ENo.0012　イーグ

　目が、覚める。
　……そう、目覚めるのは、素晴らしいことだ。目が覚めた場所が、見覚えのない廃工場らしき場所だったとしてもだ。
　残念ながら記憶はないに等しい。グレムリン、とかいうこの兵器についてのチュートリアルは非常に助かったし、操縦棺とか言うものに自分の姿が映ったのは僥倖だったと言えるよね。少なくとも、おれはここに存在していて、これは夢ではない、ということだ。
　さほどの大きさもなさそうな記憶容量の底には、眠りにつく前に見たのだろう、白衣を着た「友人」たちの姿だけが残っている。
　彼らがおれをこんなところに放り込んだのか？　……いやぁ、まさかね。おれという存在が研究所じゃないと長生きできないことは、彼らがいちばんよく知ってるじゃないか。
　とはいえ。おれはここに"生きている"。それは紛れもない事実に他ならない。

　さて。
　改めて自分の状況を見直してみよう。
　誰もいない廃工場。ひとりだったのはよかった。おれの姿を見られたらニンゲンはびっくりしちゃうからね。ひととしての姿を取るぐらいは全然簡単にできるから問題なんてないんだけどさ。
　グレムリン。不思議な形をしている不思議な機械。これに乗れ、と深い記憶の底で誰かが言っていたような気がする。多分これはおれ用の気体というやつなんだろうなぁ。ちゃんと扱えるといいんだけど。
　窓の外から見えるのはひどくおどろおどろしい赤い空。錆のような。

「……嫌だねぇ」

　ぽつり、声が出た。
　なるほど、おれは喋れるらしい。いやでも、昔研究所にいたころも友人たちと喋っていたような気がするから間違ってはいないはず。ここまで流暢に喋れたかはよくわからないけど。

本日のニュースです
昨日、雨音列島で大規模な未識別機動体との戦闘があり、これに勝利しました
グレムリン6機、防衛設備15基の部隊が未識別機動体37体を確認、強襲し
グレムリン2機、防衛設備7基を失うも、敵37体を全機撃破しました
最大戦果はアンネリーゼ・アンガーミュラーさんの、8体撃墜です
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです

　遠くから聞こえた何かに、思考を止めた。
　もしかしたら思ったよりもひどい世界じゃないんじゃないか、なんて。
　じゃあ、それならのんびりと……死なない程度に、生きようじゃないか。