ENo.0123　ルーク・ダイモン・バイロン

第23回目　午前2時のルーク・ダイモン・バイロン

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プロフィール

名前

ルーク・ダイモン・バイロン

愛称

バイロン

経歴

手術の馴染まなかった半面を義顔によって覆い隠す、
精悍な顔立ちのテイマー。
義顔は外部記憶装置を兼ねており
『面の皮一枚分だけ賢い』のが一応の触れ込み。

前職としてはグレムリンを保有する”警備会社”に所属。
勤務先が突如業務を停止したため肩書がフリーターになった
ばかりか、明日の行き先を定める間もなく意識を奪われ……
……目覚めればさらなる地獄の渦中へと叩き落されていた。
公的な戦闘記録に乏しいが、熟練の操縦技術のほか
環境掌握にも優れ、戦場そのものを玩弄する連環の術師。

【搭乗機】
厳霊型思念投射機：ヴィラ・ディオＤ
ごく瞬間的に注意をひき、意識が向けられた刹那に牙をむく
攻撃的な思念伝達機。
糸の絡まるマリオネットのごとく意図を巻き取り無力化する。
それは萎縮させ、苛立たせ、過剰なまでにミスを誘い、
やがては自滅に導く、ただ悪意にて圧倒せしグレムリン。
言い方を変えれば、メンチを切りイチャモンをつける専門家。
悪鬼がよ。

◆日誌

装甲ごと魂を引き剥がさんとばかりに、凍てついた思念が押し当てられる。
氷に素肌を吸い付かせるような永劫との接着。
立ち止まらせるな。
……オレを立ち止まらせるな！

「――…チキンレースだオラァッ！」

衝突した思念がこそげ落ちる感覚にも構うことなく、向こう見ずな肉薄を重ねる。
切っ先を突きつけるたびにルーク・ダイモン・バイロンが剥離してゆく。

そして――永劫を置き去りにした頃、オレは、

「……」

……それでもオレは死にはしない。
たとえ意思をすべてなげうったとしても、
それでも力尽きることはなかっただろう予感がある。
義顔で覆い隠した内側では、オレのルークにならなかった部分が
燃えるように高揚していた。

”唯一手術の馴染まなかった”半面に残っていた、オレの……

「ヴォイドジェネシス、再起動完了です」

――
⇦ ROLL BACK ⇦
――

「よっ！天才女子大生ライダー！」

「るせえ、ひがむな！」

満天の青空の昼日中、潮風かおるカフェテラスの脇には屈強なバイクが２台並び、
これまたテラスの白く華奢なチェアには不似合いな
ライダースーツに身を包んだ娘同士がフラッペなどを嗜んでいた。

「でも進学なんてもったいないなぁ。レースに専念してたら絶対もっと上まで行けたじゃん」

「別に……どこで走ろうがオレの勝手だろ。趣味でちょうどいいンだこんなモン」

「こんなもん！聞きました？こんなもん！」

なじみの店員は今日もはにかんでやりすごす。
店員が余計な口を挟まないところは
彼女らがこのカフェをたまり場にする理由のひとつでもあった。

「――うんっ？鳥？あんなの飾ってたか」

ふと彼女の目に留まったのは、鳥の骸骨ともオペラマスクともつかない
奇妙な頭をした水飲み鳥。
本来は愛らしく頭を揺らすはずの玩具も、
オカルトじみた雰囲気を帯びて異彩を放っていた。

「私の鑑定結果ややキモですけど。お土産ですか？飾る前に奥さんと相談した方がいいですよ」

言われて店員は再びはにかんだ。

「また来まーす、って毎回言ってる、って毎回言ってる」

「よっし、バイロン！今日はどこ行く？」

「ああ……港まで流そうぜ」

日記画像

ライダースーツの娘たち……バイロンと呼ばれた女は駆け出した。
アスファルトを焦がすようにタイヤを走らせて。
抱えた情動を吐き出すようにエグゾーストノーツを刻みながら。

時は車輪の如く巡る。
車輪は前に進みながらも同じ軌跡で回り続ける。
そして車輪は同じ軌跡で回りながらも前に進み続ける。
車輪の回るさまが無為な再演の前触れか、はたまた稀なる飛躍の予兆かを
確かめる術はなく。

ゆえに《希望》を見出す日は今日ではない。

遠く水平線の向こうは、瞑目するように暗く深い海の青色をたたえていた――

本日のニュースです
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｰｯ
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｰｯ
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｰｯ
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｰｯ
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｰｯ
希望を、我が手に

◆23回更新の日記ログ

空しく黒く広がる闇を、乱暴に押し広げて進む。

ぷつぷつと管がちぎれると、水とも油ともつかない濁った液体が
無機質なストリートにしたたり流れる。
地表で荒れる海など知らぬかのように、静謐をたたえた水面が広がる。

水面の中には、同じ景色がもう一つ。
現実と、鏡写しの世界の境界線。

まだ見ぬ未来とうそぶく何かが潜むとするなら例えばこの中……
怜悧であることを願いながらも、その実は狂気スレスレの息つまる思考。
わずかな勝機を求めて暗中深くに意識を注いでいた。

いわく、ここにもひとつ、勝ち目のない戦い。
だが賭けてみるのはオレたちの勝手だ。

◆22回更新の日記ログ

未来傷跡希望祝福

◆21回更新の日記ログ

ラジオは沈黙している...

トレーニングルームの静寂の中で、プレスマシンの革がこすれ、滑車が小刻みに反復回転する。
わざわざ取り沙汰するまでもない、ありふれたルーティンの音。
胸の内にくすぶる違和感を押しつぶすよう、つとめて平静に平時のトレーニングメニューをこなす。

軍艦の装甲厚も、荒巻く海の波しぶきさえも決して阻むことのない
浸透する思念の奔流が駆け巡っている。
いまや、思念伝達能力を増幅・統御するグレムリンのコンソールを介さずとも
渦巻く意念の数々が、まだらな糸で編まれた紐のように形を得て肌を撫でているようだった。

なにかが世界の趨勢を定めようとしている。あるいは覆そうとしている。
ロートルどもがそれぞれ最も望ましい決着を待ちわびている。
あいにくオレには終末時計の針に指を突っ込む趣味はない。
ただ、さして親しくもない他人に自分の未来を預けるのはどうにも我慢がならなかった。

プレスマシンから立ち上がり、タオルで汗をぬぐう。
いつどうやってこの汗を拭いたのか？
それもすべて計算のうちなどと高慢ちきをのたまうようなら、それこそブチのめすだけだ。

◆20回更新の日記ログ

本日のニュースです
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｯ……ｻﾞｻﾞｯ
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｯ……ｻﾞｻﾞｯ
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｯ……ｻﾞｻﾞｯ
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｯ……ｻﾞｻﾞｯ
未来を、我が手に

本日のニュースです
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｯ
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｯ
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｯ
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｯ
連環を、我が手に

◆19回更新の日記ログ

本日のニュースです
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｯ……ｻﾞｻﾞｯ
各地で……ｻﾞｻﾞｯ……現象が……ｻﾞｻﾞｯ
……ｻﾞｻﾞｯ……謎の人影が現れ……ｻﾞｻﾞｯ
対話に成功したものによると、彼らは古代の
科学者……という……ｻﾞｻﾞｰｯ
我々の未来は……ｻﾞｻﾞｰｰｰｰｰｯ
あなたの未来って、何？

本日のニュースです
ｻﾞｻﾞｯ……ｻﾞｰｰｰｰｯ
……渦巻く粉塵の雲が、その濃さを増して……ｻﾞｻﾞｯ
渡り鳥がその間を飛び……ｻﾞｻﾞｻﾞｯ
時折稲妻が……ｻﾞｻﾞｯ
あなたの連環って、何？

◆18回更新の日記ログ

本日のニュースです
各地で様々な怪奇現象が多発しています
この放送もいつまで続けられるか不明です
放送にはノイズが走り、奇妙な囁きや歌が混線します
十二条光柱の光は激しさを増しています
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……

本日のニュースです
時折、粉塵の雲間から空を見上げます
白い服を着た葬列が遥か高空に見えるときもあります
彼らはいったい何なのでしょうか
何かの異変の前兆でしょうか
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

◆17回更新の日記ログ

本日のニュースです
各地で領域覚醒の報告が上がっています
空が赤い粉塵に覆われてはや幾年
この世界の終わりを意味するのでしょうか
粉塵の向こうにある十二条光柱が激しく光ります
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……

本日のニュースです
各地で渡り鳥の群れが観測されています
粉塵に適応した生物でありますが
その姿はなかなか見ることができないものでした
何かの異変の前兆でしょうか
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

◆16回更新の日記ログ

本日のニュースです
傭兵たちを主人公にした絵本
「赤さびのせんしたち」が発行されました
赤く錆びた機体を駆り、未識別機動体と戦う姿を
絵本で表現しています
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

本日のニュースです
財団の動きに異変が生じています
どうやら指揮系統に混乱が見られる様子です
戦いはこちらの有利に進んでいます
それが想定外にしては、混乱が大きいように思えます
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……

◆15回更新の日記ログ

本日のニュースです
雨の海で取れた珍味「ウミケダマ」
熟成された肝の酢漬けが今期も出荷されました
「うみすー」と呼ばれるこの珍味は
合成食物に慣れた人々にはたまらない刺激となります
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

本日のニュースです
異形のグレムリンとの戦闘が始まった模様です
戦闘領域では激しい戦いが繰り広げられています
敵の進化能力ですが、テイマーに対する反動が
非常に大きいことが分かってきました
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……

◆14回更新の日記ログ

――ザッ　ザザッ

本日のニュースです
雨音列島で珍味「フィヤシィテュウカ」が始まりました
フィヤシィテュウカが始まると夏の始まりといわれています
フィヤシィテュウカが何の珍味なのかは失われています
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

――ザーッ

水面の上も、下も、この窓でさえも、何もかもが濁り切った艦の外界。
どれだけ眺めたところで、潮の流れなんぞ読めるわけでもなく。
この横道潮流の荒波ともなればなおさら言うまでもない。

海流に揉まれ、構造部もろともぐるりと二回転ねじれてひしゃげる様子を、ほんの刹那垣間見る。
不要な記憶だ。
そもそもグレムリンはそうなる形をしていない。
だのに背筋をひとつ伝う雫の感覚に、
オレ自身のくだらなさをあらためて噛みしめた。

どうせマシンにまたがればこんな恐れは失せ、不快なゴミは海底に沈んでゆく。
だからこそ、恐れはよく刻み付けておかなくては。いずれ大きく誤るハメになる。

◆13回更新の日記ログ

――ザッザザッ

本日のニュースです
南の島付近の海上で謎の珍獣「カビャプ」が目撃されています
カビャプが列をなして泳いでいくのが見えます
この後巨人の島方面に向かったということです
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

――ザーッ

ジャンク財団とかいう、このラジオと同レベルの胡乱な手品師。
羽振りのいいフリはご立派だが、やってることは
食い詰めた末に広告動画を割り込ませてきた先史文明レベルのアホだ。

それでも大勢力と事を構えようと動いたのは、
漂泊の傭兵ごときが三大勢力と連携を取らないと睨んでのことだろうか。
確かに実際どうでもいい。
ただ、見落としているとすれば、傭兵どもに未識別機を狩る習性があることか。
どちらもどうでもいいから、ただ未識別機動体を落とす。
こっちはそういう風に生きている。

すっかり染みついた傭兵の手癖、それを崩す手立てがあるとすれば……
たとえば「長久の幸福」。「武力の廃絶」。

そんなものは、かつて存在したことすらない。
だからやつらに傭兵は止められない。

◆12回更新の日記ログ

――ザリッ

本日のニュースです
コロッセオ・レガシィではいまひよこコロシアム決勝が行われています
ひよこの戦いの中で勝ち残った歴戦のひよこ
面構えがちがいますね
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

――ザッザザッ

赤く穢れた窓の向こう、海を眺める間のラジオ。
ゴムの擦り切れた玩具のように惰性じみて、
相も変わらず調子を外したニュースをひり続けていた。
世界には、まだ寝言をこぼす余裕が残っている。

ジャンクテイマー。
目的は明瞭、分布はそこかしこ。
恵まれ過ぎた野盗と思ってあしらっておけば、こうして余計な頭を出してくる。
ただでさえ人手が足りないところ、わざわざ数を減らしにきて恨みを買ってる自覚もないのか？

ただの火事場泥棒でいればいいものを、わざわざ結託して茶々を入れられる形にまで育っていく。
とはいえ権謀術数はお偉い頭に任せる。オレは一言だけ唱えてマシンに身を預ける。
やつらを蔑ろにするただ一言を繰り返す。
つくづく、くだらない。

◆11回更新の日記ログ

ザリッ　ザリッ――

本日のニュースです
巨人の島にて、巨大ひよこレースが始まりました
巨人の島名物巨大ひよこを使ったレースです
優勝した巨大ひよこは、お腹いっぱいおやつを食べられます！！
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

――――ガツンッ

翡翠がネットワークを拡張する。
青花が戦闘システムを拡張する。
航空者が野望を語り、グレムリンの創造主を嘯く。

手の届かない高さで渦巻く権謀術数をちらつかされるのは不快だ。
いたずらに小競り合いを長引かせれば、連中はますます付け上がって腹の黒さを自慢したがる。

だから早く、速く、叩くしかない。
早さを説きながら、えらく気の長い話だ。

◆9回更新の日記ログ

軽く流した汗をぬぐう頃、塵の向こうは押し黙るように凪いでいた。
対して、胸の内には泡立つような不快感。

――――ザザッ

本日のニュースです
未識別融合体撃破の喜びの花火が上がっています
粉塵でも透過するチャフの炎はモニター越しに七色に輝きます
これから復興に向けて動き出す祝いの炎です
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

胡乱なラジオを尻目に考えを巡らせる。

本命と目されていた巨大未識別機のあっけなさ。
にもかかわらず生じた深刻な過失。
巨大未識別機に目を奪われて重大事を見落としてはいないか？
あるいは不安や焦りが、いりもしない心配事を予感させているだけではないのか。

そして、こうした思議すら事故にドラマを期待しているだけのようにも思えて
ようやくその堂々巡りを打ち切った。

物事には相応の理由があれば納得するってのか？
そんなワケがないだろ。
誰の思惑がどうであれ、いずれもっと”大きな”ものがやってくる。
ふたたび電源を入れたランニングマシンの上で、この予感だけは確かだった。

◆8回更新の日記ログ

本日のニュースです
タワー港湾部にて、ささやかながら領域奪還の
祝勝会が開かれました
僅かながらメシに味付けをした「スシ」が振舞われました
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

――――ザザッ

くだらない、くだらない。
群れを迎え撃つ中で、ふと目の端に火花がちらついた。
粒子の残光とも虚無のノイズともつかない刹那の光だった。
艦に戻って、歪にひしゃげた棺を見たとき火花の残響が脳裏に甦った。

守ってやろうなんておとぎ話のヒロイズムをかざすつもりは微塵もない。
ただただ居心地が悪い。

オレがやったのか？
オレがこんなにしちまったのか？
悪い錯覚に違いない。

◆7回更新の日記ログ

水面を駆けながら、探査波を走らせながら、
チューブの中の粘り気のない泥をずるりと吸い上げる。
絞り切った鈍色の小袋をパンパンに膨れたゴミ袋にねじ込んだ。
チューブは残り1本。この道のり、あまりまごついている暇はない。

――…ザザッ

本日のニュースです
小群島では白い鳥の群れが見つかったと話題になっています
鳥類は粉塵によってほぼ絶滅しましたが、
一部の種は生きながらえ、粉塵に適応しました
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

ラジオの話には相変わらず緊張感のカケラもない。
在野の傭兵に泣きついておきながら世間さまには黙ったまま通すつもりか？
構いはしない。オレを画材にでもしない限りは真紅の描く絵図に興味なんかない。
まあ、まずは目下の危機を伝えてくれたことを素直にありがたがっておこう。
予報された土砂降りを避けるなら、屋根の下に隠れるのがいい。

ふと、沈思黙考に探査波が相槌を返す。確かめる。
遠く淡くほのかな明かり……ようやく見えた”屋根”に向けて機体を走らせた。

◆6回更新の日記ログ

ィィィュ――

本日のニュースです
氷獄ではいま絵本の読み聞かせが人気です
書籍行商船では絵本の人気が高まっているようです
霧の伝説の絵本は、いまでも人気の話です
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

グレイヴネットワークより、きな臭いメールを受信する。
送り主は真紅連理。その書き出しは「傭兵諸君に頼みたいことが……」
マップを見やれば探査範囲の終端近くに真紅の工廠がちらつく。
はぐれ者に無差別に送っているのだろうが、
厄介者を遠ざけるためかと疑うようなタイミングに思わず息を漏らした。
まさか真紅連理にも諧謔の心があるとは。

ともかく真紅の言うデカブツには警戒を要する。
いかに回避が容易だろうと、予想されている投入数を考えれば単独でも遭遇しかねない。
またひとつ、改めて連中に合流しなければならない理由ができた。
それにしても……身の振り方など状況判断の賜物に過ぎないが
情勢に弱みを握られるようでにわかに寒気が走る。

これではまるで……
そう、
蜘蛛の巣にとらわれたみたいじゃないか。

◆5回更新の日記ログ

――ギィィィュ……

本日のニュースです
雨の海ではいま「ウミケダマ」の水揚げが最盛期を迎えています
「ウミケダマ」は柔らかい毛がびっしり生えたウニの仲間です
粉塵に汚染された肝を10日かけて浄化し、絶品となります
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

苛立ちまじりに蹴り潰さぬよう、つとめて冷静にラジオに触れる……。

受領した試作機を試すため、ボートを伴わず海原を駆けていた。
驚異的な航続距離を誇るグレムリンといえど
勝手もわからず浮力材を叩き壊したとあっては笑えまい。

とはいえ不安も手伝ってか、近頃はふざけた悪霊騒ぎのウワサも出回っている。
怯えすくんだアカンタレが勝手に転ぶか、はたまた悪霊でも出てくるだろうかと索敵をかければ……
……気嚢を確認。
今日のところは息のあるゴミが這い出ようとしてきているだけだった。

しばしの思案の後、長距離通信機を手に取る。
虫けらも、すりつぶせばわずかに汁を吐くモンだ。
少しはイイコトをしてやらなくては。

◆4回更新の日記ログ

駄賃がわりの荷下ろしを終え、曳航船を降りた。
とびきりの僻地には似つかわしくない、深く押し固められた轍の溝をなぞれば
それはやがて姿をあらわにする。
辺鄙な立地ゆえに被害を免れたのだろうか、おもいのほか立派に形を残した工廠では
決戦に向けて新型フレームのロールアウトを着々と控えているようだった。
それにしたって用意がよすぎる気もするが……

グレムリンを持ち、近くへ滞在している旨を届け出て合流予定地へ。
短距離通信機にメッセージを噛ませて所在を知らせ、連中からのアクションを待つ。
体を横たえ、しばしまどろむこと数分、数時間、あるいは……
…………
……

本日のニュースです
雨音列島では園児たちに「ソーメン」が振舞われました
「ソーメン」はメシの原料からできた高級な麺類です
生き残った園児たちは、みな笑顔でソーメンを食べています
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

ガツン。
蹴り上げたラジオがいよいよ黙るまでには応答はなかった。

◆3回更新の日記ログ

――ィィィ―――

本日のニュースです
ヒルコ・トリフネでは今日も「にわとりさま」の祭事が行われています
「にわとりさま」は食された鶏肉の神と言われています
にわとりさまはどう見てもひよこですが、にわとりさまと呼ばなければ祟られるそうです
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

――ザリザリッ

ラジオは愚にもつかない与太話を奏でる。
こんなものが誰の慰みになろうか、心底に心地が悪かった。

同道する曳航船の窓から大船団の行くさまを眺める……
積み荷の揺られて軋む音は、さび付いたゆりかごのようだった。

◆2回更新の日記ログ

本日のニュースです
南の島では今、謎の珍獣「カビャプ」が多数目撃されています
人々の気配が消えた町などを横切る姿が確認されています
ピンク色でもふもふしていてかわいいですね。血を吸うそうです
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

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