ENo.0107　MEDICINE BAD DREAM

9月7日 いのちのかがやき()クンが見えた日



全世界的に流行している感染症の第1回目ワクチン接種のため、朝から近所の大学付き病院に来ている


受付を済ませると、何時もの診察室とは違うリハビリ室に通された 部屋には椅子が規則正しく並べられ、ワクチン接種を待つ人達が時折席を詰めていく


そんなに混んでないなー　と6割がた空いてる椅子に座りがてら、薄い上着を脱ぐ　袖を抜く際に上着にネイルが引っかかった　ここに来るまで何処かで欠いたらしい


欠けた爪を気にしていると、あっという間に自分の番が回ってきた


シャツの袖を捲りながら医者の先生の前に座る まだ若そうな感じの男性だけど、生気の無い顔をしている 愛想も何も枯れ果てた様な事務的な声で予診の受け答えをされた


接種会場で大人気な某ネタTシャツをわざわざ用意したのに、チラとも反応することなく注射をされた


そのまま補助の看護師さんに促されて待機場へ移動する 看護師さんの中にはTシャツのネタを知っている人がいるのか、ちらほらと吹き出しそうな反応が見られる


よしよし、ユーモアは大切だよね




待機場で「Tシャツは医者にはうけんかったー」とか投稿していると、突然スマホの画面がよく見えなくなる 視界がぼやけるとは違う どうも奥行きがおかしい


瞬きを繰り返しても視界は戻らない 待機場は照明と外光で明るいのに、暗い背景とぼんやりとした丘のような影が重複して見える


椅子に座ったままうつむき、目を強く閉じて、手で両目を押さえる ”外の光を断っても暗い背景は見え続けている”事に気が付いた途端、息が苦しくなって


――いや、今まで ずっと 息が 苦し　――暗い背景と影は視界から消えて無くならない


異常を察したのか、駆け寄ってきた看護師が肩をつかんで体を起こそうとするのを感じる 何か声をかけられているんだろうけど、息苦しさが気になって正確に理解できない


――体は大きく速く呼吸しようとするけど、息が詰まって、呼吸が荒くすらならない　――暗い背景と影は視界から消えて無くならない


たまらずマスクを外そうと、看護師の手を払って ――口を覆っているマスクを乱暴に外したと意識した瞬間、暗い背景を映していた視界が下から上にヘルメットのバイザーが跳ね上がるように色づいた


同時に吸い込んだ空気の匂いと湿度、口の中に広がるサビ臭さに ――嘔吐していた



『アナでましたー』『気道確保してますー』『へいぃっ！ アナ一丁！』
　未来