ENo.0050　リリエラ・ローゼ

「遠く、無いのかもしれないね」

ポツリと一人、呟く。

暗闇の中、自らのものではない腕を宙に伸ばしながら

遠くなった気はしたのだけれど、そうそう離れていくものではないのかもしれない

「今が、あるだけで満足だったはずだけれど……ふふ、ボクも贅沢になったモノだね」

思わず苦笑いを浮かべる。

囮になればいいと、死んでしまってもいいと思っていたはずだけれど

分からないものだ。

死は近づくようで、遠ざかるようで。

「変わらず、とも行かないのだろうけれど」

珍しく、失くした脚が痛んだ気がする。

唯一意識があった後に、どうしようもなくて手放したそのパーツは。

どうなっていたかは、見ることは出来なかったけれど聞いてもついているだけ邪魔みたいなことは確かだった。

「生き残れるのかな、みんな……あぁ、そうだといいけれど」

そういって戦いの前に乗り込む。

自由に動き、見ることの出来るあの場所へ向かうために

迫りくるその気配にどこか懐かしさを覚える

「……あの時は、本当に死んだかと思った――死んだほうが良いと思ったくらいだ」

ひしゃげた
焼け焦げた
消滅した

そんな体の一部を思い出す

今でもたまに痛むその身体

「……でも、まだ生きている……それならばボクが他の代わりに……もう、最後の一人になるのは嫌だからね……持っていかれる部分も残ってはいないさ」


命以外は

と

「意外と戦えるものだね……」

そういって無骨な愛機から降りる。少し無茶をしてパーツを失ったものの、まだ戦えはする。

「ん？　すこしこの子の性質を変えるために……装備を汎用のもので出撃……かまわないよ。　うん、少し戦いづらいかもしれないが……まぁ、やれるようにやって見せるさ。　腕の見せ所だってね……ふふ、ボクの腕ではないけれどさ」

なんて少しふざけて言ってみせる。

やることは変わらないのだ

この身が動く限り

そこそこの装備ももらえている。
当初はもっとろくでもないモノばかりをつけることになるとは思ったが……どうやらずいぶん働かせてくれるようだ。

まだ危険性はあまりなさそうだ。
機体、自らのパーツにも故障は出ていない。

戦場が怖いと思わないわけでもないけれど
マシンを通じて"視"える景色は、少し恋しくなる

ボクが戦うことで貰えるご褒美みたいなものだからか。

まぁ、守るだけ……そう、守るだけ。
今度こそ、みんなを守る。

「やあ……ふふ、キミか……」

この船に、物好きなあの子に拾われて……それなりに立つ。

義肢にも少し慣れた。
ボクには上等すぎる。あるだけで十分だ。

眼は変えていないけれど、戦闘時には直接的に「見」えるようにしてくれたおかげで。

試験機

とても大きく　粗悪で　誰も乗らないような　ボクに与えられたソレ

乗らないでもいいと、他の機体もあると言ってくれた。

でもいい。　この身体だから乗れる機体があるのならば、

この欠けた体で出来る、最大限の恩返し。

また戦える。
まだ戦える。

――リリエラ・ローゼ　また、あの舞台に立たせてもらえるのならば

黒子でも　なんでも　喜んでいこうじゃないか。