第21回目 午前2時のエムス・ブレイカー
プロフィール
経歴 身長3メートル弱の超巨漢。 短く刈り込まれた髪型は強面の外見をさらに強調し、ブラウンがかった髪の色味がかろうじてうかがえる程度。 その体格にして当然のごとく際立つ、屈強極まる筋骨隆々な肉体、それを除けば……風貌そのものに苛烈さは無く、例えて言うなら温和な恐竜を思わせる。 とはいえ、笑顔はおろか表情の変化自体が乏しく、そもそも寡黙なのも相まって、一見で彼とコミュニケーションを円滑に取るのは少々難しい。 遺棄されたと思しき錆びたフレームの中から「発見」された際には言語のやりとりも通じず、困難を極めた意思疎通の過程で……やがて判明したのは「彼はどうやら虚空領域生まれではないらしい」ということのみ。 名を問われた際に「──エム……(スゥッ)」と発したきり黙り込んでしまったことから、いつしかこの巨漢は「エムス」と呼ばれるようになった。当人も特に拒絶はせず受け入れている。 廃工場からフレーム共々「回収」されたのち、驚異的な学習速度でこの世界の言語を修得したエムスは、周囲に促されるままにヴォイドテイマーとして、未識別機動体との戦いに身を投じている。 駆るグレムリンの名を問われ、付けた名称は“破壊者”(ブレイカー)。 その名を帯びて以来、格闘戦用の武装のみを以て、文字通り敵を“破壊”する強攻型機体である。 その規格外の体格と剛健無比な肉体強度、そして厄介なまでの寡黙さの他に……ひとつ、エムス特有の個性めいたものを挙げるならば。 今や世界を満たす粉塵、それへの妙な敵愾心と……それに伴う大言壮語である。 曰く── 「この粉塵さえ無ければな……グレムリンに乗るまでもない。 剣1本で、あんな鉄人形どもは片付けられるんだが」 《未識別機動体》が常識外の戦闘力を持ち、対抗し得る戦力が理論上グレムリンのみである──という『現況』を聞き知ってなお、その壮語を撤回する様子は見られない。 おそらく、エムスは本当に確信をもって述べているのだ。 ──粉塵さえなければ、生身でも《未識別機動体》を斃せる、と。 ++++++++++++++++++++++ 数度の戦いを経てから、エムスは自らをも“破壊するもの”(ブレイカー)、と自称するようになった。 詳細を問われても「そう名乗るべきだと思い出した」とだけ答え、あとは黙り込むのみである。 |
◆日誌
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
未来を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
傷跡を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
連環を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
希望を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
祝福を、我が手に
「──“次の”おれは、どうやら……剣を振るう力をも、奪われるようだな」
「──今のおれが、この世界に喚ばれた際に、“破壊”のための武器を、失ったように」
「──だが、問題はない。
おれの運命は、今も、過去も、明日のその先も、変わらない。
──“敵”を、“破壊”する」
◆23回更新の日記ログ
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
未来を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
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ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
傷跡を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
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ザザッ……ザーーーーッ
連環を、我が手に
本日のニュースです
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ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
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ザザッ……ザーーーーーッ
希望を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
祝福を、我が手に
「──おれの『戦う理由』。
由来こそ仰々しいが、この《虚空領域》で生きる者たちのそれと比して、それほど希少なわけでもない。
しかし……」
「──理由さえなく、ただ『在る』だけのものに、蹂躙されるほど……易くは、ない」
「──ケイジキーパーよ。お前には、あるのか?
グレムリンに、《ヴォイド・ステイシス》に。目覚めたばかりの、《世界》を知らぬままそこに『在る』、絶対無敵の最終存在に。
応えさせられるほどの、『想い』が──」
◆22回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
未来を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
傷跡を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
連環を、我が手に
本日のニュースです
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ザザッ……ザーーーーーッ
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ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
希望を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
祝福を、我が手に
◆21回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
未来を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
傷跡を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
連環を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
希望を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
祝福を、我が手に
「──なるほど、な。
対流思念知識と遺産知識を十分に集め、演算することで……“世界”が、観測者たる世界の人々によって、正確に、認識される。
それこそが『全領域覚醒』という現象の正体か。実に理にかなっている」
「──おれの《戦う理由》は、単なる“運命”。
“破壊”は、おれという存在に与えられた唯一の“役目”であり、おれの生きるべきたったひとつの意味」
「──だが、それは今や、おれの“意志”。
超越者に与えられただけだった『起源』を超克し、おれ自身となった『配役』だ」
「──おれを除くすべての《破壊者》(ブレイカー)たちが、巡り巡っておれとなり、今がある。
やり直すことも、繰り返されることもない、巡りの終着点が、どれほどやり直されても、脅威ではないさ」
「──ゆえに、おれは“破壊”の使命を果たす……この世界で。この世界の“意志”で。
そして──」
「──いずれ巡る、ここ以外の“何処か”でも」
◆20回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
未来を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
傷跡を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
連環を、我が手に
本日のニュースです
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ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
ザザッ……ザーーーーーッ
希望を、我が手に
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
ザザッ……ザーーーーッ
祝福を、我が手に
「──どうやら、おれ達はどこまでも“遅れて”しまうようだ」
「──まあ、やむを得ん側面はある。
世界の“意志”を受けて情報を更新するためのタイムラグだけ、どうしたところで皆、先へと進む」
「──ジェト、ルキムラ。そしてフヌ。
あるいは、ケイジキーパー……現れしひとりと、未だ現れぬふたり。
今のところ、おれ達はまだ、お前たちの後塵を拝するしかない」
「──今は、な」
◆19回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ……ザザッ
各地で……ザザッ……現象が……ザザッ
……ザザッ……謎の人影が現れ……ザザッ
対話に成功したものによると、彼らは古代の
科学者……という……ザザーッ
我々の未来は……ザザーーーーーッ
あなたの未来って、何?
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
グレイヴネット障害が続き……ザザッ
人々の分断は……
あなたの傷跡って、何?
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
……渦巻く粉塵の雲が、その濃さを増して……ザザッ
渡り鳥がその間を飛び……ザザザッ
時折稲妻が……ザザッ
あなたの連環って、何?
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーーッ
……次々と解放されていく領域……ザザッ
……あと一歩です……ザザッ
大規模な電波障害が……ザザザッ……
あなたの希望って、何?
本日のニュースです
ザザッ……ザーーーーッ
……イワシヤマ動物園の……ザザッ
……デートスポット……ザザッ
あなたの祝福って、何?
◆18回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
各地で様々な怪奇現象が多発しています
この放送もいつまで続けられるか不明です
放送にはノイズが走り、奇妙な囁きや歌が混線します
十二条光柱の光は激しさを増しています
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
謎の光、謎の声、謎の音が各地で広がります
時を同じくして、常識では考えられない未識別機動体も出現
十二条光柱はさらに光を強めます
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
時折、粉塵の雲間から空を見上げます
白い服を着た葬列が遥か高空に見えるときもあります
彼らはいったい何なのでしょうか
何かの異変の前兆でしょうか
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
ついに財団残党の最後の砦が破壊され
残す敵は未識別機動体のみとなりました
そして姿を現したケイジキーパー
もう少し、もう少しで世界を……
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、風の門でおいしいコンブレッドのお店が開店しました
戦乱の中、コンブレッドを配り続けた店主
今ではすっかりプロ、とのことです
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
◆17回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
各地で領域覚醒の報告が上がっています
空が赤い粉塵に覆われてはや幾年
この世界の終わりを意味するのでしょうか
粉塵の向こうにある十二条光柱が激しく光ります
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
各地で財団残党の抵抗激しく、
追撃する各勢力の軍にも損害が出ています
十二条光柱が強く光り、それはまるで争う人々を
咎めるかのように点滅します
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
各地で渡り鳥の群れが観測されています
粉塵に適応した生物でありますが
その姿はなかなか見ることができないものでした
何かの異変の前兆でしょうか
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
残す奪還領域は12領域となりました
間もなく領域覚醒となる場所も多く
未識別機動体によって奪われた世界が
いままさに我々の手に取り戻されようとしています
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、俳優のダースさんとフェリアさんが
小群島で結婚式を開きました
お二人は傭兵として戦い、その中で仲を深めたようです
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
「──ようやく、“駒”の先にあるものが現れたか」
「──おれを含むヴォイドテイマー達、この虚空領域の住人達、“航空者”、そしてジャンク財団の黒幕達……
それらの先にいるもの。世界の理外にして、世界のありようを掌握せしもの」
「──勝負の分で言えば、こちらに勝ち目などないのだろうな。
なにせ相手は……その言いようが真実なら、すでにヴォイドテイマー達相手に“何度も勝っている”、と」
「──まあ、おれには無縁のことだ。
おれは、おれの運命に沿い、“敵”を“破壊”するのみ。
勝ち負けを論ずるのは──それからでいい」
◆16回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
財団の動きに異変が生じています
どうやら指揮系統に混乱が見られる様子です
戦いはこちらの有利に進んでいます
それが想定外にしては、混乱が大きいように思えます
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
真紅連理義勇兵の損傷が大きくなっています
真紅連理は義勇兵の派遣にかなり力を入れています
それは終戦後の影響力を高めようとする狙いがあるようです
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
傭兵たちを主人公にした絵本
「赤さびのせんしたち」が発行されました
赤く錆びた機体を駆り、未識別機動体と戦う姿を
絵本で表現しています
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
全領域のおよそ3/4を奪還しました
快進撃は続き、もはや敵は残りわずかです
平和な時代が必ず来ると信じています……
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、タワーで植物園が開園しました
コロッセオ船団から植物の種子を回してもらい
それが成長し、ついには森となりました
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
「──思ったよりも、脆かったな。『将軍』どもは」
ジャンク財団の拠点急襲作戦、改め──決戦戦力撃滅作戦。
その第一波、戦況優勢の知らせはグレイヴネットのみならず、様々な情報経路を瞬く間に一色に染め上げた。
次の作戦エリアへの侵攻の合間に、エムスは思考を巡らせる。
己の出る幕すらなく、友軍傭兵テイマーらの活躍で撤退を余儀なくされた『将軍』機ども。
いくらかの損害こそ出てはいるものの、おおむね『将軍』機らはその力を誇示する間もなく、窮地に立たされている。
「──とはいえ、最前線のヴォイドテイマー達が駆るグレムリンの戦闘力が規格外すぎることもある。
超音速での制圧機動を極めたものたちの前では、進化とやらすらもノイズでしかない、か」
『将軍』らの、悲鳴にも似た渇望の声に応えるように、彼らには新たな力がもたらされた。
……多くは、異形の変異と引き換えに。
「──あれを、“進化”とは……呼びたくないものだな。
グレムリンという比類なき力を手にしてなお、あれしきが『到達点』なのでは……あまりに、救いが無い」
「──お前たちには、もっと別の『到達点』があろう。別の“究極”が」
「──違うか? グレムリンよ──」
◆15回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
異形のグレムリンとの戦闘が始まった模様です
戦闘領域では激しい戦いが繰り広げられています
敵の進化能力ですが、テイマーに対する反動が
非常に大きいことが分かってきました
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
昨日、赤渦で異形のグレムリンとの前哨戦があり
真紅連理偵察隊が全滅する事態となりました
敵は最大の力を適時使い、必要とあれば使わずに撤退しています
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
雨の海で取れた珍味「ウミケダマ」
熟成された肝の酢漬けが今期も出荷されました
「うみすー」と呼ばれるこの珍味は
合成食物に慣れた人々にはたまらない刺激となります
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
昨日、解放された横道潮流で慰霊祭が行われました
いまだ行方不明な方も多い中、戦闘は続いています
笑い合える日が来ると信じて……
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、女優で傭兵でもあるセリル=クレイアさんが
元気な赤ちゃんを出産しました
新しい命はこの世界に何を見るのでしょうか
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
◆14回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
ついに異形のグレムリンとの戦闘が始まると予想されます
戦闘領域はいま、不気味な静けさに包まれています
この戦いが世界の命運を分けるとされています
財団の代表はいまだ、その正体を片鱗すら見せていません
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
昨日、静かの海で食料運搬船が襲撃を受け
守備隊は全滅、多くの食料が奪われました
ジャンクテイマーの犯行と見られています
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
雨音列島で珍味「フィヤシィテュウカ」が始まりました
フィヤシィテュウカが始まると夏の始まりといわれています
フィヤシィテュウカが何の珍味なのかは失われています
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
昨日、赤の海において大規模なジャンク討伐が行われました
ジャンクテイマー12機を撃破する大戦果を上げました
領域は解放され、どこかに潜むという異形のグレムリンを探します
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、小群島で領域解放を祝う記念像が立ちました
記念像はグレムリンが旗を掲げる姿をしています
残す領域は日に日に少なくなっていきます
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
「──未識別機動体、そして未知なるグレムリン。それらを掌握し、使役するものども。
いわば“謎の力を自在に振るう”存在……当人は、さぞかし全能感に満たされているのだろうな」
「──だが、グレムリンという兵器を用いて勝てぬ相手は、この“虚空領域”にただひとつ。
ジャンク財団がそれを持ち出すに至っていない以上、勝機は十分以上にある」
「──いずれは、“それ”をも倒さねばならぬのであれば。
たかが未知の新型グレムリンごとき、前座扱いできんようでは、先が思いやられるというものだ」
ジャンク財団拠点同時強襲作戦、開始まで──あと、1日。
◆13回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
財団の幹部は8人存在し、それぞれ異形のグレムリンを駆るということです
その恐ろしい姿はまだ公になっておらず、噂だけが流れます
それらを全て撃破せねば
財団の総帥への道は開かれません
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
各地でジャンク財団による略奪や破壊が横行しています
彼らは未識別機動体を指揮し、手駒として活用しています
我々は厳しい戦いを強いられています
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
南の島付近の海上で謎の珍獣「カビャプ」が目撃されています
カビャプが列をなして泳いでいくのが見えます
この後巨人の島方面に向かったということです
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
小群島ではいま復興が加速しています
安全になった土地には、戦禍を逃れ人々が集まります
やがて商業施設もでき、大きな街になるでしょう
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、風の門で再び慰霊の音楽祭が開かれました
未識別融合体との戦いで亡くなった人々を弔う音楽祭です
レクイエムが響く中、人々は祈りと黙とうを捧げます
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
「──“待つ”のはいささか退屈だが、慣れっこではあるのでな。
それこそ、“無限の軍勢”が相手であろうとも、望むところ」
ジャンク財団の『代表』自らによる、世界への宣戦布告。
それは単に「全世界を敵に回す」には留まらぬ、文字通りの「世界」との戦いを意味する。
彼の者達が勝利すれば、「世界」はその手に落ち、彼の者達の望むままに造り替えられる、とも。
「──無限は、無敵であることを意味しない。
“無敵”を無敵のまま倒す手段はないが、“無限”は永遠に無限のままではあり得ないからだ」
エムスの言葉は、謎かけのようにも聞こえる。
それに、普通の思考であれば……『無限』にならば勝てる、などと豪語するのもまた、狂気の所業である。
“無敵”も“無限”も、常人が挑み、勝利するべき代物であるはずもない。
あるいは、それは己への戒めなのかもしれない。
“破壊者”(ブレイカー)という存在が、決して無敵でも無限でもないことへの。
あるいは、それは文字通りの自信に過ぎないのかもしれない。
“破壊者”(ブレイカー)としてこれまで経てきた戦いにおいて、『無限』をすら“破壊”した経験を有するゆえの。
「──待つほどに、こちらの刃は研ぎ澄まされる。
退屈だけが代償ならば、悪い取引でもあるまいよ」
◆12回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
財団の所有するグレムリンの中には特別な機体が存在し
それらは通常のグレムリンをはるかにしのぐ性能を持っているとされます
独自調査で掴んだ情報によると、それらは8機存在し
さらに進化機能まで備えているとのことです
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
昨日、ジャンクテイマーによる大規模な略奪が発生
横道潮流にて、船2隻を奪われるという悲劇がありました
乗員や市民の安否は不明です
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
コロッセオ・レガシィではいまひよこコロシアム決勝が行われています
ひよこの戦いの中で勝ち残った歴戦のひよこ
面構えがちがいますね
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
タワー港湾部に大規模な食物生産プラントが建設されました
施設の多くは仮設ですが、安定的な食物供給が期待されています
瓦礫の目立つ敷地内にも、機械の活動する音が響きます
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、グレイヴネット上で活躍する漫画家が
未識別融合体との戦いを漫画化し、話題を呼んでいます
実際に活躍した機体やテイマーをキャラクターとして登場させています
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
「──襲撃作戦か。
これに乗らぬ話はない……これこそ“破壊”のしどころだ」
“航空者”と呼ばれる者(あるいは「者達」)の、本格的な『参戦』……介入、と読み替えてもよいだろうか。。
本来ならば見えぬはずの“黒幕”さえも一部とはいえ、つまびらかになりつつあり、戦局は大きく変わろうとしている。
ジャンク財団の拠点と目され、また“航空者”により示された海域は8つ──
氷獄、虚ろの海、赤渦、静かの海、横道潮流、赤の海、巨人の島、南の島。
「──わかりやすくて助かる。
グレムリン工廠、あるいはグレムリン関連の研究所が存在する海域がほとんど、ということは……
お互い、同じリソースを奪い合っている、というわけだ。先手後手の差はあるが」
示された海域での襲撃作戦決行は、3日後。
予告された奇襲に効果があるのか?という問いは、この際不要である。
どちらの勢力も、何らかの形で互いの手の内を読み取っており、つまりは打ち得た『布石』の質と量で優位に立った側が勝つ……そういうルールを踏まえての、これは競争なのだ。
勝った方が──世界の行く末を定める「主導権」を、手に入れる、そのための。
「──ジャンク財団の側は、潜伏と浸透に長けている。
比して、こちら──傭兵、ヴォイドテイマーの側は、今のところ少数精鋭ながら、一騎当千の戦力を保っている。
このバランスが、どこで変わるか次第だが……先行有利の原則を覆してみせるのも、悪くはあるまいよ」
それはある意味で、目の前の戦いが、やがて来る決戦の前の「予定調和」に過ぎないという、動かしがたい事実をも示している。
だが、エムスの心中に諦観や動揺はない。決して乱れない、その無表情と同じく。
彼のもつ運命、そして因果。
──“破壊者”──
それは、英雄でも、救世主でも、神でも、魔王でも、特異点でもない。
“敵を破壊する”。
そのためだけに生まれ、そのためだけに己の世界もろとも“敵”を“破壊”する『運命』に殉じて散った、雄々しくも呪わしきものたち。
そして──今は、ただ独り、『敵』に抗う《世界》の召喚に応えて“破壊”の刃を振るう、永遠の異訪者。
──だから、“破壊者”(ブレイカー)の前には、“敵”が現れる。
“敵”ある限り、“破壊者”は──揺るがない。迷わない。
「──3日後か。待ち遠しいものだ」
◆11回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
ジャンク財団の新型について続報です
新型ジャンクには進化機能が備わっているとされています
一部の傭兵グレムリンしか必殺、覚醒を行うことは不可能でした
敵は同じような必殺、進化を行うきわめて珍しいグレムリンです
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
ジャンク財団の攻勢は日々激しさを増しています
彼らはコンテナを抱える傭兵や集落に執拗な攻撃を行います
多くの街が焼かれ、物資が奪われています
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
巨人の島にて、巨大ひよこレースが始まりました
巨人の島名物巨大ひよこを使ったレースです
優勝した巨大ひよこは、お腹いっぱいおやつを食べられます!!
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
バイオ研究所は新しき理論を提唱し
バイオ兵器と人間の融合が可能である論文を発表しました
ヴォイド・エレベータから得た知識をもとに
バイオ臓器移植技術を発展させ、バイオ生命体へと融合するということです
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
グレイヴネット上でゲームの祭典が行われ
様々なゲームのチャンピオンが決まりました
毎年恒例行事を何とか行えたことに、関係者は胸を撫でおろしています
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
「──“黒幕”と“管理者”との駆け引き、かくて“駒”は翻弄される……か。
世界を己の望み通りに塗り替えよう──などという目論見と、その阻止。
ならば、どちらが優勢であれ、迂遠になるのは致し方あるまいな」
いつの間にか、己の記憶に『認識』させられていた、一連の出来事。
ペンギン諸島と氷獄、それぞれの海域で起きている、おそらくは重要な、なにか。
エムスは、今まさにコンテナ略奪のため接敵してきたグレムリン──ジャンクテイマーが駆るその機影を視界に捉えながら、「それ」を思い返していた。
「──有象無象を“破壊”し続けても、その深奥に潜む者どもへは、容易には届くまい。
だが、だからこそ、『待つ』必要がある」
「──そう。たとえば……魚を『釣る』のと、同じ要領だ。
奴らは往々にして、良質なエサの気配にしか、反応しない。
『勝てる』、『先んじ得る』、そう確信して……初めてその意思を、欲望を、真実を晒す」
防護服のバイザー越しに透けるエムスの表情は、硬く、微動だにしない。
だが……その独白を聞き取る機会が何者かにあれば、そこに隠しようのない“期待”を、感じ取れたかもしれぬ。
「──その時こそ、おれの手で、“破壊”をくれてやる。
晒されたものが誰であろうと、何であろうともな」
◆10回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
ジャンク財団について続報です
財団は各25領域全てに影響力を持っています
それゆえに、拠点の場所を割り出すことが難しいのです
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
犠牲は大きく、多くの都市や船が焼かれました
その損害は計り知れません
復興には100年とも1000年とも言われています
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
グレムリンの決闘をスポーツとして普及させる案が
コロッセオ・レガシィで提唱されました
華々しい競技用グレムリンの世界が広がります
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
バイオ研究所の協力で、失われた人命の補填が計画されています
高知性バイオ兵器による労働力の強化です
バイオ・ワーカーはこれからの新しい常識になるかもしれません
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、雨音列島で戦死者を弔うための音楽会が開かれました
厳かな雰囲気の中、鐘の音の旋律が響きます
毎年の恒例とする案が出ています
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
「──《ファントム》……あの〈融合体〉の名としては、いささか不釣り合いだが。
他を取り込まずにはおれぬ空っぽの器……とすれば意味は通る、か。
理屈は“未識別”そのものと変わらんな」
ひとときの戦勝、〈融合体〉迎撃作戦を(少なからぬ犠牲を経て)成功させた人々の頭上に舞い降りた──《航空者》の、言葉。
それは、つかの間の小休止と、さらなる脅威……“ジャンク財団”の深奥に潜む何者かによる、悪しき『世界の改変』なる可能性の到来を告げるものだった。
「──ジャンク財団どもは、戦力の浪費を避け、次の攻勢の機会を窺っているようだ。
小賢しくはあるが、グレムリンの新型を開発する能力があるという一点のみでも、この世界の覇者に最も近しい存在と言える。
易々と、尻尾を掴ませたりはせんのだろうな」
どのみち──エムスにとり、“破壊”すべき“敵”のひとつが、おぼろげに示されたに過ぎず。
超越者の言葉を待たずとも、いずれ相見える流れではあったのだろう。
◆9回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
ついに巨大未識別融合体を撃破しました
領域も次々と解放に向かうでしょう
これは始まりにすぎません
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
巨大未識別融合グレムリンの迎撃が完了しました
三大勢力は大きく兵力を失い、再編は容易ではないでしょう
弔いの鐘が各地で響いています
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
未識別融合体撃破の喜びの花火が上がっています
粉塵でも透過するチャフの炎はモニター越しに七色に輝きます
これから復興に向けて動き出す祝いの炎です
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
強化研究所による未識別融合体の解析が本格化しています
これによって、グレムリンのさらなる強化が見込めるとのことです
索敵による機体の練度強化などが示唆されています
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、グレイヴネットアイドルを集めた番組が配信されました
各地で災害が起こる中、生き残った人々は喜びを分かち合い
歌を歌い、踊る。そんな番組です
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
「──事前の想定より、〈融合体〉の戦力にばらつきがあったか。
迎え撃つ側としては『小物』がありがたかろうが、『大物』を引いた身としては少しばかり骨折りだったな」
『巨大未識別融合体』と呼称された脅威に対する迎撃討伐作戦が、無事完遂された──との報が、数を減じつつも未だ踏み止まる、各海域の人々の拠点を駆け巡り。
喜びの声とともにグレイヴネットに公開された各地の戦況を一通り眺めて、エムスが呟いた一声がそれであった。
苦労に見合わぬ見返りを苦く思って──と言うには、その言葉は淡々と、軽く。
「──まあ、久々に手応えのある“敵”だった。
グレムリンの性能に甘えて、一方的にただ斬るだけの戦いは、ちと味気ない」
……むしろ、骨折りの労苦を──思わぬ“苦戦”をすら、喜んでいるかのように。
エムスの表情筋はいささかも感情を示さず、そこにいかなる思いがあるかは言葉の端から推測する他ないが。
ともあれ、ひとつ。
この世界が、大きな区切りを何とか乗り越えた──のは、確かなのだろう。
まだ、何一つ“終わって”など、いないにせよ。
◆8回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
タワー港湾部の未識別機動体を
ある程度撃退することに成功しました
これより先は、侵入する未識別機動体からの
長きにわたる防衛戦となります
我々の未来は、いまだ闇の中です
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
巨大未識別融合グレムリンの迎撃が本格化しています
真紅連理防衛隊も大きく戦力を失い、各地で撤退が始まっています
連日の戦闘で死者数は数えきれないほどです
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
タワー港湾部にて、ささやかながら領域奪還の
祝勝会が開かれました
僅かながらメシに味付けをした「スシ」が振舞われました
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
思念研究所によるヴォイドエレベータの調査が始まりました
内部の探索では、見たこともない素材が見つかり始めています
やがて、エレベータを通して領域をワープすることすらできると言われています
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、ピグマリオン・マウソレウムによる
戦史を鼓舞する楽曲が発表されました
やがて、戦いを見守る人々の間に流れゆくことでしょう
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
「──世界を『終わらせる』、か」
連日のようにコンテナを狙い襲撃してくるジャンクテイマーを、再度撃墜してのち。
夢の中に(まるで当然のような顔で)現れた『フヌ』のメッセージを、エムスはしばし思い起こした。
「──おれはいい。
もとより、そのために──終わり得ぬ因果を“破壊”するために、おれはこの世界へ呼ばれたのだろう。
だが……この世界に生を受け、懸命に生き延びてきた者達にとっては、いささか荷が重くはないか?」
本日のニュースです
思念研究所によるヴォイドエレベータの調査が始まりました
内部の探索では、見たこともない素材が見つかり始めています
やがて、エレベータを通して領域をワープすることすらできると言われています
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
“終わり方”を忘れ、壊れてしまった世界。
ジャンク財団という矛盾だらけの新勢力も、もし世界のバグが由来なのであるなら、説明がついてしまう。
いかなる世界も、生物と同じく、その持つ《生命》に応じて再生・治癒の力を有する。
ならば、《生命》が尽きてしまった世界は、どうなるか?
そこに生きる者達は、どうなるか? ………
先日来、現れ続けていた死者の残骸もまた、その証左。
もはやこの世界は、誰も『正しく死ぬ』ことさえ、できなくなってしまっている──と。
だから、『正しく』終わらせてやらねばならない……という理屈は、確かに通る。
しかし──
本日のニュースです
昨日、ピグマリオン・マウソレウムによる
戦史を鼓舞する楽曲が発表されました
やがて、戦いを見守る人々の間に流れゆくことでしょう
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
「──人は、“未来”に“希望”があることを信じるからこそ、前に進める。
生きていく苦しみ……それによる“傷跡”を癒す、良き『変化』があると、夢見るからこそ。
では、もはや『終わらせる』他に道を失ってしまった、“祝福”なき世界で……
人々は、どうやって生きるための意志──心の“連環”を、繋いでゆけばいい?」
本日のニュースです
タワー港湾部の未識別機動体を
ある程度撃退することに成功しました
これより先は、侵入する未識別機動体からの
長きにわたる防衛戦となります
我々の未来は、いまだ闇の中です
戦いましょう、生き残りをかけて……
「──とはいえ、墓所の護り手……あの天使も、それはわかっているのだろう。
あれは、おれにだけ伝えた言葉ではない。
グレムリン・フレームに選ばれた、すべての魂に向けて、世界の死に手向ける鎮魂歌を聴かせた──か」
鎮魂という行為それ自体は、つまりは生者のためのものである。
生き残り、生き続ける者達が、死せるものたちから自由であるための。
だが、この世界は、『終われず』に『壊れてゆく』。
生きとし生ける者、すべてを巻き込んで。
おそらくは──幾度となく、繰り返し。
──だから、『終わらせ』なければならぬ。
本日のニュースです
巨大未識別融合グレムリンの迎撃が本格化しています
真紅連理防衛隊も大きく戦力を失い、各地で撤退が始まっています
連日の戦闘で死者数は数えきれないほどです
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
「──確かに、“世界の終わり”は直ちに人々の終わりを意味しはしない。
とはいえ、『浄化』に耐えられる者は、決して多くはないだろう。
今はまだ、因果を掌握した“力ある”テイマー達が戦線を牽引している。
だが、それが途絶えた時、この世界は──」
“やり直し”をする力が、世界に、テイマー達に──そして人々に残されていなかったなら、その時は。
……その続きが、エムスの口から独白として漏れることは、無かった。
本日のニュースです
タワー港湾部にて、ささやかながら領域奪還の
祝勝会が開かれました
僅かながらメシに味付けをした「スシ」が振舞われました
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
「──『迷わないでね』、か。
おれはともかく……日々を生きるのに必死な者達にとっては、随分と酷な要望だな。天使よ」
◆7回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。
各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
ジャンク財団は各地からコンテナを回収、集積しているようです
これが何を意味するか、我々はまだ察知していません
一説によると、ジャンク財団の新型グレムリンの開発に
何かしら関わっているというものがあります
我々の未来は、いまだ闇の中です
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
巨大未識別融合グレムリンに対し、各地で迎撃が始まっています
青花師団の遊撃隊によって、安全かつ優位な位置へと誘導しています
遊撃隊の損耗は大きく、傭兵と真紅連理軍の最終防衛ラインに全てを託しています
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
小群島では白い鳥の群れが見つかったと話題になっています
鳥類は粉塵によってほぼ絶滅しましたが、
一部の種は生きながらえ、粉塵に適応しました
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
領域に存在する次元の歪みに侵入し
まだ見ぬパーツや素材を手に入れられる可能性が高まっています
ヴォイド・エレベータと呼ばれる侵入システムがいま思念研究所で提唱されています
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、巨人の島でラジオの収録が行われました
巨大粉塵獣を追う企画で、何かの死体を見つけたようです
持ち帰るには大きすぎ、探検隊は粉塵獣の卵を手にタワーへ帰還しました
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
「──ジャンク財団、か。
急に傭兵達の敗走記録が増えた理由も……これで説明はつく」
グレイヴネットに流れてくる戦況情報を、(理解可能な範囲で)整理していたエムス。
そんな独り言を呟いたのは、あらかたの情報を網羅し終えた折だった。
《未識別機動体》の大量襲来以降、急激に勢力を拡大しているジャンクテイマー。
本来、指名手配された逃亡傭兵や海賊崩れといったならず者・はぐれ者の総称であったはずのジャンクテイマーが、海域各地で《未識別機動体》と交戦するヴォイドテイマー達の前に続々と現れ、同じグレムリンをもって数を頼みに襲撃、物資を強奪……。
本来なら、到底あり得ないことである。
有象無象のならず者をかき集められる(あるいは新規動員する)ような大規模組織の影、そして人類の脅威たる《未識別機動体》との抗戦戦力であるヴォイドテイマー(=グレムリン)をわざわざ狙う意志の徹底、いずれも──「ジャンクテイマー」という語の従来持っていたハイエナめいた定義からは、程遠い。
新勢力、ジャンク・ファウンデーション……通称「ジャンク財団」。
世界の三大勢力にさえ抗しようとするかに見える、その動きは──しかし、エムスの興味を殊更に引いたというわけでは、なかった。
「──単に、“敵”の種類と頭数が増えただけ。
選り好み不要、すべて“破壊”していけば、おのずと真の“敵”へと辿り着く。
──そうなのだろう? グレムリン・フレーム」
エムスにとって、この《虚空領域》で奇縁ともいうべき巡り合わせにより搭乗することとなった兵器・〈グレムリン〉の細かな性能は、さほど気に掛ける要素ではなかった。
(もしも噂が正しいなら、「因果律に干渉し得る」能力に人知の及ぶべくもなく、それこそ戦闘能力を問う意味すら無い)
フレームの換装に関する情報を元に真紅連理庇護下の工廠[スルト]を訪れたのも、性能への訴求ゆえではなく、単に「より強い威力で」「敵を斬れる」可能性について、前向きに検討した結果に過ぎない。
だから、というわけでもないが──
「──随分と、身軽になって帰ってきたものだ。
これでは、まともに武器も積めまいに」
先日までの錆びた外装を含め、すっかり見てくれは綺麗に(ついでに赤く)見違えたグレムリン。
〈ファイト・フレーム〉と呼ばれるその新しい姿に、しかしエムスは、いささか呆れたように眉を寄せた。
元の〈ラスト・フレーム〉との差異は、大きく括って2点。
エンジンの双発化、および兵装接続ポイントの大幅な撤去である。
軽量化かつ高出力を実現する代償に、固定武装を格納・装着するハードポイントが軒並みオミットされているのだ。
失われた各所の接続端子には、これでもかというくらいに出力系だけが張り巡らされており……
つまり、ブースターやそれに類する機動装置を代わりに積んで、とにかく速度と機動力を高めろ──というコンセプト。
もちろん、代価として失われるものは決して小さくない。
武装がほぼ積めないことによる攻撃手段の限定とそれに伴う攻撃機会の逸失、極端な軽量化指向による装甲性能の弱化、レーダー系装備の非標準化による索敵性能および零力確保能力の低下。
ありていに言って、この〈ファイト・フレーム〉は、攻撃的コンセプトの追求という理想のあまり、逆に攻撃能力を削られてしまっている……と評価されても致し方ないのではなかろうか。
「──まあ、よかろう。
武器の性能は、それを用いる者の力量次第で、いくらでも変わる。
お前が、今のおれの“剣”であるのなら…──」
エムスが、右の掌を目前に掲げ、あたかも虚空を握り潰すがごとくに拳を握る。
……すると、誰も乗っていない〈ファイト・フレーム〉が、音もなく、その右腕部を掲げ、マニピュレーターを拳のように固く握り込んだ。
まるで──エムスの仕草を、真似でもしたかのように。
「──存分に、敵を喰らわせてやるとも。“破壊者”(ブレイカー)よ」
◆6回更新の日記ログ
──一部の発掘兵器にアナグラムされた謎の文章。各地で進められていた暗号解析は未識別機動体の襲撃以降、停滞中
本日のニュースです
氷獄ではいま絵本の読み聞かせが人気です
書籍行商船では絵本の人気が高まっているようです
霧の伝説の絵本は、いまでも人気の話です
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
ジャンク財団の拠点と見られる島が虚ろの海で摘発されました
この島では秘密裏に新型グレムリンを量産する設備が整っていました
このような暴挙を許すことなく、我々は戦います
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、星の海にて海上映画祭が開かれました
戦火の中でも、愛の物語は人気です
人々は涙を流し、戦い疲れた体を癒しました
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
「──紅いもの、か。
《未識別》とは言わんが……追い剥ぎ共のグレムリンが血でも流してくれたものなら、返り血で無条件通過と洒落込めたろうがな」
果たして、ジャンクテイマーの襲撃を返り討ちにした際の戦利品に、赤茶けた鋼材の束が紛れていたことが功を奏したのかどうか──『赤いものを差し出さねば決して通れない』と噂の『赤の氏族』が治める領海・【赤の海】に、エムスは無事入国を許された。
(なお、戦力提供の要請とこそ引き換えではあったが、領海通行にあたり特段の資材供出などは要求されなかった。どこも手が足りぬのは同じであるらしい)
ここ最近、危機的な状況にある海域各地で頻繁に輸送されている救援物資が、何らかの事故かトラブルかで輸送機から「落下」し、それを「運よく」入手した者が一攫千金を得る──前に、追い剥ぎめいたグレムリン乗り・“ジャンクテイマー”に襲われるケースが多発している、らしい。
エムスもその例に漏れず、「運よく」拾ったコンテナを目当てと思しき手合いの襲撃を受け──難なく撃破はしたものの、本来想定していた主戦場への参戦は間に合わず、しばらくはいつもより不満げな無言を貫くこととなった。
エムスが目指していたのは、【赤の海】の南方にある『赤の氏族』管理下のグレムリン工廠。
そこでは、真紅連理【レッド・コネクション】の秘蔵たる近接戦闘型フレーム、その試作機を入手できるという。
強襲型モデルの《アサルト・フレーム》は、各出力系の攻撃性能をとにかく高めた、文字通りの切り込み型。
さらに、真紅連理の秘匿技術が用いられているとも噂される《ファイト・フレーム》に至っては、格闘武器間合いでの戦闘にのみ特化した性能を極めるという。
ただ、秘蔵──といえば聞こえはよいが、今乗っている《ラスト・フレーム》と比較しても攻撃性能においてこそ向上するものの、耐久性や拡張性にはむしろやや劣るカタログスペックであり、戦力の強化に必ずしもなるかどうかは、未知数である。
もとよりパーツ切り替えで多様な戦闘スタイルを発揮できるグレムリン……由来不明で錆び付いているとはいえ極めて安定した戦力である、現乗機のラスト・フレームを換装してまで必要なものなのかは(移動の手間等も考えれば)疑問でもあった。
──それでも。
「──おれの手で、振るえぬとはいえ……やはり、剣はよく馴染む。
古竜だろうが、魔王だろうが、機神だろうが、“絶つ”べき敵はすべて“破壊”してきた。次も──」
防護服のバイザーの下で、わずかにエムスの口元が、歪む。
「──おれの剣で、“破壊”してみせよう」
◆5回更新の日記ログ
本日のニュースです
雨の海ではいま「ウミケダマ」の水揚げが最盛期を迎えています
「ウミケダマ」は柔らかい毛がびっしり生えたウニの仲間です
粉塵に汚染された肝を10日かけて浄化し、絶品となります
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
領域の1/4を奪還に成功しました
この短期間の戦果としては驚異的です
この戦いも、終わりがあるのです
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
グレムリンを駆り、《未識別機動体》と称される“敵”を撃滅するために、本来ならば戦闘以外の行為は不要である。
だが、人がただ生きていくにも、食事や睡眠以外の『社会生活』を営まなければ……人との関りを持たなければ、自給自足さえもままならない。
“粉塵”に覆われ、人々の生存領域が極めて限られたこの世界では、なおさら。
エムスが「その日」グレイヴネットに接続したのは、必要があってのことではない。
時折り、グレムリンのシステムは何の前触れもなく、ネットへのアクセスやメッセージの不規則発信を強制的に実行する。
それを無視し続けていると、しまいにはグレムリンが立ち上がることもできなくなるので、渋々システムの「気まぐれ」に付き合って時間の浪費に耐えるのがエムスの(不本意な)日課になりつつあった。
エムスのグレムリン固有の症状なのか、それともグレムリンはすべてこんな感じなのか?
他のグレムリンと比べたことも、他のテイマーに尋ねたこともない以上、エムスはそういうものと割り切って──それについて考えることは、とっくにやめていた。
「──騒がしいな」
その日。
相も変わらず唐突に、エムスにグレイヴネット接続を強制したシステムが見せた(あるいは聞かせた)のは、大量の「ジャック・オー」なる存在の行方を問う領域通信の雨だった。
それが何なのか、いわゆる「ハロウィン」の時期に一切ネットへのアクセスをしなかったエムスには、知る由もない。
もっと言うなら、エムスは実のところ「ハロウィン」そのものも知らないのだが──それはまた別の話。
* * * * * *
グレムリン──そう呼ばれる大型機動兵器を揺り篭に、身一つで《虚空領域》に放り出された異邦人。
エムスは、言葉さえ通じぬ“異世界”へ、文字通り一人きりで現れたのだ。
動かし方さえ覚束ないグレムリンに乗り込んで“粉塵”から逃れ、鉢合わせた未識別機動体をようようの体で撃破し──そのまま当てもなく、途方に暮れていたところを、ちょうど未識別機動体の反応を追っていたグレムリン乗りの「傭兵」達に拾われ、どうにか生き延びる術を見出して……
(粉塵を少量とはいえ浴びて負傷しつつも生存していたエムスに、「傭兵」達が驚愕していたのは余談である。
その後の意思疎通とグレムリンのサポートにより、エムスが防護服の必要性を理解し受け入れるのにさほど時間は要さなかった)
* * * * * *
「──……」
それ以上の感想を口に出すこともなく、エムスはグレイヴネットとの接続を切り、操縦棺から外に出た。
システムが強制する操作はあくまで断片的であり、その1アクションさえ付き合えば、それで解放される……その時だけは、だが。
身を覆う特注の防護服は仰々しい継ぎ接ぎだらけで、エムスの巨体に見合うサイズがそう見つかるはずもないことは容易に窺えた。
……当の本人は、防護服の無残なありさまに一切の関心を払ってはいなかったが。
それも道理、着込めば誰しもがまともに動くのも苦労するLL式の防護服を着ていてさえ、エムスは信じがたいことに──
グレムリンが脚部を用いて地上を走る速度程度は、飛び越さんばかりに生身で「追い抜いて」しまえるのだから。
「──さて。
おれが“破壊”すべき“本当の”敵は……いつ、現れるのだろうな」
◆4回更新の日記ログ
◆3回更新の日記ログ
◆アセンブル
◆僚機と合言葉
次回ハイドランジア・フリーランサーに協賛し、参戦します
ハイドランジア・フリーランサー担当「我らの領域を取り戻そう、共に。我々に力を」
(c) 霧のひと