ENo.0027　ソル＝D＝ティー

暴言では説き伏せられず
覚悟は悉く説き伏せられて

翼は挫かれず
決意は悉く挫かれて



荷造りを終えて私は店内を見渡す。
がらんとした店内は、それがコンビニであったことを忘れたように静か。
明日にはここを出ていくというのに、
店内を見渡せば、ここに来てからの幾らかの日付と、
それに紐づけされた思い出だけ。

弟妹達が喜ぶだろうと、若い竜の店で買った大きなチョコレート。
あの竜……師匠が持ってきた、いくつかの酒瓶。
そのいくつかは、飲み明かしたり、料理に使って、空瓶だけれど。
残り少なくなった紅茶の茶葉。
最後の一本になった紅茶葉の苗。それとその種。

そのすべてを箱に詰めて、思い出にしまい込む。
この店とはもうお別れしなくてはいけない。

背中に生えた根は、日に日に大きくなりその実りを生み出そうとしている。
こればっかりは、しまい込めない。



果たして、沢山の縁を得られたわけじゃないかった。
だが、大切な縁を得ることができた気がする。

だから、振り向かずに行こう。
ヒトは縁に縛られるものだと言ったのは自分自身だ。
その縛られたものを全部引き摺って、死ぬ時まで歩こう。



最初、生きるために始めたコンビニ経営は、
死んで詫びるための機会に見えた。

実際は、死んだように生きようとした自分に、
生きて生き続ける機会をくれた。

出会いは転機、縁は変化、言葉は杯

大空を翔るための翼に、
地に張る値を宿した、
海の気質のその竜は、
どこに向かうかは、まだ分からない。



























































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……？

あら、最後まで見てくれるヒトがいるのね。

あの子もいい縁を持ちました。

そうね、折角『誰も死ななかった』のだし、少しお話しましょうか。



私があの子にしたのは、一つの選択肢を奪って、二つの選択肢を与えた。それだけです。

奪った選択肢は、あの子の死。
あの子は、魔力がすべて抜けてしまって、死んでしまうところでしたからね。
生まれついてそうなら兎も角、もともと大きな魔力の塊であるあの子は、それがなくなれば死んでしまいます。

与えた選択肢は、神気を失って普通に生きるか、縁の力で別の何かを見つけるか。

あの子が魔力を失い続ける疵の上に、新しい傷をつけました。
それによって、あの子の傷から漏れ出るものを、魔力ではなく神気に変えました。
要は、出口の形を変えて、出るものを変えただけね。

その上にまた疵をつければ、今度は別のものが漏れ出てたかもしれないし、何も漏れ出なかったかもしれない。
翼を手折っても同じ。出口の形が変わるだけ。

普通に生きる。これを放棄したあの子にとって、一番の形だったかもしれませんね？
いつか実ったその神気は、体内には無いのだから漏れだすこともなく、
もう漏れだすものがないあの傷も、もう何も出すことはない。

縁の力は素晴らしいわ。ヒトを縛り。神すら超えていく。

一と一を足して二にするか、一を得るのに一を支払わなければならない神風情には
到底できない、一と一を足して百を生みうる力。



実に、愉快ね。



母である私ではできなかったことを、あの子にしてくれたあのヒトには、
いつか、私も礼に伺わなければなりませんね？
ふふ、私の育てた紅茶も、甚く気に入ってくださったようですし、
私も神を殺しうる酒というのには、興味があります。



さて、語りすぎてもしようもありません。
ですから、ここでおわりです。名も知らぬご友人様。
また縁があれば、結ばれるままに。