ENo.0049　ソネル

巨神はとうに崩れ落ちている。
かつて霧が晴れた世界は、水に呑まれようとしている。

戦ってくれと声がする。
個人的な関係ではなく、勿論ソネルたちが向こうに声を届けることもないが、
振り返れば短くもない付き合いだったろう。
ガブリエラという僚機と戦い抜くという事情もあり、
単身のように身軽に動こうとはしなかった。
ただそれだけことだが、結果的にずっと雇い主だったことも確かだ。

それも多分終わりに来ている。
この戦いが終わりに来ている。

仕事に雇われれば戦う。それが傭兵。
ハイドラのトリガーを引くのはライダーだが、本当にトリガーを握っているのはソネルらではない。
そうして銃身として、あるいは弾丸として、霧を裂いていくだけのはずだった。
一連の戦い。一連のミッション。

さしたる思いもなくたどり着いたはずの戦場で、しかし明確に始まりがある。
ここにやってきたこと。
『彼女』の声を聞いたこと。

だから、終わりの感触もがあまりに強くある。
もはや巨影はなく、眼前にある願いの果ては仕事とは呼び難い。

これで最後だ。
今回の『仕事』は終わりだ。

「そうだな……やめてもいい……」

つぶやきは誰かに向けたものでもない。
決戦前にソネルがガブリエラに告げた台詞は、それがガブリエラに向けてのことであるのに間違いはないが、
当然ながらソネルについての思考でもある。
これをもし生き延びたなら、確かにそこで終わりでも構わない。
自分は恐らく、カフィネ・オレイラウが辿り着くこと無く終わったところまで後一歩に来ている。
この激戦の中でも『アワーオブウルフ』はあまりにも静かに、あまりにも素直に駆動した。
だから多分、『終わり』が来たのだ。

「……だが」

だが。
確かに『終わり』でよく、それを選ぶのはソネル自身以外ないとしても。
ソネル自身がまさにそうガブリエラに突きつけたとしても。

だがなお、それを決めるより前に聞いておくことがある。

『ホルン・パラドクス』の細いシルエットが、無骨な『アワーオブウルフ』の脇を駆け抜けていく。
無数映えた銃身の向こうへ先駆ける声の、その後を追う。

通信する。
戦場（ここ）から。
戦場（そこ）へ。

警告と戦術情報が踊り狂い、ジャミングの乱れ飛ぶ中でそれは音声情報として届けられることはない。
何故ならいままさに、最後の番兵が立ちはだかる。
その刹那に発された幽かな信号────