ENo.0025　デュアルサンズ

本日のニュースです
敵のジャンクテイマーに新型機が現れました
ジャンクの裏には大規模な組織の影があるようです
それは暴力でもって世界を奪おうと、統率を強めているようです
我々の未来は、いまだ闇の中です
戦いましょう、生き残りをかけて……

本日のニュースです
雨の海ではいま「ウミケダマ」の水揚げが最盛期を迎えています
「ウミケダマ」は柔らかい毛がびっしり生えたウニの仲間です
粉塵に汚染された肝を10日かけて浄化し、絶品となります
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

本日のニュースです
領域の1/4を奪還に成功しました
この短期間の戦果としては驚異的です
この戦いも、終わりがあるのです
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです

本日のニュースです
昨日、横道潮流にてボートレースが行われました
荒波を越えて勝利した選手には、1か月分のメシが贈られました
いつか、どこの領域でも平和なレースを取り戻したい。優勝者の願いです
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです

機体を新調した。
ほのかに赤みがあるような鉄色の、アサルト・フレームとやら。
配置が少々危ういが、エンジンを2基積めるハイパワーは悪くない。

問題は、だ。よこされたフレームには「試作」とかいう文字が書かれていることだ。
あいつら、未完成の試作品なんてモンを寄越しやがって。

別に理念に共感しただのそういう理由で紅色の連中につく事にしたわけではない。
ただ、"郵便屋なら荷物狙いのやつとひっきりなしに戦えるだろうな"なんてこちらの都合だけだ。
あんまり酷いようなら別の陣営についてやろうか。いや、それは早計か。

フレームと一緒に引き渡された仕様書には「運用データをフィードバックしてよりご満足いただけるフレームに」なぞ書かれている。
もっとゆっくり来れば他のやつが完成させたものを手に入れられたか？

まあいい、賽を振ったのは俺自身だ。
この結果は上振れだと信じて、もうちと面白そうな方へ足を運んでいってやることにする。

地図の端、なんてのがいいだろう。

本日のニュースです
各企業に物資が行き渡り、活動が再開されています
傭兵に提供する物資も種類が増えています
やがて支配域が拡大するにつれ、その種類、質ともに向上していくでしょう
我々の未来を取り戻す兆しとなっています
戦いましょう、生き残りをかけて……

本日のニュースです
雨音列島では園児たちに「ソーメン」が振舞われました
「ソーメン」はメシの原料からできた高級な麺類です
生き残った園児たちは、みな笑顔でソーメンを食べています
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

本日のニュースです
昨日、赤渦にて海上音楽祭が行われ、人々を鼓舞しました
生き残った赤渦の船舶が集まり、人々は船の上で歌声や音楽を楽しみました
領域の主であるルリオーネは、人々の安寧を願い声明を発しました
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです

久しぶりに足を止めることにした。
ここは工廠、交換できるフレームも、交換に使える機材も揃っている。
一度グレムリンをまるまるメンテし、改めて移動を開始する。

……次は北へ行くか、東に行くか。
ともあれ、俺が求めるのは戦いだ。整備が終わった時点で、より面白い戦いができそうな場所を目指す。
後のことは後で考えればいい。ひとまずは、今目の前の鉄くずを新品にしてやるところからだ。

本日のニュースです
昨日、氷獄にて実戦のさなか映画の撮影が行われました
未識別機動体との戦いを記したドキュメンタリー映画です
いつか、平穏が訪れた時にこの資料がきっと役に立つ
監督はそう口にして、傭兵たちの戦いを追います
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです

本日のニュースです
ヒルコ・トリフネでは今日も「にわとりさま」の祭事が行われています
「にわとりさま」は食された鶏肉の神と言われています
にわとりさまはどう見てもひよこですが、にわとりさまと呼ばなければ祟られるそうです
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

本日のニュースです
各地で戦闘が広がる中
奇妙なうわさがグレイヴネットを中心に広がっています
亡くなったと思われるグレムリンの姿を見たという噂です
我々の未来を脅かすものとなるのでしょうか
戦いましょう、生き残りをかけて……

弾を補給し、更に南に移動する。
目指すは真紅工廠とやら。

なんでもそこには新しいフレームが置いてあるって話を聞く。
装甲が薄く、代わりに速度と火力を強化した攻撃型のグレムリン。

今のグレムリンは錆鉄だ。
こんなもので戦い続けていられるか。

そんなことを考えつつ、いつ手に入れたかも怪しいグレムリンのマニュアルにをめくっていると、ある行で目が止まる。

「最終到達試験機」。
理屈の上では実現可能だとされているらしい、最強最後の最大最終のグレムリン。
神秘工廠[ゼラ]なる場所で作られているだか、安置されているだかという噂話が書かれている。

バカバカしい。そんな与太話なんて載せてるんじゃない。
時間を無駄にしたと思いつつ、俺は錆鉄を起動する。
キリキリ働け、そろそろお前の役目も御免だぞ、と。

体が覚えていたとおりにグレムリンを駆り、その通りに敵を撃破した。
間違いない。俺は以前から、敵を倒して、新たな戦場へ移動して、再び敵を屠る連環の中に生きている。

この繰り返しに何の意味があるかは知ったことではなかった。
なんの未来もない行いだろうと、敵機を叩き落としたときの感覚には替えられない。

第一、俺には他に出来ることのアテもない。
ひとまずはそう、南南西あたりでも目指してみることにする。

弾をかき集め、弾薬箱に叩き込む。
長い旅になりそうだ。気づけば、自然と口角が持ち上がっていた。