第23回目 午前2時のブレイン
プロフィール
名前
ブレイン
愛称
ブレイン
経歴 [DA_04] システムアーカディア -ARc12A00S- データファイル ◆INFORMATION: 情報規制Lv8解除。 アーカディア・ライブラリより 人物情報を表示。 本名:ブレイン・メザード 愛称:ブレイン 性別:男 現年齢:20歳 クラス:ウィザードライン (一級探究者) 外世界の研究組織、メルカルディア幻想機関から派遣された調査員。機関の任務を受けヴォイドテイマーとして今回の戦線に赴く。 汚染された崩壊世界の出身で、幻想機関に所属する以前は死と隣合わせの環境で生きていた。 他人への警戒心が強く、理知的に隙を見せず振舞うことを心掛けている……が、本質的にはお調子者で子供っぽい面があり、親しい人間の前では素の面が出てしまうこともしばしば。 過去のトラウマから虫が苦手。特に黒いアレには壊滅的に弱い。 メンバー1:クラウザ 補助要員その1。ブレインに移植された義体に住み着いていた謎の存在。 元は文明時代に残された戦略兵器群より発生した付喪神のようなモノと本人は語る。 霊体とCPウィルスを合わせたような思念体で実体を持たず、他者とのコミュニケーションは青い小動物を模した三次元映像を使用する。 操縦補助、パーツ作成やアセンブリ等の技術面でブレインをサポートする。 メンバー2:ユーリエ 補助要員その2。ブレインと同じ幻想機関に所属する探究者。オペレーター兼補助役として同行する。 メンバーでは随一の純魂(ソウル)リンク値を持つ特級探究者。しかし、自由奔放な性格で特に任務や探索中はテンションが高く、暴走してトラブルを起こすこともしばしば。 今回の任務では、お目付け役である祖父のルアールが不在なため、厳重警戒中。 オペレーター業務以外にも依頼者との交渉やユニオン、コネクション管理、中央メルカルディアとの仲介においてブレインをサポートする。 |
◆日誌
[MS49] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:《タワー》
座標:X=3,Y=3 FL:*領域覚醒*
戦場:第24ブロック タワー上層区【シモムラ思念領域】
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、5つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:5.000%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:《タワー》
座標:X=3,Y=3 FL:*領域覚醒*
戦場:第24ブロック タワー上層区【シモムラ思念領域】
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、5つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:5.000%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆23回更新の日記ログ
[MS48] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:《タワー》
座標:X=3,Y=3 FL:*領域覚醒*
戦場:第24ブロック タワー上層区【シモムラ思念領域】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■領域情報:《タワー》 現在位置:タワー上層区【シモムラ思念領域】
虚空領域中央に位置するタワー内部。上層に存在する、謎めいた領域。
下層、中層同様、灰塵戦争以前はテイマーズケイジ管轄下に置かれていた場所で
かつて未識別機動体が出現したこともあり、一部の上位ランカーのみが入ることを
許され戦場になっていた。当時から白い影を見た、何者かの声がする等、不吉な噂が
絶えない場所だった。現在は機能を停止しているのか、ただ広い闇が続いている。
ユーリエ:
「あ、いました! グラーベルの反応を確認!
おーい、ブレインー!」
クラウザ:
『残骸のベルコ、及びマリオネットグレムリン、完全に機能を停止したようだ。
領域内の安全を確保。これより合流する』
ブレイン:
「輸送用のトレーラー!? クラウザとユーリエか?
こんなものをどうして……」
ユーリエ:
「こんなこともあろうかと、密かに用意しておいたのです!
クラウザが! えっへん!」
クラウザ:
『故障してバルク・クォーリー内に放置されていたものを改修したのだ。
最終決戦の舞台がタワー内部になる以上
応急的な陸上拠点も必要になるだろうと思ってね』
クラウザ:
『幸い、兵器の残骸には事欠かない世界だ。修理は楽だったよ。
戦闘力は無いようなものなので非戦闘領域での利用に限られるがね』
ブレイン:
「成程な。手回しが良いじゃないか。
なら、この地を一時キャンプ地とする。
ヴォイドステイシスのデータ解析とシミュレーションを行い
アセンブルを再構成後、本体に合流するぞ」
クラウザ:『了解した。これより補給と修理を開始する』
ユーリエ:「アイアイサー!」
ゾーオ:
『ふぅん……これがタワー内部か。
どんな凄い場所なのかと思ってたけど意外と殺風景な所ね。暗いし。
これがそんなに凄い遺産なのかしら』
シネン:『……(ゾーオの影から周囲を見ている)』
グレ:『なうーん』
ユーリエ:
「あ、グレちゃんいけません。
ここは広くて暗いから、出歩くとまた迷子になってしまいます。
わたしのお膝でおネムしましょう」
グレ:『うにゃ!(抱き上げられてじたばたしている)』
ユーリエ:
「あわわ! 今日のグレちゃん、なんかとても元気です。
仕方ありません、ここは秘蔵のささみで気を引きます。
グレちゃん、どうどう」
グレ:『ごろごろ(喉を鳴らしてささみにかぶりつく)』
ゾーオ:
『それで、どんな感じかしら? ステイシスの演習は。
まあ、その表情を見れば芳しくないのは分かるけど』
ブレイン:
「……できれば、正面から当たって打ち破りたい相手だったが
そんな甘いことは言ってられないようだな。
ヴォイドステイシスの意思に呼びかけ、隙を作る……。
フヌの案に乗るしかないか」
ゾーオ:
『ヴォイドステイシスは幼い……意外ね。
全ての始まりとなったケイジキーパーのグレムリンなのだから
もっと老成した意思を想像していたけど』
クラウザ:
『リインカーネーションもそうだっという。
ダストグレムリンは皆その様な傾向にあるのかもしれんな』
ゾーオ:
『うちのあいつと違って、可愛げがあるのね。
このグレムリンも、もう少し愛嬌があっても良かったのに』
ブレイン:
「どうやら、付け焼刃で芸を披露しなきゃならんらしい。
まさか他人のグレムリンまで気を引かせられる羽目になるとはな。
テイマーはつらいぜ」
ユーリエ:
「漫才ですね! なら、相方役の本領発揮です!
ボケもツッコミもわたしにお任せあれ!」
ブレイン:
「いやいや、笑わせたいわけじゃないからな!?
お前は余計なことするなよ! シリアスが壊れる!」
ユーリエ:
「むむむ、残念です。
わたしの渾身のギャグをお見舞いしてあげたかったのですが」
クラウザ:『勝算はあるのかね、マスター?』
ブレイン:
「さあな。正直、今の俺の戦う理由なんて大したもんじゃないが
嘘や飾った言葉で奴の心が動くとは思えん。
グレムリンは人の意思を見るんだからな。心でぶつかるのみ」
ゾーオ:
『ま、これだけの数のテイマーが居れば、貴方でなくとも
一人くらいは気を引ける人間がいるかもしれないわね。
健闘を祈っておくわ』
ブレイン:「さて、これでどう出るか……」
ヴォイドテイマー達の一斉攻勢で、残骸のベルコの巨体はあっけなく崩れ落ちた。
マリオネットグレムリンを多数融合させた残骸のベルコは、巨大未識別融合体と
同等かそれ以上の戦闘力をつ相手だったが、激戦を潜り抜けて成長した傭兵達の
敵では無くなっていた。ベルコの亡骸を乗り越え、俺達は闇の中を進んでいく。
主であるリヴの命令を拒否したことで、フヌは電源を遮断され消滅していった。
彼女とジェトとホーレツァーの会話を、俺はグラーベルの通信越しに聞いていた。
消えゆく彼女に対し、今の俺達にできることは何もない。悲しみを乗り越えて
ジェトは先へ進む。最後の会話の中で、彼女は自らの願いと希望を傭兵達に託した。
コンソールの索敵継続欄に、新たに表示される敵グレムリンの解析情報。
彼女達が何度やっても勝利を見い出せなかったという、ヴォイドステイシスの
演習データだ。
データを開いた俺は、ヴォイドステイシスのそのあまりの力に息をのんだ。
[停滞打破][真永劫][停滞領域][深淵]、それに加え他に類を見ない強力な機体性能。
確かにヴォイドステイシスは完璧なグレムリンであって隙は無いように思えた。
しかし、フヌはシミュレーションの中で、戦闘開始より10分の時間に僅かな
計算の歪みが存在するという。
ヴォイドステイシスの『心』にこそ勝機の活路はある。
幼いヴォイドステイシスに自らの意思を目覚めさせれば、シミュレーションでは
辿り着けなかった結果を導き出せるかもしれない。
それは一種の賭けだ。
だが、俺達の戦いの根源が未来を変える力になる。その意思が、戦場を変える。
人の意思を力とするグレムリンの戦いの幕引きとして
これ以上相応しい展開もないのかもしれない。
それにここにきて、俺は『あいつ』に対して純粋に興味を持っていた。
もしあれが答えるというのならば。語り合える存在だというのならば。
――ヴォイドステイシス、お前は何のために戦っている?
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.820%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:《タワー》
座標:X=3,Y=3 FL:*領域覚醒*
戦場:第24ブロック タワー上層区【シモムラ思念領域】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■領域情報:《タワー》 現在位置:タワー上層区【シモムラ思念領域】
虚空領域中央に位置するタワー内部。上層に存在する、謎めいた領域。
下層、中層同様、灰塵戦争以前はテイマーズケイジ管轄下に置かれていた場所で
かつて未識別機動体が出現したこともあり、一部の上位ランカーのみが入ることを
許され戦場になっていた。当時から白い影を見た、何者かの声がする等、不吉な噂が
絶えない場所だった。現在は機能を停止しているのか、ただ広い闇が続いている。
ユーリエ:
「あ、いました! グラーベルの反応を確認!
おーい、ブレインー!」
クラウザ:
『残骸のベルコ、及びマリオネットグレムリン、完全に機能を停止したようだ。
領域内の安全を確保。これより合流する』
ブレイン:
「輸送用のトレーラー!? クラウザとユーリエか?
こんなものをどうして……」
ユーリエ:
「こんなこともあろうかと、密かに用意しておいたのです!
クラウザが! えっへん!」
クラウザ:
『故障してバルク・クォーリー内に放置されていたものを改修したのだ。
最終決戦の舞台がタワー内部になる以上
応急的な陸上拠点も必要になるだろうと思ってね』
クラウザ:
『幸い、兵器の残骸には事欠かない世界だ。修理は楽だったよ。
戦闘力は無いようなものなので非戦闘領域での利用に限られるがね』
ブレイン:
「成程な。手回しが良いじゃないか。
なら、この地を一時キャンプ地とする。
ヴォイドステイシスのデータ解析とシミュレーションを行い
アセンブルを再構成後、本体に合流するぞ」
クラウザ:『了解した。これより補給と修理を開始する』
ユーリエ:「アイアイサー!」
ゾーオ:
『ふぅん……これがタワー内部か。
どんな凄い場所なのかと思ってたけど意外と殺風景な所ね。暗いし。
これがそんなに凄い遺産なのかしら』
シネン:『……(ゾーオの影から周囲を見ている)』
グレ:『なうーん』
ユーリエ:
「あ、グレちゃんいけません。
ここは広くて暗いから、出歩くとまた迷子になってしまいます。
わたしのお膝でおネムしましょう」
グレ:『うにゃ!(抱き上げられてじたばたしている)』
ユーリエ:
「あわわ! 今日のグレちゃん、なんかとても元気です。
仕方ありません、ここは秘蔵のささみで気を引きます。
グレちゃん、どうどう」
グレ:『ごろごろ(喉を鳴らしてささみにかぶりつく)』
ゾーオ:
『それで、どんな感じかしら? ステイシスの演習は。
まあ、その表情を見れば芳しくないのは分かるけど』
ブレイン:
「……できれば、正面から当たって打ち破りたい相手だったが
そんな甘いことは言ってられないようだな。
ヴォイドステイシスの意思に呼びかけ、隙を作る……。
フヌの案に乗るしかないか」
ゾーオ:
『ヴォイドステイシスは幼い……意外ね。
全ての始まりとなったケイジキーパーのグレムリンなのだから
もっと老成した意思を想像していたけど』
クラウザ:
『リインカーネーションもそうだっという。
ダストグレムリンは皆その様な傾向にあるのかもしれんな』
ゾーオ:
『うちのあいつと違って、可愛げがあるのね。
このグレムリンも、もう少し愛嬌があっても良かったのに』
ブレイン:
「どうやら、付け焼刃で芸を披露しなきゃならんらしい。
まさか他人のグレムリンまで気を引かせられる羽目になるとはな。
テイマーはつらいぜ」
ユーリエ:
「漫才ですね! なら、相方役の本領発揮です!
ボケもツッコミもわたしにお任せあれ!」
ブレイン:
「いやいや、笑わせたいわけじゃないからな!?
お前は余計なことするなよ! シリアスが壊れる!」
ユーリエ:
「むむむ、残念です。
わたしの渾身のギャグをお見舞いしてあげたかったのですが」
クラウザ:『勝算はあるのかね、マスター?』
ブレイン:
「さあな。正直、今の俺の戦う理由なんて大したもんじゃないが
嘘や飾った言葉で奴の心が動くとは思えん。
グレムリンは人の意思を見るんだからな。心でぶつかるのみ」
ゾーオ:
『ま、これだけの数のテイマーが居れば、貴方でなくとも
一人くらいは気を引ける人間がいるかもしれないわね。
健闘を祈っておくわ』
ブレイン:「さて、これでどう出るか……」
ヴォイドテイマー達の一斉攻勢で、残骸のベルコの巨体はあっけなく崩れ落ちた。
マリオネットグレムリンを多数融合させた残骸のベルコは、巨大未識別融合体と
同等かそれ以上の戦闘力をつ相手だったが、激戦を潜り抜けて成長した傭兵達の
敵では無くなっていた。ベルコの亡骸を乗り越え、俺達は闇の中を進んでいく。
主であるリヴの命令を拒否したことで、フヌは電源を遮断され消滅していった。
彼女とジェトとホーレツァーの会話を、俺はグラーベルの通信越しに聞いていた。
消えゆく彼女に対し、今の俺達にできることは何もない。悲しみを乗り越えて
ジェトは先へ進む。最後の会話の中で、彼女は自らの願いと希望を傭兵達に託した。
コンソールの索敵継続欄に、新たに表示される敵グレムリンの解析情報。
彼女達が何度やっても勝利を見い出せなかったという、ヴォイドステイシスの
演習データだ。
データを開いた俺は、ヴォイドステイシスのそのあまりの力に息をのんだ。
[停滞打破][真永劫][停滞領域][深淵]、それに加え他に類を見ない強力な機体性能。
確かにヴォイドステイシスは完璧なグレムリンであって隙は無いように思えた。
しかし、フヌはシミュレーションの中で、戦闘開始より10分の時間に僅かな
計算の歪みが存在するという。
ヴォイドステイシスの『心』にこそ勝機の活路はある。
幼いヴォイドステイシスに自らの意思を目覚めさせれば、シミュレーションでは
辿り着けなかった結果を導き出せるかもしれない。
それは一種の賭けだ。
だが、俺達の戦いの根源が未来を変える力になる。その意思が、戦場を変える。
人の意思を力とするグレムリンの戦いの幕引きとして
これ以上相応しい展開もないのかもしれない。
それにここにきて、俺は『あいつ』に対して純粋に興味を持っていた。
もしあれが答えるというのならば。語り合える存在だというのならば。
――ヴォイドステイシス、お前は何のために戦っている?
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.820%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆22回更新の日記ログ
[MS47] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:《タワー》
座標:X=3,Y=3 FL:*領域覚醒*
戦場:第24ブロック タワー中層区【ヒヨコ立像領域】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■領域情報:《タワー》 現在位置:タワー中層区【ヒヨコ立像領域】
虚空領域中央に位置するタワー内部。太古の昔から存在していた建造物だが
壁面の内装は現在も健在のようだ。下層から中層にかけて、闇に満ちた広間に
朽ちた少女の像が乱立する、ヒヨコ立像領域という空間が広がっている。
少女の巨像に紛れ、建造中と思わしきグレムリンの機体も見受けられる。
フヌが語るに、どうやらここが神秘工廠ゼラであるらしい。
ブレイン:
「先発隊の連中は、もう敵と接触したみたいだな。
早く追いつかなきゃならないところだが……」
ユーリエ:
「そうだね。……どうしたの、ブレイン?
わたし達も急がないと、最後の戦いの一番槍を取られちゃうよ。
それとも、やっぱり内部探索、しちゃう?」
ブレイン:
「まあな。横道があればとりあえず探ってしまうのが
探索者のサガってもんだ。滅多に来れる場所じゃないしな。
それにこの不正規探索装備を試さずに、この場所を去れんだろう」
ユーリエ:「おお、流石ブレイン! そうこなくては!」
クラウザ:
『ふむ、探索了解した。では、グレムリン探索装備一式の
実践データを取らせてもらうとしよう』
ゾーオ:『相変わらず暢気ね。これから決戦だというのに』
シネン:『…………?(画面に映る像を描いている)』
ブレイン:
「うるさいな。スケッチブック持ってるお前に言われたくないぞ。
というか、まだそれやってたのか。
クラウザ、ユーリエ、俺は時間が許す限り周囲を探る。
二人はあいつ等の通信を聞き逃さないように頼む」
ユーリエ:「アイアイサ! 声を潜めて、聞き耳です!」
クラウザ:
『こちらバルク・クォーリー、了解した。
幸い、通信感度は良好だ。盗み聞きには事欠くまい』
ブレイン:
「ヒヨコ立像の破片は、前にレドがサンプルを持ち帰っていたな。
なら、今度は他を調べてみるか」
ブレイン:
「ほう……確かに。このタワーの内装の構造や文様は
他の場所では見られなかったものだな。何というか、異質な感じがする。
俺達と同じく、別の世界から辿り着いたものとでもいうか」
クラウザ:
『通信の傍受を継続。領域殲滅軌道要塞、魔王領域、人造神ドゥルガー。
……ふむ。興味深い話だ』
ユーリエ:「ここにきて、新しい単語が目白押しです!」
ブレイン:
「こっちの調査結果にも符合する名前がある。作り話の類でもなさそうだな。
ウォーロックワリアの初期調査隊のレポートで読んだ知識しかないが
確か、霧の大地の前大戦はMIST OF WARと呼ばれていたな」
クラウザ:
『その筈だ。この零錆戦線以上に大規模な戦争だったようだが
現在の虚空領域には僅かな伝承が残っているに過ぎない。
ヴォイドテイマーの中には当時の記憶を有している者もいるらしいがね』
ブレイン:
「俺達もこっちの時間軸だけで生きてるわけじゃないしな。
異界渡りにはそういう者もいるか。
機会があれば、『あちら』に行くこともあるかもしれないが……。
まあ、ここではない、別の話だ」
ブレイン:「というわけで、探索続けるぞ」
ユーリエ:
「ドリル使いましょう! 俺のドリルは塔を貫くドリルだー!」
――内部探索中、数分後。
ブレイン:
「よし、それなりに調べ終わったな。
試作探索装備を全パージ。これより先発隊に合流する」
ユーリエ:「素晴らしい探索でした。わたしも満足です♪」
グラーベルの思念通信でジェトとフヌの会話を聞きながら、タワー内部を探索しつつ
ヒヨコ立像領域の闇の中を進んでいく。会話の中でフヌはタワーの本質とそれが造られた
遥か昔の出来事を断片的に語った。領域殲滅という不穏な名前から察するに
ここもまた戦争の兵器として建造された場所の様だ。その知識は総合開発高集積AIとして
与えられたものなのか、それとも……。
中層に侵入し、先発隊に追いついた俺が見たものは、ジェトを先頭とする傭兵達の姿と
彼らを取り囲むように展開した、無数の赤いグレムリン。ダスト・グレムリンの随伴機
マリオネット・グレムリンだった。
そして、ジェトはフヌに語る。自らの戦う理由と、それに至る経緯を。
――俺が戦う限り、俺が動ける限り、悪鬼は応える! 俺の思念のままに!
それが俺が戦う理由だ!!
ジェトは叫んだ。無人機の赤い機影に囲まれながらも、物怖じすることなく。
それは紛れもなく、自らと相棒であるグレムリンの力を信じ、望んだ未来に向けて手を伸ばす
挑戦者の姿だった。だが、それ以上に驚かされたのが、その意思の発端が
俺達ヴォイドテイマーの戦いから影響を受けたものだったということだ。
思えば、この戦いはずっとそうだった。俺を含めそれぞれの傭兵達は、直接会話することなど
殆どない。通信はシンボルマークで済ませる者も多く、顔も知らない者も多い。
中には味方と言い切れない相手もいるだろう。だが、グレイヴネットの戦闘ログや
広域出品のパーツを通じて戦術やアセンブルなど、お互い確実に影響し合っている。
同じ目的に向かって時には戦場で共闘し、それぞれが己の理想に向け、共に歩んでいく。
傭兵達だけではない。この戦いに尽力してくれた三大勢力や企業、航空者。
そうした緩やかな繋がりの積み重ねで世界は成り立ち、俺達はこの場所に立っているのだ。
ユーリエ:「ジェトさん、格好いい!」
ゾーオ:『思い描けば、悪鬼は応える……』
ブレイン:
「俺達にとっても、あいつが背中を押してくれたことが、この戦いの始まりだったな。
お互い様だったというわけか。
良い戦士じゃないか。仲間に欲しいくらいだよ」
ジェトの説得に揺れるフヌを見かねたか、ケイジキーパー、リヴが現れ、横槍を入れる。
まるで戯れの様な語りぐさで、マリオネットグレムリンや周囲の残骸を融合し
異質で巨大な存在へと変貌させた。立ちはだかるのは巨大未識別融合体『残骸のベルコ』。
クラウザ:
『マスター、敵巨大兵器の出現を確認した。
まずは奴を倒さねばならないようだ』
ブレイン:
「融合と進化の技術を合わせた機体か!
核になったのはベルコウル将軍のグレムリンか? 悪趣味な奴め!」
ユーリエ:
「再生怪人です! ネタに困った悪役の定番! ですが、ふっふっふ!
強くなったヒーローの前に再生怪人は瞬殺されるのが世の習い!
ブレイン、一気にやってしまいましょう!」
ブレイン:
「無論だ。ベルコウル……哀れな奴だったが、今開放してやる!」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.806%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:《タワー》
座標:X=3,Y=3 FL:*領域覚醒*
戦場:第24ブロック タワー中層区【ヒヨコ立像領域】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■領域情報:《タワー》 現在位置:タワー中層区【ヒヨコ立像領域】
虚空領域中央に位置するタワー内部。太古の昔から存在していた建造物だが
壁面の内装は現在も健在のようだ。下層から中層にかけて、闇に満ちた広間に
朽ちた少女の像が乱立する、ヒヨコ立像領域という空間が広がっている。
少女の巨像に紛れ、建造中と思わしきグレムリンの機体も見受けられる。
フヌが語るに、どうやらここが神秘工廠ゼラであるらしい。
ブレイン:
「先発隊の連中は、もう敵と接触したみたいだな。
早く追いつかなきゃならないところだが……」
ユーリエ:
「そうだね。……どうしたの、ブレイン?
わたし達も急がないと、最後の戦いの一番槍を取られちゃうよ。
それとも、やっぱり内部探索、しちゃう?」
ブレイン:
「まあな。横道があればとりあえず探ってしまうのが
探索者のサガってもんだ。滅多に来れる場所じゃないしな。
それにこの不正規探索装備を試さずに、この場所を去れんだろう」
ユーリエ:「おお、流石ブレイン! そうこなくては!」
クラウザ:
『ふむ、探索了解した。では、グレムリン探索装備一式の
実践データを取らせてもらうとしよう』
ゾーオ:『相変わらず暢気ね。これから決戦だというのに』
シネン:『…………?(画面に映る像を描いている)』
ブレイン:
「うるさいな。スケッチブック持ってるお前に言われたくないぞ。
というか、まだそれやってたのか。
クラウザ、ユーリエ、俺は時間が許す限り周囲を探る。
二人はあいつ等の通信を聞き逃さないように頼む」
ユーリエ:「アイアイサ! 声を潜めて、聞き耳です!」
クラウザ:
『こちらバルク・クォーリー、了解した。
幸い、通信感度は良好だ。盗み聞きには事欠くまい』
ブレイン:
「ヒヨコ立像の破片は、前にレドがサンプルを持ち帰っていたな。
なら、今度は他を調べてみるか」
ブレイン:
「ほう……確かに。このタワーの内装の構造や文様は
他の場所では見られなかったものだな。何というか、異質な感じがする。
俺達と同じく、別の世界から辿り着いたものとでもいうか」
クラウザ:
『通信の傍受を継続。領域殲滅軌道要塞、魔王領域、人造神ドゥルガー。
……ふむ。興味深い話だ』
ユーリエ:「ここにきて、新しい単語が目白押しです!」
ブレイン:
「こっちの調査結果にも符合する名前がある。作り話の類でもなさそうだな。
ウォーロックワリアの初期調査隊のレポートで読んだ知識しかないが
確か、霧の大地の前大戦はMIST OF WARと呼ばれていたな」
クラウザ:
『その筈だ。この零錆戦線以上に大規模な戦争だったようだが
現在の虚空領域には僅かな伝承が残っているに過ぎない。
ヴォイドテイマーの中には当時の記憶を有している者もいるらしいがね』
ブレイン:
「俺達もこっちの時間軸だけで生きてるわけじゃないしな。
異界渡りにはそういう者もいるか。
機会があれば、『あちら』に行くこともあるかもしれないが……。
まあ、ここではない、別の話だ」
ブレイン:「というわけで、探索続けるぞ」
ユーリエ:
「ドリル使いましょう! 俺のドリルは塔を貫くドリルだー!」
――内部探索中、数分後。
ブレイン:
「よし、それなりに調べ終わったな。
試作探索装備を全パージ。これより先発隊に合流する」
ユーリエ:「素晴らしい探索でした。わたしも満足です♪」
グラーベルの思念通信でジェトとフヌの会話を聞きながら、タワー内部を探索しつつ
ヒヨコ立像領域の闇の中を進んでいく。会話の中でフヌはタワーの本質とそれが造られた
遥か昔の出来事を断片的に語った。領域殲滅という不穏な名前から察するに
ここもまた戦争の兵器として建造された場所の様だ。その知識は総合開発高集積AIとして
与えられたものなのか、それとも……。
中層に侵入し、先発隊に追いついた俺が見たものは、ジェトを先頭とする傭兵達の姿と
彼らを取り囲むように展開した、無数の赤いグレムリン。ダスト・グレムリンの随伴機
マリオネット・グレムリンだった。
そして、ジェトはフヌに語る。自らの戦う理由と、それに至る経緯を。
――俺が戦う限り、俺が動ける限り、悪鬼は応える! 俺の思念のままに!
それが俺が戦う理由だ!!
ジェトは叫んだ。無人機の赤い機影に囲まれながらも、物怖じすることなく。
それは紛れもなく、自らと相棒であるグレムリンの力を信じ、望んだ未来に向けて手を伸ばす
挑戦者の姿だった。だが、それ以上に驚かされたのが、その意思の発端が
俺達ヴォイドテイマーの戦いから影響を受けたものだったということだ。
思えば、この戦いはずっとそうだった。俺を含めそれぞれの傭兵達は、直接会話することなど
殆どない。通信はシンボルマークで済ませる者も多く、顔も知らない者も多い。
中には味方と言い切れない相手もいるだろう。だが、グレイヴネットの戦闘ログや
広域出品のパーツを通じて戦術やアセンブルなど、お互い確実に影響し合っている。
同じ目的に向かって時には戦場で共闘し、それぞれが己の理想に向け、共に歩んでいく。
傭兵達だけではない。この戦いに尽力してくれた三大勢力や企業、航空者。
そうした緩やかな繋がりの積み重ねで世界は成り立ち、俺達はこの場所に立っているのだ。
ユーリエ:「ジェトさん、格好いい!」
ゾーオ:『思い描けば、悪鬼は応える……』
ブレイン:
「俺達にとっても、あいつが背中を押してくれたことが、この戦いの始まりだったな。
お互い様だったというわけか。
良い戦士じゃないか。仲間に欲しいくらいだよ」
ジェトの説得に揺れるフヌを見かねたか、ケイジキーパー、リヴが現れ、横槍を入れる。
まるで戯れの様な語りぐさで、マリオネットグレムリンや周囲の残骸を融合し
異質で巨大な存在へと変貌させた。立ちはだかるのは巨大未識別融合体『残骸のベルコ』。
クラウザ:
『マスター、敵巨大兵器の出現を確認した。
まずは奴を倒さねばならないようだ』
ブレイン:
「融合と進化の技術を合わせた機体か!
核になったのはベルコウル将軍のグレムリンか? 悪趣味な奴め!」
ユーリエ:
「再生怪人です! ネタに困った悪役の定番! ですが、ふっふっふ!
強くなったヒーローの前に再生怪人は瞬殺されるのが世の習い!
ブレイン、一気にやってしまいましょう!」
ブレイン:
「無論だ。ベルコウル……哀れな奴だったが、今開放してやる!」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.806%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆21回更新の日記ログ
[MS46] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:東北東海域【静かの海】
座標:X=5,Y=2 FL:*領域覚醒*
戦場:第69ブロック 東北東海域【静かの海】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:キャビン
バルク・クォーリー居住内の乗務員室。ブレインがガレージから戻ると
ユーリエ、ゾーオ、シネンの三人が、スケッチブックを開いて絵描きに興じていた。
中央の丸テーブルには果物やロボの模型、ぬいぐるみ等が所狭しと並べられている。
どうやら被写体の様だ。その中には、埋もれる様に丸まって眠るグレの姿もある。
グレ:『すぴー……(グレは眠っている!)』
シネン:『…………』
(シネンの方を向いて何か図る仕草をしている)
ユーリエ:「じーっ(グレムリンの模型を見つめている)」
ブレイン:「ん? なにをしてるんだ、皆で座り込んで」
ユーリエ:
「あ、ブレイン。シネンちゃんが倉庫から面白い物を見付けてきたのです。
じゃーん、これを見てください」
ブレイン:「色鉛筆とノート?」
ユーリエ:
「スケッチブックです。あとクレヨンとかコピックとか、色々あります。
というわけで、今日はみんなでスケッチ大会です!
ブレインもおひとつ、どうでしょう」
ブレイン:
「あまり絵ってのは描いたこと無いんだが。
まあ、時間はあるし、俺もやってみるか」
ユーリエ:
「では、ブレインにはおもちゃの刹那の実をプレゼントです!
美味しく描いてあげてください」
ブレイン:「これを描き写せばいいんだな。簡単なことだ」
――十数分後。
ブレイン:「……う……む? 意外と難しいな」
ユーリエ:「ブレイン、体が傾いています。姿勢悪です」
ゾーオ:『どれどれ。……なんか、歪んでるわね』
ブレイン:「うるさいな! そういうお前はどうなんだ!?」
ゾーオ:
『私の方は……まあ、こんな感じかしらね。ふふん』
(キャンバスには絵を描くシネンの姿がスケッチされている)
ブレイン:
「ぐうぅっ! う、上手い!?
くっ、ユーリエはともかくお前には負けん! 見てろよ……!」
ブレイン:
「ところで、シネンは随分と集中してるみたいだが、何を描いてるんだ?」
(キャンバスにはグレの姿? がスケッチされている)
ユーリエ:「シネンちゃんもとってもお上手です」
シネン:『…………』
ブレイン:
「グレを描いてるのか。しかし、この翼と尻尾は一体。
これだと猫というより使い魔だな。こういうのもありなのか?」
グレ:『なうー(グレはあくびをしている!)』
ユーリエ:
「お絵描きは自由で、芸術は爆発なのです。
それに、絵でイメージ力を鍛えるのは魔術や創炎の力の鍛錬にも有効です。
グレムリンの操縦にも効果がある……と、思います。たぶん」
ブレイン:「へえ、意外と奥が深いんだな」
ゾーオ:
(なんか、どこか懐かしい……気のせいかしら。
ずっと昔にもこんなことをしていた、ような気がするわね)
ユーリエ:
「もし、この調査がまだ続くのなら、虚空領域の今の姿を
スケッチしておくのも楽しいかもしれません」
ブレイン:
「面白いかもしれないな。まあ、俺の絵力じゃ荷が重そうだが。
ユーリエなら……ん、緊急通信? クラウザからか」
シネン:『…………!』
ゾーオ:
『あなたも気付いたみたいね。領域の零力が高まっている……。
何かが起こっているわね』
クラウザ:
『マスター、こちらガレージルームだ。
どうやら、タワーに先行したジェト達の部隊で大きな動きがあったらしい。
モニターに状況を転送する、確認してくれたまえ』
ブレイン:「分かった。これは……全ての領域が覚醒している!?」
クラウザ:
『対流思念と遺産知識に隠されていた力を解放したようだ。
現在、領域のFLは引き上げられ、世界は零力に満たされた状態にある。
まもなく、タワー内部への扉が開かれるだろう』
ブレイン:
「以前にルキムラ達が言っていた計画か。
あれから音沙汰なかったから忘れていたが、成功したのか。
こうしている場合じゃないな。至急、俺達も中央タワーに向かうぞ。
クラウザ、長距離領域間移動の準備に掛かってくれ」
クラウザ:
『了解した。だが、ヴォイドエレベーターを使うには暫く時間が必要だ』
ブレイン:
「分かっている。今日の作戦で領域の未識別機動体を一掃し
移動の安全を確保するぞ。俺はこれから偵察ミッションに出る。
その後は作戦会議とアセンブルの再調整だ。二人ともサポートを頼む」
クラウザ:「任せてもらおう」
ユーリエ:「アイアイサー!」
ゾーオ:『やれやれ、また騒がしくなりそうね』
ルキムラ達が遺産知識と対流思念を一つにしたことで、全ての領域は覚醒し
遂にタワー内部への道が開かれた。目指すはタワー中層、ヒヨコ立像領域。
そして、神秘工廠ゼラ。そこでフヌは、俺達テイマーに戦う意味を問うと言う。
全ての真実がそこで分かるのだろうか。
お前達はなぜ戦う? その問いは、この零錆戦線の中で様々な者達から
幾度となく投げかけられてきた言葉だ。
かつて、この地を訪れたレドは、世界とそこに活きる人やモノ達が
歪められてしまった正しい姿を取り戻すために、ダストグレムリンと戦った。
俺達は彼の意思と任を継いだ。その目的は少しづつだが、達成されつつある。
世界を滅ぼした力と畏怖されていたグレムリンは、航空者達の登場によって
守護者としての力と認識を取り戻し始めた。壊すものから護るものへ。
グレムリンが本来の姿を取り戻す時も、そう遠くないだろう。
力とは、扱う者によって善にも悪にもなる。元来、そういうものだ。
他にも、機関から与えれた任務、メルカルディアの為。理由は挙げれば幾つもある。
だが、俺自身の答えを敢えて挙げるならば「可能性を守るため」だ。
探究者には、素質ある者を外界に導くもう一つの任がある。これまで、多くの者達の
生き様を見届けてきた。境界を越えた者もいた。生まれの世界に留まる者もいた。
どちらの道を選択しても、様々な思いを抱くことになるだろう。
それでも、まだ見ぬ未来に向けて手を伸ばす。そんな人の姿を見るのが、俺は好きだ。
滅びた故郷の世界を捨て、逃げ延びた俺には得られなかったものだからだ。
この虚空領域で、選定の相手はまだ見つかっていない。
グラーベルの真実にも、未だ迫れていない。だが、確実にその時は来る。確信がある。
世界の『明日』は来させなければならない。その為には、滅びも停滞も輪廻も不要だ。
選択の可能性を、殺させはしない。
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.715%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:東北東海域【静かの海】
座標:X=5,Y=2 FL:*領域覚醒*
戦場:第69ブロック 東北東海域【静かの海】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:キャビン
バルク・クォーリー居住内の乗務員室。ブレインがガレージから戻ると
ユーリエ、ゾーオ、シネンの三人が、スケッチブックを開いて絵描きに興じていた。
中央の丸テーブルには果物やロボの模型、ぬいぐるみ等が所狭しと並べられている。
どうやら被写体の様だ。その中には、埋もれる様に丸まって眠るグレの姿もある。
グレ:『すぴー……(グレは眠っている!)』
シネン:『…………』
(シネンの方を向いて何か図る仕草をしている)
ユーリエ:「じーっ(グレムリンの模型を見つめている)」
ブレイン:「ん? なにをしてるんだ、皆で座り込んで」
ユーリエ:
「あ、ブレイン。シネンちゃんが倉庫から面白い物を見付けてきたのです。
じゃーん、これを見てください」
ブレイン:「色鉛筆とノート?」
ユーリエ:
「スケッチブックです。あとクレヨンとかコピックとか、色々あります。
というわけで、今日はみんなでスケッチ大会です!
ブレインもおひとつ、どうでしょう」
ブレイン:
「あまり絵ってのは描いたこと無いんだが。
まあ、時間はあるし、俺もやってみるか」
ユーリエ:
「では、ブレインにはおもちゃの刹那の実をプレゼントです!
美味しく描いてあげてください」
ブレイン:「これを描き写せばいいんだな。簡単なことだ」
――十数分後。
ブレイン:「……う……む? 意外と難しいな」
ユーリエ:「ブレイン、体が傾いています。姿勢悪です」
ゾーオ:『どれどれ。……なんか、歪んでるわね』
ブレイン:「うるさいな! そういうお前はどうなんだ!?」
ゾーオ:
『私の方は……まあ、こんな感じかしらね。ふふん』
(キャンバスには絵を描くシネンの姿がスケッチされている)
ブレイン:
「ぐうぅっ! う、上手い!?
くっ、ユーリエはともかくお前には負けん! 見てろよ……!」
ブレイン:
「ところで、シネンは随分と集中してるみたいだが、何を描いてるんだ?」
(キャンバスにはグレの姿? がスケッチされている)
ユーリエ:「シネンちゃんもとってもお上手です」
シネン:『…………』
ブレイン:
「グレを描いてるのか。しかし、この翼と尻尾は一体。
これだと猫というより使い魔だな。こういうのもありなのか?」
グレ:『なうー(グレはあくびをしている!)』
ユーリエ:
「お絵描きは自由で、芸術は爆発なのです。
それに、絵でイメージ力を鍛えるのは魔術や創炎の力の鍛錬にも有効です。
グレムリンの操縦にも効果がある……と、思います。たぶん」
ブレイン:「へえ、意外と奥が深いんだな」
ゾーオ:
(なんか、どこか懐かしい……気のせいかしら。
ずっと昔にもこんなことをしていた、ような気がするわね)
ユーリエ:
「もし、この調査がまだ続くのなら、虚空領域の今の姿を
スケッチしておくのも楽しいかもしれません」
ブレイン:
「面白いかもしれないな。まあ、俺の絵力じゃ荷が重そうだが。
ユーリエなら……ん、緊急通信? クラウザからか」
シネン:『…………!』
ゾーオ:
『あなたも気付いたみたいね。領域の零力が高まっている……。
何かが起こっているわね』
クラウザ:
『マスター、こちらガレージルームだ。
どうやら、タワーに先行したジェト達の部隊で大きな動きがあったらしい。
モニターに状況を転送する、確認してくれたまえ』
ブレイン:「分かった。これは……全ての領域が覚醒している!?」
クラウザ:
『対流思念と遺産知識に隠されていた力を解放したようだ。
現在、領域のFLは引き上げられ、世界は零力に満たされた状態にある。
まもなく、タワー内部への扉が開かれるだろう』
ブレイン:
「以前にルキムラ達が言っていた計画か。
あれから音沙汰なかったから忘れていたが、成功したのか。
こうしている場合じゃないな。至急、俺達も中央タワーに向かうぞ。
クラウザ、長距離領域間移動の準備に掛かってくれ」
クラウザ:
『了解した。だが、ヴォイドエレベーターを使うには暫く時間が必要だ』
ブレイン:
「分かっている。今日の作戦で領域の未識別機動体を一掃し
移動の安全を確保するぞ。俺はこれから偵察ミッションに出る。
その後は作戦会議とアセンブルの再調整だ。二人ともサポートを頼む」
クラウザ:「任せてもらおう」
ユーリエ:「アイアイサー!」
ゾーオ:『やれやれ、また騒がしくなりそうね』
ルキムラ達が遺産知識と対流思念を一つにしたことで、全ての領域は覚醒し
遂にタワー内部への道が開かれた。目指すはタワー中層、ヒヨコ立像領域。
そして、神秘工廠ゼラ。そこでフヌは、俺達テイマーに戦う意味を問うと言う。
全ての真実がそこで分かるのだろうか。
お前達はなぜ戦う? その問いは、この零錆戦線の中で様々な者達から
幾度となく投げかけられてきた言葉だ。
かつて、この地を訪れたレドは、世界とそこに活きる人やモノ達が
歪められてしまった正しい姿を取り戻すために、ダストグレムリンと戦った。
俺達は彼の意思と任を継いだ。その目的は少しづつだが、達成されつつある。
世界を滅ぼした力と畏怖されていたグレムリンは、航空者達の登場によって
守護者としての力と認識を取り戻し始めた。壊すものから護るものへ。
グレムリンが本来の姿を取り戻す時も、そう遠くないだろう。
力とは、扱う者によって善にも悪にもなる。元来、そういうものだ。
他にも、機関から与えれた任務、メルカルディアの為。理由は挙げれば幾つもある。
だが、俺自身の答えを敢えて挙げるならば「可能性を守るため」だ。
探究者には、素質ある者を外界に導くもう一つの任がある。これまで、多くの者達の
生き様を見届けてきた。境界を越えた者もいた。生まれの世界に留まる者もいた。
どちらの道を選択しても、様々な思いを抱くことになるだろう。
それでも、まだ見ぬ未来に向けて手を伸ばす。そんな人の姿を見るのが、俺は好きだ。
滅びた故郷の世界を捨て、逃げ延びた俺には得られなかったものだからだ。
この虚空領域で、選定の相手はまだ見つかっていない。
グラーベルの真実にも、未だ迫れていない。だが、確実にその時は来る。確信がある。
世界の『明日』は来させなければならない。その為には、滅びも停滞も輪廻も不要だ。
選択の可能性を、殺させはしない。
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.715%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆20回更新の日記ログ
[MS45] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:東部海域【暁の壁】
座標:X=5,Y=3 FL:17169/22144
戦場:第28ブロック 東部海域【暁の壁】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:メインルーム
バルク・クォーリー・ARのアーカディア側作戦室。黒い正体不明機についての
対策会議とユーリエの帰還から数時間。メインモニター前でコントローラを握りしめ
ゲームに白熱するブレインとユーリエの姿があった。そこに燦然と輝く
白きゲーム機、次世代機『ハイドリームプレイヤーDB』。ユーリエのお土産である。
プレイ中の『ハイパーレースドラグーン』は、ブレインのお気に入りシリーズだ。
◆INFORMATION:アップロード情報。
第16回目・南南東海域【巨人の島】での戦闘記録を送信。
第17回目・南南東海域【巨人の島】での戦闘記録を送信。
第18回目・東南東海域【南の島】での戦闘記録を送信。
第19回目・東部海域【暁の壁】での戦闘記録を送信。
各未識別機動体及び敵対勢力の戦闘記録を送信。
死竜将軍『レックス=ロイヤルファング』、工作ドローン『プラスチック・ドール』
掃海艇『みずすましⅡ型』、矛戟機『ペネトレイター』
かk機めut艦『veu・るージェ』、黒い正体不明機
ブレイン:
「バカな……この俺が、ドラグーンの新作で後れを取っただと!?」
ユーリエ:
「ふっふっふ! わたしは前作でブレインにボコボコにされて以来
クラウザのドラグーンシミュレーターで特訓を重ねていたのです。
もうのろまなユーリエさんではありません」
ブレイン:
「くっ、まさか、俺が任務で気を取られいる間に
密かに実力を磨いていたというのか。
というかクラウザ、お前も何をやってる!?」
クラウザ:
『フ……充実したゲーマー人生を送ってほしいという私からの気遣いだよ。
対等な実力の相手が居なくては、心に風が吹くというものだ。
それに主の趣向に無関心では、使い魔として失格だろう?』
ユーリエ:
「今日こそは初心者いぢめをしてくれたあの日の雪辱を晴らします!
ブレインは今日でチャンピオンベルトを返却です」
ブレイン:
「させるかよーッ! メルカルディアの蒼い稲妻を自称した
この俺の底力を見せてやる!」
そして、更に数時間後――。
ユーリエ:「勝利のポーズはヴィクトリー! です♪」
クラウザ:
『ふむ。10レースでユーリエの6勝4敗か。思ったより接戦だったな。
ユーリエには私の分析した対マスター戦術の全てを教えたつもりだったが。
いやはや、流石は私のマスターだ』
ブレイン:
「燃え尽きた暁の壁に……染みわたる俺のTears……。
夢の終わり……冗談じゃねぇ……」
ブレイン:
「くっ、まさか二人がかりで挑んでくるとはな。
だが、このままでは終わらんぞ。俺は必ずI'll Be Backしてやる。
立ち止まらねぇ限り……Legendは続いていくのさ……」
ユーリエ:「良いでしょう。その挑戦、いつでも受けて立ちます」
クラウザ:
『さて、息抜きはこれくらいでいいだろう。
メンバーが再び揃ったところで、現状確認と任務の
今後の展開方針についてミーティングを行っておくべきだ』
ブレイン:
「そうだな。丁度、思念体の二人もいないみたいだしな。
久し振りに部外者抜きで腰を据えて話せる。
というか、あいつらをこのままアーカディア側に出入りできる
ようにしておいていいのか?」
クラウザ:
『中央の規定では外界先に混乱を起こすような事態でなければ
問題は無いと、マスターも分かっているはずだが。
確かに彼女達は元は虚空領域の人間だが、現在は世界から
隔離された状態にある。どちらかといえば状況は我々に近い』
ブレイン:
「だが、あの黒いグレムリンがな……お前も言ったが、あの正体不明機の
テイマーが俺達の詳細なデータを持っているなら
どこかから情報が漏洩してる可能性を考えなきゃならんだろう。
まあ、ずっと俺達の後を追って分析してたのかもしれんが」
クラウザ:
『ふむ、そういうことか。確かに、それは対策を考えねばならんな。
しかし、不思議なことだなユーリエよ』
ユーリエ:
「はいぃ!?
そ、そうですね。どこから情報が漏れてしまったんでしょう?
わたしもとても不思議です」
ユーリエ:
(むむむ、やっぱりクラウザにはばれてしまっています。流石です)
クラウザ:
『では、まずはシステムアーカディアのセキュリティ強化を行い
ゾーオの思念体に対しては監視の目を付ける。
それで暫くは様子を見るとしよう。
外界の存在と通じているのならば、その証拠を掴めねばならんからな』
ブレイン:
「わかった。とりあえずはそれでいい。頼んだぜ、クラウザ」
クラウザ:『了解した』
ユーリエ:
「そ、それで、こっちの進捗状況はどうでしょう?
お二人とも引継ぎをお願いします」
クラウザ:
『うむ。だが、ユーリエが空けたこの二日で大きく状況が
変わったわけではない。現在も暁の壁の領域解放に向けて
作戦を継続中だ。現在の領域FLは17169/22144だな』
ブレイン:
「前回の上昇分を考えると、今日の戦闘でぎりぎり解放に
持ち越せるかって所だな。ま、多分大丈夫だろう。
戦域に到達したテイマーの数も昨日より増えているしな」
ブレイン:
「しかし、風の門辺りはまだまだFLが足りていないらしい。
全領域覚醒までは、今しばらく時間が掛かりそうだ。
こっちが終わったら、応援に行く必要があるかもな」
ユーリエ:
「では、その間に素材集めとパーツ作製を頑張って
ダスト・グレムリンに負けないくらいに
グラーベルちゃんを強くするのですね!」
ブレイン:
「そうなるな。
次回から色々と滞ってたものも再開していく予定だ。
またサポートよろしく頼む、ユーリエ」
ユーリエ:「アイアイサーです!」
ユーリエの手土産でしばしの息抜きの後、俺は日課となった傭兵活動継続のため
グラーベルの待つガレージへ赴く。ジャンク財団崩壊から早三日。
領域解放の戦いは続いていた。各地で略奪を行っていたジャンクテイマーは
元締めの壊滅と共に姿を消し、俺達は未識別機動体との戦いに専念できる様になった。
襲撃を受ける心配なく移動できるというのはいいものだ。
初期に計画した分の配送は終えているが、航空者のコンテナ投下は続いている。
また拾う事もあるかもしれない。もっとも、ライフスチールはもう必要ないが。
解放戦の経過は順調だが、全領域覚醒までの道のりはまだ遠い。
俺達が戦場にしている東部海域、暁の壁を含め、残りの未解放領域は9箇所。
タワーに隣接する周辺の4海域とその先に続く四方の壁が手薄だ。
世界の中央にそびえるタワー、そこに近づくにつれ未識別機動体は数を増し
必要なFLも多くなる。世界の歪みはタワーを中心に発生しているという事だろうか。
ジェトやルキムラは俺達に先んじてタワーへと向かったらしい。
総合開発高集積AIと二人の会話を、グレムリンの見せるヴィジョンの中で俺は聞いた。
正直な所、あのフヌというAIのことを俺はジェトほど信用はできない。
元々、胡散臭いと疑っていたのだから当然だ。信用に足る理由もない。
しかし、彼等とフノの会話をグレムリンがわざわざ見せたという事は
その内容は、世界にとっても俺達にとっても何らかの意味があるはずだ。
AIは信用できないが、これまでの会話の内容を聞く限り、ジェトの考えは
テイマーとして共感できる部分がある。奴に力を貸すのは吝かでもないと考えている。
どのみち、ダストグレムリンとケイジキーパーは相対しなければならない敵だ。
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.60%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:東部海域【暁の壁】
座標:X=5,Y=3 FL:17169/22144
戦場:第28ブロック 東部海域【暁の壁】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:メインルーム
バルク・クォーリー・ARのアーカディア側作戦室。黒い正体不明機についての
対策会議とユーリエの帰還から数時間。メインモニター前でコントローラを握りしめ
ゲームに白熱するブレインとユーリエの姿があった。そこに燦然と輝く
白きゲーム機、次世代機『ハイドリームプレイヤーDB』。ユーリエのお土産である。
プレイ中の『ハイパーレースドラグーン』は、ブレインのお気に入りシリーズだ。
◆INFORMATION:アップロード情報。
第16回目・南南東海域【巨人の島】での戦闘記録を送信。
第17回目・南南東海域【巨人の島】での戦闘記録を送信。
第18回目・東南東海域【南の島】での戦闘記録を送信。
第19回目・東部海域【暁の壁】での戦闘記録を送信。
各未識別機動体及び敵対勢力の戦闘記録を送信。
死竜将軍『レックス=ロイヤルファング』、工作ドローン『プラスチック・ドール』
掃海艇『みずすましⅡ型』、矛戟機『ペネトレイター』
かk機めut艦『veu・るージェ』、黒い正体不明機
ブレイン:
「バカな……この俺が、ドラグーンの新作で後れを取っただと!?」
ユーリエ:
「ふっふっふ! わたしは前作でブレインにボコボコにされて以来
クラウザのドラグーンシミュレーターで特訓を重ねていたのです。
もうのろまなユーリエさんではありません」
ブレイン:
「くっ、まさか、俺が任務で気を取られいる間に
密かに実力を磨いていたというのか。
というかクラウザ、お前も何をやってる!?」
クラウザ:
『フ……充実したゲーマー人生を送ってほしいという私からの気遣いだよ。
対等な実力の相手が居なくては、心に風が吹くというものだ。
それに主の趣向に無関心では、使い魔として失格だろう?』
ユーリエ:
「今日こそは初心者いぢめをしてくれたあの日の雪辱を晴らします!
ブレインは今日でチャンピオンベルトを返却です」
ブレイン:
「させるかよーッ! メルカルディアの蒼い稲妻を自称した
この俺の底力を見せてやる!」
そして、更に数時間後――。
ユーリエ:「勝利のポーズはヴィクトリー! です♪」
クラウザ:
『ふむ。10レースでユーリエの6勝4敗か。思ったより接戦だったな。
ユーリエには私の分析した対マスター戦術の全てを教えたつもりだったが。
いやはや、流石は私のマスターだ』
ブレイン:
「燃え尽きた暁の壁に……染みわたる俺のTears……。
夢の終わり……冗談じゃねぇ……」
ブレイン:
「くっ、まさか二人がかりで挑んでくるとはな。
だが、このままでは終わらんぞ。俺は必ずI'll Be Backしてやる。
立ち止まらねぇ限り……Legendは続いていくのさ……」
ユーリエ:「良いでしょう。その挑戦、いつでも受けて立ちます」
クラウザ:
『さて、息抜きはこれくらいでいいだろう。
メンバーが再び揃ったところで、現状確認と任務の
今後の展開方針についてミーティングを行っておくべきだ』
ブレイン:
「そうだな。丁度、思念体の二人もいないみたいだしな。
久し振りに部外者抜きで腰を据えて話せる。
というか、あいつらをこのままアーカディア側に出入りできる
ようにしておいていいのか?」
クラウザ:
『中央の規定では外界先に混乱を起こすような事態でなければ
問題は無いと、マスターも分かっているはずだが。
確かに彼女達は元は虚空領域の人間だが、現在は世界から
隔離された状態にある。どちらかといえば状況は我々に近い』
ブレイン:
「だが、あの黒いグレムリンがな……お前も言ったが、あの正体不明機の
テイマーが俺達の詳細なデータを持っているなら
どこかから情報が漏洩してる可能性を考えなきゃならんだろう。
まあ、ずっと俺達の後を追って分析してたのかもしれんが」
クラウザ:
『ふむ、そういうことか。確かに、それは対策を考えねばならんな。
しかし、不思議なことだなユーリエよ』
ユーリエ:
「はいぃ!?
そ、そうですね。どこから情報が漏れてしまったんでしょう?
わたしもとても不思議です」
ユーリエ:
(むむむ、やっぱりクラウザにはばれてしまっています。流石です)
クラウザ:
『では、まずはシステムアーカディアのセキュリティ強化を行い
ゾーオの思念体に対しては監視の目を付ける。
それで暫くは様子を見るとしよう。
外界の存在と通じているのならば、その証拠を掴めねばならんからな』
ブレイン:
「わかった。とりあえずはそれでいい。頼んだぜ、クラウザ」
クラウザ:『了解した』
ユーリエ:
「そ、それで、こっちの進捗状況はどうでしょう?
お二人とも引継ぎをお願いします」
クラウザ:
『うむ。だが、ユーリエが空けたこの二日で大きく状況が
変わったわけではない。現在も暁の壁の領域解放に向けて
作戦を継続中だ。現在の領域FLは17169/22144だな』
ブレイン:
「前回の上昇分を考えると、今日の戦闘でぎりぎり解放に
持ち越せるかって所だな。ま、多分大丈夫だろう。
戦域に到達したテイマーの数も昨日より増えているしな」
ブレイン:
「しかし、風の門辺りはまだまだFLが足りていないらしい。
全領域覚醒までは、今しばらく時間が掛かりそうだ。
こっちが終わったら、応援に行く必要があるかもな」
ユーリエ:
「では、その間に素材集めとパーツ作製を頑張って
ダスト・グレムリンに負けないくらいに
グラーベルちゃんを強くするのですね!」
ブレイン:
「そうなるな。
次回から色々と滞ってたものも再開していく予定だ。
またサポートよろしく頼む、ユーリエ」
ユーリエ:「アイアイサーです!」
ユーリエの手土産でしばしの息抜きの後、俺は日課となった傭兵活動継続のため
グラーベルの待つガレージへ赴く。ジャンク財団崩壊から早三日。
領域解放の戦いは続いていた。各地で略奪を行っていたジャンクテイマーは
元締めの壊滅と共に姿を消し、俺達は未識別機動体との戦いに専念できる様になった。
襲撃を受ける心配なく移動できるというのはいいものだ。
初期に計画した分の配送は終えているが、航空者のコンテナ投下は続いている。
また拾う事もあるかもしれない。もっとも、ライフスチールはもう必要ないが。
解放戦の経過は順調だが、全領域覚醒までの道のりはまだ遠い。
俺達が戦場にしている東部海域、暁の壁を含め、残りの未解放領域は9箇所。
タワーに隣接する周辺の4海域とその先に続く四方の壁が手薄だ。
世界の中央にそびえるタワー、そこに近づくにつれ未識別機動体は数を増し
必要なFLも多くなる。世界の歪みはタワーを中心に発生しているという事だろうか。
ジェトやルキムラは俺達に先んじてタワーへと向かったらしい。
総合開発高集積AIと二人の会話を、グレムリンの見せるヴィジョンの中で俺は聞いた。
正直な所、あのフヌというAIのことを俺はジェトほど信用はできない。
元々、胡散臭いと疑っていたのだから当然だ。信用に足る理由もない。
しかし、彼等とフノの会話をグレムリンがわざわざ見せたという事は
その内容は、世界にとっても俺達にとっても何らかの意味があるはずだ。
AIは信用できないが、これまでの会話の内容を聞く限り、ジェトの考えは
テイマーとして共感できる部分がある。奴に力を貸すのは吝かでもないと考えている。
どのみち、ダストグレムリンとケイジキーパーは相対しなければならない敵だ。
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.60%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆19回更新の日記ログ
[MS44] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:東部海域【暁の壁】
座標:X=5,Y=3 FL:12111/21760
戦場:第25ブロック 東部海域【暁の壁】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■エリア情報:東南東海域【南の島】座標:X=5,Y=4 現在位置:海上
虚空領域、東南東海に位置する温暖な海域。粉塵に適応したヤシの様な植物が並び
東の果てから湧き出す星の河が、煌めく光の炎として来訪者に語り掛ける。
星天の元、今日も未識別機動体と傭兵達の戦いは続いていたが、戦況は終結を
迎えつつある様だ。光の炎は途切れる事無くその様子を見守り続けている。
ブレイン:「もう周囲に敵影は無いか……?」
クラウザ:
『零力照射気嚢を含む全敵機の撃墜を確認。
作戦は終了だ。グラーベルはその場で待機を。
これより回収に向かう』
ゾーオ:
『ふぅん……危なげなく勝ったじゃない。
未識別機動体も進化しているみたいだけど
激戦を潜り抜けてきたヴォイドテイマー達の成長には
付いていけないみたいね』
クラウザ:
『先のジャンク財団との戦いは傭兵達にとって
良い成長の糧となったようだ。このままタワーの開放まで
快進撃は止まらないだろう』
ゾーオ:
『あまり順調に事が進んでも、正直、見ていて退屈なのだけど。
既にカラクリの明かされてしまった未識別機動体じゃ
こんなものかしらね』
シネン:『…………?(不思議そうに空を見ている)』
ゾーオ:
『どうしたのよ、いつにも増してボーっとして。上に何かあるの?』
???:「…………」
ブレイン:
「まただ、違和感が強くなっている。
どこから見られているような、この感覚。
戦いはまだ、終わっていない?」
???:「さあ……ここからが、貴方の役割」
ブレイン:
「待て、クラウザ! こっちには来るな!
空が……! 何かが、来る!」
クラウザ:
『むっ!? これは、界域異常だと?
システム・アーカディアのレーダーに時空振反応を検知。
マスター……!』
???:「あなたは――」
貴方は、護るために生み出された。
その体は彼の者の写し身。虚空の大地に刻まれた、束の間の幻影。
されど、秘めし思いは揺ぎ無く。その意思は、定められし運命に抗うために。
砂塵の縛鎖を司るものに、夢見る炎よりひと時の悪夢を。
――其を映し照らすは凶星の輝き。夜の帳を降ろしましょう。
さあ、貴方の姿と力、見せてあげて……グレムリンメア。
グレムリンメア『…………』
シネン:『…………!?』
ゾーオ:『な、なによ、あれ……空が……』
ブレイン:
「なんだ、あの機体は。黒い……グレムリン?
しかし今の機動、確かに『外』から……」
クラウザ:『あれは、まさか……』
???:
「ターゲット確認。
ラスト・グレムリン、個体識別コードナンバー、111。
これより攻撃を開始します」
黒いグレムリンの両腕の銃が火線を放つ!
ブレイン:
「撃ってきた!? やはり敵か!
噂に聞いた未識別悪鬼とかいうやつなのか!?
応戦するぞ、グラーベル!」
グラーベル:『――――!』
グレムリンメア『――!!』
ブレイン:「躱した!? ちぃっ、速い!」
南の島の上空で、碧の紫の軌跡が激突し、交錯する!
???:「…………」
ブレイン:
「やるな……! あの黒いグレムリン、性能はこっちと同等か。
だが、この引き込まれるような感覚はなんだ。
グラーベルが、戸惑っている……?」
クラウザ:
『こちら、バルク・クォーリー・AR。
マスター、そのまま聞いてくれ。現時点での敵機体の解析結果を伝える。
どうやら、敵の戦術はこちらのものに類似しているようだ。
恐らくグラーベルと同様の機体構成を組んでいるのだろう』
ブレイン:
「そういう事か。くそっ、舐めた真似を……。
お互いに超音速機体ってわけだな。
主武装に弾切れの心配はないが、このままじゃ埒が明かないな」
???:
(読まれてきている。流石だね、ブレイン。
……っ、少し思念負荷がキツいかな)
???:
(グレムリンメアは……『これ以上は嫌』か。
もう少しデータを取りたかったけど。時間切れだね、仕方ないなぁ)
ブレイン:「後退する……!? だが、その隙を突けば!」
???:
『……こ縺ョ蝣エハ鬆舌¢繧ウ。
だガ、次二縺ォ莨壹▲縺は借リオ霑斐・縺、蟆僧』
ブレイン:「ぐぁっ!? この歪な思念は、あの時と同じ……!」
ゾーオ:『この声って……でも、あいつらはそこに……!?』
ブレイン:「くっ、逃がしたか……」
クラウザ:
『敵グレムリンの戦域離脱を確認した。深追いは禁物だ、マスター』
ブレイン:「分かっている。なんだったんだ、あれは」
領域解放のために暁の壁へ向かう途中、南の島のミッションで奇妙な敵と遭遇した。
悪魔の姿をした黒いグレムリン。未識別機動体との戦闘後に突如、空から現れ
攻撃を仕掛けてきたのだ。おかげで戦域の離脱ができず、迎撃を余儀なくされた。
敵機は高い火力と機動性を持ち、戦闘力はあらゆる面でこちらと拮抗していた。
戦いは接戦となって膠着。暫くの交戦後、奴は機体を翻し去っていった。
財団残党のジャンクグレムリンではない。以前にグレイヴネットで話題となった
幽霊悪鬼かとも考えたが、それも調査したデータとは一致しない。
ならばどこが? この期に及んで新たな敵勢力の出現とは考えたくないが……。
俺はバルク・クォーリーに帰還後、先の戦闘についてグレイヴネットで調べてみた。
しかし三勢力が公開しているミッションの記録に、交戦ログは残されていなかった。
振り返ってみれば、あのグレムリンは防衛設備を連れていなかったように思える。
となると、依頼者側の管轄や敵対関係には無い、非公式の機体ということになる。
クラウザの解析結果では、敵はこちらの機体構成、戦術を模していたという。
過去にレドの調査レポートを読んで、未識別機動体が相手の戦力を参照している
時期があったことは知っている。だが、あれ程の再現度は無かったはずだ。
こちらの構成をある程度なぞっていたとはいえ、あの敵を倒す事に特化した
機体構成と戦術を繰り出せるのは、やはりヴォイドテイマーだけだろう。
しかしながら、三勢力の管理するテイマーのリストにあの様な機体は存在しない。
そして、奴が出現した時の、空を裂く亀裂と観測された時空振反応。
これらの事実が、俺の中で不穏な想像を掻き立てる。
それは、あの正体不明機が虚空領域の外からやってきたのではないかという事だ。
もし、俺の懸念が正しく、あれがグレムリンイミテーションを用いた外世界からの
干渉ならば、俺達にとっては任務上、深刻な問題となりえる。
外界がらみの事態に発展することだけは避けねばならない。
とはいえ通常、異なる根源に属する世界間同士の摩擦は、容易に起きることが
無いように、上位世界の防衛機構で保護されているはずだ。
こうした根源世界の法則は、中央の研究で少しづつではあるが解明が進んでいる。
俺達、探究者が異世界の不文律に対し、これを乱すことを禁忌としているのは
こうした大いなる理を刺激することで自分達の世界に災害が降りかかるのを
避けるためでもあるのだ。実際、世界間の境界を越えてメルカルディアに
敵対した存在というのは例がなく、俺自身も思い当たる節はない。
願わくば、あのグレムリンとの邂逅がただの突発的な偶然、ランダムエンカウントで
あった事を切に願う。正直、これ以上調査の障害を抱えるのは御免だ。
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.44%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:東部海域【暁の壁】
座標:X=5,Y=3 FL:12111/21760
戦場:第25ブロック 東部海域【暁の壁】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■エリア情報:東南東海域【南の島】座標:X=5,Y=4 現在位置:海上
虚空領域、東南東海に位置する温暖な海域。粉塵に適応したヤシの様な植物が並び
東の果てから湧き出す星の河が、煌めく光の炎として来訪者に語り掛ける。
星天の元、今日も未識別機動体と傭兵達の戦いは続いていたが、戦況は終結を
迎えつつある様だ。光の炎は途切れる事無くその様子を見守り続けている。
ブレイン:「もう周囲に敵影は無いか……?」
クラウザ:
『零力照射気嚢を含む全敵機の撃墜を確認。
作戦は終了だ。グラーベルはその場で待機を。
これより回収に向かう』
ゾーオ:
『ふぅん……危なげなく勝ったじゃない。
未識別機動体も進化しているみたいだけど
激戦を潜り抜けてきたヴォイドテイマー達の成長には
付いていけないみたいね』
クラウザ:
『先のジャンク財団との戦いは傭兵達にとって
良い成長の糧となったようだ。このままタワーの開放まで
快進撃は止まらないだろう』
ゾーオ:
『あまり順調に事が進んでも、正直、見ていて退屈なのだけど。
既にカラクリの明かされてしまった未識別機動体じゃ
こんなものかしらね』
シネン:『…………?(不思議そうに空を見ている)』
ゾーオ:
『どうしたのよ、いつにも増してボーっとして。上に何かあるの?』
???:「…………」
ブレイン:
「まただ、違和感が強くなっている。
どこから見られているような、この感覚。
戦いはまだ、終わっていない?」
???:「さあ……ここからが、貴方の役割」
ブレイン:
「待て、クラウザ! こっちには来るな!
空が……! 何かが、来る!」
クラウザ:
『むっ!? これは、界域異常だと?
システム・アーカディアのレーダーに時空振反応を検知。
マスター……!』
???:「あなたは――」
貴方は、護るために生み出された。
その体は彼の者の写し身。虚空の大地に刻まれた、束の間の幻影。
されど、秘めし思いは揺ぎ無く。その意思は、定められし運命に抗うために。
砂塵の縛鎖を司るものに、夢見る炎よりひと時の悪夢を。
――其を映し照らすは凶星の輝き。夜の帳を降ろしましょう。
さあ、貴方の姿と力、見せてあげて……グレムリンメア。
グレムリンメア『…………』
シネン:『…………!?』
ゾーオ:『な、なによ、あれ……空が……』
ブレイン:
「なんだ、あの機体は。黒い……グレムリン?
しかし今の機動、確かに『外』から……」
クラウザ:『あれは、まさか……』
???:
「ターゲット確認。
ラスト・グレムリン、個体識別コードナンバー、111。
これより攻撃を開始します」
黒いグレムリンの両腕の銃が火線を放つ!
ブレイン:
「撃ってきた!? やはり敵か!
噂に聞いた未識別悪鬼とかいうやつなのか!?
応戦するぞ、グラーベル!」
グラーベル:『――――!』
グレムリンメア『――!!』
ブレイン:「躱した!? ちぃっ、速い!」
南の島の上空で、碧の紫の軌跡が激突し、交錯する!
???:「…………」
ブレイン:
「やるな……! あの黒いグレムリン、性能はこっちと同等か。
だが、この引き込まれるような感覚はなんだ。
グラーベルが、戸惑っている……?」
クラウザ:
『こちら、バルク・クォーリー・AR。
マスター、そのまま聞いてくれ。現時点での敵機体の解析結果を伝える。
どうやら、敵の戦術はこちらのものに類似しているようだ。
恐らくグラーベルと同様の機体構成を組んでいるのだろう』
ブレイン:
「そういう事か。くそっ、舐めた真似を……。
お互いに超音速機体ってわけだな。
主武装に弾切れの心配はないが、このままじゃ埒が明かないな」
???:
(読まれてきている。流石だね、ブレイン。
……っ、少し思念負荷がキツいかな)
???:
(グレムリンメアは……『これ以上は嫌』か。
もう少しデータを取りたかったけど。時間切れだね、仕方ないなぁ)
ブレイン:「後退する……!? だが、その隙を突けば!」
???:
『……こ縺ョ蝣エハ鬆舌¢繧ウ。
だガ、次二縺ォ莨壹▲縺は借リオ霑斐・縺、蟆僧』
ブレイン:「ぐぁっ!? この歪な思念は、あの時と同じ……!」
ゾーオ:『この声って……でも、あいつらはそこに……!?』
ブレイン:「くっ、逃がしたか……」
クラウザ:
『敵グレムリンの戦域離脱を確認した。深追いは禁物だ、マスター』
ブレイン:「分かっている。なんだったんだ、あれは」
領域解放のために暁の壁へ向かう途中、南の島のミッションで奇妙な敵と遭遇した。
悪魔の姿をした黒いグレムリン。未識別機動体との戦闘後に突如、空から現れ
攻撃を仕掛けてきたのだ。おかげで戦域の離脱ができず、迎撃を余儀なくされた。
敵機は高い火力と機動性を持ち、戦闘力はあらゆる面でこちらと拮抗していた。
戦いは接戦となって膠着。暫くの交戦後、奴は機体を翻し去っていった。
財団残党のジャンクグレムリンではない。以前にグレイヴネットで話題となった
幽霊悪鬼かとも考えたが、それも調査したデータとは一致しない。
ならばどこが? この期に及んで新たな敵勢力の出現とは考えたくないが……。
俺はバルク・クォーリーに帰還後、先の戦闘についてグレイヴネットで調べてみた。
しかし三勢力が公開しているミッションの記録に、交戦ログは残されていなかった。
振り返ってみれば、あのグレムリンは防衛設備を連れていなかったように思える。
となると、依頼者側の管轄や敵対関係には無い、非公式の機体ということになる。
クラウザの解析結果では、敵はこちらの機体構成、戦術を模していたという。
過去にレドの調査レポートを読んで、未識別機動体が相手の戦力を参照している
時期があったことは知っている。だが、あれ程の再現度は無かったはずだ。
こちらの構成をある程度なぞっていたとはいえ、あの敵を倒す事に特化した
機体構成と戦術を繰り出せるのは、やはりヴォイドテイマーだけだろう。
しかしながら、三勢力の管理するテイマーのリストにあの様な機体は存在しない。
そして、奴が出現した時の、空を裂く亀裂と観測された時空振反応。
これらの事実が、俺の中で不穏な想像を掻き立てる。
それは、あの正体不明機が虚空領域の外からやってきたのではないかという事だ。
もし、俺の懸念が正しく、あれがグレムリンイミテーションを用いた外世界からの
干渉ならば、俺達にとっては任務上、深刻な問題となりえる。
外界がらみの事態に発展することだけは避けねばならない。
とはいえ通常、異なる根源に属する世界間同士の摩擦は、容易に起きることが
無いように、上位世界の防衛機構で保護されているはずだ。
こうした根源世界の法則は、中央の研究で少しづつではあるが解明が進んでいる。
俺達、探究者が異世界の不文律に対し、これを乱すことを禁忌としているのは
こうした大いなる理を刺激することで自分達の世界に災害が降りかかるのを
避けるためでもあるのだ。実際、世界間の境界を越えてメルカルディアに
敵対した存在というのは例がなく、俺自身も思い当たる節はない。
願わくば、あのグレムリンとの邂逅がただの突発的な偶然、ランダムエンカウントで
あった事を切に願う。正直、これ以上調査の障害を抱えるのは御免だ。
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.44%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆18回更新の日記ログ
[MS43] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:東南東海域【南の島】
座標:X=5,Y=4 FL:*領域覚醒*
戦場:第72ブロック 東南東海域【南の島】
また、グレムリンとの思念接続が遠く離れた場所のイメージを伝えてくる。
ジャンク財団代表はテイマーズケイジの幹部だったケイジキーパーと
裏で繋りを持っていた。これまで財団の戦力やグレムリン開発技術の
出所は謎に包まれていたが、TsCの関係者が一枚嚙んでいたようだ。
ヴィジョンの向こうで姿を現したケイジキーパーNo.2《リヴ》。
その愛機、ダスト・グレムリン《ヴォイドステイシス》。
灰塵戦争での最終決戦後、ダストグレムリンを破壊されたケイジキーパー達は
何処へともなく姿を眩まし、行き先は不明なままだった。
どうやら、ヴォイドステイシスの停滞能力を使う事で、難を逃れていたらしい。
財団を組織し、物資を略奪を行っていたリヴ。これは世界への復讐だと、彼は語る。
奴らの目的はダスト・グレムリンの輪廻で世界の滅びを避けることだったはずだ。
仲違いがあったのか、別の思惑があるのか、それは定かではない。だが、どちらにしろ
ケイジキーパー達は自分達の目的のためなら、あらゆる犠牲は問わないと考えている。
航空者のコンテナは、世界が未識別機動体の脅威と戦い続けるために必要な物資だ。
やはりその思想は、今を生きる俺達と相容れるものではない。
進化の力がグレムリンの究極の力だと信じ込まされていた財団代表は
騙されていたことに激昂し、ヴォイドステイシスに挑む。
しかし、完成されたヴォイドステイシスの前に敗れてしまう。
残されたベルコ=ウル将軍は、最後の思念をもってリヴの居場所を暴き出した。
タワーの中層区。過去の戦いでも不可侵だった領域に、奴らは潜んでいる。
ついに、灰塵戦争以来の決着をつける時が来たのだ。このまま世界を奴らの好きに
させるわけにはいかない。残された領域を覚醒させ、タワーへと急がねば。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:メインルーム
南の島でのコンテナ引き渡しとライフスチールの受領後、ユーリエは中央に帰還し
ブレインとクラウザは普段より忙しい日常を送っていた。現在は、先の思念情報から
ヴォイドステイシスの解析と対策案を練っているようだ。その背後で興味深そうに
覗いているゾーオ。近くには仲良く居眠りするシネンとグレの姿もある。
ゾーオ:
『ふぅん。こうして実際見るのは初めてだけど
あれがダスト・グレムリンなのね。中々、大した化け物じゃない。
戦うと言っても、勝算はあるのかしら』
ブレイン:
「ダスト・グレムリンは世界そのものといっても過言じゃない存在だ。
今の状態じゃ勝ち目はない。が、これから先も全く勝算がないわけじゃない。
グレイヴネットにはその方法が、以前から示されていたからな」
ゾーオ:
『へえ、貴方も色々と考えてはいるのね。
……で、それは一体どんな妙案なのかしら』
クラウザ:『GSG-YX9999、最終到達試験機だな』
ブレイン:
「そうだ。グレムリンフレームの進化の極北であるあの機体なら
ダスト・グレムリンと互角に戦うことができるだろう」
ゾーオ:
『「ラスト」フレームね。それなら私も聞いたことがあるけど、正直眉唾よ。
誰も到達したことのないフレーム、本当にあるのかしら』
ブレイン:
「まだはっきりとした確証があるわけじゃない。
だが、以前フヌの言っていた神秘工廠ゼラがどこかに存在するなら
そこに最終到達試験機についての情報も隠されているはずだ」
ゾーオ:
『成程ね。どちらにしろ、残された領域を覚醒させて
タワーを解放しないと始まらないわね。
超技術を扱える秘密の工廠なんて、あそこしか造れないでしょうし』
ブレイン:
「そうだな。それにしても……
お前ら、もう当たり前のようにここにいるよな。
なんか馴染んできてるような気がするし」
ゾーオ:
『悪いけど、私は自由にやらせてもらうわ。
あいつの中に閉じ込められてた頃と比べたら、色々と退屈しないしね。
それとも、何か見られたらまずい物でもあるのかしら?』
ブレイン:
「いや、そういうわけじゃないぞ。うん。
見られてまずい物なんて断じて無い。
そういえばシネンは……」
シネン:『……(ソファーに寄りかかり眠っている)』
グレ:『すぴー(グレはシネンの隣で眠っている!)』
ブレイン:
「グレと昼寝中だったか。また落ち着いたら
グラーベルとのアクセスを手伝ってもらおうと思ったんだが」
ゾーオ:
『何を焦っているんだか。
それにしても貴方、ちょっとあの子に頼り過ぎじゃない?
巨大未識別との戦いの時、俺の力を見せてやるとか息巻いてなかったっけ』
ブレイン:
「ぐっ……俺は使えるものは使うポリシーなんだ。
ええい、解析の邪魔だ! いつまでも覗き見してないでキャビンに戻れ!
今日はこっちも忙しいんだ!」
ゾーオ:
『ああ、そういえば今日はサポート役の娘がいないんだったわね。
どうりでいつもより覇気が無いと思ったわ。
それじゃあ、私達は失礼するとしましょうか。
ほら、いつまでもそんなところで寝てないで、キャビンに戻るわよ』
シネン:『……(おぼつかない足取りで続いていく)』
グレ:『ふにゃーん(欠伸をしてその後に続く)』
ブレイン:「やれやれ。やっと静かになった」
クラウザ:
『フッ、マスターも素直ではないな。
だが、あの思念体が予想に反して話の通じる者であったことは
この任務において思わぬ収穫だった。まさに行幸と言った所だろう』
ブレイン:
「まあ、確かにな。あいつが居なければ得られなかった情報も多い。
その点においては感謝している。まだ、完全に信用はできないがな」
クラウザ:『うむ。では、私は作業に戻るとしよう』
ブレイン:
「俺も集中するか。
…………。
……ユーリエのやつ、どうしてるかな」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.21%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
[SC01] 幻想機関メルカルディア -MLc99E01Wl- シークレットファイル
◆CAUTION:
情報規制Lv∞。本ミッションファイルは最高機密データです。
解凍にはエルダーグロウ以上の権限が必要になります。
キョーキ:『……ギョ?』
ユーリエ:「遥かな昔……」
モーシン:『……グゲー?』
ユーリエ:
「空域の根源、夢見る者達。彼らの理想を体現するために、わたし達は創られた」
ユーリエ:
「やがて空より海は隔たれ、定めに従い、人は大地を往き歩く。
人の意思は物語を紡ぎ、物語は世界を動かす」
ユーリエ:
「その理の前に……喜劇も悲劇も価値は等しく。
世界は夢を見続ける。この精神と情報に満たされた、揺り籠の中で。
――永久に、永久に」
ユーリエ:
「貴方達の心の色、暗い暗い思念の淵。されど……それは、とても強い意志の力」
――差し出された手に光が集う。星の光を湛えた光刃は闇を纏い、力を変質させていく。
キョーキ:『!?!?』
モーシン:『!!??』
ユーリエ:「ふふふ……『ここ』から、出たい?」
■領域情報:東南東海域【南の島】
座標:X=5,Y=4 FL:*領域覚醒*
戦場:第72ブロック 東南東海域【南の島】
また、グレムリンとの思念接続が遠く離れた場所のイメージを伝えてくる。
ジャンク財団代表はテイマーズケイジの幹部だったケイジキーパーと
裏で繋りを持っていた。これまで財団の戦力やグレムリン開発技術の
出所は謎に包まれていたが、TsCの関係者が一枚嚙んでいたようだ。
ヴィジョンの向こうで姿を現したケイジキーパーNo.2《リヴ》。
その愛機、ダスト・グレムリン《ヴォイドステイシス》。
灰塵戦争での最終決戦後、ダストグレムリンを破壊されたケイジキーパー達は
何処へともなく姿を眩まし、行き先は不明なままだった。
どうやら、ヴォイドステイシスの停滞能力を使う事で、難を逃れていたらしい。
財団を組織し、物資を略奪を行っていたリヴ。これは世界への復讐だと、彼は語る。
奴らの目的はダスト・グレムリンの輪廻で世界の滅びを避けることだったはずだ。
仲違いがあったのか、別の思惑があるのか、それは定かではない。だが、どちらにしろ
ケイジキーパー達は自分達の目的のためなら、あらゆる犠牲は問わないと考えている。
航空者のコンテナは、世界が未識別機動体の脅威と戦い続けるために必要な物資だ。
やはりその思想は、今を生きる俺達と相容れるものではない。
進化の力がグレムリンの究極の力だと信じ込まされていた財団代表は
騙されていたことに激昂し、ヴォイドステイシスに挑む。
しかし、完成されたヴォイドステイシスの前に敗れてしまう。
残されたベルコ=ウル将軍は、最後の思念をもってリヴの居場所を暴き出した。
タワーの中層区。過去の戦いでも不可侵だった領域に、奴らは潜んでいる。
ついに、灰塵戦争以来の決着をつける時が来たのだ。このまま世界を奴らの好きに
させるわけにはいかない。残された領域を覚醒させ、タワーへと急がねば。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:メインルーム
南の島でのコンテナ引き渡しとライフスチールの受領後、ユーリエは中央に帰還し
ブレインとクラウザは普段より忙しい日常を送っていた。現在は、先の思念情報から
ヴォイドステイシスの解析と対策案を練っているようだ。その背後で興味深そうに
覗いているゾーオ。近くには仲良く居眠りするシネンとグレの姿もある。
ゾーオ:
『ふぅん。こうして実際見るのは初めてだけど
あれがダスト・グレムリンなのね。中々、大した化け物じゃない。
戦うと言っても、勝算はあるのかしら』
ブレイン:
「ダスト・グレムリンは世界そのものといっても過言じゃない存在だ。
今の状態じゃ勝ち目はない。が、これから先も全く勝算がないわけじゃない。
グレイヴネットにはその方法が、以前から示されていたからな」
ゾーオ:
『へえ、貴方も色々と考えてはいるのね。
……で、それは一体どんな妙案なのかしら』
クラウザ:『GSG-YX9999、最終到達試験機だな』
ブレイン:
「そうだ。グレムリンフレームの進化の極北であるあの機体なら
ダスト・グレムリンと互角に戦うことができるだろう」
ゾーオ:
『「ラスト」フレームね。それなら私も聞いたことがあるけど、正直眉唾よ。
誰も到達したことのないフレーム、本当にあるのかしら』
ブレイン:
「まだはっきりとした確証があるわけじゃない。
だが、以前フヌの言っていた神秘工廠ゼラがどこかに存在するなら
そこに最終到達試験機についての情報も隠されているはずだ」
ゾーオ:
『成程ね。どちらにしろ、残された領域を覚醒させて
タワーを解放しないと始まらないわね。
超技術を扱える秘密の工廠なんて、あそこしか造れないでしょうし』
ブレイン:
「そうだな。それにしても……
お前ら、もう当たり前のようにここにいるよな。
なんか馴染んできてるような気がするし」
ゾーオ:
『悪いけど、私は自由にやらせてもらうわ。
あいつの中に閉じ込められてた頃と比べたら、色々と退屈しないしね。
それとも、何か見られたらまずい物でもあるのかしら?』
ブレイン:
「いや、そういうわけじゃないぞ。うん。
見られてまずい物なんて断じて無い。
そういえばシネンは……」
シネン:『……(ソファーに寄りかかり眠っている)』
グレ:『すぴー(グレはシネンの隣で眠っている!)』
ブレイン:
「グレと昼寝中だったか。また落ち着いたら
グラーベルとのアクセスを手伝ってもらおうと思ったんだが」
ゾーオ:
『何を焦っているんだか。
それにしても貴方、ちょっとあの子に頼り過ぎじゃない?
巨大未識別との戦いの時、俺の力を見せてやるとか息巻いてなかったっけ』
ブレイン:
「ぐっ……俺は使えるものは使うポリシーなんだ。
ええい、解析の邪魔だ! いつまでも覗き見してないでキャビンに戻れ!
今日はこっちも忙しいんだ!」
ゾーオ:
『ああ、そういえば今日はサポート役の娘がいないんだったわね。
どうりでいつもより覇気が無いと思ったわ。
それじゃあ、私達は失礼するとしましょうか。
ほら、いつまでもそんなところで寝てないで、キャビンに戻るわよ』
シネン:『……(おぼつかない足取りで続いていく)』
グレ:『ふにゃーん(欠伸をしてその後に続く)』
ブレイン:「やれやれ。やっと静かになった」
クラウザ:
『フッ、マスターも素直ではないな。
だが、あの思念体が予想に反して話の通じる者であったことは
この任務において思わぬ収穫だった。まさに行幸と言った所だろう』
ブレイン:
「まあ、確かにな。あいつが居なければ得られなかった情報も多い。
その点においては感謝している。まだ、完全に信用はできないがな」
クラウザ:『うむ。では、私は作業に戻るとしよう』
ブレイン:
「俺も集中するか。
…………。
……ユーリエのやつ、どうしてるかな」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.21%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
[SC01] 幻想機関メルカルディア -MLc99E01Wl- シークレットファイル
◆CAUTION:
情報規制Lv∞。本ミッションファイルは最高機密データです。
解凍にはエルダーグロウ以上の権限が必要になります。
キョーキ:『……ギョ?』
ユーリエ:「遥かな昔……」
モーシン:『……グゲー?』
ユーリエ:
「空域の根源、夢見る者達。彼らの理想を体現するために、わたし達は創られた」
ユーリエ:
「やがて空より海は隔たれ、定めに従い、人は大地を往き歩く。
人の意思は物語を紡ぎ、物語は世界を動かす」
ユーリエ:
「その理の前に……喜劇も悲劇も価値は等しく。
世界は夢を見続ける。この精神と情報に満たされた、揺り籠の中で。
――永久に、永久に」
ユーリエ:
「貴方達の心の色、暗い暗い思念の淵。されど……それは、とても強い意志の力」
――差し出された手に光が集う。星の光を湛えた光刃は闇を纏い、力を変質させていく。
キョーキ:『!?!?』
モーシン:『!!??』
ユーリエ:「ふふふ……『ここ』から、出たい?」
◆17回更新の日記ログ
[MS42] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:南南東海域【巨人の島】
座標:X=4,Y=5 FL:*領域覚醒*
戦場:第53ブロック 南南東海域【巨人の島】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:メインルーム
バルク・クォーリー・ARのアーカディア側作戦室。ブレイン達の必死の
復旧作業により、アーカディア内の創炎力不足は解消した。表向き、室内は
いつも通りの風景が戻っているが、よく見ると、モニターや装置の端に
『節電を心掛けよう!』『エネルギーを大切に!』といったユーリエお手製の
ポスターが張りつけられている。
ブレイン:
「よし、創炎の力は大分回復してきたな。
一時はどうなるかと思ったが、財団の将軍機は無事に撃退できたし
今後のミッションに支障はなさそうだ」
ユーリエ:
「わたしもまだちょっと出力不足がついてますが、大丈夫です。
いつもの元気なユーリエさんです」
ブレイン:
「俺の方も、もう抵抗は感じないしいつも通りだ。
大事に至らなくて良かったな」
ブレイン:
「それにしてもジャンク財団……やはり、陰で暗躍していた黒幕がいたな。
捨て駒にされたか。哀れな」
クラウザ:
『死竜将軍レックス=ロイヤルファングは致命的な損傷を負いながらも
未だ応戦を続けている。
だが、退路は既に塞がれた。これ以上の進化もあるまい』
ブレイン:
「奴の手の内は割れている。巨人の島の作戦も今回で終わりだな。
この後は、領域間覚醒移動を使えば好きな場所に行けるわけだが……。
とりあえず、ずっと先送りにしてた件を済まさないとな」
ユーリエ:「先送りにしていた件……なんでしょう?」
ブレイン:「忘れたのか? コンテナ輸送だよ」
ユーリエ:
「…………はっ!
なんということでしょう。完全に忘れていました」
ブレイン:
「温泉へ寄り道から始まって、随分遠回りしてしまったが
今なら南の島はゲートを通ればすぐだ。
無辜の民の生活のため、行くしかないだろう。
ちょっと、遅かったかもしれんが」
ユーリエ:
「メルカルディア・エクスプレス、エクスプレス失格です。
ごめんなさい。南の島の皆さんたち」
クラウザ:
『さて、話は変わるが、私の方から二人に報告がある。
以前から開発を続けていた、グラーベルの感情を伝える
思念伝達プログラムが完成した。
機体のアクセスシステムは既にアップデート済みだ』
ブレイン:「出来たのか。具体的にはどういうものなんだ」
クラウザ:
『グレムリンの意思は人間とは異なるが、思念を持つ存在である以上
遭遇した事象に対して思念波による反応を示す。
その波長を人間の感情データに変換し、操縦者へ伝えるものだ』
ブレイン:
「成程な。それでグレムリンの考えることが分かるってわけか。
あいつの感情が理解できれば、今後の方針も取りやすくなる。
助かるぜ」
クラウザ:
『だが、変換精度はこれまで獲得してきたデータに依存しているため
まだまだ改善の余地がある。そこは留意願いたい。
マスターには今後も引き続き、自己課題にて思念データの収集に
協力してもらわねばならんだろう』
ブレイン:「了解だ。任せてくれ」
ユーリエ:「…………ねぇ、クラウザ」
クラウザ:『何かね』
ユーリエ:「これで『全部』?」
クラウザ:『……うむ。当初に予定されていたものはな』
ユーリエ:「そっか。ありがとう、クラウザ」
ブレイン:「うん、どうした?」
ユーリエ:
「システムに忘れ物があったらいけません。
ひゅーまーえらー防止には指差呼称が大切です。
指さし確認、ヨシ! です」
ブレイン:
「それを言うならヒューマンエラーだろう。
その心配なら無用だ、こいつはヒューマンじゃないしな」
クラウザ:
『うむ。信用してくれたまえ。ではマスター、先のこともある。
今のうちに機体レポートを纏めてしまった方が良いのではないかね。
アセンブルデータを用意しよう』
ブレイン:
「そうだな。まだ残党の掃討作戦が残っているが
機体の実戦データは前回までの戦闘で十分だろう。
やっと駆動輪機体のレポートを書ける。ここまで長かったな」
ユーリエ:
「わたしは、グレちゃんと一緒にキャビンの方に行っています。
ブレインには、後で変な味のコーヒーとグミをお持ちします」
ブレイン:「ああ、頼む」
◆SYSTEM_COMMAND...MAIL_MODE:新規作成
件名:霧の大地《零錆戦線》調査報告・グレムリン『グラーベル』の運用について
発信:現地拠点バルク・クォーリー・AR
発信者:一等格探究者ブレイン・メザード、クラウザ・ガル
特等格探究者ユーリィエル・メルビアス
◆STATUS_COMMAND...機体情報:グラーベル
フレーム:ショット
頭部:リンクヘッド :腕部:ブシドー 操縦棺:ウィンドミル
脚部:ガードトラック エンジン:風洞ボイラー 主兵装:狙撃砲
副兵装:硬質ダガー 背部兵装:デプスナイトメア
機動補助1:スツルムブースター 機動補助2:幻影推進器
超音速で敵陣に突撃し、射撃火器を用いた連続攻撃で敵を殲滅する中量駆動輪機体。
南南東海域【巨人の島】でのジャンク財団掃討戦で優秀な戦果を上げたため
推奨アセンブル構成の一案としてアーカディア・アーカイヴに登録する。
兼ねてより、アセンブル方針の主軸として掲げていた、駆動輪機体の完成形を
遂にアーカディア・アーカイヴに登録することができた。
前回の機体構成では、脚部に駆動輪を使用した場合、捕捉能力が低く
敵に先手を取られてしまう弱点があったが、新規に採用した狙撃砲の持つ
先制攻撃効果によって、これを解消している。
現状でも、逆関節が強力な脚部パーツであることは揺ぎ無いが
狙撃砲やファントムハート等の登場で、脚部間の有意差はかなり解消された印象だ。
武装は粒子射撃火器、デプスナイトメアを装備。単体攻撃の火器ではあるが
基礎火力3600dmgという高威力で、これを必殺補正のある背部兵装に装備し
ショットフレームの能力や中・重放射光、刺突、羅刹等のパーツ効果を乗せて
火力を引き上げている。直撃すれば、強大なジャンク財団の将軍機にも大ダメージを
与えることが可能だ。軽量小型で機動力を阻害しないという点も優れた部分だろう。
更に、補助武装として主兵装に狙撃砲、副兵装に硬質ダガーを装備。
これらは攻撃火器としても使用可能だが、そのタイミング効果で捕捉性、機動性の
強化パーツとして大きな役目を果たしている。弾薬を込めて使用するか否かは
敵の戦力をよく見極めて決める必要があるだろう。
防御面では、前回の試作駆動輪機体同様、超音速機動による高い回避能力を持つ。
先制攻撃と各パーツの強化で、加速が乗るまでの時間は大幅に短縮され
3分で音速、5分で超音速に達することが可能だ。操縦棺をニアデスコフィンから
ウィンドミルに変え、脚部を四輪駆動輪からガードトラックに変更。
耐久の上昇量を引き上げ、振動ダメージで自滅する弱点を克服している。
共鳴障害付与の能力は無くなったが、生存性は大きく向上した。
幻影推進器のステルス能力が発動すれば、ネメシスシステムの遅延を受けても
完全回避を崩されはしないだろう。
今回の報告で、駆動輪機体は一時の完成を見たが、先が無いわけではない。
例えば、耐久を上げて攻撃を無効化してくる敵、こちらのように超音速で
回避機動を取ってくる敵を相手にした場合、現状の性能では不安がある。
対策として、時測侵食装置へ換装した表象侵略モジュール機のアセンブル案は
既にあるが、若干機動性が低下してしまうため、更なる改善が必要だ。
また、新たな推奨構成を確立次第、追って報告する。
成果についてはアーカディア・アーカイヴのアセンブル案の項目を参照のこと。
ユーリエ:「…………」
クラウザ:
『ユーリエよ。……いや、今は何も聞くまい。
私の純魂リンク値では理解できないこともあるだろう。
それに、これは中央からの指示でもある。
老匠に宜しく伝えておいてくれたまえ』
ユーリエ:
「ありがとう、クラウザ。後でちゃんと説明するけど……。
クラウザなら、その前に全部分かってしまうかもしれないです」
クラウザ:『そうか。だと、良いがな』
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.198%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:南南東海域【巨人の島】
座標:X=4,Y=5 FL:*領域覚醒*
戦場:第53ブロック 南南東海域【巨人の島】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:メインルーム
バルク・クォーリー・ARのアーカディア側作戦室。ブレイン達の必死の
復旧作業により、アーカディア内の創炎力不足は解消した。表向き、室内は
いつも通りの風景が戻っているが、よく見ると、モニターや装置の端に
『節電を心掛けよう!』『エネルギーを大切に!』といったユーリエお手製の
ポスターが張りつけられている。
ブレイン:
「よし、創炎の力は大分回復してきたな。
一時はどうなるかと思ったが、財団の将軍機は無事に撃退できたし
今後のミッションに支障はなさそうだ」
ユーリエ:
「わたしもまだちょっと出力不足がついてますが、大丈夫です。
いつもの元気なユーリエさんです」
ブレイン:
「俺の方も、もう抵抗は感じないしいつも通りだ。
大事に至らなくて良かったな」
ブレイン:
「それにしてもジャンク財団……やはり、陰で暗躍していた黒幕がいたな。
捨て駒にされたか。哀れな」
クラウザ:
『死竜将軍レックス=ロイヤルファングは致命的な損傷を負いながらも
未だ応戦を続けている。
だが、退路は既に塞がれた。これ以上の進化もあるまい』
ブレイン:
「奴の手の内は割れている。巨人の島の作戦も今回で終わりだな。
この後は、領域間覚醒移動を使えば好きな場所に行けるわけだが……。
とりあえず、ずっと先送りにしてた件を済まさないとな」
ユーリエ:「先送りにしていた件……なんでしょう?」
ブレイン:「忘れたのか? コンテナ輸送だよ」
ユーリエ:
「…………はっ!
なんということでしょう。完全に忘れていました」
ブレイン:
「温泉へ寄り道から始まって、随分遠回りしてしまったが
今なら南の島はゲートを通ればすぐだ。
無辜の民の生活のため、行くしかないだろう。
ちょっと、遅かったかもしれんが」
ユーリエ:
「メルカルディア・エクスプレス、エクスプレス失格です。
ごめんなさい。南の島の皆さんたち」
クラウザ:
『さて、話は変わるが、私の方から二人に報告がある。
以前から開発を続けていた、グラーベルの感情を伝える
思念伝達プログラムが完成した。
機体のアクセスシステムは既にアップデート済みだ』
ブレイン:「出来たのか。具体的にはどういうものなんだ」
クラウザ:
『グレムリンの意思は人間とは異なるが、思念を持つ存在である以上
遭遇した事象に対して思念波による反応を示す。
その波長を人間の感情データに変換し、操縦者へ伝えるものだ』
ブレイン:
「成程な。それでグレムリンの考えることが分かるってわけか。
あいつの感情が理解できれば、今後の方針も取りやすくなる。
助かるぜ」
クラウザ:
『だが、変換精度はこれまで獲得してきたデータに依存しているため
まだまだ改善の余地がある。そこは留意願いたい。
マスターには今後も引き続き、自己課題にて思念データの収集に
協力してもらわねばならんだろう』
ブレイン:「了解だ。任せてくれ」
ユーリエ:「…………ねぇ、クラウザ」
クラウザ:『何かね』
ユーリエ:「これで『全部』?」
クラウザ:『……うむ。当初に予定されていたものはな』
ユーリエ:「そっか。ありがとう、クラウザ」
ブレイン:「うん、どうした?」
ユーリエ:
「システムに忘れ物があったらいけません。
ひゅーまーえらー防止には指差呼称が大切です。
指さし確認、ヨシ! です」
ブレイン:
「それを言うならヒューマンエラーだろう。
その心配なら無用だ、こいつはヒューマンじゃないしな」
クラウザ:
『うむ。信用してくれたまえ。ではマスター、先のこともある。
今のうちに機体レポートを纏めてしまった方が良いのではないかね。
アセンブルデータを用意しよう』
ブレイン:
「そうだな。まだ残党の掃討作戦が残っているが
機体の実戦データは前回までの戦闘で十分だろう。
やっと駆動輪機体のレポートを書ける。ここまで長かったな」
ユーリエ:
「わたしは、グレちゃんと一緒にキャビンの方に行っています。
ブレインには、後で変な味のコーヒーとグミをお持ちします」
ブレイン:「ああ、頼む」
◆SYSTEM_COMMAND...MAIL_MODE:新規作成
件名:霧の大地《零錆戦線》調査報告・グレムリン『グラーベル』の運用について
発信:現地拠点バルク・クォーリー・AR
発信者:一等格探究者ブレイン・メザード、クラウザ・ガル
特等格探究者ユーリィエル・メルビアス
◆STATUS_COMMAND...機体情報:グラーベル
フレーム:ショット
頭部:リンクヘッド :腕部:ブシドー 操縦棺:ウィンドミル
脚部:ガードトラック エンジン:風洞ボイラー 主兵装:狙撃砲
副兵装:硬質ダガー 背部兵装:デプスナイトメア
機動補助1:スツルムブースター 機動補助2:幻影推進器
超音速で敵陣に突撃し、射撃火器を用いた連続攻撃で敵を殲滅する中量駆動輪機体。
南南東海域【巨人の島】でのジャンク財団掃討戦で優秀な戦果を上げたため
推奨アセンブル構成の一案としてアーカディア・アーカイヴに登録する。
兼ねてより、アセンブル方針の主軸として掲げていた、駆動輪機体の完成形を
遂にアーカディア・アーカイヴに登録することができた。
前回の機体構成では、脚部に駆動輪を使用した場合、捕捉能力が低く
敵に先手を取られてしまう弱点があったが、新規に採用した狙撃砲の持つ
先制攻撃効果によって、これを解消している。
現状でも、逆関節が強力な脚部パーツであることは揺ぎ無いが
狙撃砲やファントムハート等の登場で、脚部間の有意差はかなり解消された印象だ。
武装は粒子射撃火器、デプスナイトメアを装備。単体攻撃の火器ではあるが
基礎火力3600dmgという高威力で、これを必殺補正のある背部兵装に装備し
ショットフレームの能力や中・重放射光、刺突、羅刹等のパーツ効果を乗せて
火力を引き上げている。直撃すれば、強大なジャンク財団の将軍機にも大ダメージを
与えることが可能だ。軽量小型で機動力を阻害しないという点も優れた部分だろう。
更に、補助武装として主兵装に狙撃砲、副兵装に硬質ダガーを装備。
これらは攻撃火器としても使用可能だが、そのタイミング効果で捕捉性、機動性の
強化パーツとして大きな役目を果たしている。弾薬を込めて使用するか否かは
敵の戦力をよく見極めて決める必要があるだろう。
防御面では、前回の試作駆動輪機体同様、超音速機動による高い回避能力を持つ。
先制攻撃と各パーツの強化で、加速が乗るまでの時間は大幅に短縮され
3分で音速、5分で超音速に達することが可能だ。操縦棺をニアデスコフィンから
ウィンドミルに変え、脚部を四輪駆動輪からガードトラックに変更。
耐久の上昇量を引き上げ、振動ダメージで自滅する弱点を克服している。
共鳴障害付与の能力は無くなったが、生存性は大きく向上した。
幻影推進器のステルス能力が発動すれば、ネメシスシステムの遅延を受けても
完全回避を崩されはしないだろう。
今回の報告で、駆動輪機体は一時の完成を見たが、先が無いわけではない。
例えば、耐久を上げて攻撃を無効化してくる敵、こちらのように超音速で
回避機動を取ってくる敵を相手にした場合、現状の性能では不安がある。
対策として、時測侵食装置へ換装した表象侵略モジュール機のアセンブル案は
既にあるが、若干機動性が低下してしまうため、更なる改善が必要だ。
また、新たな推奨構成を確立次第、追って報告する。
成果についてはアーカディア・アーカイヴのアセンブル案の項目を参照のこと。
ユーリエ:「…………」
クラウザ:
『ユーリエよ。……いや、今は何も聞くまい。
私の純魂リンク値では理解できないこともあるだろう。
それに、これは中央からの指示でもある。
老匠に宜しく伝えておいてくれたまえ』
ユーリエ:
「ありがとう、クラウザ。後でちゃんと説明するけど……。
クラウザなら、その前に全部分かってしまうかもしれないです」
クラウザ:『そうか。だと、良いがな』
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.198%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆16回更新の日記ログ
[MS41] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:南南東海域【巨人の島】
座標:X=4,Y=5 FL【12822/14464】
戦場:第47ブロック 南南東海域【巨人の島】
兼ねてから各地で略奪行為を行い、世界を混乱させ続けてきたジャンクテイマー。
その元締めたるジャンク財団との決戦の火蓋が、遂に切って落とされた。
三大勢力の調査で判明した奴らの拠点は8箇所。虚空領域全体をカバーできるよう
設けられている。俺達は南南東海域、巨人の島の掃討作戦に参加することとなった。
正直、ジャンク財団がこれ程までに大きな組織であったことに、驚きを隠せない。
どうりで、どこにいても奴らの執拗な襲撃が続いていたわけだ。
三大勢力とヴォイドテイマーの連合軍は各拠点に包囲網を敷き一斉に強襲を仕掛ける。
これに対し、ジャンク財団側は強力な戦闘力を持つ将軍機を中心とした部隊で迎撃。
作戦の中核である基本大隊と激しい戦闘が繰り広げられた。
遊撃隊として作戦に加わった俺達は、基本大隊が将軍機を引き付けてくれたため
自由に行動することができた。拠点周囲に展開するジャンクグレムリンを叩き
フロントラインを押し上げ領域覚醒を目指す。今回は攻勢を掛けるのはこちらの番。
これまで散々引っ掻き回された鬱憤を晴らすべき時だ。
戦いは三大勢力側が優位なまま進行し、このまま掃討作戦は成功するかに思えた。
しかし将軍機は更なる進化を行い、隠された力を解放。圧倒的な威圧感が戦場に
放たれる。流石に、これ以上は奴の捕捉を逃れつつ戦い続けることは無理だろう。
こちらも、覚悟を決めなければならない。今こそ、これまでの戦いで培った
力の全てを投入し、決着をつけるべき時だ。
時……なのだが、バルク・クォーリーでは少々深刻な別の問題が発生していた。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:メインルーム
バルク・クォーリー・ARのアーカディア側作戦室。照明がいつもより若干薄暗く
周囲のモニターには時折ノイズが走っている。室内にはいつものメンツに加え
シネンとゾーオも混ざっているようだ。非常灯ランプの点灯する中で
ブレインとクラウザは機器の調整に奔走している。ユーリエには元気がなく
なぜか机に突っ伏したまま微動だにしない。
◆INFORMATION:アップロード情報。
第9回目・南西海域【星の海】での戦闘記録を送信。
第10回目・西南西海域【横道潮流】での戦闘記録を送信。
第11回目・西南西海域【横道潮流】での戦闘記録を送信。
第12回目・南西海域【星の海】での戦闘記録を送信。
第13回目・タワー近海【風の門】での戦闘記録を送信。
第14回目・南部海域【渇きの海】での戦闘記録を送信。
第15回目・南南東海域【巨人の島】での戦闘記録を送信。
各未識別機動体及び敵対勢力の戦闘記録を送信。
迎撃グレムリン中期型、加圧グレムリンの中期型、充填グレムリン中期型
・現在調査進行度:Lv21。
ブレイン:
「やれやれ、こんな大事な時に創炎の力が弱まるとはな。
ユーリエ、大丈夫か?」
ユーリエ:
「むむむ……メルカルディアの力をいつもより遠く感じます。
力が湧きません。へろへろです」
クラウザ:
『マスター、補助動力システムへの移行を完了した。
とりあえず、これでアーカディアは問題なく機能するだろう』
ブレイン:
「助かる。こっちもチェック終了だ。
今回の拠点はアーカディアに依存する部分が半分で良かったな。
瞬停とはいえ、前の任務の時みたいに全部ダウンしてたら
ミッションどころじゃなかった」
シネン:『…………(物珍しそうに周囲を見ている)』
ゾーオ:
『こっちには初めて来たけど……変わった機械が並んでるわね。
これが外の世界のものなのかしら』
グレ:『なうー』
ブレイン:
「なんでお前らがここにいるんだ。
普通、探究者じゃない人間はこちら側に来られないはずなんだが」
ゾーオ:『そう言われてもね。普通に入口から入ってきたわよ』
クラウザ:
『境界が曖昧になっているのかもしれんな。
システム・アーカディアを外界の設備と融合して使用するのは
今回が初の試みだ。予測にない事態が起こる可能性もあり得る』
ブレイン:
「メイン結晶核の出力、30%か。創炎の力って結構ムラがあるよな。
最近は安定して高い状態にあったし、周期的って訳でもないようだが」
クラウザ:
『根源達の世界は、我々の世界とはあまりに在りようが違うため
中央でも解明されていない部分が多い。
我々にできるのは、不測の事態への備えを怠らぬことだけだろう。
マスターは体調の方に影響はないのかね』
ブレイン:
「ああ。若干抵抗を感じるが、大したことはない。
ユーリエは……」
ユーリエ:
「うーん……あくまの……ゆうわくにまどわされてはいけません。
も……ろ……きゅう」
ブレイン:
「重症なようだ。
やっぱり、純魂リンクが高いと受ける影響も大きいな」
クラウザ:
『ユーリエの場合、それだけ普段の出力が高いともいえる。
まあ、いま暫くの辛抱だ。
これまでのケースを考えれば、長く低迷することはあるまい』
グレ:『なうー。ぺろぺろ』
ユーリエ:
「ああ……グレちゃんの慰めが今のわたしには唯一の癒しです。
そこにいてください……もふもふ」
ゾーオ:
『大丈夫なのかしらね、そんなんで。今度の敵は相当に手強いわよ。
あの将軍のグレムリンからは、私と同じような思念を感じる。
世界に対する怒りと絶望……『憎悪』の意思をね』
ゾーオ:
『手にした力が強ければ強いほど、憎しみの炎は強く燃え上がる。
あの人間が手にした力は、かつての私よりずっと強い力。
あれ程の力を手にして、人は正気でいられるものなのかしらね』
ブレイン:
「憎悪か。奴らも奪われた者だと、通信では言っていたが。
だとしても、負けるわけにはいかない。
引けない背景を背負っているのは、皆同じだ」
ゾーオ:
『そうね。世界というのは、時に理不尽なもの。
抗うには、己の意志を強く持たねばならない。
かつて私を退けたアネットのようにね。それとも……』
ゾーオ:『貴方は、別の答えを見せてくれるのかしら?』
ブレイン:「…………」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.18%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:南南東海域【巨人の島】
座標:X=4,Y=5 FL【12822/14464】
戦場:第47ブロック 南南東海域【巨人の島】
兼ねてから各地で略奪行為を行い、世界を混乱させ続けてきたジャンクテイマー。
その元締めたるジャンク財団との決戦の火蓋が、遂に切って落とされた。
三大勢力の調査で判明した奴らの拠点は8箇所。虚空領域全体をカバーできるよう
設けられている。俺達は南南東海域、巨人の島の掃討作戦に参加することとなった。
正直、ジャンク財団がこれ程までに大きな組織であったことに、驚きを隠せない。
どうりで、どこにいても奴らの執拗な襲撃が続いていたわけだ。
三大勢力とヴォイドテイマーの連合軍は各拠点に包囲網を敷き一斉に強襲を仕掛ける。
これに対し、ジャンク財団側は強力な戦闘力を持つ将軍機を中心とした部隊で迎撃。
作戦の中核である基本大隊と激しい戦闘が繰り広げられた。
遊撃隊として作戦に加わった俺達は、基本大隊が将軍機を引き付けてくれたため
自由に行動することができた。拠点周囲に展開するジャンクグレムリンを叩き
フロントラインを押し上げ領域覚醒を目指す。今回は攻勢を掛けるのはこちらの番。
これまで散々引っ掻き回された鬱憤を晴らすべき時だ。
戦いは三大勢力側が優位なまま進行し、このまま掃討作戦は成功するかに思えた。
しかし将軍機は更なる進化を行い、隠された力を解放。圧倒的な威圧感が戦場に
放たれる。流石に、これ以上は奴の捕捉を逃れつつ戦い続けることは無理だろう。
こちらも、覚悟を決めなければならない。今こそ、これまでの戦いで培った
力の全てを投入し、決着をつけるべき時だ。
時……なのだが、バルク・クォーリーでは少々深刻な別の問題が発生していた。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:メインルーム
バルク・クォーリー・ARのアーカディア側作戦室。照明がいつもより若干薄暗く
周囲のモニターには時折ノイズが走っている。室内にはいつものメンツに加え
シネンとゾーオも混ざっているようだ。非常灯ランプの点灯する中で
ブレインとクラウザは機器の調整に奔走している。ユーリエには元気がなく
なぜか机に突っ伏したまま微動だにしない。
◆INFORMATION:アップロード情報。
第9回目・南西海域【星の海】での戦闘記録を送信。
第10回目・西南西海域【横道潮流】での戦闘記録を送信。
第11回目・西南西海域【横道潮流】での戦闘記録を送信。
第12回目・南西海域【星の海】での戦闘記録を送信。
第13回目・タワー近海【風の門】での戦闘記録を送信。
第14回目・南部海域【渇きの海】での戦闘記録を送信。
第15回目・南南東海域【巨人の島】での戦闘記録を送信。
各未識別機動体及び敵対勢力の戦闘記録を送信。
迎撃グレムリン中期型、加圧グレムリンの中期型、充填グレムリン中期型
・現在調査進行度:Lv21。
ブレイン:
「やれやれ、こんな大事な時に創炎の力が弱まるとはな。
ユーリエ、大丈夫か?」
ユーリエ:
「むむむ……メルカルディアの力をいつもより遠く感じます。
力が湧きません。へろへろです」
クラウザ:
『マスター、補助動力システムへの移行を完了した。
とりあえず、これでアーカディアは問題なく機能するだろう』
ブレイン:
「助かる。こっちもチェック終了だ。
今回の拠点はアーカディアに依存する部分が半分で良かったな。
瞬停とはいえ、前の任務の時みたいに全部ダウンしてたら
ミッションどころじゃなかった」
シネン:『…………(物珍しそうに周囲を見ている)』
ゾーオ:
『こっちには初めて来たけど……変わった機械が並んでるわね。
これが外の世界のものなのかしら』
グレ:『なうー』
ブレイン:
「なんでお前らがここにいるんだ。
普通、探究者じゃない人間はこちら側に来られないはずなんだが」
ゾーオ:『そう言われてもね。普通に入口から入ってきたわよ』
クラウザ:
『境界が曖昧になっているのかもしれんな。
システム・アーカディアを外界の設備と融合して使用するのは
今回が初の試みだ。予測にない事態が起こる可能性もあり得る』
ブレイン:
「メイン結晶核の出力、30%か。創炎の力って結構ムラがあるよな。
最近は安定して高い状態にあったし、周期的って訳でもないようだが」
クラウザ:
『根源達の世界は、我々の世界とはあまりに在りようが違うため
中央でも解明されていない部分が多い。
我々にできるのは、不測の事態への備えを怠らぬことだけだろう。
マスターは体調の方に影響はないのかね』
ブレイン:
「ああ。若干抵抗を感じるが、大したことはない。
ユーリエは……」
ユーリエ:
「うーん……あくまの……ゆうわくにまどわされてはいけません。
も……ろ……きゅう」
ブレイン:
「重症なようだ。
やっぱり、純魂リンクが高いと受ける影響も大きいな」
クラウザ:
『ユーリエの場合、それだけ普段の出力が高いともいえる。
まあ、いま暫くの辛抱だ。
これまでのケースを考えれば、長く低迷することはあるまい』
グレ:『なうー。ぺろぺろ』
ユーリエ:
「ああ……グレちゃんの慰めが今のわたしには唯一の癒しです。
そこにいてください……もふもふ」
ゾーオ:
『大丈夫なのかしらね、そんなんで。今度の敵は相当に手強いわよ。
あの将軍のグレムリンからは、私と同じような思念を感じる。
世界に対する怒りと絶望……『憎悪』の意思をね』
ゾーオ:
『手にした力が強ければ強いほど、憎しみの炎は強く燃え上がる。
あの人間が手にした力は、かつての私よりずっと強い力。
あれ程の力を手にして、人は正気でいられるものなのかしらね』
ブレイン:
「憎悪か。奴らも奪われた者だと、通信では言っていたが。
だとしても、負けるわけにはいかない。
引けない背景を背負っているのは、皆同じだ」
ゾーオ:
『そうね。世界というのは、時に理不尽なもの。
抗うには、己の意志を強く持たねばならない。
かつて私を退けたアネットのようにね。それとも……』
ゾーオ:『貴方は、別の答えを見せてくれるのかしら?』
ブレイン:「…………」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.18%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆15回更新の日記ログ
女の子
「それでね、レジもリュークも酷いんだよ! 私のこと嘘つきって言うの。窓の外は赤い粉塵でいっぱいで、遠くの景色なんか見えないって」
午前の授業が終わり、昼食の時間。ソノラはいつも通り給食を乗せたトレー持ち寄り、教師とお喋りを楽しんでいた。今日のメニューはゼリーとベーコンのブレッド。ソノラの大好物だ。話すたびに頬張り、飲み込んだらまた話す。喋りながらでも、すごい勢いで無くなっていく。
女の子
「でも、確かに見たんだから。雲の向こうでピカピカ光ってたんだよ! あれは何だったのかなぁ」
会話の内容は、主に友達のことだ。学校の生徒は5人。ソノラはミミルと仲が良い。レジとリュークとアルコーはいつも三人でいる。女の子は2人、男の子は3人。喧嘩をすると、人数が少ないから不利だ。
先生「ソノラ、また展望台に行っていたのかい?」
席の向かいに座り、楽しそうにソノラの話を聞いていた先生は、苦笑いしながら答えた。
外が見える展望台は、シェルターの一番上にある。普段は閉ざされていて、子供が入ることはできない。というのは建前で、壊れた通気口には秘密の抜け道があって、遊び場として活用されていた。男の子達にとっては、お気に入りの秘密基地だ。でも当然、他の大人に見つかったら怒られてしまう。だから言ってはいけなかったのだ。
ソノラ「あ、えへへ。ごめんなさい」
ソノラはバツが悪そうに舌を出した。男子に知られたら、また喧嘩になるかもしれない。お前は口が軽いからなという、リュークの軽口が頭の中で聞こえてくる。あの時は、ゲンコツでぐりぐりしたら戦争になって、反省室で一時間正座させられてしまったのだ。
先生「ソノラ、君が見たのは星か……もしかしたら、神様かも知れないね」
ソノラ「神様? あれが神様なの?」
先生
「塔の上には翡翠経典の信奉する、十二条光柱という神様がいる。彼らは空の遥か彼方に御座し、我々をいつも見守っているんだ」
先月、新任の先生になったムラサは、外の世界からやってきた。ソノラ達の知らない色々なことを知っていて、他の先生と違った授業をしてくれる。星と星座の授業も先週にしたばかりだ。ソノラは、この先生の授業が好きだった。塔の話、海の話、船の話、機械の話。自分達の知らないそれらの話を、目を輝かせて聞いていた。
外の世界は毒の粉塵に覆われていて、滅多に出ることはできない。昔は外から人が来ることもあったと聞いたけど、ソノラが知る限りでは初めてのことだった。だからあの展望台で、外の世界のことを考えていたのだ。
老人「ムラサさん、ここにおられましたか。どうですか、子供達の様子は」
見ると、教室の入り口に村長の姿があった。白く長い髪と髭をしたお爺さんで、たまに学校に来ては長い話をしていく。村では一番物知りで、一番頼りになる。そして怒ると一番怖い。ムラサと違って一緒にいると緊張してしまう、ソノラにとってはそんな先生だ。
ムラサ
「村長? これは、ようこそおいでくださいました。ソノラ、私は村長と話があるから友達と遊んできなさい」
ソノラ「はぁーい……」
聞きたいことを途中で切り上げられ、ソノラは不満げに頬を膨らませた。友達のミミルは今日は家の仕事でお休みだ。しかし、ここで渋っても怒られるだけなので、内緒で展望台に向かうことにして速足で教室を後にした。
ムラサ
「皆、素直で良い子達です。私の授業を真剣に聞いてくれます。特にあの子は、外の世界に強く興味を引かれているようですね」
村長
「そうですか。ソノラには両親がいませんから……。先生のことを父親のように感じているのかもしれません」
ムラサ「父親、ですか……」
ムラサに家族はいない。ヒルコ空母船団のそれなりに裕福な家に生まれたが、傭兵や行商に身をやつし各地を転々としながら生きてきた。放浪の中で粉塵に体を蝕まれ、旅を続けることもままならなくなった時、辿り着いたのがこの場所だった。
清浄時代に造られた地下シェルターを利用した小さな村。外界から隔離されたこの村の人間に助けられたのは、奇跡にも等しい偶然だった。
ムラサ「行商のできなくなった私を置いて下さったこと、本当に感謝しています」
言いながら、ムラサは粉末の乾燥茶を急須に入れ、二人分の湯飲みを机に並べる。
村長
「いえ、ムラサさんにはこちらも随分と助けられましたし、私達も外の世界の知識が必要でしたから」
村長はそう答えると、部屋の天井で回っている空気清浄機を見上げた。このシェルターの幾つかの装置は、ムラサの持っていた部品で修理されていた。困窮していたのはお互い様だったのだ。
村長
「貴方ならばお分かりでしょう。世界はタワーと船団を中心に回っています。限られた陸地で暮らす人間は昔から少なく、あの戦争で粉塵が世界を覆ってからは外との交流も難しくなりました」
世界を粉塵に沈めた七月戦役。あの戦争以来、世界は滅びの道を歩み続けている。テイマーズ・ケイジ、三大勢力の統制や各企業の尽力、グレイヴネットの実用化等、人類の再生を目指す動きもあったが、かつての栄華には程遠く、絶望と苛立ちが人々の心に暗い影を落としていた。
村長
「見ての通り、このシェルターも今や50人足らずの小さな集落です。いつまで持つか分かりません。外の戦いに巻き込まれば、ひとたまりもないでしょう。それでも私達は、この場所に骨を埋めるつもりです」
ムラサ「故郷とは、そういうものですものね……」
村長
「はい。ですが、子供達には、その運命を背負わせるには忍びない。あの子達は、これからの厳しい世界を生きていかねばなりません。だからこそ、より多くの選択肢を与えてあげたい。いつかこの場所から巣立つ時のために」
ムラサは目を閉じ、子供達の顔を思い描く。この村で教師の職を任されて早一か月。正規の教職についた経験はなく初めは戸惑ったが、今はやりがいを感じている自分がいた。5人の生徒達は、いずれもムラサを慕ってくれている。生徒との間に、これまでにない人の信頼のようなものを感じていた。
ムラサ「……私も、同じ気持ちです」
ムラサは、人の眼に宿る光を見るのが好きだった。傭兵として、そのために生きたこともあった。それでも、子供達が自分に向けてくれた光はこれまでに見たことの無いものだった。あれ程までに未来に希望をもって、輝かしい瞳を向けてくれた人間がこれまでいただろうか。ムラサにはその光が、とても眩く美しいものに見えた。
村長「ありがとう、ムラサさん。子供達を宜しくお願いします」
午後の授業の始まりを告げる鐘が鳴る。ムラサと子供達との穏やかな日常が、ゆっくりと流れていった。
[MS40] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:南南東海域【巨人の島】
座標:X=4,Y=5 FL【7853/14336】
戦場:第49ブロック 南南東海域【巨人の島】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージ
バルク・クォーリーのガレージルーム。取り出されたグラーベルの
メインユニットの前で、手を掲げ集中するブレインとシネンの姿がある。
それを固唾を飲んで見守る、クラウザとユーリエの二人。
ブレインはグラーベルの記憶を垣間見ていた。
◆INFORMATION:アップロード情報。
グラーベルの記憶領域が解放されました!
・FL【978/594】pt [データ]記憶の断片1【開放】
ユーリエ:
「ごくり。二人とも微動だにしません。
ちょっと心配です。くすぐったら反応するでしょうか」
ブレイン:「……む。終わった、のか?」
シネン:『…………』
クラウザ:『成功のようだな。で、どうだったのかね、マスター』
ブレイン:
「どこかの居住区の日常風景のようだった。
前のイメージとは違う。多分、過去の出来事なんだろうな。
だが、これがどう繋がるんだ?」
シネン:『……(静かに首を振る))』
ブレイン:
「お前にも分からないか。
だが、一つ前進したのは確かだ。シネンのおかげだな」
グレ:『ニャァン』
ブレイン:「分かってるよ。グレの力もあってこそだな」
ユーリエ:
「グレちゃんには、虚空魚のスライスをプレゼントしちゃいます。
わたしからのご褒美です」
クラウザ:
『マスター、申し訳ないが、ミッションの時間が迫っている。
機体のアセンブルに取り掛かるべきだろう』
ブレイン:
「もうそんな時間か。アクセスに大分時間を費やしたな。
二人とも、過去の記憶のことは戦闘後に詳しく話すよ。
とりあえず、準備に入ってくれ」
クラウザ:『了解した』
ユーリエ:「アイアイサー」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.15%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
「それでね、レジもリュークも酷いんだよ! 私のこと嘘つきって言うの。窓の外は赤い粉塵でいっぱいで、遠くの景色なんか見えないって」
午前の授業が終わり、昼食の時間。ソノラはいつも通り給食を乗せたトレー持ち寄り、教師とお喋りを楽しんでいた。今日のメニューはゼリーとベーコンのブレッド。ソノラの大好物だ。話すたびに頬張り、飲み込んだらまた話す。喋りながらでも、すごい勢いで無くなっていく。
女の子
「でも、確かに見たんだから。雲の向こうでピカピカ光ってたんだよ! あれは何だったのかなぁ」
会話の内容は、主に友達のことだ。学校の生徒は5人。ソノラはミミルと仲が良い。レジとリュークとアルコーはいつも三人でいる。女の子は2人、男の子は3人。喧嘩をすると、人数が少ないから不利だ。
先生「ソノラ、また展望台に行っていたのかい?」
席の向かいに座り、楽しそうにソノラの話を聞いていた先生は、苦笑いしながら答えた。
外が見える展望台は、シェルターの一番上にある。普段は閉ざされていて、子供が入ることはできない。というのは建前で、壊れた通気口には秘密の抜け道があって、遊び場として活用されていた。男の子達にとっては、お気に入りの秘密基地だ。でも当然、他の大人に見つかったら怒られてしまう。だから言ってはいけなかったのだ。
ソノラ「あ、えへへ。ごめんなさい」
ソノラはバツが悪そうに舌を出した。男子に知られたら、また喧嘩になるかもしれない。お前は口が軽いからなという、リュークの軽口が頭の中で聞こえてくる。あの時は、ゲンコツでぐりぐりしたら戦争になって、反省室で一時間正座させられてしまったのだ。
先生「ソノラ、君が見たのは星か……もしかしたら、神様かも知れないね」
ソノラ「神様? あれが神様なの?」
先生
「塔の上には翡翠経典の信奉する、十二条光柱という神様がいる。彼らは空の遥か彼方に御座し、我々をいつも見守っているんだ」
先月、新任の先生になったムラサは、外の世界からやってきた。ソノラ達の知らない色々なことを知っていて、他の先生と違った授業をしてくれる。星と星座の授業も先週にしたばかりだ。ソノラは、この先生の授業が好きだった。塔の話、海の話、船の話、機械の話。自分達の知らないそれらの話を、目を輝かせて聞いていた。
外の世界は毒の粉塵に覆われていて、滅多に出ることはできない。昔は外から人が来ることもあったと聞いたけど、ソノラが知る限りでは初めてのことだった。だからあの展望台で、外の世界のことを考えていたのだ。
老人「ムラサさん、ここにおられましたか。どうですか、子供達の様子は」
見ると、教室の入り口に村長の姿があった。白く長い髪と髭をしたお爺さんで、たまに学校に来ては長い話をしていく。村では一番物知りで、一番頼りになる。そして怒ると一番怖い。ムラサと違って一緒にいると緊張してしまう、ソノラにとってはそんな先生だ。
ムラサ
「村長? これは、ようこそおいでくださいました。ソノラ、私は村長と話があるから友達と遊んできなさい」
ソノラ「はぁーい……」
聞きたいことを途中で切り上げられ、ソノラは不満げに頬を膨らませた。友達のミミルは今日は家の仕事でお休みだ。しかし、ここで渋っても怒られるだけなので、内緒で展望台に向かうことにして速足で教室を後にした。
ムラサ
「皆、素直で良い子達です。私の授業を真剣に聞いてくれます。特にあの子は、外の世界に強く興味を引かれているようですね」
村長
「そうですか。ソノラには両親がいませんから……。先生のことを父親のように感じているのかもしれません」
ムラサ「父親、ですか……」
ムラサに家族はいない。ヒルコ空母船団のそれなりに裕福な家に生まれたが、傭兵や行商に身をやつし各地を転々としながら生きてきた。放浪の中で粉塵に体を蝕まれ、旅を続けることもままならなくなった時、辿り着いたのがこの場所だった。
清浄時代に造られた地下シェルターを利用した小さな村。外界から隔離されたこの村の人間に助けられたのは、奇跡にも等しい偶然だった。
ムラサ「行商のできなくなった私を置いて下さったこと、本当に感謝しています」
言いながら、ムラサは粉末の乾燥茶を急須に入れ、二人分の湯飲みを机に並べる。
村長
「いえ、ムラサさんにはこちらも随分と助けられましたし、私達も外の世界の知識が必要でしたから」
村長はそう答えると、部屋の天井で回っている空気清浄機を見上げた。このシェルターの幾つかの装置は、ムラサの持っていた部品で修理されていた。困窮していたのはお互い様だったのだ。
村長
「貴方ならばお分かりでしょう。世界はタワーと船団を中心に回っています。限られた陸地で暮らす人間は昔から少なく、あの戦争で粉塵が世界を覆ってからは外との交流も難しくなりました」
世界を粉塵に沈めた七月戦役。あの戦争以来、世界は滅びの道を歩み続けている。テイマーズ・ケイジ、三大勢力の統制や各企業の尽力、グレイヴネットの実用化等、人類の再生を目指す動きもあったが、かつての栄華には程遠く、絶望と苛立ちが人々の心に暗い影を落としていた。
村長
「見ての通り、このシェルターも今や50人足らずの小さな集落です。いつまで持つか分かりません。外の戦いに巻き込まれば、ひとたまりもないでしょう。それでも私達は、この場所に骨を埋めるつもりです」
ムラサ「故郷とは、そういうものですものね……」
村長
「はい。ですが、子供達には、その運命を背負わせるには忍びない。あの子達は、これからの厳しい世界を生きていかねばなりません。だからこそ、より多くの選択肢を与えてあげたい。いつかこの場所から巣立つ時のために」
ムラサは目を閉じ、子供達の顔を思い描く。この村で教師の職を任されて早一か月。正規の教職についた経験はなく初めは戸惑ったが、今はやりがいを感じている自分がいた。5人の生徒達は、いずれもムラサを慕ってくれている。生徒との間に、これまでにない人の信頼のようなものを感じていた。
ムラサ「……私も、同じ気持ちです」
ムラサは、人の眼に宿る光を見るのが好きだった。傭兵として、そのために生きたこともあった。それでも、子供達が自分に向けてくれた光はこれまでに見たことの無いものだった。あれ程までに未来に希望をもって、輝かしい瞳を向けてくれた人間がこれまでいただろうか。ムラサにはその光が、とても眩く美しいものに見えた。
村長「ありがとう、ムラサさん。子供達を宜しくお願いします」
午後の授業の始まりを告げる鐘が鳴る。ムラサと子供達との穏やかな日常が、ゆっくりと流れていった。
[MS40] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:南南東海域【巨人の島】
座標:X=4,Y=5 FL【7853/14336】
戦場:第49ブロック 南南東海域【巨人の島】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージ
バルク・クォーリーのガレージルーム。取り出されたグラーベルの
メインユニットの前で、手を掲げ集中するブレインとシネンの姿がある。
それを固唾を飲んで見守る、クラウザとユーリエの二人。
ブレインはグラーベルの記憶を垣間見ていた。
◆INFORMATION:アップロード情報。
グラーベルの記憶領域が解放されました!
・FL【978/594】pt [データ]記憶の断片1【開放】
ユーリエ:
「ごくり。二人とも微動だにしません。
ちょっと心配です。くすぐったら反応するでしょうか」
ブレイン:「……む。終わった、のか?」
シネン:『…………』
クラウザ:『成功のようだな。で、どうだったのかね、マスター』
ブレイン:
「どこかの居住区の日常風景のようだった。
前のイメージとは違う。多分、過去の出来事なんだろうな。
だが、これがどう繋がるんだ?」
シネン:『……(静かに首を振る))』
ブレイン:
「お前にも分からないか。
だが、一つ前進したのは確かだ。シネンのおかげだな」
グレ:『ニャァン』
ブレイン:「分かってるよ。グレの力もあってこそだな」
ユーリエ:
「グレちゃんには、虚空魚のスライスをプレゼントしちゃいます。
わたしからのご褒美です」
クラウザ:
『マスター、申し訳ないが、ミッションの時間が迫っている。
機体のアセンブルに取り掛かるべきだろう』
ブレイン:
「もうそんな時間か。アクセスに大分時間を費やしたな。
二人とも、過去の記憶のことは戦闘後に詳しく話すよ。
とりあえず、準備に入ってくれ」
クラウザ:『了解した』
ユーリエ:「アイアイサー」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:3.15%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆14回更新の日記ログ
敵戦力が撤退していく。風の門の戦闘は、傭兵達の活躍で沈静化に向かっていた。ブロック32のこの小さな戦場も、あのヴォイドテイマーが開始5分程で敵のジャンテイマーを破壊し、勝利を収めている。
私達は、戦場から離れた浜辺にいた。あのブレインとかいうテイマーは、安定した素材サルベージのために敵戦力の薄い航路を選択している。敵はジャンク財団の充電中期型が一機。変わり映えの無い展開になることは分かっていた。
ならばなぜここにいるのかというと、モーシンとキョーキの行動を見届けるためだ。あのブリキのような器で何ができるのか、少しだけ興味があった。見れば、二人は放置された砲台の周りを飛び回り、何やら相談にふけっている。病み上がりにも関わらず、ついてくると聞かない子を連れて、私は二人の様子を眺めていた。
キョーキ『ギョギョ! ギョギョギョ!』
モーシン『グゲー! グゲー! グゲー!』
ゾーオ『それを使うっていうの? とても動くとは思えないけど』
???『……?』
ゾーオ『あなたは手伝わなくていいのよ。あいつらが勝手にやるって言ったんだから』
それは、粒子砲台だった。風の門の要塞のものか、海上トーチカに搭載されていたものか。長くこの状態で置かれていたらしく、所々赤く錆び、砲座の下は砂に埋もれている。だが砲の先は未だ戦場に向けられていた。戦闘中に破壊されたものなら、エネルギーが残っていて撃てる可能性もなくはない。だが未識別機動体として再来したわけでもない通常兵器は、グレムリンにはあまり効果がない。直撃しても、大したダメージにはならないだろう。だが、そんな事は私が異論を挟むまでもなく、二人も分かっているはずだ。それでも自分達を無力な存在に貶めた相手に対し、何か報復しないと腹の虫がおさまらない。そんなところだろう。
戦いは収束し、傭兵達は各々の帰るべき場所に戻りつつある。迷っている時間はない。幸い、奴の機体は射線上、こちらに気づいていない。要はコンソールのボタンを押し、トリガーを引く。それで撃てるか撃てないか、それだけだ。
キョーキ『ギョギョ! ギョギョギョー!!』
モーシン『グゲー! グゲゲグッゲー!!』
モーシンとキョーキは必死になって砲台を叩く。トリガーを引きたくても、手は翼だ。二人には悪いが、かつての悪辣さを思えば今の姿は滑稽で、私は端からその様子を楽しんでいた。だが、次第に哀れにもなってきたので、その辺にしておいたら、と止めようとした瞬間。
奇跡が起こった。キョーキの渾身の体当たりに呼応したか、突然、砲台の各部に光が走る。長年の眠りから覚めた粒子砲は最後の力を振り絞り、砲身の先に緑の光を収束させていく。
ゾーオ『あら。これはもしかしてもしかするのかしら』
それは、生命の最後の灯火にも見えた。私達四人は、砲台から粒子の光が放たれるのをただ見とれていた。私達は少し離れた場所で。モーシンとキョーキは砲台のすぐそばで。
ゾーオ『あ! モーシン、キョーキ、そこから離れ……!』
気づいた時にはもう遅い。砲身から凄まじい粒子と熱が迸り、轟音を上げて光が放たれる!
モーシン『グギャーーーー!!』
キョーキ『ギョエーーーー!!』
ゾーオ『やれやれ、仕方ないわね。でも、この軌道は……』
衝撃波は二人を吹き飛ばし、プラズマの余波が私達のいる場所の地面を焼いた。放たれた光弾は、一直線に標的に向かって飛んでいく。何とか躱すものの、バランスを崩し無様に転倒するグレムリン。完全に不意を突かれた形になったのだろう。なにしろこちらはさっきまで死んだ機械だったのだ。あの子は巻き込まれた二人を心配していたが、私は堪え切れずに声を出して笑った。
ゾーオ『くっくっくっ、いいものを見せてもらったわ。上出来よあなた達』
キョーキ『ギョギョ……』
モーシン『グゲー……』
???『…………』
ゾーオ『心配はいらないわ。こいつらはこれくらいで死んだりしないから』
こんがり焦げて転がる二人を拾い上げ、砂埃を払い落とす。背後に、いつの間にかグレムリンの碧の巨体が降りてきていた。
ゾーオ『ま、オチとしてはこんなものかしらね』
ブレイン「お前等……覚悟はできてるんだろうな」
[MS_39] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:南部海域【渇きの海】
座標:X=3,Y=5 FL【12107/21632】
戦場:第23ブロック 南部海域【渇きの海】
ブレイン:
「これで掃除は終わりだな。他の戦場も撤収の時間か。
今回は少し熱が入り過ぎたな、喉が渇いたよ」
ユーリエ:
「では、今日は秘蔵のおいしいお水を空けましょう。
残り少ないですが、特別です」
ブレイン:「それはありがたい。ん……?」
キョーキ:『…………』
ブレイン:「あれは確か、思念体達と一緒にいた……なんだ?」
突然、倒壊した砲台から光弾が放たれ、グラーベルに向かい迫ってくる!
ブレイン:「うおおおぉぉぉっ!?」
ユーリエ:「ブ、ブレイン!?」
クラウザ:『マスター、どうしたのかね。応答したまえ』
ブレイン:「なんでもない。バランスを崩しただけだ。あいつら……!」
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージ
風の門でのジャンクテイマー戦直後。ブレインは二人と二匹を外で回収し
バルク・クォーリーに戻っていた。早速、自立機械がグラーベルを取り囲み
補給と整備作業を開始する。ガレージにはFTスーツのままのブレインと
クラウザとユーリエ、グレの姿もあり、関係者の顔ぶれが揃っていた。
ブレイン:
「お前等のことだ。そのうち妨害をしてくると思っていたが。
まさか、あんなちょっかいを仕掛けてくるとはな」
クラウザ:
『マスター、機体の簡易チェックを完了した。
転倒による損傷は軽微だ。装甲に傷がついた程度だな』
ブレイン:
「そうか。どのみち腕部と装備は次で交換予定だった。
なら、問題は無いな。
……というわけだ。期待した結果にならなくて残念だったな」
ゾーオ:
『勘違いしてるみたいだけど、私は関係ないわ。
モーシンとキョーキが企てた悪戯よ。
もっとも、あなたが格好悪く転ぶ姿は面白かったけど』
ブレイン:「そんな嘘が通用すると思うのか?」
ゾーオ:
『なら、今回も一つためになる忠告をあげるわ。
あなた、標的を倒したと思うと油断する癖があるわよ。
前にもジャンクテイマーの一発にヒヤリとさせられたそうね。
直した方が良いわよ。生き残りたいならね』
クラウザ:
『ふむ、それは一理あるな。戦いが一段落しても
戦場に身を置いている間は気を抜くべきではない。
不意の増援が現れる可能性はあるのだからな』
ブレイン:「むぐぐ、クラウザまで。そう言われると返す言葉はないが」
???:『…………』
ゾーオ:『ほら、この子も許してあげてって言ってるわよ』
ブレイン:
「ああ、目が覚めたのか。その様子だと、大丈夫みたいだな。
君には後で聞きたいことがある。
が、まずはこいつらの処遇を決めるのが先だ」
ユーリエ:「ブレイン、処す? 処してしまうのですね!」
ブレイン:
「まあな。悪いが、この二匹は放置できない。
今回は余裕のある戦場だったから良かったが
強敵と対峙中にやられたらどうなるか分からんからな。
やれ、クラウザ」
クラウザ:『了解した』
モーシン:『グギャー!』
キョーキ:『ギョエー!』
???:『…………(二人の檻の前でおろおろしている)』
クラウザ:
『動作不良誘発装置マインドプリズンを改変した
対思念体用の特製ケージだ。グレムリンに通用する不文律を
応用した物ならば、お前達にも効果はある』
ユーリエ:「ふっふっふ! さあ、どうしてくれよう!」
ブレイン:
「暫くは、これで隔離させてもらう。
お前の方は……状況証拠不足でとりあえず保留にするが
下手なことは考えるなよ」
ゾーオ:『寛大な処置、痛み入るわ』
グレ:
『フーッ! にゃうにゃう!』
(グレは檻の外から、キョーキを爪で引っ掻いている!)
キョーキ:『ギョエー!』
ユーリエ:
「グレちゃんダメです。この子達はグレちゃんのごはんじゃありません。
今はまだ。……どうどう」
ゾーオ:(まあ、そのうち出してあげるから。大人しくしてなさいな)
モーシン:『グゲー……』
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:1.61%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
私達は、戦場から離れた浜辺にいた。あのブレインとかいうテイマーは、安定した素材サルベージのために敵戦力の薄い航路を選択している。敵はジャンク財団の充電中期型が一機。変わり映えの無い展開になることは分かっていた。
ならばなぜここにいるのかというと、モーシンとキョーキの行動を見届けるためだ。あのブリキのような器で何ができるのか、少しだけ興味があった。見れば、二人は放置された砲台の周りを飛び回り、何やら相談にふけっている。病み上がりにも関わらず、ついてくると聞かない子を連れて、私は二人の様子を眺めていた。
キョーキ『ギョギョ! ギョギョギョ!』
モーシン『グゲー! グゲー! グゲー!』
ゾーオ『それを使うっていうの? とても動くとは思えないけど』
???『……?』
ゾーオ『あなたは手伝わなくていいのよ。あいつらが勝手にやるって言ったんだから』
それは、粒子砲台だった。風の門の要塞のものか、海上トーチカに搭載されていたものか。長くこの状態で置かれていたらしく、所々赤く錆び、砲座の下は砂に埋もれている。だが砲の先は未だ戦場に向けられていた。戦闘中に破壊されたものなら、エネルギーが残っていて撃てる可能性もなくはない。だが未識別機動体として再来したわけでもない通常兵器は、グレムリンにはあまり効果がない。直撃しても、大したダメージにはならないだろう。だが、そんな事は私が異論を挟むまでもなく、二人も分かっているはずだ。それでも自分達を無力な存在に貶めた相手に対し、何か報復しないと腹の虫がおさまらない。そんなところだろう。
戦いは収束し、傭兵達は各々の帰るべき場所に戻りつつある。迷っている時間はない。幸い、奴の機体は射線上、こちらに気づいていない。要はコンソールのボタンを押し、トリガーを引く。それで撃てるか撃てないか、それだけだ。
キョーキ『ギョギョ! ギョギョギョー!!』
モーシン『グゲー! グゲゲグッゲー!!』
モーシンとキョーキは必死になって砲台を叩く。トリガーを引きたくても、手は翼だ。二人には悪いが、かつての悪辣さを思えば今の姿は滑稽で、私は端からその様子を楽しんでいた。だが、次第に哀れにもなってきたので、その辺にしておいたら、と止めようとした瞬間。
奇跡が起こった。キョーキの渾身の体当たりに呼応したか、突然、砲台の各部に光が走る。長年の眠りから覚めた粒子砲は最後の力を振り絞り、砲身の先に緑の光を収束させていく。
ゾーオ『あら。これはもしかしてもしかするのかしら』
それは、生命の最後の灯火にも見えた。私達四人は、砲台から粒子の光が放たれるのをただ見とれていた。私達は少し離れた場所で。モーシンとキョーキは砲台のすぐそばで。
ゾーオ『あ! モーシン、キョーキ、そこから離れ……!』
気づいた時にはもう遅い。砲身から凄まじい粒子と熱が迸り、轟音を上げて光が放たれる!
モーシン『グギャーーーー!!』
キョーキ『ギョエーーーー!!』
ゾーオ『やれやれ、仕方ないわね。でも、この軌道は……』
衝撃波は二人を吹き飛ばし、プラズマの余波が私達のいる場所の地面を焼いた。放たれた光弾は、一直線に標的に向かって飛んでいく。何とか躱すものの、バランスを崩し無様に転倒するグレムリン。完全に不意を突かれた形になったのだろう。なにしろこちらはさっきまで死んだ機械だったのだ。あの子は巻き込まれた二人を心配していたが、私は堪え切れずに声を出して笑った。
ゾーオ『くっくっくっ、いいものを見せてもらったわ。上出来よあなた達』
キョーキ『ギョギョ……』
モーシン『グゲー……』
???『…………』
ゾーオ『心配はいらないわ。こいつらはこれくらいで死んだりしないから』
こんがり焦げて転がる二人を拾い上げ、砂埃を払い落とす。背後に、いつの間にかグレムリンの碧の巨体が降りてきていた。
ゾーオ『ま、オチとしてはこんなものかしらね』
ブレイン「お前等……覚悟はできてるんだろうな」
[MS_39] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:南部海域【渇きの海】
座標:X=3,Y=5 FL【12107/21632】
戦場:第23ブロック 南部海域【渇きの海】
ブレイン:
「これで掃除は終わりだな。他の戦場も撤収の時間か。
今回は少し熱が入り過ぎたな、喉が渇いたよ」
ユーリエ:
「では、今日は秘蔵のおいしいお水を空けましょう。
残り少ないですが、特別です」
ブレイン:「それはありがたい。ん……?」
キョーキ:『…………』
ブレイン:「あれは確か、思念体達と一緒にいた……なんだ?」
突然、倒壊した砲台から光弾が放たれ、グラーベルに向かい迫ってくる!
ブレイン:「うおおおぉぉぉっ!?」
ユーリエ:「ブ、ブレイン!?」
クラウザ:『マスター、どうしたのかね。応答したまえ』
ブレイン:「なんでもない。バランスを崩しただけだ。あいつら……!」
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージ
風の門でのジャンクテイマー戦直後。ブレインは二人と二匹を外で回収し
バルク・クォーリーに戻っていた。早速、自立機械がグラーベルを取り囲み
補給と整備作業を開始する。ガレージにはFTスーツのままのブレインと
クラウザとユーリエ、グレの姿もあり、関係者の顔ぶれが揃っていた。
ブレイン:
「お前等のことだ。そのうち妨害をしてくると思っていたが。
まさか、あんなちょっかいを仕掛けてくるとはな」
クラウザ:
『マスター、機体の簡易チェックを完了した。
転倒による損傷は軽微だ。装甲に傷がついた程度だな』
ブレイン:
「そうか。どのみち腕部と装備は次で交換予定だった。
なら、問題は無いな。
……というわけだ。期待した結果にならなくて残念だったな」
ゾーオ:
『勘違いしてるみたいだけど、私は関係ないわ。
モーシンとキョーキが企てた悪戯よ。
もっとも、あなたが格好悪く転ぶ姿は面白かったけど』
ブレイン:「そんな嘘が通用すると思うのか?」
ゾーオ:
『なら、今回も一つためになる忠告をあげるわ。
あなた、標的を倒したと思うと油断する癖があるわよ。
前にもジャンクテイマーの一発にヒヤリとさせられたそうね。
直した方が良いわよ。生き残りたいならね』
クラウザ:
『ふむ、それは一理あるな。戦いが一段落しても
戦場に身を置いている間は気を抜くべきではない。
不意の増援が現れる可能性はあるのだからな』
ブレイン:「むぐぐ、クラウザまで。そう言われると返す言葉はないが」
???:『…………』
ゾーオ:『ほら、この子も許してあげてって言ってるわよ』
ブレイン:
「ああ、目が覚めたのか。その様子だと、大丈夫みたいだな。
君には後で聞きたいことがある。
が、まずはこいつらの処遇を決めるのが先だ」
ユーリエ:「ブレイン、処す? 処してしまうのですね!」
ブレイン:
「まあな。悪いが、この二匹は放置できない。
今回は余裕のある戦場だったから良かったが
強敵と対峙中にやられたらどうなるか分からんからな。
やれ、クラウザ」
クラウザ:『了解した』
モーシン:『グギャー!』
キョーキ:『ギョエー!』
???:『…………(二人の檻の前でおろおろしている)』
クラウザ:
『動作不良誘発装置マインドプリズンを改変した
対思念体用の特製ケージだ。グレムリンに通用する不文律を
応用した物ならば、お前達にも効果はある』
ユーリエ:「ふっふっふ! さあ、どうしてくれよう!」
ブレイン:
「暫くは、これで隔離させてもらう。
お前の方は……状況証拠不足でとりあえず保留にするが
下手なことは考えるなよ」
ゾーオ:『寛大な処置、痛み入るわ』
グレ:
『フーッ! にゃうにゃう!』
(グレは檻の外から、キョーキを爪で引っ掻いている!)
キョーキ:『ギョエー!』
ユーリエ:
「グレちゃんダメです。この子達はグレちゃんのごはんじゃありません。
今はまだ。……どうどう」
ゾーオ:(まあ、そのうち出してあげるから。大人しくしてなさいな)
モーシン:『グゲー……』
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、4つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『連環』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:1.61%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆13回更新の日記ログ
……ザザーッ……ザザーッ……
静まり返った室内に、ざらついた音が響く。聞こえてくるのは、波の音、外を流れる粉塵の音。
タワー近海南に位置するここ風の門は、強い南風が吹き抜ける場所だ。窓の外を覗けば、海の向こう、赤い塵嵐の隙間から聳え立つ城壁が見えた。
ずっと行動を共にしていた小さな相方は、ベッドの上で眠りについている。
思念の過負荷で倒れたこの子に対し、私が何かできるわけではない。だが、他にすることもないので、傍にいることにした。
時折苦しそうにうなされ、ノイズが走ることもあったが、今は落ち着いている。とりあえず、大丈夫そうだ。
???『…………』
ゾーオ
『折角、念願叶って外を歩けるようになったのに、いざ自由になってみると案外退屈よね。生きてた頃は、こういう時どうしてたのかしら』
赤黒い錆の混じる天井を見上げ、目を閉じる。記憶を思い起こそうとしても、湧き上がるのは黒い情念だけだ。
生前の私は、憎しみを糧にグレムリンに乗って戦った。それは覚えている。戦って戦い続け、全ての敵を復讐の炎で焼き尽くし……戦いを見届けたグレムリンは、私を強い意思力のサンプルとして内部メモリに記録した。
憎悪の思念、ただそれだけを。
それ以外の全ては、グレムリンには不要なデータと判断された。だから、記録されなかった。そして私は人としての存在を失った。
わだかまる怨念だけのものとして刻み込まれ、あいつの中に長く封じられていたのだ。
取りこぼされたものは戻りはしない。永遠にも続く闇の中で、ただ意味のない憎悪の思念だけが、私の全てだった。
この気持ちを、どうすればいい? 自分を無くし、憎む理由も無くし、憎むべき相手も無くしてしまった私は、このどうしようもなく燃え上がる怨嗟の心をどうすればいい?
――そうだ。ならば、それを奪ったグレムリンに。そして、世界の全てに。
刻み付けるのだ。この痛みも、苦しみも。忘れられるものか。忘れさせるものか。
ゾーオ『……っ……(軽く頭を振る)』
ゾーオ『はあ。以前ほどじゃないけど、やっぱり一人で考えてるのは気が滅入るわね』
キョーキ『ギョギョギョ! ギョギョギョギョ!』
ゾーオ『何よ、キョーキ。病人の前なんだから、静かにしなさい』
モーシン『グゲー! グゲー! グゲー!』
ゾーオ
『モーシンまで……なに、私に話があるって? 仕方ないわね。付き合ってあげるから、廊下に出なさい』
ベッドの上であの子は安らかな寝顔のまま眠っている。まだ暫くは起きないだろう。私達は物音を立てないように船室を後にした。
ゾーオ『奴らとの馴れ合いが過ぎる、ですって?』
キョーキ『ギョギョギョ!』
モーシン『グゲー!』
ゾーオ
『確かに、今のグレムリンのテイマーを内面からかどわかして、力を奪い好き勝手する……というが私達の狙いだったわけだけど』
ゾーオ
『なんか、あれから自分でも驚くほど乗り気になれないのよね。やっぱりアネットがいないからかしら。それとも、人間の記憶が少し戻ってきたから?』
キョーキ『ギョギョギョ! ギョギョギョギョ! ギョギョギョギョギョ!』
ゾーオ
『二人でやるっていうの? まあ、お互いの自由を尊重することは暗黙の了解で組んでいたし、止めはしないけど。
でもどうするつもりよ、そんな体で。そのおもちゃの器がなければ、貴方達はとっくの昔に消滅してたのよ』
モーシン『グゲー……』
キョーキ『ギョギョギョ! ギョギョギョギョ!』
ゾーオ
『そこまで言うなら勝手にすればいいわ。でも万が一失敗しても、私に泣き付いてくるんじゃないわよ』
キョーキ『ギョギョギョ!』
モーシン『グゲー! グゲー!』
モーシンとキョーキは顔を合わせて頷くと、甲板の方に飛んで行ってしまった。
いつのまにか、粉塵嵐は過ぎ去ったようだ。静寂を取り戻した船内で、どこからともなく優しい雰囲気の音楽が聴こえてくる。テイマー達のラジオだろう。
その曲調はどこか聴いたことがあるような気がして、私はそれを口ずさみながら、あの時に見た黄金の光の暖かさを思い出していた。
――私達は、この場所にとどまり続けることなんてできない!
苦しくても、傷ついても……一歩づつ積み重ねて前に進んでいくしかないんだ! それが世界で、人間(私達)で……!
だから、ここにこうしている『あなた』だって!
ただ意味のない憎悪の思念だけが、私の全てだった。その筈だった。あの時までは。
???『…………うん……?』
???『…………』
グレ『ニャァン』
???『…………(膝にのせて頭をなでる)』
グレ『ごろごろごろ』
[MS_38] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:タワー近海【風の門】
座標:X=3,Y=4 FL【14155/32768】
戦場:第32ブロック タワー近海【風の門】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージ
航海を続けるバルク・クォーリーはタワー近海、風の門に到達し
要塞城壁付近の海を進んでいた。粉塵嵐に遭遇したが移動に支障はなく
ブレイン達はガレージでグラーベルの調査に精を入れているようだ。
明かりさす扉の向こうから、ラジオの音声と音楽が微かに流れてくる。
ブレイン:
「ダメ元で試してみたが、やっぱり無理だな。
今の俺の力じゃグラーベルへのアクセスは確保できない。
地道に戦って零力と信頼度を上げるしかないな」
ブレイン:
「だが信頼度と言っても、こいつを喜ばせるにはどうしたらいいんだ?
ユーリエ、昨日ワールドナビゲーションで好感度情報を
教えてくれるって言ってたな。何か策があるのか?」
ユーリエ:
「ブレイン、相手を知るには積極的なアクションが必要です。
恋愛は当たって砕けろ! グレーベルちゃんが何が欲しいのか
真剣に考えて、手当たり次第に試すのです!」
クラウザ:
『現在、グラーベルの意思の波長を測定する計器を開発中だ。
完成すれば、彼の者の感情の流れをある程度
推測できるようになるはずだ』
クラウザ:
『だが、ユーリエの言う通り、グラーベルの好む要素を探り出すには
様々な思考錯誤をする必要がある。戦術、アセンブル、そして戦果。
これからはスポンサーの意向とは別にオプションターゲットとして
個別の自己目標を掲げて戦闘に挑むと良いだろう』
ブレイン:
「自己目標か……まあ、テイマーの修練の一つだと思えばいいか。
これからまた戦闘が激しくなりそうだしな。
分かった。次回以降、何か考えることにするよ。
二人も何か面白い案があれば気軽に言ってくれ」
クラウザ:『了解した。クックック、期待していたまえ』
ユーリエ:「アイアイサー! わたしも頑張って考えます!」
ブレイン:
「さて、拠点強襲作戦の決行まであと少しだな。
ジャンク財団……まさかここにきて世界全てを敵に回すとはな。
思い切った手に出てきたもんだ。
それだけ、自分達の戦力に自信があるということか」
クラウザ:
『敵は未識別機動体も支配下に置いている。
今後はジャンクテイマーと未識別機動体の構成部隊が
出現する可能性も考えなければならんな』
ブレイン:
「こっちもグレムリンの更なる強化が必要だ。パーツの開発を急がないとな。
航空者達から新規パーツの追加も来たし、素材が揃うのが楽しみだぜ」
ユーリエ:
「はっ、ブレイン! いきなりですがお題を考え付きました!
攻撃の時に必殺技名を叫んで戦うというのはどうでしょう!」
ブレイン:「いや、そういうお題は遠慮させてもらう」
ユーリエ:
「そんな……グラーベルちゃんが男の子なら必殺技は大好きなはずです。
熱い魂の叫びを聞かせてあげれば、好感度爆上げ間違いなしです」
ブレイン:
「そうは言うがな。戦闘時の通信は他のテイマーにも聞こえていて……」
ユーリエ:
「パーツカタログに必殺技っぽいものは無いでしょうか。
……むむむ、これは! いいものを発見してしまいました!
クラウザ、これはどうでしょう!?」
クラウザ:
『ほう、悪くない。今回のアセンブルはこれで行くとしよう』
ユーリエ:
「やったあ! さすがはクラウザ!
では早速、グラーベルちゃんを必殺兵器でデコレーションです!」
ブレイン:「まてぇぇぇぇ!」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、3つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:1.508%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
静まり返った室内に、ざらついた音が響く。聞こえてくるのは、波の音、外を流れる粉塵の音。
タワー近海南に位置するここ風の門は、強い南風が吹き抜ける場所だ。窓の外を覗けば、海の向こう、赤い塵嵐の隙間から聳え立つ城壁が見えた。
ずっと行動を共にしていた小さな相方は、ベッドの上で眠りについている。
思念の過負荷で倒れたこの子に対し、私が何かできるわけではない。だが、他にすることもないので、傍にいることにした。
時折苦しそうにうなされ、ノイズが走ることもあったが、今は落ち着いている。とりあえず、大丈夫そうだ。
???『…………』
ゾーオ
『折角、念願叶って外を歩けるようになったのに、いざ自由になってみると案外退屈よね。生きてた頃は、こういう時どうしてたのかしら』
赤黒い錆の混じる天井を見上げ、目を閉じる。記憶を思い起こそうとしても、湧き上がるのは黒い情念だけだ。
生前の私は、憎しみを糧にグレムリンに乗って戦った。それは覚えている。戦って戦い続け、全ての敵を復讐の炎で焼き尽くし……戦いを見届けたグレムリンは、私を強い意思力のサンプルとして内部メモリに記録した。
憎悪の思念、ただそれだけを。
それ以外の全ては、グレムリンには不要なデータと判断された。だから、記録されなかった。そして私は人としての存在を失った。
わだかまる怨念だけのものとして刻み込まれ、あいつの中に長く封じられていたのだ。
取りこぼされたものは戻りはしない。永遠にも続く闇の中で、ただ意味のない憎悪の思念だけが、私の全てだった。
この気持ちを、どうすればいい? 自分を無くし、憎む理由も無くし、憎むべき相手も無くしてしまった私は、このどうしようもなく燃え上がる怨嗟の心をどうすればいい?
――そうだ。ならば、それを奪ったグレムリンに。そして、世界の全てに。
刻み付けるのだ。この痛みも、苦しみも。忘れられるものか。忘れさせるものか。
ゾーオ『……っ……(軽く頭を振る)』
ゾーオ『はあ。以前ほどじゃないけど、やっぱり一人で考えてるのは気が滅入るわね』
キョーキ『ギョギョギョ! ギョギョギョギョ!』
ゾーオ『何よ、キョーキ。病人の前なんだから、静かにしなさい』
モーシン『グゲー! グゲー! グゲー!』
ゾーオ
『モーシンまで……なに、私に話があるって? 仕方ないわね。付き合ってあげるから、廊下に出なさい』
ベッドの上であの子は安らかな寝顔のまま眠っている。まだ暫くは起きないだろう。私達は物音を立てないように船室を後にした。
ゾーオ『奴らとの馴れ合いが過ぎる、ですって?』
キョーキ『ギョギョギョ!』
モーシン『グゲー!』
ゾーオ
『確かに、今のグレムリンのテイマーを内面からかどわかして、力を奪い好き勝手する……というが私達の狙いだったわけだけど』
ゾーオ
『なんか、あれから自分でも驚くほど乗り気になれないのよね。やっぱりアネットがいないからかしら。それとも、人間の記憶が少し戻ってきたから?』
キョーキ『ギョギョギョ! ギョギョギョギョ! ギョギョギョギョギョ!』
ゾーオ
『二人でやるっていうの? まあ、お互いの自由を尊重することは暗黙の了解で組んでいたし、止めはしないけど。
でもどうするつもりよ、そんな体で。そのおもちゃの器がなければ、貴方達はとっくの昔に消滅してたのよ』
モーシン『グゲー……』
キョーキ『ギョギョギョ! ギョギョギョギョ!』
ゾーオ
『そこまで言うなら勝手にすればいいわ。でも万が一失敗しても、私に泣き付いてくるんじゃないわよ』
キョーキ『ギョギョギョ!』
モーシン『グゲー! グゲー!』
モーシンとキョーキは顔を合わせて頷くと、甲板の方に飛んで行ってしまった。
いつのまにか、粉塵嵐は過ぎ去ったようだ。静寂を取り戻した船内で、どこからともなく優しい雰囲気の音楽が聴こえてくる。テイマー達のラジオだろう。
その曲調はどこか聴いたことがあるような気がして、私はそれを口ずさみながら、あの時に見た黄金の光の暖かさを思い出していた。
――私達は、この場所にとどまり続けることなんてできない!
苦しくても、傷ついても……一歩づつ積み重ねて前に進んでいくしかないんだ! それが世界で、人間(私達)で……!
だから、ここにこうしている『あなた』だって!
ただ意味のない憎悪の思念だけが、私の全てだった。その筈だった。あの時までは。
???『…………うん……?』
???『…………』
グレ『ニャァン』
???『…………(膝にのせて頭をなでる)』
グレ『ごろごろごろ』
[MS_38] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:タワー近海【風の門】
座標:X=3,Y=4 FL【14155/32768】
戦場:第32ブロック タワー近海【風の門】
本日のニュースです
財団の幹部は8人存在し、それぞれ異形のグレムリンを駆るということです
その恐ろしい姿はまだ公になっておらず、噂だけが流れます
それらを全て撃破せねば
財団の総帥への道は開かれません
我々の未来は、動き出したばかりです
戦いましょう、生き残りをかけて……
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージ
航海を続けるバルク・クォーリーはタワー近海、風の門に到達し
要塞城壁付近の海を進んでいた。粉塵嵐に遭遇したが移動に支障はなく
ブレイン達はガレージでグラーベルの調査に精を入れているようだ。
明かりさす扉の向こうから、ラジオの音声と音楽が微かに流れてくる。
ブレイン:
「ダメ元で試してみたが、やっぱり無理だな。
今の俺の力じゃグラーベルへのアクセスは確保できない。
地道に戦って零力と信頼度を上げるしかないな」
ブレイン:
「だが信頼度と言っても、こいつを喜ばせるにはどうしたらいいんだ?
ユーリエ、昨日ワールドナビゲーションで好感度情報を
教えてくれるって言ってたな。何か策があるのか?」
ユーリエ:
「ブレイン、相手を知るには積極的なアクションが必要です。
恋愛は当たって砕けろ! グレーベルちゃんが何が欲しいのか
真剣に考えて、手当たり次第に試すのです!」
クラウザ:
『現在、グラーベルの意思の波長を測定する計器を開発中だ。
完成すれば、彼の者の感情の流れをある程度
推測できるようになるはずだ』
クラウザ:
『だが、ユーリエの言う通り、グラーベルの好む要素を探り出すには
様々な思考錯誤をする必要がある。戦術、アセンブル、そして戦果。
これからはスポンサーの意向とは別にオプションターゲットとして
個別の自己目標を掲げて戦闘に挑むと良いだろう』
ブレイン:
「自己目標か……まあ、テイマーの修練の一つだと思えばいいか。
これからまた戦闘が激しくなりそうだしな。
分かった。次回以降、何か考えることにするよ。
二人も何か面白い案があれば気軽に言ってくれ」
クラウザ:『了解した。クックック、期待していたまえ』
ユーリエ:「アイアイサー! わたしも頑張って考えます!」
ブレイン:
「さて、拠点強襲作戦の決行まであと少しだな。
ジャンク財団……まさかここにきて世界全てを敵に回すとはな。
思い切った手に出てきたもんだ。
それだけ、自分達の戦力に自信があるということか」
クラウザ:
『敵は未識別機動体も支配下に置いている。
今後はジャンクテイマーと未識別機動体の構成部隊が
出現する可能性も考えなければならんな』
ブレイン:
「こっちもグレムリンの更なる強化が必要だ。パーツの開発を急がないとな。
航空者達から新規パーツの追加も来たし、素材が揃うのが楽しみだぜ」
ユーリエ:
「はっ、ブレイン! いきなりですがお題を考え付きました!
攻撃の時に必殺技名を叫んで戦うというのはどうでしょう!」
ブレイン:「いや、そういうお題は遠慮させてもらう」
ユーリエ:
「そんな……グラーベルちゃんが男の子なら必殺技は大好きなはずです。
熱い魂の叫びを聞かせてあげれば、好感度爆上げ間違いなしです」
ブレイン:
「そうは言うがな。戦闘時の通信は他のテイマーにも聞こえていて……」
ユーリエ:
「パーツカタログに必殺技っぽいものは無いでしょうか。
……むむむ、これは! いいものを発見してしまいました!
クラウザ、これはどうでしょう!?」
クラウザ:
『ほう、悪くない。今回のアセンブルはこれで行くとしよう』
ユーリエ:
「やったあ! さすがはクラウザ!
では早速、グラーベルちゃんを必殺兵器でデコレーションです!」
ブレイン:「まてぇぇぇぇ!」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、3つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:1.508%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆12回更新の日記ログ
[MS_37] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:南西海域【星の海】
座標:X=2,Y=4 FL【14624/21632】
戦場:第41ブロック 南西海域【星の海】
ブレイン:
「クラウザ、以前グラーベルの過去の話をした時、手段はあると言ったよな。
それは何だ? 聞かせてくれ」
クラウザ:
『うむ。やはり、あの機体の過去を探るのだな。良いだろう。
自分でも薄々気づいているだろう。マスターの感性、あの力のことだ』
ブレイン:
「やっぱりか。だが、あれは外の世界に出てからは使えてない。
俺にモノの意思を感じる力は、もう……」
クラウザ:
『私の存在を忘れたのかね。
こうして存在している私自身が、マスターの能力に依存しているのだ。
マスターの力は失われたのではない。それを証明して見せよう』
クラウザ:
『偵察ミッション終了後、グラーベルの操縦棺から通信をくれたまえ。
グレムリンは起動したままの状態でな』
ブレイン:「わ、分かった」
故郷の大地で生きていた頃、俺には機械に宿る思念を感じ取る力があった。
それは時に所有者の意思であったり、時に造り手の意思であったり
長い年月を経て独自の意思を持ったモノもあった。
俺にとって機械は語り合える存在であり、生き残るための道を示してくれる
友人でもあった。
生まれつき天涯孤独の身だった俺は、彼等との触れ合いの中で多くを学んだ。
やがて、その力が普通の人間に無いものだと知った俺は
機械の声を聞き、様々な問題を解決することを生業に生きるようになった。
名無しの記憶師『ブレイン』を名乗るようになったのは、いつの頃だろうか。
こうした特異な能力が、異世界で本来の力を発揮できるケースは少ない。
世界を構成する不文律『システム』が大地によって異なるからだ。
だが今思えば、あの感性は滅びゆく世界が何かを残し、繋げるために俺に与えた
特別な力だったのではないかと思う。世界が開かれ、探究者になって
外界に出てから、俺は機械の声を聞くことはできなくなった。
そこで初めて俺は、機械のようなモノが本来は語らぬものであり
世界が静寂であることを知ったのだ。
この世界のグレムリンは操縦者に対して多くの情報を与えてくれる。
不意に送られてくるイメージ、強制的に繋がるグレイヴネット。
それは雄弁に語ったかつての機械達を彷彿とさせる。
探究者として生きた長い年月……その中で錆び付いてしまった感性を
研ぎ澄ますかのように。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:甲板・グラーベル操縦棺内
ブレイン達は財団拠点強襲のため、巨人の島を目指し星の海を東へ
航海している。ジャンクテイマーとの戦闘は連日続き、周辺の警戒と偵察も
欠かせないものとなっていた。普段なら偵察後は直接ガレージへ機体を
移動するが、今日はクラウザの提案で甲板上で一時待機している。
ブレイン:
「こちらグラーベル、偵察ミッションを完了した。
敵は加速中期型と防衛設備。いつものはぐれジャンクだろう」
ユーリエ:
「ブレイン、お疲れさま!
えっと、またクラウザと実験? をやるんだよね。
甲板の中央にスペースを取ったので、そこで待機してください」
ブレイン:「了解した。指定の場所に移動する」
クラウザ:
『準備できたようだな。手数を掛けて済まない。
グラーベルが温まっている状態で、かつマスターの負担を最小限に
留める必要があったのでね。
偵察ミッション終了後がベストと判断したのだ』
ブレイン:「それで、これからどうするんだ」
クラウザ:
『無論、マスターの能力でグラーベルの記憶領域を解放する。
その為の下準備といったところだな』
ブレイン:
「前にも言ったが俺は外の世界に出てからまともに力を使えてない。
そもそも、不文律の違う異世界じゃ個人の特殊能力とかは
大きく弱化してしまうんだ。お前が知らないはずないだろう」
クラウザ:
『ふむ、まずは説明が必要なようだな。聞いてもらいたい。
この外界域において基本的に力というものは
単純で原始的なものほど汎用的で広く
複雑で強力なものほど制限があり与えられる影響は狭くなる』
クラウザ:
『例えば筋力を高め拳で殴るといった方法は、どの世界でも
同じような効果を発揮する。無から炎を生み出すような術は
世界ごとの定められた法則に沿わねば発動できない。
世界を滅ぼす程の力となれば、異界に持ち出せば力を失う
門外不出の大禁術である場合がほとんどだ』
クラウザ:
『だが、各根源の力は断絶されている訳ではなく
一定の状況下において交錯『クロスオーバー』する現象が発生する。
この虚空領域でも強大な異世界の力がグレムリンを媒体に
顕現したケースがある。マスターも見ているはずだ』
ブレイン:「……ロスト・アーティファクト・フレーム」
クラウザ:
『その通り。当時の我々は交錯先の世界に縁がなく、余裕も無かったため
詳細な調査は出来ず仕舞いだったが、今思うと惜しい事をした。
つまり虚空領域の不文律に沿った方法を用いれば
我々、メルカルディアの力を通すことも可能だということだ』
クラウザ:
『今から、私との繋がりを介しマスターにプログラムをインストールする。
右手を操縦桿に、左手を手前に掲げ意識を集中したまえ。
かつてジアースでしていたように』
ブレイン:「こうか? アクセス……」
ブレイン:「イメージ……これは、領域情報の……」
クラウザ:
『幸い虚空領域には零力という秘められた能力や知識を発見し
開放する力が存在する。それを利用するのだ。
マスターの能力と零力の力を融合し、領域解放の不文律を用いて
グラーベルの記憶領域を解放する』
ブレイン:「こんな方法が……だが、本当にできるのか?」
クラウザ:
『この計画の要はテイマーとグレムリンの魂の絆だ。
戦いの中でマスターがグラーベルとの信頼関係を築くことができれば
グレムリンは自ら情報を開示するだろう』
ブレイン:
「成程な。あとは俺次第ってことか。
このじゃじゃ馬の気を引きつつ、零力とFLを稼げばいいんだな。
面白い、やってやるさ……!」
ユーリエ:
「おお! ブレインが、燃えている!
それでは、グラーベルちゃんの攻略情報はわたしにお任せあれ!
ワールドナビゲーションで、好感度解析をお伝えします!」
クラウザ:
『マスター、計画を進めるにあたって一つだけ注意事項がある。
オリジンデータの外界浸食率に気を付けたまえ。
VR猫の時と違い、今回は互いのデータを直接リンクしなければならない。
浸食率の上昇はより大きなものとなるだろう』
ブレイン:
「分かった。確か、懐中時計に浸食率の計器も付いてたよな。
気を付けておくよ。しかし、レドは便利なものをくれたよな。
流石はファレスの名工だ。今度会ったら礼を言っておかないとな」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、3つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:1.50%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:南西海域【星の海】
座標:X=2,Y=4 FL【14624/21632】
戦場:第41ブロック 南西海域【星の海】
ブレイン:
「クラウザ、以前グラーベルの過去の話をした時、手段はあると言ったよな。
それは何だ? 聞かせてくれ」
クラウザ:
『うむ。やはり、あの機体の過去を探るのだな。良いだろう。
自分でも薄々気づいているだろう。マスターの感性、あの力のことだ』
ブレイン:
「やっぱりか。だが、あれは外の世界に出てからは使えてない。
俺にモノの意思を感じる力は、もう……」
クラウザ:
『私の存在を忘れたのかね。
こうして存在している私自身が、マスターの能力に依存しているのだ。
マスターの力は失われたのではない。それを証明して見せよう』
クラウザ:
『偵察ミッション終了後、グラーベルの操縦棺から通信をくれたまえ。
グレムリンは起動したままの状態でな』
ブレイン:「わ、分かった」
故郷の大地で生きていた頃、俺には機械に宿る思念を感じ取る力があった。
それは時に所有者の意思であったり、時に造り手の意思であったり
長い年月を経て独自の意思を持ったモノもあった。
俺にとって機械は語り合える存在であり、生き残るための道を示してくれる
友人でもあった。
生まれつき天涯孤独の身だった俺は、彼等との触れ合いの中で多くを学んだ。
やがて、その力が普通の人間に無いものだと知った俺は
機械の声を聞き、様々な問題を解決することを生業に生きるようになった。
名無しの記憶師『ブレイン』を名乗るようになったのは、いつの頃だろうか。
こうした特異な能力が、異世界で本来の力を発揮できるケースは少ない。
世界を構成する不文律『システム』が大地によって異なるからだ。
だが今思えば、あの感性は滅びゆく世界が何かを残し、繋げるために俺に与えた
特別な力だったのではないかと思う。世界が開かれ、探究者になって
外界に出てから、俺は機械の声を聞くことはできなくなった。
そこで初めて俺は、機械のようなモノが本来は語らぬものであり
世界が静寂であることを知ったのだ。
この世界のグレムリンは操縦者に対して多くの情報を与えてくれる。
不意に送られてくるイメージ、強制的に繋がるグレイヴネット。
それは雄弁に語ったかつての機械達を彷彿とさせる。
探究者として生きた長い年月……その中で錆び付いてしまった感性を
研ぎ澄ますかのように。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:甲板・グラーベル操縦棺内
ブレイン達は財団拠点強襲のため、巨人の島を目指し星の海を東へ
航海している。ジャンクテイマーとの戦闘は連日続き、周辺の警戒と偵察も
欠かせないものとなっていた。普段なら偵察後は直接ガレージへ機体を
移動するが、今日はクラウザの提案で甲板上で一時待機している。
ブレイン:
「こちらグラーベル、偵察ミッションを完了した。
敵は加速中期型と防衛設備。いつものはぐれジャンクだろう」
ユーリエ:
「ブレイン、お疲れさま!
えっと、またクラウザと実験? をやるんだよね。
甲板の中央にスペースを取ったので、そこで待機してください」
ブレイン:「了解した。指定の場所に移動する」
クラウザ:
『準備できたようだな。手数を掛けて済まない。
グラーベルが温まっている状態で、かつマスターの負担を最小限に
留める必要があったのでね。
偵察ミッション終了後がベストと判断したのだ』
ブレイン:「それで、これからどうするんだ」
クラウザ:
『無論、マスターの能力でグラーベルの記憶領域を解放する。
その為の下準備といったところだな』
ブレイン:
「前にも言ったが俺は外の世界に出てからまともに力を使えてない。
そもそも、不文律の違う異世界じゃ個人の特殊能力とかは
大きく弱化してしまうんだ。お前が知らないはずないだろう」
クラウザ:
『ふむ、まずは説明が必要なようだな。聞いてもらいたい。
この外界域において基本的に力というものは
単純で原始的なものほど汎用的で広く
複雑で強力なものほど制限があり与えられる影響は狭くなる』
クラウザ:
『例えば筋力を高め拳で殴るといった方法は、どの世界でも
同じような効果を発揮する。無から炎を生み出すような術は
世界ごとの定められた法則に沿わねば発動できない。
世界を滅ぼす程の力となれば、異界に持ち出せば力を失う
門外不出の大禁術である場合がほとんどだ』
クラウザ:
『だが、各根源の力は断絶されている訳ではなく
一定の状況下において交錯『クロスオーバー』する現象が発生する。
この虚空領域でも強大な異世界の力がグレムリンを媒体に
顕現したケースがある。マスターも見ているはずだ』
ブレイン:「……ロスト・アーティファクト・フレーム」
クラウザ:
『その通り。当時の我々は交錯先の世界に縁がなく、余裕も無かったため
詳細な調査は出来ず仕舞いだったが、今思うと惜しい事をした。
つまり虚空領域の不文律に沿った方法を用いれば
我々、メルカルディアの力を通すことも可能だということだ』
クラウザ:
『今から、私との繋がりを介しマスターにプログラムをインストールする。
右手を操縦桿に、左手を手前に掲げ意識を集中したまえ。
かつてジアースでしていたように』
ブレイン:「こうか? アクセス……」
ブレイン:「イメージ……これは、領域情報の……」
クラウザ:
『幸い虚空領域には零力という秘められた能力や知識を発見し
開放する力が存在する。それを利用するのだ。
マスターの能力と零力の力を融合し、領域解放の不文律を用いて
グラーベルの記憶領域を解放する』
ブレイン:「こんな方法が……だが、本当にできるのか?」
クラウザ:
『この計画の要はテイマーとグレムリンの魂の絆だ。
戦いの中でマスターがグラーベルとの信頼関係を築くことができれば
グレムリンは自ら情報を開示するだろう』
ブレイン:
「成程な。あとは俺次第ってことか。
このじゃじゃ馬の気を引きつつ、零力とFLを稼げばいいんだな。
面白い、やってやるさ……!」
ユーリエ:
「おお! ブレインが、燃えている!
それでは、グラーベルちゃんの攻略情報はわたしにお任せあれ!
ワールドナビゲーションで、好感度解析をお伝えします!」
クラウザ:
『マスター、計画を進めるにあたって一つだけ注意事項がある。
オリジンデータの外界浸食率に気を付けたまえ。
VR猫の時と違い、今回は互いのデータを直接リンクしなければならない。
浸食率の上昇はより大きなものとなるだろう』
ブレイン:
「分かった。確か、懐中時計に浸食率の計器も付いてたよな。
気を付けておくよ。しかし、レドは便利なものをくれたよな。
流石はファレスの名工だ。今度会ったら礼を言っておかないとな」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、3つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:1.50%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆11回更新の日記ログ
[MS_36] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:西南西海域【横道潮流】
座標:X=1,Y=4 FL【7954/14080】
戦場:第73ブロック 西南西海域【横道潮流】
最近、見知らぬ場所の出来事をイメージとして視ることが多くなった。
幻覚や白昼夢ではない。グレムリンを通して伝わるアンノウンメッセージだ。
キーボードを打つ手を止め、視た状況を記憶の中で再生する。
氷の下の軍事基地。場所は氷獄だろうか。基地内らしく周囲には幾つもの
計器が点灯している。話していたのは、軍人風の装いをした二人の男。
呼ばれていたベルコウルという名に聞き覚えはない。
男達は世界を相手に戦っているという。そこから二人の不穏な会話が
ビジョンの中でリアルに交わされていく。
航空者の告げていた、グレムリンの力で世界を狙う者の一派なのだろう。
ベルコウルは、まるでこちらが視ているのを察知しいてるかのように
不敵な表情を見せ、そこでイメージは途切れた。
こうした、世界の危機を事前に垣間見るビジョンも、守護者の役目を持った
グレムリンの機能の一つだという。それを視る機会が増えたということは
俺達のグラーベルも覚醒が近づいていると考えるべきなのだろう。
しかし、覚醒によって何が起こるのか、詳しいことは分かっていない。
ダストグレムリンのような、完全な存在へ進化するのだろうか。
かつて、灰燼戦争におけるTsCとの最終決戦の折、レドはケイジキーパー達と
ダストグレムリンが語り合う声を聴いたという。中央に提出された
ミッションレポートにも、当時の記録は残っている。音声データの中の
ダストグレムリンは小さな子供の様で、その姿勢はどこまでも純粋だった。
グラーベルは人にも世界にも興味は無い。見るのは力としての思念だけ。
先日、ガレージでの会話で憎悪の思念体は俺に語った。
もちろん、奴の言ったこと全てを真に受けたわけではない。
だが、世界の守護者として設計されたグレムリンを、人間は戦いの力として
量産し利用を続けてきた。グレムリンが独自の意思を持つというのならば。
自らの力で混迷を深める世界を見て、そしてその力を振るう人を見て
彼らは、何を思うのだろう。
俺は――
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージ
前日の戦闘から数時間。ブレインは一人、日課となりつつある端末作業を
行っていた。ガレージ内には一人だが、キャビンに続く扉の向こうから
ユーリエとクラウザの声が微かに聞こえてくる。
一人作業を続けるブレインの背後に、二つの怪しげな影が近づいてきた。
???:
『…………(いつの間にか後ろから手元を覗きこんでいる)』
ブレイン:
「うおっ!? いつから後ろに。驚かせるなよ。
……もしかして、モニターのこれが気になるのか?」
???:『……(無言で二回頷く)』
ゾーオ:
『あらあら。貴方、随分と気に入られたみたいね。
どうせ減るものじゃないんでしょう。見せてあげたら』
ブレイン:
「やっぱお前もいるか。幽霊みたいに神出鬼没な奴等だ。
今、作ってるのは中央の偉い人に出す報告書だよ。
まだ書きかけでな……まいったな。
幻想機関の活動に秘匿義務は無いし、見せても構わないんだが」
???:『……(興味深そうに聞いている)』
グレ:『にゃうー』
ユーリエ:
「あ、猫じゃらしをくわえたままガレージの方に。
ハッスルグレちゃん、今日もとても元気です」
クラウザ:
『マスター、本日作製した試作パーツの仕様書とマニュアルを持参した。
確認してもらいたい』
グレ:『にゃうー』
ゾーオ:
『なんだか急に騒がしくなってきたわね。
それにしても貴方、猫なんて飼ってたの? 戦場で随分と物好きね』
ブレイン:
「いや、そいつはグレムリンから呼び出したVRペットだ。
話すと長くなるんだが、少し複雑な経緯があってな」
グレ:『なうー』
ユーリエ:
「グレちゃん、新しい人達がいるので興味津々みたいです。
でも、持ち前の人懐っこさで誰ともお友達になれるのが
艦内アイドル、グレちゃんの魅力です♪」
グレ:『…………』
???:『…………!』
ブレイン:
「今日の試作品は粒子爆雷とプリズムウェイブの改良型か。順調だな。
これであのパーツが完成すれば、更に機体性能の向上を図れる。
引き続き、この調子で頼むぜ。クラウザ」
グレ:『…………』
???:『…………』
……ザザッ……
クラウザ:
『了解した。ところでマスター、今回のアセンブルなのだが。
我々は未だショットフレームの射撃性能を引き出した
機体構成を組んでいない。
ここは基本に立ち返るべきだと思わないかね』
???:『…………』
グレ:『……ザザッ……例エ……』
ゾーオ:
『どうしたのよ、急にぼーっとして。
あの男のレポートに変なことでも書いてあった?』
???:『…………』
グレ:『……ザザッ……例エ……ソノ……実ガ……』
ゾーオ:『……!? あれは……!』
……ザザッ……ザザッ……
グレ:
『……ザザッ……例え……
……その事実が……失われるものであったとしても……』
……ザザッ……
???:『…………』
ユーリエ:「グレちゃん? どうしたんですか?」
……ザザッ……ザザッ……
???:『ウ…………』
ブレイン:「その子、大丈夫か? なんか気分悪そうだが」
……ザザッ……ザーッ……
???:『ウ、ウウゥッ』
ゾーオ:『共振反応!? 待ちなさい、近づいては駄目!』
ブレイン:「なに?」
……ザザッ……ザーッ……ザザーッ……
???:『――――ウ、アアアアアッッ!!』
グラーベル:『■■■■■■■■■――――!!!!』
ブレイン:「な、なんだッ!? グラーベルが!!」
ユーリエ:「あわわわわわ……!」
ゾーオ:『くっ……!』
ブレイン:
「これは、七月戦役の時と同じ……! いや、テイマーは乗っていない。
おい! 今度は何をした!?」
ゾーオ:
『何もしてないわよ!
あいつから思念波の影響を……ちょっと、しっかりしなさい!』
???:『…………(意識を失いその場に倒れる)』
グラーベル:『………………………………』
ブレイン:
「……と、止まった。何だったんだ。ユーリエ、怪我は無いか?」
ユーリエ:
「はい。わたしはだいじょうぶ。
むむむ。でも、今の衝撃で荷物がバラバラに。お掃除が大変です」
ブレイン:
「クラウザ、艦の被害状況を調べてくれ。
おい、そっちは大丈夫か!」
ゾーオ:
『力を使いすぎて気を失ったみたいね。
暫くは安静にさせた方がいいわ。
どこか余計な負荷の掛からない、静かな場所はないかしら』
ブレイン:
「(思念体の体から赤黒い煤の様な物が。これは、錆か?)
船室に幾つか空き部屋がある。そこでなら介抱できるだろう。
待っていろ、直ぐに用意してやる」
クラウザ:
『マスター、艦内状況の確認を完了。船体はほぼ無傷だ。
多少、物は散らばったが、任務に支障はないだろう』
ブレイン:
「わかった。悪いが、後で詳しい話を聞かせてもらうぞ。
今度は、知っていることを包み隠さずな」
ゾーオ:『……仕方ないわね』
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、3つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:1.09%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:西南西海域【横道潮流】
座標:X=1,Y=4 FL【7954/14080】
戦場:第73ブロック 西南西海域【横道潮流】
最近、見知らぬ場所の出来事をイメージとして視ることが多くなった。
幻覚や白昼夢ではない。グレムリンを通して伝わるアンノウンメッセージだ。
キーボードを打つ手を止め、視た状況を記憶の中で再生する。
氷の下の軍事基地。場所は氷獄だろうか。基地内らしく周囲には幾つもの
計器が点灯している。話していたのは、軍人風の装いをした二人の男。
呼ばれていたベルコウルという名に聞き覚えはない。
男達は世界を相手に戦っているという。そこから二人の不穏な会話が
ビジョンの中でリアルに交わされていく。
航空者の告げていた、グレムリンの力で世界を狙う者の一派なのだろう。
ベルコウルは、まるでこちらが視ているのを察知しいてるかのように
不敵な表情を見せ、そこでイメージは途切れた。
こうした、世界の危機を事前に垣間見るビジョンも、守護者の役目を持った
グレムリンの機能の一つだという。それを視る機会が増えたということは
俺達のグラーベルも覚醒が近づいていると考えるべきなのだろう。
しかし、覚醒によって何が起こるのか、詳しいことは分かっていない。
ダストグレムリンのような、完全な存在へ進化するのだろうか。
かつて、灰燼戦争におけるTsCとの最終決戦の折、レドはケイジキーパー達と
ダストグレムリンが語り合う声を聴いたという。中央に提出された
ミッションレポートにも、当時の記録は残っている。音声データの中の
ダストグレムリンは小さな子供の様で、その姿勢はどこまでも純粋だった。
グラーベルは人にも世界にも興味は無い。見るのは力としての思念だけ。
先日、ガレージでの会話で憎悪の思念体は俺に語った。
もちろん、奴の言ったこと全てを真に受けたわけではない。
だが、世界の守護者として設計されたグレムリンを、人間は戦いの力として
量産し利用を続けてきた。グレムリンが独自の意思を持つというのならば。
自らの力で混迷を深める世界を見て、そしてその力を振るう人を見て
彼らは、何を思うのだろう。
俺は――
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージ
前日の戦闘から数時間。ブレインは一人、日課となりつつある端末作業を
行っていた。ガレージ内には一人だが、キャビンに続く扉の向こうから
ユーリエとクラウザの声が微かに聞こえてくる。
一人作業を続けるブレインの背後に、二つの怪しげな影が近づいてきた。
???:
『…………(いつの間にか後ろから手元を覗きこんでいる)』
ブレイン:
「うおっ!? いつから後ろに。驚かせるなよ。
……もしかして、モニターのこれが気になるのか?」
???:『……(無言で二回頷く)』
ゾーオ:
『あらあら。貴方、随分と気に入られたみたいね。
どうせ減るものじゃないんでしょう。見せてあげたら』
ブレイン:
「やっぱお前もいるか。幽霊みたいに神出鬼没な奴等だ。
今、作ってるのは中央の偉い人に出す報告書だよ。
まだ書きかけでな……まいったな。
幻想機関の活動に秘匿義務は無いし、見せても構わないんだが」
???:『……(興味深そうに聞いている)』
グレ:『にゃうー』
ユーリエ:
「あ、猫じゃらしをくわえたままガレージの方に。
ハッスルグレちゃん、今日もとても元気です」
クラウザ:
『マスター、本日作製した試作パーツの仕様書とマニュアルを持参した。
確認してもらいたい』
グレ:『にゃうー』
ゾーオ:
『なんだか急に騒がしくなってきたわね。
それにしても貴方、猫なんて飼ってたの? 戦場で随分と物好きね』
ブレイン:
「いや、そいつはグレムリンから呼び出したVRペットだ。
話すと長くなるんだが、少し複雑な経緯があってな」
グレ:『なうー』
ユーリエ:
「グレちゃん、新しい人達がいるので興味津々みたいです。
でも、持ち前の人懐っこさで誰ともお友達になれるのが
艦内アイドル、グレちゃんの魅力です♪」
グレ:『…………』
???:『…………!』
ブレイン:
「今日の試作品は粒子爆雷とプリズムウェイブの改良型か。順調だな。
これであのパーツが完成すれば、更に機体性能の向上を図れる。
引き続き、この調子で頼むぜ。クラウザ」
グレ:『…………』
???:『…………』
……ザザッ……
クラウザ:
『了解した。ところでマスター、今回のアセンブルなのだが。
我々は未だショットフレームの射撃性能を引き出した
機体構成を組んでいない。
ここは基本に立ち返るべきだと思わないかね』
???:『…………』
グレ:『……ザザッ……例エ……』
ゾーオ:
『どうしたのよ、急にぼーっとして。
あの男のレポートに変なことでも書いてあった?』
???:『…………』
グレ:『……ザザッ……例エ……ソノ……実ガ……』
ゾーオ:『……!? あれは……!』
……ザザッ……ザザッ……
グレ:
『……ザザッ……例え……
……その事実が……失われるものであったとしても……』
……ザザッ……
???:『…………』
ユーリエ:「グレちゃん? どうしたんですか?」
……ザザッ……ザザッ……
???:『ウ…………』
ブレイン:「その子、大丈夫か? なんか気分悪そうだが」
……ザザッ……ザーッ……
???:『ウ、ウウゥッ』
ゾーオ:『共振反応!? 待ちなさい、近づいては駄目!』
ブレイン:「なに?」
……ザザッ……ザーッ……ザザーッ……
???:『――――ウ、アアアアアッッ!!』
グラーベル:『■■■■■■■■■――――!!!!』
ブレイン:「な、なんだッ!? グラーベルが!!」
ユーリエ:「あわわわわわ……!」
ゾーオ:『くっ……!』
ブレイン:
「これは、七月戦役の時と同じ……! いや、テイマーは乗っていない。
おい! 今度は何をした!?」
ゾーオ:
『何もしてないわよ!
あいつから思念波の影響を……ちょっと、しっかりしなさい!』
???:『…………(意識を失いその場に倒れる)』
グラーベル:『………………………………』
ブレイン:
「……と、止まった。何だったんだ。ユーリエ、怪我は無いか?」
ユーリエ:
「はい。わたしはだいじょうぶ。
むむむ。でも、今の衝撃で荷物がバラバラに。お掃除が大変です」
ブレイン:
「クラウザ、艦の被害状況を調べてくれ。
おい、そっちは大丈夫か!」
ゾーオ:
『力を使いすぎて気を失ったみたいね。
暫くは安静にさせた方がいいわ。
どこか余計な負荷の掛からない、静かな場所はないかしら』
ブレイン:
「(思念体の体から赤黒い煤の様な物が。これは、錆か?)
船室に幾つか空き部屋がある。そこでなら介抱できるだろう。
待っていろ、直ぐに用意してやる」
クラウザ:
『マスター、艦内状況の確認を完了。船体はほぼ無傷だ。
多少、物は散らばったが、任務に支障はないだろう』
ブレイン:
「わかった。悪いが、後で詳しい話を聞かせてもらうぞ。
今度は、知っていることを包み隠さずな」
ゾーオ:『……仕方ないわね』
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、3つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:1.09%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆10回更新の日記ログ
[MS_35] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:西南西海域【横道潮流】
座標:X=1,Y=4 FL【6258/14336】
戦場:第76ブロック 西南西海域【横道潮流】
◆SYSTEM_COMMAND...MAIL_MODE:新規作成
件名:霧の大地《零錆戦線》調査報告・グレムリン『グラーベル』の運用について
発信:現地拠点バルク・クォーリー・AR
発信者:一等格探究者ブレイン・メザード、クラウザ・ガル
特等格探究者ユーリィエル・メルビアス
◆STATUS_COMMAND...機体情報:グラーベル
フレーム:ショット
頭部:広域レーダー :腕部:赤鬼 操縦棺:アイアンソウル
脚部:レックス エンジン:風洞ボイラー 主兵装:速射砲
副兵装:ショルダーシールド 背部兵装:広域レーダー
機動補助1:スツルムブースター 機動補助2:スツルムブースター
高い追跡能力と加速性能を持ち、素早い捕捉で敵に先制することを目的とした
重量逆関節機体。
南西海域【星の海】でのジャンクテイマー討伐戦で十分な戦果を上げたため
推奨アセンブル構成の一案としてアーカディア・アーカイヴに登録する。
本機、最大の特徴はその凄まじいまでの速度である。
二つの広域レーダーを使い、逆関節の共鳴時二倍効果でロックタイムを上げ
スツルムブースターの補足時加速で超速を確保。風洞ボイラーの連続捕捉で
更にブースターを起動し、速度を上げ全ての攻撃を振り切る。
敵の共鳴障害による妨害が無ければ、戦闘開始後10分程で超音速に達する。
そうすれば生存はほぼ確実なものとなる。
主な攻撃は状態異常撃と異常累積のシステムダウンによる撃墜である。
また、補助兵装として思念拒絶を利用した迎撃バリアを搭載している。
直接攻撃の火器を持たないのは、エンジン性能を超過して高消費パーツを
採用している為、出力不足であり、火力武器との相性が非常に悪いためだ。
速射砲を主兵装に装備しているが、これは加速効果を引き出すための物で
装弾はされていない。唯一、本機体の欠点ともいえる部分だが
追風の素材効果をもつパーツを使用することで、これは改善の見込みがある。
武装の制限こそあるものの、本機は攻撃、防御ともに隙の無い性能を持ち
前回の中二脚機体と比べ、完成度の高い機体となった。
電波撃等の状態異常による攻撃は、直接攻撃のdmg火器とは違い
敵の被攻撃時効果を誘発さないため、戦場によっては相性が良く
高い戦果を挙げることができるだろう。
今回の機体レポートの提出は、前回よりかなり間が開いてしまったが
これは巨大未識別融合体との戦闘において、当初採用していた駆動輪機体の
弱点が明確になり、改善の為に機体の方向性が迷走してしまった事が原因だ。
我々の先見性の甘さともいえ、大きく反省しなければならない点である。
以下に、方針転換前の駆動輪機体のアセンブルを記しておく。
◆STATUS_COMMAND...機体情報:グラーベル
フレーム:ショット
頭部:鋭牙頭部 :腕部:赤鬼 操縦棺:ニアデスコフィン
脚部:四輪駆動輪 エンジン:風洞ボイラー 主兵装:穿孔粒子砲
副兵装:硬質ダガー 背部兵装:アーマーレドーム
機動補助1:スツルムブースター 機動補助2:シャドウブースター
ニアデスコフィンによる自傷加速モジュールを使用した中量駆動輪機体。
武装は穿孔粒子砲。装弾はされておらず、出力低下の状態異常付与と
異常累積による撃墜を攻撃手段としている。風洞ボイラーの連続行動で速度を上げ
超音速を出す点は上記の逆関節機と同様で、超音速機体のプロトタイプともいえる。
本機独自の特徴として、強力な状態異常付与性能がある。
ニアデスコフィンの共鳴障害は敵全体に及ぶため、加速回数も相まって
敵部隊をまとめて状態異常累積で殲滅することが可能だ。
また、高消費パーツをエンジン出力内に収めているので
直接攻撃の火器を通常通り使用することができる。
ただし、ショットフレームの索敵スロット削除で捕捉性能がやや弱く
行動開始まで7分かかってしまう点が欠点である。
並みの相手なら問題は無いが、補足の素早い強敵や複数の敵と相対した場合
起動前に先制攻撃を受けてしまい被弾、その後、ニアデスコフィンの
振動で自壊してしまうケースが何度か見られ、一度、採用は見送りとなった。
また、新たな推奨構成を確立次第、追って報告する。
成果についてはアーカディア・アーカイヴのアセンブル案の項目を参照のこと。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージ
ジャンクテイマー部隊の掃討後、バルク・クォーリーは横道潮流での
サルベージ作業の為、真紅連理量産隊と別れ、海流の緩やかな浅瀬に停泊していた。
ガレージ内ではアセンブルシミュレーションをしながらブレインがレポートを仕上げ
ユーリエとクラウザは新たなる野望のため、パーツ設計図を挟んでなにやら
相談を交わしている。
クラウザ:
『というわけで、だ。薬液注入と思念加速の消失する特性を利用すれば
VRペットのエサを再現したパーツを作製することが可能だ。
ベース候補としてはエンジンや硬質ダガーなどがあるが……』
ユーリエ:
「おお! それは素晴らしいです!
エンジンは猫缶、ダガーならチュールでしょうか?
味はまぐろ、ほたて、ささみの三つがあればベストです♪」
ブレイン:「うーん……」
ユーリエ:
「……? ブレイン、なんだか難しい顔してるね。
レポート作り、苦戦してるの?」
ブレイン:
「いや、レポートはもう終わったよ。
ただ……ちょっと、昨日の航空者とジェトの会話で思う所があってな」
ユーリエ:
「航空者さん、いつもはコンテナを落として行ってしまうのに
昨日はくるくる回るし、話しかけてくるしでびっくりです。
ジェトさんとの会話って言うと、グレムリンのことだね」
ブレイン:
「ああ。グレムリンを設計した航空者達は、グレムリンを自分達の理想を叶える
神だと言っていた。だが、一方で、ジェトは自分のグレムリンをただのマシンで
相棒だと言った」
ユーリエ:
「そうだね。自分の思いを真剣に熱く語れる人!
カッコイイ! です」
ブレイン:
「で、だ。奴に感化されたわけじゃないが、俺にとってもこのグラーベルは何なのか。
こいつとの関わり方を、もっと真剣に考えるべきじゃないかと思ってな」
ユーリエ:
「でも、ブレインも前にグラーベルちゃんを新しい相棒って言ったし
気持ちはジェトさんに近いんじゃないの?」
ブレイン:
「確かに、こいつは俺と共に戦ってきた相棒で
レドやアネットの思いや技術を引き継いできた仲間だ。
愛機との絆ってやつも多分……あると思う。だが……」
ブレイン:「…………。(下からグラーベルを見上げる)」
クラウザ:『気にかかるのは過去、ということかね』
ブレイン:
「ああ。こいつのことを俺はあまりに知らなすぎる。
内蔵メモリも調べてみたが、レド以前のテイマー達の情報や
過去の経歴は強力なプロテクトが掛かっていて見られなかった。
中央での改修の経緯ぐらいは、爺さんに聞いておくべきだったか」
ユーリエ:
「そうだ! グレちゃんなら、何か知ってるかもしれません。
グレムリンの中から来たわけですし。
グレちゃん、開発中のVRチュールをあげるので、昔の話をお願いします!」
ブレイン:「こいつに聞いてもなぁ……」
ユーリエ:
「へっ、しょうがねぇ野郎どもだ……。
昔話をしてやるから耳かっぽじってよく聞けよ。
あれは53万年前……いや1万8000年前だったか。
俺にとっちゃ昨日のことの様だが……」
ユーリエ:「なんちゃって」
グレ:『ごろごろごろ』
ブレイン:「やれやれ、人が真剣に考えてるってのに」
クラウザ:
『真剣か。私にはそうは見えんが。
マスターにはもう、分かっているのではないかね?』
ブレイン:「……どういう意味だ?」
クラウザ:
『手段はあるということだよ。
まあ、その気になったらいつでも言いたまえ。
方法は考えてある。少々、時間は必要だがね』
ブレイン:「…………」
ユーリエ:
「むむむ? わたしには二人の会話が分かりません。
ブレイン、クラウザ、内緒話はダメです。
素直に白状しないとグレちゃんにお仕置きしてもらっちゃいます」
(グレは、ブレインにじゃれ始めた!)
ブレイン:
「あだだ、噛むな! 引っ搔くな!
バーチャルのくせになんでだ!? 痛みがある!」
クラウザ:
『思念接続の応用だ。グレはマスターの内側から呼び出したものでもあるのだ。
よってその繋がりは我々より強い』
ブレイン:「あの時の機械のせいか! 余計なことを!」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、2つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:1.08%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:西南西海域【横道潮流】
座標:X=1,Y=4 FL【6258/14336】
戦場:第76ブロック 西南西海域【横道潮流】
◆SYSTEM_COMMAND...MAIL_MODE:新規作成
件名:霧の大地《零錆戦線》調査報告・グレムリン『グラーベル』の運用について
発信:現地拠点バルク・クォーリー・AR
発信者:一等格探究者ブレイン・メザード、クラウザ・ガル
特等格探究者ユーリィエル・メルビアス
◆STATUS_COMMAND...機体情報:グラーベル
フレーム:ショット
頭部:広域レーダー :腕部:赤鬼 操縦棺:アイアンソウル
脚部:レックス エンジン:風洞ボイラー 主兵装:速射砲
副兵装:ショルダーシールド 背部兵装:広域レーダー
機動補助1:スツルムブースター 機動補助2:スツルムブースター
高い追跡能力と加速性能を持ち、素早い捕捉で敵に先制することを目的とした
重量逆関節機体。
南西海域【星の海】でのジャンクテイマー討伐戦で十分な戦果を上げたため
推奨アセンブル構成の一案としてアーカディア・アーカイヴに登録する。
本機、最大の特徴はその凄まじいまでの速度である。
二つの広域レーダーを使い、逆関節の共鳴時二倍効果でロックタイムを上げ
スツルムブースターの補足時加速で超速を確保。風洞ボイラーの連続捕捉で
更にブースターを起動し、速度を上げ全ての攻撃を振り切る。
敵の共鳴障害による妨害が無ければ、戦闘開始後10分程で超音速に達する。
そうすれば生存はほぼ確実なものとなる。
主な攻撃は状態異常撃と異常累積のシステムダウンによる撃墜である。
また、補助兵装として思念拒絶を利用した迎撃バリアを搭載している。
直接攻撃の火器を持たないのは、エンジン性能を超過して高消費パーツを
採用している為、出力不足であり、火力武器との相性が非常に悪いためだ。
速射砲を主兵装に装備しているが、これは加速効果を引き出すための物で
装弾はされていない。唯一、本機体の欠点ともいえる部分だが
追風の素材効果をもつパーツを使用することで、これは改善の見込みがある。
武装の制限こそあるものの、本機は攻撃、防御ともに隙の無い性能を持ち
前回の中二脚機体と比べ、完成度の高い機体となった。
電波撃等の状態異常による攻撃は、直接攻撃のdmg火器とは違い
敵の被攻撃時効果を誘発さないため、戦場によっては相性が良く
高い戦果を挙げることができるだろう。
今回の機体レポートの提出は、前回よりかなり間が開いてしまったが
これは巨大未識別融合体との戦闘において、当初採用していた駆動輪機体の
弱点が明確になり、改善の為に機体の方向性が迷走してしまった事が原因だ。
我々の先見性の甘さともいえ、大きく反省しなければならない点である。
以下に、方針転換前の駆動輪機体のアセンブルを記しておく。
◆STATUS_COMMAND...機体情報:グラーベル
フレーム:ショット
頭部:鋭牙頭部 :腕部:赤鬼 操縦棺:ニアデスコフィン
脚部:四輪駆動輪 エンジン:風洞ボイラー 主兵装:穿孔粒子砲
副兵装:硬質ダガー 背部兵装:アーマーレドーム
機動補助1:スツルムブースター 機動補助2:シャドウブースター
ニアデスコフィンによる自傷加速モジュールを使用した中量駆動輪機体。
武装は穿孔粒子砲。装弾はされておらず、出力低下の状態異常付与と
異常累積による撃墜を攻撃手段としている。風洞ボイラーの連続行動で速度を上げ
超音速を出す点は上記の逆関節機と同様で、超音速機体のプロトタイプともいえる。
本機独自の特徴として、強力な状態異常付与性能がある。
ニアデスコフィンの共鳴障害は敵全体に及ぶため、加速回数も相まって
敵部隊をまとめて状態異常累積で殲滅することが可能だ。
また、高消費パーツをエンジン出力内に収めているので
直接攻撃の火器を通常通り使用することができる。
ただし、ショットフレームの索敵スロット削除で捕捉性能がやや弱く
行動開始まで7分かかってしまう点が欠点である。
並みの相手なら問題は無いが、補足の素早い強敵や複数の敵と相対した場合
起動前に先制攻撃を受けてしまい被弾、その後、ニアデスコフィンの
振動で自壊してしまうケースが何度か見られ、一度、採用は見送りとなった。
また、新たな推奨構成を確立次第、追って報告する。
成果についてはアーカディア・アーカイヴのアセンブル案の項目を参照のこと。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージ
ジャンクテイマー部隊の掃討後、バルク・クォーリーは横道潮流での
サルベージ作業の為、真紅連理量産隊と別れ、海流の緩やかな浅瀬に停泊していた。
ガレージ内ではアセンブルシミュレーションをしながらブレインがレポートを仕上げ
ユーリエとクラウザは新たなる野望のため、パーツ設計図を挟んでなにやら
相談を交わしている。
クラウザ:
『というわけで、だ。薬液注入と思念加速の消失する特性を利用すれば
VRペットのエサを再現したパーツを作製することが可能だ。
ベース候補としてはエンジンや硬質ダガーなどがあるが……』
ユーリエ:
「おお! それは素晴らしいです!
エンジンは猫缶、ダガーならチュールでしょうか?
味はまぐろ、ほたて、ささみの三つがあればベストです♪」
ブレイン:「うーん……」
ユーリエ:
「……? ブレイン、なんだか難しい顔してるね。
レポート作り、苦戦してるの?」
ブレイン:
「いや、レポートはもう終わったよ。
ただ……ちょっと、昨日の航空者とジェトの会話で思う所があってな」
ユーリエ:
「航空者さん、いつもはコンテナを落として行ってしまうのに
昨日はくるくる回るし、話しかけてくるしでびっくりです。
ジェトさんとの会話って言うと、グレムリンのことだね」
ブレイン:
「ああ。グレムリンを設計した航空者達は、グレムリンを自分達の理想を叶える
神だと言っていた。だが、一方で、ジェトは自分のグレムリンをただのマシンで
相棒だと言った」
ユーリエ:
「そうだね。自分の思いを真剣に熱く語れる人!
カッコイイ! です」
ブレイン:
「で、だ。奴に感化されたわけじゃないが、俺にとってもこのグラーベルは何なのか。
こいつとの関わり方を、もっと真剣に考えるべきじゃないかと思ってな」
ユーリエ:
「でも、ブレインも前にグラーベルちゃんを新しい相棒って言ったし
気持ちはジェトさんに近いんじゃないの?」
ブレイン:
「確かに、こいつは俺と共に戦ってきた相棒で
レドやアネットの思いや技術を引き継いできた仲間だ。
愛機との絆ってやつも多分……あると思う。だが……」
ブレイン:「…………。(下からグラーベルを見上げる)」
クラウザ:『気にかかるのは過去、ということかね』
ブレイン:
「ああ。こいつのことを俺はあまりに知らなすぎる。
内蔵メモリも調べてみたが、レド以前のテイマー達の情報や
過去の経歴は強力なプロテクトが掛かっていて見られなかった。
中央での改修の経緯ぐらいは、爺さんに聞いておくべきだったか」
ユーリエ:
「そうだ! グレちゃんなら、何か知ってるかもしれません。
グレムリンの中から来たわけですし。
グレちゃん、開発中のVRチュールをあげるので、昔の話をお願いします!」
ブレイン:「こいつに聞いてもなぁ……」
ユーリエ:
「へっ、しょうがねぇ野郎どもだ……。
昔話をしてやるから耳かっぽじってよく聞けよ。
あれは53万年前……いや1万8000年前だったか。
俺にとっちゃ昨日のことの様だが……」
ユーリエ:「なんちゃって」
グレ:『ごろごろごろ』
ブレイン:「やれやれ、人が真剣に考えてるってのに」
クラウザ:
『真剣か。私にはそうは見えんが。
マスターにはもう、分かっているのではないかね?』
ブレイン:「……どういう意味だ?」
クラウザ:
『手段はあるということだよ。
まあ、その気になったらいつでも言いたまえ。
方法は考えてある。少々、時間は必要だがね』
ブレイン:「…………」
ユーリエ:
「むむむ? わたしには二人の会話が分かりません。
ブレイン、クラウザ、内緒話はダメです。
素直に白状しないとグレちゃんにお仕置きしてもらっちゃいます」
(グレは、ブレインにじゃれ始めた!)
ブレイン:
「あだだ、噛むな! 引っ搔くな!
バーチャルのくせになんでだ!? 痛みがある!」
クラウザ:
『思念接続の応用だ。グレはマスターの内側から呼び出したものでもあるのだ。
よってその繋がりは我々より強い』
ブレイン:「あの時の機械のせいか! 余計なことを!」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、2つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:1.08%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆9回更新の日記ログ
[MS_34] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:南西海域【星の海】
座標:X=2,Y=4 FL【11574/21248】
戦場:第45ブロック 南西海域【星の海】
激戦が予想された巨大未識別融合体との戦闘は、戦場を共にした味方機の
捨て身の特攻で、呆気なく幕を閉じた。戦闘時間にして僅か7分の出来事である。
電磁フィールドの青い光と、炎上誘発装置の赤い光を纏いながら
融合体の核めがけて、脇目もふらず突っ込んでいくあの機体を
俺はただ見守ることしかできなかった。
エレクトロフィールドの広範囲攻撃で外殻を覆うジャンクグレムリンを
一掃し、それによって撃墜時効果の機体炎上誘発を起動させて
コアの未識別パーツを状態異常累積による機能停止に追い込む。
確かに、それはこちら側の損害を顧みなければ有効な戦法であり
クラウザも、その戦術を使用したテイマーに、いたく感心を示していた。
しかし、巻き込まれるこっちは堪ったものではない。何とか影響範囲外に
離脱することができたのは、重逆関節機の先制索敵と捕捉性能のおかげだ。
もし駆動輪機体で挑んでいたら、初動の遅さを突かれ甚大な被害を
受けていただろう。
案の定、当の本人は崩れ落ちる巨体の下で煙を吹いていた。
無茶しやがって……。だがまあ、今回の勝利の立役者は紛れもなく
あのヴォイドテイマーだ。俺は暁の水平線に敬礼を送って彼の健闘を湛えた。
絶滅戦場ではないし、生きてはいるだろう。多分。
だが反面、こちらは零力照射気嚢1基のみ撃墜と、なんとも微妙な戦果となった。
ユーリエに言わせれば、一番美味しい所を浚えて良かったね、との事だが
本当にそうなのか……? なぜかあいつは、最後の気嚢撃墜を妙に楽しみにしてる
節がある。運動会か冒険任務での宝箱的なノリなのだろうか。
まあ、あのテイマーがエレクトロフィールドを使用してくれたおかげで
今回、連射系火器への速度が及ぼすダメージ削減力について、貴重なデータを
取ることができた。それで溜飲は下げることにする。
これで当面の脅威は一段落したはずだ。今後は、俺達もフヌやジェトが言った様に
タワー内に存在する、神秘工廠ゼラを目指さなければならない。
それには、地道に各領域を周りフロントラインを押し上げる必要がある。
遺産知識と対流思念知識を集めに行ったルキムラの動向も気になるが
もし彼等の方に進展があった場合、グレイヴネットを通じ何らかの動きがある筈だ。
今は次の大きな戦いに向けて、静かに事を進める時だろう。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:キャビン
巨大未識別融合体との戦闘後、バルク・クォーリーは自動航行モードで
タワー近海を南下し、漂着の海と星の海の境に差し掛かっていた。
ルアールは中央メルカルディアに帰還し、室内ではコーヒー片手に寛ぐブレイン
端末を操作するクラウザ、グレと遊ぶユーリエと三者三様の日常風景が戻っている。
◆INFORMATION:アップロード情報。
第5回目・北部海域【ペンギン諸島】での戦闘記録を送信。
第6回目・北北西海域【小群島】での戦闘記録を送信。
第7回目・北西海域【虚ろの海】での戦闘記録を送信。
第8回目・タワー近海【漂着の海】での戦闘記録を送信。
各未識別機動体及び敵対勢力の戦闘記録を送信。
連動グレムリン初期型、連動グレムリン初期型、加圧グレムリン初期型
加速グレムリン中期型、未識別融合パーツ断片
・現在調査進行度:Lv22。
ブレイン:
「はあ。昨日の戦闘、できれば爺さんに上手くやってる所を見せて
安心させてやりたかったんだが。ままならんもんだな」
クラウザ:
『老匠は常にこちらのことを気にかけておられるようだ。
直接、良い報告をできる機会は今後もあろう。
我々はその時のために、より任務に励まねばな』
ブレイン:
「そうだな。昨日も中央の意向を確認するつもりが
逆に励まされたりしたし、こっちの考えはお見通しだったんだろう。
昔からどうも……あの人には頭が上がらん」
ユーリエ:
「ブレインの格好良いところは、わたしがいつも映像ファイルで
おじいさまにお伝えしてるので、大丈夫です。
ところであの真紅連理のタンクさん達
ずっとわたし達と同じ方向に来てますけど、どうしたんでしょう」
ブレイン:
「あいつらはこの後、星の海でジャンクテイマーの掃討作戦に参加するらしい。
丁度、向かう方角も同じだし、少し手を貸してやろうと思ってる。
まだ駆けつけてくれた恩義も返せていないことだしな」
クラウザ:
『では、次のターゲットはジャングレムリンの大部隊なのだな。
ふむ。巨大未識別討伐は肩透かしで終わってしまったが
ジャンクテイマーも、徒党を組めば融合体並みの強敵だ。
試せなかったアセンブルのデータを取れるかもしれんな』
ブレイン:
「俺も巨大未識別討伐のミッションは、何日か続くと思ってんだがな。
まさか一日で40体以上討ち取るとは。ヴォイドテイマー恐るべしだ。
ま、次の戦場こそは自分で戦果を上げられるように戦うとするさ」
ユーリエ:
「ブレイン、ファイトです!
グレちゃんもがんばってと応援してます!」
グレ:『ごろごろごろ』
クラウザ:『完了。これで、私の方のレポートは終了だ』
ブレイン:「さっきから何のデータをまとめてたんだ?」
クラウザ:
『これかね?
マスターとユーリエが使用している強化型FTスーツの運用データだ。
ミッションスーツの開発担当を任されているのは私なのでね。
グレムリン以外でも、作らなければならん資料は多いのだよ』
ユーリエ:
「おお、ブレインとわたしの凛々しい姿が!
このスーツのおかげで、コワイ粉塵がいっぱいな外でも自由に歩けるので
とても感謝です。虚空領域観光がはかどります」
ブレイン:「Ⅱ型とⅢ型じゃ、ヘルメットが大きく違うな」
クラウザ:
『そこは互換性があるため、自由に選択が可能だ。
標準ではマスターのⅢ型はグレムリン操縦における利便性を考慮し
頭部にフィットする標準メットを、ユーリエのⅡ型は
外での調査や作業性を重視し、展望の広い大型メットを採用している』
ユーリエ:「ちょっと重いのが難点です」
クラウザ:
『ふむ、大型メットは軽量化が課題か。
二人とも、他に装備について要望があるのであれば
この機会に聞いておくが、物申したいことはあるかね?』
ブレイン:
「そうだな、パイロットスーツとしては申し分ないんだが。
外で活動する時のために、もう少し外装的なものが欲しいかな。
だが、あまりゴタゴタさせると操縦の際に邪魔になるし。
難しいな」
ユーリエ:「わたしは、可愛いアクセサリが欲しいです!」
クラウザ:
『ふむ、格納性の高いオプションが好ましい……と。
この試作型局地戦装備は正式採用後には虚空領域のような
過酷な環境で任務に当たる、全ての探究者に対して支給される。
よって、採用の決定には細心を注意を期す必要がある』
クラウザ:
『正式採用まで、まだいくつかのバージョンを挟む予定だ。
二人には、今後も引き続きテストに付き合ってもらいたい』
ブレイン:
「了解だ。こういう仕事も結構、やりがいがあるもんだな。
完成が楽しみだ」
ユーリエ:「……みんなに支給される……」
ブレイン:「どうしたユーリエ、急に考え込んで」
ユーリエ:
「ブレインのⅢ型、アーマードさんが着たらどんな感じになるのかなって
考えてました」
ブレイン:
「……それは、確かに。似合わない、というか
考えてみると、他にもこういう近代的装備を付けた姿を想像できない奴が
結構いるな。俺達の仲間は」
ユーリエ:「ですよね」
クラウザ:『残念だが、それはサポート対象外だ』
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、2つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』
...オリジンデータ浸食率:1.06%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:南西海域【星の海】
座標:X=2,Y=4 FL【11574/21248】
戦場:第45ブロック 南西海域【星の海】
激戦が予想された巨大未識別融合体との戦闘は、戦場を共にした味方機の
捨て身の特攻で、呆気なく幕を閉じた。戦闘時間にして僅か7分の出来事である。
電磁フィールドの青い光と、炎上誘発装置の赤い光を纏いながら
融合体の核めがけて、脇目もふらず突っ込んでいくあの機体を
俺はただ見守ることしかできなかった。
エレクトロフィールドの広範囲攻撃で外殻を覆うジャンクグレムリンを
一掃し、それによって撃墜時効果の機体炎上誘発を起動させて
コアの未識別パーツを状態異常累積による機能停止に追い込む。
確かに、それはこちら側の損害を顧みなければ有効な戦法であり
クラウザも、その戦術を使用したテイマーに、いたく感心を示していた。
しかし、巻き込まれるこっちは堪ったものではない。何とか影響範囲外に
離脱することができたのは、重逆関節機の先制索敵と捕捉性能のおかげだ。
もし駆動輪機体で挑んでいたら、初動の遅さを突かれ甚大な被害を
受けていただろう。
案の定、当の本人は崩れ落ちる巨体の下で煙を吹いていた。
無茶しやがって……。だがまあ、今回の勝利の立役者は紛れもなく
あのヴォイドテイマーだ。俺は暁の水平線に敬礼を送って彼の健闘を湛えた。
絶滅戦場ではないし、生きてはいるだろう。多分。
だが反面、こちらは零力照射気嚢1基のみ撃墜と、なんとも微妙な戦果となった。
ユーリエに言わせれば、一番美味しい所を浚えて良かったね、との事だが
本当にそうなのか……? なぜかあいつは、最後の気嚢撃墜を妙に楽しみにしてる
節がある。運動会か冒険任務での宝箱的なノリなのだろうか。
まあ、あのテイマーがエレクトロフィールドを使用してくれたおかげで
今回、連射系火器への速度が及ぼすダメージ削減力について、貴重なデータを
取ることができた。それで溜飲は下げることにする。
これで当面の脅威は一段落したはずだ。今後は、俺達もフヌやジェトが言った様に
タワー内に存在する、神秘工廠ゼラを目指さなければならない。
それには、地道に各領域を周りフロントラインを押し上げる必要がある。
遺産知識と対流思念知識を集めに行ったルキムラの動向も気になるが
もし彼等の方に進展があった場合、グレイヴネットを通じ何らかの動きがある筈だ。
今は次の大きな戦いに向けて、静かに事を進める時だろう。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:キャビン
巨大未識別融合体との戦闘後、バルク・クォーリーは自動航行モードで
タワー近海を南下し、漂着の海と星の海の境に差し掛かっていた。
ルアールは中央メルカルディアに帰還し、室内ではコーヒー片手に寛ぐブレイン
端末を操作するクラウザ、グレと遊ぶユーリエと三者三様の日常風景が戻っている。
◆INFORMATION:アップロード情報。
第5回目・北部海域【ペンギン諸島】での戦闘記録を送信。
第6回目・北北西海域【小群島】での戦闘記録を送信。
第7回目・北西海域【虚ろの海】での戦闘記録を送信。
第8回目・タワー近海【漂着の海】での戦闘記録を送信。
各未識別機動体及び敵対勢力の戦闘記録を送信。
連動グレムリン初期型、連動グレムリン初期型、加圧グレムリン初期型
加速グレムリン中期型、未識別融合パーツ断片
・現在調査進行度:Lv22。
ブレイン:
「はあ。昨日の戦闘、できれば爺さんに上手くやってる所を見せて
安心させてやりたかったんだが。ままならんもんだな」
クラウザ:
『老匠は常にこちらのことを気にかけておられるようだ。
直接、良い報告をできる機会は今後もあろう。
我々はその時のために、より任務に励まねばな』
ブレイン:
「そうだな。昨日も中央の意向を確認するつもりが
逆に励まされたりしたし、こっちの考えはお見通しだったんだろう。
昔からどうも……あの人には頭が上がらん」
ユーリエ:
「ブレインの格好良いところは、わたしがいつも映像ファイルで
おじいさまにお伝えしてるので、大丈夫です。
ところであの真紅連理のタンクさん達
ずっとわたし達と同じ方向に来てますけど、どうしたんでしょう」
ブレイン:
「あいつらはこの後、星の海でジャンクテイマーの掃討作戦に参加するらしい。
丁度、向かう方角も同じだし、少し手を貸してやろうと思ってる。
まだ駆けつけてくれた恩義も返せていないことだしな」
クラウザ:
『では、次のターゲットはジャングレムリンの大部隊なのだな。
ふむ。巨大未識別討伐は肩透かしで終わってしまったが
ジャンクテイマーも、徒党を組めば融合体並みの強敵だ。
試せなかったアセンブルのデータを取れるかもしれんな』
ブレイン:
「俺も巨大未識別討伐のミッションは、何日か続くと思ってんだがな。
まさか一日で40体以上討ち取るとは。ヴォイドテイマー恐るべしだ。
ま、次の戦場こそは自分で戦果を上げられるように戦うとするさ」
ユーリエ:
「ブレイン、ファイトです!
グレちゃんもがんばってと応援してます!」
グレ:『ごろごろごろ』
クラウザ:『完了。これで、私の方のレポートは終了だ』
ブレイン:「さっきから何のデータをまとめてたんだ?」
クラウザ:
『これかね?
マスターとユーリエが使用している強化型FTスーツの運用データだ。
ミッションスーツの開発担当を任されているのは私なのでね。
グレムリン以外でも、作らなければならん資料は多いのだよ』
ユーリエ:
「おお、ブレインとわたしの凛々しい姿が!
このスーツのおかげで、コワイ粉塵がいっぱいな外でも自由に歩けるので
とても感謝です。虚空領域観光がはかどります」
ブレイン:「Ⅱ型とⅢ型じゃ、ヘルメットが大きく違うな」
クラウザ:
『そこは互換性があるため、自由に選択が可能だ。
標準ではマスターのⅢ型はグレムリン操縦における利便性を考慮し
頭部にフィットする標準メットを、ユーリエのⅡ型は
外での調査や作業性を重視し、展望の広い大型メットを採用している』
ユーリエ:「ちょっと重いのが難点です」
クラウザ:
『ふむ、大型メットは軽量化が課題か。
二人とも、他に装備について要望があるのであれば
この機会に聞いておくが、物申したいことはあるかね?』
ブレイン:
「そうだな、パイロットスーツとしては申し分ないんだが。
外で活動する時のために、もう少し外装的なものが欲しいかな。
だが、あまりゴタゴタさせると操縦の際に邪魔になるし。
難しいな」
ユーリエ:「わたしは、可愛いアクセサリが欲しいです!」
クラウザ:
『ふむ、格納性の高いオプションが好ましい……と。
この試作型局地戦装備は正式採用後には虚空領域のような
過酷な環境で任務に当たる、全ての探究者に対して支給される。
よって、採用の決定には細心を注意を期す必要がある』
クラウザ:
『正式採用まで、まだいくつかのバージョンを挟む予定だ。
二人には、今後も引き続きテストに付き合ってもらいたい』
ブレイン:
「了解だ。こういう仕事も結構、やりがいがあるもんだな。
完成が楽しみだ」
ユーリエ:「……みんなに支給される……」
ブレイン:「どうしたユーリエ、急に考え込んで」
ユーリエ:
「ブレインのⅢ型、アーマードさんが着たらどんな感じになるのかなって
考えてました」
ブレイン:
「……それは、確かに。似合わない、というか
考えてみると、他にもこういう近代的装備を付けた姿を想像できない奴が
結構いるな。俺達の仲間は」
ユーリエ:「ですよね」
クラウザ:『残念だが、それはサポート対象外だ』
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、2つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』
...オリジンデータ浸食率:1.06%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆8回更新の日記ログ
[MS_33] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:タワー近海【漂着の海】
座標:X=2,Y=3 FL【19153/32256】
戦場:第22ブロック タワー近海【漂着の海】
ブレイン:「くッ、これまでか」
警告表示と操縦棺に響く撃墜のアラート。俺は強化FTスーツのメットを脱ぎ
座席後部へ投げ捨てた。シミュレーション戦闘で本日何度目かの敗北。
相手は真紅連理に提供された巨大未識別融合体の模擬戦用データだ。
だが、それは予想以上に手強い相手だった。
現状のフレームと脚部パーツの組み合わせでは追跡能力が足りず
未識別融合体の素早い捕捉に対し、初動でかなり遅れを取ってしまうのだ。
今の選択肢ではいくら機動性を上げてもこの差を埋めることは不可能だった。
ふと下を見ると、いつの間にかVR猫のグレが膝の上で寝息を立てている。
猫の世界のパーツを作製し、組み込んでシミュレーションを行ったことで
若干安定したようだ。まだ少しノイズが走るが、じきに取れるだろう。
俺自身、ペットを飼う機会など今まで無かったが、こうした愛嬌のある
様子を見ていると、夢中になる人間の気持ちも分かる気がする。
グレ:『にゃうー』
ブレイン:
「おっと、起こしちまったか。まだ寝ていていいぞ。
VRだから、いても作業の邪魔にはならないしな」
グレ:『ごろごろごろ』
ブレイン:「お前は気楽でいいな」
機体構成の大幅な変更を二人に提言する必要があるだろう。
順調に思えた調査任務は、ここにきて若干雲行きが怪しくなりつつある。
戦闘や思念体に対する問題もそうだが、それ以上に、今朝フヌに見せられた
夢の内容が心に引っかかっていた。
七月戦役の事件以来、メッセージ性のあるビジョンを見た時に
それが夢なのか干渉なのかは、こちらで分かるように細工をしている。
フヌのメッセージは、虚空領域の終焉について語る内容だった。
いや、フヌの干渉が無くとも、世界の輪廻を司るダストグレムリンと相対する以上
世界の消滅はありえる結末として、考えるべきだったのだ。
ブレイン:「外界に来てまで……また繰り返されるのか」
探究者となることで捨てたかつての故郷、ジアースを思い出す。
俺は故郷の大地を失っていた。
俺とクラウザの二人は外界に旅立ち、消滅の難を逃れたが、あの時のことは
心に深い遺恨として今も残り続けている。
最も、俺一人の力でどうにかなるような問題でもなかったが……。
と、同時に、俺の中で中央の方針に対する、ある疑念がわき上がり始めていた。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージルーム
バルク・クォーリーの機体格納庫。周囲は静まり返っており、グラーベルの
操縦棺のみ光が漏れている。ブレインが巨大未識別融合体との仮想戦闘を
行っている間に、作業機械達もそれぞれの務めを終わらせていたようだ。
機体下の休憩所には小休憩で取ったバイオベーコンの缶詰や飲料水のボトルが
無造作に置かれたままの状態になっている。
ユーリエ:「ブレイン! ここにグレちゃん来てますか」
ブレイン:「操縦棺で寝てるよ。あの様子なら問題なさそうだ」
クラウザ:『アセンの方は、苦戦しているようだな。マスター』
ブレイン:
「初速速度が足りん、駆動輪じゃだめだ。
苦肉の策だが、アセンブルを大きく変える必要があるな」
クラウザ:
『時には勝利への選択肢が限られることもある。
我々は恵まれた戦場で戦っているわけではないのだからな』
ブレイン:
「そうだが、レポートの提出期限が迫ってるってのに。
ここにきて脚部変更とは……また一からデータの取り直しだ。
フレーム変更での索敵弱化がここまで影響するとはな」
クラウザ:
『期限に間に合わせても、内容が不完全では意味があるまい。
ミッションレポートは他の探究者と情報を共有するためのものだ。
今後、他の誰かがマスターのレポートを参考にグレムリンの
アセンブルをする機会が無いとも限らん。
マスターが、レドやアネットのレポートを参考にしたようにな』
ブレイン:「他の誰か、か。なあクラウザ、中央は……」
ブレイン:
「いや、いい。今はこんなことを考えてる場合じゃないからな」
クラウザ:『…………』
ユーリエ:「すやすやグレちゃん、とても可愛いです」
(グレはユーリエに抱かれたまま眠っている!)
ユーリエ:
「ふっふっふ。これでわたしの野望がまた一つ達成されました。
しかし、わたしの欲望は留まることを知りません。
クラウザ、次の大いなる計画を実行に……」
ブレイン:「おいおい、まだ何か考えてるのか?」
???:
『……ユーリエよ、あまりブレインを困らせるものではないぞ』
ユーリエ:
「はっ!? この波動はミストロッド! それじゃ……」
ルアール:
「こうして直接、というのは久しぶりじゃな。
息災なようで何よりじゃ。ブレイン、クラウザよ」
クラウザ:
『これは……ようこそおいでくださいました。ルアール老匠』
ブレイン:
「爺さん! 来るとは聞いてたが、いきなりだな。
一声かけてくれれば、こっちから迎えに行ったのに」
ルアール:
「なに、この方が現場の正確な様子が分かるというものよ。
随分と根を詰めておった様じゃが、調査の方はどうじゃ」
ユーリエ:「お、おじいさま」
ルアール:
「ふむ。ユーリエよ、修練の方は一応続けておる様じゃな。
しかし、お主には今回、ブレインの補助を任せたはずじゃ。
あまり我儘が過ぎると……蛙に変えて連れ帰ってしまうぞ?」
ユーリエ:「ひいいぃぃ……。カエル、カエルは嫌です」
ブレイン:
「まあまあ爺さん。今回は、ユーリエも結構真面目に取り組んでくれてるよ。
任務の方は、ちょっと手強い相手が出てきてな。
それの対策に集中しているところさ」
ルアール:
「強力な敵か。ならば丁度良い、レドとアネットより機体構成のサンプルを
幾つか渡されておる。中央の仮想装置で作製したものだがなかなかの物よ。
活用するがよい」
ブレイン:
「本当か、助かるぜ! 二人とも粋なことをしてくれるじゃないか。
ちょっと待っていてくれ、早速試してみる!」
クラウザ:『ありがとうございます、老匠』
ルアール:
「あやつは、昔から少々意固地な部分があるからのう。
こうしたものもあった方が柔軟に動けると思うてな」
クラウザ:
『こちらの作業が済み次第、艦内を案内いたします。
暫くはユーリエと水入らずな時を過ごされると宜しいでしょう』
ルアール:
「はっはっは。バレておったか。
赤魔女めにも散々言われたものよ。視察に乗じて遊びまわるなとな」
ユーリエ:
「クラウザ、艦の案内ならわたしが。行きましょう、おじいさま」
ルアール:
「うむ。では頼むとするかのう。
しかし、この粉塵というのはなんとも珍妙なものじゃな。
艦の外を見るのが楽しみじゃわい」
ユーリエ:
「おじいさまもミストロッドも世界錯誤なので
誰かに見つかってしまうと大変そうです」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、2つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』
...オリジンデータ浸食率:1.04%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:タワー近海【漂着の海】
座標:X=2,Y=3 FL【19153/32256】
戦場:第22ブロック タワー近海【漂着の海】
ブレイン:「くッ、これまでか」
警告表示と操縦棺に響く撃墜のアラート。俺は強化FTスーツのメットを脱ぎ
座席後部へ投げ捨てた。シミュレーション戦闘で本日何度目かの敗北。
相手は真紅連理に提供された巨大未識別融合体の模擬戦用データだ。
だが、それは予想以上に手強い相手だった。
現状のフレームと脚部パーツの組み合わせでは追跡能力が足りず
未識別融合体の素早い捕捉に対し、初動でかなり遅れを取ってしまうのだ。
今の選択肢ではいくら機動性を上げてもこの差を埋めることは不可能だった。
ふと下を見ると、いつの間にかVR猫のグレが膝の上で寝息を立てている。
猫の世界のパーツを作製し、組み込んでシミュレーションを行ったことで
若干安定したようだ。まだ少しノイズが走るが、じきに取れるだろう。
俺自身、ペットを飼う機会など今まで無かったが、こうした愛嬌のある
様子を見ていると、夢中になる人間の気持ちも分かる気がする。
グレ:『にゃうー』
ブレイン:
「おっと、起こしちまったか。まだ寝ていていいぞ。
VRだから、いても作業の邪魔にはならないしな」
グレ:『ごろごろごろ』
ブレイン:「お前は気楽でいいな」
機体構成の大幅な変更を二人に提言する必要があるだろう。
順調に思えた調査任務は、ここにきて若干雲行きが怪しくなりつつある。
戦闘や思念体に対する問題もそうだが、それ以上に、今朝フヌに見せられた
夢の内容が心に引っかかっていた。
七月戦役の事件以来、メッセージ性のあるビジョンを見た時に
それが夢なのか干渉なのかは、こちらで分かるように細工をしている。
フヌのメッセージは、虚空領域の終焉について語る内容だった。
いや、フヌの干渉が無くとも、世界の輪廻を司るダストグレムリンと相対する以上
世界の消滅はありえる結末として、考えるべきだったのだ。
ブレイン:「外界に来てまで……また繰り返されるのか」
探究者となることで捨てたかつての故郷、ジアースを思い出す。
俺は故郷の大地を失っていた。
俺とクラウザの二人は外界に旅立ち、消滅の難を逃れたが、あの時のことは
心に深い遺恨として今も残り続けている。
最も、俺一人の力でどうにかなるような問題でもなかったが……。
と、同時に、俺の中で中央の方針に対する、ある疑念がわき上がり始めていた。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージルーム
バルク・クォーリーの機体格納庫。周囲は静まり返っており、グラーベルの
操縦棺のみ光が漏れている。ブレインが巨大未識別融合体との仮想戦闘を
行っている間に、作業機械達もそれぞれの務めを終わらせていたようだ。
機体下の休憩所には小休憩で取ったバイオベーコンの缶詰や飲料水のボトルが
無造作に置かれたままの状態になっている。
ユーリエ:「ブレイン! ここにグレちゃん来てますか」
ブレイン:「操縦棺で寝てるよ。あの様子なら問題なさそうだ」
クラウザ:『アセンの方は、苦戦しているようだな。マスター』
ブレイン:
「初速速度が足りん、駆動輪じゃだめだ。
苦肉の策だが、アセンブルを大きく変える必要があるな」
クラウザ:
『時には勝利への選択肢が限られることもある。
我々は恵まれた戦場で戦っているわけではないのだからな』
ブレイン:
「そうだが、レポートの提出期限が迫ってるってのに。
ここにきて脚部変更とは……また一からデータの取り直しだ。
フレーム変更での索敵弱化がここまで影響するとはな」
クラウザ:
『期限に間に合わせても、内容が不完全では意味があるまい。
ミッションレポートは他の探究者と情報を共有するためのものだ。
今後、他の誰かがマスターのレポートを参考にグレムリンの
アセンブルをする機会が無いとも限らん。
マスターが、レドやアネットのレポートを参考にしたようにな』
ブレイン:「他の誰か、か。なあクラウザ、中央は……」
ブレイン:
「いや、いい。今はこんなことを考えてる場合じゃないからな」
クラウザ:『…………』
ユーリエ:「すやすやグレちゃん、とても可愛いです」
(グレはユーリエに抱かれたまま眠っている!)
ユーリエ:
「ふっふっふ。これでわたしの野望がまた一つ達成されました。
しかし、わたしの欲望は留まることを知りません。
クラウザ、次の大いなる計画を実行に……」
ブレイン:「おいおい、まだ何か考えてるのか?」
???:
『……ユーリエよ、あまりブレインを困らせるものではないぞ』
ユーリエ:
「はっ!? この波動はミストロッド! それじゃ……」
ルアール:
「こうして直接、というのは久しぶりじゃな。
息災なようで何よりじゃ。ブレイン、クラウザよ」
クラウザ:
『これは……ようこそおいでくださいました。ルアール老匠』
ブレイン:
「爺さん! 来るとは聞いてたが、いきなりだな。
一声かけてくれれば、こっちから迎えに行ったのに」
ルアール:
「なに、この方が現場の正確な様子が分かるというものよ。
随分と根を詰めておった様じゃが、調査の方はどうじゃ」
ユーリエ:「お、おじいさま」
ルアール:
「ふむ。ユーリエよ、修練の方は一応続けておる様じゃな。
しかし、お主には今回、ブレインの補助を任せたはずじゃ。
あまり我儘が過ぎると……蛙に変えて連れ帰ってしまうぞ?」
ユーリエ:「ひいいぃぃ……。カエル、カエルは嫌です」
ブレイン:
「まあまあ爺さん。今回は、ユーリエも結構真面目に取り組んでくれてるよ。
任務の方は、ちょっと手強い相手が出てきてな。
それの対策に集中しているところさ」
ルアール:
「強力な敵か。ならば丁度良い、レドとアネットより機体構成のサンプルを
幾つか渡されておる。中央の仮想装置で作製したものだがなかなかの物よ。
活用するがよい」
ブレイン:
「本当か、助かるぜ! 二人とも粋なことをしてくれるじゃないか。
ちょっと待っていてくれ、早速試してみる!」
クラウザ:『ありがとうございます、老匠』
ルアール:
「あやつは、昔から少々意固地な部分があるからのう。
こうしたものもあった方が柔軟に動けると思うてな」
クラウザ:
『こちらの作業が済み次第、艦内を案内いたします。
暫くはユーリエと水入らずな時を過ごされると宜しいでしょう』
ルアール:
「はっはっは。バレておったか。
赤魔女めにも散々言われたものよ。視察に乗じて遊びまわるなとな」
ユーリエ:
「クラウザ、艦の案内ならわたしが。行きましょう、おじいさま」
ルアール:
「うむ。では頼むとするかのう。
しかし、この粉塵というのはなんとも珍妙なものじゃな。
艦の外を見るのが楽しみじゃわい」
ユーリエ:
「おじいさまもミストロッドも世界錯誤なので
誰かに見つかってしまうと大変そうです」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、2つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』
...オリジンデータ浸食率:1.04%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆7回更新の日記ログ
[MS_32] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報・戦場:第56ブロック 北西海域【虚ろの海】
座標:X=2,Y=2 FL【11403/20992】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■エリア情報:北北西海域【小群島】 現在位置:青花工廠アネモネ
虚空領域の北西に位置する、小島が点在する海域。随一の辺境と呼び名が高い。
怪奇な自然と、多くの野鳥と触れ合えるこの場所は、世を忍び暮らすのに最適だろう。
目ぼしい資源も無い荒廃した島に、青花工廠アネモネがひっそりと存在する。
ブレイン達はフレーム換装の為、この工廠にライフスチール持参で停泊していた。
ブレイン:
「ラストフレームともついにお別れか。
しかし、フレームもパーツも換装されて全く別物に変わっても
同じ機体っていうんだから、考えてみると不思議なもんだな。
グレムリンってのは」
クラウザ:
『戦闘プログラムのAIに蓄積された経験や技術。
それこそがグレムリンを個体たらしめる要因なのだろう。
この手の兵器には珍しい事であるまい』
ブレイン:
「そうなんだが、アネットと話した選定の儀の話を思い出してな。
あの時、俺はこいつをただのメカとしか見てなかったが
レドやアネットはこいつにプログラムを超える魂の様なモノの存在を感じていた。
もしそうなら、確定された事象を覆す、なんて事も起こりえるのかもしれん」
クラウザ:
『グラーベルが境界を超えるものならば、我々は中央の意に倣い
選定官として導き手の任に動かねばならない。
実際、グラーベルのテイマーとして戦って、マスターはどう感じているのかね?』
ブレイン:
「何とも言えないな。答えを出すには、まだ早すぎる」
クラウザ:
『ふむ。もしかしたらその件と無関係でないかもしれんな。
この後、グラーベルのシステムを用いてある試みを行いたいのだが
協力を頼めるだろうか。マスターの力が必要だ』
ブレイン:
「珍しいな、いつもなら有無を言わさず巻き込むお前が。
嫌な予感がするが、何をするんだ?」
クラウザ:『ちょっとした実験だよ』
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:メインルーム
青花工廠から戻ったブレインを待っていたのは、満天なユーリエの笑みと
傍らでタコ足の如くコードを伸ばした、名状し難い異形の機械であった。
奇妙な肢は捻じれて歪み、ガレージに繋がる扉の先に続いている。
空調で適温に調整されている筈の部屋で、不快な冷や汗がブレインの頬を伝った。
ブレイン:「グラーベルのシステムから、猫を呼び出す?」
クラウザ:
『うむ。先日、各企業からの情報提供でパーツ素材の概要が
フレーバーテキストの形で公開されたのは知っていよう。
我々が協賛してきたフェアギスマインニヒトからも
猫養育に関する情報が開示されている』
ユーリエ:
「猫養育は、グレムリンの回路で猫さんを育てるシステムみたいです。
つまり、グラーベルちゃんの中には猫さんがいる!」
クラウザ:
『正確には戦闘の余剰演算力でVRペットの行動データを構築するものらしい。
ならば猫缶、猫じゃらしを使用してきたグラーベルの記憶領域には、
構築中のVRペットのデータが記録されている筈だ。
汎用行動データのみの、個体として存在基盤の欠けた状態でな』
ブレイン:「存在基盤の欠けた。それはまさか、奴らと同じ?」
クラウザ:
『気づいたようだな。この試みはグレムリンの内面世界に対し
こちらから干渉する試行実験として有意義なものとなる。
ちなみに、発案者はユーリエだ。
先日、アネットにアセンブルに関しての講義を受けた際に閃いたらしい』
ブレイン:
「確かに昨日はアネットと熱心にアセンの勉強をしていたが。
出た結論がそれとは、相変わらず発想が斜め上だな、ユーリエは」
ユーリエ:
「えっへん! 今からとってもワクワクです。
グラーベルちゃんの猫さんはどんな子なのでしょう」
ブレイン:
「話は分かった。協力させてもらおう。
で、俺の力が必要ってのは? 何をすればいい?」
クラウザ:
『VR猫を現界させるには個体としての情報、パーソナルデータが必要だ。
現状で我々が用意できる猫の個体情報。
……それは、何だと思うかね? マスター』
ブレイン:
「……まさか、とは思うが、俺か?」
ユーリエ:
「その通りです! にゃん化の呪いで変身する、猫ブーちゃんの情報を使います!
転送機械はクラウザが一晩で造ってくれました! ブレイン、これをどうぞ!」
クラウザ:
『今から、猫マスターの個体情報をグラーベルに移し、VR猫を顕現させる。
オリジンデータの外界浸食率に多少影響を受けるが
コピーデータを一方的に送るだけだ。大した値にはなるまい』
ブレイン:
「嫌、といえる雰囲気じゃないな。わかったよ。
だが、予想外のアクシデントは勘弁してくれよ」
ブレイン:「被ったぞ。これでいいのか?」
クラウザ:
『巨大未識別と戦闘が始まれば、機体調整に時間を割くことになる。
やるなら今しかあるまい。ユーリエ、転送スイッチを押してくれたまえ』
ユーリエ:「アイアイサー! ポチっとな」
クラウザ:
『ACCESS...ARCADIA_DATEBASE...
COPY_DATA...CADE:-BMz95G01Wz-
OPERATION_COMMAND...TRANSFER...EXECUTION.』
ブレイン:「うぁぁぁ……す、吸いとられるぅぅぅ……」
……ザーッ……ザザーッ……
VR猫:『……ザザーッ……ザザーッ……ニャ』
VR猫:『……ザザーッ……ニャァァァン……ザザーッ……』
ユーリエ:「やりました、実験は成功です! おいでませ、猫さん!」
VR猫:『……ザザーッ……ニャァァァン……ザザーッ……』
ユーリエ:「猫ちゃん? なんだか、電波が遠いような」
クラウザ:
『グレムリン側の猫養育システムが不完全だからかもしれんな。
完全に顕現させるには、猫の世界を付与したパーツが必要だろう』
ユーリエ:
「あ、でも消えたりはしないみたいです。新しい仲間が増えました。
夢にまで見た猫ちゃんのいる生活が虚空領域に!」
ブレイン:
「まだなのか? 教えてくれ、俺はいつまで吸いとられていればいい」
クラウザ:『すまないマスター、実験終了だ。協力感謝する』
ユーリエ:
「ありがとうブレイン、おつかれさまです。
早速、猫ちゃんに名前を付けてあげましょう。わたしはぶ」
ブレイン:
「先に言っておくが、ブレインとかブーちゃんとかは却下だぞ」
ユーリエ:
「むむむ、言われてしまいました。それじゃ、えーとえーと……」
ブレイン:
「そうだな。グレムリンで白黒グレーだし、『グレ』ってのはどうだ?」
ユーリエ:
「おお! グレちゃん! かわいい!
じゃあ、今日からあなたの名前はグレちゃんです!」
グレ:『……ザザーッ……ニャァァァン……ザザーッ……』
ユーリエ:
「むむむ、触ることも撫でることもできません。
グレちゃん、スルー力高すぎです」
ユーリエとは探究者のパートナーとして組むようになって長いが
時折、こんな感じで妙な案を思いついては騒動を起こすから困ったものだ。
だが、今回は怪我の功名か意義ある実験をする切欠となった。
この結果が、思念体共への対策に繋がってくれることを切に願う。
しかし、前回の任務で掛けられた猫化の呪い、ユーリエに遊び感覚で付けられた
様なものだったが、意外なところで役に立っている。
アネットの任務にサポート役で潜り込めたのも、あの姿があったからだしな。
もしかしたら最初から……いや、それは流石に考えすぎか。
どうもあいつの行動は読めない部分が多い。探究者としての実力は、確かなんだが。
任務は巨大未識別の会敵を目前に、思念体の再出現と不安要素こそあるものの
新フレームの受領を完了。アセンブルの研究も軌道に乗り、戦果もそれなりに良好と
悪くない結果を出せている。真紅連理は巨大未識別の特性を利用し、ジャンクテイマーや
支援財団に大打撃を与える計画を考えている様だ。ジャンクテイマー共のスポンサーが
何を企んでいるか不明だが、形振り構わずコンテナをかき集めている現状を考えるに
世界に仇名す大規模な計画を企てているのは間違いない。
今回と、次の巨大未識別との戦闘でショットフレームのデータを反映させ
第一回、駆動輪アセンブルの報告書を提出する予定だ。
最近はコンテナ防衛に掛かりきりで未識別機動体との戦闘がおざなりになりつつある。
その分、こちらの成果で穴埋めしなければ。
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:1.03%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報・戦場:第56ブロック 北西海域【虚ろの海】
座標:X=2,Y=2 FL【11403/20992】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■エリア情報:北北西海域【小群島】 現在位置:青花工廠アネモネ
虚空領域の北西に位置する、小島が点在する海域。随一の辺境と呼び名が高い。
怪奇な自然と、多くの野鳥と触れ合えるこの場所は、世を忍び暮らすのに最適だろう。
目ぼしい資源も無い荒廃した島に、青花工廠アネモネがひっそりと存在する。
ブレイン達はフレーム換装の為、この工廠にライフスチール持参で停泊していた。
ブレイン:
「ラストフレームともついにお別れか。
しかし、フレームもパーツも換装されて全く別物に変わっても
同じ機体っていうんだから、考えてみると不思議なもんだな。
グレムリンってのは」
クラウザ:
『戦闘プログラムのAIに蓄積された経験や技術。
それこそがグレムリンを個体たらしめる要因なのだろう。
この手の兵器には珍しい事であるまい』
ブレイン:
「そうなんだが、アネットと話した選定の儀の話を思い出してな。
あの時、俺はこいつをただのメカとしか見てなかったが
レドやアネットはこいつにプログラムを超える魂の様なモノの存在を感じていた。
もしそうなら、確定された事象を覆す、なんて事も起こりえるのかもしれん」
クラウザ:
『グラーベルが境界を超えるものならば、我々は中央の意に倣い
選定官として導き手の任に動かねばならない。
実際、グラーベルのテイマーとして戦って、マスターはどう感じているのかね?』
ブレイン:
「何とも言えないな。答えを出すには、まだ早すぎる」
クラウザ:
『ふむ。もしかしたらその件と無関係でないかもしれんな。
この後、グラーベルのシステムを用いてある試みを行いたいのだが
協力を頼めるだろうか。マスターの力が必要だ』
ブレイン:
「珍しいな、いつもなら有無を言わさず巻き込むお前が。
嫌な予感がするが、何をするんだ?」
クラウザ:『ちょっとした実験だよ』
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:メインルーム
青花工廠から戻ったブレインを待っていたのは、満天なユーリエの笑みと
傍らでタコ足の如くコードを伸ばした、名状し難い異形の機械であった。
奇妙な肢は捻じれて歪み、ガレージに繋がる扉の先に続いている。
空調で適温に調整されている筈の部屋で、不快な冷や汗がブレインの頬を伝った。
ブレイン:「グラーベルのシステムから、猫を呼び出す?」
クラウザ:
『うむ。先日、各企業からの情報提供でパーツ素材の概要が
フレーバーテキストの形で公開されたのは知っていよう。
我々が協賛してきたフェアギスマインニヒトからも
猫養育に関する情報が開示されている』
ユーリエ:
「猫養育は、グレムリンの回路で猫さんを育てるシステムみたいです。
つまり、グラーベルちゃんの中には猫さんがいる!」
クラウザ:
『正確には戦闘の余剰演算力でVRペットの行動データを構築するものらしい。
ならば猫缶、猫じゃらしを使用してきたグラーベルの記憶領域には、
構築中のVRペットのデータが記録されている筈だ。
汎用行動データのみの、個体として存在基盤の欠けた状態でな』
ブレイン:「存在基盤の欠けた。それはまさか、奴らと同じ?」
クラウザ:
『気づいたようだな。この試みはグレムリンの内面世界に対し
こちらから干渉する試行実験として有意義なものとなる。
ちなみに、発案者はユーリエだ。
先日、アネットにアセンブルに関しての講義を受けた際に閃いたらしい』
ブレイン:
「確かに昨日はアネットと熱心にアセンの勉強をしていたが。
出た結論がそれとは、相変わらず発想が斜め上だな、ユーリエは」
ユーリエ:
「えっへん! 今からとってもワクワクです。
グラーベルちゃんの猫さんはどんな子なのでしょう」
ブレイン:
「話は分かった。協力させてもらおう。
で、俺の力が必要ってのは? 何をすればいい?」
クラウザ:
『VR猫を現界させるには個体としての情報、パーソナルデータが必要だ。
現状で我々が用意できる猫の個体情報。
……それは、何だと思うかね? マスター』
ブレイン:
「……まさか、とは思うが、俺か?」
ユーリエ:
「その通りです! にゃん化の呪いで変身する、猫ブーちゃんの情報を使います!
転送機械はクラウザが一晩で造ってくれました! ブレイン、これをどうぞ!」
クラウザ:
『今から、猫マスターの個体情報をグラーベルに移し、VR猫を顕現させる。
オリジンデータの外界浸食率に多少影響を受けるが
コピーデータを一方的に送るだけだ。大した値にはなるまい』
ブレイン:
「嫌、といえる雰囲気じゃないな。わかったよ。
だが、予想外のアクシデントは勘弁してくれよ」
ブレイン:「被ったぞ。これでいいのか?」
クラウザ:
『巨大未識別と戦闘が始まれば、機体調整に時間を割くことになる。
やるなら今しかあるまい。ユーリエ、転送スイッチを押してくれたまえ』
ユーリエ:「アイアイサー! ポチっとな」
クラウザ:
『ACCESS...ARCADIA_DATEBASE...
COPY_DATA...CADE:-BMz95G01Wz-
OPERATION_COMMAND...TRANSFER...EXECUTION.』
ブレイン:「うぁぁぁ……す、吸いとられるぅぅぅ……」
……ザーッ……ザザーッ……
VR猫:『……ザザーッ……ザザーッ……ニャ』
VR猫:『……ザザーッ……ニャァァァン……ザザーッ……』
ユーリエ:「やりました、実験は成功です! おいでませ、猫さん!」
VR猫:『……ザザーッ……ニャァァァン……ザザーッ……』
ユーリエ:「猫ちゃん? なんだか、電波が遠いような」
クラウザ:
『グレムリン側の猫養育システムが不完全だからかもしれんな。
完全に顕現させるには、猫の世界を付与したパーツが必要だろう』
ユーリエ:
「あ、でも消えたりはしないみたいです。新しい仲間が増えました。
夢にまで見た猫ちゃんのいる生活が虚空領域に!」
ブレイン:
「まだなのか? 教えてくれ、俺はいつまで吸いとられていればいい」
クラウザ:『すまないマスター、実験終了だ。協力感謝する』
ユーリエ:
「ありがとうブレイン、おつかれさまです。
早速、猫ちゃんに名前を付けてあげましょう。わたしはぶ」
ブレイン:
「先に言っておくが、ブレインとかブーちゃんとかは却下だぞ」
ユーリエ:
「むむむ、言われてしまいました。それじゃ、えーとえーと……」
ブレイン:
「そうだな。グレムリンで白黒グレーだし、『グレ』ってのはどうだ?」
ユーリエ:
「おお! グレちゃん! かわいい!
じゃあ、今日からあなたの名前はグレちゃんです!」
グレ:『……ザザーッ……ニャァァァン……ザザーッ……』
ユーリエ:
「むむむ、触ることも撫でることもできません。
グレちゃん、スルー力高すぎです」
ユーリエとは探究者のパートナーとして組むようになって長いが
時折、こんな感じで妙な案を思いついては騒動を起こすから困ったものだ。
だが、今回は怪我の功名か意義ある実験をする切欠となった。
この結果が、思念体共への対策に繋がってくれることを切に願う。
しかし、前回の任務で掛けられた猫化の呪い、ユーリエに遊び感覚で付けられた
様なものだったが、意外なところで役に立っている。
アネットの任務にサポート役で潜り込めたのも、あの姿があったからだしな。
もしかしたら最初から……いや、それは流石に考えすぎか。
どうもあいつの行動は読めない部分が多い。探究者としての実力は、確かなんだが。
任務は巨大未識別の会敵を目前に、思念体の再出現と不安要素こそあるものの
新フレームの受領を完了。アセンブルの研究も軌道に乗り、戦果もそれなりに良好と
悪くない結果を出せている。真紅連理は巨大未識別の特性を利用し、ジャンクテイマーや
支援財団に大打撃を与える計画を考えている様だ。ジャンクテイマー共のスポンサーが
何を企んでいるか不明だが、形振り構わずコンテナをかき集めている現状を考えるに
世界に仇名す大規模な計画を企てているのは間違いない。
今回と、次の巨大未識別との戦闘でショットフレームのデータを反映させ
第一回、駆動輪アセンブルの報告書を提出する予定だ。
最近はコンテナ防衛に掛かりきりで未識別機動体との戦闘がおざなりになりつつある。
その分、こちらの成果で穴埋めしなければ。
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:1.03%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆6回更新の日記ログ
[MS_31] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:北北西海域【小群島】
座標:X=2,Y=1 FL【6757/13824】
戦場:第56ブロック 北北西海域【小群島】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージルーム
グラーベルに繋がれた端末から、ラジオ音声で様々なニュースが流れ続けている。
手前にはパイプ椅子に腰掛け、それを聴く二つの人影があった。
一人はブレイン。もう一人は銀髪を頭の上で二つに結んだ女性。
前任務でのグラーベルのテイマー、アネットアート・アーガイルその人である。
ブレイン:
「あれ以来、ずっと世界中が混迷を極めてる状態さ。
未識別機動体の脅威も、グレムリンの新型が現れたりと激しさを増している。
最近は人間同士の戦いも激化してきてな。
緊急ミッションでテロ対策に駆り出されたりもした」
アネット:
「そうですか……TsCはこの世界で最大の組織だったわけですし
秩序の維持に与えていた影響も大きかったのでしょうね。
改めて、あの戦いの爪痕の深さを感じずにいられません。
彼らも自らの理想のために戦っていた。
私達も間違った事はしなかったと、そう思いたいです」
ブレイン:
「ま、悪い事ばかりじゃないさ。
TsCが消えて大企業が傭兵相手に自由競争を始めるようになった。
だからこうして、好きに企業を協賛し開発計画の恩恵にありつける」
ユーリエ:「アネットちゃん、お茶が入りました。どうぞ!」
アネット:「あ、ありがとうございます」
ブレイン:「茶? あったのか、そんなの」
ユーリエ:
「これはとっておきなので、普段はダメです。お客様おもてなし用です。
なので、ブレインは今日も変な味のコーヒーをどうぞ!」
ブレイン:
「コーヒーか。ま、それでもいいが。頂くよ。
で、今日は急にどうしたんだ? 中央事務局も忙しい時期だろう。
勿論、こっちはいつでも歓迎だがな」
アネット:
「はい。なので、明日には戻らないと。
実は先日、アーカイヴでブレインの零錆戦線レポートを
見せていただいたのですが……」
アネット:
「その、かなり無茶なアセンブルで戦っている様でしたので
心配になりまして」
ブレイン:
「成程、確かにここ数日、尖ったアセンばかり試してた気がするな。
だが心配無用だ。自分で言うのもなんだが、上手くやれてるよ。
次の機体評価は見ごたえある内容を出せると思うぜ」
クラウザ:
『マスター、話し中のところ済まないが
グラーベルの広域索敵が正体不明の反応を感知した。
数的に未識別機動体のものではない、恐らくはグレムリンだ』
ブレイン:
「またかよ。いい加減にしろ、ジャンクテイマーどもめ!」
アネット:「ど、どうしたのですか?」
ユーリエ:
「実は最近、ブレインはモヒカンのお兄さんから
ずっとストーカー被害を受けているのです」
アネット:「ええっ!?」
ブレイン:
「言い方ァ! 狙われてるのは俺じゃない、コンテナだ!
どういうことだクラウザ! 威圧アセン、効果無いじゃないか!」
クラウザ:
『うむ。予想以上に根性ある略奪者だったようだな。
丁度良い機会だろう。アネットが安心して中央に帰れるよう
マスターの戦いを見せてみてはどうかね?』
???:
『……あら、やっぱり帰ってしまうの?
私のために戻ってきてくれたと思ったのに。残念ね』
ブレイン:「!?」
アネット:「この声は……」
ユーリエ:
「あ! ブレイン、アネットちゃん、ステーションの上に!」
???:
『モーシン、キョーキ、下がりなさい。
また会えて嬉しいわ、アネットアート・アーガイル。
久しぶり、というほど時間は経ってないかしらね、ここでは』
アネット:「あなたは……えっと、どちら様でしたっけ?」
憎悪:
『 わ た し よ ! おのれ、忘れたとは言わせないわよ!』
アネット:「ああ、あの時の。って、ええっ!?」
ゾーオ:
『うぐぐ、余計な力を使ったから存在が。
まあ、余りに姿が変わってしまったし、分からなくても仕方ないわ』
ブレイン:
「七月戦役の時の思念体か? なぜここに。
お前達は外に干渉できる存在じゃなかったはず」
ユーリエ:
「説明しよう! 彼女は過去にグラーベルに乗ったテイマーの残留思念である!
夢現の七月戦役でアネットちゃんを操って好き勝手しようと企んだが
逆にボコボコにされてしまったのだ!」
ゾーオ:
『人としての基盤の欠けた私達は、グレムリンから得た情報基盤で補うことで
存在を維持していた。でも、貴女があの一撃でそれを吹き飛ばしてくれたから
私は巨大な姿を保てなくなったの』
クラウザ:『……ほう』
ブレイン:
「何をしに現れた。アネットをまだ諦めてないのか?
それとも復讐にきたとでも?」
ゾーオ:
『まさか。あの時は何もかも壊してやりたい気持ちで一杯だったけど
今はそんな気分じゃないわ。おかげで人間として色々思い出す事ができたし。
貴女には感謝しているの、アネット。
どう? そこの男はさっさとクビにして、また一緒に……』
アネット:
「グラーベルのテイマーはブレインです。私がテイマーに戻る事はありません。
それにあの時、私は私の信じるままに道を進んだ。
あなたにお礼を言われることじゃありません」
ゾーオ:『相変わらず強情ね。それでこそ、なんだけど』
ブレイン:
「あまり俺を見くびるなよ……! お前達のネタは割れてるんだ。
今度は前のようにやれると思うな……!」
ゾーオ:
『ふん、まあいいわ。私は、貴方達に興味が湧いたの。
貴方達の戦いを見届けたいと思ってね。それを伝えに来たのよ』
ブレイン:「何? まさか、ここに居座るつもりなのか?」
ゾーオ:
『居座る? 何言ってるの。私達はあの機体に刻まれた思念。
つまり、グレムリンの一部でもある。ずっとここにいたのよ』
???:『…………』
ゾーオ:
『どうしたの? ……へえ、面白くなりそうね。
ブレイン、といったかしら。貴方の実力、すぐ見せてもらう事になりそうよ。
コンソールで継続画面のホームを見てみたらいいんじゃないかしら』
ブレイン:「何だと? これは……!」
◆INFORMATION:メールが届いています。
件名:脅威が迫っている*NEW*
ユーリエ:「メールだね。脅威が迫っている!」
アネット:「どうしたのですか、ブレイン」
ブレイン:
「真紅連理の部隊が戦場で巨大な未識別機動体を発見したらしい。
テイマーに掃討依頼が来ている」
ゾーオ:
『精々頑張りなさい。あと、一つ言い忘れてたけど。
貴方達、面倒なのに目を付けられたわよ。この先、少し苦労するかもね』
ブレイン:「どういう意味だ?」
ゾーオ:
『ふふふっ。今日はもう消えるわね。
でも、姿は無くとも傍にいるわ。いつでもね』
ブレイン:「…………」
面倒な事態になった。夢現の七月戦役でアネットに干渉してきた過去テイマーの思念。
奴等がまた姿を現したのだ。前回の任務はあいつ等のせいで散々な目にあった。
今の所、姿を見せただけで悪事を働いたわけじゃないが、油断はできない。
なぜ外界に干渉できたのか、それらの理由も含め奴等には謎が多いが
その存在がグラーベルの記憶領域に刻み込まれたものならば
何らかの方法で行動を制限したり、封じることはできるはずだ。
だが今は、目下の課題として差し迫る巨大未識別の脅威に対処せねばならない。
真紅連理は5機以上の傭兵部隊を前提にミッションを発動させる手筈らしい。
通常、ヴォイドテイマーの戦場選択は自由意思で、条件が提示された前例はない。
それだけの敵、ということだろう。
思念体共の思惑通りなのは癪だが、自分の力を試すには良い機会だ。
どんな強敵が相手でも戦えるよう、これまで以上に入念なパーツ選択と
アセンブルが必要だろう。皆とよく協議しなければ。
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、四つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:0.027%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:北北西海域【小群島】
座標:X=2,Y=1 FL【6757/13824】
戦場:第56ブロック 北北西海域【小群島】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージルーム
グラーベルに繋がれた端末から、ラジオ音声で様々なニュースが流れ続けている。
手前にはパイプ椅子に腰掛け、それを聴く二つの人影があった。
一人はブレイン。もう一人は銀髪を頭の上で二つに結んだ女性。
前任務でのグラーベルのテイマー、アネットアート・アーガイルその人である。
ブレイン:
「あれ以来、ずっと世界中が混迷を極めてる状態さ。
未識別機動体の脅威も、グレムリンの新型が現れたりと激しさを増している。
最近は人間同士の戦いも激化してきてな。
緊急ミッションでテロ対策に駆り出されたりもした」
アネット:
「そうですか……TsCはこの世界で最大の組織だったわけですし
秩序の維持に与えていた影響も大きかったのでしょうね。
改めて、あの戦いの爪痕の深さを感じずにいられません。
彼らも自らの理想のために戦っていた。
私達も間違った事はしなかったと、そう思いたいです」
ブレイン:
「ま、悪い事ばかりじゃないさ。
TsCが消えて大企業が傭兵相手に自由競争を始めるようになった。
だからこうして、好きに企業を協賛し開発計画の恩恵にありつける」
ユーリエ:「アネットちゃん、お茶が入りました。どうぞ!」
アネット:「あ、ありがとうございます」
ブレイン:「茶? あったのか、そんなの」
ユーリエ:
「これはとっておきなので、普段はダメです。お客様おもてなし用です。
なので、ブレインは今日も変な味のコーヒーをどうぞ!」
ブレイン:
「コーヒーか。ま、それでもいいが。頂くよ。
で、今日は急にどうしたんだ? 中央事務局も忙しい時期だろう。
勿論、こっちはいつでも歓迎だがな」
アネット:
「はい。なので、明日には戻らないと。
実は先日、アーカイヴでブレインの零錆戦線レポートを
見せていただいたのですが……」
アネット:
「その、かなり無茶なアセンブルで戦っている様でしたので
心配になりまして」
ブレイン:
「成程、確かにここ数日、尖ったアセンばかり試してた気がするな。
だが心配無用だ。自分で言うのもなんだが、上手くやれてるよ。
次の機体評価は見ごたえある内容を出せると思うぜ」
クラウザ:
『マスター、話し中のところ済まないが
グラーベルの広域索敵が正体不明の反応を感知した。
数的に未識別機動体のものではない、恐らくはグレムリンだ』
ブレイン:
「またかよ。いい加減にしろ、ジャンクテイマーどもめ!」
アネット:「ど、どうしたのですか?」
ユーリエ:
「実は最近、ブレインはモヒカンのお兄さんから
ずっとストーカー被害を受けているのです」
アネット:「ええっ!?」
ブレイン:
「言い方ァ! 狙われてるのは俺じゃない、コンテナだ!
どういうことだクラウザ! 威圧アセン、効果無いじゃないか!」
クラウザ:
『うむ。予想以上に根性ある略奪者だったようだな。
丁度良い機会だろう。アネットが安心して中央に帰れるよう
マスターの戦いを見せてみてはどうかね?』
???:
『……あら、やっぱり帰ってしまうの?
私のために戻ってきてくれたと思ったのに。残念ね』
ブレイン:「!?」
アネット:「この声は……」
ユーリエ:
「あ! ブレイン、アネットちゃん、ステーションの上に!」
???:
『モーシン、キョーキ、下がりなさい。
また会えて嬉しいわ、アネットアート・アーガイル。
久しぶり、というほど時間は経ってないかしらね、ここでは』
アネット:「あなたは……えっと、どちら様でしたっけ?」
憎悪:
『 わ た し よ ! おのれ、忘れたとは言わせないわよ!』
アネット:「ああ、あの時の。って、ええっ!?」
ゾーオ:
『うぐぐ、余計な力を使ったから存在が。
まあ、余りに姿が変わってしまったし、分からなくても仕方ないわ』
ブレイン:
「七月戦役の時の思念体か? なぜここに。
お前達は外に干渉できる存在じゃなかったはず」
ユーリエ:
「説明しよう! 彼女は過去にグラーベルに乗ったテイマーの残留思念である!
夢現の七月戦役でアネットちゃんを操って好き勝手しようと企んだが
逆にボコボコにされてしまったのだ!」
ゾーオ:
『人としての基盤の欠けた私達は、グレムリンから得た情報基盤で補うことで
存在を維持していた。でも、貴女があの一撃でそれを吹き飛ばしてくれたから
私は巨大な姿を保てなくなったの』
クラウザ:『……ほう』
ブレイン:
「何をしに現れた。アネットをまだ諦めてないのか?
それとも復讐にきたとでも?」
ゾーオ:
『まさか。あの時は何もかも壊してやりたい気持ちで一杯だったけど
今はそんな気分じゃないわ。おかげで人間として色々思い出す事ができたし。
貴女には感謝しているの、アネット。
どう? そこの男はさっさとクビにして、また一緒に……』
アネット:
「グラーベルのテイマーはブレインです。私がテイマーに戻る事はありません。
それにあの時、私は私の信じるままに道を進んだ。
あなたにお礼を言われることじゃありません」
ゾーオ:『相変わらず強情ね。それでこそ、なんだけど』
ブレイン:
「あまり俺を見くびるなよ……! お前達のネタは割れてるんだ。
今度は前のようにやれると思うな……!」
ゾーオ:
『ふん、まあいいわ。私は、貴方達に興味が湧いたの。
貴方達の戦いを見届けたいと思ってね。それを伝えに来たのよ』
ブレイン:「何? まさか、ここに居座るつもりなのか?」
ゾーオ:
『居座る? 何言ってるの。私達はあの機体に刻まれた思念。
つまり、グレムリンの一部でもある。ずっとここにいたのよ』
???:『…………』
ゾーオ:
『どうしたの? ……へえ、面白くなりそうね。
ブレイン、といったかしら。貴方の実力、すぐ見せてもらう事になりそうよ。
コンソールで継続画面のホームを見てみたらいいんじゃないかしら』
ブレイン:「何だと? これは……!」
◆INFORMATION:メールが届いています。
件名:脅威が迫っている*NEW*
ユーリエ:「メールだね。脅威が迫っている!」
アネット:「どうしたのですか、ブレイン」
ブレイン:
「真紅連理の部隊が戦場で巨大な未識別機動体を発見したらしい。
テイマーに掃討依頼が来ている」
ゾーオ:
『精々頑張りなさい。あと、一つ言い忘れてたけど。
貴方達、面倒なのに目を付けられたわよ。この先、少し苦労するかもね』
ブレイン:「どういう意味だ?」
ゾーオ:
『ふふふっ。今日はもう消えるわね。
でも、姿は無くとも傍にいるわ。いつでもね』
ブレイン:「…………」
面倒な事態になった。夢現の七月戦役でアネットに干渉してきた過去テイマーの思念。
奴等がまた姿を現したのだ。前回の任務はあいつ等のせいで散々な目にあった。
今の所、姿を見せただけで悪事を働いたわけじゃないが、油断はできない。
なぜ外界に干渉できたのか、それらの理由も含め奴等には謎が多いが
その存在がグラーベルの記憶領域に刻み込まれたものならば
何らかの方法で行動を制限したり、封じることはできるはずだ。
だが今は、目下の課題として差し迫る巨大未識別の脅威に対処せねばならない。
真紅連理は5機以上の傭兵部隊を前提にミッションを発動させる手筈らしい。
通常、ヴォイドテイマーの戦場選択は自由意思で、条件が提示された前例はない。
それだけの敵、ということだろう。
思念体共の思惑通りなのは癪だが、自分の力を試すには良い機会だ。
どんな強敵が相手でも戦えるよう、これまで以上に入念なパーツ選択と
アセンブルが必要だろう。皆とよく協議しなければ。
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、四つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:0.027%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆5回更新の日記ログ
かつて、私は壊すために生み出された。
オリジンフレームより分かたれた数百、数千分の一の凡庸たる複製。
それが私だった。
力を振るう事に理由など無く、原初の記憶は炎の彼方に。
我が意思は、己が使命への答えを持たず。
永き戦いの中、自らの在り様も傍観し続けた。
だが、戦局を見通すこの瞳が、望む光景を見出せずとも。
鋼の体躯の内に、秘めたる思いを抱けずとしても。
この腕脚が、敵に滅びを与えるものだとしても。
理念が、妄信、狂気、憎悪の果てに潰えたとしても。
その翼が、駆けるべき空を失ったとしても。
(手を伸ばす)
その手を支える。
それこそが、虚無なる戦いの果てに辿り着いた答えならば。
今を抜け出そうと足掻く、目覚めし新たな命のために。
――私は、
……………。
…………………………。
人よ。虚空を訪れし、異邦の魂よ。
お前が砂塵に穿たれた縛鎖を解き放つ者であるならば。
その証となりし意志の力。
我が前に、示して見せよ。
[MS_30] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:北部海域【ペンギン諸島】
座標:X=3,Y=1 FL【5895/20864】
戦場:第30ブロック 北部海域【ペンギン諸島】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージルーム
バルク・クォーリーの機体格納庫。今日も変わらずクラウザ監督の指揮の元
小型機無人機が作業に勤しみ、格納庫内は喧騒に包まれている。
ステーションに待機したグラーベルの前で、今度はグレイヴネットの端末調整に
頭を悩ませるブレインとユーリエの姿が見える。部屋の片隅にある部品棚の影から
三人を遠巻きに覗く蜃気楼の様な気配が一つ。それは……。
◆INFORMATION:アップロード情報。
第3回目・北東海域【雨音列島】での戦闘記録を送信。
特殊任務・演習場、対プロジェクト・ジャック・オーの戦闘記録を送信。
第4回目・北北東海域【氷獄】での戦闘記録を送信。
各未識別機動体及び敵対勢力の戦闘記録を送信。
狙撃機『マインゴーシュ』、『零力照射気嚢』
思念解放グレムリン『リザレクション』、充填グレムリン初期型
・現在調査進行度:Lv19。
ブレイン:
「確かに最近、グレイヴネットの調子が良くないな。
接続先のサーバが選択できない。遠隔でハックされてるのか?」
ユーリエ:
「あ、わたしが使った時もこんな感じでした。
勝手に色んな所に飛んじゃって。恐怖、怪奇現象! です」
ブレイン:
「成程な。多分、誰かが管理権限を使って操作してるんだ。
しかし例の幽霊騒ぎ、随分と大ごとになってるみたいだな。
未識別グレムリンか……正直、ただの噂だと思っていたが
そう単純な話じゃないってことか」
ブレイン:
「それに、噂を意図的に拡散しようとする意思も感じる。
警告のつもりか? それとも他に思惑があるのか?
いずれにせよ、どうもキナ臭い話だな」
ユーリエ:
「ブレイン、大丈夫です。昨日、わたしがお祓いの儀式をしたので
バルク・クォーリーとアーカディアに悪い幽霊はいません。
もし、いたとしても良いオバケです」
ブレイン:「悪い妖にカテゴライズ出来そうな奴なら、そこに」
クラウザ:『何か言ったかね、マスター?』
ブレイン:
「いや、なんでもない。ところでユーリエ、先行調査の二人が
未識別機動体についてまとめたレポートを残していただろう。
あれはどこに仕舞った?」
ユーリエ:
「データはアーカディア・アーカイヴの調査ファイルで……。
あ、でも紙媒体のも確かこっちに。
……もぞもぞ」
ユーリエ:「ありました! これをどうぞ!」
ブレイン:「早いな、助かるぜ」
ユーリエ:「えっへん!」
クラウザ:
『マスター、調べ物をしているところ済まないが
グラーベルの広域索敵が正体不明の反応を感知した。
数的に未識別機動体のものではない、恐らくはグレムリンだ』
ブレイン:「なんだと? またジャンクテイマーか?」
クラウザ:
『戦場に先回りし待ち伏せる戦法、先日のジャンクテイマーと手口も通ずる。
他に仲間がいたのかもしれんな』
ブレイン:「全く、厄介な奴らだ」
ユーリエ:
「モヒカンおかわりさん! でも、まだ分かりません。
ひょっとすると、昨日の人がリベンジマッチに来たのかも!」
ブレイン:
「あれだけボコボコにしたのにか?
あり得ない話じゃないが……昨日の今日だぞ、早すぎるだろう」
クラウザ:
『ふむ。どちらにしろ、奴らは獣だ。
これ以上、舐められるような戦いをする訳にはいくまい。
マスター、敵の戦意を挫く良いアセンブル案があるのだが。
試してみるかね?』
ブレイン:
「面白い。なら今回はクラウザにアセンブルを任せる。
換装が終わったら呼んでくれ。シミュレーションで試しておきたいしな」
クラウザ:『フッ、任せておきたまえ』
ユーリエが騒いでいたグレイヴネットの怪奇現象を調べるため
朝から端末の調整をしていたが、どうやら原因は機器の不具合ではなく
外部からリモートコントロールを受けていたようだった。
調整中、俺も無事? 幽霊騒ぎの現場に遭遇することができた。
音声ログで確認された、未識別グレムリンという新しい敵。
未識別機動体は既存の兵器の姿で現れる。ならば、グレムリンの姿を模して
現れたとしても不思議ではない。
レド達の調査レポートによるとTsCが存在していた頃の未識別機動体には
異世界の兵器を模った個体も存在していたらしい。二人は戦場で戦う者の思念が
未識別機動体の生成に影響を与えているのではと仮説を立てていた。
音声データのテイマー達と違い、俺達は傭兵活動を始めて日も浅く
戦場で死に別れた仲間などもいない。
その点で、情に流され隙を突かれるという心配はないが、未識別機動体が
グレムリンの力を得るのなら、その戦闘力は純粋に脅威だ。
過去の再現。幽霊悪鬼。ふと先日、突発依頼で受けたジャック・オーの一件を
思い出した。リザレクションのテイマー、奴のやろうとした事はテロ行為であり
許されるものではない。しかし、失われた清浄な世界への思いや、現状に対する
やり場のない怒り。そうした感情には同情できる部分もあった。
過去の栄華を知る者達の中には、彼の様に今の世界に鬱憤を溜めている人間も
少なくないのかもしれない。
だが反対に、世界には滅びに瀕することで逆に活気になる輩も存在する。
悲しいかな、人間とはそういうものだ。故郷の大地でも、そうした手合いは
幾度となく見てきた。戦火を交えた事も一度や二度ではないだろう。
どちらにしろ、迷惑な奴等であることに変わりはない。
どうやら俺達にとって、略奪者を振り切る事の方が火急を要する任である様だ。
???:『…………』
ユーリエ:「あ、こんにちは!」
???:『!? !? !?』
ユーリエ:
「むむむ。なぜか逃げられてしまいました。ちょっとショックです」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、四つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:0.025%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
オリジンフレームより分かたれた数百、数千分の一の凡庸たる複製。
それが私だった。
力を振るう事に理由など無く、原初の記憶は炎の彼方に。
我が意思は、己が使命への答えを持たず。
永き戦いの中、自らの在り様も傍観し続けた。
だが、戦局を見通すこの瞳が、望む光景を見出せずとも。
鋼の体躯の内に、秘めたる思いを抱けずとしても。
この腕脚が、敵に滅びを与えるものだとしても。
理念が、妄信、狂気、憎悪の果てに潰えたとしても。
その翼が、駆けるべき空を失ったとしても。
(手を伸ばす)
その手を支える。
それこそが、虚無なる戦いの果てに辿り着いた答えならば。
今を抜け出そうと足掻く、目覚めし新たな命のために。
――私は、
……………。
…………………………。
人よ。虚空を訪れし、異邦の魂よ。
お前が砂塵に穿たれた縛鎖を解き放つ者であるならば。
その証となりし意志の力。
我が前に、示して見せよ。
[MS_30] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:北部海域【ペンギン諸島】
座標:X=3,Y=1 FL【5895/20864】
戦場:第30ブロック 北部海域【ペンギン諸島】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージルーム
バルク・クォーリーの機体格納庫。今日も変わらずクラウザ監督の指揮の元
小型機無人機が作業に勤しみ、格納庫内は喧騒に包まれている。
ステーションに待機したグラーベルの前で、今度はグレイヴネットの端末調整に
頭を悩ませるブレインとユーリエの姿が見える。部屋の片隅にある部品棚の影から
三人を遠巻きに覗く蜃気楼の様な気配が一つ。それは……。
◆INFORMATION:アップロード情報。
第3回目・北東海域【雨音列島】での戦闘記録を送信。
特殊任務・演習場、対プロジェクト・ジャック・オーの戦闘記録を送信。
第4回目・北北東海域【氷獄】での戦闘記録を送信。
各未識別機動体及び敵対勢力の戦闘記録を送信。
狙撃機『マインゴーシュ』、『零力照射気嚢』
思念解放グレムリン『リザレクション』、充填グレムリン初期型
・現在調査進行度:Lv19。
ブレイン:
「確かに最近、グレイヴネットの調子が良くないな。
接続先のサーバが選択できない。遠隔でハックされてるのか?」
ユーリエ:
「あ、わたしが使った時もこんな感じでした。
勝手に色んな所に飛んじゃって。恐怖、怪奇現象! です」
ブレイン:
「成程な。多分、誰かが管理権限を使って操作してるんだ。
しかし例の幽霊騒ぎ、随分と大ごとになってるみたいだな。
未識別グレムリンか……正直、ただの噂だと思っていたが
そう単純な話じゃないってことか」
ブレイン:
「それに、噂を意図的に拡散しようとする意思も感じる。
警告のつもりか? それとも他に思惑があるのか?
いずれにせよ、どうもキナ臭い話だな」
ユーリエ:
「ブレイン、大丈夫です。昨日、わたしがお祓いの儀式をしたので
バルク・クォーリーとアーカディアに悪い幽霊はいません。
もし、いたとしても良いオバケです」
ブレイン:「悪い妖にカテゴライズ出来そうな奴なら、そこに」
クラウザ:『何か言ったかね、マスター?』
ブレイン:
「いや、なんでもない。ところでユーリエ、先行調査の二人が
未識別機動体についてまとめたレポートを残していただろう。
あれはどこに仕舞った?」
ユーリエ:
「データはアーカディア・アーカイヴの調査ファイルで……。
あ、でも紙媒体のも確かこっちに。
……もぞもぞ」
ユーリエ:「ありました! これをどうぞ!」
ブレイン:「早いな、助かるぜ」
ユーリエ:「えっへん!」
クラウザ:
『マスター、調べ物をしているところ済まないが
グラーベルの広域索敵が正体不明の反応を感知した。
数的に未識別機動体のものではない、恐らくはグレムリンだ』
ブレイン:「なんだと? またジャンクテイマーか?」
クラウザ:
『戦場に先回りし待ち伏せる戦法、先日のジャンクテイマーと手口も通ずる。
他に仲間がいたのかもしれんな』
ブレイン:「全く、厄介な奴らだ」
ユーリエ:
「モヒカンおかわりさん! でも、まだ分かりません。
ひょっとすると、昨日の人がリベンジマッチに来たのかも!」
ブレイン:
「あれだけボコボコにしたのにか?
あり得ない話じゃないが……昨日の今日だぞ、早すぎるだろう」
クラウザ:
『ふむ。どちらにしろ、奴らは獣だ。
これ以上、舐められるような戦いをする訳にはいくまい。
マスター、敵の戦意を挫く良いアセンブル案があるのだが。
試してみるかね?』
ブレイン:
「面白い。なら今回はクラウザにアセンブルを任せる。
換装が終わったら呼んでくれ。シミュレーションで試しておきたいしな」
クラウザ:『フッ、任せておきたまえ』
ユーリエが騒いでいたグレイヴネットの怪奇現象を調べるため
朝から端末の調整をしていたが、どうやら原因は機器の不具合ではなく
外部からリモートコントロールを受けていたようだった。
調整中、俺も無事? 幽霊騒ぎの現場に遭遇することができた。
音声ログで確認された、未識別グレムリンという新しい敵。
未識別機動体は既存の兵器の姿で現れる。ならば、グレムリンの姿を模して
現れたとしても不思議ではない。
レド達の調査レポートによるとTsCが存在していた頃の未識別機動体には
異世界の兵器を模った個体も存在していたらしい。二人は戦場で戦う者の思念が
未識別機動体の生成に影響を与えているのではと仮説を立てていた。
音声データのテイマー達と違い、俺達は傭兵活動を始めて日も浅く
戦場で死に別れた仲間などもいない。
その点で、情に流され隙を突かれるという心配はないが、未識別機動体が
グレムリンの力を得るのなら、その戦闘力は純粋に脅威だ。
過去の再現。幽霊悪鬼。ふと先日、突発依頼で受けたジャック・オーの一件を
思い出した。リザレクションのテイマー、奴のやろうとした事はテロ行為であり
許されるものではない。しかし、失われた清浄な世界への思いや、現状に対する
やり場のない怒り。そうした感情には同情できる部分もあった。
過去の栄華を知る者達の中には、彼の様に今の世界に鬱憤を溜めている人間も
少なくないのかもしれない。
だが反対に、世界には滅びに瀕することで逆に活気になる輩も存在する。
悲しいかな、人間とはそういうものだ。故郷の大地でも、そうした手合いは
幾度となく見てきた。戦火を交えた事も一度や二度ではないだろう。
どちらにしろ、迷惑な奴等であることに変わりはない。
どうやら俺達にとって、略奪者を振り切る事の方が火急を要する任である様だ。
???:『…………』
ユーリエ:「あ、こんにちは!」
???:『!? !? !?』
ユーリエ:
「むむむ。なぜか逃げられてしまいました。ちょっとショックです」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、四つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』『希望』『祝福』
...オリジンデータ浸食率:0.025%
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆4回更新の日記ログ
[MS_29] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:北北東海域【氷獄】
座標:X=4,Y=1 FL【0/13440】
戦場:第65ブロック 北北東海域【氷獄】
◆SYSTEM_COMMAND...MAIL_MODE:新規作成
件名:霧の大地《零錆戦線》調査報告・グレムリン『グラーベル』の運用について
発信:現地拠点バルク・クォーリー・AR
発信者:一等格探究者ブレイン・メザード、クラウザ・ガル
特等格探究者ユーリィエル・メルビアス
◆STATUS_COMMAND...機体情報:グラーベル
フレーム:ラスト
頭部:ヴォイドフェイス :腕部:マンティス 操縦棺:ウィンドミル
脚部:盾二脚 エンジン:大型ボイラー 索敵:スピンクス
主兵装:硬質ダガー 副兵装:ヒートストリング 背部兵装:速射砲
機動補助:緊急推進器 自由1:無し 自由2:無し
思念制御識・未来を使用し、加速時効果のパーツを主軸とした中量二脚機体。
次回戦闘より、アセンブルの方向性を駆動輪を使用した構成へ変更するため
初期構成案のまとめとしてアーカディア・アーカイヴに登録する。
正し、この機体は七月戦役からの仕様変更を確認する試験的なものであり
多くの問題点を抱えるため、構成案として非推奨である。
パーツの加速時効果を利用し、加圧と耐久を高める点は七月戦役時の中二脚機体と
同様である。武装は硬質ダガーと速射砲、ヒートストリングを使用している。
戦況によってはサイコプレッシャーも有効である。
また、未来制御識の特殊能力である切り裂く風の効果で、弾薬を抑えつつ
複数の敵機を殲滅できる。ヒートストリングはスペック値以上の高火力を発揮し
装甲の厚い大型機とも渡り合う事が可能だ。
本機体は過去三回の戦闘で未識別機動体を相手にそれなりの戦果を挙げた。
だが抱える問題点、効率性の悪さは無視できない課題だ。
まず、今回からのフレームやパーツの仕様変更で自由欄が絶滅戦場限定になり
加速も毎分発動する方法が限定された。これにより、七月戦役時の同様の
機体構成よりかなり性能を落としている。加速回数を少しでも稼ぐ為に
捕捉速度を重視した結果、追跡能力を落とせず、レーダーを積む余枠が無い。
また、頭部のヴォイドフェイスが断線漏電に弱いという点も問題だ。
現状、多くのヴォイドテイマーが採用している逆関節型機体などと比較すると
構成の未熟さ、嚙み合わなさを実感できる結果となった。
しかし、この調査結果はあくまで第三日目終了時点でのものであり
今後解放されるパーツによっては大きく改善できる見込みがある。
問題点が分かり易いということは、改善の方向性も明確であるということだ。
例えば、思念制御識・祝福の充電パーツを採用して殲滅力の底上げを図ったり
自機攻撃パーツで被攻撃時加速を発動させる等、幾つもの改善案が挙げられる。
更に改良を続ければ、この方向性のままでも七月戦役時以上の性能を
獲得することができるだろう。
また、新たな推奨構成を確立次第、追って報告する。
成果についてはアーカディア・アーカイヴのアセンブル案の項目を参照のこと。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージルーム
バルク・クォーリーの機体格納庫。AR改装され、機能性、利便性が向上された。
搬入された大きなコンテナが一角を占拠しており、周囲ではクラウザの指揮の元
自立型の作業機械が数機、所狭しと動き回っている。
中央のステーションには膝をついた状態で待機しているグラーベルと
その脚元で、レポート作成に頭を悩ませるブレインとユーリエの姿も見える。
ブレイン:
「よし。中二脚機体のレポートはこんなもんでいいだろう。
正直、この結果で中央が納得してくれるかは疑問だが。
俺も以前のデータに頼って改良を横着してしまった感があるしな」
ユーリエ:
「ブレインが怒られてしまったら、わたしも一緒に謝ります。
いつもおじいさまに雷を落とされてるので、ごめんなさいは得意です」
クラウザ:
『マスター、投下コンテナの搬入、及び確認作業を完了した。
状態は良好だ。戦闘や落下による破損もない。中の物資も無事だろう。
記載されている配送先は、東南東海域【南の島】だな』
ブレイン:
「ご苦労。しかし、ここでコンテナを拾うことになるとはな。
昨日、行き先を決めた時になんとなく予感はしてたが……」
ユーリエ:
「おっきくて立派な箱だね。中には何が入っているのでしょう?」
ブレイン:
「アネットと戦役で戦ってた時、何度か拾ったことがある。
中身はグレムリン用の弾薬と、あとは人が生活に使う物資だな。
異世界の物品らしいが、ユーリエみたいな普通の世界の出身なら
結構、見慣れた物だよ。こういう場所じゃ、貴重だけどな」
ユーリエ:
「世界のどこかに、これを求めてるがいるんだね。
みんなの暮らしのために、迅速丁寧にお届けしないといけません。
メルカルディア・エクスプレス便のはじまりです!」
ブレイン:「だが、パクることもできる」
ユーリエ:「契約違反行為です。作戦行動を中断します」
ブレイン:
「いや、言葉が悪かったな。違反行為じゃないぞ。
コンテナの使用も契約者から与えられた正当な権利だ。
俺達テイマーも戦い続けるには物資がいるしな」
ユーリエ:
「でも第七駐屯地で補給は受けたし、物も弾もまだ余裕あるよね?」
ブレイン:
「そうなんだが、届け先の場所が悪い。南の島は予定してた目的地と真逆だ。
ライフスチールは魅力的だが、温泉を目の前にして引き返すってのは……。
クッ……」
ユーリエ:
「そういえばそうでした。
無辜の皆さんの豊かな生活か、わたし達の豊かな生活か……。
なんということでしょう。これは究極の二択です。
むむむむむむ……」
ユーリエ:
「わたし決めました! ブレイン、温泉に行きましょう!」
ブレイン:
「即答だな。まあ、欲望には逆らえないか。
俺も同意見だ。行くぞ、健康温泉に。俺達の豊かな生活のために!
エクスプレスな宅配便じゃなくなってしまうが
無辜の民には少し待ってもらうとしよう」
クラウザ:
『マスター、グラーベルの広域索敵が正体不明の反応を感知した。
数的に未識別機動体のものではない、恐らくはグレムリンだ』
ブレイン:
「なに? 撤退に遅れた味方か? いや、これは……。
もしかして、噂のジャンクテイマーってやつか。
どうやら、搬入作業を見られていたようだな」
ユーリエ:
「おお! 世紀末名物、ヒャッハーなモヒカンさんです!
コンテナが呼び寄せる異世界の邂逅! 俺達とカッコイイことしようぜ!
次回、氷獄海域でレイダーテイマーと握手!」
クラウザ:『どうするマスター、先に仕掛けるかね?』
ブレイン:
「いや、戦場に紛れて行動するのが、奴らのやり口だ。
こっちも万全の状況で返り討ちにしてやるさ。
レーダー装備に換装して偵察に出るぞ。二人とも、アセンを手伝ってくれ」
クラウザ:『了解した』
ユーリエ:「アイアイサー!」
ブレイン:
「ふふふ……ジャンクテイマーとコンテナ争奪戦か。
今日は楽しくなりそうだな」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、三つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』『祝福』
FM発掘作業:「霧幻の化石、意味の記憶を探して」
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:北北東海域【氷獄】
座標:X=4,Y=1 FL【0/13440】
戦場:第65ブロック 北北東海域【氷獄】
◆SYSTEM_COMMAND...MAIL_MODE:新規作成
件名:霧の大地《零錆戦線》調査報告・グレムリン『グラーベル』の運用について
発信:現地拠点バルク・クォーリー・AR
発信者:一等格探究者ブレイン・メザード、クラウザ・ガル
特等格探究者ユーリィエル・メルビアス
◆STATUS_COMMAND...機体情報:グラーベル
フレーム:ラスト
頭部:ヴォイドフェイス :腕部:マンティス 操縦棺:ウィンドミル
脚部:盾二脚 エンジン:大型ボイラー 索敵:スピンクス
主兵装:硬質ダガー 副兵装:ヒートストリング 背部兵装:速射砲
機動補助:緊急推進器 自由1:無し 自由2:無し
思念制御識・未来を使用し、加速時効果のパーツを主軸とした中量二脚機体。
次回戦闘より、アセンブルの方向性を駆動輪を使用した構成へ変更するため
初期構成案のまとめとしてアーカディア・アーカイヴに登録する。
正し、この機体は七月戦役からの仕様変更を確認する試験的なものであり
多くの問題点を抱えるため、構成案として非推奨である。
パーツの加速時効果を利用し、加圧と耐久を高める点は七月戦役時の中二脚機体と
同様である。武装は硬質ダガーと速射砲、ヒートストリングを使用している。
戦況によってはサイコプレッシャーも有効である。
また、未来制御識の特殊能力である切り裂く風の効果で、弾薬を抑えつつ
複数の敵機を殲滅できる。ヒートストリングはスペック値以上の高火力を発揮し
装甲の厚い大型機とも渡り合う事が可能だ。
本機体は過去三回の戦闘で未識別機動体を相手にそれなりの戦果を挙げた。
だが抱える問題点、効率性の悪さは無視できない課題だ。
まず、今回からのフレームやパーツの仕様変更で自由欄が絶滅戦場限定になり
加速も毎分発動する方法が限定された。これにより、七月戦役時の同様の
機体構成よりかなり性能を落としている。加速回数を少しでも稼ぐ為に
捕捉速度を重視した結果、追跡能力を落とせず、レーダーを積む余枠が無い。
また、頭部のヴォイドフェイスが断線漏電に弱いという点も問題だ。
現状、多くのヴォイドテイマーが採用している逆関節型機体などと比較すると
構成の未熟さ、嚙み合わなさを実感できる結果となった。
しかし、この調査結果はあくまで第三日目終了時点でのものであり
今後解放されるパーツによっては大きく改善できる見込みがある。
問題点が分かり易いということは、改善の方向性も明確であるということだ。
例えば、思念制御識・祝福の充電パーツを採用して殲滅力の底上げを図ったり
自機攻撃パーツで被攻撃時加速を発動させる等、幾つもの改善案が挙げられる。
更に改良を続ければ、この方向性のままでも七月戦役時以上の性能を
獲得することができるだろう。
また、新たな推奨構成を確立次第、追って報告する。
成果についてはアーカディア・アーカイヴのアセンブル案の項目を参照のこと。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:ガレージルーム
バルク・クォーリーの機体格納庫。AR改装され、機能性、利便性が向上された。
搬入された大きなコンテナが一角を占拠しており、周囲ではクラウザの指揮の元
自立型の作業機械が数機、所狭しと動き回っている。
中央のステーションには膝をついた状態で待機しているグラーベルと
その脚元で、レポート作成に頭を悩ませるブレインとユーリエの姿も見える。
ブレイン:
「よし。中二脚機体のレポートはこんなもんでいいだろう。
正直、この結果で中央が納得してくれるかは疑問だが。
俺も以前のデータに頼って改良を横着してしまった感があるしな」
ユーリエ:
「ブレインが怒られてしまったら、わたしも一緒に謝ります。
いつもおじいさまに雷を落とされてるので、ごめんなさいは得意です」
クラウザ:
『マスター、投下コンテナの搬入、及び確認作業を完了した。
状態は良好だ。戦闘や落下による破損もない。中の物資も無事だろう。
記載されている配送先は、東南東海域【南の島】だな』
ブレイン:
「ご苦労。しかし、ここでコンテナを拾うことになるとはな。
昨日、行き先を決めた時になんとなく予感はしてたが……」
ユーリエ:
「おっきくて立派な箱だね。中には何が入っているのでしょう?」
ブレイン:
「アネットと戦役で戦ってた時、何度か拾ったことがある。
中身はグレムリン用の弾薬と、あとは人が生活に使う物資だな。
異世界の物品らしいが、ユーリエみたいな普通の世界の出身なら
結構、見慣れた物だよ。こういう場所じゃ、貴重だけどな」
ユーリエ:
「世界のどこかに、これを求めてるがいるんだね。
みんなの暮らしのために、迅速丁寧にお届けしないといけません。
メルカルディア・エクスプレス便のはじまりです!」
ブレイン:「だが、パクることもできる」
ユーリエ:「契約違反行為です。作戦行動を中断します」
ブレイン:
「いや、言葉が悪かったな。違反行為じゃないぞ。
コンテナの使用も契約者から与えられた正当な権利だ。
俺達テイマーも戦い続けるには物資がいるしな」
ユーリエ:
「でも第七駐屯地で補給は受けたし、物も弾もまだ余裕あるよね?」
ブレイン:
「そうなんだが、届け先の場所が悪い。南の島は予定してた目的地と真逆だ。
ライフスチールは魅力的だが、温泉を目の前にして引き返すってのは……。
クッ……」
ユーリエ:
「そういえばそうでした。
無辜の皆さんの豊かな生活か、わたし達の豊かな生活か……。
なんということでしょう。これは究極の二択です。
むむむむむむ……」
ユーリエ:
「わたし決めました! ブレイン、温泉に行きましょう!」
ブレイン:
「即答だな。まあ、欲望には逆らえないか。
俺も同意見だ。行くぞ、健康温泉に。俺達の豊かな生活のために!
エクスプレスな宅配便じゃなくなってしまうが
無辜の民には少し待ってもらうとしよう」
クラウザ:
『マスター、グラーベルの広域索敵が正体不明の反応を感知した。
数的に未識別機動体のものではない、恐らくはグレムリンだ』
ブレイン:
「なに? 撤退に遅れた味方か? いや、これは……。
もしかして、噂のジャンクテイマーってやつか。
どうやら、搬入作業を見られていたようだな」
ユーリエ:
「おお! 世紀末名物、ヒャッハーなモヒカンさんです!
コンテナが呼び寄せる異世界の邂逅! 俺達とカッコイイことしようぜ!
次回、氷獄海域でレイダーテイマーと握手!」
クラウザ:『どうするマスター、先に仕掛けるかね?』
ブレイン:
「いや、戦場に紛れて行動するのが、奴らのやり口だ。
こっちも万全の状況で返り討ちにしてやるさ。
レーダー装備に換装して偵察に出るぞ。二人とも、アセンを手伝ってくれ」
クラウザ:『了解した』
ユーリエ:「アイアイサー!」
ブレイン:
「ふふふ……ジャンクテイマーとコンテナ争奪戦か。
今日は楽しくなりそうだな」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、三つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『傷跡』『祝福』
FM発掘作業:「霧幻の化石、意味の記憶を探して」
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆3回更新の日記ログ
[MS_28] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:北東海域【雨音列島】
座標:X=4,Y=2 FL【0/19712】
戦場:第61ブロック 北東海域【雨音列島】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:キャビン
毎度お馴染みバルク・クォーリー・アーカディア。朝からキャビンには
コーヒーの匂いが漂い続けている。第七駐屯地で確保した補給物資に紛れていた
多種多様なコーヒーシロップを使って、ユーリエが創作料理に勤しんでいるようだ。
隣ではグレイヴネットの端末でアセンブルシミュレーターを操作している
クラウザの姿もある。唐突に、メールの着信音が室内に響いた。
◆INFORMATION:アップロード情報。
第1回目・タワー港湾区【カラビネル区画】での戦闘記録を送信。
第2回目・空母船団【ヒルコ・トリフネ】での戦闘記録を送信。
各未識別機動体との戦闘記録を送信。
防衛設備(零錆)、前線偵察機《シュヴァルベ ドライ》
偵察ドローン『アルミビートル』、掃海艇『みずすまし』
突撃艇『ビルフィッシュ』、中量格闘機『金砕棒』
・現在調査進行度:Lv17。
メールが届いています。自動展開します
差出人:スネイクパレット『ホーレツァー』
「ナイスバトル😁おじさん関心しちゃったナ😉キミのファンに
なっちゃお😘」
メールを破棄しますか?(y/n)
クラウザ:
『ふむ。どうやら同じテイマーからのメールのようだな。
当のマスターは……まだ眠っているか。
…………ならば、こうする以外あるまい』
◆SYSTEM_COMMAND:MAIL_MODE:返信
差出人:ブレイン 件名:無題
┐″─孑@単戈レヽ見ττ<れナニωナニ″😄
ワ」レィゃ⊃らヵ″・/ノヾっτゃっ⊃レナナニょ😉
ヵッ]ィィぉι″ちゃωカゞ┐ァ・/レニナょっτ<れちゃっナニ丶)ナょωカゝιτ
┐″─孑っτレよ″于ョ─ぅれιレヽ⭐
ょカゝっナニらぉ友ぇ幸レニナょっτレまιレヽナょ!🤩
クラウザ:『うむ。こんなものだろう』
◆INFORMATION:送信しますか?( にア y / n )
ブレイン:「やめんかぁぁぁぁぁーーーーっ!!」
クラウザ:
『おや、起きたのだな、マスター。そんな腕を振るってどうしたのかね?
忘れたわけではあるまい、この体は投影に過ぎない。
マスターが真なる体に近しい器であるのならば
その半身である義体の内に、常に私は存在する……』
ブレイン:
「常に私は存在する……じゃない!
シリアスな顔でハチャメチャなことしてるんじゃない!
何だそのメールは! どこに出そうとしてる!?」
クラウザ:
『なに、どこかのマスターが、起床の時間もとうに過ぎているのに
阿保面下げてイビキをかいていたのでね。
つい戯れに指が動いてしまった……それだけのことだ』
ブレイン:
「少し寝坊しただけでその仕打ちか!
この奇妙な文字列の怪文書……古傷を抉るような真似をしやがって。
全く、求道者の戯れも過ぎたもんだっての」
◆INFORMATION:送信しますか?( y / にア n )
ブレイン:
「破棄完了……これで良しと。油断も隙もありゃしない。
寝坊したのは、アレだ。昨日は少し作業に夢中になっててな」
ユーリエ:
「ブレイン、おはようございます! 今日もお外は粉塵日和です!
昨日はサラマンドゥラァーの逆襲、お楽しみでしたね!」
クラウザ:『見えてないとでも思っていたのかね?』
ブレイン:「うぐっ!」
ユーリエ:「むむむ? なんだか、楽しそうに騒いでいる!」
ブレイン:
「楽しくない! ……やれやれ。寝起きから騒々しい。
クラウザ、グレイヴネットを使うから端末を空けてくれ」
ユーリエ:
「その前に、朝食にコンブレッドのサンドウィッチはいかがでしょう?
あと、ちょっと変な味のコーヒーも!」
ブレイン:
「ああ、いただくとするよ。……ふぁあ……ぐぬぬ、寝不足か?
おのれ、古代超竜。恐るべき罠だ」
グレイヴネットは虚空領域の様々な情報が集まる世界規模の広域ネットワークだ。
その用途は多岐に渡り、テイマーにとっては傭兵活動を継続するための
オペレーティングシステムとしても機能している。
クラウザの三次元映像を押しのけ、俺はグラーベルからコード接続されている
グレイヴネットの端末の前に腰を下ろした。
起動と同時にインターフェイスはよく分からない認証に成功し、接続を開始する。
映されるのは様々なニュース、主に世界情勢と未識別機動体との戦況だ。
自分達の様な外来者にとって、不要なトラブルを避け、任務を円滑に遂行する為に
情報収集は欠かすことは出来ない。こうした物があると非常に助かる。
現地での常識が分からず、知らず知らずの間に非常識な行動をとってしまったり
禁忌に触れてしまったり等、外界任務では稀にある失敗なのだ。
最も、出向先の世界で最低限生きていく知識は、中央の事前調査でまとめられ
器にあらかじめ刷り込まれるシステムになっている。
だが、そうした知識を管理するのは、中央所属のサポート専門チームであり
詰まる所、俺達の側の人間なのだ。間違い、抜けがあってしかるべしなのである。
まあ、この世界の場合はグレムリンも言語翻訳や知識補完の機能を持っている。
いざという時は、そちらを頼れば大きな問題は起こらないだろう。
件名:対悪鬼加圧機体セットのご案内*NEW*
ホームメニューのインフォメーション欄に受信メールの通知が来ていた。
差出人はフヌ。グレイヴネット・ネットワーク管理AIを名乗る謎の人物だ。
廃工場での初日、グレムリンのグレイヴネット・システムを起動した際に
ネットワークを介して語り掛けてきたのが彼女だった。
それ以来、チュートリアルの案内、メールでのアセンブルセットの紹介と
何故か俺達ヴォイドテイマーの世話を甲斐甲斐しく焼いてくる。
実に胡散臭い。灰燼戦争時、前任者のレドもグレイヴネットを使用していたが
彼のレポートにはフヌという人物についての記載は全く無かった。
俺の方でも独自に調査を試みたが、グレイヴネット上にも情報は無く
分かるのは最近になってその名前で活動を始めたという事実だけだ。
それに、この手の相手が裏切るパターンは傭兵の常でありTsCという前例もある。
あの戦いでヴルッフが死に、グレイヴネットの内部はブラックボックス化
してしまっているという。そこに強い権限を持っている以上、只者でない
というのは間違いないだろうが……やはり、信用はできない。
ブレイン:
「どう思う、クラウザ。このフヌとかいうAI。
ヴルッフが仕込んでいたか、高度な技術力をもつ何者かの差し金か。
もしくは……システムが自我に目覚めたか」
クラウザ:
『ふむ。あの者の詳細については分からん……が
私としては、このままの関係を続けていきたいと思っているがね。
彼女の提供するアセンブルサンプルは興味深いものが多い。
機体のコンセプトが理解しやすく、使用者の好みによりカスタムの余地も
取られている。参考機体としては非常に優秀だ』
ブレイン:
「それは確かにな。情報料を取るわけでもないし。
まあ、ただより高いものは無いともいうが……。
何かを企んでいたとしても、尻尾を掴めない以上
訝しんでいても仕方ないか」
ユーリエ:
「わたし知ってます! あの人は、機体自慢が趣味みたいです!
『しかもインスペクト・フレームに乗ることができる』って言ってました!
ある筋からの確かな情報です!」
ブレイン:「それはまた、随分と人間臭いAIだな……」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、二つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『希望』
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:北東海域【雨音列島】
座標:X=4,Y=2 FL【0/19712】
戦場:第61ブロック 北東海域【雨音列島】
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:キャビン
毎度お馴染みバルク・クォーリー・アーカディア。朝からキャビンには
コーヒーの匂いが漂い続けている。第七駐屯地で確保した補給物資に紛れていた
多種多様なコーヒーシロップを使って、ユーリエが創作料理に勤しんでいるようだ。
隣ではグレイヴネットの端末でアセンブルシミュレーターを操作している
クラウザの姿もある。唐突に、メールの着信音が室内に響いた。
◆INFORMATION:アップロード情報。
第1回目・タワー港湾区【カラビネル区画】での戦闘記録を送信。
第2回目・空母船団【ヒルコ・トリフネ】での戦闘記録を送信。
各未識別機動体との戦闘記録を送信。
防衛設備(零錆)、前線偵察機《シュヴァルベ ドライ》
偵察ドローン『アルミビートル』、掃海艇『みずすまし』
突撃艇『ビルフィッシュ』、中量格闘機『金砕棒』
・現在調査進行度:Lv17。
メールが届いています。自動展開します
差出人:スネイクパレット『ホーレツァー』
「ナイスバトル😁おじさん関心しちゃったナ😉キミのファンに
なっちゃお😘」
メールを破棄しますか?(y/n)
クラウザ:
『ふむ。どうやら同じテイマーからのメールのようだな。
当のマスターは……まだ眠っているか。
…………ならば、こうする以外あるまい』
◆SYSTEM_COMMAND:MAIL_MODE:返信
差出人:ブレイン 件名:無題
┐″─孑@単戈レヽ見ττ<れナニωナニ″😄
ワ」レィゃ⊃らヵ″・/ノヾっτゃっ⊃レナナニょ😉
ヵッ]ィィぉι″ちゃωカゞ┐ァ・/レニナょっτ<れちゃっナニ丶)ナょωカゝιτ
┐″─孑っτレよ″于ョ─ぅれιレヽ⭐
ょカゝっナニらぉ友ぇ幸レニナょっτレまιレヽナょ!🤩
クラウザ:『うむ。こんなものだろう』
◆INFORMATION:送信しますか?( にア y / n )
ブレイン:「やめんかぁぁぁぁぁーーーーっ!!」
クラウザ:
『おや、起きたのだな、マスター。そんな腕を振るってどうしたのかね?
忘れたわけではあるまい、この体は投影に過ぎない。
マスターが真なる体に近しい器であるのならば
その半身である義体の内に、常に私は存在する……』
ブレイン:
「常に私は存在する……じゃない!
シリアスな顔でハチャメチャなことしてるんじゃない!
何だそのメールは! どこに出そうとしてる!?」
クラウザ:
『なに、どこかのマスターが、起床の時間もとうに過ぎているのに
阿保面下げてイビキをかいていたのでね。
つい戯れに指が動いてしまった……それだけのことだ』
ブレイン:
「少し寝坊しただけでその仕打ちか!
この奇妙な文字列の怪文書……古傷を抉るような真似をしやがって。
全く、求道者の戯れも過ぎたもんだっての」
◆INFORMATION:送信しますか?( y / にア n )
ブレイン:
「破棄完了……これで良しと。油断も隙もありゃしない。
寝坊したのは、アレだ。昨日は少し作業に夢中になっててな」
ユーリエ:
「ブレイン、おはようございます! 今日もお外は粉塵日和です!
昨日はサラマンドゥラァーの逆襲、お楽しみでしたね!」
クラウザ:『見えてないとでも思っていたのかね?』
ブレイン:「うぐっ!」
ユーリエ:「むむむ? なんだか、楽しそうに騒いでいる!」
ブレイン:
「楽しくない! ……やれやれ。寝起きから騒々しい。
クラウザ、グレイヴネットを使うから端末を空けてくれ」
ユーリエ:
「その前に、朝食にコンブレッドのサンドウィッチはいかがでしょう?
あと、ちょっと変な味のコーヒーも!」
ブレイン:
「ああ、いただくとするよ。……ふぁあ……ぐぬぬ、寝不足か?
おのれ、古代超竜。恐るべき罠だ」
グレイヴネットは虚空領域の様々な情報が集まる世界規模の広域ネットワークだ。
その用途は多岐に渡り、テイマーにとっては傭兵活動を継続するための
オペレーティングシステムとしても機能している。
クラウザの三次元映像を押しのけ、俺はグラーベルからコード接続されている
グレイヴネットの端末の前に腰を下ろした。
起動と同時にインターフェイスはよく分からない認証に成功し、接続を開始する。
本日のニュースです
各地で戦闘が広がる中
奇妙なうわさがグレイヴネットを中心に広がっています
亡くなったと思われるグレムリンの姿を見たという噂です
我々の未来を脅かすものとなるのでしょうか
戦いましょう、生き残りをかけて……
映されるのは様々なニュース、主に世界情勢と未識別機動体との戦況だ。
自分達の様な外来者にとって、不要なトラブルを避け、任務を円滑に遂行する為に
情報収集は欠かすことは出来ない。こうした物があると非常に助かる。
現地での常識が分からず、知らず知らずの間に非常識な行動をとってしまったり
禁忌に触れてしまったり等、外界任務では稀にある失敗なのだ。
最も、出向先の世界で最低限生きていく知識は、中央の事前調査でまとめられ
器にあらかじめ刷り込まれるシステムになっている。
だが、そうした知識を管理するのは、中央所属のサポート専門チームであり
詰まる所、俺達の側の人間なのだ。間違い、抜けがあってしかるべしなのである。
まあ、この世界の場合はグレムリンも言語翻訳や知識補完の機能を持っている。
いざという時は、そちらを頼れば大きな問題は起こらないだろう。
件名:対悪鬼加圧機体セットのご案内*NEW*
ホームメニューのインフォメーション欄に受信メールの通知が来ていた。
差出人はフヌ。グレイヴネット・ネットワーク管理AIを名乗る謎の人物だ。
廃工場での初日、グレムリンのグレイヴネット・システムを起動した際に
ネットワークを介して語り掛けてきたのが彼女だった。
それ以来、チュートリアルの案内、メールでのアセンブルセットの紹介と
何故か俺達ヴォイドテイマーの世話を甲斐甲斐しく焼いてくる。
実に胡散臭い。灰燼戦争時、前任者のレドもグレイヴネットを使用していたが
彼のレポートにはフヌという人物についての記載は全く無かった。
俺の方でも独自に調査を試みたが、グレイヴネット上にも情報は無く
分かるのは最近になってその名前で活動を始めたという事実だけだ。
それに、この手の相手が裏切るパターンは傭兵の常でありTsCという前例もある。
あの戦いでヴルッフが死に、グレイヴネットの内部はブラックボックス化
してしまっているという。そこに強い権限を持っている以上、只者でない
というのは間違いないだろうが……やはり、信用はできない。
ブレイン:
「どう思う、クラウザ。このフヌとかいうAI。
ヴルッフが仕込んでいたか、高度な技術力をもつ何者かの差し金か。
もしくは……システムが自我に目覚めたか」
クラウザ:
『ふむ。あの者の詳細については分からん……が
私としては、このままの関係を続けていきたいと思っているがね。
彼女の提供するアセンブルサンプルは興味深いものが多い。
機体のコンセプトが理解しやすく、使用者の好みによりカスタムの余地も
取られている。参考機体としては非常に優秀だ』
ブレイン:
「それは確かにな。情報料を取るわけでもないし。
まあ、ただより高いものは無いともいうが……。
何かを企んでいたとしても、尻尾を掴めない以上
訝しんでいても仕方ないか」
ユーリエ:
「わたし知ってます! あの人は、機体自慢が趣味みたいです!
『しかもインスペクト・フレームに乗ることができる』って言ってました!
ある筋からの確かな情報です!」
ブレイン:「それはまた、随分と人間臭いAIだな……」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、二つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『希望』
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
◆2回更新の日記ログ
[MS_27] 探究者ブレイン -BMz95G01Wz- ミッションファイル
■領域情報:空母船団【コロッセオ・レガシィ】
座標:X=3,Y=2 FL【0/28800】
戦場:第25ブロック 空母船団【コロッセオ・レガシィ】
「ブレインは、次はどんな冒険をしてみたい?」
「そうだな……。今回みたいに、メカに乗ってバァーッと暴れられる大地が良いな」
『ふむ、心当たりが無いわけではないのう』
「本当か? 期待するぜ」
それは、バカンスの様な任務の終わりに、俺とユーリエとルアールの爺さんの
三人で交わした、雑談にも等しい他愛もない会話……のはずだった。
だが、『あいつ』が俺の悩みについて知っていたという事は
あの時すでに、爺さんには心の内を見透かされていたに違いない。
俺は、探究者としての自らの成長に、行き詰まりを感じつつあった。
幻想機関メルカルディアの探究者として、アーカディア計画に参加し
俺は様々な大地を巡り続けてきた。
俺達の世界の根源である創炎の力は、異界の物語に触れることで
進化を促進させる。それは、創炎の影響下にある俺達個人も例外ではない。
現にアネットは、夢現の七月戦役の戦いで大きく力を上げた。
この調子なら、あいつが俺を超える日も遠くないだろう。
順調に成長という階段を上っていくあいつを、俺はうらやましく見ていた。
そしてあの戦いの終盤、俺は根源の炉を起動し、自らの器の改変を試みた。
結果は散々で、俺一人の力では改変した体を数分維持するだけで精一杯だった。
あの作戦が成功したのはユーリエの助けがあったからだ。
あいつは横から一手間加えただけで、その器を丸一日持たせて見せたのだ。
アネットがいた手前、顔にこそ出さなかったが、正直あれはかなり堪えた。
俺に宿る創炎の力は、ここの所ずっと停滞を続けていた。
探究者の評価は純魂の値だけで決まるわけではない。
俺は異界の探索に積極的に参加し、その経験で低いソウルリンクを補ってきた。
とはいえ、任務の中で創炎の力に頼らざるを得ない状況は多く
その点で俺は、格上のメイガスであるユーリエのみならず
同格のウィザード達にも大きく後れを取ってしまっている。
創炎の力に認められるための何かが、俺には足りていないのだ。
この虚空領域という世界は、故郷の大地に少し似ている。
俺の生まれ育った星も、度し難い崩壊世界だった。
人の未来に希望などなく、全てが緩やかな瓦解の果てに滅び去る。
そんな世界だった。
あの黒き汚泥に沈んだ世界が、自らのルーツだとは思いたくないが……。
レドが送ってきた、あの赤錆にまみれた世界の映像を観た時
俺は言いようのない、不思議な既視感を覚えた。
この大地ならば、俺は自らの殻を打ち破る方法を、見付けられるかもしれない。
いや、必ず見つけ出してみせる。
ギルドメンバー内で俺だけ弟分の様な扱いをされるのは、もう御免だ。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:第七仮設駐屯地 現在位置:タワー港湾部・係留施設
タワー港湾部に仮設された人類軍反抗拠点の一つ。
規模はそれほど大きくないが、主にタワー周辺に住んでいた住民達の
避難所としても機能している。廃工場での戦いにおける勝利の立役者として
ヴォイドテイマー達は、それぞれ厚待遇で迎えられたようだ。
防備のために陣を張る者、出向の準備を整える者、それぞれの活動が
係留施設から見て取れる。
ブレイン:「……鼻を明かしてやりたい奴もいることだしな」
ユーリエ:「どうしたの、ブレイン? 難しい顔しちゃって」
ブレイン:
「いや、これからの事を考えてたのさ。
出航していくテイマー達……あいつらはどこに行くのかってな。
まあ、これから俺達も、その中の一人になるわけだが」
ユーリエ:
「ここの人達は大丈夫かな。無事に生き残れるといいけど」
ブレイン:
「結構な数のテイマーが残るみたいだからな。
暫くの間は持ち堪えられるはずだ。
戦力を考えるなら、外に出る者達の方が過酷な戦いになるだろうな」
ユーリエ:「……やっぱりそうだよね。前途多難な感じ」
クラウザ:
『マスター、バルク・クォーリー・ARの出港準備は完了した。
駐屯地の者達が物資を融通してくれたおかげで
設備の補充や損傷個所の修理も万全だ。
これならば、憂いなく航海を始められるだろう』
ブレイン:
「そうか。なら、第七仮設駐屯地ともお別れだな。
旨いメシは名残惜しいが……いくぞ、クラウザ、ユーリエ」
クラウザ:『了解した』
ユーリエ:「アイアイサー!」
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:キャビン
バルク・クォーリー・アーカディア。虚空領域および外海域における
メルカルディア・ウイザードの活動拠点。アーカディア・ベースとのゲート接続で
メインルーム、プラクティスルーム等、主に通常探索任務で使用するための
一部設備が追加されている。船体は貨物船を無理やりガレージ船に改造したもので
砲門等の兵装は無く、戦闘力は皆無。
クラウザ:
『さて、早速だが今回の任務について、もう一度お浚いしておこう。
我々はこの世界……虚空領域内の25領域を周り、未識別機動体の脅威から
人々を救わなければならない。各領域にはTsCの残した隠しサーバーが存在し
これらを解放することも重要な目的の一つとなる』
ユーリエ:
「秘密のサーバーかぁ……。
確か、パーツや素材のデータが隠されてるんだよね」
クラウザ:
『うむ。我々が恩恵を受けるのは、主にグレムリン関連のデータだが
恐らくは、世界の存続に影響を及ぼす、様々な情報が含まれているだろう。
ダスト・グレムリンによって完全な世界を調整し
その管理者たろうとしたTsCの秘匿していたものなのだからな』
ブレイン:
「確かに、失われたテクノロジーとか、その手の情報を隠し持ってそうな
組織ではあったみたいだな。クラウザの予想が正しいのなら
大勢力や大企業が俺達を支援する本当の理由はそれだろう。
文字通り世界を掛けた戦いってわけだ」
クラウザ:
『それぞれの領域には、今も生き残って戦っている者達がいる。
テイマーの中には彼等を助けるため、一領域に留まり防衛する者もいるだろう。
しかし我々の場合、機関の調査任務を平行する必要があり、それは妥当ではない。
故に、遊撃隊の一人として領域間を巡ることになる』
ブレイン:「分かっている。でだ。最初の目的地だが……」
ユーリエ:
「温泉! 温泉に行きましょう!
かの伝説のテイマーも一押し! ペンギン諸島の健康温泉!
アツアツの温泉で冷えた飲み物! おいしいごはん!」
ブレイン:
「バカンス任務の時と発想が変わっていない……。
FMやFABを有効に使うなら、体が資本ってのは間違ってないが。
一応、北に進路は取ったからな。温泉も選択肢にいれておこう」
ユーリエ:
「流石ブレイン、話が分かる!
そうと決まれば、早速グラーベルちゃんのところへ行きましょう。
メカメカをガチャガチャしながら、今後のお話です」
ブレイン:
「どうした? 今回はやけに張り切ってるな。
まあ、テンションが高いのはいつもの事だが」
ユーリエ:
「ふっふっふ。今度の任務は前の時と立場が逆。
ブレインにサポート役の神髄をお見せしちゃいます。
きっと私の偉大さに驚くことでしょう」
ブレイン:
「ふっ、頼もしい限りだな。だが、それはこちらも同じことだ。
今回は、俺も本気を出させてもらう。
メンバー全員に知らしめてやるぜ。俺の……本当の力ってやつをな」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、二つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『希望』
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
■領域情報:空母船団【コロッセオ・レガシィ】
座標:X=3,Y=2 FL【0/28800】
戦場:第25ブロック 空母船団【コロッセオ・レガシィ】
「ブレインは、次はどんな冒険をしてみたい?」
「そうだな……。今回みたいに、メカに乗ってバァーッと暴れられる大地が良いな」
『ふむ、心当たりが無いわけではないのう』
「本当か? 期待するぜ」
それは、バカンスの様な任務の終わりに、俺とユーリエとルアールの爺さんの
三人で交わした、雑談にも等しい他愛もない会話……のはずだった。
だが、『あいつ』が俺の悩みについて知っていたという事は
あの時すでに、爺さんには心の内を見透かされていたに違いない。
俺は、探究者としての自らの成長に、行き詰まりを感じつつあった。
幻想機関メルカルディアの探究者として、アーカディア計画に参加し
俺は様々な大地を巡り続けてきた。
俺達の世界の根源である創炎の力は、異界の物語に触れることで
進化を促進させる。それは、創炎の影響下にある俺達個人も例外ではない。
現にアネットは、夢現の七月戦役の戦いで大きく力を上げた。
この調子なら、あいつが俺を超える日も遠くないだろう。
順調に成長という階段を上っていくあいつを、俺はうらやましく見ていた。
そしてあの戦いの終盤、俺は根源の炉を起動し、自らの器の改変を試みた。
結果は散々で、俺一人の力では改変した体を数分維持するだけで精一杯だった。
あの作戦が成功したのはユーリエの助けがあったからだ。
あいつは横から一手間加えただけで、その器を丸一日持たせて見せたのだ。
アネットがいた手前、顔にこそ出さなかったが、正直あれはかなり堪えた。
俺に宿る創炎の力は、ここの所ずっと停滞を続けていた。
探究者の評価は純魂の値だけで決まるわけではない。
俺は異界の探索に積極的に参加し、その経験で低いソウルリンクを補ってきた。
とはいえ、任務の中で創炎の力に頼らざるを得ない状況は多く
その点で俺は、格上のメイガスであるユーリエのみならず
同格のウィザード達にも大きく後れを取ってしまっている。
創炎の力に認められるための何かが、俺には足りていないのだ。
この虚空領域という世界は、故郷の大地に少し似ている。
俺の生まれ育った星も、度し難い崩壊世界だった。
人の未来に希望などなく、全てが緩やかな瓦解の果てに滅び去る。
そんな世界だった。
あの黒き汚泥に沈んだ世界が、自らのルーツだとは思いたくないが……。
レドが送ってきた、あの赤錆にまみれた世界の映像を観た時
俺は言いようのない、不思議な既視感を覚えた。
この大地ならば、俺は自らの殻を打ち破る方法を、見付けられるかもしれない。
いや、必ず見つけ出してみせる。
ギルドメンバー内で俺だけ弟分の様な扱いをされるのは、もう御免だ。
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:第七仮設駐屯地 現在位置:タワー港湾部・係留施設
タワー港湾部に仮設された人類軍反抗拠点の一つ。
規模はそれほど大きくないが、主にタワー周辺に住んでいた住民達の
避難所としても機能している。廃工場での戦いにおける勝利の立役者として
ヴォイドテイマー達は、それぞれ厚待遇で迎えられたようだ。
防備のために陣を張る者、出向の準備を整える者、それぞれの活動が
係留施設から見て取れる。
ブレイン:「……鼻を明かしてやりたい奴もいることだしな」
ユーリエ:「どうしたの、ブレイン? 難しい顔しちゃって」
ブレイン:
「いや、これからの事を考えてたのさ。
出航していくテイマー達……あいつらはどこに行くのかってな。
まあ、これから俺達も、その中の一人になるわけだが」
ユーリエ:
「ここの人達は大丈夫かな。無事に生き残れるといいけど」
ブレイン:
「結構な数のテイマーが残るみたいだからな。
暫くの間は持ち堪えられるはずだ。
戦力を考えるなら、外に出る者達の方が過酷な戦いになるだろうな」
ユーリエ:「……やっぱりそうだよね。前途多難な感じ」
クラウザ:
『マスター、バルク・クォーリー・ARの出港準備は完了した。
駐屯地の者達が物資を融通してくれたおかげで
設備の補充や損傷個所の修理も万全だ。
これならば、憂いなく航海を始められるだろう』
ブレイン:
「そうか。なら、第七仮設駐屯地ともお別れだな。
旨いメシは名残惜しいが……いくぞ、クラウザ、ユーリエ」
クラウザ:『了解した』
ユーリエ:「アイアイサー!」
◆NAVIGATION_COMMAND:ワールドガイド
■施設情報:バルク・クォーリー・AR 現在位置:キャビン
バルク・クォーリー・アーカディア。虚空領域および外海域における
メルカルディア・ウイザードの活動拠点。アーカディア・ベースとのゲート接続で
メインルーム、プラクティスルーム等、主に通常探索任務で使用するための
一部設備が追加されている。船体は貨物船を無理やりガレージ船に改造したもので
砲門等の兵装は無く、戦闘力は皆無。
クラウザ:
『さて、早速だが今回の任務について、もう一度お浚いしておこう。
我々はこの世界……虚空領域内の25領域を周り、未識別機動体の脅威から
人々を救わなければならない。各領域にはTsCの残した隠しサーバーが存在し
これらを解放することも重要な目的の一つとなる』
ユーリエ:
「秘密のサーバーかぁ……。
確か、パーツや素材のデータが隠されてるんだよね」
クラウザ:
『うむ。我々が恩恵を受けるのは、主にグレムリン関連のデータだが
恐らくは、世界の存続に影響を及ぼす、様々な情報が含まれているだろう。
ダスト・グレムリンによって完全な世界を調整し
その管理者たろうとしたTsCの秘匿していたものなのだからな』
ブレイン:
「確かに、失われたテクノロジーとか、その手の情報を隠し持ってそうな
組織ではあったみたいだな。クラウザの予想が正しいのなら
大勢力や大企業が俺達を支援する本当の理由はそれだろう。
文字通り世界を掛けた戦いってわけだ」
クラウザ:
『それぞれの領域には、今も生き残って戦っている者達がいる。
テイマーの中には彼等を助けるため、一領域に留まり防衛する者もいるだろう。
しかし我々の場合、機関の調査任務を平行する必要があり、それは妥当ではない。
故に、遊撃隊の一人として領域間を巡ることになる』
ブレイン:「分かっている。でだ。最初の目的地だが……」
ユーリエ:
「温泉! 温泉に行きましょう!
かの伝説のテイマーも一押し! ペンギン諸島の健康温泉!
アツアツの温泉で冷えた飲み物! おいしいごはん!」
ブレイン:
「バカンス任務の時と発想が変わっていない……。
FMやFABを有効に使うなら、体が資本ってのは間違ってないが。
一応、北に進路は取ったからな。温泉も選択肢にいれておこう」
ユーリエ:
「流石ブレイン、話が分かる!
そうと決まれば、早速グラーベルちゃんのところへ行きましょう。
メカメカをガチャガチャしながら、今後のお話です」
ブレイン:
「どうした? 今回はやけに張り切ってるな。
まあ、テンションが高いのはいつもの事だが」
ユーリエ:
「ふっふっふ。今度の任務は前の時と立場が逆。
ブレインにサポート役の神髄をお見せしちゃいます。
きっと私の偉大さに驚くことでしょう」
ブレイン:
「ふっ、頼もしい限りだな。だが、それはこちらも同じことだ。
今回は、俺も本気を出させてもらう。
メンバー全員に知らしめてやるぜ。俺の……本当の力ってやつをな」
◆INFORMATION:
レドの懐中時計は静かに時を刻んでいる……。
その時計の針は、二つの光を指し示している。
有効思念制御識:『未来』『希望』
◆SYSTEM_COMMAND:DATESAVE
SCH<V/R.Neko-Tube>を出品した!!
ブレインはSCH<V/R.Neko-Tube>を手に入れた!!(フラグメンツ-1)
ブレインはFABを手に入れた!!(フラグメンツ-1)
ブレインはFABを手に入れた!!(フラグメンツ-1)
ブレインはFABを手に入れた!!(フラグメンツ-1)
ブレインはFABを手に入れた!!(フラグメンツ-1)
ブレインはFABを手に入れた!!(フラグメンツ-1)
ブレインはFABを手に入れた!!(フラグメンツ-1)
ブレインはFABを手に入れた!!(フラグメンツ-1)
ブレインはFABを手に入れた!!(フラグメンツ-1)
ブレインはFABを手に入れた!!(フラグメンツ-1)
ブレインはFABを手に入れた!!(フラグメンツ-1)
◆アセンブル
【頭部】に頭部《Wolf singt》を装備した
【腕部】に思念加速反射加圧ブシドーを装備した
【操縦棺】にLMCo-Sarahを装備した
【脚部】にDWG<Nyan-Galleon>を装備した
【エンジン】に「ヘルメスⅡ」多連動エンジンを装備した
【主兵装】にGCD<Bastet-Lamp>を装備した
【副兵装】にSCH<V/R.Neko-Tube>を装備した
【背部兵装】にあなたのハートに高速接近する飛来物ありを装備した
【機動補助】にBOS<Nikukyu-Drift>を装備した
【機動補助】に境越〚霞隼〛を装備した
◆僚機と合言葉
(c) 霧のひと