第23回目 午前2時のオズワルド・エコール
プロフィール

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経歴 名前:オズワルド・エコール コード:オスカー・エコー 愛称:オズ 年齢:14歳 155cm 性別:男性 レジスタンス組織アイリス・ヴァンガードの若きグレムリン・テイマーでありパイロット。 この世界に転移してきてから白連天則と戦うレジスタンスとして活動することとなった。 名前:P.D オズの戦闘サポート自律機械。自動人形。 オズの父親のお手製らしい。 ドルオタ。 機体:セイバー・シルフ改 グレイブネットのデータを倉庫で入手した赤錆たフレームを再構築再整備したグレムリン。 セイバー・シルフと呼ばれているマシーン・プランをモデルにしているオズの二代目グレムリン。 元は抵抗運動の象徴としてデザインされた多目的人型戦闘機動兵器計画のものである。 |
僚機プロフィール

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経歴 ◇チトラ・ス・ヴォーロ レジスタンスのグレムリンテイマー。 気の強い少女。蒸すので厚着が嫌い。 必然的に操縦棺の中は好きではない。 前線指揮官であるバンデーラ「将軍」とは衝突が絶えない。 が、傍目には仲の良い祖父と孫に見える。 チトラ、の発音が虚空領域標準語では難しいため、 茶虎と呼ばれることが多いが、本人は気に入っている。 曰く、「獰猛な肉食獣だからでしょ!」 ◇Do-S1S イグナイター 零錆戦線第二話より登場。 本来の乗騎・悪鬼神像アグネヤが失われたことから、 謎のグレムリンフレームをベースに急遽組み立てられた機体。 精神遊離巨大腕・ドルニエクローが特徴。 実は機首後方に頭部がある。 Illustration:@camataco Character Design:@maromech【僚機詳細】 |
◆日誌








声がはっきり聞こえるにつれて目も覚めてくる。
視界に映るのはゆっくり明滅している機材。
そこで初めて自分がヘルメットを装着していることがわかった。






そんな空元気ともいえる音声に……重なる様に音声でもない、声ともならない声が聞こえてくる。
その声も薄く。だがそれもまた自分を取り巻くものの一つとして認識できるものが近づいてくる。
それらが近づいてくるにつれて若干のノイズを交えた一体感が自分を包んでいく。

tips
未来の話をしているのに過去の話をしている……?
傷跡を捨てきれずに癒しを求めている?
希望の願いから生まれた絶望
祝福を唄う呪詛の歌
連環たる断絶
・シーズン2




















騎士妖精の封印
白蓮天則との停戦協定
アイリスヴァンガード、解体
オズワルド及びVFMXチームは白蓮天則へ委譲
チトラとドロシー、更迭拘束される将軍を救出
ガラヴァーンと共に独立勢力となり理郎の旅へ。
白蓮天則、宗主と神将マリヤは御子オズワルドを庇護下へ
天獄門の解析が大幅に進み、殉教の旅が始まる。


















P.Dが自らを解体拡張構築しグレムリンと化すことでオズワルド本来のグレムリンが誕生
天獄門の暴走を止めるためセラフ達に戦いを挑むも再び極地消滅
・シーズン3




チトラ、白蓮天則へ帰還。





騎士妖精セイバー・シルフVS装甲超魔フルメタル・パラディアス(Para.Diavolos)
オズワルド、展開された特異思念海領域点でパラディアスにてセイバー・シルフに勝利し和解


オズワルド主導でヴァンガードを再編、独立機動の戦闘勢力となる。
欧州世界人の帰還と天獄門封鎖のための戦い
白蓮天則及び神将との正統なる正規戦が始まる。







ニュー・セイバー・シルフ、パラディアスを基礎に構築と起動に成功。
オズワルド、シルフのセラフ化へ
ニュー・セイバー・セラフが起動しマリヤ、敗北













ニュー・セイバー・セラフ、三者による三次相補により高次化
天獄門突入……
チトラ、宗主と共に天獄門到達
降魔独尊リグナラカ出現、思念海決戦
Hiニュー・セイバー・セラフへ変貌
天獄門により拡張され繋がった欧州世界への次元境界で最後の戦いが始まる。
◆23回更新の日記ログ
◆22回更新の日記ログ
◆21回更新の日記ログ
◆20回更新の日記ログ
◆19回更新の日記ログ
◆18回更新の日記ログ
それはいつかの話。
それが覚えているのは始まりに最も近い頃だったと思い出す。
「なぜ、彼がただの支援機械ではないのか……」
「えぇ。確かに面白い試みです。でも何故です?ただ単に手詰まりだからというわけではないでしょう。」
先生のことですから、と語る女性の声が聞こえる。
先生と呼ばれているのは……男性のようだ。
そう。後に知り、挨拶をする人ではあるがこの人が自分を作ったのだ。
壮年ともいえる男性の声。
「元々自律機械をこの世界の救済の手段の一つ、終末の時には足りなくなる人のためと計画していた……」
「そこは私も関わっていましたし。でもメインに据えたプランを作るなんて。」
「しかも哲学的思考”Philosophical thinking”を搭載するつもり……ただ人類救済のための手段としては余分な部分がありますね。」
男性は小さく笑い、何かを懐かしむように建造途中の機械を見上げる。
哲学的思考搭載型自律制御機械の体を。
「息子の話になるんだが……」
「えっ先生子供いるの」
「私も人間なんだがね」
えぇ……行者みたいな人だと思ってたんだけど、と女性の声が続く。
当然のことを話していたつもりが前提条件がまずおかしいと思われてしまっていたことに
男性は少し困惑したが、また小さく笑うと女性に向けて話し始めた。
「私が泊まりの仕事から戻ると少し寂しそうに話しだしたんだ。」
「中々家に戻らないお父さんだったんだ。」
「傷ついた天使を助けて世話をしていたが、どこかへ行ってしまったと。」
「天使?」
女性は困惑した。中々戻ってこない父親に対して寂しいという情の話かと思ったら……
目の前の男の息子は、親がいない間に天使を助けて世話をしていたという。
荒唐無稽な話だ。そういう大人の気を引くための小さな嘘というのが誰しもが思う答えだ。
だが男はそうではなかった。
「私は驚いたよ。そして好奇心を抑えられなかった。息子は何を見たんだろうか、と。」
女性は何か言葉を続けようとしたが、その意味を反芻するように思う。
彼の息子の人となりは知らない。
だが……そう……大人の気を引くだけなら「天使を見た」それだけでいいはずだ。
助けて世話をしていた?傷ついていた?消えたとは?
「冬の晴れ間だ。森の小さい湖の湖面をのぞき込むと、そこに傷ついた天使が沈んでいたらしい。」
「それを手で掬い上げて、家に持ち帰り……世話をしていたと。」
世話といっても子供に出来ることは少ない。
話しかけたり、水を与えたり……安静にするように支えたり。
「そうしていくうちに元気になったらしいのだが、私が戻る前には消えていた。」
女性は言葉が出なかった。
男の話は以前から聞いていたが、この世界ではないのだ。
そういう類の霊障が現れるような場所とは聞いていない。
「その時に姿を描いてもらったんだが……それは天使というよりも妖精だった。」
「妖精。」
フェアリー、ピクシー、シルフ……
羽は鳥の羽というよりも別のもの。
頭頂部に光の輪はない。小さき隣人。
「それは天使ではなく妖精ではないか、と私は答えた。天使について教えながらね。」
旧約から新約までの話をしながら、一体どういう姿か。
絵画資料も添えて……
そうすると納得したのか、妖精さんだったんだと笑って答えた。
「私はね。自分の世界でもあぁいうことが起きたのだ。」
「この世界ではそういった類のことがそこかしこで起きるものであるのにただ他者……人に委ねていくだけの機械では本当の意味での人に寄りそうことは難しいのだろうと思うに至った。」
人の心に寄りそうにはただ鏡のように読み解くだけではない。
鏡を見て何を思い、何を考えているか考えていくものでなければならない……
「私の原体験の一つかな。」
「結局なんだったんでしょうね、その妖精さん」
「私もわからない。息子でもわからないかもしれないな。」
そういう不可思議なことと向き合うには人も機械もより深く考えられるようでなければ……
だからこそこのプロジェクトに起用したのが……
その声が遠く……
遠くなっていく。
■MEMMORY■

わっ なに?なんだろう。
ねぇ ケガをしているの?
いきてる?
きみは てんしさま?
でも きしみたいだね
おうちにいこう。
だいじょうぶ。
あんしんして。
それでね……
■SEASON 1 END■
※本更新を持ちまして日誌及びメッセージ更新作業は終了となります。
※今シーズン本キャラクターを視聴していただきありがとうございました。
未来傷跡連環希望祝福
◆17回更新の日記ログ
───SAVER・SERAPH───
FILE No4

No1は7回を、No2は15回及びNo3は16回を参照されたし。
”セイバー・セラフ”は我々が便宜上呼称した霊障存在である。
6枚の翼に炎の剣を持つこと、頭頂部に浮遊する光の輪”エンジェル・ハイロゥ”を準えていることから熾天使”セラフィム”に準えた。
しかしこれが我々の知る熾天使のような存在かは不明。
我々にわかることはあまりにも少ないが、それでもいくつかの事実から推測を書き記しておく。
”ニュー・セイバー・シルフ”の構築は滞りなく完成したもののその最初の起動実験はテストではなく
白蓮天則の十二神将ゴステプトによる強襲。
その折に緊急起動させたことが全ての始まりだった。

※9回より。
※思念制御を完全に解放している白蓮天則神将の前では不完全な機械でしかなかったセイバー・シルフ
※反応速度も追いつかず手も足も出ずに敗北してしまう。

敗北を悟り緊急脱出プロトコルを起動させたP.Dにより真紅連盟から借り受けた14番倉庫へ向かわされたオズワルド少年。
彼により起動したであろうニュー・セイバー・シルフは飛翔するとP.Dの証言した脱出を目的とするためではなく
十二神将ゴステプトへ向かい戦い始める。

※10回より
※飛翔して完全起動を確認するものの、オズワルド少年の思念波形は一切計測されなかった。

そしてゴステプトとの戦闘中に形態が変化し続け、最終的には我々が”セラフ”と呼称するような外見へと変貌していく。
※10回より
※6枚の機械的な翼と光輪を備えている。

※11回より。
※白蓮天則の艦隊と神将を一方的に消滅させていく。
これらは我々にとっても想定外であり、また推測するに十分な材料があまりになさすぎる。
そこで先に述べた通り状況証拠から推察するしかない。
その戦闘能力については語ることがないほどの存在ではあるが
そもそも何者なのか、という説明をするに足るものがないのだ。

※12回より。
※コクピット、操縦棺は無人だった。
※つまりオズワルド少年の不在のまま動いている。
まず決定的なものにした切っ掛け。
これは緊急時の起動のため本来霊障からパイロットであるオズワルド少年への干渉を防ぐ……
精神感応防御のために同伴するべきP.Dの不在故に乗っ取り”ジャック”が起きたと我々は導き出した。

15回で述べた”セイバー・シルフ”の制御系図にあるように操縦棺と頭部
各部位をつなぐ機械精神系配線の強化に加えて外部よりの霊障攻撃
思念防御システムとして搭載されるはずだったP.Dの不在により起動した瞬間にジャックされてしまったことが考えられる。
それを示し合わせるように思念波形探知装置は操縦棺からのパイロットの不在にかかわらず思念制御の実行を行っていた。
頭頂部の光輪”エンジェル・ハイロゥ”からオズワルド少年と同じ思念波形が流れていたからである。
もはや欠片程度しかない状況証拠による推察でもない、妄想の領域でしかないが
おそらくこの光輪が、それか光輪を通して別の次元、あるいは別の世界(ここでいう領域)から侵入及び干渉してきた何者かが
”ニュー・セイバーシルフ”を乗っ取りどのような経緯があってかはわからないが
我々が”セラフ”と呼ぶ形状に成りこの世界に現出したとしか言う他ない。
また妄想を連ねて述べるようで研究開発班としての無力さを晒すようで心苦しいが
グレムリンとは本来的に機動兵器ではない存在ではあるまいか、というグレムリン研究中に浮かび上がった我々の仮説が浮かぶ。
この世界の人類が機動兵器として運用しているだけであり、元来この巨体は器…人の体でもあるような……何か魂の入れ物なのではないのだろうか。
我々はこの世界でそれに最適な、持ちうる技術をつぎ込み……器を作ったが
何者かに請われるままにその器を完成させてしまったのではないのだろうか?
ではなぜこの器を作らせたのか?
その目的も一切不明であり、白蓮天則が消滅した時を同じくして消滅している。
我々が出来るのはこの先、この後のためにこのデータをグレムリン・テイマーである彼女らに託すだけである。
そしていつかこのファイルがオズワルド少年が読むことで彼のなにがしかの役に立てば幸いだろう。
我々にはもう消失してしまった彼のためにできることが何もないのだ。
彼が今どこで何をしているのか、そもそも存在するのかさえもわからない。
願わくば彼の無事の生還……いや、この世界以外での無事の生還を我々は望む。
■NEXT FILE ??■
SEASON1 LAST FILE
───??????・?????───

未来傷跡連環希望祝福
◆16回更新の日記ログ
───NEW-SABER・SYLPH───
FILE No3

No1は第7回を、No2は15更新を参照されたし。
”ニュー・セイバー・シルフ”は白蓮天則との戦闘の中で”セイバー・シルフ”をアップデートした新プロジェクトマシーンである。
白蓮天則と本格的なグレムリンによる戦闘を経験した結果、現在のVFMX計画でのコンセプトで対抗することが難しいことが判明した。
グレムリンフレーム上に仮初の鎧、VFMX計画コンセプトを被せて動かしている我々とは根本からその能力差が開いていたのだ。
そこから引き起こされた相次ぐ戦闘での不足と事実上の敗北と敗走から
本機のテイマーであるオズワルド少年とP.Dの要請により本計画はスタートしていくこととなる。

※5更新広域通信(領域通信)より
※尚後日音声記録を精査したところ、オズワルド少年からの本要請はなく
※オズワルド少年の思念波形を重ねた形で何者かがP.Dを通して偽装していたことが明らかになる。
まずP.D主導により真紅連盟との協力を取り付け、フレーム構築を見直し
この世界でより適正に、適合したマシーンを求めていくこととなる。
これはいくつかの兵装プランにより機動兵器に求められる機能の拡張も求めたVFMX計画とは真逆のものであり
この世界の単一の存在としての現在我々が可能とする技術の結晶、最良にして最高の存在を求めたためである。
そのための要求の1つ、可変機能の排除によるメインフレーム
グレムリンの構造の堅実化である。
これは個体としての能力をより剛健にするものであるが
それらは次の必須条項のための基本要求を実現するために不可欠なものだった。
それは思念制御の完全機能化である。
これはFiLE2にあるような機械制御を挟んだ安全装置も組み込んだ機動兵器ではなく
この世界で当然とされるフォーマットでの最良の、当然あるパフォーマンスを発揮できるプラットフォームを構築するために必要だった。
特に白蓮天則から齎されたDSドライブを用いてよりこれらを発揮させる思念拡張技術の応用には
これらシステムのメインになるプラットフォームはどうしても最適化されたフレームが必要だった。

そしてこれらメインプラットフォームであるグレムリンフレームに追従させ
背部に懸架するサブプラットフォームであり、テイマーの思念制御と思念能力を拡張させる装置の開発
思念拡張誘導索の開発である。
これは搭乗者の思念を増幅拡張させ、グレムリンフレーの制御から
他グレムリンの思念を察知することが可能なレーダー機能も兼ねている思念拡張制御系装置であり
テイマーの脳機能、心理的安全を考慮し合計3基実装することとなった。
拡張兵装を追加していく汎用性と多機能性を追求した旧来の計画とは違い
質実剛健性、この世界での適応性と適合する能力の拡張性を追求したマシーン
これこそ新生したセイバー・シルフ
ニューセイバー・シルフである。
兵装は頭部機関砲以外の新規兵装は思念拡張索、拡張兵装として開発していた対艦粒子砲を小型化した携行式強化粒子砲等シンプルなものが多いが
それらで十分なほどの性能を発揮できることがP.Dとのシミュレーションで検証された。
一つ問題点があるとすれば思念制御と拡張による霊障対策であるが
これはP.Dが機械制御によるファイアウォール・セーフティを請け負うことで
オズワルド少年の負担をシャットアウトすることを折り込んでいる。
この世界のグレムリンという存在として十分以上に完成されたマシーンであるが
そのためこの世界に存在する不可解な現象、霊障に対する適合性や
思念攻撃に対する脆弱性も浮き彫りになったためである。
これらはまだ幼いオズワルド少年に対して防御しきれるものではないと判断されたためである。
これがグレムリンの思念制御能力が高ければ高いほど付きまとう問題であり、まだ幼い少年の適合號能力は我々が思うよりもずっと高く柔軟であり
彼の精神性からは想像できないほどの危うさを持っていた。
そしてその仮説は我々の想定以上の現象により実証される結果となった。
■PROJECT VFMX-01■
■NEXT FILE O4■
───SAVER・SERAPH───

未来傷跡連環希望祝福
◆15回更新の日記ログ
───SABER・SYLPH───
FILE No2
No1は第七回更新を参照されたし。
”セイバー・シルフ”によりVFMX計画は大きく前進したが大きな問題が一つ立ちはだかった。
それはこの世界で兵器運用されている”グレムリン”という存在の不可解さである。

※3回更新より。
━メンテナンスと制御のため、十字架による磔刑のように格納されるグレムリンフレーム。
━これには霊障対策に儀式的意味合いを付与している。
これはグレムリンが単純な機械技術のみによって構築されてるとは言い難い存在であったためだ。
この世界この時代に円熟した技術により生まれた存在ではなく、はるか昔いつかの時代に生まれた未知の技術で構成されている部分と
この時代に解析され運用されている技術により構成されている…所謂発掘兵器というカテゴリーに置かざるおえない存在であった。
この世界では当然のものなのかは判断が不可能であったが
人間の完全な制御下にない兵器を運用しているという事実は研究開発チームにとって理解しがたい事であり
受け入れがたい状態であった。
それらは後日タワーでの戦いの以後、グレムリンが自発的に海に沈んだことで証明される。
これは兵器として信用ができないと。
そこで彼らは調査が可能な限りグレムリンについて調査を始めた。
それらはこの世界での当然の事柄ばかりであったが、研究開発班はここでようやくこの兵器をある程度の制御下に置くことを試みた。
1つは主たる制御系統の掌握である。
この思念制御と呼ばれる操縦者との意識による制御方式。
これは操縦者にとって非常に都合のいいものであったが、完全制御下にない……
制御を離れる不可思議な機械と接続するという大きなリスクを孕んでいた。
そのためいくつかの機械制御による複合式の補助制御機甲を組み込むこととなった。

この世界では異様に発達した生命工学の研究を参考にしそこから制御転用が可能と思われる
人間の身体制御をモデルに各部フレームと装甲の間に補助用制御学習回路を搭載。

それらを統制する学習型コンピューターを頭部に収納及び接続し、操縦棺システムと接続する脊椎部分にあたり
操縦者と接続する部分の箇所に二次型の補助制御回路を作成し制御する方式を被せた。

これにより人間の脳にあたる部分を副次回路を伝い操縦者が担う工学的な制御に限りなく近づけることとなった。

また各部に機械工学制御を介入させたことで、戦闘補助を担当するP.Dも
セイバー・シルフのコントロールに介入することが可能となり
サブパイロットとすることも可能となる。
※5更新より
━機械制御が一部可能になったことでP.Dがオズワルド少年の危機を察知し
━突入及び救援に向かうことを可能にした。
これにより機械制御性と操作性は飛躍的に上がり、戦闘経験のないオズワルド少年が適応することへ大きく貢献した。

また思念制御による恩恵も機械制御学習も合わさり可変分離機能を搭載することも可能となった。
VFMX計画により想定されているゲリラ戦や奇襲という戦闘行動を柔軟に可能とし
白蓮天則との戦いでも大いに活躍した。

しかしそれらの恩恵に対する欠点が明るみになるのはそう遠くはなかった。
機械制御をグレムリンの制御に大きく挟むということは、グレムリン本来の性能を著しく損なうものであった。
それは白蓮天則の十二神将との戦いで明らかになる。

それら思念制御やグレムリンという存在を十二分に活用する者たちに比べると
何手も落ちる兵器となってしまったのだ。
※3更新及び9更新より
━グレムリンをグレムリンとして運用する白蓮天則
━その神将と呼ばれる武装僧兵の長らには十分に及ぶ力ほど届かず悉く敗北をしている。
白蓮天則との戦いがグレムリン同士の本格的な戦いになるにつれてそれは深刻な問題として顕在化してしまった。
そこで研究開発チームはこの世界での方針転換を迫られる。
新たな戦闘兵器プロジェクトである。

■PROJECT VFMX-01■
■NEXT FILE O3■
───NEW-SAVER・SYLPH───
未来傷跡連環希望祝福
◆14回更新の日記ログ

それでピーターは一刻の猶予もないことを知り
「来いっ」と命令すると、すぐに夜の闇へ飛び出して行き
ジョンとマイケルとウェンディが続きました。
パパとママとナナが、コドモ部屋に駆け込んだのは遅すぎました。
小鳥たちは飛び去ってしまいました。
ピーターパンとウェンディ 2節より
■14-2

「いやぁー見事に置いて行かれちゃったねぇ」
白蓮天則の天獄門のみならず、その艦隊や組織ごと消滅した虚無の海
一瞬爆縮の影響で晴れたもの……すぐに元の通り戻った赤錆の粉塵漂う空
そこに浮かぶアイギス・ヴァンガードの母艦ガラヴァーン、その格納庫
あの寸時の破滅的な戦いから少し遅れて到着した彼らは唖然としていた。
いきなり閉じた戦い。
元々将軍が持ち込んだ戦いの兆しではあったが、自由を求める者たちや
この世界での安寧を求める者たちや白蓮天則の凶行に抗う者たちが始めた戦いは……あっけなく終わってしまった。
オズワルドという少年と、そのグレムリン;セイバー・シルフの手によって。
誰の制御も、誰の意志も何もかも置き去りにして。
戦いは終わったというものの漂う空気は勝利に酔いしれる勝鬨の雄たけびではなく
ただただ通り過ぎた災害を見送った後の空虚な虚脱感だった。
それは……間近で見ていた二人、あるいはそのお供の1個体も同じだった。

チトラ・ス・ヴォーロの心中にリフレインするのは、今わの際にあの女が叫んだ言葉。
「いいかいチトラのお嬢ちゃん!これがお前の望み!願い!敵と戦う!敵をを滅ぼすってことだよ!」
これが私の望みなのか?
少女にその解き放たれた女の雄たけびに返す言葉を持ち合わせていない。
いや、形にできなかった。
起きたフラグメント”要素”だけで言えば
白蓮天則と戦うアイリス・ヴァンガードのグレムリンテイマー
オズワルド・エコールの乗るセイバー・シルフによって白蓮天則は敗北した。
しかしそれは事実であり事実ではない。
オズワルドの手を離れたグレムリンと何かが、何もかも滅ぼした。
自分が戦っていた相手が、抗わなくてはならないと立ち向かった者たちがゴミのように払われては消えていく。
そして虚無に還ったのだ。
言い表せない、全ての事柄への不快感。
気持ち悪さ……いら立ちが漂う。
「あ、私はまだこの世界で戦うよ。まだこの世界は戦っているしね。」
「この世界で、この世界で生きる人のために戦う人がいるから。」
「それになんかここの世界ってループしてるみたいじゃない?ならどうなるにせよ戦っていくの悪くないんじゃないかなって」
「まだ起きてから慣らし運転もできてないしね、このグレムリンも私も。」
私はそういう感じだけど貴方はどうするの?と。
聞いても答えが返ってくることを期待していたわけではない。
ただ。
「ダメなら次にかけるさ。テイマーならね。」

戦い続ける、という意志。
その灯はそこにあった。
シーズン1:サイド・オズ メイン おわり
シーズン1幕間とシーズン2へつづく
未来傷跡連環希望祝福
◆13回更新の日記ログ

「はい、コーヒー。もうすぐ迎えに来てくれるらしいからさっきの書類出しておいてね」
「ありがとうございます。」

身分証明書と探すべき父親の詳細が書かれた写真付き手紙を鞄から取り出してから
少年は女性兵士が手渡すコーヒーに口を付けた。
「それで君は戦うの?」
「戦います。」
そうして少し、待機室の壁掛け時計の針がいくつかほど鳴ったあたりで女性は聞いてきた。
突然の質問の意図がわからず……いや、自分がすぐさま答えたことに驚いた。
しかしそこで言葉は止まらなかった。

「何が出来たのかはわかりません。」
「何が出来るのかもわかりません。」
「何が出来るようになるのかも……わかりません」
茶色い泥のようなコーヒー。
まだ何も混ぜずに飲むには苦々しく思う、大人の飲み物。
紙のカップに注がれたそれを見ながら握りながら答えていく。
誰にも止められることなく、自分ですら止めることが出来ない。
その言葉と思いは溢れていく。
「受け入れられないことは、受け入れられないから」
「自分も……誰かも失わないために……誰かに傷つけられても、自分も誰かが傷つくことになっても」
「戦います。」
「その戦いに果てがなくても?」
「戦い続けます。果てがないなら終わらせるために。」
「自分を、誰かを差し出せば終わるかもしれないけど。」
「自分も、誰かも渡さない。そんな必要はないんだ。」
「誰にも……何にも差し出す必要なんてないんだ!」

そうして顔を女性兵士へ見上げた時、思わず紙コップを落としてしまった。
今まで積み重ってきた心……自分と、誰か達の心が重なって生まれた意志。決意。
それをようやく言葉に出来て、口にしたとき。
すぐそばにいたものは。

「ハ。ハハ。」
「アハハハハ。」
だれだ?
今の目の前にいるのは誰だ?
いやそもそもここはどこだ?
何かがおかしい。
何を見ている?どこにいるんだ今は!!
「待たせた。」
待機所の扉が開く。力強く叩かれるように。
とてもではないが何かに配慮した入出に仕方ではない音。
確かこの時にイギリス国籍の兵士が迎えに来たはず。
あの兵士は男性だったのは顔を隠していてもわかったし声もそうだった。
そのはずだった、ではこの人は?と振り返った時には遅かった。

自分の前にはあの時の大人よりも大きい……女。
ヘルメットもゴーグルも、マスクもつけていない。
顔と背丈以外同じの女が立っている。
「……ッ!!!」
何かがおかしい。何が起きている?
今は渡されていないはずであっても、訓練して習慣づけた……防衛か、警戒か、恐怖か焦りか何かが。
そこにあるはずだと腰のショック・セイバーに手を伸ばしたが。
が。

「何故恐れる?何故構える?何故目を逸らす?」
「恐れるな。構えるな。目を逸らすな。」
「私を見ろ。」
女は少年の腕を掴み、易々と持ち上げてしまった。
子供どころではない。狩人がウサギの耳を掴んで持ち上げるように。
「すごいよ。やっぱりそうだった。何も変わらない。とてもうつくしい。」
「あなたがかつて私を見つけてくれた時から」
「あなたがかつて私を”掬って”くれた時から」
「何も変わらない。」

何を言っている?なんのことだ?
何を見つけた?何を”救った”?
何を……いや、いや……何かが見える。
何を見せている?これは水面?
水面に自分の顔が写っている?
誰の…?

「素晴らしい。とても美しい。」
少年を吊り上げた女は捻り回し、もう片方の手で少年の顔を掴みその瞳を開かせて自らものぞき込む。
その開かれた”爬虫類”のような瞳孔と自分の瞳を合わせるように。
「極彩色”プリズム”の瞳。世界と世界を写す鏡の瞳。」
「万華鏡”カレイドスコープ”」
「其方の輝く瞳が我らを映し出す。我々はもう鏡の中だけの存在ではない。」
「認めよう。其方が我らの主。」
「認めましょう。あなたが私の主。」
「「我々はもう彷徨うだけの虚像ではない」」
「ちょどいい名前”黒い竜:チェルノ・ジーラント”の体がある。私はそこから生まれるつもりだ。」
「私らに続きたい子も一杯いるしね。」
「みんな待っていたんだよ。」

「子供一人捕まえてずいぶんなはしゃぎようだね。」
「これだから礼儀も知らないバケモノは困るよ。」
「マ……マリヤさん!」
「何故?」
「思念制御識で繋がっているからだろう。だがまだ意識があるのか。いや取り戻したのか?思念素体にふさわしい人間だ。」
搭乗していたグレムリンと同じく左腕のない女が扉の側にいた。
左顔を何かに浸食された顔で睨みつけながら扉の淵にもたれかかる様に立つ……
「ごちゃごちゃうるさいよ。全くバケモノも人間と大して変わりやしない。」
「都合のいい子供をいい様に使っちゃってさ……気に入らないねぇ」
「邪魔だなコイツは。」
「そういうな。私とすぐに馴染む。強靭であればあるほど、私はいい体で生まれることができる。」
「失せな。」

マリヤの左半身から勢いをつけて浸食していく何か……
しかし無事な右手には起爆スイッチが握られていた。
概念や抽象的なものとして実体化しているそれは、重粒子粉塵制御式融合炉を握りつぶすトリガー。
「この女、危険だよ。この女も……」
「頑なさ、強靭さは重要だが……それ以上は必要ない。それ以上抗うな。それ以上逆らうな人。」
「マリヤさん。」
「失せろっていってるんだよモノノケどもが!」
そうしてトリガーは女の強い意志と共に引かれた。
■13。5
「宗主様お許しください。」
「此度の旅路、ここまででございます。」
「これも我らが増上慢心のため。何を以ても返すことはできませぬ。」
「これもまた定めなのでしょうか。」
「南無阿弥陀仏」

その瞬間超巨大構造体”天獄門”はその周囲ごと、白蓮天則を巻き込んで
まばゆい閃光と特殊な電磁障害の渦を解き放ち……この世界から消滅した。
後に残ったのは……2機のグレムリン。
2人のテイマーと1体のドロイドのみだった。
未来傷跡連環希望祝福
◆12回更新の日記ログ

天獄門
それは白蓮天則が保有する超巨大特殊設備構造体”メガストラクチャー”であり、白蓮天則を白蓮天則たらしめるものである。
一目でわかる超巨大なリング状の構造物とそれに連なる超巨大構造体。
それらがまるで従者のごとく直下……あるいは周囲に……構造物を中心から放射状に広がり侍らせ浮遊している。
白蓮天則の本部、本拠地、本尊である。
虚空の穴のごとく開かれたリングの中心には何か異様な空間の歪みを視認させながらも
その巨大さだけではない何かから威圧的な存在感を放っている。






白蓮天則の”はじまり”はこの虚空の海に漂う船団の1つでしかなった。
謎の構造物を牽引するただの漂流者の集まり。
しかしその謎の構造物を起動させた時より漂流の旅は終わる。
その構造物はこの虚空の海と別世界を繋げる超空間ゲートだった。
そのゲートよりもたらされたのは…どこからか聞こえてくる男の声。
その声により与えられた技術。
電子や医療のみならず思念拡張技術、十二神将と呼ぶグレムリンの構築図
そして何より彼ら船団を救ったのは救済思想である。
これら膨大な、遠大な技術や教えをただただ救済のためと無私に与えてくれる存在がいる……
それらに会うことが叶えば、さらに教えを請えれば
このただただ何もかも足りない海の世界に
赤い錆に覆われた空の世界を救済できるかもしれない。
出来るに違いないと。
遥か彼方遠くの世界を目指す巡礼の旅が始まったのだ。










言っている、との言葉は出なかった。
大僧正の目に映る天獄門守護の直掩艦隊……そして残る神将の思念波形が”ぐずぐず”に歪んでいく。
狂気乱舞。誕生歓喜の羽ばたき。
グレムリン……神将の体、兵装……また背中より”なにがしか”が生えては開いていくのだ。











残る右腕を護衛艦隊の中でも一際巨大な船舶の動力部に突き立てて吠える…黒いグレムリン!
その手は調整されていた超空間ゲート起動用重粒子粉塵制御式融合炉心を掴み掲げる!







そうして握りつぶそうとした瞬間
失ったはずのグレムリンの左腕が、虚空より生えてきた。
損傷したはずの頭部からまた赤黒い何かが生えていく。
何かがこのグレムリン、チェルノ・ジラーントから現出しようとしていた……
プリズムに輝く光輪、角、赤黒い装甲表皮……
それはチェルノ・ジーラント”黒い竜”の名前の近い赤黒いドラゴン。

■午後3時のオズワルド・エコール

・東欧某国 国境”ボーダーライン”付近
「おっと……大丈夫?」
ふと、意識がはっきりとしたのは何かにぶつかった時だった。
とは言っても固いものでもなく、柔らかいものでもなく。
武装した人に受け止められていた。
「あっ……ごめんなさい。」
「長かったでしょう。電車も窮屈だったろうし。」
ここはポーランドと旧東欧地域国境付近の駅に設営された……避難民の一時受け入れ場所。
そこで少年は躓き、倒れそうなところを武装した女性兵士に受け止められていた。
ここでは今NATO:北大西洋条約機構から派遣された欧州機構の兵士や警官が
避難民の整理、警護……そして現地戦争災害調査を行っていたのだ。
「どこへ行く予定なの?お父さんとお母さんは?」
「父がイギリス陸軍の機甲師団と母から聞いています。父を探すようにと……母から」
「そっか。一人ここまで。頑張ったね。」
「……はい。」
「私はフランスの人間だけど、イギリス軍も来てたから、聞いてあげるよ」
「ありがとうございます。」
欧州でも特に過酷な戦災のあったイギリスであるが、その影響力はまだ強く
欧州各地にアメリカ軍と共に基地と戦力を保有していた。
今回の有事にも活動は慌ただしく、それ故にこの東欧の端にも配属されている部隊はあった。
そういった軍事組織の関係者であることや身元がはっきりしていることから少年他の避難民とは違ってこの女性兵士に連れられしばし休憩することとなった。
陸路での軍事衝突地域からの避難は10代前半の子供には心身ともに過酷すぎただろうことを計ってのことでもあった。

「はい、コーヒー。もうすぐ迎えに来てくれるらしいからさっきの書類出しておいてね」
「ありがとうございます。」
身分証明書と探すべき父親の詳細が書かれた写真付き手紙を鞄から取り出してから
少年は女性兵士が手渡すコーヒーに口を付けた。
「君は軍隊に入るの?」
「えっ」
そうして少し、待機室の壁掛け時計の針がいくつかほど鳴ったあたりで女性は聞いてきた。
突然の質問の意図がわからず、つい聞き返してしまった。
「こんな時だし、お父さんの近くにいるようになったらそうなるかなって」
「そう……なるんですか?」
「私はそうだったよ。そういう家系だったけど。」
女性は空いた片手で胸の身分証……国家憲兵隊の証を見せる。
彼らはここで何が起きているかの検分のため派遣されていたのだ。
古くから続く家の仕事として従事していた父を見て……
自分も続くように仕事についたらこんなことになるなんて、とも話す。
「……わかりません。」
「わからないんだ。」
直接言葉には出さないが、咎める声色ではなくただ単に聞き返しているだけで。
それもあって少年はもっとわからなかった。
この人は自分に何を聞いているのだろう……と。
「……わかりません。僕は……僕は…何が出来たんでしょう。」
「何が出来たんだろうね……もしかしたらこの先何か出来るようになるかもしれない。」
「それが軍隊なんですか?」
「私は今君とか助けられてるしね。」
ね。と返す女性は案外悪くなさそうな顔で答えていた。
そこでようやく女性兵士の顔もかなり憔悴していることが見えた。
が……この問答が何かになったらしい、と感じた程度に声色と顔色は少し人間らしさが戻っていた。
それがどんなことか、今この避難所で彼らは何をしているのか。
何を見ていてこのような心情になっているのか……察するほどの少年ではないが、何かよかったのだろうかとは思った。
「……ありがとうございます。」
「いいよ。やりたかったことだしね。」
「あっお迎え来たみたいね。」
「まぁお父さんに色々聞いてみなよ。色々答えてくれるでしょうし」
「そうでしょうか?」
「男親、そういうところあるよ。それから決めたら?」
「それまで私たち大人が守るから安心していいよ。そういう仕事選んだんだからさ。」
「……はい。」

そうして少年は迎えに来たイギリス国籍の兵士に連れられて行った……
午後5時……南部……にて…ー…便が……の……により撃墜さ…と…情報が……
生存者は……航空調査局は……この地……不…能……
つづく。
未来傷跡連環希望祝福
◆11回更新の日記ログ



壁に縫い付けられていたセイバー・シルフ……P.Dの前に現れたのは
いつのまにか倉庫にあった予備用フレームに試験的に外装を付けていたはずの……
管理コード:セイバー・シルフMk2
それがグレムリン用牽引ワイヤーを片手に目の前に飛んできたのだ。





よっこいしょ、とMK2と呼ばれたグレムリンはセイバー・シルフに突き刺さり磔にしていた錫杖を引き抜いていく。
終われば適当なところで自立できないセイバーシルフへ肩を貸すように掬い上げた。







P.Dが。乗っているのでしょうか。と疑念の声が出る前にドロシーはチトラを促した。
オズワルド少年が乗っていようがいまが事態は動いてしまっている。
それこそ坂道を転げ落ちる石ころのように……誰も止められない。
止められるとしても、止めるために備えなければならないのだ。
少し遅れてチトラから返事が返ってきたことで……幕が閉じて、新たな幕が上がる。
■11
がやがやとに騒がしく、その会合が開かれていた。
電子空間…サイコ・DS・ドライブ”末那識”を用いたデジタルネットワーク上で行われている会議
いや、会議というものでもない。
これは白蓮天則により開かれ設けられた重要な査問会でもあった。
当の、主に呼び出された護法官であるマリヤといえば憮然どころか悠然と彼らを眺めている。
自分以外の全て。デジタルアバター化した僧正や僧侶、はたまた大僧正まで
この白蓮天則を開き運営している者たち全て……肉体を捨てて電子化したものさえいる。
ざわめきつつ問われるのは、先の戦い。
十二神将ゴステプトの敗北……いや、消滅。
前代未聞である。白蓮天則の中でも武門を誇る武装僧侶、僧兵の中でも一握り……
遥か彼方の浄土から送られてくる神将の適正があり、それを乗りこなす者。
そのものが一人、消滅したのだ。
「ことの重さがわからぬようだな!」
「しかしこれはゴステプト自身が招いたことでは?」
「然り。意気揚々と戦いを挑み敗北どころか仏敵の業を重ねる。増上が過ぎたのでは?」
「言葉が過ぎるぞ!もとはと言えばこの者が遊んでいたが故!わかっておるのか!」
「弁明はあるのか護法官よ」
「無論。遊んでいたわけではありません。彼の者は子供。子供故に思念拡張制御との相性はいい。望めば望むように物事を運べましょう。」
「そういった適正がかの者にあった。であれば捕まえこちらで飼い殺しにするか、適当に相手をして遊んでやり適度にあしらえばよろしかったのです。」
「では其方はこうなることがわかっていたと申すのか。」
「えぇ。」
「無礼な!宗主様にしか許されぬ物言い!」
「ではわかっていながら黙っていたと申すか!」
「私はこの通り行動制限を受けておりますが故何か物申すことは憚られましょう。」
「貴様……!」
「大僧正殿!もはや聞くに堪えません!こやつの破門!審議にかけましょう!」
「こやつがいなくとも我らの法力、神将を合わせればあやつを退けることなど!」
「愚か者!既に我ら神将及び艦隊!その半数以上がヤツに燃やされているのだぞ!」

大僧正の一括でその場は静まり返った。
外部を移すイメージモニターには……
6枚羽で頭部に金色の輪をきらめかせるグレムリンが……
炎の剣にて神将を、艦隊を燃やしては消滅させてく。
迎撃に出たものはその全てがこの世界から消滅しようとしていたのだ。
「まさしく……天魔降臨。」
「我々浄土へ向かう者たちの増上慢心を裁きに来たのだ……」
「浄土楽園を守護する天魔の王が……」
大僧正の一声で静まり返っていた空間は次々と僧侶たちの恐怖、不安、懺悔の声が溢れていく。
「これを調伏できると申すか」
「出来ますとも」
「では直ちに」
「しかし権限がありませぬ。この通り謹慎の身故に」
「何を望む」
「それは大僧正様が一番ご理解されているはずです。この一大事でありますから。」
「こやつ!」「貴様!弁えよ!このままでは貴様も」
「私はどうとでもなりましょう」
なにせ神将にも劣らぬ…力があるのだから。
言葉に出さなくてもいい。それは渇望するものではない。
これは儀式なのだ。
外来のものがこの組織が終わるか終わらないかの瀬戸際で示す……力というものの関係を。
「よかろう。神将の位と行動許可”大自在天”を与える」
「なっ……!」
「神将であってもそれを得られるのは宗主様か始祖に認められた者のみ!」
「大僧正様!それは!」
「今ここで滅びれば事すべて同じよ……」
「ありがたく。」
「直ちに救世してみせよ!」
「あやつは全て”わかっている”のだ」
「こざかしい…あさましきものめ!」
「違う」
「……大僧正様?」
「それではない」「大僧正様…?」
「これまでどうであったかも、どうであるかも」
「これからどうなるかも……全てわかっているのだ」
「し、しかしそれでは宗主様や始祖様と同じく」
「なんというものを迎え入れてしまったのだ我々は…」
■11.5


漆黒の重量級グレムリンが護法艦の甲板を下から”引きはがし”現れる。
突如現れた霊……いや邪気を感じ取ったセイバー・シルフは護法艦ごと切り裂くよう
炎の剣をふるう。



周囲には炎上する護衛艦隊、神将だったもの……
まさしく地獄
赤い天”そら”
赤い炎”うみ”
赤い虚空”せかい”
三千世界を焼かんとする地獄が広がっていた。

それとは裏腹にコンソール・モニターにうつる波形
サイコ・DS・ドライブによりつながったオズワルドの思念波形は穏やかだった。
眠っている時のそれにちかい。
だが……それと重なるように、いやそれと連なるように波打つものは異質だった。
歓喜。狂乱。

戦闘機動に入ったセイバー・シルフと漆黒の重機動グレムリン・チェルノ・ジラーントの戦いが始まった。






各種レーダーセンサーでの捕捉を開始し接近を試みる。
今は、この突然現れた女しか事態を把握している者はいないのだから、チトラとしても不承不承戦うのみだ。
かつての束縛の象徴である白蓮を焼く悪鬼は、チトラの力でも無ければ救世主などでもない。ただ、気持ちが悪い……。
専属のサポートマシンであるはずのPDすら判断できない”それ”が何者かを探る出撃。
”それ”がまさか護法巡礼艦に向かっていたとは思わなかった上にそれらを殲滅しにかかっている。
地獄のような戦場だ。
あの何かからオズを引きはがすことが出来るかどうかもわからない。
そうしたわからないことだらけの戦場で、事態は動く。
ジーラントが左腕と引き換えにセイバー・シルフの胸部装甲を引きはがした時だった。
操縦棺に最も近い場所がはがされて露になる……そこには。





そこには”誰もいなかった”
霊障により残像になっている何かとかではない。
ニュー・セイバー・シルフの操縦棺は空っぽだった。
そしてみるみるうちに修復されていく……セイバー・シルフの装甲。






未来傷跡連環希望祝福
◆10回更新の日記ログ

いつもはグレムリンに乗り込めばP.Dが声をかけてくれる。
グレムリンに乗るときだけではない。
戦う時も、戦いに関わるなにがしかの時も……
だから一人の今少し、心細い。
操縦棺の中であっても冷や汗をかく。
右手、左手に握る操作グリップに力が入る。
フットペダルでさえ……うっかり踏み込んでしまいそうなぐらい。

それでも戦うと決めた。
自分でどうにか、どうするかを決めるために。
こんな世界で流されないために。
誰かとか、誰か達に自分を渡さないように。
既に起動していたインターフェイスを見ながら
エンジン臨界までのしばしの時間を待つ。
新たなフレーム、新たなセッティング。
今以上のパワーと機動性がある。
P.Dはこれで逃げろという意味で伝えたのだろう。
だが……逃げて、逃げて……逃げて、逃げ出すことはしたくない。
あの十二神将をチトラだけで倒せるか、とか。
乗り換えてすぐ、P.Dのサポートもない自分が加わっただけで勝てるかとか……
そういうことではない。
ここで戦術的にであっても逃げることは……
この世界と、この世界で流れる思惑や欲望とかに委ねる気がしてしまう。
それは自分を自分以外の誰かに、それ以外の全てに渡すのとそれは同じだ。
戦わなくちゃいけないんだ。
ようやくわかり始めてきた気がする。

この世界でP.Dに起こされ
グレムリンのグレムリンのコクピットで目覚めた時と…
タワーで目覚めた時にうっすらとしか見てなかったコンソール。
それと同じ文字列が表示されていく。
起動画面の再チェックがかかる。
アレクシアさんの言っていたこともわかったかもしれない。
人と戦うこと…殺し合いなんてしたくないこと、避けたいことだ。
だがそれでも……許しておけないことだってある。
こんなものは嫌だ、と。
受け入れられない、と。
何か、そのために戦うんだということが。
抗わなければいけないことだってあるんだ、ということが。
エンジンが臨界突破、フライホイール接続。
格闘試作フレームにより増設された機動ブースターがすべてエンジンにつながる。


見開いた瞳は極彩色の光を写す。
その意志の伝えるため力強くグリップを握りこみ……
フットペダルを踏み込んだ!



■10 剣の騎士妖精-saber sylph-



赤錆漂う空の空気を爆発させるように飛び上がった白い機体。
P.Dは知っている。あれに導くためにオズだけを逃がした。
新たなグレムリン、ニュー・セイバー・シルフ。
双眸を瞬かせ、14番倉庫の上空を滞空していた。
融合共鳴体とゴステプトを前に……臆することもなく。





チトラはその類まれなる思念制御からの感知
拡張思念領域経由のサイコ・DS・ドライブにより唯一先んじて感じていた。
その感じ取られた何かにより、オズへ向かう融合融合体を見送る程に……

融合共鳴体とセイバー・シルフが戦闘機動に入る。
渦巻く思念と思念共鳴の渦の暴風の中を羽ばたき進むセイバー・シルフ。
グレムリンの戦いでは当然のように行われる不可視の攻撃。
手のひらをかざして振り払えば、その力が融合共鳴体に振るわれる。
だがそれも束の間。すぐさま融合共鳴体は破損した部分を再生し思念と不可視の力を振りまく。
不可視の力同士の応酬があったと思えばほんの少し。
融合共鳴体より少し……早くなったか、と思ったセイバー・シルフに異変が現れる。

チトラが、こぼす。
感じたままの素直な感想がこぼれ落ちた。
セイバー・シルフの背部に羽が生えていく。
対の翼が3つ。6枚の羽根。
うすぼんやりとした輪郭が形をはっきりと形成し終えていく。


シルエットが大きく膨れ上がっていくというのに速度は変わらない。
変わらないどころか加速していく。
加速していく側から融合共鳴体が潰れていく。


そこでようやくP.Dもサイコ・DS・ドライブから探り理解する。
あの白い……いや、既に黒い鈍色の機体に自分が知る少年はいるとデータは表示しているが
自分の知る少年はそこにいないことに……

音速の領域に達していたころ合いには融合共鳴体は文字通り消滅していた。
セイバー・シルフが戦闘機動に入り加速していけば……潰れて跡形もなく
消えてしまったのだ。

グレムリンはそういうこともできる、というのは知っていた人間も多いだろう。
だが可能性を表すと思っていた出来るが実際に目の前で実現されているとは大きく違う。
ゴステプトはたった数分で融合共鳴体を圧滅した六枚羽のそれに恐怖した。
伝え聞いたことのある、100機で世界を滅ぼせる力の一端がそこにあったからだ。
その恐怖をセイバー・シルフは見逃さない。
バイザーが上がり、メキメキと煌めく瞳でゴステプトを捉えればすぐ、バイザーが下りてまた加速していく……

そして、ゴステプトが消滅していく。
セイバー・シルフの不可視の力により撃滅されていくのだ。

その経文を、聖句を唱えるしかできない断末魔さえもつぶされて消えていく。
後には何も残らない……
「霊障?そうだな…この世界の不可思議なものを表すカテゴリーではあるかな。」
「ただそれらは千差万別。我々が感じ取ったり理解できなかったりするだけで個々には何某かの名前や特徴があるものさ。」
「この世界にはそういったものと出会える機会が多い。」
「P.Dも出会うかもしれないが……その時は互いに知り合ったり良い出会いになれるといいな。」


敵対するもの全てを滅ぼした”それ”の”こころ”は弾んでいた。
チトラ、P.D両名ともサイコ・DS・ドライブで探ろうとせずとも……易々と感じ取れるぐらいに
言うならばこの世界に己が誕生したこと、生きていることを謳歌するかのような弾む”こころ”を隠そうともせず
悠々と楽しそうに空を飛んでいた……
本日のニュースです
ジャンク財団について続報です
財団は各25領域全てに影響力を持っています
それゆえに、拠点の場所を割り出すことが難しいのです
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
犠牲は大きく、多くの都市や船が焼かれました
その損害は計り知れません
復興には100年とも1000年とも言われています
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
グレムリンの決闘をスポーツとして普及させる案が
コロッセオ・レガシィで提唱されました
華々しい競技用グレムリンの世界が広がります
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
バイオ研究所の協力で、失われた人命の補填が計画されています
高知性バイオ兵器による労働力の強化です
バイオ・ワーカーはこれからの新しい常識になるかもしれません
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、雨音列島で戦死者を弔うための音楽会が開かれました
厳かな雰囲気の中、鐘の音の旋律が響きます
毎年の恒例とする案が出ています
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
◆9回更新の日記ログ



異質。東洋神秘的思想の象徴のようなものらが四方八方……
いや、正面にただ一つ以外は規則正しく並んでいる曼荼羅図のごとく。
マリヤを囲うように金色の装飾を纏った僧侶が浮遊鎮座し、各々が順序良くまた好きに発言をしている。
僧会でもほぼ最上位と呼ばれる僧正らがそこに電装化身”アバター”を通して彼女を見ている。
彼女はといえばただ一人、その身を紫の装束を纏い鎮座。
まるで裁判の被告人のようである。
いや、これは宗教裁判でもある。

よりいかつく細身。しかし筋骨を隆々に見せる巨神のようなアバターが叫ぶ。
マリヤが先の護法船襲撃にでバンデーラを祭祀の前に処刑するよう命令したことが問題であると。
「異界より招きし外道法師と言えどこれ以上の無法傲慢は許されぬ。」
「かの者だけではない。悪童一人抑えられぬ其方の力量を疑う者も多い。悪く思われるな。」
その部分については否定しない。
確かにこれまではあの子供一人相手に手を抜いて戯れていたのだから。
言い訳の一つも出ようはずもない。
最もその殊勝な態度に見える今の心持ちは彼の男……
十二神将・隠者のゴステプトにとって大変不愉快であった。
何かしら言葉が出れば出る杭を打つように糾弾できるものを!
そんな思惑、考えが…声色一つとっても考えが肌を撫でるように読みとれた女にとってすべてが茶番でしかなかった。


この男の増長する欲望など透けて見えるほどに。
発言するたびに揺れめく腰の装飾具からなる音響など木の葉のそよめくささやき声にしか聞こえない。
しかしこれまで遊んでいた自分と違いこの男が、となるとさてどうなるか。
あのチトラのお嬢さんはさておきオズの坊やはどうなるか。
甘えたまま死ぬか…さて宗主様はお見通しだろうかな?
■9



未識別融合体を退けたオズとチトラの前に現れたのは白蓮天則の軍団。
先の護法巡礼艦襲撃の際に出現した幹部、十二神将
今回はその時に遭遇したミラリアルではなく別の機体。
同じ階位を持つ十二神将の一人ゴステプトが軍勢を率いて襲い掛かってきた。
これまでとは違う敵。護法官と呼ばれるマリヤや遭遇戦ではなく……
彼らが有する戦力の本隊が襲い掛かってきたのだ!
加えて今回、彼らの軍勢はチトラへ。一方オズへは彼らを指揮するゴステプトが直々に向かってきた。
完全に統制された作戦指揮で最大戦力を分断し、各個撃破にしにきたのだ。
単純だが……合理的!
自分の戦闘能力に自信がなければできない。
セイバー・シルフとオズらは戦闘機動に入るが……
先の戦いのダメージ云々ではなく明らかに劣勢を強いられていた。




セイバーシルフの戦果は想定されていた運用試験を考えれば目覚ましいものであった。
しかし戦いが続くにつれて大きな問題が表出することになった。
まず前提として量産していく計画であったがグレムリンは
研究開発班が身を寄せたアイリス・ヴァンガードのような組織的では量産できるが運用できるものではなかった。
パイロット確保が難しい、機械的に生産しても制御できない兵器であった。
加えて量産用に考慮されていた機械構成が大きく負担となってきたのである。
またセイバーシルフにとって致命的な……他のグレムリンと違って大きく劣るものとなる。
操縦制御系である。
グレムリンが高性能な機動兵器である一方、大きな不安定要素を抱えていた。
それが霊障である。
電子的制御以外にも未知で不可思議の介在によるオズワルドへの危険
思念制御型の操縦系統への干渉を危険視したP.Dにより
制御系統に電子装備と機械部品を挟み込み多様することで
ほぼ完全な機械制御を可能にしたのだ。
これにより緊急時にはテイマーではないP.Dにもセイバー・シルフを動かすごとが出来るようになったが
一方で他のグレムリンに対して制御系のレスポンスが大きくお劣る結果となった。
パイロットへの負担軽減を考慮した結果ではあるが、セイバーシルフとしたグレムリンはその性能の100%を発揮できずにいたのである。
先に挙げた領域での量産という前提がないまま、量産試作用の兵装や構成では
今後出現する白蓮天則の強大なグレムリンと戦うことはできない。
それはチトラが共に乗ってきたグレムリン、白蓮天則の悪鬼神像の性能を見ても明らかだった。
そこで開発陣とP.Dは一計を案じる。
開発研究プランの中から特化されたプランを選別し再設計を行う…新たなセイバー・シルフの開発である。



随伴のグレムリンが掲げる錫杖が揺らめき、音叉のごとく音階が発生し
捕捉されたセイバー・シルフの装甲が軋む。
ブースター出力が狂い、減速したところを投擲された錫杖がセイバー・シルフの左肩を貫いた。




随伴のグレムリン従者ら錫杖を鳴らし音響共鳴結界を作り出す中で次々と錫杖が投擲され
セイバー・シルフは区画外壁に縫い付けられていく。
左肩、右足、右腕…そして喉



セイバー・シルフが喉を貫かれた瞬間、機械制御でかろうじて
頭部チェーンガン、および腰のマウントされたスモーク・ディスチャージャーが作動。
緊急脱出のための時間稼ぎとなる。




ゴステプトのアームが機関砲ごと握りつぶすかのようにセイバー・シルフの頭部を掴む!



走る。ただ泣いて、うつむいていて何かできたことはない……それを学んだはずだ。
14番倉庫は近い。今日この後に行く予定だったから覚えている。
たしかそこには……P.Dが話していた、テスト用の機体があるはずだ。
重いセキュリティ・ロックを解除すれば……14番倉庫が解放される。


そこには煌めく2つの瞳を瞬かせ主を待つ騎士が操縦棺のハッチを開けて佇んでいた。
たった一人の主の危機を感じて既に待機状態に入る剣の騎士妖精が。



















従者の脇腹を叩くように打ち出されたクローが両断するように粉砕
包囲していた機動兵器軍を焼き払ったイグナイター、チトラのドルニエクローがゴステプトへ鎌首を擡げる…
補助兵装として渡された武装をパージして。


上下両断されたはずの従者悪鬼がそのまま二つに分かれ、また破壊されたはずの者らから
武装を誘引させまた一つになっていく。
拡張思念領域を用いた霊障兵器!
まさしく先の未識別融合体のように破壊してきたグレムリンらが集まっていく!





未来傷跡連環希望祝福
◆8回更新の日記ログ
#8「お正月特番 総集編スペシャル」




(OPのイントロ)
(OPが終わりCM入る前の柱)


※時間と余力がありませんでした。
※お正月特番をお楽しみください。
【未来】
【傷跡】
【連環】
【希望」
【祝福】
(新情報発表のような後半への話)
NEXT NEW SABER・SYLPH
(特徴的なイントロと黒塗りのシルエットに光るツインアイ)
(応募者抽選のプレゼントはゴールド・メッキコーティングのセイバー・シルフ)
◆7回更新の日記ログ

あまりに情けない結果だった。
ジャンクテイマーとの戦い。
いくらマシーン・セッティングプランの変更やフレーム換装のための訓練も兼ねているとはいえ
あまりに無様なもの。
ここ最近は特に思い悩み煩うことが多かった。
これから戦うことについての答えが出せない……
なんとか回収され、セイバー・シルフともども格納庫に収まり
操縦棺の中で答えの出せなかった問いに追い回され続けるのが怖くて怖くて仕方がなくて膝を抱えていた。
P.Dはここにはいない。フレームの換装手続きと装備設計があるだろうと一人にしてもらった。
撃墜。撃破。そして……その姿が、実体が迫ってこようとしていることも恐ろしい。
それを生み出す世界も人間も、そうなる人間も怖くて怖くて嫌で嫌で仕方がなくて
何もどうする気にもなれなくて膝を抱えて、丸くなってしまう。
このままでいれば……気が付けば自分の世界に帰れるだろうか。
そんなありえないことを考えて……ゆっくり、また涙が出そうになっていた。

そんなときに。
小さく、だが端末から音が聞こえる。
個人用に渡されている携帯端末ボードが鳴る。
こんな気分でも律儀に見てしまうのだが、それは見覚えのない相手からだった……
いや、聞いたことがある。あったはずだ。

アイリス・ヴァンガードという白蓮天則に対する反抗組織。
その性質上乗務員や構成員のメンタルサポートを行うための匿名のサポーターがいると聞いていた覚えがある。
P.Dはお悩み相談の人と考えればいいと言っていたはず……
大体の人は彼女を大きな精神的支柱にしているし、将軍やチトラは必要な人間ではないもので忘れていた。
今回のジャンクテイマーとの戦いの結果を見ればわかる。
将軍奪還の作戦以後から始まっている不調。
迫りくる脅威が近い今だからこそあの時に何を感じ、何を思い煩っているのか。

少しの繋がりしかない外部の他人にでさえも聞いてしまうほどに考え続けてしまう今。
思い煩う何かを打ち込む指を止めるものなどなく、正直に打ち明けた。






最後の方は言葉にすることも難しかったが……
出来る限りを伝えた。




















あの後、グレムリンでの本格的な戦い方の訓練だと
目隠しをしてヘルメット……操縦棺と繋がれたそれをかぶって。
光る剣、棒のようなものを振っている。
メンタルケアの人曰く、グレムリンは思念制御で動くものであるから、繋がってそのまま戦闘訓練をすれば自然と体も心もついていく。
また思念制御識の力を十分理解するためでもあるとか……
こうして目隠ししたまま何か浮いてるものを光る剣……
熱で切る剣ではなく衝撃を与える剣のようなもの
ショック・セイバーで自身に向かってくる浮遊標的をはじく訓練が始まったのだ……、
本日のニュースです
ジャンク財団は各地からコンテナを回収、集積しているようです
これが何を意味するか、我々はまだ察知していません
一説によると、ジャンク財団の新型グレムリンの開発に
何かしら関わっているというものがあります
我々の未来は、いまだ闇の中です
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
巨大未識別融合グレムリンに対し、各地で迎撃が始まっています
青花師団の遊撃隊によって、安全かつ優位な位置へと誘導しています
遊撃隊の損耗は大きく、傭兵と真紅連理軍の最終防衛ラインに全てを託しています
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
小群島では白い鳥の群れが見つかったと話題になっています
鳥類は粉塵によってほぼ絶滅しましたが、
一部の種は生きながらえ、粉塵に適応しました
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
領域に存在する次元の歪みに侵入し
まだ見ぬパーツや素材を手に入れられる可能性が高まっています
ヴォイド・エレベータと呼ばれる侵入システムがいま思念研究所で提唱されています
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、巨人の島でラジオの収録が行われました
巨大粉塵獣を追う企画で、何かの死体を見つけたようです
持ち帰るには大きすぎ、探検隊は粉塵獣の卵を手にタワーへ帰還しました
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
■PROJECT VFMX-01■
───SABER・SYLPH───

セイバー・シルフはアメリカ陸軍のVFMX:Army Fighter Maneuver Experimental 計画により誕生した次世代戦闘機動兵器である。

1980年代アフガニスタンにてCIAと共に現地勢力の教育と反抗活動をしていたアメリカ陸軍は
現地山岳地帯でソ連軍が実践導入した攻撃ヘリや最新型AGM:オート・ジャイロ・マニューバ(歩兵装着型旋回機動装置)の脅威を垣間見た。
当時現地で試験及び現地勢力に供給していた携行式防衛システムFIM-43CレッドアイやFIM-92スティンガーは投入されたソ蓮のMi製航空戦力に十分効果を発揮したものの
それ以上の回避能力と攻撃能力を持つAGMという小型の航空旋回機動兵器の脅威を浮き彫りにする結果となる。

現地で活動してたCIAのエージェントと陸軍特殊部隊員のレポートを受けた国防総省は
今後ソ連によりAGMが第三国及び反米勢力に供給されることに対して備えなければならなかった。
特に山岳部や都市部という三次元的な攻撃機動能力を持つAGMは次世代の脅威と改めて認識されることとなる。

そこで国防長官は陸軍の要請により同時期に行われていた海軍のVFAX計画、空軍のVFX計画に次いで
VFMX計画という次世代の戦闘機動兵器開発プロジェクトを申請し大統領はこれを承認した。

単なる武装兵器の開発計画とは違い、近い未来に起こることが予想される次世代戦闘でのメインストリームとなる兵器の開発であったため
望まれる機動兵器に対する要求案件の会議は紛糾したが最終的に2つに絞られた。
AGMより高い機動能力を持つこと。
第三国でも展開できる量産性であることの2つである。

条件の1つであるAGMを上回る機動性は小型化に成功したジェットエンジンを搭載することで要求を満たし
量産性の問題は軽量化されたフレーム構造を採用することでこれらの条件をクリアする試みが行われることとなった。
また、この段階では人型ではなく小型航空機の形をとった高速迎撃機の形態を予定していたことも追記する。

しかし国内試験区域での試験中の事故によりプロジェクト開発チームが世界転移してしまう。
そこで出会ったのがグレムリンというフレーム構造の人型機動兵器とP.Dと呼ばれる自律思考機械であった。

グレムリンの重粒子イオン・パルス駆動と操縦棺、制御識にエンジン構造、およびP.Dとの出会いは研究員たちを大きく驚かせた。
これら別世界で生まれていた先進的機械技術は技術的な要求が高かったVFMX計画を大きく前進させるだろうことが明らかだったためである。
そこでチームはP.Dを頼りバンデーラ将軍やアイリス・ヴァンガードへの協力を取り付けるため
白蓮天則への抵抗運動への技術的な人員の協力を見返りにVFMX計画の開発を組織内で行えるよう便宜を図ってもらうこととなる。

加えて同時期に招かれた一人の少年による協力とグレムリンの提供もあり、抵抗運動と共にこの実機にてVFMX計画は開発試験が行われていくこととなる。
VFMX01と改められたグレムリンは適合者であり提供者である仮称:オズワルド・エコール少年がテストパイロットを務めることとなり
彼により”セイバー・シルフ”の名前を与えられ以後プロジェクトのメインテストマシーンの正式名称となる。

◆6回更新の日記ログ
チトラとバンデーラ”将軍”と共にオズとP.Dはアイリス・ヴァンガードのメンバーによって
とある場所に連れてこられていた。
そこは庭園船団ガーデン。
この粉塵があふれてしまった世界において世界救済のため環境復元と生物再生を目的とした研究機関の船団である。
その庭園船団の温室エリアの庭園にバンデーラ将軍とチトラがまず先に呼び出されオズとP.Dは待機していたが
しばらくして喧々な怒鳴り声の応酬が続いたと思えば……二人とも職員の男に引きはがされつつ戻ってきた。
よく見る光景ではあるのだが、こんなところでもとぼんやりと……オズが思っていたところ。
職員に促されたことで入る順番が回ってきた。
そこはこの粉塵広がる世界の中でも花が咲き、風そよぎ……
生き物の声が聞こえる場所。
環境再現、保護目的として秘密裏に作られて場所である庭園。
ここを知ったような……知っている口ぶりのP.Dに促されるままに人工庭園施設を歩いていく。
粉塵とは無縁である外の世界から来たオズからすればどこか懐かしさを感じる場所だった。
少し、川のせせらぎのようなものが聞こえた先で……待ち受けていたのが、彼女だった。

菖蒲財団の総帥である彼女……オフィーリア・カヴァラ
P.Dがスカウトしたアイドルの人であった彼女。
その才能と志から多くの人に愛され、引退の後も慕う者たちと共に
現役のころのコネクションや財力を用いて慈善及び福祉事業を粛々と続ける彼女。

そしてかつて将軍が白蓮天則という脅威を訴えた相手でもある。
つまり……アイリス・ヴァンガードの出資者でありそれを率いているのがオフィーリア。
彼女がオズとP.Dを呼び出した要件は顔を見る、見せておきたかったこと。
これは以前から予定されていたことではあったが急遽変化した情勢も加わり…
その目でみた白蓮天則の実態をオズから直接聞きたかったためである。
「こうして顔を合わせるのは初めてね。P.Dは久しぶり。」
「えぇ。アイリス・ヴァンガードの結成以後はお会いできる時間が限られていましたからね~!」
「こうして開いたお茶のお話が物騒になってしまったのは残念だわ。」
そうしてオフィーリアは問いかける。何を見てきたのかを。
オズは…ゆっくりと答えていく。
自分が見た白蓮天則という組織。
この世界情勢にあっても人々は賑やかに、生きている心の拠り所として存在していること。
根拠は不明だが、この世界から逃れるのではなく世界を救済するためここではないどこかを目指していること。
その希望のために旅をしているのだろうこと。
そして……彼らが行っていた祝祭。そして救済。
人を……人を資源として溶かす動力炉。転換炉へ放り込む祝祭。
そこへ人々のために捧げると喜んで身を投げていく者たち。
そこへ断罪だと悪人救済だと捧げられるように放り込まれた……最後まで抵抗していた者たち。
自分で見聞き……いや、体験したことを語るオズの顔色が悪くなっていたのか。
時折茶を薦めながら休憩を挟んだ。
その茶葉だけでも船が買えそうな世界で、勧められた菓子さえも手付かずだった。
全て聞き終えた後に深くうなずき、答える。
半ば白蓮天則の脅威という実在を探るための組織設立であったが
実態がわかり、この世界の人類にとっての脅威ということが分かった今。
これからの決断としては改めて戦うことを決意すると。
そして彼女自身から告げる。
グレムリンにアイリスのエンブレムを付けていない、身に着けていないあなたは
ここで降りることもできると。
今まで一応の協力者としていたが、このような実態が明らかになった今は
選んだほうがいいと。テイマーであるならいくらでも生きていける世界であるとも。
オズは答えを出さず…出せず、会合は終わった。
最後に菓子の包みと……この船団であるから可能な入浴の許可証を持たされて。
今回の作戦の労いらしかった。温室設備用の熱エネルギーを利用した温泉施設だという。
ペンギン諸島にある天然温泉以外の貴重な人工入浴施設がここにはあった。

入浴にはあまり馴染がないな、と思い。後回しにしてセイバー・シルフのところに行こうと考えていたところ。
チトラに何やら無理やり連れていかれることになってしまった。
あまりに突然で有無も言わさぬ権幕だった上にわけもわからず、足を踏み外しても半ば引きずられるように連れていかれてしまった……
P.Dはグレムリンについての用事があるから、とどこかへ行ってしまったが助けてほしかった…

入浴後、いや入浴中もよくわからなかった。
よくわからなかったというか……言葉にできなかった。
だからこそこのガラヴァーンの格納庫……整備エリアで再びセイバー・シルフの前にいた。
セイバー・シルフは緊急作戦後のジャンクテイマーとの戦いもあり隅々まで再分解され再構築されていく最中……
目の前の端末を開いてラジオをつける。
本日のニュースです
ジャンクテイマーを裏で支配する組織を
三大勢力はジャンク・ファウンデーション、ジャンク財団と名付けました
いくつかの企業が裏でジャンク財団に参入しているとの噂が流れています
我々の未来は、いまだ闇の中です
戦いましょう、生き残りをかけて……
本日のニュースです
未確認グレムリンの集合体に対し、翡翠経典の大部隊が先制攻撃を試みました
残念ながら、生存者はなく、データだけを回収した形です
翡翠経典は多くの戦力を失い、苦境に立たされています
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています
本日のニュースです
氷獄ではいま絵本の読み聞かせが人気です
書籍行商船では絵本の人気が高まっているようです
霧の伝説の絵本は、いまでも人気の話です
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます
本日のニュースです
ジャンク財団の拠点と見られる島が虚ろの海で摘発されました
この島では秘密裏に新型グレムリンを量産する設備が整っていました
このような暴挙を許すことなく、我々は戦います
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです
本日のニュースです
昨日、星の海にて海上映画祭が開かれました
戦火の中でも、愛の物語は人気です
人々は涙を流し、戦い疲れた体を癒しました
戦う人々に祝福を……我々は、生き続けるのです
ラジオを聴きながら……セイバー・シルフを眺めながら思う。あの巡礼艦で流れていたラジオ。
ジャンクテイマーに新グレムリンが、ジャンクテイマーが徒党を組んでいる……
この世界のことを思う。
白蓮天則だけではない。欲望のままにグレムリンという暴力をふるう者たちがいる。
その暴力をふるう理由は様々だろう。
それこそ将軍からチトラだってそうだ。二人とも戦う意志が強くある。
自分にはそれがない。
出来るからやっていただけで、ジャンクテイマーにも白蓮天則の人間にも憎しみはない。
戦ったとして……戦う。この巨大な暴力装置で戦うということは
自分も相手もどうなるかなど子供の自分だってわかる。
その先の……その先どうなるかを夢で見てしまったから。
いやただの夢ならいい、なにかの気の迷いと忘れられる。
だが……あれは夢というものではない。
おそらく夢で追体験をしている。何か……思念で繋がった何かを見ているような……
現実感ではないが、あれはこの世界での現実のものだと確信できるものが感じられた。
あの、実体のあるような、ないようなわからない空虚な操縦棺の中身に……
人が死んだらなってしまう。特にグレムリン・テイマーは。
それが……自分がなるか、するのか……
怖い。どちらも怖い。
みんなそのつもりでやっているのか?その……その覚悟があるのか?
自分にはない……そんなものはない。持ちたくない。
マリヤさんが自分を子供扱いするのはこれだろう。
自分は……グレムリンというロボットで戦うことが出来るだけの子供なんだ…
なりゆきで戦っているだけでしかない。
自分がいた世界に帰るその日まで……生きるために求められることをやっているが
それ以上はできない……あんなことになることなんて、できないし……したくはない。
帰りたい。
家に帰りたい……決して豊かとはいえなかったが
こんな暴力と欲望が常に溢れている世界にいたくない。
帰りたい……
あの庭園に入ったことも影響しているのかもしれない。
自分の家に帰りたい……
誰もいない、自動で想定されたメンテナンスシークエンスに入ったセイバー・シルフの前で……
声を殺して泣いた。
声を上げられなかったわけじゃない。
何も言葉にするごとが出来ず口に出せなかったから、声が出せなかった……
自分はどうすればいいんだろう……
無人の整備エリアに風がそよぐ。
オズの頬を伝う涙をぬぐうように、さらうように風がそよぐ。





◆5回更新の日記ログ




そんなことを微塵も思っていないことは子供のオズにさえわかった態度だった。
いやわかりやすく伝えているのだろう。お題目は唱えるがそんなことに心酔していない。
こいつらのようにな、と。



じりじりとオズを包囲するように白蓮天則の僧兵が集まってくる。
バンデーラ諸郡は何事か訴えているが、完全に拘束されているため何も伝えることが出来ない。










そこへ突如轟音と共に隔壁を破壊して乱入してきたものがいる。
オズのグレムリン……セイバー・シルフ!
テイマーはいないはずだが……

セイバー・シルフの頭部連装チェーンガンの砲火が僧兵らへ放たれた!













言うや否や、左廃部に懸架されていたオプションを掴んだセイバー・シルフは
そのまま”それ”を祭祀場に放り投げた!

轟音が祭祀場に響くが……爆発はしない。
鉄板だ!グレムリン工学用の強化素材、鉄板を放り投げたのだ。
それらはちょうど僧兵らとマリヤの間、バンデーラ将軍の救出を阻むものへの壁をなった!

セイバー・シルフはさらに左背部懸架のマルチミサイルポッドからミサイルを……
断続的に射出し、混乱を巻き起こしながらオズを掴み
バンデーラ”将軍”を掴んで救出を成功させた。

バンデーラを先にコクピット内部の後部へ押し込み
オズを収納してからコクピットハッチを閉口。
メイン制御権をオズに移していく……









右背部に懸架されてる試作の対艦粒子砲が展開。
シールドと狙撃ユニットが開かれ発射態勢がとられた。



しかしその収束粒子砲撃は内部から機関部を爆発させる……ものではなく
内部から巡礼艦の甲板を打ち抜いた。
それが脱出の合図とも、唯一の脱出口ともなる。








未来の話は過去へ遡る……
◆4回更新の日記ログ
白蓮天則に対抗するための組織。
レジスタンス…抵抗勢力。アイリス・ヴァンガードの保有する特殊作戦用グレムリン輸送潜水艦のケージ。
粛々と新たに構築されたセイバー・シルフがそのケージ内に移送されていた。
そしてすべての工程を終えて、セイバー・シルフ改を操作し両手で固定ハンドルを掴み…
ガントリーロックに固定された。
スタッフも引き上げた後、それらを終えた後の最終確認にオズとP.Dはと立ち会っていた。






慌ただしくもガラヴァーンから発進したアイリス・ヴァンガードの潜水艇は
こんこんと…しんと静かに潜航しながら作戦遂行のために
息をひそめながら目標地点に向かっていく。
作戦遂行中に作戦の説明を今からしなければならないP.Dの心中とは真逆に落ち着いたものだ。




















潜望鏡による望遠映像が出る。
赤い錆の霧による視界不良により鮮明な画像はでない。
熱解析とデジタルな補正をかけるが…現在チトラと交戦しているためか熱源が多数浮かび上がってしまい
大まかなシルエットと対空砲火、ミサイル発射煙が共に映し出されている。








子供故に身軽さと小ささでダクトからであったり
輸送貨物に紛れて潜入することが出来たオズ。
異様に整理された雑踏の中に…躓くように、転がり込むように。
ボロ布を纏って入れば……もうだれかはわからない。
この艦は巡礼者を迎え共に巡礼を旅をする船とされているためだ。




敵なんだろうか。
自分が戦わなければいけない相手なのだろうか。
白蓮天則が何者かはまだわかっていない。
だがこの世界が…世界が朽ち果て錆て滅んでいくかもしれない時
こういった人々が賑わって生きているところがある。
ここに来てから少し何かお腹の下あたりを揉み締めつけるような感じはあるがこの船の中は生きている……
三大勢力となにが違うのだろうか。
この白蓮天則も他と同じく……そういうところであって
自分のようなこの世界に流れてきて、戦う目的も理由もなく……
ただいるだけ、望まれて戦ってるような人が戦う相手ではないのかもしれない。
マリヤ・パヴロヴァが自分を子供扱いするのもわかってしまう。
この人たちはここで生きている……
自分はどうだ?自分はただ……
その時。音楽が流れた。雑踏の中でさえも荘厳に聞こえる……
鐘の音と共に。人々の耳を傾ける音が。
「これより護法官によるシャシン祭が中央部祭祀エントランスにて行われます。繰り返します……これより……」

そのアナウンスが流れたのも束の間。
オズはいきなり生まれた人の流れによって押し流されてしまった。
アナウンスされてた何かを見るための人々の勢いにそのまま流されてしまったのだ。

大きく流されてしまったオズは、群衆と共にエントランスの入り口にまで流され……
そして


そうして見えたのが……大きな建造物を中央奥に置いたエントランス。
その周囲には宗教装飾のような建造物がエントランスを囲うように並んでいた。
それらに整列する白蓮天則の人…おそらく信徒の人々も。
そして


バンデーラ将軍がいた。両脇を白蓮天則の兵士…僧兵に抑えられ
完全に拘束された状態で……いや、バンデーラ将軍だけではない。
他にも拘束された人々がいる。レジスタンスではみたことがない人々だ。
これは一体どういうことなのだろうか…?
オズが悩むのも一瞬。
音を立てて祭祀場が変形していく。

中央に大穴が開き、何か…何かすごい熱量を感じるうねりが顔を覗かせる。
いや……口を開けたというほうが正しいことにこの時オズは気づかない。


聞いた声が音響設備を通して聞こえてくる。
これは……あのマリヤだ。マリヤ・パヴロヴァ……白蓮天則で護法官と呼ばれる女性。
なにやら宗教装束を纏って、中央で衆目に語り掛けているのが彼女だろう。


あのタワーでの戦いのことだろうか。先のタワーでの戦い。
白蓮天則は世界救済のために別世界…浄土を目指し旅しているという。
その浄土からの声に従い旅していると。
その旅路が彼らへの抵抗勢力……レジスタンスであるアイリス・ヴァンガードによって失敗したからだろう…いや

いや、いや。違う。これはただのお祭り前の挨拶ではない。
なにかが違う。この場所に流れる何か、そういう何かの流れが違う。
自分の知るものではない。何かよくないことが起きる……
決まって起きる時のうすら寒さが腹の底から上がってくる。




その言葉と共に。信徒である人々が開かれた大穴に飛び込んでいく。
何事か唱えながら皆、喜び、涙して進んでその身を投げていく。
シャシンとは捨身、身を投げうち捨て捧げること……
信徒たちは皆自ら進んで転換炉と呼ばれる大釜へ飛び込んでいく。




僧兵らが捕らえた反抗者たち…捕虜を拘束していた首縄を
転換炉へ突き落し、解放していく。
先ほどの信徒たちと真逆。悲鳴が響く。

転換炉が何かはわからない…いや、わかった。わかってしまった。
この船は…人間を動力に動かしている……!
人間を燃料にしている。
吐き気がする。腹の下から…湧きあがてくる、胃液。
考えてもみなかった。自分が……アイリス・ヴァンガードが戦う相手が
こんな……こんなことを是とし、させているなんて!
これが救済なのか…?これがマリヤが望むことなのか?
だがその恐怖と混乱よりも……それを一歩、湧き出た何かがオズを突き動かした。



tips:アイリスは未来と希望の証
◆3回更新の日記ログ
傭兵基地を後にした二人は近場にある彼らの組織の秘密基地に一時退避していた。
所属を同じくするチトラはオズほど調子が悪くないものですでに別行動をとっている。
そこでオズ自身の回復も兼ねつつ、ここでタワーから脱出した際に搭乗したグレムリンの再整備、再点検、再装備をしているのだ…










そこに表示されたのはP.Dがデザインしたのか。
檻に押し込められた鬼をモチーフにしたテイマーズケイジ
レッドコネクション、ハルシオン・スートラ、デルフィニウム・ディヴィジョンを表していると思われる…
エンブレムが描かれていた。
TsCと三大勢力の一応の協力関係に見える構図を。






ディスプレイに表示されたのは…威圧的な文字が添えられた白蓮
そして相対する…アイリスの花
白蓮天則とレジスタンスの二者を表している。






ある日のこと。
男が一人。皺の目立つ顔の女に訴えた。
彼女の護衛に強く阻まれているにも関わらず狂ったようにある脅威を訴えた。
狂人の妄言としか思えないその訴えを聞くものなど誰もいないと思われていた世界で……
だが女はその訴えを聞いた。
この世界でただ一人事情も知らないのに男の言葉を信じた。
そしてその日が新たなる希望と未来を求める始まりの日となったのだ。










何度も戦場で相まみえたその人物の名前をつぶやく。
今の調子と同じく、弱く頼りない声で……
あの燃え盛る憤怒の業火のようなテイマーを複雑な心境で思う。


セイバー・シルフのコクピットを両手で鷲掴みにするマリヤ・パヴロヴァは
怒り狂ったように己が駆るグレムリンの圧倒的パワーをもってセイバー・シルフを軽々と持ち上げていた。
まるで憤怒を動力にするかのようにそのグレムリンは……異常な力を発揮していたことを思い出す。
オズは人があれほどの怒りを持つことを見たことがなかった。

実態のわからない組織。
敵だという。戦うべき相手だという。
そのためのレジスタンスだと。
でも自分はそこまでして戦う相手なのだろうか。
この世界に偶然巻き込まれてグレムリンで戦うことになった自分。
小さい子供の体というのもあってパイロットに適しているとスカウトされた自分。
よくわからない武装組織の一員として、よくわからない武装組織と戦っている。
その相手がどんな相手なのか……知る機会が来た。

見えない幻に敢えて名前を付けて実態を持たせた。
自分には現実感がなく、そんなイメージしか持てない組織の名前ををつぶやきながら再度組み立てられる己のパートナー・マシン
セイバー・シルフへと改装されていくグレムリンをP.Dと共に整備が終わるまで見上げていた……
バンデーラ将軍の救出作戦。そのための潜入任務は近い……
◆2回更新の日記ログ
「ハッ……ハハハハハハハハ!」
”揺れ”は収まった。頭を揺らす声は収まった。
頭に響く鐘の音は未だに聞こえる時もあるが…
そういった不可思議なものが収まる時間が……彼らが抱えるテイマーより早かった。
それは適性か?それとも別の要因か。
なんにせよオズワルド、チトラ両名より少しだけ早かったのが彼らの不運だった。
そしてマリア・パヴロヴァにとって最大の幸運であった。
現に今ここで己らを阻むものはいない。
この目の前にいる男と…その取り巻きをどうこうする時間がここにあるのだから。
「将軍ンンンン!!!」
赤錆色のフレーム・グレムリンが掴む。
たった一人。将軍と呼ばれた男を。パワードスーツのような防護スーツを着た男。
飛行用のジャイロパーツすらもメシメシと軋ませ握りつぶしながら。
取り巻きの者たちが叫び火器を向けてくるも、小火器や対装甲火器は唸ることなく。
虚空よりフレームに”生えてくる”装甲、パーツ類。そしてケーブル類。
その中のケーブルらがうねり、軋んだのも一瞬。
将軍の取り巻きを貫き内側から振り回しズタズタに叩き割いていった……
「ここでは殺さん……わかっているだろう?お前たち無様な抵抗勢力に白蓮天則がぁ……何を以て処すか!」
「貴様の未来が今……私には見えようとしている!!」
──────
「なんということじゃ……それなら将軍はまだあの中に!」
「いえ事態はもっと深刻です。同伴したAGM部隊が全滅していました。」
オズさんの救援作業中に無線を傍受していたものの現状では不可能。
その上に将軍が連れ去られた後となっては単独でどうこうなどできようはずもなかった……と。
ガラヴァーンの格納庫で帰還した後の整備が行われているブロックでぐったりとしているオズと
サポートドロイド…PDは状況の確認を行っていた。
状況は最悪の最悪。
マイナスからのリスタートうぃ余儀なくされていた……
◆アセンブル










◆僚機と合言葉
(c) 霧のひと