ENo.0150　リソーナ・ダフト

錆びた色の中で、防波堤のその先を見た。
こんなにも世界は息をしていないのに、この海は耐えず生があるように見えてしまう。

……更に南、海の方へ行けばかの門番の言う天使にも逢えるだろうか？
それにしても、死神やら幽霊やら……この世界もファンシーになったものだ。

……なんだ。此処は。
それともなんだこれは、と問う方が正しいか。
見飽きる程の錆色に赤く汚れた黄昏、息を喪った世界だと言っても過言ではなく……事実、此処は滅び終わった世界だと言う。
我々の機体も例外なく、あの白く輝いていたはずのその身体は錆びに犯され塵同然になっていた。
幸いな事と言えば、敵が居ない事だと傭兵らしからぬ事を考えるぐらいには焦りを覚えたが……絶望するほどではない。
我々は独りでありながら、1人ではないらしい。

我々と共に飛ばされてきた傭兵、そして次元の隙間を掻い潜り送られる通達。
いくら世界が書き変わろうとも、次元がかわろうとも、我々が我々である事は確かなのだ。

先ずは進もう、この錆びた世界を知るために。
そして戻ろう、我々が本来生きるべき世界へ。

さて、戦場に出て幾ばくか。
漸く最前線にほど近いブロックに躍り出る事ができた。
出来はした、し機体の調子も上々ではある…が、さて。
今の我々でどこまで踊る事が出来るか、腕試しする他ない。
どうやら我々と似た機体も多いようだし…戦果が稼げるかも分からない。
下手をすればまた下位ブロックに落とされるだろう。
戦果も稼げん役立たずが落とされるのは必須だが…

そんな雪辱など受けてたまるか。





………それはさておき。
最近我々の機体周りをうろついている甲殻類はなんなんだ？
デカいし、邪魔だと言っても聞かないし意味が分からない。
そもそも動物と対話しようとすることが間違えていると言えばそうだが。
もう少し、機体弄りの息抜きにじゃれてやるのも悪くは無い。

どうせ、我々は独りなのだし。

…どうにか、最低限戦えるだけの機体の仕上がりにはなっただろうか。
正味我々が戦場に降り立った時にはこの有様であるし、我々自身勝手が上手く掴めてるとも言い難いが。
それはさておき。
『無限の戦いが我らの証明』、か。良い事を言ってくれる。

言われずとも、戦ってやるさ。
我々傭兵はその為にいるのだから。

ふむ、しかし。
所詮初期機体、大して戦場で舞えもしないか。
同じ顔、同じ性能、同じ役割であれば当然、そんな陳腐で腐るほどある量産的機体に魅力など何もない！
早々に撃墜されたのは痛手だが…運命の到達点に至るにはあまりにも早すぎる。


故に、我々好みの機体に仕上げてやればいいのだ。

もっと速く、疾く。
重いながらもしかし高速で戦場にて踊れるように…
全てを殲滅せんとする力を。

しかし、

「…回路が足りない、不足…不満！」

…完全に我々の思い通りにするにはあと少し、時間がかかるだろうな。


…さて。
世の情勢になど大して興味もないが、どうやら自らを『世界最強』などと宣う者がいるらしい。
死を前にすれば皆等しく敗者だというのに、傲慢だ。
それとも、その者こそが最も戦場にて全てを薙ぐとでも言うのだろうか？
あのすべてが終わった静寂を齎すとでも？

経歴・出自・正体不明。現在調査―――


否。


調査不能。
調査不当。
調査不要。

…経歴削除済。
　>調査の続行は困難。
　　>調査を停止します。


「―――傭兵に経歴など不要、不必要！！」


戦場とは傭兵が生きる場所だ。グレムリンと共に舞う我々が唯一生きられる場所だ！
我々は戦うことで生き、戦って死ぬべき存在だ。
操縦棺が棺桶である事は然り、戦火の焔こそ弔いの火葬となる。

我々が生きる事に意味はあるか？
我々が戦う事に意味があるのか？

否。

我々が望むべきは生でも意義でもない、戦果だけである！

我々傭兵などどどれもが等しく取るに足らない存在だ。
しかし弱い者から死へと向かう事実と共に、生き様(死に様)を記憶に刻むことを望むならば…
どこまでも、何よりも強くあれ。
そして戦果を以てその個の存在を示すだけだ！