ENo.0097　カダルク＝クストラダイン

……過去の否定……　そんなことをしても因果は途切れず、過ちは繰り返す。
そして、過ちが必ずしも過ちであるとは限らない。

例えば、かつて『恐竜』が姿を消したように。淘汰から、新たな可能性へ繋がることもあるのだから。
『過ち』があったからこそ、生まれてきた『魂』があるのだから……

生きとし生けるものの命の輝きこそが、空に輝く星の光なのだ。
あの『悪魔』は……　その輝きを、邪魔しようとしている。
『己の願い』のみを、叶えようとしている……　ようにも、感じられる。

……『悪魔』は、誰かの願いを叶えてこそ『悪魔』であるのだ。
たとえそれが破滅への道であろうとも……　誰かが生きていれば、また宇宙は廻る。



『神』になろうという傲慢。
私がその傲慢を曲げられるかはわからないが……
『反感』だけは、確かに感じた。

表出の時だ。

再び、アンヴィダンをパーマネントゴールドで覆ってやることは……　もはや不可能に近いか。
私が、あの、錆び付いた世界に旅をした時に……　強力無比なる素材は、因果より剥がれ落ちてしまったのだろう。

しかし……　今、これらは私の手の中にある。
最後の戦いの際には、これらを惜しみなく使うとしよう。

――私に、最期の時は訪れないが。

来るがいい、死神どもよ。この前のようには行かん。
そして、あの日のようにも。

……あの死神は、私をどこへ連れて行こうとしているのだろうな。
私の、魂とも呼ぶべきものか。
アンヴィダンと引き離してまで……　私を『その場所』へ導こうとしているように思えてならない。
だが、アンヴィダンと共にその土を踏まねば、意味がないのだ。

……霊的な救いは、私には訪れない。決して。
身の振り方を……　考えねばならないか。

あの空に輝く星に、たずねねばなるまい。




私はカダルク＝クストラダイン。
招かれざる客。

……困った事態が起きた。『恒久安定星教団』の面々が失踪したのもそうだが……

『アンヴィダン』が二人になってしまった。

変声器を依代として貸してやった方は、えらくアレを気に入ってしまったようだ。私としても、変声器が胸元にないことに違和感を感じる。
……これについては、変声器のレプリカを作って胸元に取り付けた。この重さが丁度いい。

とはいえ、これはレプリカに過ぎない。機械的な機能は……　チープに七色発光したりすることか。
もはや宇宙人然とした声は出せないが、もうそれはどうでもいいことだ。

そして、錆びた世界ではなく、こちらの『アンヴィダン』は、『ステラブルー』に戻ってきた私を察知したかのように、彼女自身の判断で電源エリアに戻ったらしい。
私が『戻ってくる』まで、ずっと『ステラブルー』には戻らなかったらしい。
これは……　私が『元の座標』へ帰還する可能性を考えてのことだったのだろうか？

いや……　それでもおかしい。
私が『ステラブルー』に戻ってきたことが、なぜわかった？

これがもしや、愛の力……　ということなのか？


私は今、二人の『アンヴィダン』と共に暮らさねばならなくなった。
一人は変声器を依代として帰るべき場所『ステラブルー』の制御、一人は『グレムリン』として私と共に虚空の海を駆ける。
便宜上、『リムズ』と『ルスト』……　と呼び分けることにした。

もしかすると、ここが『恒久安定星』なのかもしれないな。

――光の差す方は、近い。

……神頼みなどでは、世界が巡ることはない。
偶像など必要ない。己の手で掴み取るまで。

無論……　偶像である立場からの、意見だが……

……だんだん、意識が明瞭になってきた。考えが冴えわたる。この絶望を塗りたくった空の下にあっても、我らの運命が途絶えていないことも……　わかる。
『虚空領域』に無事に帰った後ば、変声器とは名ばかりのこのポンコツ翻訳機を、しっかり変成器にしてやらねば（正しくは『技術班』に改良してもらわねば、だが）なるまい。
まあ、ポンコツであったことが……　アンヴィダンを救う鍵にもなったわけだが。

待てよ……　よくよく考えてみれば……　このまま帰ったならば、『アンヴィダン』が『二人』になってしまうのか？
まあ、それはそれで……　面白い。



さて。同じくらい、面白いことがある。
興味深いという意味ではなく、単純に面白いことだ。
当たらぬ予報士の、適当な宣告のうち……

『招かれざる客』が来るということだけは、合っていたということだ。

――あんう゛ぃだん！？　あんう゛ぃだん……！？
馬鹿ナ……．一体，何ガ起コッタ……．

何ヲ，言ッテイルノダ……，『永劫ノ女』……？
だすと・ぐれむりんノ覚醒？　……世界ノ崩壊？
ダトスレバ，あんう゛ぃだんト共ニ海ヲ往ッタ『私』ハドウナル！？

死ノ運命ニ進マントシテイタ，アノ，資産家ハ……．
う゛るっふハ……，ドコヘ消エタ？
仮ニ戻レタトシテ……，ソノコロニハ，資産家ノ運命ハ，既ニ……．

三大勢力……．未確認機動体……．いーふぁサン……．

『恒久安定星』……．



ダガ、何ヨリモ……．
……あんう゛ぃだん……．オ前ハ……，私ノ半身！
コンナトコロデ，朽チ果テ……，サせ、る……　ものか！
お前を置いていきはしない、『蒔……

……いや、アンヴィダン。
共に行くぞ。

眠りにはまだ早い。



……なに、このような稚気の品なぞもういい。
お前を生かせるならば……
この声を偽ることなど、天秤にかけて落ちぬ側だ。
お前と私の楔として……　くれてやるさ。



……私は。

私は、宇宙人、『カダルク＝クストラダイン』。
その噂は、噂などではない。
Solar-3-Shatteredに、降り立った『宇宙人』。
その滅亡に際し、虚空領域に降りた者。
Solar-3-Shatteredにおいて……
唯一の理解者を、『アンヴィダン』にした者。

彼女は今、私の胸の中にある。



……たとえ。
『永劫の女』の先導に従い、あの世界に帰ろうとも。
このフードを脱ぐときは、まだ訪れはしない。

私こそが招かれざる者。

――海底ヘト，潜ル．
コノ『すてらぶるー』ノ，めいん活動えりあヨリモ，更ニ深イ所ヘ……　ダ．

更ナル深度ヘト挑ムニハ，ぐれむりんノ力無クシテハ到達シ得ナイ．
『すてらぶるー』デハ，水圧カ……，アルイハ，モット超常的ナモノニ耐エラレナイ．
ソウ，確信シテイル．

『天空ノ果テニ天井ガアルヨウニ，海ノ底ニモ蓋ガアル』……，
ソノヨウナ噂，イヤ，恐ラクハ真実ダロウ．ソノヨウナ……，話ヲ聞イタ．

TsCニ，刃ヲ向ケルモノタチノウチ，コノ分野ヲかばーデキル工房ハ……．

イチ個人ノ力デハ，限界ガアルカ．
……『青花師団』アタリニ，協力ヲ仰ガネバナラナイ．
こねくしょんハ，大事ニスルヨウニト，指示ヲ出シテオクカ．



……モウヒトツ気ニカカルノガ．
アノ『資産家』ガ，倒レヨウトシテイルコトダ．

数々ノ支援ニ対シテ，情ガナカッタワケデハナイ．
『彼ガ望ンダママ』デハナカッタノカモシレンガ，ソレデモ，義ハ感ジテイル……．

何ラカノ形デ，運命ヲ捻ジ曲ゲル事ハ……，デキナイダロウカ．



主戦場ヨリ離レ，でーたヲ取ルベク，孤独ノ海ヘト繰リ出ソウ．
今ハ……，ソレガ，私ノ定メタたすくナノダカラ．

……海ノ深淵ハ，『宇宙』デアルト聞ク．
少ナクトモ『恒久安定星』デハ……．

私ハコノ説ニ，進展ノ道ヲ見出シタ．
更ナルでーた収集ガ，必要トナルダロウ．

――目を覚ましてみれば、星光ネオン電灯が、視界にあった。
どうも……　視界が、はっきりしてこない。
……最近は、考え通しの戦い通しだったからか。
如何にして、ここまで辛うじて辿り着いたのかもわからない。



吊られて揺れる、星の飾り。
『ロケット』の模型。

愛おしき我が私室……　スウィート・ホーム……



……何者かが、歩いてくる音が聴こえる。
無音セクターにあって、そしてこの位置関係。警護班が、いらぬ好奇心を？

……参った。静止しようにも、ボイスチェンジャーが無くては。
仕方なし。





★





機械触腕の先端を、よく拭う。
使い終わった合成布を、お気に入りを再現したダストシュートに捨てる。

血は、虚空の海底に忘れられるだろう。



――『手』を伸ばし、覆いを掴んで、羽織る。
靴に『脚』を嵌め、手袋に『指』を通す。フードを『頭』に被る。
そして最後に、亜型LL式のフィルタースーツを着込む。



アンヴィダンによって浄化された空気で満たされた『祭壇』付近のセクター……
その外へ出るには、これらの装備が不可欠だ、ということになっている。

……メインエリアには、意図的に『正常な酸素』を送っていないのもあるが。
その理由というのも……
グレイヴネットでならばいいが、『肌と肌の意思疎通をされると困るから』だ。

意志の反逆は、肌と肌から始まる。
救いに集った者に、新たな、異なる救いを見せてはならない。



……ああ、そうだ。独白に夢中になってしまうのは、悪い癖だ。
これを忘れてはいけない。
ボイスチェンジャーをオンにすルノヲ，忘レテハイケナイナ．



……アー，アー．良シ．

かだるく＝くすとらだいんハ，今，ココニアル．

……恋シキハ，アノ星．

……我ガ母星，恒久安定星，『えでん』ニハ，
到底帰ルコトナド出来ヌ．
アノ空ヲ……，越エヌ限リハ，絶対ニ．

シカシ，無茶トイウモノハ，ドウシテモシテミタクモナルモノ．
星々ノ輝キガ，私ヲ誘惑シ続ケル限リ，
私ト，私ガ騙シタ者ノ上ニアル運命，スナワチ．
コノ『クビキ』トモ言エル，宇宙ヘノ探求ハ，尽キルコトハナイ．

……宇宙ハ，宇宙ニアル．
タトエソコニ無クトモ，ソコニハ宇宙ガアルノダ．

否定サセンゾ，無界ノ蠅ドモ．
同類デアロウトモ，私ガ引導ヲ下スコトデ，私ノ糧トナリ……，
イツカ，共ニ．宇宙ヘト至ルノダカラ．

みおるる＝ふす．

虚構ノ海ヨリ眺メル星ノ海モ，マタ格別ナモノダッタ．
シカシ……，私ニトッテハ，『あんう゛ぃだん』ト共ニ，眺メル空ガ一番ダ．
彼女ニ水底ヲ見セテイテハ，機嫌モ損ナワレヨウトイウモノ……．

次ハ，今度ノヨウニハ行クモノカ．
待ッテイロ，無界ノ蠅ドモ．

再ビ宇宙ヲ見ル為ニ，彼奴ラヲ撃チ落トス．

私，かだるく＝くすとらだいんハ，一部ノ者タチニデハアルガ，
ソノ正体ガ『宇宙人』デアルト噂サレテイル．

真偽ヲ疑ウ者ハ，私ニ一人デ会イニ来ルカ，めっせーじヲ送ルトヨイ．