ENo.0001　ドクター

「これから先を夢見たことはあるか？粉塵のない空、魚の泳ぐ海──」

細身の男が滔々とガレージで語っている。これはいつものことで、他のやつらも特に気に留めていない。
アイツの長話なんてまともに付き合ってたら日が暮れる。ごろつきと大差ないテイマーの中にひょっこりと現れた異質な男だが、同じくらい妙なグレムリンもつれていた。
一応きちんとグレムリンの整備もしているらしい。というか”余計に触らない”と調整屋が言っていた。うるせえ、俺のは余計じゃなくて使いやすくしてるだけだ。

ドクター…あの男はいつも「先をイメージしろ」とかいいながらよくわからない持論を誰とも知れず語りかけている。
もちろん学者さまとかそんな大層なやつじゃないことはわかってる。どっからどうみてもポンコツだ。こないだすっ転んでるのを見た。

しかしまあ先の七月で賑やかな奴も、静かな奴も、あらかたいなくなってしまったこのガレージでは悪くない。

「まあ死ななきゃ先は見れるだろうよ」

誰かのエンブレムのついた工具を持って独り言ちる。持ち主はしばらく帰ってない。

転がってるラジオは壊れてるのか、変なニュースばかり垂れ流していた。

本日のニュースです
タワーを起点に、各地で所属不明のグレムリンが起動しているという
いくつかの情報が入っています
我々の未来にはまだ切り札が残されています
戦いましょう、生き残りをかけて……

パーツブランド『ミダス』が主導、管理しているレンタルガレージ兼互助会。
ジャンク置き場のモノは持ち帰り自由だが、合言葉は自己責任。