ENo.0137　いちでぇ

「戦う理由…。理由ねぇ」
何度挑んでも勝利できない戦闘演習。フヌに問われた一言。以前、RLにも同じようなことを聞かれた気がする。
操縦棺の中、保存していた猫動画をモニターから流しながらいちでぇは考える。
「逆にさ、皆そんなこと考えて戦ってるの？」
無機質な天井に向かって投げかける。自身の搭乗するグレムリン『クレーエ・フォーゲル』に向けて語りかける、お決まり仕草だ。
「前、RLっちとの通信の時はなんて言ったっけ。「やってって言われたからやってる」だっけ？　なんか、かっこつかないよねぇ～」
「でもそうじゃん？　そういうもんっていうか……」
ふと、いちでぇが語りを止める。
「むしろ、逆にさ！　俺って何があったら戦うのやめると思う？　戦う相手がなくなったらかな？　…う～ん、でも俺クレーエから降りるのやだなぁ。そしたら俺、コンテナ運びの仕事でもしようかなぁ。クレーエはどう？」
今まで返事が返ってきたことなど無い。それでもいちでぇは自然とクレーエに問いかける。
「あ～、でも確かにクレーエは戦ってるのが一番似合ってるもんね～。コンテナ運びって地味だし、クレーエっぽくないし」
「……ふんふん、なんかまとまってきたかも！　えーっと、メモメモ…」
メモアプリを起動し、考えをつらつらと書き連ねていく。
「あっ、クレーエは見ないでよ！　今はないしょ！　えっへっへ」

本日のニュースです
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未来を、我が手に

未来傷跡連環希望祝福

操縦棺の中、『残骸のベルコ』をモニター越しに見ている。いちでぇはぶかぶかの袖で口元を抑えながら、眉をしかめた。
「うへぇ。なんか、ちょっとキモいかも～。それにちょっと、倒した相手にやりすぎっていうか」
「それにしても、グレムリンってあんなになっちゃうんだね。え～、嫌かも…。クレーエも嫌だよね？」
「……」
「俺もグレムリンテイマーだし、戦ってお金もらう身分だからさぁ。あんまり相手の生き死にについて口出すのって良くないかなって思うけど、でもさぁ、なんていうか尊厳ってのがあるじゃん？」
「俺だって、負けたときに死体ぐちゃぐちゃにされるの嫌だし。まぁ死ぬ時点でだいぶ嫌だけど！」
「クレーエだって、死ぬならかっこいいまま死にたいよね？」
「……」
「えー、”私は死なない”って？　ひゃー、やっぱりクレーエってかっこいい～！」

本日のニュースです
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希望を、我が手に

未来傷跡連環希望祝福

「最後のフレームね〜。つよいのかな？」
「せっかくだからフレーム替えてみよっか！　そんで敵も倒して世界もいい感じになって報酬も貰ってよきよき〜って感じで！」
「……」
「仕事終わったら、美味しいもの食べながら猫動画見ようね！」

未来傷跡連環希望祝福

「けっきょく巨人の島でオムライスは作れなかったいちでぇくんなのでした。えーん」
「敵もなんか強いし、アセンブル考えなきゃ。クレーエ、パーツ重いけど頑張って戦って～。ほら、キラキラつけたから」
[積載:可能][ピー][非対応パーツです]
「え～、キラキラそんな嫌？」

ラジオからニュースが流れている

本日のニュースです
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未来を、我が手に

未来連環祝福 希望 傷跡

未来連環祝福

未来連環祝福

「俺たちが強いって！　褒められ…というよりこれは恨み節かな？　ま、褒めと受け取っておこうかな！　えっへっへ」
「そりゃクレーエがいっしょだもんね！　クレーエとならどんなやつだって敵じゃないもの」
「……」

未来連環祝福

「FABの健康反動って、どれくらいなんだろ。加速するのはいいけど…」
「まぁいいや。ちょっと乗り物酔いするくらいでしょ。戦場では背に腹は変えられないもんね～。はいポチ」
いちでぇは通信装置からFABをポチッと注文した！
「……」

未来連環祝福

「んにゃ～」
いつも通り、ぼんやりと黒い海を眺めている。
「俺もあの女の子みたいに大きくなったら、クレーエと並んで戦えるのかな？」
巨人の島にいる巨人少女『アカネ』をちらりと見て
「いいや、あれじゃ並ぶどころか大きすぎるかな…」

未来連環祝福

「猫をね～たくさん積みたいの。だって、それってロマンじゃない？」
「……」
「どうしたら今のアセンブルに猫をたくさん積み込めるか考えてるんだ！　犬でも可！　だけど、犬は逃げるらしいからね。やっぱり猫だよ猫」
「だから猫パーツ買ったら演算領域ちょっと貸してね、クレーエ！」
「……」

本日のニュースです
雨音列島で珍味「フィヤシィテュウカ」が始まりました
フィヤシィテュウカが始まると夏の始まりといわれています
フィヤシィテュウカが何の珍味なのかは失われています
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

未来連環祝福

「うひょ～～」
仲間の助言により高速化したグレムリンを操り、喜々として海上を飛び回っている。
「…うぎゃっ！　頭ぶつけた…」
「……」

未来連環祝福

未来連環祝福

しばらくこの黒く濁った大海原を漂っていた。
「……」
落ちてきたコンテナを拾おうとしたら中身がぎっしり詰まってたのか、いちでぇの目の前でコンテナは泡を立てながらゆっくりと沈んでいった
「ま、落ち込んでも仕方ないけど…。うぅん、クレーエ、ここでひと泳ぎしてく？」
「……」
クレーエ・フォーゲルは拒否を示すように頭部の赤ランプをチカチカを数度点滅させた。

本日のニュースです
巨人の島にて、巨大ひよこレースが始まりました
巨人の島名物巨大ひよこを使ったレースです
優勝した巨大ひよこは、お腹いっぱいおやつを食べられます！！
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

ラジオからは今日もニュースが流れている……

未来とか祝福とか

未来連環希望

「きゃっほー、これでクレーエもピカピカに！」
乗換申請書を握りしめている。
「クレーエ、せっかくなら装甲ピンク色とかにしてみる？」
「……」
未来連環希望

未来連環希望

「寒ーい！　寒くない！？　ねぇねぇクレーエ、暖房入ってる！？」
「……」
「ねぇってば！」

未来連環希望と

未来連環希望

未来連環希望

『未来、連環、希望　とか』

頭が痛くて目を覚ました。グレムリンの操縦棺の中で簡易的に設置された操縦席は固く冷えていて、体の節々が痛む。昨日の戦闘が終わってそのまま気絶するように眠っていたようだ。グレムリンは自動制御に切り替わっており、海上でその巨体を静かに浮遊させ佇んでいた。
「……」
いちでぇは頭痛の元である頭の装置をなでた。これは脳波を用いてグレムリンを制御するためのものであり、グレムリンの一部とも言える物体だ。と、教えられたことがある。実際にその真実はいちでぇにもよくわかっていない。
「あ、あれ、もう片方は？」
頭を上げると、明らかにバランスがおかしい。もう片方に手をやると、そこにはむき出しになった端子の尖った感触だけがあった。どうやら、戦闘時の衝撃で外れてしまったようだ。
操縦棺の片隅に目をやると、ふだん頭に装着している装置が目に入る。
大きくため息を付きながら、いちでぇはグレムリン『クレーエ』の操作パネルに触れる。
「……クレーエ、おねがい」
頭に埋め込まれた端子の付け根が痛む。しばらくして壁の一部が開くと、はんだごての先端のようなパーツが取りつけられたアームがいくつも出てきた。蜘蛛の足のようにも見える不気味なそれらは、いちでぇのむき出しになった頭の端子を調べるようにつつき、時々小さく火花を散らした。
「痛っ！　うぅ、クレーエ、痛いよ……」
いちでぇはうずくまりながら涙を浮かべていた。頭をどこに置こうとも、アームは的確に端子を捉えて離さない。これは正規の手順を取られずに装置が外された際の処置だ。替えの利かない装置を長持ちさせるべく行われるメンテンスであることは、いちでぇも理解している。だが、生身の人間であるいちでぇにとってそれは痛みを伴う心身を削る行為でもあった。
「ぐすっ、ぐすん」
いちでぇが顔を上げると、そこには部屋の片隅の落ちていた装置がアームに持ち上げられて佇んでいた。思わず、涙が溢れる。
「クレーエはいじわるだ」
クレーエと共に戦うのは楽しい。強いグレムリン、ともに戦うテイマーたち、お金だって不自由なく手に入る。グレムリンといっしょなら、世界だって救える。この痛みだって終われば消え去って、10分後にはすっかり忘れているだろう。
しかし、今だけはグレムリンへの嫌悪感が頭の中にぐるぐると黒く渦巻いていた。

未来とか

「北のほうに、温泉あるんだって！　知らなかった～。そっち行けばよかったかなぁ。クレーエだって温泉入りたいよね？」
「あ～、こんなボロボロのフレームじゃ温泉に入ったら更に錆びちゃうか」
「やっぱり先に工廠行かなきゃだね！　キレイになってから、余裕があったら未確認機倒しつつ温泉目指していこうね！」

未来のはなしとか

「ねぇねぇ、クレーエ。これみて～」
いちでぇが操縦棺の中で丸い機械のパーツのようなものを転がした。バスケットボールほどの大きさだ。
「これなんだと思う？」
グレムリンは答えない。静かに海上を飛行し、タワーの南方へと航海を進めている。
「これね～、たまごだよ！　知ってる？　生き物が中にいるの！　補給コンテナの中に入ってたんだよ！」
「あ、ちょっとキモいって思った？　わかる～。初めて見たけど、この中に生き物がいるなんて気味悪いっていうか、ちょっと信じられないよね。でもやっぱ見つけちゃった責任っていうか。そういうのあるかなって思って捨てずに取っておいたんだ」
ボール状の機械を抱えながら、笑顔でひとり喋り続けている。
「人肌であっためると中の生き物が出てくるんだって。だから、こうして温めてんの。未識別機体出てきたらちゃんといっしょに戦うから、それまで操縦よろ～」
グレムリンは答えない。未だ何も見えない水平線へ向かって、自動操縦の機体は海を進んでいく。