたらいいと思うから」
お前が得るべきなのは、俺のものではなくて、お前自身のものではないのか。
「終わりだって言ったのは、聞こえなかったのか?」
背をむけたままレイルに絞り出した声は震えていた。
この言葉がきいたのか、そもそもレイルの言いたい事が終わったのか。それはわからないが、言葉は終わる。
最後の一言を残して。
「……おやすみ、ネグロさん」
◆4回更新の日記ログ
祝福とは。未来とは。後ろばかりを見ていても答えは見つかる事は無い
ジュピネの申し出を渋々受けた結果、格納庫もネグロの安息の場所ではなくなってしまった。
巨大なグレムリンの整備が一朝一夕で終わる事はなく、また、その技術も同様である。
時には声をかけられ、時には自分の作業をなめるような視線が追いかけてくる。ネグロにとってそれはストレスに他ならないのだが、状況に押されたとはいえ承諾したのは己の為、無碍にすることこそなかった。
しかし、一人で作業に没頭できる時間帯を探さないと到底気持ちを落ち着けられるような場所ではなくなってしまった。
「……」
食堂を早々に出て、足早に自室に向かいドアを開ける。
簡素なベッドに倒れるように横になると、ギシリとフレームが嫌な音を立てた。
まだ、部屋にいる時間は安息の時間と言えるのは救いだった。
人と馴れ合う事を避けてきた筈だったのに、この艦に来てからそれが崩れはじめているのがネグロにとっては嫌でならない。
ネグロが偽悪的な振る舞いをするのも、人と関わりを持たないようにしているのも、単純に人との繋がりを嫌っている――本当の気持ちを言ってしまえば、人との繋がりを持つことを恐れている。
それとは別に、常に訳もなく苛立っている事も人を遠ざけている原因ではあるのだが。
「チッ」
ベッドに転がりながら、接続の遅い携帯端末に舌打ちをする。
世界的な混乱の最中でも稼働しているグレイヴネット。そして、そこでまことしやかに語られはじめた噂。
『死んだはずの傭兵を見た、って噂話を、聞いた。ずっと昔に死んだ傭兵の機体が撮影された、とか……』
ぽつり、ぽつりときこえてしまった食堂でのレイルの言葉は、今のネグロをざわつかせるのに十分だった。
噂を検索すればすぐに根も葉もない情報がボロボロと出て来る。レイルの呟きと変わり映えの無いものやどうせ霊障の類だろう、なんて冷めた目線の書き込みを適当に流し見していく。
「……」
はあ、と無意識にため息が出た。
死者が帰ってくる事はありえない。それは、ネグロもよくわかっている。もし、見たとすればそれは都合のいい夢。現実から逃げ出した末に見る幻。現実はもっともっと、残酷だ。文面に興味を失いつつ、惰性でそれを眺めているうちにネグロのまぶたはゆっくりと落ちて行った。
――20数年前。
突如として戦場に現れたグレムリン。たった一機で戦場の全てを滅ぼす紅い悪夢のような機体。
あれさえいなければ、世界が一気に粉塵に染まる事は無かったのではないか。何度も何度もそんな考えが頭を過る。捨て駒同然に放り出され、這う這うの体で生き残る日々。仲間は一人、また一人と減っていき、誰もが次は自分の番だと恐れていた。
正面のグレムリン、背後からは重粒子粉塵投射砲。あの時の戦場は常に絶望に包まれていた。
『なんや自分、もしかしてウチの事嫌い?』
『諦めや~、ウチとアンタは僚機や。それより、お互いの事もっと知りあわん?』
軽口をたたく僚機だった。
『……ウチはもうええわ。アンタが生きや』
最期の言葉は雑音まじりの通信だった。
とある戦場において、その中心を穿つように放たれた重粒子粉塵投射砲。そこにいた機体・グレムリン共々、壊滅する事態になったその場所でただ一人生き残った男がいた。その男の名は――
「……!」
ネグロは目を見開いてがばり、とその上体を起こした。
辺りを確認して、漸く自分がグレイヴネットを見たままうたた寝をしていたのか、という事を理解すれば大きく長く、息を吐く。端末の時間は意識が落ちてから20分程度経った事を示している。
額の汗をぬぐいながら、ネグロはもう一度ゆっくりと目を閉じた。
あれは、昔の夢だ。わかり切った事を確認する。ただの夢で、変わらない過去。共に戦場で戦った仲間18人と、僚機を失い、片腕も失った。
あの時胸に抱いた感情に名前を付ける事は未だ出来ない。
「……クソッ」
死者が返ってくる事はありえない。
わかりきってた事なのに、縋ってしまった自分が馬鹿らしい。つけっぱなしだったグレイヴネットへの接続を切って、携帯端末を放り投げた。
ジュピネの申し出を渋々受けた結果、格納庫もネグロの安息の場所ではなくなってしまった。
巨大なグレムリンの整備が一朝一夕で終わる事はなく、また、その技術も同様である。
時には声をかけられ、時には自分の作業をなめるような視線が追いかけてくる。ネグロにとってそれはストレスに他ならないのだが、状況に押されたとはいえ承諾したのは己の為、無碍にすることこそなかった。
しかし、一人で作業に没頭できる時間帯を探さないと到底気持ちを落ち着けられるような場所ではなくなってしまった。
「……」
食堂を早々に出て、足早に自室に向かいドアを開ける。
簡素なベッドに倒れるように横になると、ギシリとフレームが嫌な音を立てた。
まだ、部屋にいる時間は安息の時間と言えるのは救いだった。
人と馴れ合う事を避けてきた筈だったのに、この艦に来てからそれが崩れはじめているのがネグロにとっては嫌でならない。
ネグロが偽悪的な振る舞いをするのも、人と関わりを持たないようにしているのも、単純に人との繋がりを嫌っている――本当の気持ちを言ってしまえば、人との繋がりを持つことを恐れている。
それとは別に、常に訳もなく苛立っている事も人を遠ざけている原因ではあるのだが。
「チッ」
ベッドに転がりながら、接続の遅い携帯端末に舌打ちをする。
世界的な混乱の最中でも稼働しているグレイヴネット。そして、そこでまことしやかに語られはじめた噂。
『死んだはずの傭兵を見た、って噂話を、聞いた。ずっと昔に死んだ傭兵の機体が撮影された、とか……』
ぽつり、ぽつりときこえてしまった食堂でのレイルの言葉は、今のネグロをざわつかせるのに十分だった。
噂を検索すればすぐに根も葉もない情報がボロボロと出て来る。レイルの呟きと変わり映えの無いものやどうせ霊障の類だろう、なんて冷めた目線の書き込みを適当に流し見していく。
「……」
はあ、と無意識にため息が出た。
死者が帰ってくる事はありえない。それは、ネグロもよくわかっている。もし、見たとすればそれは都合のいい夢。現実から逃げ出した末に見る幻。現実はもっともっと、残酷だ。文面に興味を失いつつ、惰性でそれを眺めているうちにネグロのまぶたはゆっくりと落ちて行った。
――20数年前。
突如として戦場に現れたグレムリン。たった一機で戦場の全てを滅ぼす紅い悪夢のような機体。
あれさえいなければ、世界が一気に粉塵に染まる事は無かったのではないか。何度も何度もそんな考えが頭を過る。捨て駒同然に放り出され、這う這うの体で生き残る日々。仲間は一人、また一人と減っていき、誰もが次は自分の番だと恐れていた。
正面のグレムリン、背後からは重粒子粉塵投射砲。あの時の戦場は常に絶望に包まれていた。
『なんや自分、もしかしてウチの事嫌い?』
『諦めや~、ウチとアンタは僚機や。それより、お互いの事もっと知りあわん?』
軽口をたたく僚機だった。
『……ウチはもうええわ。アンタが生きや』
最期の言葉は雑音まじりの通信だった。
とある戦場において、その中心を穿つように放たれた重粒子粉塵投射砲。そこにいた機体・グレムリン共々、壊滅する事態になったその場所でただ一人生き残った男がいた。その男の名は――
「……!」
ネグロは目を見開いてがばり、とその上体を起こした。
辺りを確認して、漸く自分がグレイヴネットを見たままうたた寝をしていたのか、という事を理解すれば大きく長く、息を吐く。端末の時間は意識が落ちてから20分程度経った事を示している。
額の汗をぬぐいながら、ネグロはもう一度ゆっくりと目を閉じた。
あれは、昔の夢だ。わかり切った事を確認する。ただの夢で、変わらない過去。共に戦場で戦った仲間18人と、僚機を失い、片腕も失った。
あの時胸に抱いた感情に名前を付ける事は未だ出来ない。
「……クソッ」
死者が返ってくる事はありえない。
わかりきってた事なのに、縋ってしまった自分が馬鹿らしい。つけっぱなしだったグレイヴネットへの接続を切って、携帯端末を放り投げた。
◆3回更新の日記ログ
祝福を拒み、未来を手放した。そんな資格はありはしないと
たいして美味しくもないコーンミールを口の中に運びながら、ネグロは不満げに眉を寄せた。
不満があるのは食事の味ではない。この世界の食事事情を考えればこのコーンミールは美味しい方である、と言える。
気に入らないのは集団で、時間を合わせて食事を取る事だ。
食堂が広いのが不幸中の幸いで、人と離れた場所に座ると黙々と食事を済ませる。
そうすることで極力誰とも話さないようにした。活動に必要な事以外、話す必要はない。
ガチャン。
皿を空にしてそこに半ば投げるようにスプーンを置くと、やたら大きな音が鳴ってしまった。
そのせいで視線が一瞬自分に集まる事がわかれば、誤魔化すように大きく舌打ちしながら立ち上がり、食器を下げたその足で食堂を後にした。
歪んだ廊下を歩いて、階段を下りて船底を目指す。
継ぎ接ぎの名に違わぬこの艦は、簡素な部屋も、客船のよう豪華な部屋もひとつの艦に混在している。
ネグロが選んだのは戦艦の船底にある、ベッドとテーブルだけがある無機質な部屋だった。
部屋のドアを開いて工具の入ったケースを手にすると、すぐに部屋をででグレムリンのある格納庫へと向かう。
グレムリンを整備している時間が今のネグロにとっては一番落ち着ける時間になっていた。
それは、ネグロにとってみれば悲しいことでもあるのだが。
「……」
「あっ……」
格納庫に足を踏み入れると同時に自分以外の気配を感じて、ネグロは眉を寄せた。
先客ーーミアも新たな気配に気付いたのか、作業の手を止めるとネグロの方に視線を向ける。
お互い、何を言うでもなくミアは小さく会釈をしてみせたがネグロは答えることもなく自分のグレムリンへと向かっていく。
先の戦いはそれほど時間もかからずに済んだ。悔しい事に、僚機としてのスリーピングレイルは相性がよく、それは同じくこの船にいるツィール達にも言えることだった。
頼もしい仲間、と言えてしまえばきっと楽になるのだろう。けれど、ネグロは彼らを仲間だとは思えなかったし、思いたくなかった。
単純に利害の一致で集まっている以上のものを見出だしたくはなかった。
「……チッ」
悶々とした思考に自然と舌打ちをしながら、機体を確認する。さほど手を掛ける必要が無さそうなのを確認すると、自然と手でそのフレームを撫でている事に気付いた。
慌てて手を離して、そのてのひらをじっと見つめる。
油で黒ずんだてのひらは、どうしたって機体を嫌うことが出来なかった。整備士のしての自分と、テイマーとしての自分が別の方向を向いている。
自分の中にはあらゆる矛盾が詰まっている。それすらも苛立たしい。
イラつきを隠さないまま、工具を片付けているネグロの視界に、ずっと立っているだけのミアの姿がうつった。
ただ立っているだけではなくて、時折首をかしげるような仕草をみせたり、グレムリンをじっとみつめていたりしている。
「……」
大方、気になる部分があるけるど解決に至ってないという所だろう。ネグロは黙ってその姿をしばらく見つめていたが、やがて息を吐きながらミアの側へと歩いていく。
「どけ」
「っ、え、ネグロ、さん?」
ミアを半ば押しのけるようにしながら、ネグロはスリーピングレイルをじっとみつめる。
それから、フレームを触れたり軽く力を加えて押したりしつつ丹念に具合を確かめていく。
「……おい」
「あ、はい!」
ネグロがミアの方に目線だけを向ける。呼ばれた事に気付いたミアは、小走りに駆け寄ってきた。
ネグロはそれを確認すると黙ってフレームに視線を戻した。
「ここが少しずれてる。……起動には問題無いが、違和感が出たのはそのせいだろ」
「え、あ……本当だ……」
ネグロが示したのは、よく見ないと気がつかない程の僅かなズレだった。
ミアは驚いたようにその場所とネグロを交互に見る。
「戦闘に出せば多少歪むのは当然だ」
「そっ、かあ……」
感嘆の声をもらすミアを一瞥すると、用は済んだとばかりにネグロは背を向け歩きだそうとする。
「あ、あの」
「……、なんだ」
しかし、一歩を踏み出す前にミアに呼び止められれば苛立ちも隠さずに返事をする。
「ずっと、ご自分のグレムリンを整備されてるんですか?」
「……」
ミアの問いにネグロは振り向きもしないまま、押し黙る。
いつもなら、何を聞かれても答える必要も感じなかったのだが、ミアが何気なくしたであろうその問いはネグロが無視できない唯一の言葉だ。
「……俺は、テイマーじゃなくて整備士だ」
それは意地であり、矜持でもある。
自分の本質はグレムリンテイマーではなく整備士なのだと、まだ言えた自分にネグロは内心安堵した。
しかし、これ以上話に付き合う気も無いとばかりに、ネグロは続く言葉が来る前に歩き始める。
「あっ、フレーム見てくれて、ありがとうございました!」
去っていくネグロに向かってミアは深々と頭を下げた。
ネグロはそれに答えることも振り向くこともなく、そのまま格納庫をあとにした。
部屋に戻ると軋むベッドに身体を投げ出す。シミだらけの天井を眺めて、細く長く息を吐いた。
「そうだ、俺は、整備士だ」
どこか、自分でも忘れていたような気持ち。
「……整備士なんだ」
もう一度、自分に言い聞かせるように呟いた。
たいして美味しくもないコーンミールを口の中に運びながら、ネグロは不満げに眉を寄せた。
不満があるのは食事の味ではない。この世界の食事事情を考えればこのコーンミールは美味しい方である、と言える。
気に入らないのは集団で、時間を合わせて食事を取る事だ。
食堂が広いのが不幸中の幸いで、人と離れた場所に座ると黙々と食事を済ませる。
そうすることで極力誰とも話さないようにした。活動に必要な事以外、話す必要はない。
ガチャン。
皿を空にしてそこに半ば投げるようにスプーンを置くと、やたら大きな音が鳴ってしまった。
そのせいで視線が一瞬自分に集まる事がわかれば、誤魔化すように大きく舌打ちしながら立ち上がり、食器を下げたその足で食堂を後にした。
歪んだ廊下を歩いて、階段を下りて船底を目指す。
継ぎ接ぎの名に違わぬこの艦は、簡素な部屋も、客船のよう豪華な部屋もひとつの艦に混在している。
ネグロが選んだのは戦艦の船底にある、ベッドとテーブルだけがある無機質な部屋だった。
部屋のドアを開いて工具の入ったケースを手にすると、すぐに部屋をででグレムリンのある格納庫へと向かう。
グレムリンを整備している時間が今のネグロにとっては一番落ち着ける時間になっていた。
それは、ネグロにとってみれば悲しいことでもあるのだが。
「……」
「あっ……」
格納庫に足を踏み入れると同時に自分以外の気配を感じて、ネグロは眉を寄せた。
先客ーーミアも新たな気配に気付いたのか、作業の手を止めるとネグロの方に視線を向ける。
お互い、何を言うでもなくミアは小さく会釈をしてみせたがネグロは答えることもなく自分のグレムリンへと向かっていく。
先の戦いはそれほど時間もかからずに済んだ。悔しい事に、僚機としてのスリーピングレイルは相性がよく、それは同じくこの船にいるツィール達にも言えることだった。
頼もしい仲間、と言えてしまえばきっと楽になるのだろう。けれど、ネグロは彼らを仲間だとは思えなかったし、思いたくなかった。
単純に利害の一致で集まっている以上のものを見出だしたくはなかった。
「……チッ」
悶々とした思考に自然と舌打ちをしながら、機体を確認する。さほど手を掛ける必要が無さそうなのを確認すると、自然と手でそのフレームを撫でている事に気付いた。
慌てて手を離して、そのてのひらをじっと見つめる。
油で黒ずんだてのひらは、どうしたって機体を嫌うことが出来なかった。整備士のしての自分と、テイマーとしての自分が別の方向を向いている。
自分の中にはあらゆる矛盾が詰まっている。それすらも苛立たしい。
イラつきを隠さないまま、工具を片付けているネグロの視界に、ずっと立っているだけのミアの姿がうつった。
ただ立っているだけではなくて、時折首をかしげるような仕草をみせたり、グレムリンをじっとみつめていたりしている。
「……」
大方、気になる部分があるけるど解決に至ってないという所だろう。ネグロは黙ってその姿をしばらく見つめていたが、やがて息を吐きながらミアの側へと歩いていく。
「どけ」
「っ、え、ネグロ、さん?」
ミアを半ば押しのけるようにしながら、ネグロはスリーピングレイルをじっとみつめる。
それから、フレームを触れたり軽く力を加えて押したりしつつ丹念に具合を確かめていく。
「……おい」
「あ、はい!」
ネグロがミアの方に目線だけを向ける。呼ばれた事に気付いたミアは、小走りに駆け寄ってきた。
ネグロはそれを確認すると黙ってフレームに視線を戻した。
「ここが少しずれてる。……起動には問題無いが、違和感が出たのはそのせいだろ」
「え、あ……本当だ……」
ネグロが示したのは、よく見ないと気がつかない程の僅かなズレだった。
ミアは驚いたようにその場所とネグロを交互に見る。
「戦闘に出せば多少歪むのは当然だ」
「そっ、かあ……」
感嘆の声をもらすミアを一瞥すると、用は済んだとばかりにネグロは背を向け歩きだそうとする。
「あ、あの」
「……、なんだ」
しかし、一歩を踏み出す前にミアに呼び止められれば苛立ちも隠さずに返事をする。
「ずっと、ご自分のグレムリンを整備されてるんですか?」
「……」
ミアの問いにネグロは振り向きもしないまま、押し黙る。
いつもなら、何を聞かれても答える必要も感じなかったのだが、ミアが何気なくしたであろうその問いはネグロが無視できない唯一の言葉だ。
「……俺は、テイマーじゃなくて整備士だ」
それは意地であり、矜持でもある。
自分の本質はグレムリンテイマーではなく整備士なのだと、まだ言えた自分にネグロは内心安堵した。
しかし、これ以上話に付き合う気も無いとばかりに、ネグロは続く言葉が来る前に歩き始める。
「あっ、フレーム見てくれて、ありがとうございました!」
去っていくネグロに向かってミアは深々と頭を下げた。
ネグロはそれに答えることも振り向くこともなく、そのまま格納庫をあとにした。
部屋に戻ると軋むベッドに身体を投げ出す。シミだらけの天井を眺めて、細く長く息を吐いた。
「そうだ、俺は、整備士だ」
どこか、自分でも忘れていたような気持ち。
「……整備士なんだ」
もう一度、自分に言い聞かせるように呟いた。
◆2回更新の日記ログ
祝福された未来に手を伸ばしても、その手は現実を掴むだけ――
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
何故あそこに自分はいたのか。
何故あそこに錆びたグレムリンがいたのか。
端末からの声に何故覚えがあったのか。
何もかもがわからず、自らの記憶すらあやふやなまま、流されるままに乗り込んだグレムリン【カズアーリオス】は、結論から言ってしまえば本当に男にあつらえられたような機体だった。
戦場を走り、敵機を捉えて破壊する。敵が自分を捉えるよりも先に、全てを壊す。
第一次七月戦役。
操縦レバーを引き、捉えた敵機を破壊する度に取り戻した記憶の中で多くを占めた出来事。
大義なき戦いをいつか終わると信じ、その時まで生き残ることを誓った日々。
グレムリンの圧倒的な力をみせつけられ、味方の重粒子粉塵投射砲に怯えながら過ごした日々。
脳みそが、本能が否定していた記憶はやはりろくでもないものばかりだった。
第一次戦役の後、圧倒的だった力は全ての組織にいきわたり、それが当たり前となってしまう。
男にはそれすらも楽しくない事だったが、それを捨てて生きていける世界でない事の方が身に染みてわかっていた。
甘んじるしかない、戦い続けるためにも。
今の男にも戦う為の大義など、失って久しいのだが。
「……」
制御コンソール下にあるグローブボックスから、カプセルの入った袋――タワー港湾部から拝借したものだ――を取り出すと中身を雑に鷲掴みにして口の中に放り込む。
味気ないそれを噛み砕いて飲み込んめば食事の余韻など必要無いとばかりに、コンソールに手を伸ばした。
『ザー……ザザッ、――こちら、継ぎ接ぎ幽霊船(パッチワーク・ゴーストシップ)。当艦は、航海において自衛手段を持たない艦である。よって、付近のグレムリンの力を借りたい――』
近隣の海域に無作為にあてた通信データが再生されるのを聞きながら送られてきた座標を確認する。
前面にレーダー画像が大きく写し出される。全視界型で周囲を写していたディスプレイは、余計なものが写りすぎると集中できないと言うことで、前と左右を主に写す三面型に変更されてた。
継ぎ接ぎ幽霊船なんてふざけた名前だから悪戯なのではないかと思ったが、確かに伝えられた座標には反応がある。
未確認機を相手にするならそれなりの拠点を求めていた事も確かで、罠の可能性も否めなかったがその場合は離脱、もしくは破壊をしてしまえばいい。
「……いくか」
幽霊船の座標に目的地を設定し、とくに大きな障害物も無いルートであることを確認すれば、オート航行を指定する。
動き始めたグレムリンの中で男は更に状況を確認するべく、コンソールの操作を続けた。
混乱した世界の中でも正しい情報というのは案外、流れてくるものだという事を男は経験で理解している。
有利に動くためには、いち早くそれを手に入れなければならないということも。
「……?」
ピコン。とコンソールにあるシステム用のディスプレイに通知が届く。
何事かと確認をした。
僚機確認:No15ーースリーピングレイル
画面にまるで覚えの無い単語が並ぶ。まず僚機の申請を出した覚えも受けた覚えもなく、そしてこの画面にでている名前にもなんの覚えもない。
何かの誤作動か、男は舌打ちをしながら僚機認定を削除しようとするも、そもそも削除の項目がない。
「は?」
男はコンソールに拳を叩き付けようとするのを堪えた事を褒めて欲しいと思った。勝手に僚機を作っておいて取り消しが不可な事などあるのか?
腐れAIめ、と毒づきながら相手側から削除アプローチが可能か確認するために不本意ながら通信を繋げるの事にした。
幸か不幸か相手の進行方向は同じのようで、座標も近い。
「……こちら、機体名カズアーリオス。パイロット、ネグロだ。スリーピングレイル、応答願う」
愛想など知らんといった口調で男ーーネグロは通信を送った。程なくして、応答の通知がやってくるのをみれば、ネグロはすぐに通信回線を開いた。
ヴン、という電子音と共に左側のディスプレイの一部に通信映像が表示される。
映ったのは白か、灰か、薄い色素の髪色をした壮年のパイロットの姿。ネグロは、その姿を確認だけすると挨拶もせずにすぐに本題に切り込んだ。
「早速で悪いが、エラーか何かで僚機申請されていたようだ。こちらーー」
『ああ、よかった。僚機の、ひと? よろしく』
「は?」
『え?』
ぽわん。なんだかそんな効果音が聞こえてきそうなのが、通信画面越しに伝わってきてネグロは頭の血管が数本ぷちりと鳴った錯覚を得る。
深呼吸をひとつ、ふたつ、みっつ。用件だけを伝える、と頭の中で数回唱える。
「こちらに僚機を組む相手の意思は無い。すまんが、削除してくれ。こちらからは出来ない」
『え、ええ……? 削除、さくじょ……?』
「……」
『さくじょ、さく……』
「もういい!」
おろおろとなにかを捜そうとしている姿は子供のそれと大差がなく、堪え性のないネグロが諦めるのに時間は必要なかった。
バン!とコンソールを叩きながら叫ぶと通信を一方的に切った。
それから、一番近かった先程連絡をもらった幽霊船の座標付けて、ここに来いとメールを送りつけると、オート航行を解除しスピードを上げて目的地に走り出した。
海上――とある座標にて。
継ぎ接ぎ幽霊船と称したそれは、戦艦をベースに幾つもの船が言葉通り継ぎ接ぎのように繋がった、いびたな形をした船だった。
ピーッ ピーッ
「……おや」
戦艦のブリッジで、通信要請を伝える電子音が響く。
立て付けの悪い椅子に腰掛けていた男は、珍しいものをみるかのような顔で通知を確認するとすぐに回線を開いた。
通信用のディスプレイに、無愛想な男――ネグロの姿が写し出された。
「継ぎ接ぎ幽霊船、艦長のルインだ。そちらは――」
『……細かい話は後でする。着艦許可をもらえるか』
「こちらの通信は聞いていたものと判断しても?」
『それ含めて後でだ。俺と、もう一機』
「……」
無愛想な男の要求を聞く艦長を名乗るルインの顔も負けじと無愛想だった。表情筋がまるで動く気配の無いまま、データを確認している。
「すでに先着はいる。君の探し人もいるだろう……まあ、顔を付き合わせた方がいいうのは大いに同意――」
ルインの言葉もそこそこに通信が切れ、直後甲板にズシン、と音を鳴らして機体が降り立つ。
「……せっかちな男だ」
溜め息をひとつ吐き出しながら、男はブリッジをあとにした。
ラジオのやついれる
船内の食堂では、沈黙の時間を誤魔化すかのようにスピーカーからラジオのニュースが流れている。
「……つまりは、何かしらのエラー……この世界で言う霊障が原因で、面識もなにも無い者同士が僚機となった。そして、それとは関係なくどちらもこの艦の目指していた、と」
沈黙を破ったのはルインだった。立ち上がり、自分以外の席に着く人間を一人ずつ見ていく。
「……」
薄い色素の髪の男。機体と自らをスリーピング・レイルと名乗った彼は、記憶が無いといった。
そのせいなのか、元からなのか、レイルの発言はどこかずれた所もあり、その度に対面にいたネグロが舌打ちをする始末だった。
「はい。霊障の方は予測、ですけど」
そのレイルの隣に座る少女――ミアは、ぼんやりとしているレイルに変わってしっかりと頷いて返事をした。
彼女のおかげでこの場は成り立っているといっても過言ではない、とルインは密かに思う。
「……まあ、私としてはこの艦には多くの部屋があるので、僚機同士で使ってもらえる事に関してはなんら不都合はないのだが」
「……チッ」
ルインは、ずれた眼鏡の位置を直しながら舌打ちをする男――ネグロを見る。
進んで協調性を破壊していく姿勢を見せる姿に内心何度溜め息を吐いたかはわからない。
「僚機だからと、馴れ合うつもりは無い。それでいいなら、勝手にしろ」
ネグロは視線だけでレイルとミアを見ながら言い捨てると、すぐに視線を外した。これが、彼の中での最大限の譲歩なのだろう。
「……では、改めて。私は艦長のルイン……厳密には艦長代理というところだが、まあいい。当艦はスリーピング・レイルおよびカズアーリオスを歓迎する。少し扱い難い艦ではあるが、部屋だけはあるので各々好きに使ってくれ……艦については、後程艦内放送で伝えよう――しばらく、よろしく頼む」
ルインが軽く頭を下げる。
誰かが反応するよりはやくネグロが椅子から立ち上がると、目線だけでルインを見る。
「部屋は」
「……好きな所を選んでくれて構わない」
「わかった。世話になる」
ネグロはそれだけ言うと、他には目もくれず足早に食堂を出ていく。
「疲れたの、かな」
もう人のいなくなった席を眺めながらぽつりと呟くレイルの言葉に、ルインとミアは黙って視線を合わせるだけだった。
NEWS
予感がする何か良くない予感が
「プルルルルル」
電話が鳴る。あなたは思わず通信を繋ぐ……
あるいは、強制的に通信が繋がる
????
「おはよう。目は覚めたかな?」
????
「相変わらず世界を救っているようだね」
????
「でも、もう遅いんだ」
????
「分かり切ったように世界は流れる。破滅へと」
????
「君が何をしようと、もう手遅れだからね」
????
「この世界はもう死んでいるんだ」
????
「だから、僕は時を押しとどめる」
????
「完全に死ぬ、その僅か手前で……
全ての時は止まり、世界は永劫となる」
????
「それが僕の目的。虚空領域永劫化計画」
????
「財団の消滅、領域の全覚醒ともに、タワー中層への道は開かれる」
????
「そういう仕組みさ、フェアに行こうじゃないか」
????
「僕をもし止めたいのなら、タワーで待っているよ」
????
「君たちの知らないところで全てが決まっていたら、フェアじゃないからね」
????
「もし君が《また》、僕の邪魔をするのなら、今回も僕が勝つよ」
????
「破滅の今際にて、停滞せよ、世界」
????
「世界はいまのままで十分、美しいのだから」
財団との戦いは続いている……
ここは氷獄。どこまでも氷山が浮かんでいる
冷蔵庫の護り手『ヴィル』
「おーーーーさむさむ。ここは氷獄、よく来たな!」
冷蔵庫の護り手『ヴィル』
「領域覚醒を目指すんだ!」
冷蔵庫の護り手『ヴィル』
「やがて道は開かれる!!」
モコモコの防寒具を来た男が釣りをしている
ネグロは動力炉《Herz eines Wolf》を手に入れた!!(フラグメンツ-1)
ネグロは後光を手に入れた!!(フラグメンツ-1)
ネグロはSCH<V/R.Neko-Tube>を手に入れた!!(フラグメンツ-1)
◆アセンブル
【頭部】にDisconnectionを装備した
【腕部】に後光を装備した
【操縦棺】にクリン!クランク!!クインテッド!!!を装備した
【脚部】にChaosを装備した
【エンジン】に動力炉《Herz eines Wolf》を装備した
【索敵】に梟を装備した
【主兵装】に俊雷⁅踊鵺⁆を装備した
【副兵装】に011-B-FIREARM《SOLID-DAGGER》を装備した
【背部兵装】にAMG-00スチールコアを装備した
【機動補助】にIxionを装備した
◆僚機と合言葉
移動
あなたはいつの間にか、北北東海域【氷獄】へと到達した
ユニオン活動
パッチワーク・ゴーストシップの活動記録
迷子の迷子の幽霊船。継ぎ接ぎだらけの幽霊船。
仮初の船長と集まって来た人達を乗せ、目指すのは粉塵の果て、霧の果て――
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
戦艦をもとに継ぎ接ぎに足された船に乗る人達や、その船と情報交換してくれる人の集まり。
仮初の船長と集まって来た人達を乗せ、目指すのは粉塵の果て、霧の果て――
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨
戦艦をもとに継ぎ接ぎに足された船に乗る人達や、その船と情報交換してくれる人の集まり。
受信ログ
ENo.96からのメッセージ>>
チャルミィ
「ああ!本当に知ってらっしゃるのね。
そう!そうですわ!とっても流行しましたのよ!
けれど誰も知らないって、信じてもらえないのかと……」
チャルミィ
「娯楽、ですの?やっぱりそうなのかちら……
この間見たブログでもそう言われていましたわ。
ワテクシ達はワテクシが眠ってる間に
必要と…されなく……」
チャルミィ
「……ほんとうに?そう思ってくださるの?
じゃあ、この戦いが終わったら
みんながアニマロイドと一緒に過ごす日が来るかも
しれまてんわね!」
チャルミィ
「ブラックボックス?
……たしかに、ワテクシは黒いですけれど四角くはありまてんわ。
でもでも、一度見てもらった方がいいのかちら?」
チャルミィ
「本当ならなにかあればサポートセンターから遠隔操作でエラーを解消したり、
アップデートがあるのに全然なくなってしまったんですの!
時折、チリチリとノイズが走るようでいやですわ!
いくら高性能でもちゃんと手入れしなくちゃ……」
チャルミィ
「グレムリンだって整備士がいるんですもの!
ワテクシだって整備するべきでしわ!」
送信ログ
ENo.96からのメッセージ>>
チャルミィ
「ああ!本当に知ってらっしゃるのね。
そう!そうですわ!とっても流行しましたのよ!
けれど誰も知らないって、信じてもらえないのかと……」
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「娯楽、ですの?やっぱりそうなのかちら……
この間見たブログでもそう言われていましたわ。
ワテクシ達はワテクシが眠ってる間に
必要と…されなく……」
チャルミィ
「……ほんとうに?そう思ってくださるの?
じゃあ、この戦いが終わったら
みんながアニマロイドと一緒に過ごす日が来るかも
しれまてんわね!」
チャルミィ
「ブラックボックス?
……たしかに、ワテクシは黒いですけれど四角くはありまてんわ。
でもでも、一度見てもらった方がいいのかちら?」
チャルミィ
「本当ならなにかあればサポートセンターから遠隔操作でエラーを解消したり、
アップデートがあるのに全然なくなってしまったんですの!
時折、チリチリとノイズが走るようでいやですわ!
いくら高性能でもちゃんと手入れしなくちゃ……」
チャルミィ
「グレムリンだって整備士がいるんですもの!
ワテクシだって整備するべきでしわ!」
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◆14回更新のメッセログ
受信ログ
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>>Eno.96 ネグロ
「……誰も知らない? 流行ってたと思ったんだがな……家にあったのも、譲ってもらったヤツだったんだ。俺が修理と整備をして……まあ、この話はいいか」
ネグロ
「だが、仕方ないのかもな。娯楽なんて戦争じゃ一番最初に不要になる、その影響でお前達アニマロイドが淘汰された、というなら不思議な話ではない」
ネグロ
「……と、本人……人じゃねえが、本AIの前でする話でもないか。プロトって事は、戦火も及ばないようなところで眠ってたのか。戦争が終わればまた、需要が出るかもしれないな……いや、グレムリンが動かせる程のAIなら、戦時中でも需要がある」
ネグロ
「……記憶回路にエラー、いや、ブラックボックス化してるのかもしれないな。時間があれば確認したい所だが――まあ、お前の気が向けば、だが。
……チャルミィか。俺はネグロだ――メンテナンスに困ってたら、俺でよければ手を貸すから連絡してくれ。……勿論、許可が無ければ余計な所は触らねえよ」
送信ログ
>>Eno.96 ネグロ
「……誰も知らない? 流行ってたと思ったんだがな……家にあったのも、譲ってもらったヤツだったんだ。俺が修理と整備をして……まあ、この話はいいか」
ネグロ
「だが、仕方ないのかもな。娯楽なんて戦争じゃ一番最初に不要になる、その影響でお前達アニマロイドが淘汰された、というなら不思議な話ではない」
ネグロ
「……と、本人……人じゃねえが、本AIの前でする話でもないか。プロトって事は、戦火も及ばないようなところで眠ってたのか。戦争が終わればまた、需要が出るかもしれないな……いや、グレムリンが動かせる程のAIなら、戦時中でも需要がある」
ネグロ
「……記憶回路にエラー、いや、ブラックボックス化してるのかもしれないな。時間があれば確認したい所だが――まあ、お前の気が向けば、だが。
……チャルミィか。俺はネグロだ――メンテナンスに困ってたら、俺でよければ手を貸すから連絡してくれ。……勿論、許可が無ければ余計な所は触らねえよ」
◆13回更新のメッセログ
受信ログ
ENo.96からのメッセージ>>
チャルミィ
「うふふンッ♪
こんなの手間のうちに入りまてんことよ!
運び屋って呼んでくださってもよくってよ!」
チャルミィ
「まあ!まあ、まあ!まあ!!なんてことかちら!」
大きな瞳はきらっきらと光り輝き貴方を映している。
チャルミィ
「アニマロイドをご存知ですの?
ああ、なんて嬉しいのかちら!
だって、誰に聞いてもそんなの知らないって言うんですもの」
チャルミィ
「うふふンッ♪
驚くのも無理はありまてんわ!
アニマロイドはたくさんのバージョンが出てましたのよ!
性格も姿も色もたくさん!
ワテクシは後期のプロトタイプで、いろいろあって
とうとう同じものは発売されることは
ありませんでしたけれど……」
チャルミィ
「でも、そのいろいろが思い出せなくて、それで—―
ああ、ついつい嬉しくなって、ご挨拶が遅れてしまいましたわ。
ワテクシはチャルミィ、超高性能なアニマロイドですのよ!」
スカートの端をつかみ、ちょんと膝を折り自己紹介をする。
送信ログ
ENo.96からのメッセージ>>
チャルミィ
「うふふンッ♪
こんなの手間のうちに入りまてんことよ!
運び屋って呼んでくださってもよくってよ!」
チャルミィ
「まあ!まあ、まあ!まあ!!なんてことかちら!」
大きな瞳はきらっきらと光り輝き貴方を映している。
チャルミィ
「アニマロイドをご存知ですの?
ああ、なんて嬉しいのかちら!
だって、誰に聞いてもそんなの知らないって言うんですもの」
チャルミィ
「うふふンッ♪
驚くのも無理はありまてんわ!
アニマロイドはたくさんのバージョンが出てましたのよ!
性格も姿も色もたくさん!
ワテクシは後期のプロトタイプで、いろいろあって
とうとう同じものは発売されることは
ありませんでしたけれど……」
チャルミィ
「でも、そのいろいろが思い出せなくて、それで—―
ああ、ついつい嬉しくなって、ご挨拶が遅れてしまいましたわ。
ワテクシはチャルミィ、超高性能なアニマロイドですのよ!」
スカートの端をつかみ、ちょんと膝を折り自己紹介をする。
送信ログ
◆12回更新のメッセログ
受信ログ
送信ログ
>>Eno.96 ネグロ
「……」
走って来る足音に気付いてからしばらくして、それが自分を追っているのだと気が付くと足を止めて振り返った。
視線を上下左右にめぐらして小さな姿を視認するのと、声をかけられるのはほぼ同時だった。
ネグロ
「……わざわざ、持って来たのか? 手間だっただろ」
屈んでようやく視線が近くなる。使い込まれた手袋を受け取りながら、じっとチャルミィを見つめる視線はどこか品定めをしているようにも感じるかもしれない。
ネグロ
「……お前、アニマロイドか? 家にあったやつとは型が違うな……家にあったのは、もっと耳が長かった気が……、AIもこんなに……グレムリンに乗れるほどのものだったか……」
独り言じみた呟きは、チャルミィに対する興味の感情が多く含まれている。
ネグロ
「……ああいや、悪い。ちょっと、昔家にあった同じようなモン思い出しただけだ。足止めしちまったな」
送信ログ
>>Eno.96 ネグロ
「……」
走って来る足音に気付いてからしばらくして、それが自分を追っているのだと気が付くと足を止めて振り返った。
視線を上下左右にめぐらして小さな姿を視認するのと、声をかけられるのはほぼ同時だった。
ネグロ
「……わざわざ、持って来たのか? 手間だっただろ」
屈んでようやく視線が近くなる。使い込まれた手袋を受け取りながら、じっとチャルミィを見つめる視線はどこか品定めをしているようにも感じるかもしれない。
ネグロ
「……お前、アニマロイドか? 家にあったやつとは型が違うな……家にあったのは、もっと耳が長かった気が……、AIもこんなに……グレムリンに乗れるほどのものだったか……」
独り言じみた呟きは、チャルミィに対する興味の感情が多く含まれている。
ネグロ
「……ああいや、悪い。ちょっと、昔家にあった同じようなモン思い出しただけだ。足止めしちまったな」
◆11回更新のメッセログ
受信ログ
ENo.96からのメッセージ>>
とある日のパッチワーク・ゴーストシップ、船内――
後ろから走って近づいてくる足音。
チャルミィ
「もし!そこのあなた、
こちらを落としてましてよ」
あなたの視線より下の位置から話しかける声、
その手にはあなたが落としたであろう手袋があった。
チャルミィ
「すたすた歩いて行ってしまうから
追いつくのが大変でちたわ!!」
送信ログ
ENo.96からのメッセージ>>
とある日のパッチワーク・ゴーストシップ、船内――
後ろから走って近づいてくる足音。
チャルミィ
「もし!そこのあなた、
こちらを落としてましてよ」
あなたの視線より下の位置から話しかける声、
その手にはあなたが落としたであろう手袋があった。
チャルミィ
「すたすた歩いて行ってしまうから
追いつくのが大変でちたわ!!」
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◆10回更新のメッセログ
受信ログ
ENo.51からのメッセージ>>
ネグロ
「……なあ、艦長代理さんよ」
ルイン
「なんだ」
ネグロ
「俺の事勝手に調べたってんなら、他の奴等はどうなんだ?」
ルイン
「……必要に駆られれば調べるつもりだ。元々の所属が割れているお前と違って彼らの経歴に関する事は軽く調べた限りで出て来たものは眉唾ものな噂も多い……が、精査に時間がとれていない」
ルイン
「で、それが?」
ネグロ
「いちいち嫌味はさまねえと喋れねえのか?」
ネグロ
「……まあいい。スリーピング・レイルについての情報があるなら回せ。俺が精査する」
ルイン
「理由は」
ネグロ
「思う所がある……あまり、当たって欲しい類のではないが。俺がそう思ってるんだ、聡明な艦長代理サマなら気付いてんだろ?」
ルイン
「さあ、どうだろうな。……あとで、そちらの端末に送っておく。僚機を知るという事は、親睦を深める気があるという事だろうからな」
ネグロ
「……ふん」
送信ログ
>>Eno.51 ネグロ
「……なあ、艦長代理さんよ」
ルイン
「なんだ」
ネグロ
「俺の事勝手に調べたってんなら、他の奴等はどうなんだ?」
ルイン
「……必要に駆られれば調べるつもりだ。元々の所属が割れているお前と違って彼らの経歴に関する事は軽く調べた限りで出て来たものは眉唾ものな噂も多い……が、精査に時間がとれていない」
ルイン
「で、それが?」
ネグロ
「いちいち嫌味はさまねえと喋れねえのか?」
ネグロ
「……まあいい。スリーピング・レイルについての情報があるなら回せ。俺が精査する」
ルイン
「理由は」
ネグロ
「思う所がある……あまり、当たって欲しい類のではないが。俺がそう思ってるんだ、聡明な艦長代理サマなら気付いてんだろ?」
ルイン
「さあ、どうだろうな。……あとで、そちらの端末に送っておく。僚機を知るという事は、親睦を深める気があるという事だろうからな」
ネグロ
「……ふん」
ENo.51からのメッセージ>>
ネグロ
「……なあ、艦長代理さんよ」
ルイン
「なんだ」
ネグロ
「俺の事勝手に調べたってんなら、他の奴等はどうなんだ?」
ルイン
「……必要に駆られれば調べるつもりだ。元々の所属が割れているお前と違って彼らの経歴に関する事は軽く調べた限りで出て来たものは眉唾ものな噂も多い……が、精査に時間がとれていない」
ルイン
「で、それが?」
ネグロ
「いちいち嫌味はさまねえと喋れねえのか?」
ネグロ
「……まあいい。スリーピング・レイルについての情報があるなら回せ。俺が精査する」
ルイン
「理由は」
ネグロ
「思う所がある……あまり、当たって欲しい類のではないが。俺がそう思ってるんだ、聡明な艦長代理サマなら気付いてんだろ?」
ルイン
「さあ、どうだろうな。……あとで、そちらの端末に送っておく。僚機を知るという事は、親睦を深める気があるという事だろうからな」
ネグロ
「……ふん」
送信ログ
>>Eno.51 ネグロ
「……なあ、艦長代理さんよ」
ルイン
「なんだ」
ネグロ
「俺の事勝手に調べたってんなら、他の奴等はどうなんだ?」
ルイン
「……必要に駆られれば調べるつもりだ。元々の所属が割れているお前と違って彼らの経歴に関する事は軽く調べた限りで出て来たものは眉唾ものな噂も多い……が、精査に時間がとれていない」
ルイン
「で、それが?」
ネグロ
「いちいち嫌味はさまねえと喋れねえのか?」
ネグロ
「……まあいい。スリーピング・レイルについての情報があるなら回せ。俺が精査する」
ルイン
「理由は」
ネグロ
「思う所がある……あまり、当たって欲しい類のではないが。俺がそう思ってるんだ、聡明な艦長代理サマなら気付いてんだろ?」
ルイン
「さあ、どうだろうな。……あとで、そちらの端末に送っておく。僚機を知るという事は、親睦を深める気があるという事だろうからな」
ネグロ
「……ふん」
◆8回更新のメッセログ
受信ログ
ENo.126からのメッセージ>>
クィリー
「ちょっと通信聞いた? 夢だっけ、どっちでもいいケド。
今度は世界の終わりときたわ、ただごとじゃないわね」
クィリー
「ま、アナタは世界が終わる前に自分が死なないようがんばんなさいよ。
そんじゃまたね、ネグロのおじさん!」
キャパシティー面の問題により、
このキャラクターは次回更新で退場します。
メッセージありがとうございました!
(返信不要です)
送信ログ
>>Eno.126 ネグロ
「死なねえように立ち回れば、案外死なねえよ。死んだら、おしまいだからな」
ネグロ
「……ハ、10年以上グレムリン乗ってるって言ったろ。そんなヤツが結婚できると思ってンのか? いねえよ。家族は。誰も」
ネグロ
「乗り続けるだけの目的は確かにあった。けどな、勝手に吹き飛びやがった……で、あの未識別だ。アイツらは確かに放っておけねえ」
ネグロ
「……まあいい。お前は、コレが落ち着いたら無理してこんなモン乗ってなくていいだろうよ」
ネグロ
「ロクな人間にならねえよ。こんなモン乗ってたら」
>>Eno.17 ルイン
「ふむ、少しは状況を見る目はあるという所か。この船の全てに目を通すのは無理だからな。今のところは主に利用している場所と航行ルートに気を配ってはいるが……まあ、私は別に今となっては睡眠もさほど必要が無い――形は違えど、お前と状況は変わらない」
ルイン
「お前がどういう態度で行くかは好きにしろ。私に何か期待してるなら、あまり過度な期待をするな……とは言っておくが」
ルイン
「まあ、私の気が向くかどうかは働きぶり次第だろうな。せいぜい働いてくれ」
ENo.126からのメッセージ>>
クィリー
「ちょっと通信聞いた? 夢だっけ、どっちでもいいケド。
今度は世界の終わりときたわ、ただごとじゃないわね」
クィリー
「ま、アナタは世界が終わる前に自分が死なないようがんばんなさいよ。
そんじゃまたね、ネグロのおじさん!」
キャパシティー面の問題により、
このキャラクターは次回更新で退場します。
メッセージありがとうございました!
(返信不要です)
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>>Eno.126 ネグロ
「死なねえように立ち回れば、案外死なねえよ。死んだら、おしまいだからな」
ネグロ
「……ハ、10年以上グレムリン乗ってるって言ったろ。そんなヤツが結婚できると思ってンのか? いねえよ。家族は。誰も」
ネグロ
「乗り続けるだけの目的は確かにあった。けどな、勝手に吹き飛びやがった……で、あの未識別だ。アイツらは確かに放っておけねえ」
ネグロ
「……まあいい。お前は、コレが落ち着いたら無理してこんなモン乗ってなくていいだろうよ」
ネグロ
「ロクな人間にならねえよ。こんなモン乗ってたら」
>>Eno.17 ルイン
「ふむ、少しは状況を見る目はあるという所か。この船の全てに目を通すのは無理だからな。今のところは主に利用している場所と航行ルートに気を配ってはいるが……まあ、私は別に今となっては睡眠もさほど必要が無い――形は違えど、お前と状況は変わらない」
ルイン
「お前がどういう態度で行くかは好きにしろ。私に何か期待してるなら、あまり過度な期待をするな……とは言っておくが」
ルイン
「まあ、私の気が向くかどうかは働きぶり次第だろうな。せいぜい働いてくれ」
◆7回更新のメッセログ
受信ログ
ENo.17からのメッセージ>>
ツィール・ブライ
「確カニ、一人でオペレーションを続けるにはこの船は広すぎるからニィ」
ツィール・ブライ
「…………実のところ休息もろくにとれていないだろ。寝る時間くらいは取れるよう、俺が何とかするさ」
ツィール・ブライ
「それに……ルイン、あんたには個人的に頼みたいことがある。本来ならこっちから出向くのが礼儀なんだろうが、そうはいかない事情があるんだ。すまないな」
ツィール・ブライ
「いや、中の人などいないんですがー」
ツィール・ブライ
「:非公開:::::::::::::::」
ENo.126からのメッセージ>>
クィリー
「……ってことは」
クィリー
「16年以上もグレムリン乗ってるのオジサン!?
よく生きてるわねー。退職金もらって隠居しないの?」
クィリー
「そんな何十年も戦い続けられる理由って、ぜんぜん想像つかない。
アタシも自信ないもん。
……ま、できるだけ戦い続けたいとは思うけどね。
こんな時代にした原因の未識別(アイツら)を、一機でも多く消し去ってやりたいし」
クィリー
「あ! わかった!
ネグロさんの大事な奥さん子供を守るために戦ってるんだ!
うん、これなら納得ね!」
送信ログ
ENo.17からのメッセージ>>
ツィール・ブライ
「確カニ、一人でオペレーションを続けるにはこの船は広すぎるからニィ」
ツィール・ブライ
「…………実のところ休息もろくにとれていないだろ。寝る時間くらいは取れるよう、俺が何とかするさ」
ツィール・ブライ
「それに……ルイン、あんたには個人的に頼みたいことがある。本来ならこっちから出向くのが礼儀なんだろうが、そうはいかない事情があるんだ。すまないな」
ツィール・ブライ
「いや、中の人などいないんですがー」
ツィール・ブライ
「:非公開:::::::::::::::」
ENo.126からのメッセージ>>
クィリー
「……ってことは」
クィリー
「16年以上もグレムリン乗ってるのオジサン!?
よく生きてるわねー。退職金もらって隠居しないの?」
クィリー
「そんな何十年も戦い続けられる理由って、ぜんぜん想像つかない。
アタシも自信ないもん。
……ま、できるだけ戦い続けたいとは思うけどね。
こんな時代にした原因の未識別(アイツら)を、一機でも多く消し去ってやりたいし」
クィリー
「あ! わかった!
ネグロさんの大事な奥さん子供を守るために戦ってるんだ!
うん、これなら納得ね!」
送信ログ
◆6回更新のメッセログ
受信ログ
ENo.51からのメッセージ>>
ルイン
「……おや、思ったよりはやかったな。気分転換はもうおしまいか?」
ネグロ
「チッ、口の減らねえやろうだな」
ルイン
「どの口を減らせと言うんだ? むしろ、貴様の方がそんな口のきき方でいいと思っているのか? 大体、私は――」
ネグロ
「うるせえ! 小言はあとで聞く!」
ネグロ
「……真紅のメール見たか」
ルイン
「巨大未識別か」
ネグロ
「……真紅に応援を頼んだ。静かの海で戦闘になる筈だ。お前らはそのまま南下しろ」
ルイン
「……どういう風の吹き回しで?」
ネグロ
「……さあな」
ルイン
「まあいい。いざという時に助かりたいなら、もう通信は閉じるなよ」
ネグロ
「……チッ」
送信ログ
>>Eno.126 ネグロ
「グレムリン乗る前はただの整備屋だよ。生身でなんかするのはした事は多少あるがそっちはもっとうまいヤツがいる。……俺が言ってるのは、勢力同士の争いだよ……って、知ってる歳でもないか」
ネグロ
「お前が見た目通りなら、お前が生まれた時にはもう操縦棺に乗ってたってワケだ。まあ、年季だけなら、ってコトだ」
ネグロ
「……そりゃわるかったな。キンタマ圧し潰してやるくらいにしけばよかったか。これならレディにゃわからねえだろ。痛さが」
ネグロ
「ああ、そんな事言ってたのか。蹴っ飛ばしちまってロクに聞かなかった」
ネグロ
「……、そうだな。その意見にゃ賛成だ。美しくなんかねえよ、こんな世界」
ネグロ
「だからといって、繰り返すだとか巻き戻すだとか勝手にされんのはまっぴらごめんだけどな」
ネグロ
「あ? 名乗り? ……ネグロだ」
>>Eno.17 ルイン
「といっても、改めて何かを言うほどでもないのだがな。お察しの通りオペレーターが不足している。好き勝手移動してるヤツまでいるから、私一人では手に負えない」
ルイン
「……まあ、ブリッジに来てもらって私の補助する時間を作ってくれという事だ。君の同行者は、まだ聞き訳がよさそうだからそうそう監視せずとも大丈夫だろう?」
>>Eno.51 ルイン
「……おや、思ったよりはやかったな。気分転換はもうおしまいか?」
ネグロ
「チッ、口の減らねえやろうだな」
ルイン
「どの口を減らせと言うんだ? むしろ、貴様の方がそんな口のきき方でいいと思っているのか? 大体、私は――」
ネグロ
「うるせえ! 小言はあとで聞く!」
ネグロ
「……真紅のメール見たか」
ルイン
「巨大未識別か」
ネグロ
「……真紅に応援を頼んだ。静かの海で戦闘になる筈だ。お前らはそのまま南下しろ」
ルイン
「……どういう風の吹き回しで?」
ネグロ
「……さあな」
ルイン
「まあいい。いざという時に助かりたいなら、もう通信は閉じるなよ」
ネグロ
「……チッ」
ENo.51からのメッセージ>>
ルイン
「……おや、思ったよりはやかったな。気分転換はもうおしまいか?」
ネグロ
「チッ、口の減らねえやろうだな」
ルイン
「どの口を減らせと言うんだ? むしろ、貴様の方がそんな口のきき方でいいと思っているのか? 大体、私は――」
ネグロ
「うるせえ! 小言はあとで聞く!」
ネグロ
「……真紅のメール見たか」
ルイン
「巨大未識別か」
ネグロ
「……真紅に応援を頼んだ。静かの海で戦闘になる筈だ。お前らはそのまま南下しろ」
ルイン
「……どういう風の吹き回しで?」
ネグロ
「……さあな」
ルイン
「まあいい。いざという時に助かりたいなら、もう通信は閉じるなよ」
ネグロ
「……チッ」
送信ログ
>>Eno.126 ネグロ
「グレムリン乗る前はただの整備屋だよ。生身でなんかするのはした事は多少あるがそっちはもっとうまいヤツがいる。……俺が言ってるのは、勢力同士の争いだよ……って、知ってる歳でもないか」
ネグロ
「お前が見た目通りなら、お前が生まれた時にはもう操縦棺に乗ってたってワケだ。まあ、年季だけなら、ってコトだ」
ネグロ
「……そりゃわるかったな。キンタマ圧し潰してやるくらいにしけばよかったか。これならレディにゃわからねえだろ。痛さが」
ネグロ
「ああ、そんな事言ってたのか。蹴っ飛ばしちまってロクに聞かなかった」
ネグロ
「……、そうだな。その意見にゃ賛成だ。美しくなんかねえよ、こんな世界」
ネグロ
「だからといって、繰り返すだとか巻き戻すだとか勝手にされんのはまっぴらごめんだけどな」
ネグロ
「あ? 名乗り? ……ネグロだ」
>>Eno.17 ルイン
「といっても、改めて何かを言うほどでもないのだがな。お察しの通りオペレーターが不足している。好き勝手移動してるヤツまでいるから、私一人では手に負えない」
ルイン
「……まあ、ブリッジに来てもらって私の補助する時間を作ってくれという事だ。君の同行者は、まだ聞き訳がよさそうだからそうそう監視せずとも大丈夫だろう?」
>>Eno.51 ルイン
「……おや、思ったよりはやかったな。気分転換はもうおしまいか?」
ネグロ
「チッ、口の減らねえやろうだな」
ルイン
「どの口を減らせと言うんだ? むしろ、貴様の方がそんな口のきき方でいいと思っているのか? 大体、私は――」
ネグロ
「うるせえ! 小言はあとで聞く!」
ネグロ
「……真紅のメール見たか」
ルイン
「巨大未識別か」
ネグロ
「……真紅に応援を頼んだ。静かの海で戦闘になる筈だ。お前らはそのまま南下しろ」
ルイン
「……どういう風の吹き回しで?」
ネグロ
「……さあな」
ルイン
「まあいい。いざという時に助かりたいなら、もう通信は閉じるなよ」
ネグロ
「……チッ」
◆5回更新のメッセログ
受信ログ
ENo.15からのメッセージ>>
スリーピング・レイル
「そうだな。ネグロさんの言う通り、だとは思う」
スリーピング・レイル
「僕だって死ぬつもりはないよ。誰かを理由にして、死にたいと願っているわけでもない」
スリーピング・レイル
「でも、『そう見える』と言われたら、否定は、できない」
スリーピング・レイル
「……戦場で、迷惑はかけないように、気を付けるよ」
そして、ある夜の話へ。――【Scene:0005 眠れぬ夜】
ENo.126からのメッセージ>>
クィリー
「あなた、グレムリン乗る前から生身で人間と戦ってたの?
本当にベテランじゃない。謙遜しなくてもいいのに」
クィリー
「いや生きたまま背骨引っこ抜くって怖いわ!
レディにグロい話しないでよね、ほんと。
……タワーで目覚めたとき、電話(コール)を受け取ったのよ」
クィリー
「これで3回目とか、破滅は避けられないとか、
全然わかンない話ばっかだったけど、一つだけハッキリと否定できる。
今の世界が、美しいワケないってこと」
クィリー
「空気は汚いし、安心して外も歩けないし、食べ物はおいしくない、
ないないづくしよ」
クィリー
「オジさんはそのへんどー思う?
あと、そろそろ名前教えてくんない? TACネームでもいいからサ」
送信ログ
ENo.15からのメッセージ>>
スリーピング・レイル
「そうだな。ネグロさんの言う通り、だとは思う」
スリーピング・レイル
「僕だって死ぬつもりはないよ。誰かを理由にして、死にたいと願っているわけでもない」
スリーピング・レイル
「でも、『そう見える』と言われたら、否定は、できない」
スリーピング・レイル
「……戦場で、迷惑はかけないように、気を付けるよ」
そして、ある夜の話へ。――【Scene:0005 眠れぬ夜】
ENo.126からのメッセージ>>
クィリー
「あなた、グレムリン乗る前から生身で人間と戦ってたの?
本当にベテランじゃない。謙遜しなくてもいいのに」
クィリー
「いや生きたまま背骨引っこ抜くって怖いわ!
レディにグロい話しないでよね、ほんと。
……タワーで目覚めたとき、電話(コール)を受け取ったのよ」
クィリー
「これで3回目とか、破滅は避けられないとか、
全然わかンない話ばっかだったけど、一つだけハッキリと否定できる。
今の世界が、美しいワケないってこと」
クィリー
「空気は汚いし、安心して外も歩けないし、食べ物はおいしくない、
ないないづくしよ」
クィリー
「オジさんはそのへんどー思う?
あと、そろそろ名前教えてくんない? TACネームでもいいからサ」
送信ログ
◆4回更新のメッセログ
受信ログ
送信ログ
>>Eno.15 ネグロ
「何のつもりだ。訳知り顔で言いやがって。お前が俺の何を知ってるってんだ」
ネグロ
「テメェの死ぬ理由に他人を使うのは勝手だが俺を巻き込むじゃねえよ。俺は死ぬつもりはない。たとえこの世が地獄だとしてもな」
ネグロ
「逃げねえっていうならせいぜい働くんだな。どうせ、戦場以外じゃ何も出来ねえんだからよ」
>>Eno.126 ネグロ
「……チッ、うるせえな」
ネグロ
「歴戦の傭兵だぁ? モノは言い様って事か。……戦ってた時間が長ぇだけだよ。俺は……それこそ、未識別なんて訳のわからねえ敵じゃなくて、同じ世界の人間と戦ってた頃からな」
ネグロ
「……同じ戦いをグルグル繰り返させてるヤツだと?」
ネグロ
「本当にンな奴がいるなら鉛弾なんて生ぬるい事するもんかよ。重粒子粉塵投射砲で跡形も無くしてやる……それが無理なら生きたまま背骨引っこ抜いてやる。楽に死なせてやらねえさ、そんなクソ野郎」
送信ログ
>>Eno.15 ネグロ
「何のつもりだ。訳知り顔で言いやがって。お前が俺の何を知ってるってんだ」
ネグロ
「テメェの死ぬ理由に他人を使うのは勝手だが俺を巻き込むじゃねえよ。俺は死ぬつもりはない。たとえこの世が地獄だとしてもな」
ネグロ
「逃げねえっていうならせいぜい働くんだな。どうせ、戦場以外じゃ何も出来ねえんだからよ」
>>Eno.126 ネグロ
「……チッ、うるせえな」
ネグロ
「歴戦の傭兵だぁ? モノは言い様って事か。……戦ってた時間が長ぇだけだよ。俺は……それこそ、未識別なんて訳のわからねえ敵じゃなくて、同じ世界の人間と戦ってた頃からな」
ネグロ
「……同じ戦いをグルグル繰り返させてるヤツだと?」
ネグロ
「本当にンな奴がいるなら鉛弾なんて生ぬるい事するもんかよ。重粒子粉塵投射砲で跡形も無くしてやる……それが無理なら生きたまま背骨引っこ抜いてやる。楽に死なせてやらねえさ、そんなクソ野郎」
◆3回更新のメッセログ
受信ログ
ENo.15からのメッセージ>>
スリーピング・レイル
「ねぼすけ、やろう……」
スリーピング・レイル
「余計なことを、する気は、ないけど、戦場に赴く以上は、戦う。それだけ」
スリーピング・レイル
「何も知らないのは事実だけど、僕には、戦う力しかなくて、ここに戦場があって」
スリーピング・レイル
「その上でただ黙って震えている、ということは。僕には、できそうもない」
スリーピング・レイル
「もちろん、戦うのが好き、なわけではない。でも、それは……ネグロさんだって、同じじゃないか?」
ENo.126からのメッセージ>>
クィリー
「あ、やっぱわからないんじゃなーい?
アタシと同じねえ<BR>」
クィリー
「<BR>/4/なんてね。からかうつもりじゃないの。
アンタ歴戦の傭兵っぽい雰囲気だから、なんか知ってるんじゃないかと思ってサ。
オッケー、そうする<BR>」
クィリー
「<BR>/0/……アタシは、
もし同じ戦いをグルグル繰り返させてる奴がいるのなら、
鉛玉ぶちこんででもやめさせるわ。オジサンはどうするの?」
送信ログ
ENo.15からのメッセージ>>
スリーピング・レイル
「ねぼすけ、やろう……」
スリーピング・レイル
「余計なことを、する気は、ないけど、戦場に赴く以上は、戦う。それだけ」
スリーピング・レイル
「何も知らないのは事実だけど、僕には、戦う力しかなくて、ここに戦場があって」
スリーピング・レイル
「その上でただ黙って震えている、ということは。僕には、できそうもない」
スリーピング・レイル
「もちろん、戦うのが好き、なわけではない。でも、それは……ネグロさんだって、同じじゃないか?」
ENo.126からのメッセージ>>
クィリー
「あ、やっぱわからないんじゃなーい?
アタシと同じねえ<BR>」
クィリー
「<BR>/4/なんてね。からかうつもりじゃないの。
アンタ歴戦の傭兵っぽい雰囲気だから、なんか知ってるんじゃないかと思ってサ。
オッケー、そうする<BR>」
クィリー
「<BR>/0/……アタシは、
もし同じ戦いをグルグル繰り返させてる奴がいるのなら、
鉛玉ぶちこんででもやめさせるわ。オジサンはどうするの?」
送信ログ
◆2回更新のメッセログ
受信ログ
ENo.15からのメッセージ>>
スリーピング・レイル
「」
送信ログ
>>Eno.126 ネグロ
「……何だお前、テイマーか」
ネグロ
「廃工場で起きる前の記憶だあ? ンなもんわかってるに……、……、」
ネグロ
「……チッ!」
ネグロ
「なんであそこにいたかはわかンねえ。だが、このクソッタレな世界がずっと戦ってる事は確かだ。未識別については、まだわからねえな」
ネグロ
「……そもそも、記憶がサッパリなヤツが多い事自体怪しいがな。残念ながらロクな情報はねえよ。もっと情報が欲しいなら、他でも当たれ」
>>Eno.15 ネグロ
「おい、ねぼすけ野郎。テメエがどうなろうと俺はしったこっちゃねえ、が、戦場で余計な事するなよ」
ネグロ
「俺ァな、テメェみてえなタイプが一番気に入らねえ」
ネグロ
「何も知らねえヤツは、だまって隅で震えてりゃいいのによ、クソッ」
>>Eno.17 ネグロ
「……どういつもこいつも記憶がねえって、あの艦は幼稚園にでもしたいのか?」
ネグロ
「まあいい。お前のあっちよりマシそうだからな」
ネグロ
「せいぜい、俺の邪魔しないようにするんだな」
ENo.15からのメッセージ>>
スリーピング・レイル
「」
送信ログ
>>Eno.126 ネグロ
「……何だお前、テイマーか」
ネグロ
「廃工場で起きる前の記憶だあ? ンなもんわかってるに……、……、」
ネグロ
「……チッ!」
ネグロ
「なんであそこにいたかはわかンねえ。だが、このクソッタレな世界がずっと戦ってる事は確かだ。未識別については、まだわからねえな」
ネグロ
「……そもそも、記憶がサッパリなヤツが多い事自体怪しいがな。残念ながらロクな情報はねえよ。もっと情報が欲しいなら、他でも当たれ」
>>Eno.15 ネグロ
「おい、ねぼすけ野郎。テメエがどうなろうと俺はしったこっちゃねえ、が、戦場で余計な事するなよ」
ネグロ
「俺ァな、テメェみてえなタイプが一番気に入らねえ」
ネグロ
「何も知らねえヤツは、だまって隅で震えてりゃいいのによ、クソッ」
>>Eno.17 ネグロ
「……どういつもこいつも記憶がねえって、あの艦は幼稚園にでもしたいのか?」
ネグロ
「まあいい。お前のあっちよりマシそうだからな」
ネグロ
「せいぜい、俺の邪魔しないようにするんだな」
◆1回更新のメッセログ
受信ログ
>>Eno.51 クィリー
「チャオ♪
オジさん達、グレムリンテイマー?」
クィリー
「単刀直入に聞くんだけど、アナタたち、廃工場で起きる前までのこと覚えてる?
アタシはさっぱり。自分の名前と、テイマーだったことぐらいしか……
だから、なにか知ってることあったら教えてくれない?
タダで教えてやってもいー情報があったらサ」
送信ログ
>>Eno.51 クィリー
「チャオ♪
オジさん達、グレムリンテイマー?」
クィリー
「単刀直入に聞くんだけど、アナタたち、廃工場で起きる前までのこと覚えてる?
アタシはさっぱり。自分の名前と、テイマーだったことぐらいしか……
だから、なにか知ってることあったら教えてくれない?
タダで教えてやってもいー情報があったらサ」
送信ログ
◆戦闘結果
戦闘結果は*こちら*
◆ダイジェスト結果
◆友軍からの通信
西北西海域【赤渦】の戦果通信
>>友軍の戦闘結果蠍火【覚醒】【ティタン】
「進め、ススメェ!!!!」
>>友軍の戦闘結果
スリーピング・レイル【ティタン】
「ええと……、こちら『スリーピング・レイル』。……こちらは問題なく勝利しているよ」
>>友軍の戦闘結果
ツィール・ブライ【覚醒】
「終わりました~」
>>友軍の戦闘結果
37M0『ミナモ』
「こちら37M0……ミナモ、戦闘は無事終了いたしました」
>>友軍の戦闘結果
ヨメ
「さてっ……よかった、勝てました」
>>友軍の戦闘結果
エリーゼ鈍重【覚醒】【バーサーク】
「こちらは問題なし。……やりすぎてしまったくらい」
>>友軍の戦闘結果
チャルミィ【覚醒】
「ワテクシ達がんばりましたわね。うふふンッ♪」
チャルミィ【覚醒】
「敵機を殲滅!撃墜ですわ!そちらの戦果はいかがでして?」
>>友軍の戦闘結果
ポストマン超音速【覚醒】
「特に何事もない、突破完了した。しばらくは柱のお守り、だ。」
>>友軍の戦闘結果
ニフジ
「報告します。勝利しました」
>>友軍の戦闘結果
キルシェ【覚醒】【ティタン】
「なになに、かったの?やったー!いえーい!」
>>友軍の戦闘結果
サム低速【覚醒】【バーサーク】
「今んとこは問題ねっすよ。あちらさんが本気出してきたら知らんが」
精算
報酬 30
経費 -3
フラグメンツ獲得 27
【!】弾薬獲得 あなたは弾薬を 7発 入手しました
【!】残弾枯渇 俊雷⁅踊鵺⁆は弾数が枯渇しました。補給所で弾薬を入手したり、コンテナを入手、開封し、装弾をする必要があります
【!】残弾枯渇 011-B-FIREARM《SOLID-DAGGER》は弾数が枯渇しました。補給所で弾薬を入手したり、コンテナを入手、開封し、装弾をする必要があります
【!】残弾枯渇 AMG-00スチールコアは弾数が枯渇しました。補給所で弾薬を入手したり、コンテナを入手、開封し、装弾をする必要があります
経費 -3
フラグメンツ獲得 27
【!】弾薬獲得 あなたは弾薬を 7発 入手しました
【!】残弾枯渇 俊雷⁅踊鵺⁆は弾数が枯渇しました。補給所で弾薬を入手したり、コンテナを入手、開封し、装弾をする必要があります
【!】残弾枯渇 011-B-FIREARM《SOLID-DAGGER》は弾数が枯渇しました。補給所で弾薬を入手したり、コンテナを入手、開封し、装弾をする必要があります
【!】残弾枯渇 AMG-00スチールコアは弾数が枯渇しました。補給所で弾薬を入手したり、コンテナを入手、開封し、装弾をする必要があります
あなたはヴォイドエレベータ内部を探索しドラゴンブレスを手に入れた……
【物資援助】あなたは[追撃]が付与された《ヴォイドブレード》を入手した……
夜空には静かに星が浮かぶ……(コンテナ入手率 16.45%)
キャラデータ
__0__1__2__3__4__5
__6__7__8__9_10_11
_12_13_14_15_16_17
_18_19_20_21_22_23
所持品リスト
動力炉《Herz eines Wolf》
種別:エンシェントロア [グレイヴエンジン]
《広域DLパーツ:死にぞこないのイゾルフ(Eno14)からのDL》クリン!クランク!!クインテッド!!!
種別:ウィンドミル [操縦棺]
《広域DLパーツ:チャルミィ・ル・プアス(Eno96)からのDL》Chaos
種別:アサルトジャイロ [駆動輪]
《広域DLパーツ:ネグロ(Eno51)からのDL》Chaos
種別:アサルトジャイロ [駆動輪]
Ixion
種別:モーターキャリバー [駆動輪]
後光
種別:悪鬼 [腕部]
《広域DLパーツ:なぎさ(Eno99)からのDL》残弾なし
SCH<V/R.Neko-Tube>
種別:硬質ダガー [物理格闘火器]
《広域DLパーツ:ブレイン(Eno111)からのDL》残弾なし
011-B-FIREARM《SOLID-DAGGER》
種別:硬質ダガー [物理格闘火器]
《広域DLパーツ:死喰い鳥のザミエル(Eno13)からのDL》速射ロケット
種別:速射ロケット [物理射撃火器]
ドラゴンブレス
種別:ドラゴンブレス [頭部]
《ヴォイドブレード》
種別:《ヴォイドブレード》 [主兵装FM]
006-ENGINE≪GUST-ENGINE≫
種別:ガストエンジン [ミストエンジン]
《広域DLパーツ:死喰い鳥のザミエル(Eno13)からのDL》残弾なし
俊雷⁅踊鵺⁆
種別:ボルトチャージ [連射電子格闘火器]
《広域DLパーツ:YAMATO・平太(Eno127)からのDL》Disconnection
種別:突撃頭部 [頭部]
《広域DLパーツ:null 042(Eno166)からのDL》ORG_Eraser
種別:悪鬼 [腕部]
《広域DLパーツ:ペリュトン・ペリュトン(Eno65)からのDL》動作不良誘発
種別:動作不良誘発 [誘発装置]
梟
種別:ミネルヴァ [FCS]
《広域DLパーツ:みなと(Eno120)からのDL》《ヴォイドステップ》
種別:《ヴォイドステップ》 [機動補助FM]
残弾なし
AMG-00スチールコア
種別:速射砲 [物理射撃火器]
《広域DLパーツ:(Eno126)からのDL》未開封コンテナ
種別:未開封コンテナ [コンテナ]
鉱石ラジオ
種別:鉱石ラジオ [素材]
鉱石ラジオ
種別:鉱石ラジオ [素材]
改良システム
種別:改良システム [素材]
波紋の化石
種別:波紋の化石 [素材]
レストアチップ
種別:レストアチップ [素材]
鉱石ラジオ
種別:鉱石ラジオ [素材]
波紋の化石
種別:波紋の化石 [素材]
キラキラマイク
種別:キラキラマイク [素材]
安寧の実
種別:安寧の実 [素材]
安寧の枝
種別:安寧の枝 [素材]
ゲーミングデバイス
種別:ゲーミングデバイス [素材]
安寧の実
種別:安寧の実 [素材]
刹那の葉
種別:刹那の葉 [素材]
安寧の枝
種別:安寧の枝 [素材]
刹那の葉
種別:刹那の葉 [素材]
刹那の枝
種別:刹那の枝 [素材]
レストアチップ
種別:レストアチップ [素材]
秘密兵器0号
種別:秘密兵器0号 [素材]
レストアチップ
種別:レストアチップ [素材]
ゲーミングおむすび
種別:ゲーミングおむすび [素材]
秘密兵器0号
種別:秘密兵器0号 [素材]
改良システム
種別:改良システム [素材]
藻屑の化石
種別:藻屑の化石 [素材]
安寧の実
種別:安寧の実 [素材]
藻屑の化石
種別:藻屑の化石 [素材]
安寧の枝
種別:安寧の枝 [素材]
安寧の枝
種別:安寧の枝 [素材]
追いかける音
種別:追いかける音 [素材]
まち針
種別:まち針 [素材]
まち針
種別:まち針 [素材]