ENo.0011　バチスカーフの夢を見た

本日のニュースです
巨大未識別融合グレムリンの迎撃が本格化しています
真紅連理防衛隊も大きく戦力を失い、各地で撤退が始まっています
連日の戦闘で死者数は数えきれないほどです
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています

本日のニュースです
思念研究所によるヴォイドエレベータの調査が始まりました
内部の探索では、見たこともない素材が見つかり始めています
やがて、エレベータを通して領域をワープすることすらできると言われています
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです

ノイズの幻影の夢を見た。
意識を取り戻す前から流れていたニュースは無常だ。
君が何処かにいるというニュースは流れない。

「トリエステ……
　何処に…居る……？」

妄言のように呟いた。
この巨大な機体が俺を阻んでいる。
君はそこにいるのか？
居ないはずであってほしいと願っている俺がいる。
居ないなら邪魔だ。邪魔だ。邪魔だ。邪魔だ。
俺は捜さなければ。

心はずっと放心し続けていた。
操縦棺に君が居なかったように、俺は心が空虚なままグレムリンを操っている。
俺の体は覚えていっているようで敵をなんとか倒していく。
だがそのグレムリン──ベイチモは先程相手に勝てず負傷した。
このままいっそ……死ぬのか。
ベイチモは帰ってきても君は帰ってこない。
「君はどうして帰ってこなかった…
　君はどうして沈んでいった…」
空しく呟く。

本日のニュースです
巨大未識別融合グレムリンに対し、各地で迎撃が始まっています
青花師団の遊撃隊によって、安全かつ優位な位置へと誘導しています
遊撃隊の損耗は大きく、傭兵と真紅連理軍の最終防衛ラインに全てを託しています
戦火の傷跡は大きく、我々はいま試されています

本日のニュースです
領域に存在する次元の歪みに侵入し
まだ見ぬパーツや素材を手に入れられる可能性が高まっています
ヴォイド・エレベータと呼ばれる侵入システムがいま思念研究所で提唱されています
希望がある限り……私たちは、生き残れるのです

この漂着物にまみれた海上で機体は立ち尽くす。
通信機器からは、繋いでいたグレイヴネットから聞こえるニュースと喧騒が流れる。
だが煩わしく感じるだけで、俺にはどうでもいいと思っていた。
だが何か指し示すように…俺の耳に入る。
「死んだはずの人間がグレムリンに乗っている」


南だ。
俺はどうもこのまま死ねなかった。
その情報を微かに希望としたが、すり減った心は諦めている。
延命になっただけだ。
ただ。
沈む場所は、沈んだ場所は、トリエステは、ここではないかもしれないと思っただけだ。
俺は君を探している。

傷跡連環希望祝福

傷跡連環希望祝福

傷跡祝福+連環+希望

風向きは南。粉塵は今日も世界を赤く染め上げる。
ベイチモのシグナルだけが存在している。
シグナルを失う残骸は漂うか沈んでいくのだろう。

機体状態が酷いのか、ベイチモはシグナルが無い。
だが、海上であることは君に分からされたんだ。
ー
君だけがその戦場に立っていた。
君だけがその空気を吸っていた。
この粉塵に対する祝福なんてありはしない。
髪を風になびかせる君が映った。
赤い世界に為す術が無いから目指していた。
君は終着点を決めたんだ。





　　　　　　　　　　　　　　　　　　「ごめんね」

























俺達は屑鉄の上に住む陸上の生物でしかなかったんだ、
未来の延長線をきっと途切れていて、君はきっと先駆けた。



その夢に希望が残っていたかは分からない。
黒だけが映る。



残骸は虚空の海へと潜っていく。


君は傷跡を遺していった。