ENo.0026　エヴァ

虚空の海を自由に駆ける。
といってもその速度は高速機動型にアセンブルしたグレムリンには遠く及ばず、どちらかといえば遅い部類に入る。

探査機とデコイを兼ねたバイオ兵器を時々海域に投入しながら北西海域周辺を周回していた。ここのところずっとだ。
タワー周辺だけでなく、虚空の海へと活動範囲が広がってからエヴァにとって待ち望んだことばかりだった。
無限に広がる海域、各地に潜むさまざまな存在。

思っていたよりも広大で思っていたよりも複雑で思っていたよりもずっと面白い世界。
青花師団が潜航機能を試験的に搭載したグレムリンフレームが打ち出されたときは真っ先にテストに志願した。

「思ったよりずっと多かったけど、やっぱりこれだけ広い海に出たら同じことを考えるやつは多かったのかなー？」

ははん、とご機嫌に独り言ちる。確か８機、近くにも１機潜航試作フレームを搭載したグレムリンがいる程度には潜航試作機は人気といえるだろう。

「潜航しちゃうから運搬スペースがなくなったのがちょっともったいなかったけど……ま、つなぎだったからいいよね」

もちろん誰かと通信をしているわけではない。基本的に回線はオープンだが虚空の海を駆け回るのと自分のことで精いっぱいだった。見慣れない機体に各地から入る通信、そして今や世界そのものがなくなるとまで言われている。

「……やっぱり空はろくでもなかったねぇ。勝手に自分たちのものみたいにしてさ、気に食わないんだよ。―――おっと」

疑似餌の反応が一つ消えた。すぐさま体を起こすとミズチを巡行から戦闘準備へ切り替えるとオープン回線の音量を上げる。
聞こえてくるのは―――あちこちからの声。
そして身勝手な―――。

「“神”気取りがさ、図々しいんだよ。あたしにはやりたいことがまだまだある。他の傭兵だって“そう”だから今の今まであちこちで好き勝手やってるんだろ？」

聞こえてくる声に、一方的に、しかし誰に発するでもなく言葉を放つ。

「お前たちはもうやりたいことなんてないんじゃないか？お前らの言う『巻き戻し』をすることが目的になってるんじゃないのか？」

ミズチに収納されていた火器、特にこのためだけに突貫で用意したものを展開し、空に吊るされたマリオネットにすべてを向ける。

「お似合いの姿じゃないか！結局自分たちは操られているだけだって、自分たちで最後にアピールかい！？これだから空は面白くない」

あははと笑い、空に浮かぶ操られた悪鬼を睨めつける。
ミズチの速度が増し、空とは対照的に虚空の海へと潜航する。

深く―――
深く――――――

「お前たちはずっとそこで止まってな」

どこまでも遠く！どこまでも深く！