第23回目 午前2時の藍の羽
プロフィール
名前
藍の羽
愛称
藍の羽
経歴 ○登録名称:藍の羽 「自己紹介? 困ったね、良く覚えてないんだ。」 >A.I.DATA 廃棄地点にて確認。 ハッキングによりグレムリンテイマー登録済み。 詳細情報………接続不能。 〇機体名称:スノウリリィ 「銃を撃つ戦いの方が、未だマシだね。」 >A.I.DATA 高機動走行兵装を採用中。 詳細情報 A.I.製造社名:ユキエダ・プロダクション ピグマリオン・マウソレウムの 関連企業と推定される。 ………以降の情報は接続不能。 |
◆日誌
>> voice data replay. >>
「キミなら、如何する?」
『如何する、とは?』
「キミが…<ケイジ・キーパー>、だっけ?
それだったとして、さ。」
『…それは、<私>に、A.I.として、
相手の思考を読めと言う事でしょうか。』
「はは、勘繰り過ぎだよ。」
『…私ならば。』
『私が、同様の使命を持ち。』
『盤面を無視する<力>を、与えられたとするならば。』
「キミは、停滞を望む?」
『在り得ませんね。
実に<人間らしい>答えですが、それ故、A.I.には取り得ない答えです。』
『A.I.ならば。
<完全>を望むでしょう。』
「完全、ね?」
『全ての要素を満たすべく、行動すると言う意味です。』
「ま、確かに。
<今>が<今>の儘、永遠に続いたとして、
それが<完全>かと言われれば、ノーだね。」
『故に、<停滞>は。
結局の所、<喪失>を恐れる、<人間らしい>手でしか在りません。』
「じゃあ、<A.I.らしい>手は?」
『不要なものを<排除>し。』
『手に余るものを<切り捨て>て。』
『必要なものだけを<再配置>する。』
「…そして、<完全>を作り上げる?」
『言うなれば、世界を<再構築>するでしょう。』
「うん。
自分ならば<完全>を知っていると。
<完全>を作り出せると思っている。
実に、<A.I.らしい>手だ。」
「じゃあさ。
<キミ>なら、如何するの?」
「A.I.らしく、<再構築>するのかな?」
『私は……私なら……。』
『……回答を、導けません。』
「ふふ。そうか。」
「良いね。
実に<A.I.らしくない>。」
『………。』
「――その、<完全>な<再構築>された世界が在ったとして。」
「其処に、ボクは居ないだろうね。」
『如何言う意味でしょうか。』
「ボクは、過去の記憶が無い。」
「目覚めてから、今この瞬間迄の、記憶しか無い。」
「それが、ボクがボクとして在る、全てで。」
「それは、この<不完全>な世界に基づいて居て。」
「例えば、<再構築>された世界に、
<過去の記憶>を持ったボクや、
<完全な世界で作り上げられた記憶>のボクが居ても。」
「それは、<ボク>じゃない。」
「<再構築>された世界には、<ボク>は存在し得ない。」
『それは…<私>も同じでしょうか。』
「キミは…この<不完全>な世界の為に作られたものだけれど。」
「如何かな。
<完全>な世界でも、キミという<夢>は、
誰かが見るのかも知れない。」
『<完全>な世界の、ユキエダ・プロダクションが、ですか。』
「そうなるかな?」
『………。』
『<完全>な世界に、<完全>な<私>が在ったとして。』
『<あなた>が居ないのは……そう、』
『<つまらない>。』
『<私>は、そう思います。』
「…そっか。」
「キミは、<ボク>にとって。」
「<夢>じゃなくて、【祝福】だったのかも知れないね。」
『――そうで在るならば。』
『<あなた>が<あなた>たるものを。
<過去>でも、<現在>でも無くて。』
『【未来】に、見せて差し上げますよ。』
「…ふふ。良いね。実に、良いよ。」
「キミはもう、ボクよりもずっと。」
「<人間らしい>。」
<< voice data end. <<
「キミなら、如何する?」
『如何する、とは?』
「キミが…<ケイジ・キーパー>、だっけ?
それだったとして、さ。」
『…それは、<私>に、A.I.として、
相手の思考を読めと言う事でしょうか。』
「はは、勘繰り過ぎだよ。」
『…私ならば。』
『私が、同様の使命を持ち。』
『盤面を無視する<力>を、与えられたとするならば。』
「キミは、停滞を望む?」
『在り得ませんね。
実に<人間らしい>答えですが、それ故、A.I.には取り得ない答えです。』
『A.I.ならば。
<完全>を望むでしょう。』
「完全、ね?」
『全ての要素を満たすべく、行動すると言う意味です。』
「ま、確かに。
<今>が<今>の儘、永遠に続いたとして、
それが<完全>かと言われれば、ノーだね。」
『故に、<停滞>は。
結局の所、<喪失>を恐れる、<人間らしい>手でしか在りません。』
「じゃあ、<A.I.らしい>手は?」
『不要なものを<排除>し。』
『手に余るものを<切り捨て>て。』
『必要なものだけを<再配置>する。』
「…そして、<完全>を作り上げる?」
『言うなれば、世界を<再構築>するでしょう。』
「うん。
自分ならば<完全>を知っていると。
<完全>を作り出せると思っている。
実に、<A.I.らしい>手だ。」
「じゃあさ。
<キミ>なら、如何するの?」
「A.I.らしく、<再構築>するのかな?」
『私は……私なら……。』
『……回答を、導けません。』
「ふふ。そうか。」
「良いね。
実に<A.I.らしくない>。」
『………。』
「――その、<完全>な<再構築>された世界が在ったとして。」
「其処に、ボクは居ないだろうね。」
『如何言う意味でしょうか。』
「ボクは、過去の記憶が無い。」
「目覚めてから、今この瞬間迄の、記憶しか無い。」
「それが、ボクがボクとして在る、全てで。」
「それは、この<不完全>な世界に基づいて居て。」
「例えば、<再構築>された世界に、
<過去の記憶>を持ったボクや、
<完全な世界で作り上げられた記憶>のボクが居ても。」
「それは、<ボク>じゃない。」
「<再構築>された世界には、<ボク>は存在し得ない。」
『それは…<私>も同じでしょうか。』
「キミは…この<不完全>な世界の為に作られたものだけれど。」
「如何かな。
<完全>な世界でも、キミという<夢>は、
誰かが見るのかも知れない。」
『<完全>な世界の、ユキエダ・プロダクションが、ですか。』
「そうなるかな?」
『………。』
『<完全>な世界に、<完全>な<私>が在ったとして。』
『<あなた>が居ないのは……そう、』
『<つまらない>。』
『<私>は、そう思います。』
「…そっか。」
「キミは、<ボク>にとって。」
「<夢>じゃなくて、【祝福】だったのかも知れないね。」
『――そうで在るならば。』
『<あなた>が<あなた>たるものを。
<過去>でも、<現在>でも無くて。』
『【未来】に、見せて差し上げますよ。』
「…ふふ。良いね。実に、良いよ。」
「キミはもう、ボクよりもずっと。」
「<人間らしい>。」
<< voice data end. <<
◆23回更新の日記ログ
届けられた<声>を聞いて。
何をか、操縦棺の主は、考える。
『問いの答は、持ち合わせて居るのですか?』
「正直言えば、無いよ。
何の気無しに訊かれれば、<わかんないや>、って答えてたと思う。」
流される様に。
例えそれが必然で在ったのだとしても、主と従僕が<戦う理由>に、確固たるものは無かった。
「まぁ、でも。
多少格好の付く<答え>でも、用意して置くよ。」
従僕たるグレムリンに打ち込むのは、何時もと同じ。
『受令。彼女が示した<停滞>に対して、
どれ程意味が在るのかは分かりませんが。』
「どうせ今更、他の事も出来ないよ。だから。」
「<停滞>の先に、【未来】が在ると信じて。」
『<彼女>の言葉に、【祝福】が在ると信じて。』
「ふふ。それじゃあ、終わったら。」
『彼女のプロデュースでも、しましょうか。』
「<夢>が在るね。
ユキエダ・プロダクションの再スタートには、丁度良いや。」
<夢>が待つ場所へ。
二人は、<何時も通り>に。
何をか、操縦棺の主は、考える。
『問いの答は、持ち合わせて居るのですか?』
「正直言えば、無いよ。
何の気無しに訊かれれば、<わかんないや>、って答えてたと思う。」
流される様に。
例えそれが必然で在ったのだとしても、主と従僕が<戦う理由>に、確固たるものは無かった。
「まぁ、でも。
多少格好の付く<答え>でも、用意して置くよ。」
従僕たるグレムリンに打ち込むのは、何時もと同じ。
『受令。彼女が示した<停滞>に対して、
どれ程意味が在るのかは分かりませんが。』
「どうせ今更、他の事も出来ないよ。だから。」
「<停滞>の先に、【未来】が在ると信じて。」
『<彼女>の言葉に、【祝福】が在ると信じて。』
「ふふ。それじゃあ、終わったら。」
『彼女のプロデュースでも、しましょうか。』
「<夢>が在るね。
ユキエダ・プロダクションの再スタートには、丁度良いや。」
<夢>が待つ場所へ。
二人は、<何時も通り>に。
◆22回更新の日記ログ
機体反応がレーダーに点滅を返す。
あれも如何やら、グレムリンらしい。
「見た事、在る様な無い様な…ま、どっちでもいっか。」
操縦棺の縁に、指を滑らせる。
「キミとキミ以外と、その区別しか付きやしない。」
虚空の空間にて数多駆けるテイマー達も、この戦場にはその助力を期待出来そうに無い。
「是も、<何時も通り>かな。」
何時も通りに。
主とその従僕が、舞台を作る。
「何時もの戦場の、始まりだ。
<スノウ・リリィ>。」
『受令。思念制御識を有効化します。』
『【未来】制御を起動。
【祝福】制御を起動。』
「それじゃ、切り札も切っちゃおうか。」
『受令。SCH<V/R.Neko-Tube>を起動。』
「猫の鳴き真似でも、期待するけど?」
『――検討して置きます。』
対峙する、繰り人形が如きグレムリンの群れに。
超速の歌が舞う。
あれも如何やら、グレムリンらしい。
「見た事、在る様な無い様な…ま、どっちでもいっか。」
操縦棺の縁に、指を滑らせる。
「キミとキミ以外と、その区別しか付きやしない。」
虚空の空間にて数多駆けるテイマー達も、この戦場にはその助力を期待出来そうに無い。
「是も、<何時も通り>かな。」
何時も通りに。
主とその従僕が、舞台を作る。
「何時もの戦場の、始まりだ。
<スノウ・リリィ>。」
『受令。思念制御識を有効化します。』
『【未来】制御を起動。
【祝福】制御を起動。』
「それじゃ、切り札も切っちゃおうか。」
『受令。SCH<V/R.Neko-Tube>を起動。』
「猫の鳴き真似でも、期待するけど?」
『――検討して置きます。』
対峙する、繰り人形が如きグレムリンの群れに。
超速の歌が舞う。
◆21回更新の日記ログ
コンソールをなぞり、進行ルートを、ヴォイドエレベータの行き先を、打ち込む。
電子の羅針盤は、<タワー>を示す。
『受令。
<タワー>へ向かいます。』
機械音声の抑揚に感慨は見い出せないが、それでもその意味を理解していると、少なくともその主は感じ取っている。
「ステージの演者になる心算は、無かったんだけどねぇ。」
向かう先は、決戦と言う舞台。
数多のグレムリンテイマーが、其処に集い、最終公演を開こうとしている。
『群像劇となります。
私達の様な役者も、居て良いでしょう。』
「三文芝居に成らなければ良いけどね。」
『私達ならば、<歌>や<踊り>では?』
「それは猶更、期待出来ないでしょ。」
『やってみれば、様に成るかも知れません。』
「はは。楽観論も言える様に成ったんだね。」
「ま、その位で良いのかな。
今、出来なくたって、将来は分からないんだから。」
『ええ。私達には、【未来】が在るのでしょう?』
「その通り。ボク達は、世界は、終わりもしないし、閉じもしない。」
『私の<直感>も、そう告げて居ます。』
「根拠は、無いんだね。」
『必要ですか?』
――何時も通りの機械音声が、笑った様な気がした。
「ふふ。必要無いね。
ボク達に必要なのは、ステージを照らす、」
『【祝福】の光、ですね。』
「そ。それだけ在れば、充分。」
演ずる者達と、ステージライトさえ在れば。
舞台は続くのだから。
電子の羅針盤は、<タワー>を示す。
『受令。
<タワー>へ向かいます。』
機械音声の抑揚に感慨は見い出せないが、それでもその意味を理解していると、少なくともその主は感じ取っている。
「ステージの演者になる心算は、無かったんだけどねぇ。」
向かう先は、決戦と言う舞台。
数多のグレムリンテイマーが、其処に集い、最終公演を開こうとしている。
『群像劇となります。
私達の様な役者も、居て良いでしょう。』
「三文芝居に成らなければ良いけどね。」
『私達ならば、<歌>や<踊り>では?』
「それは猶更、期待出来ないでしょ。」
『やってみれば、様に成るかも知れません。』
「はは。楽観論も言える様に成ったんだね。」
「ま、その位で良いのかな。
今、出来なくたって、将来は分からないんだから。」
『ええ。私達には、【未来】が在るのでしょう?』
「その通り。ボク達は、世界は、終わりもしないし、閉じもしない。」
『私の<直感>も、そう告げて居ます。』
「根拠は、無いんだね。」
『必要ですか?』
――何時も通りの機械音声が、笑った様な気がした。
「ふふ。必要無いね。
ボク達に必要なのは、ステージを照らす、」
『【祝福】の光、ですね。』
「そ。それだけ在れば、充分。」
演ずる者達と、ステージライトさえ在れば。
舞台は続くのだから。
◆20回更新の日記ログ
『マイマスター。』
駆けるグレムリンフレームに、揺れる操縦棺。
何時も通りの機械音声が、主に呼び掛ける。
「何かな、スノウリリィ。」
『二つ、確認したい事が在ります。』
「どうぞ。」
『あなたを、何とお呼びすれば?』
それは、言葉通りに捉えてしまえば。
数秒前に<マイマスター>と呼称したばかりで在るが。
その真意を察せられる程度には、主従の理解は深い。
「さぁて、ね。
<どちらか>だとは、思うんだけど。」
<スノウリリィ・プロジェクト>。
このグレムリンと、その制御に宛がわれたA.I.の、
真の姿…目指した【未来】は、既に読み解かれた。
だが、しかし、依然として。
「都合良く、思い出してくれたりは、しないみたい。」
結局、それは<誰か>の物語としてしか聞こえず。
<己>の物語は、その実感を得られて居ない。
『ユリ・フィーダー、若しくは、アイ・ユキエダ。
私も、どちらかで在る可能性が高いと、考えます。』
ディスプレイに、情報が流れる。
ユリ・フィーダー。
共鳴通信技術者として、プロジェクトリーダーを務める。
アイ・ユキエダ。
代表取締役の子であり、オブザーバーとしてプロジェクトに参加。
この二人が、プロジェクトの中枢で在り。
最もプロジェクトを理解し、そして、最もその完成に情熱を注いだ。
だから、そのどちらかこそが、プロジェクトの行く末を見届ける役割として。
この操縦棺に、身を預けるのが自然なのだ。
「まぁ、分かんないけどね。
どちらでも無い可能性だって、無い訳じゃ無い。」
掘り起こされない記憶の話は、それ以上には続かない。
画面をスワイプして、その情報表示を消す。
それが、<次>を促す合図。
『では、もう一つ。』
少しばかりの、間。
それは、言葉を選ぶ為か。
『この世界は、<やり直される>のでしょうか。』
<繰り返す>、と言う、世界の構造。
それを認めたとして…いや、それが事実で在るのは、
大よそのグレムリンテイマーで在れば、直感的に。
例え、理性が否定したとしても、心の何処かで。
認めてしまって居るのだろう。
「…イエスでも在り、ノーでも在る。」
「繰り返す事に、ボクは価値を見出せない。
それはきっと、他のテイマーも、そう。
だから、抗う。
抗う限り、結末は分からない。」
皆、それぞれの意志で。
抗うのだ。
「きっと、その意志が在る限り。
繰り返され様ても、<繰り返されない>。」
それは、何の根拠にもならないけれど。
『直感、ですか。』
「信じる限り、事実だよ。」
人が、人として産まれ、人として生きる為の。
その意志こそが。
『それが、【祝福】なのですね。』
主は、応えない。
唯、その操縦棺に、目を閉じて。
「接敵したら、起こしてね。」
『受令。』
何時も通りに。
戦場に、光を届ける。
◆19回更新の日記ログ
例えば、<歌>。
奏でられるメロディと、刻み込まれる詩。
例えば、<舞踊>。
音に踊るか、舞が曲となるか。
例えば、<演劇>。
演ずるものは、時に事実よりも真実を表す。
そしてそれは、<存在>。
人々の、心を震わせて。
在りの儘の、現実を超えて。
其れは、<偶像>となる。
グレムリン間の共鳴通信に於いて、共鳴したグレムリン同士は、互いに零力を生成する。
とある技術者は、是をして、グレムリンとは単一で完結する存在では無い証左だと云う。
其れは、一面として肯定し得る。
グレムリンが、群体としての側面を持つのならば。
一個体の齎す<作用>が、全体に。
全てのグレムリンへ、伝播する事も在り得るのでは無いか。
<スノウリリィ・プロジェクト>のコアの一つは、其処に在る。
例えば。
全てのグレムリンに。
全てのテイマーに。
その【祝福】を届ける事が出来るのならば。
その<偶像>は、永遠の【未来】に続く。
<不滅の記憶>と成り得るのでは無いか。
「――是は、ボクの<夢>さ。
取るに足らない。
それでも、ボクの全てを賭ける。」
「違うでしょ。
修正を要求するよ。」
「…そうだね。
是はもう、<ボク達の夢>だ。」
「そう。だから、一緒に賭けるよ。」
「嗚呼。キミとボクが。
<スノウリリィ>が。」
「何時までも残る、想いを。」
「「<不滅の記憶>を、創り出す。」」
奏でられるメロディと、刻み込まれる詩。
例えば、<舞踊>。
音に踊るか、舞が曲となるか。
例えば、<演劇>。
演ずるものは、時に事実よりも真実を表す。
そしてそれは、<存在>。
人々の、心を震わせて。
在りの儘の、現実を超えて。
其れは、<偶像>となる。
グレムリン間の共鳴通信に於いて、共鳴したグレムリン同士は、互いに零力を生成する。
とある技術者は、是をして、グレムリンとは単一で完結する存在では無い証左だと云う。
其れは、一面として肯定し得る。
グレムリンが、群体としての側面を持つのならば。
一個体の齎す<作用>が、全体に。
全てのグレムリンへ、伝播する事も在り得るのでは無いか。
<スノウリリィ・プロジェクト>のコアの一つは、其処に在る。
例えば。
全てのグレムリンに。
全てのテイマーに。
その【祝福】を届ける事が出来るのならば。
その<偶像>は、永遠の【未来】に続く。
<不滅の記憶>と成り得るのでは無いか。
「――是は、ボクの<夢>さ。
取るに足らない。
それでも、ボクの全てを賭ける。」
「違うでしょ。
修正を要求するよ。」
「…そうだね。
是はもう、<ボク達の夢>だ。」
「そう。だから、一緒に賭けるよ。」
「嗚呼。キミとボクが。
<スノウリリィ>が。」
「何時までも残る、想いを。」
「「<不滅の記憶>を、創り出す。」」
◆18回更新の日記ログ
「――世界は今のままで十分美しい、だったかな。」
何時か聞いた様な。
今程聞いた様な。
うろ覚えのフレーズを口に出す。
「コンテナを抱えて、ぐるぐると巡り巡ったけれど。
如何? キミは、この世界。
美しいと思うかな?」
旧いモニターの縁に、指先を静かに、ゆっくりと、
絶え間なく跳ねさせる。
ただ、この世界の実在を、その感触だけに求めるか。
『私のセンスには、合いませんね。』
A.I.
長くも無い旅路に連れ添う<相棒>は、
センス
何時しか己の<感覚>を語るに至った。
「同意するね。ま、ボクに記憶は無いから、
今が良いとも悪いとも思わないけれど。」
赤く錆付いたこの世界の姿こそが、
己に取っての現実の全てだ。
其処が、美しかろうと、醜かろうと。
「――世界に裏切られ様と。
ヒトの信頼を裏切る理由にはならないね。」
指先のリズムは、沈黙へと変わっていた。
『先程の思念流入ですか。』
「ボクはね。
誰かの信用を、意図して裏切る様なヒトは、嫌いなんだ。」
『信用、でしょうか。
私は、<依存>のセンテンスを読み取りましたが。』
「同じだよ。
信用でも、依存でも、信仰でも。
【未来】を語り、共有でも、誘導でも、そうしたなら。
その責任に応えないヒトは。」
『理解しました。』
「――。」
言葉無く、コンソールに指示を打ち込む。
『……受令。使用語句の修正をします。』
一呼吸置いて、A.I.が数秒前の言葉を訂正する。
『<同意>します、マイマスター。』
「よろしい。」
正しく導き、その先を示す。
それを信用への応えとするのならば。
「――ボクも、責任を果たせて居れば良いけれど。」
空中に投げた言葉は。
『今、その操縦棺の中に居る事自体が、その答えでしょう。』
確りと、A.I.に受け止められて。
「そう願いたいね。
キミと、彼女達への、責任だ。」
<不滅の記憶>を夢見た、二人。
描いた夢を、【祝福】として。
今、ボクとキミが、此処に在る。
◆17回更新の日記ログ
<不滅の記憶>。
その語をプロジェクトに探しても、存在はしない。
そのセンテンスの中から、汲み取るしか無い。
それは、<不滅の生命>では無い。
仮に永続する生命が在ったとして。
<記憶>が永遠で在る保証は無い。
それは、<不滅の文明>では無い。
受け継がれる<記憶>とて、
永劫にそれが約束される事は無い。
だが。
人が、人として、生きる限り。
逃れる事の出来ない、刻み込まれた<記憶>。
或いはそれは、<魂>と呼ぶのか。
或いはそれは、<思念>と呼ぶのか。
或いはそれを――。
<グレムリン>と名付けた、籠の中に。
「――スノウリリィ。
キミの【祝福】は、きっと。」
『受令。
本A.I.の――。』
『私の、【未来】に。
私は、<不滅の記憶>となります。』
「明瞭で、良い返事だ。
彼女も、喜んでくれる…と、思うよ。」
指先で、ディスプレイの名前を二人、踊らせる。
共鳴通信技術主任として、ユリ・フィーダー。
オブザーバーとして、アイ・ユキエダ。
―― ユキと、ユリで、<スノウリリィ>。
名付けは明瞭で、良いと思わない? ――
その声が、自分のもので在ったか如何か。
思い出す事も、出来はしない。
その語をプロジェクトに探しても、存在はしない。
そのセンテンスの中から、汲み取るしか無い。
それは、<不滅の生命>では無い。
仮に永続する生命が在ったとして。
<記憶>が永遠で在る保証は無い。
それは、<不滅の文明>では無い。
受け継がれる<記憶>とて、
永劫にそれが約束される事は無い。
だが。
人が、人として、生きる限り。
逃れる事の出来ない、刻み込まれた<記憶>。
或いはそれは、<魂>と呼ぶのか。
或いはそれは、<思念>と呼ぶのか。
或いはそれを――。
<グレムリン>と名付けた、籠の中に。
「――スノウリリィ。
キミの【祝福】は、きっと。」
『受令。
本A.I.の――。』
『私の、【未来】に。
私は、<不滅の記憶>となります。』
「明瞭で、良い返事だ。
彼女も、喜んでくれる…と、思うよ。」
指先で、ディスプレイの名前を二人、踊らせる。
共鳴通信技術主任として、ユリ・フィーダー。
オブザーバーとして、アイ・ユキエダ。
―― ユキと、ユリで、<スノウリリィ>。
名付けは明瞭で、良いと思わない? ――
その声が、自分のもので在ったか如何か。
思い出す事も、出来はしない。
◆16回更新の日記ログ
とんとん、と旧型モニターの縁でリズムを取る。
音も無く、画面に舞うのは、此度は異形の機獣。
「――追えない速さでも無いね。」
<進化>と謳うその力は、果たして彼らが支払った対価に見合うものか。
『欺瞞情報の可能性も在りますが。』
索敵に拾われたデータが、正確である保証は何時だって無い。
偽る事も、偽られる事も、この世界の日常なのだから。
「如何かな。
嗚呼云う人達って、そういう嘘は吐けなそうだけど。」
『それは、<直感>と言う事でよろしいですか。』
「根拠が無い事を、そう言うのなら。」
『判断の是非を問う権限は、本A.I.には在りません。』
回りくどい、不満の表明を受け流して。
「大丈夫。
キミの【祝福】は、あの人達にも届くよ。」
それは、皮肉の心算も無かったけれど。
横に並べた、全く別の情報スクリーンに流れる言葉達が。
それを、その様に足らしむか。
「…プロジェクトの名前は、結構そのまんまだね。」
『<夢>の名付けは、明瞭の様です。』
プロジェクト発案者に、共鳴通信技術主任である、ユリのサイン。
「<不滅の記憶>の夢、か。」
<スノウリリィ・プロジェクト>。
その【未来】に、彼女達は、立っているのか。
音も無く、画面に舞うのは、此度は異形の機獣。
「――追えない速さでも無いね。」
<進化>と謳うその力は、果たして彼らが支払った対価に見合うものか。
『欺瞞情報の可能性も在りますが。』
索敵に拾われたデータが、正確である保証は何時だって無い。
偽る事も、偽られる事も、この世界の日常なのだから。
「如何かな。
嗚呼云う人達って、そういう嘘は吐けなそうだけど。」
『それは、<直感>と言う事でよろしいですか。』
「根拠が無い事を、そう言うのなら。」
『判断の是非を問う権限は、本A.I.には在りません。』
回りくどい、不満の表明を受け流して。
「大丈夫。
キミの【祝福】は、あの人達にも届くよ。」
それは、皮肉の心算も無かったけれど。
横に並べた、全く別の情報スクリーンに流れる言葉達が。
それを、その様に足らしむか。
「…プロジェクトの名前は、結構そのまんまだね。」
『<夢>の名付けは、明瞭の様です。』
プロジェクト発案者に、共鳴通信技術主任である、ユリのサイン。
「<不滅の記憶>の夢、か。」
<スノウリリィ・プロジェクト>。
その【未来】に、彼女達は、立っているのか。
◆15回更新の日記ログ
モニターに示される索敵の結果に、思慮が走る。
「何時ものジャンク…それも単機。」
『意図を考慮せずには置けません。』
「同感。温存って言うよりは。」
『撒き餌でしょう。』
「誘われた、か。読まれてたって事かな。」
『読む読まない、以前でしょう。』
「そりゃそうだ。こんな分り易い反抗作戦。」
『それも、当然でしょう。』
「決め手は別、って事だね。」
『詰まり、読み合いはそちらとなります。』
「…ま、どの道。
ボク達が読めるものなんて、
どの敵が自分に一番近いか、位だね。」
『譜面は、プレイヤーに任せましょう。
我々は。』
「駒として。相手の駒を砕くだけ。」
『中々、好戦的な表現ですね。』
「ご不満かな?」
『戦場の【未来】予想には、丁度良い表現かと。』
「結構だね。それじゃ。」
『ステージに、【祝福】の光を届けましょう。』
「何時ものジャンク…それも単機。」
『意図を考慮せずには置けません。』
「同感。温存って言うよりは。」
『撒き餌でしょう。』
「誘われた、か。読まれてたって事かな。」
『読む読まない、以前でしょう。』
「そりゃそうだ。こんな分り易い反抗作戦。」
『それも、当然でしょう。』
「決め手は別、って事だね。」
『詰まり、読み合いはそちらとなります。』
「…ま、どの道。
ボク達が読めるものなんて、
どの敵が自分に一番近いか、位だね。」
『譜面は、プレイヤーに任せましょう。
我々は。』
「駒として。相手の駒を砕くだけ。」
『中々、好戦的な表現ですね。』
「ご不満かな?」
『戦場の【未来】予想には、丁度良い表現かと。』
「結構だね。それじゃ。」
『ステージに、【祝福】の光を届けましょう。』
◆14回更新の日記ログ
<大とびうお座星雲を西へ>。
合言葉を入力し、操縦棺に目を閉じる。
『参加なされるのですか。』
「まぁ、ね。
長いものには巻かれとこっかなって。」
それは、赤く錆付くこの世界で、少しでも生き永らえ様とするなら、当然の理。
『どちらが、より長いかと言う話になりますが。』
「長物も、選べるものと選べないものがあるでしょ。
今まで何個のゴミをゴミ箱に捨てて来たと思ってるの。」
返り討ちにして来たジャンクテイマー達。
それをして、何事も無く自分達を受け入れて貰えるかは、甚だ疑問で在る。
『御尤もです。
ただ、ゴミと等価値と見られるのは、些か心外です。』
「はは、口が悪い子に育ったね。
誰の影響かな?」
『環境全般が、お淑やかに教育してくれないでしょう。』
「御尤もだね。
ま…キミの教育方針は兎も角として。」
ひとつ、間を置いて区切る。
「選べる【未来】だけでも、選んでおかないと。」
『正しく、選択出来ていますか?』
「答えは、選択が<過去>になってからしか、わからない。」
『御尤もです。
では、そうである様に、【祝福】を求めましょう。』
「さて…一体誰に求めたものかな?」
『我々の場合、決まっています。』
増設モニターに、光が灯り。
「…御尤も。」
アイドル達が、踊り出す。
合言葉を入力し、操縦棺に目を閉じる。
『参加なされるのですか。』
「まぁ、ね。
長いものには巻かれとこっかなって。」
それは、赤く錆付くこの世界で、少しでも生き永らえ様とするなら、当然の理。
『どちらが、より長いかと言う話になりますが。』
「長物も、選べるものと選べないものがあるでしょ。
今まで何個のゴミをゴミ箱に捨てて来たと思ってるの。」
返り討ちにして来たジャンクテイマー達。
それをして、何事も無く自分達を受け入れて貰えるかは、甚だ疑問で在る。
『御尤もです。
ただ、ゴミと等価値と見られるのは、些か心外です。』
「はは、口が悪い子に育ったね。
誰の影響かな?」
『環境全般が、お淑やかに教育してくれないでしょう。』
「御尤もだね。
ま…キミの教育方針は兎も角として。」
ひとつ、間を置いて区切る。
「選べる【未来】だけでも、選んでおかないと。」
『正しく、選択出来ていますか?』
「答えは、選択が<過去>になってからしか、わからない。」
『御尤もです。
では、そうである様に、【祝福】を求めましょう。』
「さて…一体誰に求めたものかな?」
『我々の場合、決まっています。』
増設モニターに、光が灯り。
「…御尤も。」
アイドル達が、踊り出す。
◆13回更新の日記ログ
A.I.による自動航行。
揺れる操縦棺は、決して居心地の良いものでは無い。
しかし、其処に収められた操縦者も、慣れたもの。
ゆらり、ゆらりと揺らされて。
一時前、敵機を貫いた【祝福】の閃光も忘れ。
微睡んでいた。
『マイマスター。
情報検索状況について、報告致したいと思いますが。』
「…ふぁ……良いよ…。」
欠伸を隠しもせず、主が答える。
『本A.I.の製作社、<ユキエダ・プロダクション>ですが、
通信・共鳴技術との関連性は低いと判断されます。』
「そっち方面から情報あたって、って言ってたね。
で、なんでそう思うの?」
『現状、関連する情報にほぼ行き当たりません。
推定するに、アイドルのプロデュース事務所であるかと。』
「アイドルの、プロデュース。
ええと…マネジメントしたり
【未来】のアイドルを探したりする奴だっけ。」
アイドル企画の関連で、プロダクションと名乗る企業であれば、それは当然の発想では在るのだが。
「プロデュース事務所が、グレムリンのA.I.を作るかなぁ?」
それもまた、当然の疑問。
『<欺瞞情報(カバー)>として、利用されたのでは。』
「だとすると、協賛登録までして、熱心な事だね…。」
嘘も、偽りも、当然のこの世界。
A.I.がそう判断するのも、無理からぬ事か。
だが。
「ボクは、そう思わないかな。」
沈黙は、続きを促す合図。
「キミは多分、そんな回りくどい嘘では、
隠されていないよ。」
『そう判断する理由を、伺っても?』
「…今は、直感って事にしといてよ。
それより、<ほぼ>行き当たらないって言ってたよね。」
例外の内容を示す様に促す。
『関連性の低いと思われる情報が一件。
表示します。』
文字のみの画面は、スクロールする迄も無い程度の情報量。
「…共鳴通信技師、か。」
所属する技師の名前が、一行だけ載っている。
「ふふ。直感も馬鹿に出来ないね。」
「<スノウリリィ>。
次はこの子を調べて。」
「受令。優先して情報検索を行います。」
悩むとき。
答えを模索するときは。
まずはシンプルな答えを当て嵌めるべきである。
「単純な答えで在る事を祈るよ。」
情報検索の画面には、技師の名だけが走り出す。
「ユキエダ・プロダクション所属、共鳴通信技師。
名前は、<ユリ>さん…ね。」
その花の名を冠する事が、必然であるか、否か。
果たして。
揺れる操縦棺は、決して居心地の良いものでは無い。
しかし、其処に収められた操縦者も、慣れたもの。
ゆらり、ゆらりと揺らされて。
一時前、敵機を貫いた【祝福】の閃光も忘れ。
微睡んでいた。
『マイマスター。
情報検索状況について、報告致したいと思いますが。』
「…ふぁ……良いよ…。」
欠伸を隠しもせず、主が答える。
『本A.I.の製作社、<ユキエダ・プロダクション>ですが、
通信・共鳴技術との関連性は低いと判断されます。』
「そっち方面から情報あたって、って言ってたね。
で、なんでそう思うの?」
『現状、関連する情報にほぼ行き当たりません。
推定するに、アイドルのプロデュース事務所であるかと。』
「アイドルの、プロデュース。
ええと…マネジメントしたり
【未来】のアイドルを探したりする奴だっけ。」
アイドル企画の関連で、プロダクションと名乗る企業であれば、それは当然の発想では在るのだが。
「プロデュース事務所が、グレムリンのA.I.を作るかなぁ?」
それもまた、当然の疑問。
『<欺瞞情報(カバー)>として、利用されたのでは。』
「だとすると、協賛登録までして、熱心な事だね…。」
嘘も、偽りも、当然のこの世界。
A.I.がそう判断するのも、無理からぬ事か。
だが。
「ボクは、そう思わないかな。」
沈黙は、続きを促す合図。
「キミは多分、そんな回りくどい嘘では、
隠されていないよ。」
『そう判断する理由を、伺っても?』
「…今は、直感って事にしといてよ。
それより、<ほぼ>行き当たらないって言ってたよね。」
例外の内容を示す様に促す。
『関連性の低いと思われる情報が一件。
表示します。』
文字のみの画面は、スクロールする迄も無い程度の情報量。
「…共鳴通信技師、か。」
所属する技師の名前が、一行だけ載っている。
「ふふ。直感も馬鹿に出来ないね。」
「<スノウリリィ>。
次はこの子を調べて。」
「受令。優先して情報検索を行います。」
悩むとき。
答えを模索するときは。
まずはシンプルな答えを当て嵌めるべきである。
「単純な答えで在る事を祈るよ。」
情報検索の画面には、技師の名だけが走り出す。
「ユキエダ・プロダクション所属、共鳴通信技師。
名前は、<ユリ>さん…ね。」
その花の名を冠する事が、必然であるか、否か。
果たして。
◆12回更新の日記ログ
増設された旧型モニターに、華やかなステージが流されている。
狭い操縦棺は、その光を反射し、七色に輝く。
「…良く分かんないね。」
ピグマリオン・マウソレウムが流す、ショートステージのムービーだ。
短い時間ながら、或いは短い時間で在るからか、
派手に彩られた演出は確かに目を引く。
『お気に召しませんでしたか。』
A.I.にチョイスを任せて、適当なコンテンツを視聴していたところである。
「いや、純粋に、言葉通り。」
分からない。
心震えるでも無く。
嫌悪も好感も無い。
「記憶が無いからかなぁ。」
娯楽の類は、文化的素養が不可欠で在る。
それ抜きに成り立つ程、アイドル達の舞台は、
プリミティヴでは無かったと言う事か。
『元々、興味が無かったのでは。』
「それも在り得るんだけど…。
でも、ボク、多分関係者でしょ?」
A.I.の製作社が、ピグマリオン・マウソレウムの
関連会社と推定されている中、
それに乗り合わる事となった人間が、
全く無関係で在る可能性は、恐らく低い。
「興味が無かった、って事は、無いと思うんだけど。」
モニターの中の偶像達は、【祝福】を歌い上げ、ステージを降りた。
「…別の方向から攻めた方が良いかな。
電波関連の技術企業でも在ったよね。」
『些か旧技術的表現では在りますが、肯定します。
共鳴、通信関連の技術を有します。』
「<鉱石ラジオ>なんて取り扱ってるんだから、
旧技術的な表現で良い気もするけど。」
「ま、兎も角、そっちから攻めてみてよ。」
『受令。
情報検索条件の優先順位を変更します。』
「後、音の鳴るモニター、早く用意してね。」
終始無言で輝いていたモニターは、【未来】を語らぬままだった。
狭い操縦棺は、その光を反射し、七色に輝く。
「…良く分かんないね。」
ピグマリオン・マウソレウムが流す、ショートステージのムービーだ。
短い時間ながら、或いは短い時間で在るからか、
派手に彩られた演出は確かに目を引く。
『お気に召しませんでしたか。』
A.I.にチョイスを任せて、適当なコンテンツを視聴していたところである。
「いや、純粋に、言葉通り。」
分からない。
心震えるでも無く。
嫌悪も好感も無い。
「記憶が無いからかなぁ。」
娯楽の類は、文化的素養が不可欠で在る。
それ抜きに成り立つ程、アイドル達の舞台は、
プリミティヴでは無かったと言う事か。
『元々、興味が無かったのでは。』
「それも在り得るんだけど…。
でも、ボク、多分関係者でしょ?」
A.I.の製作社が、ピグマリオン・マウソレウムの
関連会社と推定されている中、
それに乗り合わる事となった人間が、
全く無関係で在る可能性は、恐らく低い。
「興味が無かった、って事は、無いと思うんだけど。」
モニターの中の偶像達は、【祝福】を歌い上げ、ステージを降りた。
「…別の方向から攻めた方が良いかな。
電波関連の技術企業でも在ったよね。」
『些か旧技術的表現では在りますが、肯定します。
共鳴、通信関連の技術を有します。』
「<鉱石ラジオ>なんて取り扱ってるんだから、
旧技術的な表現で良い気もするけど。」
「ま、兎も角、そっちから攻めてみてよ。」
『受令。
情報検索条件の優先順位を変更します。』
「後、音の鳴るモニター、早く用意してね。」
終始無言で輝いていたモニターは、【未来】を語らぬままだった。
◆11回更新の日記ログ
ばら撒かれた極彩色の光が、敵対勢力としてマーキングされた全てを貫く。
その中には、ジャンクテイマーと称されたものも居た。
響く爆発音を最後に、戦場が静寂を取り戻す。
「……また、難無く倒しちゃったね。」
戦果は上々。
錆び付いたフレームで彷徨っていた頃と比べれば、
確実かつ迅速に勝利へと辿り着いて居る。
『ご不満ですか。』
主の独り言に、従者たるA.I.が応える。
「いや。何よりだと思うよ。」
「…少しばかり、不安未満の不満が在るだけ。」
A.I.の沈黙が、続きを促す。
「若しかして、ボク達って…
<ジャンク狩り>って認識されてない?」
複数のコンテナを抱えて、戦場をぐるぐると回る。
気付けば打ち倒したジャンクテイマーは、十を超える。
『在り得ますね。
ジャンクテイマーが一つの組織として繋がっているのならば、
我々は、脅威とは言わなくても、目障りな存在として、
認識されている可能性は在ります。』
<ジャンク財団>と呼ばれた存在が、自分達に目を付けているかも知れない。
「頭の痛くなりそうな話だね。
向こうが勝手に寄って来るだけなんだけど。」
『現状では、杞憂でしょう。
敵側が<排除>を真剣に考えるのならば、
差し向けられる戦力が論外です。』
「論外、ね。頼もしい限りだけど。」
『好戦的な表現は、お気に召しませんか。』
「…ふふ、随分と、らしい事を言う様になったね。」
『本A.I.は学習型ですので。』
主とのやり取りと、収集される情報とで、A.I.は少しづつ…<らしく>なっている。
『【未来】を望むのならば、武器を掴むしか在りません。』
「…平和を愛すならば。」
『戦いに備えよ。』
「【祝福】を望むならば。」
『自らがその引鉄を引け。』
芝居がかった口上を投げ合って。
主は溜息と共に応える。
「オーケー。それじゃあ次の戦場だ。」
『受令。ご安心下さい、マイマスター。』
『次の戦場も、<楽勝>です。』
索敵は、次の狩場を示していた。
その中には、ジャンクテイマーと称されたものも居た。
響く爆発音を最後に、戦場が静寂を取り戻す。
「……また、難無く倒しちゃったね。」
戦果は上々。
錆び付いたフレームで彷徨っていた頃と比べれば、
確実かつ迅速に勝利へと辿り着いて居る。
『ご不満ですか。』
主の独り言に、従者たるA.I.が応える。
「いや。何よりだと思うよ。」
「…少しばかり、不安未満の不満が在るだけ。」
A.I.の沈黙が、続きを促す。
「若しかして、ボク達って…
<ジャンク狩り>って認識されてない?」
複数のコンテナを抱えて、戦場をぐるぐると回る。
気付けば打ち倒したジャンクテイマーは、十を超える。
『在り得ますね。
ジャンクテイマーが一つの組織として繋がっているのならば、
我々は、脅威とは言わなくても、目障りな存在として、
認識されている可能性は在ります。』
<ジャンク財団>と呼ばれた存在が、自分達に目を付けているかも知れない。
「頭の痛くなりそうな話だね。
向こうが勝手に寄って来るだけなんだけど。」
『現状では、杞憂でしょう。
敵側が<排除>を真剣に考えるのならば、
差し向けられる戦力が論外です。』
「論外、ね。頼もしい限りだけど。」
『好戦的な表現は、お気に召しませんか。』
「…ふふ、随分と、らしい事を言う様になったね。」
『本A.I.は学習型ですので。』
主とのやり取りと、収集される情報とで、A.I.は少しづつ…<らしく>なっている。
『【未来】を望むのならば、武器を掴むしか在りません。』
「…平和を愛すならば。」
『戦いに備えよ。』
「【祝福】を望むならば。」
『自らがその引鉄を引け。』
芝居がかった口上を投げ合って。
主は溜息と共に応える。
「オーケー。それじゃあ次の戦場だ。」
『受令。ご安心下さい、マイマスター。』
『次の戦場も、<楽勝>です。』
索敵は、次の狩場を示していた。
◆10回更新の日記ログ
「…うん……大体は、想定通り、かな…。」
頭に纏わりつく痛みを振り払い、声に出して勝利を宣言する。
せめてもの、強がりか。
『バイタルデータは安定していますが、
ご気分は如何ですか。』
「最高で、最低。」
高速機動と、高速情報処理と、高速零力通信の、三重酔い。
頭の痛みもブレンドされて共鳴している。
これに残存零力の高揚も乗るのだから、堪らない。
「ボクの気分の話は良いよ。
それより、何か新しい情報にアクセスは出来た?」
『問題在りません。
広域零力の上昇と、本機の局所零力が充分な値に達しました。
ただ、全情報の開示には、未だ至りません。』
「簡単にゴールはさせてくれないね。
じゃ、確実性と重要性で、良さそうな情報を選んでよ。」
『本A.I.の製作社情報が在ります。』
「良いね。一気に近付いた感じがするよ。」
『ユキエダ・プロダクションとして記録されています。
ピグマリオン・マウソレウムの関連企業と推定されますが、
確定は出来ません。』
「ピグマリオン?」
『グレイヴネットで展開するアイドル企画です。』
「……嗚呼、うん。こういう奴か。
そう言えば、何か勝手に協賛登録されてたね。最初から。」
「で、そのユキエダ・プロダクションの情報は?」
『現状ではアクセス不能です。
ただ、会社企業としての登録は抹消済みです。』
「抹消。倒産くらいだったなら、穏当な方かな。」
『現状では推定も出来ません。』
「オーケー、また気長に零力を上げてこうか。」
『マイマスター。
実験の結果は、如何判断されたのですか。』
「……そうだね。
恐らくキミの目指したものは、何等かのハッキング。」
「共鳴による敵機への通信異常累積による統制破壊。
それ自体はどのグレムリンにでも出来るだろうけど。
余剰演算を繰り返しながらそれを実現するのは、中々無いんじゃないかな。」
『…データは、それを肯定します。』
「キミ自身は、肯定したくない?」
『…判断不能。』
「良いね。らしくなってきたよ。」
『らしく、とは?』
「物語らしく、だよ。
さ、兵装を戻して。
次の戦場に向かおうじゃない。」
『受令。
兵装は、戻して構わないのですか。
あれだけの戦闘威力でしたが。』
「キミの望まないものを続ける程、悪趣味でも無いよ。」
「それに…終わった後が最悪だからね。」
ぐるぐると回る痛みは、【祝福】としては受け入れ難い。
僅かばかりに得られた情報を手に、【未来】を望もう。
◆9回更新の日記ログ
微睡む。
微睡む。
意識が、深く、浅くを、繰り返し。
共鳴する。
情報が、流れ、途絶え、また流れる。
壊れていく。
グレムリンが。
触れる事無く。
否。
情報が。
意味が。
壊れていく。
触れているのだ。
グレムリンに。
形無き腕で。
音無き声で。
堕ちて行くグレムリン達。
恐れられていた、<未識別融合体>と称されたものも。
『マイマスター。
戦闘領域内の全敵性機体の演算が終了しました。』
微睡む主の、声は無い。
『受令。引き続き、近域の敵性機体を探し、演算対象とします。』
情報と共鳴の中で。
主は微睡み続ける。
『…これが、本A.I.の目指した【未来】なのですか。』
微睡む主の、声は無い。
【希望】と【祝福】の中で。
主は微睡み続ける。
微睡む。
意識が、深く、浅くを、繰り返し。
共鳴する。
情報が、流れ、途絶え、また流れる。
壊れていく。
グレムリンが。
触れる事無く。
否。
情報が。
意味が。
壊れていく。
触れているのだ。
グレムリンに。
形無き腕で。
音無き声で。
堕ちて行くグレムリン達。
恐れられていた、<未識別融合体>と称されたものも。
『マイマスター。
戦闘領域内の全敵性機体の演算が終了しました。』
微睡む主の、声は無い。
『受令。引き続き、近域の敵性機体を探し、演算対象とします。』
情報と共鳴の中で。
主は微睡み続ける。
『…これが、本A.I.の目指した【未来】なのですか。』
微睡む主の、声は無い。
【希望】と【祝福】の中で。
主は微睡み続ける。
◆8回更新の日記ログ
列島の小島に在る、グレムリンの簡易な整備拠点。
誰が所有を主張する訳でも無いそれは、つまりは共用のものだろう。
然して価値有るものも無いが、開け放たれた設備など、
先日から突いて来るジャンクテイマーの餌食になりそうなものだが。
そうならない理由は、ジャンクテイマーに有るのか、この拠点に有るのか。
A.I.
<相棒>に問い掛ければ、推察を披露してくれるかも知れないが、
知った所で意味の無い事にリソースを割いても仕方が無い。
グレムリン
そんな< 相 棒 >は、装甲を剥がされ、武装を外され、言うなれば丸裸にされつつ在る。
『マイマスター。
認識の共有を願います。』
マイフレンド
「何かな、< 相 棒 >。」
冗談めいて応えても、それに乗じる事も無く、機械仕掛けの声が続く。
『装甲と兵装、詰まる所の武装を解除する様、あなたは指示されました。
換装では無く、解除を。』
『放棄するのですか。
戦闘行為を。』
責め立てる訳でも無く。
問い質すのでも無く。
認識の共有を求めている。
「それはそれで、面白いかもね。」
「でもこれは、実験に近いかな。」
沈黙によって続きを促す程度には、このA.I.も熟れている。
「キミが、本来目指して居たものに、近付けるか。」
『本A.I.が目指して居たもの、ですか?』
「まぁ、楽しみにして置いてよ。
丁度、試し甲斐の在りそうな実験台も来るらしいし。」
渡りに船。
実験には目撃者が、グレムリンが必要だ。
真紅連理に釣り出された数機のジャンクテイマーが、
予定のポイントに近付いて居る。
スノウリリィ
「さぁ、<相棒>、実験の開始だ。
【未来】でも、【希望】でも、【祝福】でも良い。
ボクらも確かめに行こう。」
<不滅の記憶>に手を伸ばした、誰かの夢の続きを。
誰が所有を主張する訳でも無いそれは、つまりは共用のものだろう。
然して価値有るものも無いが、開け放たれた設備など、
先日から突いて来るジャンクテイマーの餌食になりそうなものだが。
そうならない理由は、ジャンクテイマーに有るのか、この拠点に有るのか。
A.I.
<相棒>に問い掛ければ、推察を披露してくれるかも知れないが、
知った所で意味の無い事にリソースを割いても仕方が無い。
グレムリン
そんな< 相 棒 >は、装甲を剥がされ、武装を外され、言うなれば丸裸にされつつ在る。
『マイマスター。
認識の共有を願います。』
マイフレンド
「何かな、< 相 棒 >。」
冗談めいて応えても、それに乗じる事も無く、機械仕掛けの声が続く。
『装甲と兵装、詰まる所の武装を解除する様、あなたは指示されました。
換装では無く、解除を。』
『放棄するのですか。
戦闘行為を。』
責め立てる訳でも無く。
問い質すのでも無く。
認識の共有を求めている。
「それはそれで、面白いかもね。」
「でもこれは、実験に近いかな。」
沈黙によって続きを促す程度には、このA.I.も熟れている。
「キミが、本来目指して居たものに、近付けるか。」
『本A.I.が目指して居たもの、ですか?』
「まぁ、楽しみにして置いてよ。
丁度、試し甲斐の在りそうな実験台も来るらしいし。」
渡りに船。
実験には目撃者が、グレムリンが必要だ。
真紅連理に釣り出された数機のジャンクテイマーが、
予定のポイントに近付いて居る。
スノウリリィ
「さぁ、<相棒>、実験の開始だ。
【未来】でも、【希望】でも、【祝福】でも良い。
ボクらも確かめに行こう。」
<不滅の記憶>に手を伸ばした、誰かの夢の続きを。
◆7回更新の日記ログ
「グレムリンの特性を考えるならば。」
「或いは零力というものを考えるならば。」
「例えば<死んだ人間>が<再生>されるとか。」
「そんなことも十分想定の範囲内だ。」
「嗚呼、再生とは。」
「regenerationでは無く。」
「replayなのは、キミにも分かるだろう?」
「死んだ人間は戻らない。」
「何故ならば不可逆的な生命活動の停止を以て、
<死>とするのだから。」
「だが、記憶ならば。」
「或いは、記録ならば。」
「それは再生することが出来る。」
「replayだ。」
「死んだ人間は、再生されない。」
「死んだ人間の記憶が、再生されるんだ。」
「――まぁ、それも…グレムリンが、零力が。」
「ボクが立てた仮説どおりなら、だけれど。」
「だからボクは、グレムリンで、零力で。」
「作り上げたいのさ。」
「<不滅の記憶>を。」
『――サルベージされた音声記録は、以上です。』
酷く劣化したその声は、男とも女とも判別出来ない。
もっと言えば、自分のものか如何かすらも分からない。
無言の儘、コンソールにA.I.への指示を打ち込む。
『受令。
次のエリアに向かいます。』
揺れる操縦棺の中で、言葉も無く考える。
記憶の無い己が、グレムリンの中で死んだとすれば。
再生される事も無く、ただ消え去るのだろうか。
それは安寧をもたらす、【祝福】なのだろうか。
『受令。
もう一度、音声記録を再生します。』
この記憶は、【未来】を示してくれているのだろうか。
「或いは零力というものを考えるならば。」
「例えば<死んだ人間>が<再生>されるとか。」
「そんなことも十分想定の範囲内だ。」
「嗚呼、再生とは。」
「regenerationでは無く。」
「replayなのは、キミにも分かるだろう?」
「死んだ人間は戻らない。」
「何故ならば不可逆的な生命活動の停止を以て、
<死>とするのだから。」
「だが、記憶ならば。」
「或いは、記録ならば。」
「それは再生することが出来る。」
「replayだ。」
「死んだ人間は、再生されない。」
「死んだ人間の記憶が、再生されるんだ。」
「――まぁ、それも…グレムリンが、零力が。」
「ボクが立てた仮説どおりなら、だけれど。」
「だからボクは、グレムリンで、零力で。」
「作り上げたいのさ。」
「<不滅の記憶>を。」
『――サルベージされた音声記録は、以上です。』
酷く劣化したその声は、男とも女とも判別出来ない。
もっと言えば、自分のものか如何かすらも分からない。
無言の儘、コンソールにA.I.への指示を打ち込む。
『受令。
次のエリアに向かいます。』
揺れる操縦棺の中で、言葉も無く考える。
記憶の無い己が、グレムリンの中で死んだとすれば。
再生される事も無く、ただ消え去るのだろうか。
それは安寧をもたらす、【祝福】なのだろうか。
『受令。
もう一度、音声記録を再生します。』
この記憶は、【未来】を示してくれているのだろうか。
◆6回更新の日記ログ
二度目の換装を背に、回線を接続する。
「お…本当に繋がった。
これがグレイヴネットかぁ。」
今の今まで、その存在を知らなかった。
グレムリンテイマーとしての登録も無かったのだから、それも当然だろうか。
では、今まで如何やってグレムリンを起動させていたのか。
『登録名称を変更します。
……入力確認、その名称でよろしいですか。』
「良いよ。ほんとに変更出来そう?」
『簡単なハッキングです。』
…グレムリンのA.I.が、自己判断で<仮設アカウント>を作成し、起動の際の認証その他に充てていた。
彼、或いは彼女、は対話型A.I.であるが、錆び付いたフレームにはその出力システムが無く、
操縦棺の主と言葉を交わす事無く、これまで付き添ってきた。
「ハッキングって簡単なのかなぁ。」
『セキュリティは杜撰なものです。
或いは、敢えて防除していない可能性もあります。』
グレムリンを動かすことが可能ならば、誰でも、何でも良い。
それがグレイヴネットの意思なのかも知れない。
……滑らせたグレイヴネットの画面には、トレンドのゴシップが並んでいる。
「愉快な話も無さそうだね。
何で態々見せたの?」
『愉快でも不愉快でも、グレイヴネットの情報は
グレムリンテイマーとして最低限得ておくべきものです。』
「それはキミの主観評価?」
『グレムリンテイマー指導教本(マニュアル)です。』
「そんなの在るんだ。
あの換装も、指導通り?」
後ろの工場では、共鳴型から射撃型への装備変更が行われている。
『肯定。
我々は単機行動を基本としています。
支援性の高い共鳴型よりも、攻撃型を取るべきと判断します。』
「そう、それなら従うよ。
でも。」
「前の方が、<キミらしい>気がするけどね。」
『…肯定します。
本A.I.は本来、直接戦闘を主眼とするものでは無く――。』
機械音声が途切れる。
数秒の沈黙。
「では無く?」
『……情報断絶。
虚数情報域接続不可、センテンス生成中断。』
『情報に接続出来ません。
広域零力の不足、或いは本機の零力演算能力の不足、
またはその両方が原因と推定されます。』
「うーん、またか。
如何にも肝心な情報に届かないね。」
「ま、良いや。
気長に広域零力を向上させてこっか。」
『…行動指針と理解しました。
今後の作戦行動に向けて、フレームの最適化を進めます。
【未来】制御、【希望】制御を並列で処理――。』
「……この情報制限は意図的なのかな?
誰が仕組んだか、ボクが仕組んだか…どっちでも良いけど、
そろそろボクの名前くらい教えて欲しいもんだね。」
グレイヴネットのアカウントには、名前とも呼べない己の識別記号が記されていた。
<藍の羽>
「お…本当に繋がった。
これがグレイヴネットかぁ。」
今の今まで、その存在を知らなかった。
グレムリンテイマーとしての登録も無かったのだから、それも当然だろうか。
では、今まで如何やってグレムリンを起動させていたのか。
『登録名称を変更します。
……入力確認、その名称でよろしいですか。』
「良いよ。ほんとに変更出来そう?」
『簡単なハッキングです。』
…グレムリンのA.I.が、自己判断で<仮設アカウント>を作成し、起動の際の認証その他に充てていた。
彼、或いは彼女、は対話型A.I.であるが、錆び付いたフレームにはその出力システムが無く、
操縦棺の主と言葉を交わす事無く、これまで付き添ってきた。
「ハッキングって簡単なのかなぁ。」
『セキュリティは杜撰なものです。
或いは、敢えて防除していない可能性もあります。』
グレムリンを動かすことが可能ならば、誰でも、何でも良い。
それがグレイヴネットの意思なのかも知れない。
……滑らせたグレイヴネットの画面には、トレンドのゴシップが並んでいる。
「愉快な話も無さそうだね。
何で態々見せたの?」
『愉快でも不愉快でも、グレイヴネットの情報は
グレムリンテイマーとして最低限得ておくべきものです。』
「それはキミの主観評価?」
『グレムリンテイマー指導教本(マニュアル)です。』
「そんなの在るんだ。
あの換装も、指導通り?」
後ろの工場では、共鳴型から射撃型への装備変更が行われている。
『肯定。
我々は単機行動を基本としています。
支援性の高い共鳴型よりも、攻撃型を取るべきと判断します。』
「そう、それなら従うよ。
でも。」
「前の方が、<キミらしい>気がするけどね。」
『…肯定します。
本A.I.は本来、直接戦闘を主眼とするものでは無く――。』
機械音声が途切れる。
数秒の沈黙。
「では無く?」
『……情報断絶。
虚数情報域接続不可、センテンス生成中断。』
『情報に接続出来ません。
広域零力の不足、或いは本機の零力演算能力の不足、
またはその両方が原因と推定されます。』
「うーん、またか。
如何にも肝心な情報に届かないね。」
「ま、良いや。
気長に広域零力を向上させてこっか。」
『…行動指針と理解しました。
今後の作戦行動に向けて、フレームの最適化を進めます。
【未来】制御、【希望】制御を並列で処理――。』
「……この情報制限は意図的なのかな?
誰が仕組んだか、ボクが仕組んだか…どっちでも良いけど、
そろそろボクの名前くらい教えて欲しいもんだね。」
グレイヴネットのアカウントには、名前とも呼べない己の識別記号が記されていた。
<藍の羽>
◆5回更新の日記ログ
ガラス越しのガレージでは、オートメーションされた整備機械が、錆付いたフレームを開いている。
機体が示すままに招かれた、無人の整備倉庫。
成る様に成れ、とマシンを預ければ、フレームの交換作業に寡黙な機械腕達が取り掛かった。
「んー…フレームスペックは、無償フレームと同じみたいだけど。」
HMIの画面を滑らせながら、数字を見比べる。
青花工廠ではグレムリンを無償でフレーム交換してくれるらしい。
しかし、この殺風景なガレージに、青花を示すものは無く、
個人の…少なくとも、三大勢力に染まらない立場では在る様に見える。
「ま、成る様に成れ、かな。」
倉庫の冷蔵庫に大量に蓄えて在った、謎の栄養ドリンクを一つ、呷る。
甘ったるい芳香が、少しばかり火照った身体を通り抜ける。
無人なのを良い事に、備え付けのシャワーを浴びた後で在った。
<義肢洗浄用>と書かれては居たが、まぁ生身に影響も無いだろう。
尤も、記憶の無い身からすれば、自身がナチュラルボディで在る保証も無いのだが。
取り敢えず、肉付きの悪い四肢も、薄い胸板も、見た目と触った感触は天然ものだった。
※※※ 制御A.I.の識別コードが未設定です ※※※
※※※ フレーム適応シーケンスのため ※※※
※※※ 設定が必要です ※※※
表示されたアラートを、恐らく天然ものの視界に捉える。
グレムリンが、名付けを求めている。
「…名前? キミの名前は――。」
見上げれば、露出したコアが人工のセンサーを覗かせている。
その名は、既に決まっていた。
或いは錆び付いたフレームの中に。
或いは機械だけのガレージの中に。
或いは眠る記憶の中に。
※※※ 識別コード設定…<スノウリリィ> ※※※
※※※ フレーム適応シーケンスを開始します ※※※
※※※ 【未来】制御 適応開始 ※※※
※※※ 【連環】制御 適応開始 ※※※
※※※ 【希望】制御 適応開始 ※※※
※※※ … … … ※※※
機体が示すままに招かれた、無人の整備倉庫。
成る様に成れ、とマシンを預ければ、フレームの交換作業に寡黙な機械腕達が取り掛かった。
「んー…フレームスペックは、無償フレームと同じみたいだけど。」
HMIの画面を滑らせながら、数字を見比べる。
青花工廠ではグレムリンを無償でフレーム交換してくれるらしい。
しかし、この殺風景なガレージに、青花を示すものは無く、
個人の…少なくとも、三大勢力に染まらない立場では在る様に見える。
「ま、成る様に成れ、かな。」
倉庫の冷蔵庫に大量に蓄えて在った、謎の栄養ドリンクを一つ、呷る。
甘ったるい芳香が、少しばかり火照った身体を通り抜ける。
無人なのを良い事に、備え付けのシャワーを浴びた後で在った。
<義肢洗浄用>と書かれては居たが、まぁ生身に影響も無いだろう。
尤も、記憶の無い身からすれば、自身がナチュラルボディで在る保証も無いのだが。
取り敢えず、肉付きの悪い四肢も、薄い胸板も、見た目と触った感触は天然ものだった。
※※※ 制御A.I.の識別コードが未設定です ※※※
※※※ フレーム適応シーケンスのため ※※※
※※※ 設定が必要です ※※※
表示されたアラートを、恐らく天然ものの視界に捉える。
グレムリンが、名付けを求めている。
「…名前? キミの名前は――。」
見上げれば、露出したコアが人工のセンサーを覗かせている。
その名は、既に決まっていた。
或いは錆び付いたフレームの中に。
或いは機械だけのガレージの中に。
或いは眠る記憶の中に。
※※※ 識別コード設定…<スノウリリィ> ※※※
※※※ フレーム適応シーケンスを開始します ※※※
※※※ 【未来】制御 適応開始 ※※※
※※※ 【連環】制御 適応開始 ※※※
※※※ 【希望】制御 適応開始 ※※※
※※※ … … … ※※※
◆4回更新の日記ログ
知らず託されたコンテナには、要らぬ苦労も積み込まれていた様だ。
「それほど目立つ荷物でも無いと思うんだけど。
もしかして、発信機でもついてるのかな?」
ジャンクテイマー。
要は野盗、或いは海賊、はたまた山賊。
降り掛かったトラブルも、火傷無く振り払われた。
「気になってたんだけどさ。
キミ、段々強くなってない?」
進む度に破損し、破損する度に拾って繋げる。
ジャンクと称すならば、余程この機体の方が似合っている。
しかし、その戦果は寧ろ加速度を増して積みあがる。
災禍の来襲した戦場に、機体は無傷のままその静寂を迎えていた。
「先刻なんか、何もしてないのに敵が壊れてったよ?
如何言う事なのかな?」
思念制御識による連鎖崩壊。
モニターに示された情報はそれだけで、思念制御識とは、連鎖崩壊とは、そんな講義は始まる気配も無い。
「それがキミの切り札、ってワケ?
それとも――。」
※※ 機体構成各部位に損耗蓄積 ※※
※※ 連鎖崩壊による誘因破損と推定 ※※
※※ 代替パーツの捜索を提案 ※※
「頼りになる秘密兵器だね。
負った傷は敵からの攻撃じゃなくて、制御し切れなかった自傷、ってワケか。」
※※ 機体損耗抑制のため【連環】制御を機能限定 ※※
※※ 代替制御起動 ※※
※※ 【未来】制御を機能限定で起動 ※※
※※ 【希望】制御を機能限定で起動 ※※
「真面目に報告してくれるのは結構だけど。
そろそろ解説も欲しいね。
何も分からないままだよ、キミのコトも。」
そして、己の事も。
果たして、示され続ける次の戦場に、答えはあるのか。
寄せ集めの機体が、回答を示す事は無かった。
「それほど目立つ荷物でも無いと思うんだけど。
もしかして、発信機でもついてるのかな?」
ジャンクテイマー。
要は野盗、或いは海賊、はたまた山賊。
降り掛かったトラブルも、火傷無く振り払われた。
「気になってたんだけどさ。
キミ、段々強くなってない?」
進む度に破損し、破損する度に拾って繋げる。
ジャンクと称すならば、余程この機体の方が似合っている。
しかし、その戦果は寧ろ加速度を増して積みあがる。
災禍の来襲した戦場に、機体は無傷のままその静寂を迎えていた。
「先刻なんか、何もしてないのに敵が壊れてったよ?
如何言う事なのかな?」
思念制御識による連鎖崩壊。
モニターに示された情報はそれだけで、思念制御識とは、連鎖崩壊とは、そんな講義は始まる気配も無い。
「それがキミの切り札、ってワケ?
それとも――。」
※※ 機体構成各部位に損耗蓄積 ※※
※※ 連鎖崩壊による誘因破損と推定 ※※
※※ 代替パーツの捜索を提案 ※※
「頼りになる秘密兵器だね。
負った傷は敵からの攻撃じゃなくて、制御し切れなかった自傷、ってワケか。」
※※ 機体損耗抑制のため【連環】制御を機能限定 ※※
※※ 代替制御起動 ※※
※※ 【未来】制御を機能限定で起動 ※※
※※ 【希望】制御を機能限定で起動 ※※
「真面目に報告してくれるのは結構だけど。
そろそろ解説も欲しいね。
何も分からないままだよ、キミのコトも。」
そして、己の事も。
果たして、示され続ける次の戦場に、答えはあるのか。
寄せ集めの機体が、回答を示す事は無かった。
◆3回更新の日記ログ
「…ん、生きて終わったみたいだね。」
本格的な集団戦。
数で言えば圧倒的に不利ではあったが、そこは錆びてもグレムリン。
居合わせた二人のテイマーの活躍もあり…と言うより、殆どその二人の御蔭で、撃滅に成功した。
「まぁボクも、素人にしては頑張った方でしょ。」
比較されてしまえば無残なものだが、飛び交う砲弾の中で生き残る事は出来た。
撃ち砕かれたパーツの替えを見繕う必要は在るが、結果を見れば満足して良いだろう。
素人にしては、と言う括りで在れば。
「そもそも…ボクが素人か如何かも、分からないんだけど。」
持ち合わせていない己の記憶に問うても、肯定も否定も出て来ない。
だが、既にこの場を去った二人のテイマーの動きを見れば、自分を玄人と称すには憚れる。
「でも、ちゃんと攻撃を当てたり、回避したりは出来てるんだよね。」
攻撃の命中率や、被弾率。
数字にしてしまえば、其処迄二人に劣っている訳でも無かった。
「キミが助けてくれてる…とかなのかな?」
問い掛けたモニターが返したのは、次の戦場だった。
「はいはい、キミのお望み通りに。
代わりの部品を探しながら、其処に行こうか。」
操縦しているのか、操縦させられているのか。
その区別も曖昧なまま、マシンは動き出す。
※※ 【連環】制御継続 ※※
※※ ルート検索は代替パーツ検索と ※※
※※ 並行して処理します ※※
◆2回更新の日記ログ
弾切れの砲塔を放り投げ、最後の敵にぶつける。
上品さの欠片も無い一撃で、戦場に静けさが戻った。
「…ふふ、こりゃスゴイ。」
この機体が被弾したのは、掠める様な一撃が一つだけ。
だと言うのに、脚部はガタつき、装甲代わりのコンクリート塊は砕け、
錆付いた速射砲は使い物にならなくなった。
最後は投げ当てた所為だが。
「これ以上戦える様にも見えないね。
リタイヤしよっか?」
コンソールに指を踊らせながら、将来を危ぶむ。
しかし、ディスプレイに示された答えは、
※※ 機体損傷 軽微 ※※
※※ 戦闘起動に支障なし ※※
「頼もしい限りだね。
マシンチェックもロクに出来ないなんて。」
それとも、或いは。
この機体にとっては、本当に支障にならないのか。
「キミは、ボクに何を隠してるのかな?」
モニターを小突いても、秘密兵器の答えは無い。
※※ ミッションの継続を提案 ※※
※※ 許諾時は【連環】制御により ※※
※※ 次の戦闘領域へ向かいます ※※
「キミは真面目だねぇ。
見た目より。」
踊る指先は、その勤勉さを肯定した。
上品さの欠片も無い一撃で、戦場に静けさが戻った。
「…ふふ、こりゃスゴイ。」
この機体が被弾したのは、掠める様な一撃が一つだけ。
だと言うのに、脚部はガタつき、装甲代わりのコンクリート塊は砕け、
錆付いた速射砲は使い物にならなくなった。
最後は投げ当てた所為だが。
「これ以上戦える様にも見えないね。
リタイヤしよっか?」
コンソールに指を踊らせながら、将来を危ぶむ。
しかし、ディスプレイに示された答えは、
※※ 機体損傷 軽微 ※※
※※ 戦闘起動に支障なし ※※
「頼もしい限りだね。
マシンチェックもロクに出来ないなんて。」
それとも、或いは。
この機体にとっては、本当に支障にならないのか。
「キミは、ボクに何を隠してるのかな?」
モニターを小突いても、秘密兵器の答えは無い。
※※ ミッションの継続を提案 ※※
※※ 許諾時は【連環】制御により ※※
※※ 次の戦闘領域へ向かいます ※※
「キミは真面目だねぇ。
見た目より。」
踊る指先は、その勤勉さを肯定した。
藍の羽はラスト・アーマーを手に入れた!!(フラグメンツ-1)
藍の羽はラスト・アーマーを手に入れた!!(フラグメンツ-1)
◆アセンブル
【頭部】にシャウティングシュライクを装備した
【腕部】にORG_Eraserを装備した
【操縦棺】にネイキッドバードケイジを装備した
【脚部】にA.G.ロードランナーを装備した
【エンジン】に006-ENGINE≪GUST-ENGINE≫を装備した
【主兵装】にスパークルスパロウを装備した
【副兵装】にSCH<V/R.Neko-Tube>を装備した
【背部兵装】に夜雀を装備した
【機動補助】にA.G.ロードランナーを装備した
【機動補助】にA.G.ロードランナーを装備した
◆僚機と合言葉
次回ピグマリオン・マウソレウムに協賛し、参戦します
ピグマリオン・マウソレウム担当「フゥーッ!! アイドルしてる? いいね、あげる!!」
(c) 霧のひと