ENo.0017　ツィール・ブライ

本日のニュースです
コロッセオ・レガシィではいまひよこコロシアムが開かれています
戦闘で疲れた人々を励まそうと、企画されました
ひよこが頑張って餌を早食いする姿は癒されますね
戦火の世にも、人々の連環を。我々はまだ、戦えます

「シュピネはそれで怒ってハサミ振り回してたの？」

　エリエスは呆れた様子で足元を見降ろした。

『この我々の！　渾身のデザインを否定されて我慢出来るものかニィ！』

　シュピネと呼ばれた膝下までの高さがあるカニ――本人はクモと自称しているがエリエスはそのどちらも本物を見たことがない――のような姿のロボットがアームをぶんぶんと振りながら力説していた。
　歩く人の姿もまばらなこの区画は、廃材置き場――、もっとはっきり言ってしまえばゴミ捨て場だ。
　タワー上層から投下されたゴミがパイプラインを伝って処分場に向かうまでの中継地点なのだが、誰がいつどうやってこじ開けたのか、廃棄物の一部がこの場所に吹き溜まるようになっている。
　タワー上層にいる連中には単なるゴミでも、そうでないヤツらにとってはお宝だ。どのようなツテでこの場所を知りえたのかは知らないが、「宝探し」が趣味のシュピネに案内されてエリエスはこの場所までやってきた。

「今の流行だと身体の線が目立たないようなシルエットのが人気みたいだしねえ」

『いや、あれは単に誰が着ても大丈夫なように生地を余らせてるだけっ！　ただのオーバーサイズとルーズなシルエットの違いというのはそもそも……』

　その先はほとんど独り言のように、シュピネは早口で自前の服飾論を語り始める。自称服飾デザイナーのシュピネは、有害物質にまみれて真っ赤に染まる「外」での活動を可能とするスーツのデザイナーを自称している。
　何から何まで自称尽くしだが、最近では多少の仕事も請け負うようになってきた。
　それで、先日提出したシュピネ渾身のデザインがどうやら一般受けするものではなかったようで、リテイクを要求され、それで憤慨しているらしかった。はいはいと適当に相槌を打ちながら、エリエスは新しく流れ込んできたと思しき廃材の山へと歩を進めた。

「うえっ、なんでこんなトコに」

　エリエスは何かが焦げたような異臭を感じた。その原因を探して廃材の山をかき分けてみると、人の足が覗いて見えたのだ。新生体かそれとも本物か、エリエスが力いっぱい引っ張ってみれば、緩衝材の欠片を舞い上げながら五体揃ったヒトの体がまろび出てきた。全裸で。

『なになに、どうしたかニィ？』

　廃材を崩した音を聞きつけてシュピネが寄ってきた。全裸で倒れこむ人間の足を掴んで呆然と座り込むエリエスを見て、次にエリエスが足を掴んでいる人間の方を見た。
　
『見た感じ、人形ってわけじゃあないかニィ……』

　年の頃は二十くらいの男性――、熱で溶けた何かの物質を肩口に浴びたのかひどい火傷を負っているものの、それ以外に目立つ外傷はない。「パーツ取り」用に拉致されたか……シュピネがそのアームで肩口の火傷に触れた時、小さな呻き声が聞こえた。

「生きてる！？」

　驚くエリエスが掴んでいた足を手放すと、死体になりそこなった男は震えるように身じろぎした。

「えっと、どうしよう……」

　戸惑いの表情をこちらに向けてくるエリエスに、シュピネは、

『取りあえず、何か着せるかニィ』

　そう答えた。

迷子の迷子の幽霊船。継ぎ接ぎだらけの幽霊船。
仮初の船長と集まって来た人達を乗せ、目指すのは粉塵の果て、霧の果て――

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戦艦をもとに継ぎ接ぎに足された船に乗る人達や、その船と情報交換してくれる人の集まり。