ENo.0023　リレイ・クライス

ほぼ全壊に近い状態の機体に、どうしようもない気持ちになった。量産型のパーツの脆さ、か。

何方にせよ、オンボロであった試験機体を一時的に乗り換える必要が出てきた。どうしようもない話だが……。

死ぬ事は既に怖くもなくなってしまったが、それ以上に
世界の動向が気になった。どうしたものか……。

長い夢を見ていた。

昔々の夢を。　誰かに恋い焦がれた時代を。

今はもう居ない隣の空席を、とうに冷めたポップコーン片手に
目の前で映し出される映画と比較する。

大切な誰かがここにいた。それは繰り返し映される映画の
ワンシーンのように思い出せるはずだった。
だがそれは叶うことがなかった。声も、姿も、全てが
色褪せてとうとう観るに堪えなくなったフィルムと同じような
酷い色彩と共に潰れてしまっていて。



目が覚めた時、出撃予定よりも一週間程度余計に
冷凍催眠状態にあった事に気付いた。
私は僚機である存在に連絡を入れ、装置の不備と共に港湾地区の行政官には空母船団の方へ行く、と伝えてタワーを後にした。



叶わない夢は色褪せた過去の栄光でもある。
通らない道は色褪せぬ未知の探求でもある。

今私は、後者を選んだ。探求への道を。


かつて、私がそう呼ばれていた名の区画を背にして。

私は何者でもない。

きっと、きっとそうだ。




この機体は私に何を見せてくれる？

まだ分からない。