ENo.0031　紡糸神璃

――とうとうこの日がやってきた。
10週目の朝、シノリはカレンダーを見てそんなことを思った。
今日が唐突に始まった修行の最終日――今日の営業が終われば、自分はこの国を離れなくてはいけない。
いろんな人と出会い、様々な出来事に戸惑ったりしながらも過ごしてきた夕闇国を。

「……いざ終わるって思うとすっごく寂しいなぁ、やっぱり……」

きっと、今日の営業が終わる時刻になれば師匠は迎えに来るだろう。
以前ここへふらりと姿を現したとき、さりげなくシノリがつけている記録を見ていたから。
それまでに何かやることがあるのなら、終わらせておいたほうがいいだろう。
いつものように身支度を整え、店舗になっている部屋へ足を踏み入れたシノリは、ぼんやりと店内を見渡す。

「……閉店したら、ここも片付けなくっちゃね」

この国で手に入れたものは、全て持っていくつもりだから。
自分が作り上げた衣服も、いくつかは持っていくつもりだ。
一人でもこんなに作れるようになった、と師匠に話すために。

「……さて、と。最終日、頑張らなくちゃね」

そして、終わったらみんなに挨拶しにいこう。
優しい布の妖精と、可愛い小さな女の子にきちんと「またね」を言いにいこう。
そんなことを思いながら、シノリは一歩を踏み出した。