ENo.0102　マオ

祝福なき生・１


私は生まれた瞬間に実の親の手で売り飛ばされた。
生体パーツとしてか、それ以外の目的なのか。知った事ではないけど。
ともかくまだ生まれて数ヵ月と経っていなかった私は箱詰めにされた状態でコロッセオ・レガシィに送られて、その途中でジャンクテイマーに襲われた。

その時、拾ってくれたのが私の育ての親だった。
見ず知らずの子供を拾って、育てて、ジャンクテイマーとしての生き方を教えてくれたのはすごく感謝している。
向こうは信用できる手駒としか見てくれなかったけど、それでも私にとって大切な人だった。

…でも、それも半年前までの話だ。
半年前、育ての親はいつも通りコンテナ強盗に出かけていつもと違って、帰って来なかった。

操縦棺を破壊された、らしい。
別に何も珍しくはない。ジャンクテイマーどころか、グレムリン乗りならいつかは遭遇するであろう、ありふれた死に方。
けれども私の心はひどくざわついて。
少しだけ悲しくて、少しだけ寂しくて、とても怖いと感じた。

けれど私はその話を新しくリーダーになるであろう男から聞いた時「そっか。仕方ないね」と答えた。
そう教わっていた。常に余裕ぶっていろ。感情を他人に見せるな、って。

…けれども、どうもそれが良くなかったみたいで。
私は育ての親が死んでも涙一つ零さない、心のない女だって言われるようになって。
後ろ盾をなくした私の立場はどんどん弱くなって。

ある日、仕事をした時に。
5分と経たずに早々に戦線を離脱して敵を全部こっちに押し付けた連中が、終わった途端にノコノコ戻って来て、分け前は公平に四等分しようなんて頭の腐った事を言い出してきて。
私はフザけんなって怒ったら、手負いの私を殺して自分達だけで等分しようって言い出した。
私はあぶれものだから、誰も文句を言わないだろうって。

それを聞いて私は「それもいいかもな」と思った。

仮にここでこいつらを殺したところで裏切り者として殺されるだろう。
逃げればひとまずは生き永らえられるだろうが、今後もずっとこんな事は続くだろうし、そうなれば私に待つのは奴隷人生だ。
好きでもない他人に媚びてまで生きたくなんてない。

それなら、ここで殺された方が楽かもしれない。

玩ばれる事なく、サクッと死ぬならなんかもう、こんなクソッタレな世界で、クソッタレな私としては上等な死に方じゃないだろうか？

というより、なんかもう、色々面倒になった。
どうでもいいや。

私は硬質ダガーを持って迫る機体の前に操縦棺を晒すように動いて、迫る刃をボーッと見ていると。突然、目前の機体が弾け飛んだ。

「……！？」

反射的にレーダーを確認。
１・２・３・４・５……１機多い。

そのまま、連中から私を庇うような位置に機体が立ち塞がる。
もう大丈夫ですよと言わんばかりに。

「は？　何？　私の命を助けようっての？　頼んでもいないのに？」

大きなお世話だと文句を言いたいが、相手のチャンネルは知らないので通信機能は使えない。
こいつを後ろから攻撃したり、押しのけて攻撃に身を晒したり、死ぬためなら色々と方法はあったと思う。

でもなんか、それは。

「すっげえムカつく…！！」

私は機体を操作して、粒子兵器の銃口を元仲間に向ける。
死ぬのは後だ。
まずは、この勘違いヤローを罵倒してやらなくちゃ気が済まない！