ENo.0018　バレクスト

「これからしばらくは、これで……、ひぃ……。」
フレーム整備をしっかりと終えて出たのは小さい悲鳴だった。

……試作として与えられたフレーム、レーダーを廃したかわりにエンジンが２つ搭載できるようになっている型なのだが、ちょうどダウンロードした風洞ボイラーと重ね、演習をした所、ついに音速を得ることもあるようになった。

「ぼ、ボクはなんて事を……人間だったらこんなの潰れて……いやなんとかなるようになってるってんでしょうけど……。」

自身のアップデートは永劫できない、そのためスペックもまだ音速域についてこられるかわからない。

「……は、腹くくるしかねえってんですよね。ほんとに、ほんと、に……。」

未来へつづく道

もたもたしてるとおいてくぜ？などとはとても言えないのだ。
あまりにも速すぎて。

「ぅぇ……」

整備したりさせたりしていたところ、思わず声が漏れる。
加速、加速、加速。
とにかく早く飛び回るようになっていくからだ。

「これじゃ昔とそうかわらないってんですよ、処理大変なのに……。」

でも止めないのは…相棒に復帰してからもすぐ飛べるようにするため……なのかもしれない。

そんな未来を、夢見て。

「吐かないけど、吐きそうになるってんですよ……はあ。」
しかし、前途は多難である。

「……何もみえないでやがりますね。」

たまにはレーダーだけじゃなく、視界でも開けてみようとアイカメラにアクセスしてみる。
……映る景色はどこもかしも赤い霧。
綺麗な景色など何もなく、下はただただ広がる海。

「もうあれから何年になりますか、青空を飛んでいた頃から……。娯楽に興じる暇くらいあればいいなと思いましたけど。」
つけないため息を一つついた。

……


「ぎゃあああああ！？え、えれ、エレライナ落ちるの早、早いってんですよおお！！」
「お互い死なないんだから大丈夫だと思、げっほ！」
「血！血！Gのかかりすぎで血！！」

……

思えば、スピード狂に振り回されてただけだった気もする。
でも今使ってる機体を考えると……

「……癖なんだか、血は争えないんだか。」
ピピと無造作に電子音を鳴らして、ブースターの出力を調整する。

レーダーは敵機の接近を示していた。

「バレクスト、フェアリーゲージ、エンカウント！」

未来の果てに、青空はまた見えるのだろうか。

操縦棺の中、計器がひた走る。
カリカリ、カリカリ。
目を閉じて、しなくてもいい深呼吸をしながら。
入ってくる情報を処理する。

「……っ。」

ピリと来る感覚。
その感覚は常ではないと知らせるもの。

自身に繋げたグレムリンに武器を構えろと命令を下す。
……いや、我が身のように動かしているとも言えるのか。

「バレクスト、フェアリーゲージ、エンカウント……！」


一人こうして戦うのは正直に言えば嫌いだ。
他の人なら計器に任せればそれで全部が済む。その計器の内容を理解する必要はあるが。
だが直接繋げているボクは違う。
周りの情報が、機微が、全てが繊細に飛び込んでくる。
そのすべてをこの機体の計器と一緒になって処理している。
……正直に言えば落ち着けるまでは常に気を張り詰めたままだ。敵に会ってからなんてもっての他だが、敵に会ってない時に気を緩めようものなら索敵がおろそかになる。
こんな深い紅霧の中そんな事をすれば…語るまでもない。

熱源でもいい、思念でもいい、とにかくボクは送られてくる情報をすべて処理する。
……悪態の一つはつきたい、ある意味それが少しの気の紛らわしになるのだから。
だが今そういった相手はいない、だから敵に向かって半ば八つ当たりのように叫び続ける。
とっとと落ちてもらえばこんなに心配することもないのに、あんなに口悪くもしなくていいのに。

……いや、口が悪いのは元々だった。

未来はまだ開けている。
生き別れた相棒は絶対に生きている。彼女は本当に死なないから。