ENo.0161　ジェリィ

目を覚ますなり、感じるのは振動と熱。あと炎のニオイ。
それで私はすぐさま、自分のすべきことを認識する。


「あーはいはい、戦争ね、戦争」

私には、自分が人間とかそういう生き物ではなく、
”戦闘用のコンポーネント”であるという自認があった。

だからこんな状況でも焦ったり慌てたりはしない。
自分の記憶がどれだけ曖昧だろうが、
戦場において戦闘関連の性能を発揮する障害に
ならないのであればさしたる問題ではない。
私はそういうモノだ。
これがイタい中二病妄想でないことを心から祈る。
自分はどんな状況でも冷静な戦闘マシーンである、とか
そういうアレでよくあるネタじゃん？

ともあれ。


「いやでもね、この機体はどうかと思うよ」

目の前には、ロクに整備も受けていないと思われる
あちこち錆びた細身の巨大ロボット。
兵器の装甲が錆びるってよっぽどやぞ。
好意的に受け止めても10年単位で放置されていたもの。
悪ければ擱座して乗り捨てられたものだ。
きちんとエンジンに火が入るかも怪しい機体だが、
小さい体で苦労しながら背中まで登れば、
コクピットハッチは無事に開放できた。

身を滑り込ませたコクピットは、
外観からは想像もつかない程度には綺麗なものだった。
気密がしっかりしていたおかげかもしれない。
大人サイズのシートにハーネスで無理矢理身体を固定し、
めいっぱい手足を伸ばして起動手順をこなしてゆく。
頭部側面から垂れる”テンタクル・アーム”もフル活用。
OSは幸いにもテイマー不在の文字列を吐き出した。
新規テイマーとして私のバイオメトリクスを登録。
機体が震え、モニターに光が灯った。


「おッ動くじゃーん。
　でも操縦棺は後でサイズ合わせんとな……。
　少年兵用の操縦棺かシート売ってっかなー。
　実包は……そこのコンテナん中か。
　これならなんとかなるやろ……いや……」


「なんとでもなるはずだ」

シチュエーション的に、
なんか言わなきゃいけない気がしたのだ。
廃工場の壁面とガラスがびりびりと振動し、
”何か”が急速に接近してきていると告げている――


Boot OS……祝福・連環