ENo.0111　ブレイン

　――ねぇ、クリスマスって知ってる？
　　　外の世界のお祭りなんだ！　願い事が、叶うんだよ！――





[MS_26-1]　幻想機関メルカルディア　-MLc99E01Wl-　ミッションファイル

　発信：幻想機関中央本部　螺旋塔メルカルディア＝サーヴァテイン

任務地：『虚空領域』霧の大地・零錆戦線
任務内容：現地の調査　任務難易度：B+～A

兼ねてより計画していた、根源波交錯地点へ大規模探査計画。
遂に、それを実行に移すべき時が来た。
霧の大地・零錆戦線。そこに存在する世界、虚空領域へと向かってほしい。

……いや、ブレイン。君と僕の仲だ。形式ばった物言いはやめよう。
これまでの先行調査で、全ての準備は整えた。彼女を、迎えに行ってあげてほしい。
それはきっと、君にしかできないことだ。

君が密かに、自分の力について悩みを抱えていることも、僕は知っている。
この任務は、君にとっても大きな意味を持つ旅になるだろう。
今はまだ、何のことか分からないかもしれない。それでもいい。

これまでの任務のように、ユーリエを一緒に連れていけ。
根源に近しい魂の力を持つ彼女の感性は、きっと君の役に立つはずだ。
現地における行動の仔細は、君の半身であるクラウザにも伝えてある。
何かあった場合はアーカディアゲートを通じ中央を頼るといいだろう。
こちらも、協力は惜しまない。

かつて、一度は凍結されたアーカディア計画をここまで盛り立られたのは
ひとえに君たちウィザードメンバーの尽力あってこそだ。
この無限に広がる宇宙の中で、僕たちメルカルディアとその創炎に連なる者達が
どのような道を歩むべきなのか。答えを得られる時が、そこまで来ている。

願わくば、君に創炎の加護のもと、良き導きのあらんことを。

[MS_26-2]　探究者ブレイン　-BMz95G01Wz-　ミッションファイル
■領域情報：《タワー》　座標：X=3,Y=3　FL【0/40704】
戦場：第111ブロック　タワー港湾区【カラビネル区画】

「……ザザーッ……ザザッ……ザーッ」

「こちらグレイフロッグ隊『ジェト』！　………………」

拡声器を通じて上から浴びせかけられた男の声に、俺は目を覚ました。
永い夢を見ていたようだ。意識がまだぼんやりとしている。
話の内容も半分耳に入らず、俺は、その場で上体を起こして頭を振った。
大きなロボットのような人型の影が見える。語り掛けてきたのはそれだった。
夜の闇に阻まれて良く分からないが、どこかで見たことがあるような
シルエットをしていた。

ブレイン：
「いきなり手を貸してくれ、なんて言われてもな。
　ここは……どこかの工場跡のようだが。
　俺は一体？　くそ、思い出せない。
　記憶に霞が掛かったみたいに……一体なんだ、これは？」

ジェトと名乗った機体は、そんなこちらの様子など意に介さず
一方的に話を終えると、傾いた機体を立て直し飛び去っていった。
残された俺は呆気にとられたまま、周囲を見回そうと立ち上がる。
視界に入るのは、工場跡のような錆びた設備と鉄の壁。
銃声や爆音が壁越しに響き、不調な頭に追い打ちをかける。
どうやら、何かが近くで戦闘をしているらしい。

ブレイン：「…………」

ブレイン：「……クラウザ、来ているか？」

クラウザ：
『無論だ。マスターが真なる体に近しい器であるのならば
　その半身である義体の内に、常に私は存在する』

ブレイン：
「どうやら、記憶に混乱があるみたいだ。
　状況を整理したい。手を貸してくれ」

クラウザ：
『ふむ、良いだろう。ゲートに問題は無かったはずだが。
　転送時に何らかの干渉を受けたのかもしれんな。
　まずはマスター、自分の名前は思い出せるか？』

ブレイン：
「……お前らしい、いきなり意地の悪い質問だな。
　名無しの記憶師……『ブレイン』が結局、名前みたいになったな。
　いや、元の言葉の意味など、どうでもいい。
　俺の名はブレイン。ブレイン・メザードだ。
　ここに来たのは、幻想機関の任務の為……そうだな？」

クラウザ：
『そうだ。我らのメルカルディアは、自らの世界の進化ために
　異世界の情報を求めている。それらを収集し持ち帰ること。
　それが我々、探究者に与えられた任務だ。
　その使命を果たすために、我々は今、ここにいる』

ブレイン：
「幻想機関メルカルディア。異界を渡る者。
　螺旋塔の探究者、メルカルディア・ウィザード……」

クラウザ：
『だが、その活動は、自分達の力だけで成し得るものではない。
　我らの任務は所詮、こちらの都合に過ぎず、創炎の加護の薄い異界では
　我々はただの来訪者であり、非力な迷い人に過ぎないからだ』

ブレイン：「ならば、どうする？」

クラウザ：
『郷に入れば郷に従え、という言葉もある。
　この虚空領域にも我らのような異端の者の力を必要とする人々がいる。
　主に大勢力、大企業といった組織の有力者達だな。
　彼らは我々にグレムリンという力を与え、世界の敵と戦うことを求めた。
　世界の敵、未識別機動体とヴォイドテイマーとして戦う事。
　それが我々に課せられたもう一つの使命だ』

ブレイン：
「ヴォイドテイマー……未識別機動体……。
　そうだ、俺はたしかあいつと共に、夢現の世界で戦いを」

クラウザ：
『思い出してきたようだな。
　探究者は訪れた異界の先でも真に生きることを求められる。
　創炎が求める情報とは観測された事象ではなく、生きた物語であるためだ。
　まあ、レドは機関の真意や探究者の役割については無頓着だったようだがね。
　分かるはずだ、アネットと共に仮初の七月戦役を駆け抜けたマスターなら』

ブレイン：「七月戦役……アネット…………」

ブレイン：
「クラウザ、助かった。大分、意識がハッキリしてきた。もう大丈夫だ。
　ところで、ユーリエのやつはどうしてる。
　あいつのことだ、もうこっちに来てるんだろう？」

クラウザ：
『ユーリエは先に拠点の確保に動いている。
　レドの乗り捨てたバルク・クォーリーを今回も使用する予定だ。
　中央からアーカディアベースにゲートを繋げる許可も下りている。
　さながらバルク・クォーリー・アーカディアといったところかな』

ブレイン：
「御大層な名前だな。外見はただのオンボロ艦だろうに。
　しかも、あの戦いが全部夢だったってことは
　また居住区画の掃除からやり直しじゃないか。
　まあ、前の時もアネットにほとんど任せてしまった様なもんだが……」

クラウザ：
『ふっ、いつもの調子が戻ったようだな、マスター。
　多少意識が混濁しようと、知識や技術に紐づけされた記憶は
　簡単に消えるものではない。……さあ、乗り込むがいい。
　新しい相棒も、マスターが動き出すのを待ちわびているようだぞ？』

ブレイン：
「……グラーベルか。どうやら、歓迎されてはいるみたいだな。
　これからよろしく頼むぜ、相棒。
　言っておくが、アネットの時のようなおいたは無しにしてくれよ？」

俺はジェトが飛び去る前に『そこの機体』と指した、もう一つの影に視線を移す。
そこには膝をつき、傅くように首を垂れた機体があった。
ラストフレームグレムリン・グラーベル。
レド、アネットから受け継いだ鋼の体躯を持つ、新しい相棒。
だが、同時に何人ものテイマーの意志を取り込んだいわくつきの機体でもある。

俺はコックピット内でコンソールの淡い緑の光に照らされながら
夢の中で聞いた、あの声を思い出していた。
……あれは、誰の声だったか。

ブレイン：「クリスマス、か。随分と時季外れな夢だ」

一人呟くと、即座に思考を切り替え、俺はグラーベルの戦闘モードを起動させた。
コックピット内に交戦を示す赤い光が走り、モニターの計器が索敵から
火器管制を表すものへと瞬時に書き換えられる。
リコンレーダーは既に敵味方いくつもの機影を捉えていた。

大型ボイラーの低い加圧振動が操縦桿から伝わり、俺の心を高揚させる。
俺は廃工場の瓦礫を押しのけ、鋼の機体を戦線へと進ませた。
破壊のために生み出されたという悪鬼。その力を戦場に知らしめるために。
まずは上空の前線偵察機《シュヴァルベ ドライ》を撃破し
奪われた防衛施設を破壊。フロントラインをこちらの優位へと押し戻す。

死の粉塵と錆に覆われた滅びの世界で、俺達の戦いが今、始まる。

◆INFORMATION：
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
有効思念制御識：『未来』『希望』

◆SYSTEM_COMMAND：DATESAVE

◆NAVIGATION_COMMAND：ワールドガイド
■施設情報：運搬船バルク・クォーリー　現在位置：ガレージ
小型輸送艦を魔改造したグレムリンテイマー用の個人船舶。
グレムリン一機が運用できる程度の大きさと設備を持つ。
TsCとの戦いの折、前任者のレドがどこからか見つけてきた船だが
出自の程は定かではない。虚空領域調査任務が本作戦になった事で
アーカディアベースとゲート接続されメルカルディアの技術が一部
反映されている。ちなみに、ARはアーカディアの略。