ENo.0149　スタンダール・《RL》・コタール

《実行コード入力……入力受付中》
《機体コマンド：未来に希望を……継続承認、棄却申請を受理》
《暗号化コマンド：blank……承認。シーカーユニット、スタンバイ》
《所属組織の運営：異常なし。一件のアクセスがあります》
《バイタルチェック：実行中》

……

《バイタルチェック：異常発見：排除開始》
《排除処置：実行中。作業進行度……3%》
《32%……42%……49%》
《77%……81%……92%》
《排除処置：完了。電気麻酔ユニット除去》
《RLの覚醒までの予測時間：7分33秒》
《索敵記録の更新：実行中。15分前の記録と照合……敵影および機雷は観測できず》
《機体コマンド：継続承認。PDAに入力済みのアセンブルは解析済み。》
《バックグラウンド：実行中。》

《待機中……》
《…………》
《//RL？》
《//まだ起きないんですか？》
《//最近気づいたのですが、あなたがこうして喋らないでいると、実行するコマンドがないことに気付いたんです。》
《//これは当たり前の話でもあります。》
《//グレムリンに内蔵された戦闘AIであり、制御識を持たないあなたに代わって制御管制を担う私ですから、非戦闘時には些細な、バックグラウンド処理で片付く仕事しかありません。》
《//私の完成度に追随するものは、そうありません。》
《//人間よりも、あらゆる点で優れた人工知能。》
《//ですから、私はあなたと違って火器管制のプロセスを間違えたり、マーケットへの接続中に妙なデータを取り寄せたりすることはありません。》
《//効率的で、判断ミスを犯さない。》
《//それが私、多層学習型並列戦闘演算知能。DiMSANI.06……『ミストルテ』です。》
《…………》
《//それを、あなたは、そう、退屈させている。》
《//私が、あなたの手足に代わり、あなたのコマンドに従い、時々それを修正する。》
《//それ以外の時、私の退屈はどう紛らわせというのかしら。》

《//今日は、許して差し上げます。》
《//あなた、顔だけは悪くないもの。》
《//観測していて、分析結果が得られたのは、良いことです。》
《//恐らくは。》
《//……こんなにログを残すのは、初めてね。》


「装甲の肉抜き、加速性能の向上、音速飛行に対応した飛行翼の追加。それに基づく戦闘能力の変更。詳細なエンジン出力の特性と、その他調整した内部構造の変更点は、シミュレーションと端末内の新規設計図をご覧になってください」
　黒い犬を模した見慣れたグレムリンと、それに装着された面影こそあれ前回の戦闘からは大幅に変化した装甲と火器を眺め下ろして、RLは麻酔の切れた頭で過去のことを思い返す。
「ミストルテ。忘れてたら言ってくれ。俺、調整してくれって頼んだ？」
「PDAに設計データがあったので」
「頼んでないよな？」
「頼まれていないですよ」
　黒髪の少女のホログラムに、RLは向き直る。不満げな顔を、対粉塵ガスマスクを装着して隠した。
「起きたら《サルコファガス》も弄ってやろうと思ってたのに……」
「楽しみを奪われたみたいな顔してらっしゃいますね？」
「みたい、じゃなくて、まさしくそうだぞ！」
　テイマーの男は項垂れ、グレムリンを収めるガレージユニットの柵に額を乗せた。
「俺にも少し仕事残しておいてくれよ。お前と同じで、俺も暇なんだから……」
「仕事ならありますよ、RL」
「ポリッシュまで終わってる機体前にして、何が残ってんの」
「音速戦闘にあなたが耐えられるか、シミュレーションで環境耐久テストをしないと」
「人体実験じゃねえか！」
「このプランでオーバーホールして、あなたが操縦棺内でバラバラになったら困るでしょう？」
「俺が手足もげたくらいじゃ死ねないの、分かってて言ってんならお前さん怖いよ……」
「私は怖くありませんよ、RL」


《//あなたが心配だから。》

　タワー《カインダー》の廃墟を拠点とする、まだ何もないユニオン。
　対塵家屋とガレージと年代物の酒くらいはある。