ENo.0121　イズハ・オノ

《風が辿り着く場所まで》

---《2》---

「ようやく、意味が分かった気がする」
「…はい」
「私は夢の中で『白鎧』という機体を整備しているとずっと思っていた」
「…」
「そうではない。グレムリンとは機械の妖精、零に向かうものであり、その強さは意志に依存される」
「…」
「そして実際に私が整備していたのは『あなた』だった」

「…そうですね。『白鎧』とは、当機の呼称であり、『私』を明示しているわけではありません」
「…『あなた』は何者？」
「…今もなお廃工場に在るもの。骨となり錆びついた機体。その中で眠る亡霊」
「あのラスト・フレームについた思念？」
「思念、ではありません。亡霊と称しましたが、魂すらない―――零になり、記憶も何もかも消えるはずだったものです」
「だからあなたは『人間』というものを知っていた」
「はい」
「…なるほど。最後の最後に疑問を解決できた」
「疑問、だったんですか」
「あなたと話していると微妙に噛み合わなかったから」
「…最初のあの言葉は、カマをかけたんですね」
「あれは推理。あなたは自分から話したがらないみたいだから」
「…ごめんなさい」
「それよりも、来客」
「！」
「続きはこの来客を退けた後にしようか」
「…はい。相手には丁重にお帰りいただきましょうか」

---《3》---

「『私』はずっとこの壊れた世界に生きていました」
「…」
「グレムリンテイマーという出所不明な力に頼る危険な人類として」
「…」
「そして、『私』は撃墜されて、死ぬ運命にありました」
「…」
「しかし、そうはならなかった。私は、動かない錆びついた機体…『白鎧』になっていました」
「…あなたは乗り手を待っていた。何故なら、あなた一人では動かないから」
「そうですね。グレムリンが単独で勝手に動く事例はありますが、普通はパイロットがいればこその関係です。私はパイロットではなくなったために動かせなかった」
「私が来たのも偶然ではないのかも…と」
「―――レーダーに反応あり。第3波ですね」
「よし。いずれ来る朝に余計なものを残さないようにしようか」

---《4》---

「それで、あなたの言った『意味』…とは」
「覚えていたんだ」
「ええ。私に関する推理の中に『意味が分かった』の意図は含まれていないようでしたので」
「…私はずっと考えていた。戦いに向かい、傷つく仲間を整備することの意味を」
「…そんなことを」
「撃ち合い、斬り合い、勝手に傷つく者達の整備の意味を考えて―――ようやくその意味が分かった」
「それは？」
「バカバカしいほど単純な『傷ついた者たちを放っておけないから』だって」
「…それをバカバカしいと感じるかって実は人間によりけりなんですよ。きっとあなたも」
「…人間難しいものだ」

「ほめても何も出ませんよ。…そして、第四波です」
「…じゃあ、行こうか。パーティの時間だ」

彼女らにヒトの魂はない。
だが、彼女らは鋼鉄の勇気を秘めている。