ENo.0047　『ナイトフライヤー』

一人の若い兵士が錆臭い単装砲の銃座に座って、警報を聞いていた。

タワー港湾区・カラビネル区画の防御陣地は、
どこまでも続くようながれきとガラクタの山で隠蔽されている。

兵士はじっとりと汗のにじむ手を握りしめ、
薄暗がりの中で迫りくる恐怖と戦っていた。

轟音と暴力が、もうすぐそこまで接近している。
一撃で仕留めなければ、自身の位置をさらすことになるだろう。
それはすなわち、死を意味した。



――この錆びた世界で味方になってくれるのは、足元の暖房装置だけだ。



彼のようなコネもない「船底」上がりの兵士は
たいていこの手の防衛設備か、片道切符の攻撃ヘリコプター隊に配属される。

防衛設備だって！
こんなものただの棺桶だ。
ここに配属された兵士に希望はない。


それでも彼はかろうじて敵の姿を捉え、引き金を引く。
単装砲が火を噴いた。



――1分後。
獲物を求めるように、再び轟音が飛来する。
……兵士は唇を噛んだ。しくじったのだ。反撃が来る。

訓練時間の短い若年兵と単装砲の組み合わせで、
戦闘機動している《未識別機動体》を捉えられる確率は高くない。



――死を覚悟したときだった。


　　　　　　　　　　　　　　『ｻﾞｻﾞｯ……ねえ……アイドルはどこ？』


異形の機体が海上に影を落とし、
防衛設備の小型レーダーが共鳴を始めたのは。
同時に、備え付けの通信機がでたらめな音の繋がりを垂れ流し始める。


『……を目指したものは……ｶﾞｶﾞｶﾞｯ……翼をもぎ取られるように、』
　　　　　　　　　　　　　『連環、祝福。そして、……ｻﾞｻﾞｰ……』


『……on the weekend,……ｻﾞｻﾞｻﾞ……BASS Rock'n Roll!』


　　　『……ｻﾞｻﾞｻﾞ……ここだ！『ナイトフライヤー』ッ！聞いてく……ｻﾞｰｯ……』


質の悪い音声記録を切り貼りしたように、次々と声が入り乱れる。
意味をなさない、ただの音の繋がりだ。
……最後にぞっとするような、冷たく錆びた声が聞こえた。


『《本日は……ｻﾞｻﾞ…ｯ……ｻﾞｰ……》』


――霊障。


　　　　　『《ところによ……ｻﾞｻﾞｻﾞ……くすくす。霊障となるでしょう》』


『ナイトフライヤー』――戦場の空に悠然と現れ霊障をバラまく、不吉な機体。
悪鬼の骨格を持つ異形の飛行機械。


***


「……鬼とか悪魔どころじゃない。」


……その日の戦闘は、30分も続かなかった。
生き残った兵士はシートに深く寄りかかり、
支給品のたばこに火をつける。


「……天使だぜ。おれにとってはさ」


煙っぽい薄暗がりの中、通信機はまだ奇妙な電子音楽を奏で続けていた。


***


傭兵No.47　ミストレイ『ナイトフライヤー』
┗戦場の空に姿を現し霊障をバラまく、異形の全翼型グレムリン。
　機体の外観は翡翠経典系の企業で建造された実験機に似ているが、詳細不明。